(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、仕上加工用砥石車による単位時間あたりの研削可能体積は、荒加工用砥石車による単位時間あたりの研削可能体積に比べて少ない。そのため、一つの被加工物に対して、荒加工用砥石車によりできるだけ多くの体積を研削し、仕上加工用砥石車による研削体積を可能な限り少なくすることが望まれる。しかし、これまでは、機械構成による制約や製造ラインのサイクルタイムよる制約により、荒加工用砥石車と仕上加工用砥石車のそれぞれの研削体積を決められていた。そのため、仕上加工用砥石車による研削体積を増加せざるを得なくなり、荒加工用砥石車に比べて仕上加工用砥石車の方が早く寿命に達していた。その結果、仕上加工用砥石車のコストが高くなることが通常であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、仕上加工用砥石車による研削体積を可能な限り少なくすることにより、仕上加工用砥石車に要するコストを低減することができる研削方法および複合研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1)本発明の研削方法は、被加工物を支持する支持装置と、前記支持装置に対して相対移動可能に配置され、選択的に使用可能な荒加工用砥石車および仕上加工用砥石車を備える複合砥石台と、前記荒加工用砥石車と前記仕上加工用砥石車とを選択的に用いて前記被加工物を研削する制御装置と、を備える複合研削盤を用いた研削方法において、前記被加工物を前記支持装置により支持した状態で、設定された仕上取代を残すように前記荒加工用砥石車を用いて前記被加工物に対して荒加工を行う荒加工工程と、前記荒加工工程の後に、前記被加工物を前記支持装置により継続して支持した状態で、前記仕上加工用砥石車を用いて前記仕上取代を取り除くように仕上加工を行う仕上加工工程と、を実行し、前記荒加工用砥石車は、前記仕上加工用砥石車により仕上加工された後における前記被加工物の形状の加工を可能とする外径を有し、前記荒加工工程は、前記荒加工用砥石車の形状の外径に依存しない形状であって、前記被加工物において前記仕上取代を残した形状となるように荒加工を行
い、前記仕上取代は、前記荒加工用砥石車に起因する研削抵抗の変化量に基づいて設定される、もしくは、前記被加工物の研削部位がカム形状に形成される場合には、前記仕上取代は、研削抵抗による前記被加工物または前記複合研削盤の撓み変形量に起因するカムプロフィール研削誤差に基づいて設定される。
【0007】
(
請求項2)また、本発明において、製造ラインにおいて1つの前工程と1つの後工程との間に複数の前記複合研削盤が配置され、それぞれの前記複合研削盤は、前記製造ラインの前記前工程から搬送された前記被加工物に対して前記荒加工工程と前記仕上加工工程を順に行い、前記仕上加工工程の後に前記被加工物を前記製造ラインの前記後工程に排出し、複数の前記複合研削盤は、前記前工程と前記後工程との間において並列に実行するようにしてもよい。
【0009】
(
請求項3)また、本発明において、前記被加工物の研削部位は、外周面に曲率半径R1の凹状曲面を有するカム形状に形成され、前記荒加工用砥石車の半径R2および前記仕上加工用砥石車の半径R3は、前記凹状曲面の曲率半径R1より小さく形成され、前記荒加工工程は、前記荒加工用砥石車を用いて荒加工を行い、前記凹状曲面に対して設定された仕上取代を残した荒凹状曲面を形成し、前記仕上加工工程は、前記荒加工工程の後に前記仕上加工用砥石車を用いて前記荒凹状曲面に対して仕上加工を行い、前記仕上取代を取り除いて前記凹状曲面を形成するようにしてもよい。
【0010】
(
