(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に示される手法では、カラー画像の場合、混色部分において、一の色のインク抜けが生じても、他の色のインクが存在するため、画素値を積分した値は必ずしも大きくなるとは限らず、インク抜けを検出することができない場合がある。また、インクの濃度が低い部分では、インク抜けが生じていなくても、インクの着弾精度の影響により、検査画像の画素値を積分した値が容易に大きくなり、欠陥が誤検出されるおそれがある。さらに、インクジェット方式では、記録用紙やノズルの個体差等により、正常な記録であってもばらつきが生じるため、インク抜けであると判断するための積分値に対する閾値値を容易に決定することができない。
【0008】
インクジェット方式の画像記録装置では、インク抜けが、記録途上にて発生したり、解消したりすることから、特許文献2に示されるように、識別パターン上に生じる欠陥の有無を確認しても、印字画像中の欠陥の有無を適切に判断することができない。さらに、輪転紙の幅方向において、印字画像と同じ幅の識別パターンを印字する必要があることから、各ページの天地に識別パターン記録用のスペースが必要となる。しかし、例えば、ページ間のミシン目を跨いで図柄が記録される記録用紙の場合、識別パターンを印字するスペースを確保することができない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、画像検査の検査精度を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、記録媒体に記録された画像を検査する画像検査装置であって、記録された画像を撮像して検査画像を取得する撮像部と、画像記録に用いられるデータに従って生成された基準画像において予め定められた画像記録方向に並ぶ画素の値を積算することにより、積算値の前記画像記録方向に垂直な方向における分布である基準積算値分布を求める第1積算部と、前記検査画像において前記画像記録方向に並ぶ画素の値を積算することにより、積算値の前記画像記録方向に垂直な方向における分布である検査積算値分布を求める第2積算部と、前記検査積算値分布および前記基準積算値分布の少なくとも一方において感度補正処理を行う感度補正部と、前記感度補正処理後に前記検査積算値分布と前記基準積算値分布とを比較する比較部とを備え、前記感度補正部が、前記検査積算値分布における局所ピークを周囲の積算値に基づいて除去した後に、前記検査積算値分布と前記基準積算値分布との差分、または、前記検査積算値分布と前記基準積算値分布との比に基づいて、前記検査積算値分布の前記局所ピーク以外の複数の積算値を、前記基準積算値分布の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正を前記検査積算値分布および前記基準積算値分布の少なくとも一方に行う。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の画像検査装置であって、前記感度補正部が、前記検査積算値分布に最小値フィルタを作用させた後に最大値フィルタを作用させることにより、前記局所ピークを除去する。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の画像検査装置であって、前記感度補正部が、前記基準積算値分布における積算値が小さい領域を積算値が大きい領域側へと拡大した後に、前記検査積算値分布の前記局所ピーク以外の複数の積算値を、前記基準積算値分布の対応する複数の積算値に相対的に近づける。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の画像検査装置であって、前記感度補正部が、前記基準積算値分布に最小値フィルタを作用させることにより、前記積算値が小さい領域を前記積算値が大きい領域側へと拡大する。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の画像検査装置であって、前記比較部が、前記基準積算値分布に最大値フィルタを作用させた後に、前記検査積算値分布と前記基準積算値分布とを比較する。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の画像検査装置であって、前記比較部が、予め定められた値を超える前記基準積算値分布の積算値を比較対象から除外する。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の画像検査装置であって、前記基準画像および前記検査画像がカラー画像であり、前記第1積算部、前記第2積算部、前記感度補正部および前記比較部が、色成分毎に処理を実行する。
