特許第5699527号(P5699527)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許5699527-電動パワーステアリング装置 図000002
  • 特許5699527-電動パワーステアリング装置 図000003
  • 特許5699527-電動パワーステアリング装置 図000004
  • 特許5699527-電動パワーステアリング装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5699527
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/00 20060101AFI20150326BHJP
   H02P 27/04 20060101ALI20150326BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20150326BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20150326BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20150326BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20150326BHJP
【FI】
   H02P5/408 A
   B62D5/04
   B62D6/00
   B62D101:00
   B62D119:00
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-236406(P2010-236406)
(22)【出願日】2010年10月21日
(65)【公開番号】特開2012-90471(P2012-90471A)
(43)【公開日】2012年5月10日
【審査請求日】2013年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−273153(JP,A)
【文献】 特開2001−086794(JP,A)
【文献】 特開2000−041392(JP,A)
【文献】 特開平07−033342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
B62D 5/04
B62D 6/00
H02P 27/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、
前記アシスト力を発生する電動モータと、
前記電動モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記電動モータの電流値を検出する電流検出手段と、
前記モータ駆動回路を制御する制御手段と、を備え、
前記電動モータは、マグネットを有するロータと、巻線を巻回するティースを有するステータと、を備え、
前記操舵力補助装置は、前記モータ駆動回路と、前記電流検出手段を独立して二個有し、
前記電動モータは、前記ステータに独立した同一巻線数である巻線を二系統有し、
前記制御手段は、走行状態に応じたアシスト電流値を演算する第1指令値演算手段と
記二個の一方の前記電流検出手段で検出した前記電流値と、前記二個の他方の前記電流検出手段で検出した前記電流値とを加算した後、加算により得られた値をd/q座標系により変換した電流値と、前記第1指令値演算手段により演算された前記アシスト電流値との偏差に基づく、一つのd/q座標系電流フィードバック演算を行なう第2指令値演算手段と、
前記第2指令値演算手段で演算された制御信号を、前記二個の一方の前記モータ駆動回路に出力する第1系統PWM変換手段と、
前記制御信号を、前記二個の他方の前記モータ駆動回路に出力する第2系統PWM変換手段とを有することにより、前記二系統の巻線を有する前記電動モータを同期制御すること、
を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記操舵力補助装置の異常を検出する異常検知手段を有し、
前記異常検知手段による異常検知の結果が、前記二系統の一方または他方の前記巻線に通電不良があった場合には、通電不良のない系統の前記モータ駆動回路に前記制御信号を出力すること、
を特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2台のモータを回転駆動することにより転舵輪の舵角を変更するようにした電動パワーステアリング装置として特許文献1に記載されたものがある。
この特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置は、一方のモータを第1駆動回路と第1制御装置により、他方のモータを第2駆動回路と第2制御装置により、それぞれ独立して制御している。即ち、二系統のモータを独立して制御することにより、転舵輪の舵角を変更している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−10024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記電動パワーステアリング装置は、二系統のモータ、駆動回路及び制御装置を独立して制御する方式であり、転舵輪の舵角をスムーズに変更するためには、双方のモータを適切に同期制御して駆動する必要がある。この同期制御を行うためには、第1制御装置と第2制御装置の間で、制御タイミングや動作状態を監視しながらモータを制御しなければならず、第1制御装置、第2制御装置のいずれも演算負荷が高くなるという問題があった。このように演算負荷が高くなると、車両状況においては適切な同期制御ができなくなり、追従遅れが発生し、操舵フィーリングの低下を招く原因となる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、独立した巻線を二系統有する電動モータを適切に同期制御し、操舵フーリングの良い電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、前記アシスト力を発生する電動モータと、前記電動モータを駆動するモータ駆動回路と、前記電動モータの電流値を検出する電流検出手段と、