請求項4)また、本発明の複合研削盤は、被加工物を支持する支持装置と、前記支持装置に対して相対移動可能に配置され、選択的に使用可能な荒加工用砥石車および仕上加工用砥石車を備える複合砥石台と、前記荒加工用砥石車と前記仕上加工用砥石車とを選択的に用いて前記被加工物を研削する制御装置と、を備える複合研削盤において、前記荒加工用砥石車は、前記仕上加工用砥石車により仕上加工された後における前記被加工物の形状の加工を可能とする外径を有し、前記制御装置は、前記被加工物を前記支持装置により支持した状態で、前記荒加工用砥石車の形状の外径に依存しない形状であって設定された仕上取代を残した形状となるように、前記荒加工用砥石車を用いて前記被加工物に対して荒加工を行い、前記荒加工の後に、前記被加工物を前記支持装置により継続して支持した状態で、前記仕上加工用砥石車を用いて前記仕上取代を取り除くように仕上加工を行
い、
前記仕上取代は、前記荒加工用砥石車に起因する研削抵抗の変化量に基づいて設定される、もしくは、前記被加工物の研削部位がカム形状に形成される場合には、前記仕上取代は、研削抵抗による前記被加工物または前記複合研削盤の撓み変形量に起因するカムプロフィール研削誤差に基づいて設定される。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1)本発明によれば、荒加工用砥石車と仕上加工用砥石車を備える複合研削盤を適用することにより、荒加工工程と仕上加工工程との工程集約が可能となる。これにより、荒加工工程と仕上加工工程との間で被加工物を支持装置から脱着しないため、脱着による被加工物の取付位相誤差が含まれることがないため、仕上取代を少なくできる。
【0012】
さらに、本発明によれ
ば、被加工物において仕上取代を残した形状は、荒加工用砥石車の形状に依存しない形状としている。このように、仕上取代は、荒加工用砥石車の形状に関わりなく設定
されている。これにより、仕上取代を少なくできる。
【0013】
従って、本発明によれば、工程集約により被加工物の脱着を行わないことによる仕上取代の低減化に加えて、仕上取代の設定方法を上記のようにすることによる仕上取代の低減化を合わせることで、仕上取代の最小限化を図ることができる。その結果、仕上加工用砥石車の寿命を延長でき、仕上加工用砥石車に要するコストを低減することができ
る。
仕上取代
が荒加工用砥石車に起因する研削抵抗の変化量に基づいて設定される
場合には、仕上取代を少なくできる。
また、被加工物の研削部位がカム形状に形成される場合に、仕上取代が研削抵抗による被加工物または複合研削盤の撓み変形量に起因するカムプロフィール研削誤差に基づいて設定されることで、以下の効果を奏する。カム形状を研削加工する場合には、加工位置であるカムプロフィールは回転位相とリフト量によって表される。ここで、研削抵抗によって被加工物または複合研削盤の各構成部品が撓み変形する。そして、カムプロフィールは、当該撓み変形がないものとして設定されることが多い。ところで、被加工物の研削部位が円筒外周面の場合には、当該撓み変形があることによって、研削加工後の外径が目標の研削径よりも大きな径となってしまう。そのため、円筒研削においては、スパークアウトなどが行われる。しかし、カム形状を研削加工する場合には、被加工物の回転位相に応じて、砥石車の位置を変動させる必要がある。そのため、カム形状を研削加工する場合において、当該撓み変形を生じることによって、実際の研削加工後の形状がカムプロフィールに対して誤差(これを、カムプロフィール研削誤差と称する)を生じる。このカムプロフィール研削誤差は、カムプロフィールよりも切り込み方向(削りすぎとなる方向)に生じるおそれがある。そのため、本発明において、仕上取代は、カムプロフィール研削誤差に基づいて決定するものとしている。これにより、確実にカムプロフィール研削誤差を仕上加工工程において排除することができるため、仕上加工工程後の被加工物に影響を及ぼすことはない。
【0014】
(