【0017】
請求項8に記載の発明は、画像記録装置であって、無版にて記録媒体に画像を記録する画像記録部と、前記画像記録部による画像記録に並行して、記録された画像を検査する請求項1ないし7のいずれかに記載の画像検査装置とを備える。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の画像記録装置であって、前記画像記録部が、吐出部からインクの微小液滴を吐出することにより画像記録を行い、前記吐出部が、画像記録時に記録媒体上の記録領域の各位置を1回だけ通過する。
【0019】
請求項10に記載の発明は、記録媒体に記録された画像を検査する画像検査方法であって、a)記録された画像を撮像して検査画像を取得する工程と、b)画像記録に用いられるデータに従って生成された基準画像において予め定められた画像記録方向に並ぶ画素の値を積算することにより、積算値の前記画像記録方向に垂直な方向における分布である基準積算値分布を求める工程と、c)前記検査画像において前記画像記録方向に並ぶ画素の値を積算することにより、積算値の前記画像記録方向に垂直な方向における分布である検査積算値分布を求める工程と、d)前記検査積算値分布および前記基準積算値分布の少なくとも一方において感度補正処理を行う工程と、e)前記d)工程よりも後に前記検査積算値分布と前記基準積算値分布とを比較する工程とを備え、前記d)工程が、d1)前記検査積算値分布における局所ピークを周囲の積算値に基づいて除去する工程と、d2)前記検査積算値分布と前記基準積算値分布との差分、または、前記検査積算値分布と前記基準積算値分布との比に基づいて、前記検査積算値分布の前記局所ピーク以外の複数の積算値を、前記基準積算値分布の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正を前記検査積算値分布および前記基準積算値分布の少なくとも一方に行う工程とを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、感度補正後に積算値分布を比較することにより、画像検査の検査精度を向上することができる。また、請求項3ないし5の発明では、両画像を比較する際のずれの影響を低減することができ、請求項6の発明では、欠陥の誤検出を低減することができる。さらに、請求項7の発明では、カラー画像に対する検査精度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る画像記録装置10の外観を示す斜視図である。画像記録装置10は、無版にてウェブである記録用紙9に画像記録を行う記録機構11、記録用紙9を搬送する搬送機構12、記録用紙9に記録された画像を検査する画像検査装置13、および、これらを制御する制御部14を備える。記録媒体である記録用紙に対する画像の記録は、いわゆる無版印刷である。正確には、記録機構11および搬送機構12により、記録媒体に画像を記録する画像記録部101が実現される。
【0023】
画像記録装置10では、可変情報を含む画像の記録、いわゆる、バリアブル印刷が行われ、記録機構11による記録に並行して記録用紙9上の画像が自動検査される。以下の説明では、記録用紙9上に記録された画像を「記録画像」という。制御部14では、記録対象の画像(以下、「元画像」という。)のデータがラスタライズされることにより、記録に用いられるデータ(以下、「元画像データ」という。)が生成される。このように、制御部14は、画像データ生成部としての役割を兼ねる。
【0024】
搬送機構12は、記録機構11に対して記録用紙9を
図1中の(−Y)方向に相対的に搬送する。なお、
図1中のX方向、Y方向およびZ方向は互いに垂直であり、Z方向が上下方向に対応する。搬送機構12では、それぞれが
図1中のX方向に長い複数のローラ121がY方向に配列される。複数のローラ121の(+Y)側には、記録前の記録用紙9のロールを保持するとともに当該ロールから記録用紙9を記録機構11に向けて送り出す供給部122が設けられる。複数のローラ121の(−Y)側には、記録用紙9の記録が行われた部位をロール状に巻き取って保持する巻取部123が設けられる。以下の説明では、単に記録用紙9という場合は搬送途上の記録用紙9(すなわち、複数のローラ121上の記録用紙9)を意味するものとする。
