特許第5700161号(P5700161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5700161タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物および空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5700161
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20150326BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20150326BHJP
   C08K 5/32 20060101ALI20150326BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150326BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   C08L7/00
   C08L9/06
   C08K5/32
   C08K3/04
   B60C1/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-102231(P2014-102231)
(22)【出願日】2014年5月16日
【審査請求日】2014年12月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】桐野 美昭
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−241898(JP,A)
【文献】 特開2008−127464(JP,A)
【文献】 特開2013−159717(JP,A)
【文献】 特表2013−543516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/00
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、カルボキシ基を有するニトロン化合物と、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、
前記ジエン系ゴムが天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、前記天然ゴムの含有量と前記スチレンブタジエンゴムの含有量との質量比が50:50〜90:10であり、
前記ニトロン化合物の含有量が、前記ジエン系ゴムと前記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、前記カーボンブラックの含有量が、前記ジエン系ゴムと前記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、70質量部以上であり、前記白色充填剤の含有量が、前記ジエン系ゴムと前記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、20質量部以上であり、前記カーボンブラックと前記白色充填剤との合計の含有量が、前記ジエン系ゴムと前記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、90〜180質量部である、タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、
前記ジエン系ゴムが、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴムとを含み、前記天然ゴムの含有量と前記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量との質量比が50:50〜90:10であり、
前記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された前記ニトロン化合物の量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、前記カーボンブラックの含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、70質量部以上であり、前記白色充填剤の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、20質量部以上であり、前記カーボンブラックと前記白色充填剤との合計の含有量が、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、90〜180質量部である、タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
【請求項3】
前記変性スチレンブタジエンゴムの変性率が、0.02〜4.0mol%である、請求項2に記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。ここで、変性率は、前記スチレンブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、前記ニトロン化合物によって変性された割合(mol%)を表す。
【請求項4】
前記ニトロン化合物が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
【請求項5】
前記スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量が、10質量%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物をビードインシュレーション部に使用した空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物および空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおけるビード部(ビードコア)は、ビードワイヤおよびビードインシュレーションゴムで構成されている。ここでビードインシュレーションゴムはビードワイヤを束ねて一体化する役割を有するため、ワイヤに対して優れた接着性を示すことが求められる。
このようななか、特許文献1には、天然ゴムとスチレンブタジエンゴム(SBR)と特定のエステル化物とカーボンブラックと無機充填剤とを含有するタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物が開示され(特許請求の範囲、実施例)、ビードインシュレーションゴムにしたときにワイヤに対して優れた接着性を示す旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−132011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、タイヤの耐久性の要求水準が高まるなか、ビードインシュレーションゴムのワイヤに対する接着性に対してさらなる向上が求められている。
また、昨今、環境問題などの観点から、燃費の向上が求められ、それに伴い、ビードインシュレーションゴムに対しても低発熱性の向上が求められている。
【0005】
このようななか、本発明者らが特許文献1を参考に天然ゴムとSBRとカーボンブラックと無機充填剤とを含有するゴム組成物を用いてビードコアを作製したところ、将来の耐久性に対する要求レベルの向上を考慮すると、ビードインシュレーションゴムのワイヤに対する接着性をさらに向上させる必要があることが明らかになった。また、得られるビードインシュレーションゴムの低発熱性も昨今要求されるレベルを必ずしも満たすものではないこと明らかになった。