請求項2)従来、製造ラインにおいて、前工程から搬送されてきた被加工物に対して荒加工工程と仕上加工工程を行い、後工程に排出する場合には、荒加工用砥石車のみを備えた荒加工工程専用の研削盤と、仕上加工用砥石車のみを備えた仕上加工工程専用の研削盤とを設置して行われてきた。そして、製造ラインにはサイクルタイムが決定されるため、荒加工工程専用の研削盤による研削加工時間および仕上加工工程専用の研削盤による研削加工時間の両方が、製造ラインのサイクルタイム以内となるように、それぞれの加工条件が設定される。この加工条件によれば、通常、仕上加工工程専用の研削盤による仕上加工が過剰となる傾向にあった。そのため、仕上加工用砥石車の寿命が短くなっていた。
【0015】
しかし、本発明のように、複数の複合研削盤を前工程と後工程との間に並列に実行させることで、それぞれの複合研削盤が、荒加工工程と仕上加工工程とを実行することができる。そして、それぞれの複合研削盤においては、上述したように、仕上取代を最小限にすることができるため、仕上加工用砥石車の寿命を延長することができる。従って、仕上加工用砥石車に要するコストを低減することができる。
【0016】
また、複数の複合研削盤を並列に実行させることで、それぞれの複合研削盤による研削加工時間を複合研削盤の台数分で除算した時間が、1つの被加工物に対する荒加工工程と仕上加工工程に要する時間となる。ここで、それぞれの複合研削盤による研削加工時間は、荒加工工程から仕上加工工程へ被加工物の脱着を行わない分、短くできる。さらに、仕上取代を最小限にできるため、荒加工工程と仕上加工工程との合計時間を短縮できる。従って、従来に比べると、それぞれの複合研削盤による研削加工時間を複合研削盤の台数分で除算した時間は、従来の荒加工工程専用または仕上加工工程専用の研削盤による研削加工時間よりも大幅に短縮できる。従って、製造ラインのサイクルタイムの短縮を図ることも可能となる。
【0018】
(
請求項3)荒加工用砥石車の半径R2をカム形状の凹状曲面の曲率半径R1より小さくすることで、荒加工用砥石車により、最終仕上形状に至るまで研削加工することが可能となる。つまり、荒加工用砥石車により、仕上取代をゼロにすることが可能となる。ただし、実際には、荒加工用砥石車により仕上取代がゼロになる状態まで、研削加工を行うことはない。そして、被加工物において仕上取代を残した形状は、荒加工用砥石車の形状に依存しない形状とすることができる。つまり、仕上取代を、凹状曲面の部分と凹状曲面以外の部分とで同一量とすることができる。従って、凹状曲面を有するカム形状を研削加工する場合であっても、仕上取代を、荒加工用砥石車の形状に依存させることなく、最小限に設定することができる。また、仕上加工用砥石車の半径R3をカム形状凹状曲面の曲率半径R1より小さくすることで、仕上加工用砥石車により、確実に最終仕上形状に至るまで研削加工することができる。
【0019】
また、上述したように、仕上取代を、凹状曲面の部分と凹状曲面以外の部分とで同一量とすることができる。その結果、仕上加工工程において、仕上加工用砥石車による研削抵抗が、被加工物の回転位相によって変化しないようにできる。このことにより、仕上加工用砥石車の寿命を長期化でき、仕上加工工程の時間を短縮できる。
【0020】
(
請求項4)本発明は、上述した研削方法に係る発明を、複合研削盤として捉えたものである。これにより、上述した研削方法による効果と同様の効果を奏する。また、上述した研削方法における他の特徴についても、当該複合研削盤に係る発明に適用できる。この場合、対応する研削方法による効果と同一の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態>
(複合研削盤の構成)
本実施形態の研削方法および複合研削盤について、
図1〜
図4を参照して説明する。
図1に示すように、複合研削盤1は、砥石台トラバース型を例に挙げて説明する。複合研削盤1は、ベッド10と、支持装置20と、砥石支持装置60と、制御装置80とを備えて構成される。
【0023】
ベッド10は、例えばほぼ矩形状に形成されており、床上に固定される。このベッド10の上面には、砥石支持装置60が摺動可能な2本の砥石台用ガイドレール11が、