【0025】
記録機構11は、搬送機構12の上方に配置され、搬送機構12を跨ぐようにして基台15に設けられたフレーム151に固定される。
図2は記録機構11の1つの吐出部111の底面図であり、
図2では、記録用紙9の吐出部111に対する移動方向(すなわち、(−Y)方向)を上向きに示している。実際には、記録機構11には、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の色のインクをそれぞれ吐出する複数の吐出部が設けられ、複数の吐出部はY方向に配列される。吐出部111には複数のヘッド部112が記録用紙9の移動方向に垂直かつ記録用紙9の記録面に平行な方向(
図1および
図2中のX方向であり、記録用紙9の幅に対応する方向であるため、以下、「幅方向」という。)に千鳥状に配列されており、各ヘッド部112の底面には、複数の吐出口1121が幅方向に一定のピッチにて配列形成される。
【0026】
ヘッド部112には各吐出口1121に対応して圧電素子が設けられ、圧電素子を駆動することにより、各吐出口1121からインクの微小液滴が記録用紙9に向けて吐出されて画像の記録が行われる。幅方向に関して互いに隣接する2つのヘッド部112間の距離は精度よく調整されており、吐出部111に含まれる全ての吐出口1121は幅方向に関して記録用紙9上の記録領域の幅全体に亘って一定のピッチにて並んでいる。画像記録装置10では、記録用紙9の記録領域の各位置が吐出部111の下方を1回通過するのみにて(いわゆる、ワンパスにて)高速に記録が行われる。
図2では、各ヘッド部112に5個の吐出口1121のみを示しているが、実際には多数の吐出口1121が配列される。ヘッド部112はインクの加熱により微小液滴を吐出するタイプのものであってもよい。
【0027】
画像記録装置10では、搬送機構12による記録用紙9の(−Y)方向への移動に並行して、制御部14が記録対象の元画像データに従って、各色のヘッド部112からのインクの吐出制御を行うことにより、記録物の1ページ分に相当する記録用紙9上の部位に1ページ分のカラーの記録画像が形成される。以下の説明では、記録機構11により画像が記録される方向である
図1の(+Y)方向、すなわち、記録用紙9の移動方向とは反対方向を「画像記録方向」という。
【0028】
画像検査装置13は、記録後の記録用紙9(すなわち、記録用紙9の記録が終了した部位)の記録画像を読み取る画像読取装置131、および、記録画像を検査する画像検査部132を備える。画像読取装置131は、記録機構11よりも下流側に位置する。
【0029】
図3は、画像読取装置131を記録用紙9の幅方向から見た図であり、画像読取装置131の内部構成を簡略化して示している。画像読取装置131は、第1ライン照明部21a、第1ライン照明部21aよりも(+Y側)に位置する第2ライン照明部21b、並びに、第1ライン照明部21aおよび第2ライン照明部21bの上方に位置する撮像部22を備える。第1ライン照明部21aは、X方向に配列された複数の発光ダイオード211およびレンズユニット212を備え、複数の発光ダイオード211からの光はX方向に関して均一化され、光軸J1に沿って記録用紙9上に線状に照射される。同様に、第2ライン照明部21bは、複数の発光ダイオード211およびレンズユニット212を備え、複数の発光ダイオード211からの光はX方向に関して均一化され、光軸J2に沿って第1ライン照明部21aにより照射される位置と同じ位置に線状に照射される。撮像部22は、第1ライン照明部21aおよび第2ライン照明部21bにより光が照射される領域に含まれる線状の領域を撮像する。
【0030】
撮像部22は、カラーラインカメラ221、第1ミラー223および第2ミラー224を備える。第1ミラー223はX方向に長い帯状であり、カラーラインカメラ221の下方に配置される。第2ミラー224もX方向に長い帯状であり、カラーラインカメラ221よりも(−Y)側に位置する。撮像部22により撮像が行われる際には、記録用紙9からの光は、光軸J3に沿って第2ミラー224へと入射し、第2ミラー224にて反射されて第1ミラー223へと導かれる。第1ミラー223にて反射された光は、カラーラインカメラ221に入射する。