前記モータ駆動回路を制御する制御手段と、を備え、前記電動モータは、マグネットを有するロータと、巻線を巻回するティースを有するステータと、を備え、前記操舵力補助装置は、前記モータ駆動回路と、前記電流検出手段を独立して二個有し、前記電動モータは、前記ステータに独立した同一巻線数である巻線を二系統有し、前記制御手段は、走行状態に応じたアシスト電流値を演算する第1指令値演算手段と
記二個の一方の前記電流検出手段で検出した前記電流値と、前記二個の他方の前記電流検出手段で検出した前記電流値とを加算した後、加算により得られた値をd/q座標系により変換した電流値と、前記第1指令値演算手段により演算された前記アシスト電流値との偏差に基づく、一つのd/q座標系電流フィードバック演算を行なう第2指令値演算手段と、
前記第2指令値演算手段で演算された制御信号を、前記二個の一方の前記モータ駆動回路に出力する第1系統PWM変換手段と、前記制御信号を、前記二個の他方の前記モータ駆動回路に出力する第2系統PWM変換手段とを有することにより、前記二系統の巻線を有する前記電動モータを同期制御すること、を要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、d/q座標系電流フィードバック演算により、独立した巻線を二系統有する電動モータの二個の各モータ駆動回路に出力することができる。
その結果、制御装置の演算負荷を低減でき、独立した巻線を二系統有する電動モータをあらゆる走行状況において適切に同期制御できるので、操舵フーリングの良いアシスト力が得られる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記制御手段は、前記操舵力補助装置の異常を検出する異常検知手段を有し、前記異常検知手段による異常検知の結果が前記二系統の一方または他方の前記巻線に通電不良があった場合には、通電不良のない系統の前記モータ駆動回路に前記制御信号を出力すること、を要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、二系統の一方または他方の電動モータの巻線に通電不良があった場合には、通電不良のない系統のモータ駆動回路に制御信号を出力することでアシストを継続することができる。
その結果、急激な操舵フーリングの低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、独立した巻線を二系統有する電動モータを適切に同期制御し、操舵フーリングの良い電動パワ−ステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
図2】モータの概略構成図。
図3】EPSの制御ブロック図。
図4】同じくEPSの制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、コラム型の電動パワーステアリング装置(以下、EPSという)に具体化した本発明の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。
【0015】
そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角が変更される。
【0016】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0017】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、コラム型のEPSアクチュエータであり、その駆動源であるモータ12は、減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結されている。EPSアクチュエータ10は、モータ12の回転を減速機構13により減速してコラムシャフト3aに伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する。
【0018】
ECU11には、トルクセンサ14、車速センサ15、及びモータ回転角センサ33が接続されている。ECU11は、これら各センサの出力信号に基づいて、操舵トルクτ、車速V、及びモータ回転角θを検出する。例えば、本実施形態のトルクセンサ14は、一対のレゾルバが図示しないトーションバーの両端に設けられたツインレゾルバ型のトルクセンサである。また、ECU11は、これらの検出される各状態量に基づいて目標アシスト力を演算し、モータ12への駆動電力の供給を通じて、EPSアクチュエータ10の作動、即ち、操舵系に付与するアシスト力を制御する。
【0019】
次に、本実施形態のEPS1における電気的構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態のモータ12は、独立した二系統の第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bを同一のステータ22に巻回することにより形成されている。