図1の左右方向(Z軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。また、ベッド10には、2本の砥石台用ガイドレール11の間に、砥石支持装置60を
図1の左右方向に駆動するための、砥石台用Z軸ボールねじ12が配置され、この砥石台用Z軸ボールねじ12を回転駆動する砥石台用Z軸モータ13が配置されている。
【0024】
支持装置20は、被加工物Wを回転可能に支持する。本実施形態において、被加工物Wはカムシャフトであって、被加工物Wの研削部位はカム形状のカム外周面である。従って、支持装置20は、被加工物Wであるカムシャフトの軸回りに回転可能となるように、カムシャフトの両端を支持する。支持装置20は、カムシャフトの一端を支持する主軸台21と、カムシャフトの他端を支持する心押台22とを備える。この支持装置20は、ベッド10の上面のうち、砥石台用ガイドレール11の手前側に対向する位置に設けられ、カムシャフトの軸方向がZ軸方向となるように設けられている。
【0025】
砥石支持装置60は、砥石台トラバースベース61と、複合砥石台62とを備えている。砥石台トラバースベース61は、矩形の平板状に形成されており、ベッド10の上面のうち、砥石台用ガイドレール11上をZ軸方向に摺動可能に配置されている。砥石台トラバースベース61は、砥石台用Z軸ボールねじ12のナット部材に連結されており、砥石台用Z軸モータ13の駆動により砥石台用ガイドレール11に沿ってトラバース送りされる。この砥石台トラバースベース61の上面には、複合砥石台62が摺動可能な2本のX軸ガイドレール(図示せず)が、
図1の上下方向(X軸方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、砥石台トラバースベース61には、X軸ガイドレールの間に、複合砥石台62を
図1の上下方向に駆動するための、X軸ボールねじ(図示せず)が配置され、このX軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ(図示せず)が配置されている。
【0026】
複合砥石台62は、砥石台本体71と、砥石台旋回機構72と、荒加工用砥石車73と、仕上加工用砥石車74と、砥石回転用モータ75,76とを備えている。砥石台本体71は、砥石台トラバースベース61の上面のうち、X軸ガイドレール上を摺動可能に配置されている。そして、砥石台本体71は、X軸ボールねじのナット部材に連結されており、X軸モータの駆動によりX軸ガイドレールに沿って移動する。つまり、砥石台本体71は、支持装置20に支持されているカムシャフトに対して、X軸方向およびZ軸方向に相対移動可能となる。
【0027】
砥石台本体71は、砥石台旋回機構72により、砥石台トラバースベース61に対して、Y軸回り(
図1の紙面法線軸回り)に旋回可能に支持されている。この砥石台旋回機構72の旋回軸Cは、砥石台トラバースベース61の中央付近に位置している。さらに、砥石台本体71のうち旋回軸C回りの外周側には、荒加工用砥石車73と仕上加工用砥石車74が水平な軸回りに回転可能に設けられている。荒加工用砥石車73は、半径R2の円盤状に形成されており、荒加工を行うのに適した砥石車である。仕上加工用砥石車74は、半径R3(ここではR2と同一)の円盤状に形成されており、仕上加工を行うのに適した砥石車である。仕上加工用砥石車74は、荒加工用砥石車73の位置に対して、旋回軸Cの軸対称となる位置に設けられている。つまり、荒加工用砥石車73と仕上加工用砥石車74は、選択的に使用可能となる。さらに、砥石台本体71には、荒加工用砥石車73および仕上加工用砥石車74のそれぞれを回転可能とする砥石回転用モータ75,76が設けられている。
【0028】