【0031】
図4は画像検査部132の機能構成を示すブロック図である。本実施の形態では、画像検査部132はコンピュータおよび専用の電気回路により実現されるが、もちろん、画像検査部132の全部がコンピュータまたは専用の電気的回路により実現されてもよい。画像検査部132は、各種演算処理を行う演算部31、画像データや検査結果等を記憶する記憶部33、および、検査結果を出力する結果出力部34を備える。
図4では、画像検査部132内のメモリやハードディスク駆動装置等の記憶装置をまとめて記憶部33として示している。演算部31は、第1積算部311、第2積算部312、感度補正部313および比較部314を備える。これらの機能については後述する。
【0032】
次に、画像記録装置10が記録用紙9上に画像を記録しつつ記録画像を検査する動作について説明する。
図5.Aは、記録画像の検査の流れを示す図であり、
図5.Bは、
図5.A中のステップS17の詳細な流れを示す図である。まず、
図1に示す制御部14にて、記録対象のカラー画像のデータである元画像データが準備される。次に、制御部14内のRIP(Raster Image Processor )部141(
図4参照)にて、ベクトル形式の元画像データからCMYKの色空間に対応するラスタ形式の元画像データが生成され、記録機構11に送信される。
【0033】
画像記録装置10では、搬送機構12により記録用紙9が(−Y)方向へと連続的に移動しつつ、記録機構11により元画像データに従って各色のインクの吐出が制御されることにより、記録用紙9上に画像が記録される。そして、記録用紙9の進行方向の前方、すなわち、記録機構11よりも下流側に位置する画像読取装置131により、記録直後の画像が撮像され、検査対象であるカラーの画像(以下、「検査画像」という。)が順次取得される(ステップS11)。検査画像は、
図4に示す記憶部33に検査画像データ82として記憶される。
【0034】
一方、記録動作に並行して、制御部14のRIP部141から元画像データが画像検査部132へと送られ、CMYK色空間からRGB色空間のデータへと変換される。変換後のデータ、すなわち、元画像データに従って生成されたデータは、カラー画像である基準画像を示すデータ(以下、「基準画像データ81」という。)として記憶部33に記憶されて準備される(ステップS12)。
【0035】
図6および
図7はそれぞれ、基準画像および検査画像を例示する図である。
図6では、基準画像41の
図6における下向きが、画像記録方向に対応する。
図7および以下の同様の図においても同様である。
【0036】
図4の演算部31では、画像記録方向であるY方向および画像記録方向に垂直な方向であるX方向に関して、
図6および
図7に示す基準画像41と検査画像42との位置合わせが行われる(ステップS13)。第1積算部311では、基準画像41において予め定められた画像記録方向に並ぶ画素の値が積算され、
図8に示すように、積算値のX方向における分布が求められる(ステップS14)。以下、当該分布を「基準積算値分布50」という。
図8では、説明を簡素化するために、基準積算値分布50を簡素化して描いている。
図9および以下の同様の図においても同様である。また、実際には、第1積算部311による基準積算値分布50を取得する処理は、RGBの色成分毎に実行され、第2積算部312、感度補正部313および比較部314による後述する処理も、同様に、RGBの色成分毎に実行されるが、以下の説明では、一の色成分のみに注目して説明する。
【0037】
図6に示す基準画像41では、図柄が存在しない部分、すなわち、記録用紙9の下地(白色)に対応する部分にて画素の値が大きくなる。また、図柄部分において、演算対象となる色成分の明度が低い場合は、当該色成分の画素の値が小さくなる。基準画像41では、図中において平行斜線を付して示す図柄のうち、図中の右側の部分の明度が左側の部分の明度よりも高いため(
図7においても同様)、
図8に示す基準積算値分布50において、図柄に対応する図柄領域501のうち右側の高明度図柄領域502の積算値が、左側の低明度図柄領域503の積算値よりも大きい。当然ながら、図柄領域501の左右の下地領域504の積算値は、高明度図柄領域502の積算値よりも大きい。感度補正部313では、基準積算値分布50に対して後述の感度補正処理が行われる(ステップS15)。
