(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ジエン系ゴムと前記ニトロン化合物との合計中の前記スチレンブタジエンゴムおよび前記ブタジエンゴムの含有量が10〜60質量%である、請求項1に記載の繊維コード被覆用ゴム組成物。
前記ジエン系ゴム中の前記変性ゴムの合成に使用された前記スチレンブタジエンゴムおよび前記ブタジエンゴムの量が10〜60質量%である、請求項3に記載の繊維コード被覆用ゴム組成物。
前記ニトロン化合物が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維コード被覆用ゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の繊維コード被覆用ゴム組成物、および、本発明の空気入りタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[繊維コード被覆用ゴム組成物]
本発明の繊維コード被覆用ゴム組成物(以下、「本発明のゴム組成物」ともいう。)の第1の態様は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物(以下、「カルボキシニトロン」ともいう。)とを含有する。
ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムとを含み、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記天然ゴムの含有量は65質量%以下である。また、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記スチレンブタジエンゴムおよび上記ブタジエンゴムの含有量は10〜60質量%であるのが好ましい。
また、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して40〜67質量部である。
また、上記ニトロン化合物の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して0.1〜10質量部である。
【0013】
同様に、本発明のゴム組成物の第2の態様は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有する。
ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性ゴム(以下、「カルボキシニトロン変性ゴム」ともいう。)とを含み、上記ジエン系ゴム中の上記天然ゴムの含有量は65質量%以下である。また、上記ジエン系ゴム中の上記変性ゴムの合成に使用された上記スチレンブタジエンゴムおよび上記ブタジエンゴムの量が10〜60質量%であるのが好ましい。
また、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して40〜67質量部である。
また、上記変性ゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部である。
このように、本発明のゴム組成物の第2の態様は、上述した本発明のゴム組成物の第1の態様において、カルボキシニトロンを配合する代わりに、ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムをカルボキシニトロンによって変性した態様に相当するものである。
【0014】
本発明のゴム組成物(第1の態様および第2の態様)は上記構成をとるため、タイヤにしたときの低発熱性に優れ、カーカスコードとの接着性にも優れると考えられる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
【0015】
上述のとおり、本発明のゴム組成物は、カルボキシニトロン、または、カルボキシニトロン変性ゴムを含有する。
ここで、カルボキシニトロン(または変性後のカルボキシニトロン)に由来するカルボキシ基が繊維コードと親和し、優れた接着性を示すものと考えられる。
また、このカルボキシ基が組成物中のカーボンブラックと相互作用するため、カーボンブラックの分散性が向上する。結果として、ペイン効果が低下し、優れた低発熱性を示すものと考えられる。
すなわち、第1の態様と第2の態様は同様のメカニズムにより所望の効果を発現するものと考えられる。
以下、本発明のゴム組成物の第1の態様および第2の態様それぞれについて詳述する。
【0016】
〔第1の態様〕
上述のとおり、本発明のゴム組成物の第1の態様(以下、単に「第1の態様」ともいう。)は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)とを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは天然ゴムとスチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムとを含む。
以下、第1の態様に含有される各成分について詳述する。
【0017】
<ジエン系ゴム>
第1の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムとを含む。
上記ジエン系ゴムは、天然ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。
そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0018】
(天然ゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムは特に制限されない。
上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量は、65質量%以下であれば特に限定されないが、耐候性が向上し、接着性がより良好となる観点から、40〜65質量%であるのが好ましく、45〜60質量%であるのがより好ましい。
なお、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量とは、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計を100質量%としたときの天然ゴムの含有量(質量%)であり、例えば、組成物が、天然ゴム50質量部、スチレンブタジエンゴム34質量部およびブタジエンゴム15質量部からなるジエン系ゴムとカルボキシニトロン1質量部とを含有する場合、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量は50質量%(=50/(50+34+15+1)×100)となる。
【0019】
(スチレンブタジエンゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれるスチレンブタジエンゴムは特に制限されない。