制御装置80は、主軸の回転、複合砥石台62のX軸位置およびZ軸位置、並びに、複合砥石台62の旋回角度をNC制御している。さらに、制御装置80は、荒加工用砥石車73と仕上加工用砥石車74のうち研削を行う方を回転駆動する砥石回転用モータ75,76を回転させる。つまり、制御装置80により、複合砥石台62を砥石台旋回機構72による位置決めを行った後に、研削を行う砥石73,74の何れかを回転させながら、被加工物Wであるカムシャフトに対する複合砥石台62のX軸位置およびZ軸位置を制御することで、被加工物Wであるカムシャフトのカム外周面を研削加工する。
【0029】
このように、複合研削盤1により、荒加工用砥石車73による荒加工工程と仕上加工用砥石車74による仕上加工工程との工程集約が可能となる。これにより、荒加工工程と仕上加工工程との間で、被加工物Wであるカムシャフトを支持装置20から脱着しないため、脱着による被加工物Wであるカムシャフトの取付位相誤差が含まれることがない。従って、取付位相誤差を考慮しなくて済む分、仕上加工用砥石車74による仕上取代を少なくできる。
【0030】
(カムシャフトのカム外周面および砥石車の形状)
次に、
図2を参照して、被加工物Wであるカムシャフトのカム外周面と、荒加工用砥石車73および仕上加工用砥石車74について説明する。カムシャフトのカム外周面は、
図2の実線にて示すように、2カ所の凹状曲面W1,W2を有している。具体的には、カムシャフトのカム外周面は、基準円の両端部とリフト量が最大となる位置とのそれぞれの中間付近に、凹状曲面W1,W2を有している。これらの凹状曲面W1,W2の曲率半径の最小値は、R1である。
【0031】
また、カムシャフトのカム外周面において、荒加工用砥石車73による研削加工を終了した状態の形状Waを、
図2の一点鎖線にて示す。当該一点鎖線にて示す形状Waは、荒加工用砥石車73により研削加工を行うカムプロフィールとなる。つまり、当該一点鎖線にて示す形状Waと実線にて示す最終形状Wとの差分が、仕上加工用砥石車74による仕上取代となる。
【0032】
そして、
図2に示すように、荒加工用砥石車73の半径R2および仕上加工用砥石車74の半径R3は、凹状曲面W1,W2の曲率半径の最小値R1よりも小さく形成されている。従って、荒加工用砥石車73により、
図2の実線にて示すカム外周面の最終仕上形状Wに至るまで研削加工することが可能となる。つまり、荒加工用砥石車73により、究極的には、仕上加工用砥石車74による仕上取代をゼロにすることが可能となる。ただし、実際には、荒加工用砥石車73により仕上取代がゼロになる状態まで、研削加工を行うことはない。
【0033】
上記のことを換言すると、
図2の一点鎖線にて示すように、カム外周面において仕上取代を残した形状Waは、荒加工用砥石車73の形状に依存しない形状とすることができる。つまり、仕上取代を、凹状曲面W1,W2の部分と凹状曲面W1,W2以外の部分とで同一量とすることができる。従って、凹状曲面W1,W2を有するカム形状を研削加工する場合であっても、仕上取代を、荒加工用砥石車73の形状に依存させることなく、最小限に設定することができる。
【0034】
なお、上述したように、ここでは、荒加工用砥石車73の半径R2と仕上加工用砥石車74の半径R3は、同一としている。また、仕上加工用砥石車74の半径R3をカム形状凹状曲面の曲率半径R1より小さくすることで、仕上加工用砥石車74により、確実に最終仕上形状に至るまで研削加工することができる。
【0035】
(仕上取代の設定方法)
次に、仕上加工用砥石車74により研削加工を行う仕上取代の設定方法について説明する。仕上取代は、仕上加工工程において仕上加工用砥石車74により研削加工する部分であり、荒加工工程において荒加工用砥石車73により削り残しとする部分である。
【0036】
仕上取代を残した形状は、上述したように、荒加工用砥石車73の形状に依存しない形状である。従って、仕上取代は、荒加工用砥石車73の形状に関わりなく設定される。さらに、上述したように、被加工物Wであるカムシャフトを支持装置20から脱着しないことにより、被加工物Wの脱着に伴う取付位相誤差による仕上取代を考慮する必要がない。従って、仕上取代は、被加工物Wの脱着に伴う取付位相誤差に関わりなく設定される。そして、仕上取代は、(1)複合研削盤1の熱変位量、(2)荒加工用砥石車73に起因する研削抵抗の変化量、(3)被加工物Wであるカムシャフトのカム外周面のカムプロフィール研削誤差に基づいて設定される。