【0006】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、ビードインシュレーションゴムにしたときに低発熱性および接着性に優れるタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物、および、上記ゴム組成物をビードインシュレーション部に使用した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、カルボキシ基を有するニトロン化合物を配合するか、組成物中のSBRを上記ニトロン化合物により変性することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
(1) ジエン系ゴムと、カルボキシ基を有するニトロン化合物と、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、
上記ジエン系ゴムが天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、上記天然ゴムの含有量と上記スチレンブタジエンゴムの含有量との質量比が50:50〜90:10であり、
上記ニトロン化合物の含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、70質量部以上であり、上記白色充填剤の含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、20質量部以上であり、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、90〜180質量部である、タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
(2) ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、
上記ジエン系ゴムが、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴムとを含み、上記天然ゴムの含有量と上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量との質量比が50:50〜90:10であり、
上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、70質量部以上であり、上記白色充填剤の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、20質量部以上であり、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、90〜180質量部である、タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
(3) 上記変性スチレンブタジエンゴムの変性率が、0.02〜4.0mol%である、上記(2)に記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。ここで、変性率は、上記スチレンブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、上記ニトロン化合物によって変性された割合(mol%)を表す。
(4) 上記ニトロン化合物が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
(5) 上記スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量が、10質量%以上である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物をビードインシュレーション部に使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
以下に示すように、本発明によれば、ビードインシュレーションゴムにしたときに低発熱性および接着性に優れるタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物、および、上記ゴム組成物を使用した空気入りタイヤを提供することができる。
なお、以下、ビードインシュレーションゴムにしたときに低発熱性に優れることを、単に低発熱性に優れるとも言う。同様に、ビードインシュレーションゴムにしたときに接着性に優れることを、単に接着性に優れるとも言う。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
図2図2は、ビードコア5の一例の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物、および、本発明のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物をビードインシュレーション部に使用した空気入りタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物]
本発明のタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物(以下、本発明の組成物とも言う)の第1の態様は、ジエン系ゴムと、カルボキシ基を有するニトロン化合物(以下、カルボキシニトロンとも言う)と、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、上記天然ゴムの含有量と上記スチレンブタジエンゴムの含有量との質量比は50:50〜90:10である。ここで、上記ニトロン化合物の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、70質量部以上であり、上記白色充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、20質量部以上であり、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、90〜180質量部である。
【0013】
また、本発明の組成物の第2の態様は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(以下、カルボキシニトロン変性SBRとも言う)とを含み、上記天然ゴムの含有量と上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量との質量比は50:50〜90:10である。ここで、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、70質量部以上であり、上記白色充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、20質量部以上であり、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、90〜180質量部である。
本発明の組成物の第2の態様は、上述した本発明の組成物の第1の態様において、カルボキシニトロンを配合する代わりに、ジエン系ゴム中のSBRをカルボキシニトロンによって変性した態様に相当する。
【0014】
本発明の組成物(第1の態様、第2の態様)は上記構成をとるため、低発熱性および接着性に優れるものと考えらえる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
【0015】
上述のとおり、本発明の組成物は、カルボキシニトロン、または、カルボキシニトロン変性SBRを含有する。そのため、本発明の組成物を用いてビードコアを作製した場合、ビードインシュレーションゴム中のカルボキシニトロン(または変性後のカルボキシニトロン)に由来するカルボキシ基がワイヤと親和し、優れた接着性を示すものと考えられる。さらに、カルボキシニトロン(または変性後のカルボキシニトロン)に由来するカルボキシ基が組成物中のカーボンブラックおよび白色充填剤と相互作用し、カーボンブラックおよび白色充填剤の分散性を高める。結果として、ペイン効果が低下し、優れた低発熱性を示すものと考えられる。すなわち、第1の態様と第2の態様において、同様のメカニズムにより所望の効果が得られているものと考えられる。
【0016】
以下、本発明の組成物の第1の態様および第2の態様それぞれについて詳述する。
【0017】
〔第1の態様〕