上記スチレンブタジエンゴムの製造に使用されるスチレン単量体としては特に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、および4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらのスチレン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記スチレンブタジエンゴムの製造に使用されるブタジエン単量体としては特に制限されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、またはイソプレンを用いることが好ましく、1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。これらのブタジエン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量は特に制限されないが、10質量%以上であることが好ましい。なかでも、15〜30質量%であることがより好ましい。なお、スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量とは、スチレンブタジエンゴム中のスチレン単量体単位の割合(質量%)を表す。
【0021】
上記スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、取扱い性の観点から、100,000〜1,500,000であることが好ましく、300,000〜1,300,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定したものとする。
【0022】
(ブタジエンゴム)
上記スチレンブタジエンゴムに代えて、または、上記スチレンブタジエンゴムとともに上記ジエン系ゴムに含まれるブタジエンゴムは特に制限されない。
上記ブタジエンゴムとしては、例えば、四ハロゲン化チタン−トリアルキルアルミニウム系、ジエチルアルミニウムクロライド−コバルト系、トリアルキルアルミニウム−三弗化ホウ素−ニッケル系、ジエチルアルミニウムクロライド−ニッケル系等のチーグラー系触媒;トリエチルアルミニウム−有機酸ネオジウム−ルイス酸系等のランタノイド系希土類金属触媒;溶液重合スチレンブタジエンゴムと同様に有機アルカリ金属化合物;を用いて重合された、市販のブタジエンゴムを用いることができる。
また、上記ブタジエンゴムは、その一部が多官能型変性剤、例えば、四塩化錫、四塩化珪素、エポキシ基を分子内に有するアルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシランのような変性剤を用いることにより分岐構造または極性官能基を有していてもよい。
【0023】
上記ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、上記スチレンブタジエンゴムと同様、取扱い性の観点から、100,000〜1,500,000であることが好ましく、300,000〜1,300,000であることがより好ましい。
【0024】
上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計中のスチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの含有量は、10〜60質量%であるのが好ましく、35〜60質量%であるのがより好ましく、40〜55質量%であるのが更に好ましい。
なお、「スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの含有量」とは、これらのゴムをいずれも含む場合は合計の含有量をいい、いずれか一方のみ含む場合はいずれか一方の含有量をいう。
【0025】
<カーボンブラック>
第1の態様に含有されるカーボンブラックは、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は特に制限されないが、20〜60m
2/gであることが好ましく、30〜50m
2/gであることがより好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N
2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0026】
第1の態様において、カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計100質量部に対して40〜67質量部であり、45〜65質量部であるのが好ましい。
【0027】
<カルボキシ基を有するニトロン化合物>
上述のとおり、第1の態様はカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)を含有する。
カルボキシニトロンは少なくとも1個のカルボキシ基(−COOH)を有するニトロンであれば特に限定されない。ここで、ニトロンとは、下記式(1)で表されるニトロン基を有する化合物を指す。
【0029】
上記式(1)中、*は結合位置を表す。
【0030】
カルボキシニトロンは、下記式(b)で表される化合物であることが好ましい。
【0032】
式(b)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。
mが示す整数としては、カルボキシニトロンを合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
nが示す整数としては、カルボキシニトロンを合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
また、mとnとの合計(m+n)は、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0033】
このような式(b)で表されるカルボキシニトロンとしては特に制限されないが、下記式(b1)で表されるN−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b2)で表されるN−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b3)で表されるN−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b4)で表されるN−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、下記式(b5)で表されるN−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、および、下記式(b6)で表されるN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物であることが好ましい。
【0035】