【0037】
複合研削盤1に熱変位が生じると、荒加工用砥石車73と被加工物Wであるカムシャフトの研削部位との相対距離が変化する。従って、複合研削盤1の熱変位量によって、荒加工用砥石車73による切込量が変化する。そこで、複合研削盤1の熱変位量を考慮して、仕上取代を設定している。
【0038】
また、荒加工用砥石車73に起因する研削抵抗の変化量とは、いわゆる荒加工用砥石車73の切れ味とも言われるものである。砥石車のドレッシングした直後と、ドレッシングしてから多量の研削加工を行った後においては、砥石車の切れ味が変化する。研削条件を一切変更しない状態であっても、砥石車の切れ味が変化することにより、切込量が変化する。そして、砥石車の切れ味の変化は、研削条件を一切変更しない状態において、研削抵抗の変化として現れる。そこで、荒加工用砥石車73に起因する研削抵抗の変化量を考慮して、仕上取代を設定している。
【0039】
カムプロフィール研削誤差については、
図3を参照して説明する。
図3において、実線にて仕上加工用砥石車74による研削加工を終了した状態の最終形状Wを示し、一点鎖線にて荒加工用砥石車73による研削加工を終了した状態の形状Wa1を示す。そして、当該一点鎖線で示す形状Wa1は、荒加工用砥石車73により研削加工を行うカムプロフィールである。カムプロフィールは、被加工物Wであるカムシャフトの回転位相とリフト量で表される。このカムプロフィールは、制御装置80からの指令値である。当該指令値に基づいて、複合研削盤1の各構成を実際に駆動して、被加工物Wであるカムシャフトのカム外周面を研削加工する場合には、理想的なカムプロフィールに対して誤差を生じる。この誤差を、カムプロフィール研削誤差と称する。
【0040】
ここで、研削抵抗によって被加工物Wまたは複合研削盤1の各構成部品が撓み変形する。そして、カムプロフィールは、当該撓み変形がないものとして設定されている。ところで、被加工物Wの研削部位が円筒外周面の場合には、当該撓み変形があることによって、研削加工後の外径が目標の研削径よりも大きな径となってしまう。そのため、円筒研削においては、スパークアウトなどが行われる。
【0041】
しかし、カムシャフトのカム外周面を研削加工する場合には、カムシャフトの回転位相に応じて、荒加工用砥石車73のX方向位置を変動させる必要がある。そのため、カム外周面を研削加工する場合において、当該撓み変形を生じることによって、実際の研削加工後の形状Wa2がカムプロフィールWa1に対してカムプロフィール研削誤差を生じる。このカムプロフィール研削誤差は、カムプロフィールWa1よりも切り込み方向(削りすぎとなる方向)に生じるおそれがある。そこで、カムプロフィール研削誤差を考慮して、仕上取代を設定している。なお、
図3において、実際の研削加工後の形状Wa2は、一部分のみを示しており、図示していない部位は、カムプロフィールWa1と同一であることを意味する。
【0042】
以上説明したように、工程集約により被加工物Wであるカムシャフトの脱着を行わないことによる仕上取代の低減化に加えて、荒加工用砥石車73の形状に関わりなく仕上取代を設定でき、仕上取代の設定方法を上記のようにすることによる仕上取代の低減化を合わせることで、仕上取代の最小限化を図ることができる。その結果、仕上加工用砥石車の寿命を延長でき、仕上加工用砥石車に要するコストを低減することができる。
【0043】
(製造ラインにおける研削システム)
次に、本実施形態における製造ラインにおける研削システムについて
図4を参照して説明する。製造ラインは、被加工物Wであるカムシャフトを製造するラインである。当該製造ラインのうち複合研削盤1の配置される部分のみについて説明する。なお、当該部分を研削システムと称する。