【0038】
基準積算値分布の生成および感度補正に並行して、第2積算部312にて、
図7に示す検査画像42中の画像記録方向に並ぶ画素の値が積算され、
図9に示すように、積算値のX方向における分布(以下、「検査積算値分布60」という。)が求められる(ステップS16)。検査画像42では、基準画像41と同様に、
図7中の右側の部分の明度が左側の部分の明度よりも高いため、
図9に示す検査積算値分布60において、図柄に対応する図柄領域601のうち右側の高明度図柄領域602の積算値が、左側の低明度図柄領域603の積算値よりも大きい。当然ながら、図柄領域601の左右の下地領域604の積算値は、高明度図柄領域602の積算値よりも大きい。
【0039】
また、
図7に示す検査画像42では、左側の低明度の部位の一点鎖線にて示す位置421の画素列、および、右側の高明度の部位の一点鎖線にて示す位置422の画素列にて、インクの吐出不良によるインク抜けが発生しており、積算値が大きくなる。
図9に示すように、検査積算値分布60中では、欠陥が存在する上記画素列に対応する位置421,422に局所ピークが現れる。感度補正部313では、検査積算値分布60に対して後述の感度補正処理が行われる(ステップS17)。
【0040】
図10は、感度補正処理前の基準積算値分布50と検査積算値分布60とを重ねて示す図である。
図10では、基準積算値分布50を細い実線にて示し、検査積算値分布60を太い実線にて示す。
図11、
図16および
図19においても同様である。
図10に示すように、検査積算値分布60の積算値は、基準積算値分布50の積算値よりも全体的に小さい。また、検査積算値分布60における高明度図柄領域602と低明度図柄領域603との積算値の差は、基準積算値分布50における高明度図柄領域502と低明度図柄領域503との積算値の差よりも小さい。このような現象が生じる原因として、基準画像41は元画像データに従って仮想的に作成されたものであり、作成時の色調整に限界がある点が考えられる。また、記録に用いられるインクや記録用紙9の状態のばらつき、検査画像42を撮像する撮像部22の経年変化による明度のずれ等も一因として考えられる。
【0041】
ここで、仮に、本実施の形態に係る感度補正処理とは異なる処理(以下、「比較例の感度補正処理」という。)として、例えば、
図11に示すように、基準積算値分布50の低明度図柄領域503と検査積算値分布60の局所ピークを除く低明度図柄領域603とが一致するように、検査積算値分布60をオフセットして検査積算値分布961を取得する処理を行ったとする。続いて、X方向における各位置にて、検査積算値分布961の積算値から基準積算値分布50の積算値が減算され、
図12に示すように、検査積算値と基準積算値との差分の分布である差分分布970が求められる。ただし、差分分布970では、差が負の値となる部分は0に変更される。そして、差分分布970において正の値が現れる位置が、欠陥の位置として特定される。
【0042】
しかしながら、上述のように、検査積算値分布60における高明度図柄領域602と低明度図柄領域603との積算値の差は、基準積算値分布50における高明度図柄領域502と低明度図柄領域503との積算値の差よりも小さいため、比較例の感度補正処理では、検査積算値分布60の位置422(
図9参照)における局所ピークが差分分布970に現れず、当該局所ピークに対応するインク抜けを検出することができない。
【0043】
一方、本実施の形態に係る画像記録装置10では、ステップS15の感度補正処理において、感度補正部313(
図4参照)により、
図8に示す基準積算値分布50にフィルタリング処理が行われる。フィルタリング処理では、基準積算値分布50に最小値フィルタを作用させることにより、
図13に示すように、基準積算値分布50における積算値が小さい領域が、積算値が大きい領域側へと拡大された基準積算値分布51が取得される。具体的には、基準積算値分布51では、基準積算値分布50に比べて、低明度図柄領域503が左右方向に拡大され、高明度図柄領域502が右側へと拡大される。
図13では、最大値フィルタを作用させる前の基準積算値分布50を破線にて描いている。後述の
図14、
図15および
図18においても、1つ前の処理後における基準積算値分布を破線にて示している。なお、
図13ないし
図15並びに