上述のとおり、本発明の組成物の第1の態様(以下、単に第1の態様とも言う)は、ジエン系ゴムと、カルボキシ基を有するニトロン化合物と、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含む。
以下、第1の態様に含有される各成分について詳述する。
【0018】
<ジエン系ゴム>
第1の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含む。
上記ジエン系ゴムは天然ゴムおよびスチレンブタジエンゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0019】
(天然ゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムは特に制限されない。
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は特に制限されないが、50〜90質量%であることが好ましい。
【0020】
(スチレンブタジエンゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれるスチレンブタジエンゴムは特に制限されない。
上記スチレンブタジエンゴムの製造に使用されるスチレン単量体としては特に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、および4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらのスチレン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記スチレンブタジエンゴムの製造に使用されるブタジエン単量体としては特に制限されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、またはイソプレンを用いることが好ましく、1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。これらのブタジエン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量は特に制限されないが、10質量%以上であることが好ましい。なかでも、15〜30質量%であることがより好ましい。なお、スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量とは、スチレンブタジエンゴム中のスチレン単量体単位の割合(質量%)を表す。
【0022】
上記スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、取扱い性の観点から、100,000〜1,500,000であることが好ましく、300,000〜1,300,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定したものとする。
【0023】
上記ジエン系ゴム中の上記スチレンブタジエンゴムの含有量は特に制限されないが、10〜50質量%であることが好ましい。
【0024】
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとの合計の含有量は特に制限されないが、90質量%以上であることが好ましい。
【0025】
上記ジエン系ゴム中、上記天然ゴムの含有量と上記スチレンブタジエンゴムの含有量との質量比は50:50〜90:10である。なかでも、60:40〜80:20であることが好ましい。上記天然ゴムの含有量と上記スチレンブタジエンゴムの含有量との質量比が50:50〜90:10から外れると低発熱性および接着性が不十分となる。
【0026】
<カルボキシ基を有するニトロン化合物>
上述のとおり、第1の態様はカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)を含有する。
カルボキシニトロンは少なくとも1個のカルボキシ基(−COOH)を有するニトロンであれば特に限定されない。ここで、ニトロンとは、下記式(1)で表されるニトロン基を有する化合物を指す。
【0027】
【化1】
【0028】
上記式(1)中、*は結合位置を表す。
【0029】
カルボキシニトロンは、下記式(b)で表される化合物であることが好ましい。
【0030】
【化2】
【0031】
式(b)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。
mが示す整数としては、カルボキシニトロンを合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
nが示す整数としては、カルボキシニトロンを合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
また、mとnとの合計(m+n)は、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0032】
このような式(b)で表されるカルボキシニトロンとしては特に制限されないが、下記式(b1)で表されるN−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b2)で表されるN−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b3)で表されるN−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b4)で表されるN−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、下記式(b5)で表されるN−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、および、下記式(b6)で表されるN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物であることが好ましい。
【0033】
【化3】
【0034】
カルボキシニトロンの合成方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ヒドロキシアミノ基(−NHOH)を有する化合物と、アルデヒド基(−CHO)およびカルボキシ基を有する化合物とを、ヒドロキシアミノ基とアルデヒド基とのモル比(−NHOH/−CHO)が1.0〜1.5となる量で、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等)下で、室温で1〜24時間撹拌することにより、両基が反応し、カルボキシ基とニトロン基とを有する化合物(カルボキシニトロン)を与える。
【0035】
第1の態様において、カルボキシ基を有するニトロン化合物の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して0.1〜10質量部である。なかでも、0.5〜5質量部であることが好ましい。カルボキシ基を有するニトロン化合物の含有量が上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲から外れると低発熱性および/または接着性が不十分となる。
【0036】
<カーボンブラック>
第1の態様に含有されるカーボンブラックは、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に制限されないが、20〜60[×10/kg]であることが好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0037】
第1の態様において、カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して70質量部以上である。なかでも、80〜150質量部であることが好ましい。カーボンブラックの含有量が上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して70質量部に満たないとコンパウンド(加硫後の組成物)の強度が不十分となる。
【0038】
<白色充填剤>