【0020】
具体的には、第1系統モータコイル21A(21ua、21va、21wa)及び第2系統モータコイル21B(21ub、21vb、21wb)は、ステータ22の各ティース23(23u,23v,23w)に対して、それぞれ、その対応する相(U,V,W)毎に巻回されている。そして、これらの各ティース23(23u,23v,23w)の径方向内側には、回転自在に支承されたロータ24が設けられている。
【0021】
即ち、本実施形態のモータ12は、二系統の第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bに共通のステータ22及びロータ24を有しており、ロータ24は、上記のように各ティース23(23u,23v,23w)に巻回された第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bが発生する起磁力に基づいて回転する。
【0022】
そして、本実施形態のECU11は、これらの第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bに対して、それぞれ独立に駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する構成になっている。
【0023】
次に、本実施形態のECU11は、図3に示すように、上記第1系統モータコイル21Aと、第2系統モータコイル21Bに対応して独立に設けられた二つのモータ駆動回路、第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bとを有している。また、これらの第1系統モータ駆動回路26A、第2系統モータ駆動回路26Bに対して、それぞれ独立に第1系統制御信号Smc_a, 第2系統制御信号Smc_bを出力する制御手段としてのCPU27を備えている。
【0024】
具体的には,第1系統モータ駆動回路26Aは、第1系統動力線28A(28ua,28va,28wa)を介して第1系統モータコイル21Aに接続され、第2系統モータ駆動回路26Bは、第2系統動力線動力線28B(28ub,28vb,28wb)を介して第2系統モータコイル21Bに接続されている。
【0025】
また、CPU27の出力する第1系統制御信号Smc_aは、第1系統モータ駆動回路26Aに入力され、もう一方の第2系統制御信号Smc_bは、第2系統モータ駆動回路26Bに入力される。
【0026】
尚、本実施形態では、第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bには、直列接続されたスイッチング素子対を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータが採用されており、CPU27から出力される第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bは、その各相アームのオンduty比を規定するものとなっている。
【0027】
そして、本実施形態のECU11は、これらの第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bに基づき第1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bが出力する駆動電力を、それぞれ独立に、その対応する第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに供給する構成となっている。
【0028】
次に、図4に示すように、本実施形態のCPU27は、目標アシスト力に対応するモータトルクを発生させるべく、モータ12に対する電力供給の電流指令値Iq*を生成する第1指令値演算手段としての第1指令値演算部(アシスト演算)30と、その電流指令値Iq*に基づいて上記第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bの出力を実行する制御信号出力部31と、各系統の電力供給路に生じた通電不良の発生を検知可能な異常検知手段としての異常検知部41とを備えている。
【0029】
本実施形態では、第1指令値演算部(アシスト演算)30は、上記トルクセンサ14により検出される操舵トルクτ及び車速センサ15により検出される車速Vに基づいて、上記目標アシスト力に対応した電流指令値Iq*を演算する。
【0030】
具体的には,その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きなアシスト力が発生するような電流指令値Iq*を演算する。そして、第1指令値演算部(アシスト演算)30は、この操舵トルクτ及び車速Vに基づく電流指令値Iq*を、そのモータ12に対する電力供給の電流指令値Iq*として制御信号出力部31に出力する構成となっている。
【0031】
一方、制御信号出力部31には、第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに通電される第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bと、モータ12の回転角θ並びに異常検知信号S_trが入力される。
【0032】