図18は処理の概略を示す図であり、正確な処理結果を示すものではない。
【0044】
また、ステップS17の感度補正処理において、
図5.Bに示すように、感度補正部313により
図9に示す検査積算値分布60にフィルタリング処理が行われる(ステップS171)。フィルタリング処理では、検査積算値分布60に最小値フィルタを作用させた後に最大値フィルタを作用させることにより、
図14に示すように、検査積算値分布60における局所ピークが周囲の積算値に基づいて除去された検査積算値分布61が取得される。ステップS171のフィルタリング処理は、ステップS15における基準積算値分布50のフィルタリング処理と並行して、または、ステップS15よりも前または後に行われてよいが、以下のステップS172,S173は、ステップS15よりも後に行われる。
【0045】
続いて、検査積算値分布61のX方向における各位置において、検査積算値分布61の積算値の基準積算値分布51(
図13参照)の積算値に対する割合が求められ(ステップS172)、当該各位置における割合が、フィルタリング処理前の検査積算値分布60(
図9参照)の各位置における積算値に乗算され、
図15に示す検査積算値分布62が取得される(ステップS173)。なお、ある位置において、上記割合が大きな値となり、ステップS173の乗算の結果が、記録用紙9の下地部分に対応する画素のみを画像記録方向に積算した場合に得られる積算値(以下、「積算上限値」という。)よりも大きくなる場合、当該位置における乗算後の積算値は積算上限値に変換される。このように、感度補正部313では、フィルタリング処理後の検査積算値分布61と基準積算値分布51との比に基づいて、検査積算値分布60の局所ピーク以外の複数の積算値を、フィルタリング処理後の基準積算値分布51の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正が行われる。
【0046】
ステップS17では、ステップS173における乗算に代えて、ステップS172で求められた割合により基準積算値分布50を除算することにより、検査積算値分布60の局所ピーク以外の複数の積算値を、基準積算値分布50の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正が行われてもよい。すなわち、感度補正部313では、当該感度補正が検査積算値分布60および基準積算値分布50の少なくとも一方に対して行われる。
【0047】
ステップS15,S17の感度補正部313による感度補正処理が終了すると、比較部314により、X方向における各位置にて、検査積算値分布62の積算値から基準積算値分布50の積算値が減算される(ステップS18)。
図16は、検査積算値分布62および基準積算値分布50を示す図である。
図17は、検査積算値分布62の積算値と基準積算値分布50の積算値との差分の分布、すなわち、検査積算値分布62と基準積算値分布50との比較結果である差分分布70を示す図である。比較部314では、積算値の差分が負の値となる部分は0に変更される。差分分布70では、検査積算値分布60(
図15参照)の2つの局所ピークに対応する位置421,422に正の値が現れ、当該位置421,422が欠陥の位置として特定される。
【0048】
記録画像中のシアン、マゼンタおよびイエロのインクはそれぞれ、補色であるレッド、グリーンおよびブルーに対応する検査積算値分布に最も影響を与える。欠陥検査では、例えば、記録画像中のシアンとマゼンタが塗布された位置において、レッドに関する差分分布に正の値が存在すると、レッドを吸収するシアンにインク抜けが生じているものと推定される。
【0049】
検査結果を示す検査結果データ84は
図4に示す記憶部33に記憶され、また、表示部等の結果出力部34を介して操作者に向けて出力される。なお、検査画像42に対する検査は、ページ単位ではなく、数ライン分毎に行われてもよい。画像記録装置10では、記録用紙9上に多数ページ分の記録画像が連続的に形成され、記録動作に並行して画像検査装置13において、各ページの記録画像中の欠陥の検査が形成直後に連続的に行われる。
【0050】