第1の態様に含有される白色充填剤は特に制限されないが、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム等が挙げられる。白色充填剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
白色充填剤はシリカ以外であることが好ましく、クレーであることが好ましい。
【0039】
第1の態様において、白色充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して20質量部以上である。なかでも、40〜100質量部であることが好ましい。白色充填剤の含有量が上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して20質量部に満たないとコンパウンド(加硫後の組成物)の強度が不十分となる。
【0040】
第1の態様において、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、90〜180質量部である。なかでも、100〜160質量部であることが好ましい。上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量が上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して90質量部に満たないとコンパウンド(加硫後の組成物)の強度が不十分となる。また、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量が上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して180質量部を超えるとコンパウンド(加硫後の組成物)の低発熱性が不十分となる。
【0041】
〔第2の態様〕
上述のとおり、本発明の組成物の第2の態様(以下、単に第2の態様とも言う)は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有する。ここで、ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)とを含む。
上述のとおり、第2の態様は、上述した第1の態様において、カルボキシニトロンを配合する代わりに、ジエン系ゴム中のSBRをカルボキシニトロンによって変性した態様に相当する。
【0042】
<ジエン系ゴム>
上述のとおり、第2の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)とを含む。
上記ジエン系ゴムは天然ゴムおよびカルボキシニトロン変性SBR以外のゴム成分を含んでいてもよい。そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0043】
(天然ゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムは特に制限されない。
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は特に制限されないが、50〜90質量%以上であることが好ましい。
【0044】
(変性スチレンブタジエンゴム)
上述のとおり、上記ジエン系ゴムには、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)が含まれる。
カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されるスチレンブタジエンゴムの具体例および好適な態様は上述した第1の態様に含有されるスチレンブタジエンゴムと同じである。また、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されるカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)の定義、具体例および好適な態様は上述した第1の態様に含有されるカルボキシニトロンと同じである。
【0045】
スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してニトロン化合物を反応させることで変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)を製造する方法は特に制限されないが、例えば、上記スチレンブタジエンゴムと上記カルボキシニトロンとを、100〜200℃で1〜30分間混合する方法が挙げられる。
このとき、下記式(4)または下記式(5)に示すように、上記スチレンブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する二重結合と上記カルボキシニトロンが有するニトロン基との間で、環化付加反応が起こり、五員環を与える。なお、下記式(4)は1,4−結合とニトロン基との反応を表し、下記式(5)は1,2−ビニル結合とニトロン基との反応を表す。また、式(4)および(5)はブタジエンが1,3−ブタジエンの場合の反応を表すものであるが、ブタジエンが1,3−ブタジエン以外の場合も同様の反応により五員環を与える。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
上記ジエン系ゴム100質量部に対する、上記変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)の合成に使用された上記ニトロン化合物(カルボキシニトロン)の量(以下、CPN量換算値とも言う)は、0.1〜10質量部である。なかでも、0.5〜5質量部であることが好ましい。CPN量換算値が0.1〜10質量部の範囲から外れると低発熱性および/または接着性が不十分となる。
なお、例えば、100質量部のジエン系ゴム中に40質量部のカルボキシニトロン変性SBRが含まれ、上記カルボキシニトロン変性SBRが100質量部のSBRと2質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、40質量部のカルボキシニトロン変性SBRのうち、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたカルボキシニトロンは0.8質量部(=40×(2/102))であるので、CPN量換算値は0.8質量部である。
カルボキシニトロン変性SBRの合成において、SBR100質量部に対するカルボキシニトロンの量は特に制限されないが、2〜20質量部であることが好ましく、5〜10質量部であることがより好ましい。
【0049】
カルボキシニトロン変性SBRの変性率は特に制限されないが、0.02〜4.0mol%であることが好ましく、0.10〜2.00mol%であることがより好ましい。なかでも、0.30mol%以上であることが好ましく、0.40mol%以上であることがより好ましい。
ここで、変性率とは、上記スチレンブタジエンゴムが有するブタジエン(ブタジエン単位)に由来する全ての二重結合のうち、カルボキシニトロンによって変性された割合(mol%)を表し、例えばブタジエンが1,3−ブタジエンであれば、カルボキシニトロンによる変性によって上記式(4)または上記式(5)の構造が形成された割合(mol%)を表す。変性率は、例えば、変性前後のSBRのNMR測定を行うことで求めることができる。
なお、本明細書において、変性率が100mol%のカルボキシニトロン変性SBRもジエン系ゴムに該当するものとする。
【0050】
上記ジエン系ゴム中のカルボキシニトロン変性SBRの含有量は特に制限されないが、10〜50質量%以上であることが好ましい。
【0051】
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムとカルボキシニトロン変性SBRとの合計の含有量は特に制限されないが、90質量%以上であることが好ましい。
【0052】