尚、本実施形態では、第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bは、それぞれ、第1系統動力線28A,第2系統動力線28Bに設けられた電流検出手段としての第1系統電流センサ32A(32ua,32va,32wa)及び第2系統電流センサ32B(32ub,32vb,32wb)により独立に検出される一方、モータ12の回転角θは、共通の回転角センサ33により検出される。そして、異常検知信号S_trは異常検知部41から出力される。
【0033】
制御信号出力部31は、第1指令値演算部(アシスト演算)30から出力された電流指令値Iq*と、第1、2系統各相電流値の差分から演算される1系統のd/q座標系電流フィードバック演算を実行する第2指令値演算手段としての第2指令値演算部(電流フィードバック演算)40と、第2指令値演算部40から出力される各相電圧指令値(制御信号)をPWM変換する第1系統PWM変換手段としての第1系統PWM変換部36Aと、第2系統PWM変換手段としての第2系統PWM変換部36Bを備える構成となっている。
【0034】
一方、第2指令値演算部(電流フィードバック演算)40には、第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに通電される第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_b並びにモータ12の回転角θが入力される。
【0035】
具体的には、3相2相変換部37は、その対応する系統の第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bの加算値を、モータ12の回転角θに従うd/q座標系のd軸電流値及びq軸電流値に変換する(d/q変換)。また、上記制御指令Iq*は、q軸電流指令値として入力される(d軸電流指令値は「0」)。
【0036】
そして、d軸電流制御部34及びq軸電流制御部35は、そのd/q座標系における電流フィードバック制御の実行により得られるd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を出力する。そして、2相3相変換部38は、入力されたd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を三相の交流座標系上に写像することにより(d/q逆変換)、各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する。
【0037】
そして、得られた各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*はduty変換を行なう、第1系統PWM変換部36A,及び第2系統PWM変換部36Bへ入力される。第1系統PWM変換部36A,及び第2系統PWM変換部36Bは、duty変換値αu,
αv, αwに基づいて、1系統モータ駆動回路26Aと、第2系統モータ駆動回路26Bに対する第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bの出力を実行する。
【0038】
次に、本実施形態における通電不良発生後の継続制御について説明する。
図4に示すように、本実施形態のCPU27には、上記第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに対応する各系統の電力供給路に生じた通電不良の発生を検知可能な異常検知部41が設けられている。
【0039】
具体的には,本実施形態の異常検知部41には、第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに通電される第1系統各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_a及び第2系統各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_b、並びに第1系統制御信号Smc_aと、第2系統制御信号Smc_bが規定する各相のオンdutyを示す第1系統デューティ信号Sduty_a,第2系統デューティ信号Sduty_b及びモータ12の回転角速度ωが入力される。そして、検知手段としての異常検知部41は、これらの各状態量に基づいて、相毎に、各系統における通電不良の発生を検知する構成となっている。
【0040】
即ち、何れかの相について、その第1系統デューティ信号Sduty_a,第2系統デューティ信号Sduty_bが通電状態にあるべき状態にあることを示すにもかかわらず、その相電流値が非通電状態を示す値である場合には、当該相に通電不良が発生したものと判定することができる。そして、本実施形態の異常検知部41は、更に、モータの回転角速度ωに基づく速度条件を付加し、その逆起電圧の影響が顕在化する高速回転時は検知しないことにより、精度よく、その通電不良の発生を検知することが可能な構成となっている。
【0041】
また、本実施形態では、この異常検知部41による異常検知の結果が、異常検知信号S_trとして上記制御信号出力部31に入力されるようになっている。そして、本実施形態の制御信号出力部31は、上記第1系統モータコイル21A、第2系統モータコイル21Bに対応する二系統のうち、その一方の系統に通電不良の発生が検知された場合には、他方の系統の駆動回路に対する各相電圧指令値(制御信号)の出力を優先する構成となっている。
【0042】
詳述すると、本実施形態の制御信号出力部31において、その通電不良の発生が第1系統である場合には、第1系統における電力供給を停止し、他方の上記第2系統モータコイル21Bに対応する第2系統モータ駆動回路26Bに対する第2系統制御信号Smc_bの出力を優先する。