【0044】
被加工物Wであるカムシャフトの製造ラインは、1つの前工程110と1つの後工程120との間に、上述したカム外周面の研削工程(荒加工工程および仕上加工工程)を行う複合研削盤1が2台配置されている。つまり、本実施形態における研削システムは、2台の複合研削盤1により構成されている。ここで、前工程110および後工程120を1つとしたのは、当該前工程110から1つずつの被加工物Wであるカムシャフトが当該研削工程へ搬送され、当該研削工程から1つの当該後工程120へ排出する場合を特定するためである。
【0045】
そして、複数の複合研削盤1,1は、前工程110と後工程120との間において並列に実行する。それぞれの複合研削盤1は、同一の研削加工を行う。具体的には、それぞれの複合研削盤1は、製造ラインの前工程110から搬送された被加工物Wであるカムシャフトに対して荒加工工程と仕上加工工程を順に行い、仕上加工工程の後に被加工物Wであるカムシャフトを製造ラインの後工程120に排出する。
【0046】
つまり、前工程110から一つ目の被加工物Wが一つ搬送されてきた場合には、一方の複合研削盤1が荒加工工程および仕上加工工程を行い、後工程120に排出する。そして、前工程110から次の被加工物Wが搬送されてきた場合には、他方の複合研削盤1が荒加工工程および仕上加工工程を行い、後工程120に排出する。その後は、交互に処理される。このようにすることで、仕上加工用砥石車74に要するコストを低減することができ、製造ラインのサイクルタイムの短縮を図ることも可能となる。この点の詳細は後述する。
【0047】
<参考例1>
参考例1の研削方法および研削盤について、
図5を参照して説明する。参考例1における研削盤は、本実施形態における複合研削盤1に対して、複合砥石台62を単一の砥石車を有する砥石台としたものである。つまり、本実施形態の研削盤は、一つの砥石車を有する。
【0048】
そして、参考例1における製造ラインにおける研削システムは、
図5に示すように、前工程110と後工程120との間に、荒加工用砥石車73を備える第一の研削盤130、仕上加工用砥石車74を備える第二の研削盤140が順に配置されている。第一の研削盤130は、荒加工用砥石車73により荒加工工程のみを行う。一方、第二の研削盤140は、仕上加工用砥石車74により仕上加工工程のみを行う。そして、本実施形態にて説明したように、荒加工用砥石車73の半径はR2であり、仕上加工用砥石車74の半径はR3(=R2)であり、被加工物Wであるカムシャフトのカム外周面における凹状曲面W1,W2の曲率半径の最小値R1よりも小さく形成されている。この場合、本実施形態に比べると、製造ラインのサイクルタイムは長くなる。しかし、荒加工用砥石車の半径を、凹状曲面W1,W2の曲率半径の最小値R1より大きくした場合に比べると、製造ラインのサイクルタイムは短くできる。
【0049】
<参考例2>
上記本実施形態におけるツールコストおよび製造ラインのサイクルタイムについて考察するために、参考例2として、米国特許第5,392,566号明細書に記載されている複合研削盤を適用した場合を例に挙げる。参考例2における製造ラインは、本実施形態について説明した
図4に示す製造ラインと同様の構成とし、上述した複合研削盤1を、当該公報に記載の複合研削盤に置き換えたものである。そして、参考例2としての複合研削盤において、荒加工工程における荒加工用砥石車の半径が、被加工物Wであるカムシャフトのカム外周面における凹状曲面W1,W2の曲率半径の最小値R1より大きくされ、仕上加工工程における仕上加工用砥石車の半径は、曲率半径の最小値R1より小さくされる。
【0050】
<本実施形態と参考例1,2との比較>
本実施形態および参考例1,2について、製造ラインのサイクルタイムおよびツールコストについて検討する。本実施形態、参考例1,2のそれぞれについて、
図6(a)〜