以上に説明したように、画像記録装置10の画像検査装置13では、感度補正部313により、検査積算値分布60における局所ピークを周囲の積算値に基づいて除去した後に、検査積算値分布61と基準積算値分布51との比に基づいて、検査積算値分布60の局所ピーク以外の複数の積算値を、フィルタリング処理後の基準積算値分布51の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正が、検査積算値分布60および基準積算値分布50の少なくとも一方に対して行われる。これにより、基準画像を生成する際の部分的な再現性低下等を補正することができ、検査積算値分布(または基準積算値分布)を一様にオフセットする比較例の感度補正処理に比べて、検査精度を向上することができる。
【0051】
また、検査積算値分布60に最小値フィルタを作用させた後に最大値フィルタを作用させることにより、上述の局所ピークの除去を容易に行うことができるとともに除去処理に要する時間を短くすることができる。さらに、感度補正後の検査積算値分布62の比較対象として基準積算値分布50が利用されることにより、画像記録方向に延びる細い白線等が図柄の一部として基準画像41に含まれている場合であっても、当該白線等を欠陥として誤検出してしまうことを防止することができる。
【0052】
上述のように、感度補正部313では、ステップS15において、基準積算値分布50における積算値が小さい領域が、積算値が大きい領域側へと拡大されて基準積算値分布51が生成される。その後、ステップS172,S173において、検査積算値分布60の局所ピーク以外の複数の積算値を、基準積算値分布51の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正が行われて検査積算値分布62が生成される。
【0053】
このため、基準積算値分布50の低明度図柄領域503と下地領域504との境界近傍の部位、低明度図柄領域503と高明度図柄領域502との境界近傍の部位、および、高明度図柄領域502と下地領域504との境界近傍の部位において、すなわち、基準画像41の図柄部分のエッジ近傍に対応する部位において、検査積算値分布62の積算値が、基準積算値分布50の積算値よりも大きくなることが防止される。これにより、基準画像41と検査画像42との位置合わせが完全でない場合であっても、基準画像41の図柄部分のエッジ近傍において、欠陥が誤検出されることがより一層防止される。換言すれば、比較部314による欠陥検出の感度がエッジ近傍において弱められて両画像のずれの影響が低減される。また、ステップS15では、基準積算値分布50に最小値フィルタを作用させることにより、積算値が小さい領域を積算値が大きい領域側へと拡大する処理を容易かつ迅速に行うことができる。
【0054】
画像検査装置13では、ステップS172,S173に代えて、
図14に示す検査積算値分布61のX方向における各位置において、検査積算値分布61の積算値と基準積算値分布51(
図13参照)の積算値との差分が求められ、当該各位置における差分が、フィルタリング処理前の検査積算値分布60の各位置における積算値に加算される処理が行われてもよい。すなわち、感度補正部313により、フィルタリング処理後の検査積算値分布61と基準積算値分布51との差分に基づいて、検査積算値分布60の局所ピーク以外の複数の積算値を、フィルタリング処理後の基準積算値分布51の対応する複数の積算値に相対的に近づける感度補正処理が行われる。
【0055】
図18は、当該感度補正処理後の検査積算値分布62aを示す図である。また、
図19は、検査積算値分布62aおよび基準積算値分布50を示す図であり、
図20は、検査積算値分布62aと基準積算値分布50との比較結果である差分分布70aを示す図である。
図20に示すように、差分分布70aにおいても、
図17に示す差分分布70と同様に、位置421,422に正の値が現れ、当該位置421,422が欠陥の位置として特定される。このように、検査積算値分布61と基準積算値分布51との差分に基づく感度補正処理が行われる場合も、ステップS172,S173の感度補正処理が行われる場合と同様に、基準画像を生成する際の部分的な再現性低下等を補正することができ、検査精度を向上することができる。
【0056】