カルボキシニトロンの合成方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ヒドロキシアミノ基(−NHOH)を有する化合物と、アルデヒド基(−CHO)およびカルボキシ基を有する化合物とを、ヒドロキシアミノ基とアルデヒド基とのモル比(−NHOH/−CHO)が1.0〜1.5となる量で、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等)下で、室温で1〜24時間撹拌することにより、両基が反応し、カルボキシ基とニトロン基とを有する化合物(カルボキシニトロン)を与える。
【0036】
第1の態様において、カルボキシニトロンの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記カルボキシニトロンとの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部である。カルボキシニトロンの含有量が上記範囲から外れると、低発熱性または接着性が不十分となる。
カルボキシニトロンの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記カルボキシニトロンとの合計100質量部に対して、0.5〜4質量部であることが好ましい。
【0037】
〔第2の態様〕
上述のとおり、本発明のゴム組成物の第2の態様(以下、単に「第2の態様」ともいう。)は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有する。
ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性ゴム(カルボキシニトロン変性ゴム)とを含む。
また、第2の態様において含有するカーボンブラックの具体例および好適な態様は、上述した第1の態様に含有されるカーボンブラックと同じである。
【0038】
<ジエン系ゴム>
上述のとおり、第2の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性ゴム(カルボキシニトロン変性ゴム)とを含む。
上記ジエン系ゴムは、天然ゴムおよびカルボキシニトロン変性ゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0039】
(天然ゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムは特に制限されない。
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は、65質量%以下であれば特に限定されないが、耐候性が向上し、接着性がより良好となる観点から、40〜65質量%であるのが好ましく、45〜60質量%であるのがより好ましい。
【0040】
(変性ゴム)
上述のとおり、上記ジエン系ゴムには、スチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性ゴム(カルボキシニトロン変性ゴム)が含まれる。
ここで、カルボキシニトロン変性ゴムの合成に使用されるスチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの具体例および好適な態様は、それぞれ、上述した第1の態様に含有されるスチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムと同じである。
また、カルボキシニトロン変性ゴムの合成に使用されるカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)の定義、具体例および好適な態様は上述した第1の態様に含有されるカルボキシニトロンと同じである。
【0041】
スチレンブタジエンゴムおよび/またはブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシニトロンを反応させることで変性ゴム(カルボキシニトロン変性ゴム)を製造する方法は特に制限されないが、例えば、上記スチレンブタジエンゴムおよび/または上記ブタジエンゴムと上記カルボキシニトロンとを、100〜200℃で1〜30分間混合する方法が挙げられる。
このとき、下記式(4−1)または下記式(4−2)に示すように、上記スチレンブタジエンゴムまたは上記ブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する二重結合と上記カルボキシニトロンが有するニトロン基との間で、環化付加反応が起こり、五員環を与える。なお、下記式(4−1)は1,4−結合とニトロン基との反応を表し、下記式(4−2)は1,2−ビニル結合とニトロン基との反応を表す。また、式(4−1)および(4−2)はブタジエンが1,3−ブタジエンの場合の反応を表すものであるが、ブタジエンが1,3−ブタジエン以外の場合も同様の反応により五員環を与える。
【0044】
上記ジエン系ゴム100質量部に対する、上記変性ゴム(カルボキシニトロン変性ゴム)の合成に使用された上記ニトロン化合物(カルボキシニトロン)の量(以下、「CPN量換算値」ともいう。)は、0.1〜10質量部である。なかでも、0.5〜4質量部であることが好ましい。CPN量換算値が0.1〜10質量部の範囲から外れると、低発熱性または接着性が不十分となる。
なお、例えば、100質量部のジエン系ゴム中に30質量部のカルボキシニトロン変性ゴムが含まれ、上記カルボキシニトロン変性ゴムが100質量部のスチレンブタジエンゴムと1質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、30質量部のカルボキシニトロン変性ゴムのうち、カルボキシニトロン変性ゴムの合成に使用されたカルボキシニトロンは0.30質量部(=30×(1/101))であるので、CPN量換算値は0.30質量部である。
【0045】
カルボキシニトロン変性ゴムの合成において、スチレンブタジエンゴムまたはブタジエンゴム100質量部に対するカルボキシニトロンの量は特に制限されないが、0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。
【0046】
カルボキシニトロン変性ゴムの変性率は特に制限されないが、0.02〜4.0mol%であることが好ましく、0.10〜2.0mol%であることがより好ましい。
ここで、変性率とは、上記スチレンブタジエンゴムまたは上記ブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、カルボキシニトロンによって変性された割合(mol%)を表し、例えばブタジエンが1,3−ブタジエンであれば、カルボキシニトロンによる変性によって上記式(4−1)または上記式(4−2)の構造が形成された割合(mol%)を表す。変性率は、例えば、変性前後のスチレンブタジエンゴムまたはブタジエンゴムのNMR測定を行うことで求めることができる。
なお、本明細書において、変性率が100mol%のカルボキシニトロン変性ゴムもジエン系ゴムに該当するものとする。
【0047】
上記ジエン系ゴム中のカルボキシニトロン変性ゴムの含有量は特に制限されないが、10〜60質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