図6(c)に、荒加工工程の取代、研削加工時間、および、仕上加工工程の仕上取代、研削加工時間を示す。ここで、本実施形態および参考例2における各工程の研削加工時間は、それぞれの複合研削盤による研削加工時間を複合研削盤の台数分である2台分で除算した時間が、1つの被加工物Wに対する荒加工工程と仕上加工工程に要する時間となる。これに対して、参考例1における各工程は、それぞれ別の研削盤により行われているため、各工程の研削加工時間は、それぞれ対応する工程の研削加工時間そのものとなる。
【0051】
本実施形態と参考例1とを比較すると、
図6(a)(b)より分かるように、本実施形態の方が、荒加工工程の取代が多く、荒加工工程の研削加工時間が長くなり、仕上加工工程の仕上取代が少なく、かつ、仕上加工工程の研削加工時間が短くなっている。両者を比較すると、本実施形態の方が、参考例1に比べて、荒加工用砥石車73によりできるだけ多く研削加工を行い、仕上加工用砥石車74による仕上取代をできるだけ少なくできていることが分かる。
【0052】
参考例1においては、荒加工工程の第一の研削盤130と仕上加工工程の第二の研削盤140が別々であるため、第一の研削盤130による研削加工時間と、第二の研削盤140による研削加工時間をほぼ一致させるように、加工条件を設定している。この加工条件により、仕上加工工程専用の第二の研削盤140による仕上加工が、本実施形態に比べると過剰となっている。
【0053】
また、参考例1と参考例2とを比較すると、
図6(b)(c)より分かるように、参考例1の方が、荒加工工程の取代が多く、荒加工工程の研削加工時間が長くなり、仕上加工工程の仕上取代が少なく、かつ、仕上加工工程の研削加工時間が短くなっている。両者を比較すると、参考例1の方が、参考例2に比べて、荒加工用砥石車73によりできるだけ多く研削加工を行い、仕上加工用砥石車74による仕上取代をできるだけ少なくできていることが分かる。これは、荒加工用砥石車73の半径R2をカムシャフトのカム外周面の曲率半径の最小値R1より小さくすることで、荒加工用砥石車73により多くの量を研削加工できることによると考えられる。
【0054】
次に、ツールコストについて、
図7を参照して検討する。
図7は、本実施形態と参考例1,2についてのツールコストを示している。ここで、
図7の「コスト単価比」とは、荒加工用砥石車73と仕上加工用砥石車74の取代φ1mm当たりのコスト比である。荒加工用砥石車73と仕上加工用砥石車74のコスト単価比は、砥石車1枚当たりの研削加工可能な被加工物Wの数、砥石車1枚の価格、被加工物Wを1個当たり砥石車の価格、被加工物Wを1個当たりのそれぞれの取代から算出すると、約1:8(=荒加工用砥石車73のコスト単価:仕上加工用砥石車74のコスト単価)となる。
【0055】
図7の下から2段目に記載しているように、本実施形態における仕上加工用砥石車74のコスト比は、参考例1に比べて大幅に低減できており、参考例2に比べると極めて大幅に低減できていることが分かる。一方、本実施形態における荒加工用砥石車73のコスト比は、参考例1,2に比べて増加しているが、仕上加工用砥石車74のコスト比の差分に比べると非常に僅かである。そのため、コスト比合計として見た場合に、本実施形態のコスト比合計は、参考例1のコスト比合計に比べて大幅に低減できており、さらに参考例2のコスト比合計に比べると極めて大幅に低減できていることが分かる。
【0056】
<その他>
上記実施形態において、複合研削盤1を砥石台トラバース型として、砥石支持装置60がトラバース送りをし、支持装置20に支持される被加工物Wをベッド10に対して固定する構成とした。この他に、複合研削盤1の支持装置20を載置するテーブルをトラバース送りする構成とし、複合砥石台62をベッド10に対してX軸方向のみに移動する構成においても同様に本発明を適用できる。
また、上記実施形態において、被加工物Wをカムシャフトとし、研削部位をカム外周面として説明した。この他に、本発明は、被加工物Wの研削部位を円筒状外周面、例えば、クランクシャフトのクランクジャーナルに適用することもできる。