上記天然ゴムの含有量と、上記変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)の合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量との質量比は、50:50〜90:10である。なかでも、60:40〜80:20であることが好ましい。上記天然ゴムの含有量と上記カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量との質量比が50:50〜90:10から外れると低発熱性および/または接着性が不十分となる。
なお、例えば、ジエン系ゴム中に60質量部の天然ゴムと40質量部のカルボキシニトロン変性SBRが含まれ、上記カルボキシニトロン変性SBRが100質量部のSBRと2質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、40質量部のカルボキシニトロン変性SBRのうち、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムは39.2質量部(=40×(100/102))であるので、天然ゴムの含有量とカルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量との質量比は60:39.2である。
【0053】
<カーボンブラック>
第2の態様に含有されるカーボンブラックは特に限定されず、その具体例は上述した第1の態様に含有されるカーボンブラックと同じである。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は特に制限されず、その好適な態様は上述した第1の態様に含有されるカーボンブラックと同じである。
【0054】
第2の態様において、カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、70質量部以上である。なかでも、80〜150質量部であることが好ましい。カーボンブラックの含有量が上記ジエン系ゴム100質量部に対して70質量部に満たないとコンパウンド(加硫後の組成物)の強度が不十分となる。
【0055】
<白色充填剤>
第2の態様に含有される白色充填剤は特に限定されず、その具体例および好適な態様は上述した第1の態様に含有される白色充填剤と同じである。
【0056】
第2の態様において、白色充填剤の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、20質量部以上である。なかでも、40〜100質量部であることが好ましい。白色充填剤の含有量が上記ジエン系ゴム100質量部に対して20質量部に満たないとコンパウンド(加硫後の組成物)の強度が不十分となる。
【0057】
第2の態様において、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、90〜180質量部である。なかでも、100〜160質量部であることが好ましい。上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量が上記ジエン系ゴム100質量部に対して90質量部に満たないとコンパウンド(加硫後の組成物)の強度が不十分となる。また、上記カーボンブラックと上記白色充填剤との合計の含有量が上記ジエン系ゴム100質量部に対して180質量部を超えるとコンパウンド(加硫後の組成物)の低発熱性が不十分となる。
【0058】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、接着用樹脂、素練り促進剤、老化防止剤、ワックス、加工助剤、オイル、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂、粘着付与剤樹脂(例えば、日本ゼオン社製クイントン100シリーズ)、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0059】
〔タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物の製造方法〕
本発明の組成物は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄または加硫促進剤を含有する場合は、硫黄および加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは60〜120℃)で混合し、冷却してから、硫黄または加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0060】
〔用途〕
本発明の組成物は空気入りタイヤのビードインシュレーション部に好適に使用される。すなわち、空気入りタイヤのビードインシュレーションゴムの製造に好適に用いられる。
【0061】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、本発明の組成物をビードインシュレーション部に使用した空気入りタイヤである。すなわち、本発明の組成物をビードインシュレーションゴムに使用した空気入りタイヤである。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明は添付の図面に限定されない。
【0062】
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3からなり、ビード部1、1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。トレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。
【0063】
図2は、ビードコア5の一例の拡大断面図である。
ビードコア5はビードワイヤWとビードワイヤWを被覆するビードインシュレーションゴムGとから構成されている。このビードコア5は複数本のビードワイヤWを連続的に巻回して成形されたものである。また、ビードコア5の周囲をビードカバーゴムCが被覆している。
上記ビードワイヤWは特に制限されない。例えば従来公知のものが挙げられる。
上記ビードインシュレーションゴムGは上述した本発明の組成物から形成されている。
【0064】
本発明の空気入りタイヤは、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
<カルボキシニトロンの合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(b−1)で表されるテレフタルアルデヒド酸(30.0g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(a−1)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(c−1)で表されるカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)を得た(41.7g)。収率は86%であった。
【0067】
【化6】
【0068】
<ピリジルニトロンの合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(b−2)で表される2−ピリジンカルボキシアルデヒド(21.4g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(a−2)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(c−2)で表されるニトロン化合物(ピリジルニトロン)を得た(39.0g)。収率は90%であった。得られたピリジルニトロンはカルボキシ基を有さないニトロン化合物である。
【0069】
【化7】
【0070】
<カルボキシニトロン変性SBR(変性SBR1)の合成>
120℃のバンバリーミキサーにSBR(日本ゼオン社製NIPOL 1502)を投入して2分間素練りを行った。その後、上述のとおり合成したカルボキシニトロンをSBR100質量部に対して2質量部投入し、160℃で5分間混合することで、SBRをカルボキシニトロンによって変性した。得られたカルボキシニトロン変性SBRを変性SBR1とする。