【0048】
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性ゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの量は、10〜60質量%であるのが好ましく、35〜60質量%であるのがより好ましく、40〜55質量%であるのが更に好ましい。
なお、「スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの量」とは、これらのゴムをいずれも含む場合は合計量をいい、いずれか一方のみ含む場合はいずれか一方の量をいう。
なお、例えば、ジエン系ゴムが天然ゴム50質量部と未変性のスチレンブタジエンゴム35質量部とカルボキシニトロン変性ゴム15質量部からなり、カルボキシニトロン変性ゴムが100質量部のスチレンブタジエンゴムと1質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、15質量部のカルボキシニトロン変性ゴムのうち、カルボキシニトロン変性ゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムは14.85質量部(=15×(100/101))であるので、ジエン系ゴムに対する、変性ゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量は、14.85質量%である。
【0049】
〔任意成分〕
本発明のゴム組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、接着用樹脂、素練り促進剤、老化防止剤、ワックス、加工助剤、プロセスオイル、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂、粘着付与剤樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0050】
〔繊維コード被覆用ゴム組成物の製造方法〕
本発明のゴム組成物は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明のゴム組成物が硫黄または加硫促進剤を含有する場合は、硫黄および加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは60〜120℃)で混合し、冷却してから、硫黄または加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0051】
〔用途〕
本発明のゴム組成物は空気入りタイヤの繊維コード(特にカーカスコード)を被覆するゴム組成物として好適に使用される。
【0052】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物を用いて被覆した繊維コード(特にカーカスコード)を有するタイヤである。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0053】
図1において、符号1はビード部を表し、符号2はサイドウォール部を表し、符号3はタイヤトレッド部を表す。
また、左右一対のビード部1間においては、繊維コードが埋設されたカーカスコード4が装架されており、このカーカスコード4の端部はビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
また、タイヤトレッド3においては、カーカスコード4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
また、ビード部1においては、リムに接する部分にリムクッション8が配置されている。
【0054】
本発明の空気入りタイヤは、例えば、従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
<カルボキシニトロンの合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(b−1)で表されるテレフタルアルデヒド酸(30.0g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(a−1)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(c−1)で表されるカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)を得た(41.7g)。収率は86%であった。
【化6】
【0057】
<ジフェニルニトロンの合成>
300mLナスフラスコに、下記式(6)で表されるベンズアルデヒド(42.45g)およびエタノール(10mL)を入れ、ここに、下記式(5)で表されるフェニルヒドロキシアミン(43.65g)をエタノール(70mL)に溶かしたものを加え、室温で22時間撹拌した。撹拌終了後、エタノールからの再結晶により、下記式(7)で表されるカルボキシ基を有さないニトロン化合物(ジフェニルニトロン)を白色の結晶として得た(65.40g)。収率は83%であった。
【0058】
【化7】
【0059】
<カルボキシニトロン変性SBR(変性SBR)の合成>
120℃のバンバリーミキサーにSBR(Nipol 1502、日本ゼオン社製)を投入して2分間素練りを行った。
その後、上述のとおり合成したカルボキシニトロンをSBR100質量部に対して1質量部投入し、150℃で6分間混合することで、SBRをカルボキシニトロンによって変性した。得られたカルボキシニトロン変性SBRを「変性SBR」とする。
変性前後のSBRについて
1H−NMRスペクトルを測定し(CDCl
3、400MHz、TMS)、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピークの面積から変性率を求めたところ、変性SBR1の変性率は0.19mol%であった。
【0060】
<カルボキシニトロン変性BR(変性BR)の合成>
120℃のバンバリーミキサーにブタジエンゴム(Nipol BR1220、日本ゼオン)を投入して2分間素練りを行った。
その後、上述のとおり合成したカルボキシニトロンをBR100質量部に対して1質量部投入し、150℃で5分間混合することで、BRをカルボキシニトロンによって変性した。得られたカルボキシニトロン変性BRを「変性BR」とする。
変性前後のBRについて
1H−NMRスペクトルを測定し(CDCl
3、400MHz、TMS)、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピークの面積から変性率を求めたところ、変性BRの変性率は0.19mol%であった。
【0061】
<ジフェニルニトロン変性SBR(比較変性SBR)の合成>
カルボキシニトロンを使用する代わりに上述のとおり合成したジフェニルニトロンを使用した以外は、変性SBR1と同様の手順に従って、SBRをジフェニルニトロンによって変性した。得られたジフェニルニトロン変性SBRを「比較変性SBR」とする。