【0043】
また、本実施形態の制御信号出力部31において、通電不良の発生が第2系統である場合には、第2系統における電力供給を停止し、他方の上記第1系統モータコイル21Aに対応する第1系統モータ駆動回路26Aに対する第1系統制御信号Smc_aの出力を優先する。そして、本実施形態では、通電不良の発生がない場合、その第1系統モータ駆動回路26Aに対する第1系統制御信号Smc_a、及び第2系統モータ駆動回路26Bに対する第2系統制御信号Smc_bの両方を出力する(通常動作時制御)。
【0044】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
本実施形態のモータは、二系統のモータコイルに共通のステータ及びロータを有しており、各モータコイルは、互いに同位相上のステータに配置されている。ロータは、上記のように各ティースに巻回された各モータコイルが発生する起磁力に基づいて回転する。
【0045】
そして、本実施形態の制御手段は、これらの二系統のモータコイルに対して、それぞれ二系統の駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する構成になっている。即ち、本実施形態のECUは、上記二系統のモータコイルに対応して設けられた二系統の駆動回路と、これら二系統の各駆動回路に対して、それぞれ二系統の制御信号を出力するCPUとを備えるようにした。
【0046】
また、電流指令手段により生成された電流指令値と、各電流センサにより検出された二系統の各相電流値を加算した後、d/q座標系に変換した電流値との偏差に基づく、一つのd/q座標系電流フィードバック制御の実行により、二系統の制御信号を出力するようにした。
【0047】
上記構成によれば、二系統のモータ駆動系が動作する場合に、モータ駆動系毎に検出された電流値を加算して一つのd/q座標系電流フィードバック制御を行うことにより、CPUの演算負荷を軽減することができる。そして、CPUの演算負荷が軽減したことにより二系統のモータを適切に同期制御し、操舵フーリングの良い操舵が得られる。
【0048】
また、ECUは、上記二系統のモータコイルに対応する各系統の電力供給経路における通電不良の発生を検知可能な異常検知手段を有し、アシスト制御を実行している一方の系統について前記通電不良の発生が検知された場合には、前記通電不良が発生した系統の前記モータコイルの三相を開放し、他方の正常な系統において前記制御信号を出力しアシスト制御を継続するようにした。
【0049】
上記構成によれば、通電不良発生後の継続制御時にトルクリップルの発生がなく、操舵フィーリングの良い操舵を継続できる。
【0050】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明をコラムアシストタイプのEPS1に具体化したが、本発明は、ピニオンアシストタイプやラックアシストタイプのEPSに適用してもよい。
【0051】
・上記各実施形態では、第2指令値演算部において、一つのd/q座標系電流フィードバック制御の実行により、各相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を第1、2系統PWM変換部に出力するようにした。しかし、これに限らず各相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の1/2をそれぞれ第1、2系統PWM変換部に出力するようにしてもよい。
【0052】
・更に、EPSの他、独立に設けられた二系統のモータコイルを備えたモータを制御するモータ制御システムに具体化してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1:電動パワーステアリング装置(EPS)、2:ステアリング、
3:ステアリングシャフト、3a:コラムシャフト、
3b:インターミディエイトシャフト、3c:ピニオンシャフト、
4:ラックアンドピニオン機構、5:ラック軸、
6:タイロッド、7:転舵輪、10:EPSアクチュエータ、11:ECU、
12:モータ、13:減速機構、14:トルクセンサ、15:車速センサ、
21A:第1系統モータコイル、21B:第2系統モータコイル、
22:ステータ、23:ティース、24:ロータ、
26A:第1系統モータ駆動回路、26B:第2系統モータ駆動回路、
27:CPU、28A:第1系統動力線、28B:第2系統動力線、
30:第1指令値演算部(アシスト演算)、31:制御信号出力部、
32A:第1系統電流センサ、32B:第2系統電流センサ、
33:モータ回転角センサ、34:d軸電流制御部、35:q軸電流制御部、
36A:第1系統PWM変換部、36B:第2系統PWM変換部、
37:3相/2相変換部、38:2相/3相変換部、
39:電流加算器、40:第2指令値演算部(電流フィードバック演算)、
41:異常検知部、
Iq*:q軸電流指令値、Id*:d軸電流指令値、
Iq:q軸電流値、Id:d軸電流値、
Vd*:d軸電圧指令値、Vq*:q軸電圧指令値、
Vu*、Vv*、Vw*:各相電圧指令値、
Iu_a,Iv_a,Iw_a:第1系統各相電流値、
Iu_b,Iv_b,Iw_b:第2系統各相電流値、
Smc_a:第1系統制御信号、Smc_b:第2系統制御信号、
S_tr:異常検知信号、
Sduty_a:第1系統デューティ信号、Sduty_b:第1系統デューティ信号、
θ:モータ回転角、ω:モータ回転角速度、V:車速、τ:操舵トルク
図1
図2
図3
図4