また、画像検査装置13では、ステップS18の基準積算値分布50と検査積算値分布62との比較の際に、比較部314により、基準積算値分布50に最大値フィルタを作用させた後に、最大値フィルタを作用させた基準積算値分布50と検査積算値分布62との比較が行われてもよい。基準積算値分布50に最大値フィルタを作用させることにより、基準積算値分布50における積算値が大きい領域が、積算値が小さい領域側へと拡大される。したがって、その後の基準積算値分布50と検査積算値分布62との比較の際に、基準画像41の図柄部分のエッジ近傍に対応する部位において、検査積算値分布62の積算値が、基準積算値分布50の積算値よりも大きくなることが防止される。これにより、基準画像41と検査画像42との位置合わせが完全でない場合であっても、基準画像41の図柄部分のエッジ近傍において、欠陥が誤検出されることがより一層防止される。
【0057】
画像検査装置13では、ステップS18の基準積算値分布50と検査積算値分布62との比較の際に、比較部314により、予め定められた閾値を超える基準積算値分布50の積算値が積算上限値に変更された後に、当該基準積算値分布50と検査積算値分布62との比較が行われてもよい。基準積算値分布50の積算値が積算上限値に変更された位置では、検査積算値分布62の積算値は必ず基準積算値分布50の積算値以下となる。これにより、基準積算値分布50の積算値のうち、上記閾値を超える積算値が比較対象から実質的に除外される。
【0058】
積算値が大きい場合、その位置にてインク抜けが発生しても積算値の増加は限定的なものとなる。したがって、積算値が大きいX方向の範囲では、インク抜けが検出されにくい、または、誤検出が生じやすくなる。さらに、目視でもインク抜けが判断しにくい領域となる。そこで、画像検査装置13では、基準積算値分布50において積算値が小さい暗部を抽出する処理を行うことにより、明部を容易に比較対象から除外し、その結果、欠陥の誤検出を低減することができる。なお、ステップS18において、上述の基準積算値分布50に最大値フィルタを作用させる処理、および、閾値を超える基準積算値分布50の積算値を積算上限値に変更する処理が行われる場合、どちらの処理が先に行われてもよいが、欠陥の誤検出をより一層低減させるという観点からは、前者の処理が後者の処置よりも先に行われる方が好ましい。
【0059】
以上のように、画像記録装置10の画像検査装置13では、上述の感度補正後に基準積算値分布50と検査積算値分布62とを比較することにより、検査精度を向上することができる。演算部31では、RGBの色成分毎に基準積算値分布および検査積算値分布が取得されて欠陥検査が行われることにより、カラー画像に対する検査精度が向上される。また、このような積算値を利用するインク抜け検査は、インク抜けが記録品質に大きく影響を与えるワンパス方式の画像記録装置に特に適している。
【0060】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0061】
例えば、ステップS15における処理、すなわち、
図13に示すように基準積算値分布50に対して感度補正を行い、積算値が小さい領域を積算値が大きい領域側へと拡大した基準積算値分布51を取得する処理は、必ずしも基準積算値分布50に最小値フィルタを作用させることにより実現される必要はなく、他の様々な方法により実現されてよい。また、基準画像41と検査画像42との位置合わせにおける誤差を考慮する必要がほとんどない場合等、ステップS15は省略されてよい。この場合、ステップS172では、基準積算値分布50の積算値に対する
図14に示す検査積算値分布61の積算値の割合が求められる。また、
図18に示す検査積算値分布62aは、検査積算値分布61の積算値と基準積算値分布50との差分に基づいて求められる。
【0062】
ステップS17において、検査積算値分布60から局所ピークを除去して検査積算値分布61を取得する処理は、必ずしも検査積算値分布60に最小値フィルタおよび最大値フィルタを順に作用させることにより実現される必要はなく、他の様々な方法により実現されてよい。さらに、基準積算値分布および検査積算値分布に対する上述の感度補正では、実質的に同内容の処理が行われるのであれば、処理の順序や処理の方法は適宜変更されてよい。
【0063】
画像検査装置13は、インクジェット方式の画像記録装置以外に、電子写真方式等の無版にて画像の記録を行う他の画像記録装置に利用されてもよく、画像記録装置10における記録媒体は、記録用紙以外にフィルムや板状の部材であってもよい。また、画像検査装置13は、様々な記録媒体に記録された画像の検査に利用されてよい。
【0064】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。