変性前後のSBRについて
1H−NMRスペクトルを測定し(CDCl
3、400MHz、TMS)、フェニル基に由来するピーク面積から変性率を求めたところ、比較変性SBRの変性率は0.21mol%であった。
【0062】
〔比較例1〜2および実施例1〜4〕
<繊維コード被覆用ゴム組成物の調製>
下記第1表に示される成分を、下記第1表に示される割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第1表に示される成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、80℃のバンバリーミキサーで5分間混合した。次に、ロールを用いて、硫黄および加硫促進剤を混合し、各繊維コード被覆用ゴム組成物を得た。
なお、実施例1〜3は上述した第2の態様に相当し、実施例4は上述した第1の態様に相当する。
【0063】
<加硫ゴムシートの作製>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で15分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0064】
<発熱性の評価>
得られた各加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)により、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で、損失正接(tanδ(60℃))を測定した。結果を下記第1表に示す(発熱性)。
結果は、比較例1のtanδ(60℃)を100とする指数で表した。値が小さいほど、低発熱性に優れる。
【0065】
<剛性の評価>
得られた各加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)により、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度20℃の条件で、貯蔵弾性率(E’)を測定した。結果を下記第1表に示す(剛性)。
結果は、比較例1の貯蔵弾性率(E’)を100とする指数で表した。値が大きいほど、弾性率が高く、剛性に優れる。
【0066】
<接着性の評価>
カーカス部材として用いる圧延材を作製し、これを2枚貼り合わせて加硫した後、幅25mm、長さ200mmの短冊状のピースを切り出して、サンプルとした。
サンプルの一方端面において、2枚の圧延材の境界面に25mmの全幅にわたりスライス切り込みを入れ、切り込みを入れた端部をそれぞれを引張り試験機の上下のクランプで把持し、引張り速度50.0mm±2.5mm/分で引張り、それら2層を徐々に剥離した。
ゴム被覆率は、剥離面の両面において、繊維コード上のゴム残余面積と剥離させた総面積から下記式で求めた。測定は、サンプル3個の平均値を小数点以下1ケタまで四捨五入により求めた。算出したゴムの被覆率から、下記の基準に従がって評価を行った。
ゴム被覆率(%)={(コード上のゴム面積)/(剥離させたコードの総面積)}×100
5:破壊面に繊維コードが露出している面積は1%未満
4:破壊面に繊維コードが露出している面積は1%以上5%未満
3:破壊面に繊維コードが露出している面積は5%以上10%未満
2:破壊面に繊維コードが露出している面積は10%以上20%未満
1:破壊面に繊維コードが露出している面積は20%以上
【0067】
なお、下記第1表中、ニトロン量換算値は、実施例1〜3については、上述したCPN量換算値を表し、実施例4については、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計100質量部に対する、カルボキシニトロンの質量部を表し、比較例2については、ジエン系ゴム100質量部に対する、比較変性SBRの合成に使用されたジフェニルニトロンの質量部を表す。
また、下記第1表中、変性率は、上述した変性率を表す。ただし、ジフェニルニトロンを使用した例については、SBRが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、ジフェニルニトロンによって変性された割合(mol%)を表す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記第1表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・天然ゴム:TSR20
・SBR:Nipol 1502(スチレン単位含有量:23.5質量%、Mw:45万、日本ゼオン社製)
・BR:Nipol BR1220(日本ゼオン社製)
・変性SBR:上述のとおり合成した変性SBR
・変性BR:上述のとおり合成した変性BR
・比較変性SBR:上述のとおり合成した比較変性SBR
・カルボキシニトロン:上述のとおり合成したカルボキシニトロン
・カーボンブラック:GPF級カーボンブラック(ダイアブラックG、窒素吸着比表面積:29m
2/g、三菱化学社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号(正同化学社製)
・ステアリン酸:ステアリン酸YR(日油社製)
・タッキファイア:パラオクチルフェノール樹脂 ヒタノ−ル(1502Z)
・老化防止剤:SANTOFLEX 6PPD(Soltia Europe社製)
・プロセスオイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・加硫促進剤:ノクセラー CZ−G(大内新興化学工業社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
【0070】
上記第1表から分かるように、カルボキシニトロンおよびカルボキシニトロン変性ゴムのいずれも含有しない比較例1と比較して、カルボキシニトロンを含有する実施例4やカルボキシニトロン変性ゴムを含有する実施例1〜3は、低発熱性に優れ、カーカスコードとの接着性も良好であり、また、剛性も高くなることが分かった。一方、ジフェニルニトロンで変性させた比較変性SBRを含有する比較例2は、比較例1よりも却って効果が劣ることが分かった。
【解決手段】ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物とを含有し、上記ジエン系ゴムが、天然ゴムとスチレンブタジエンゴム及び/又はブタジエンゴムとを含み、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記天然ゴムの含有量が65質量%以下であり、上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して40〜67質量部であり、上記ニトロン化合物の含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して0.1〜10質量部である、繊維コード4被覆用ゴム組成物。