変性前後のSBRについてH−NMRスペクトルを測定し(CDCl、400MHz、TMS)、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピークの面積から変性率を求めたところ、変性SBR1の変性率は0.44mol%であった。
【0071】
<カルボキシニトロン変性SBR(変性SBR2)の合成>
カルボキシニトロンの配合量を2質量部から10質量部に変更し、混合温度を160℃から170℃に変更し、混合時間を5分間から2.5分間に変更した以外は、変性SBR1と同様の手順に従って、SBRをカルボキシニトロンによって変性した。得られたカルボキシニトロン変性SBRを変性SBR2とする。
変性前後のSBRについてH−NMRスペクトルを測定し(CDCl、400MHz、TMS)、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピークの面積から変性率を求めたところ、変性SBR2の変性率は1.38mol%であった。
【0072】
<ピリジルニトロン変性SBR(比較変性SBR)の合成>
カルボキシニトロンを配合する代わりに上述のとおり合成したピリジルニトロンを配合した以外は、変性SBR1と同様の手順に従って、SBRをピリジルニトロンによって変性した。得られた、ピリジルニトロンによって変性されたSBRを比較変性SBRとする。
変性前後のSBRについてH−NMRスペクトルを測定し(CDCl、400MHz、TMS)、ピリジル基に由来するピーク面積から変性率(SBRが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、ピリジルニトロンによって変性された割合)を求めたところ、比較変性SBRの変性率は0.48mol%であった。
【0073】
<タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物の調製>
下記表1に示される成分を、下記表1に示される割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記表1に示される成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、80℃のバンバリーミキサーで5分間混合した。次に、ロールを用いて、硫黄および加硫促進剤を混合し、各タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物(以下、「タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物」を単に「ゴム組成物」とも言う)を得た。
表1中、変性SBR1については、上段が変性SBR1の質量部であり、下段(カッコ内)は、上段に示される質量部の変性SBR1のうち、変性SBR1の合成に使用されたSBRの質量部を表す。変性SBR2および比較変性SBRについても同様である。
なお、実施例1および2は上述した第2の態様に相当し、実施例3は上述した第1の態様に相当する。
【0074】
<加硫ゴムシートの作製>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で15分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0075】
<発熱性の評価>
得られた各加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)により、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で、損失正接(tanδ(60℃))を測定した。結果を表1に示す(発熱性)。結果は、比較例1のtanδ(60℃)を100とする指数で表した。値が小さいほど、低発熱性に優れる。
【0076】
<接着性の評価>
得られた各ゴム組成物について、ASTM D2229に準拠し、ワイヤ引抜き試験を行った。
具体的には、得られたゴム組成物および錫鍍金処理ビードワイヤ(φ1.55mm)を用いて、引抜きサンプルを作製した(加硫条件:160℃、15分間)。得られた引抜きサンプルについてワイヤ引抜き試験を行い、引抜いたワイヤへのゴム付着率を目視で点数付けした(0〜100%)。結果を表1に示す(接着性)。結果は比較例1のゴム付着率を100とする指数で表した。値が大きいほど、接着性に優れる。
【0077】
なお、表1中、ニトロン量換算値は、実施例1および2については、上述したCPN量換算値を表し、比較例2については、ジエン系ゴム100質量部に対する、比較変性SBRの合成に使用されたピリジルニトロンの質量部を表す。
また、表1中、変性率は、上述した変性率を表す。ただし、ピリジルニトロンを使用した例については、SBRが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、ピリジルニトロンによって変性された割合(mol%)を表す。
【0078】
【表1】
【0079】
上記表1に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・天然ゴム:TSR20
・SBR:NIPOL 1502(スチレン単位含有量:23.5質量%、Mw:45万、日本ゼオン社製)
・変性SBR1:上述のとおり合成した変性SBR1
・変性SBR2:上述のとおり合成した変性SBR2
・比較変性SBR:上述のとおり合成した比較変性SBR
・カルボキシニトロン:上述のとおり合成したカルボキシニトロン
・カーボンブラック:ニテロン#GN(NSA:32[×10/kg]、新日化カーボン)
・クレー:カルタポY−K(山陽クレー工業社製)
・亜鉛華:亜鉛華3号(正同化学社製)
・ステアリン酸:ステアリン酸YR(日油社製)
・樹脂:クイントンA100(日本ゼオン社製)
・オイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・加硫促進剤:ノクセラー CZ−G(大内新興化学工業社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
【0080】
表1から分かるように、カルボキシニトロンおよびカルボキシニトロン変性SBRのいずれも含有しない比較例1と比較して、カルボキシニトロンを含有する実施例3やカルボキシニトロン変性SBRを含有する実施例1および2は低発熱性および接着性に優れていた。なかでも、カルボキシニトロン変性SBRを含有する実施例1および2は低発熱性および接着性により優れていた。
カルボキシニトロンおよびカルボキシニトロン変性SBRのいずれも含有せず、カルボキシニトロン変性SBR以外の変性SBR(ピリジルニトロンによって変性されたSBR)を含有する比較例2は接着性が不十分であった。
【符号の説明】
【0081】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトクッション
9 インナーライナー
10 タイゴム
G ビードインシュレーションゴム
W ビードワイヤ
C ビードカバーゴム
【要約】
【課題】低発熱性および接着性に優れるタイヤビードインシュレーション用ゴム組成物、および、上記ゴム組成物を使用した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムと、カルボキシ基を有するニトロン化合物と、カーボンブラックと、白色充填剤とを含有し、ジエン系ゴムが天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、天然ゴムの含有量とスチレンブタジエンゴムの含有量との質量比が50:50〜90:10であり、上記ニトロン化合物の含有量がジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して0.1〜10質量部であり、カーボンブラックの含有量が上記合計100質量部に対して70質量部以上であり、白色充填剤の含有量が上記合計100質量部に対して20質量部以上であり、カーボンブラックと白色充填剤との合計の含有量が上記合計100質量部に対して90〜180質量部である、タイヤビードインシュレーション用ゴム組成物。
【選択図】なし
図1
図2