特許第5700229号(P5700229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700229
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】調理器用トッププレート
(51)【国際特許分類】
   F24C 15/10 20060101AFI20150326BHJP
   H05B 6/12 20060101ALI20150326BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   F24C15/10 B
   H05B6/12 305
   B32B9/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-93196(P2013-93196)
(22)【出願日】2013年4月26日
(62)【分割の表示】特願2009-35010(P2009-35010)の分割
【原出願日】2009年2月18日
(65)【公開番号】特開2013-178085(P2013-178085A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2013年4月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池上 耕司
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−541392(JP,A)
【文献】 特開2005−055005(JP,A)
【文献】 特開2008−014552(JP,A)
【文献】 特開2004−193050(JP,A)
【文献】 特開2008−215651(JP,A)
【文献】 特開2005−088588(JP,A)
【文献】 特開2001−218684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24C15/00−15/36
H05B 6/12
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理器の上部に配置される調理器用トッププレートであって、
遮光基板と、
前記遮光基板の調理面上に形成されている窒化珪素膜とを備え、
前記遮光基板は、白色結晶化ガラス基板であり、
前記窒化珪素膜の膜厚が88nm以下であり、前記遮光基板との反射色差が0.06以下であることを特徴とする調理器用トッププレート。
【請求項2】
前記窒化珪素膜の膜厚が、27nm〜113nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の調理器用トッププレート。
【請求項3】
前記窒化珪素膜の膜厚が、86nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の調理器用トッププレート。
【請求項4】
前記窒化珪素膜の膜厚が、42nm〜83nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の調理器用トッププレート。
【請求項5】
400nm〜700nmにおける平均反射率が10%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の調理器用トッププレート。
【請求項6】
前記遮光基板の調理面上には、任意に設けられる着色層を除き、前記窒化珪素膜のみが設けられていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の調理器用トッププレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁加熱(IH)調理器、赤外線加熱調理器及びガス調理器などの上部に配置される調理器用トッププレートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、美観にすぐれた白色のトッププレートを有する白色トッププレートシステムキッチンに対する需要が高まってきている。それに伴い、白色トッププレートシステムキッチンに調和する調理器として、白色不透明のトッププレートを有する調理器に対する需要も高まってきている。
【0003】
白色不透明の調理器用トッププレートとしては、従来、例えば白色結晶化ガラス基板などが用いられているが、白色結晶化ガラス基板では、光沢性に欠け、高級感が得難いという問題がある。
【0004】
調理器用トッププレートの光沢性を向上させる方法としては、例えば、下記の特許文献1に、透明のガラス基板の調理面とは反対側の面に高反射膜、パール調層及び遮光層をこの順番で積層する方法が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ガラス基板が透明であることが必須となるため、特許文献1に記載の方法は、不透明調理器用トッププレートには応用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−215651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、反射率が高く光沢性に優れた不透明な調理器用トッププレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る調理器用トッププレートは、調理器の上部に配置される調理器用トッププレートであって、遮光基板と、遮光基板の調理面上に形成されている窒化珪素膜とを備えることを特徴としている。本発明に係る調理器用トッププレートは、窒化珪素膜側が調理器具側に位置するように調理器の上部に配置される。すなわち、本発明に係る調理器用トッププレートが調理器に取り付けられた状態においては、窒化珪素膜は、遮光基板の調理器具側の表面の上に位置する。
【0008】
本発明の調理器用トッププレートは、遮光基板を備えている。このため、本発明の調理器用トッププレートを用いることにより、調理器の内部に配置されている機器などが視認されない、美観性の高い調理器を実現することができる。なお、本明細書において、「遮光基板」とは、可視波長域における平均光透過率が5%以下である基板をいう。また、本明細書において、「可視波長域」とは、400nm〜700nmの波長域をいう。
【0009】
遮光基板は、例えば、不透明結晶化ガラスなどにより形成された不透明結晶化ガラス基板により構成することができる。不透明結晶化ガラスの具体例としては、例えば、β−石英固溶体やβ−スポジュメン固溶体などを主結晶とする結晶化ガラスなどが挙げられる。特に、β−スポジュメン固溶体を主結晶とする結晶化ガラスは、通常、白色度が高いため、この結晶化ガラスを用いることにより、白色トッププレートシステムキッチンに調和する白色の調理器用トッププレートを得ることができる。なお、「不透明」は、可視波長域における平均光透過率が、5%以下であることをいう。また、本明細書において、「白色」とは、図1に示すように、CIE表色系により規定されるx−y色度図における点A(0.275,0.250)及び点B(0.245,0.300)を通る直線と、点B(0.245,0.300)及び点C(0.360,0.410)を通る直線と、点C(0.360,0.410)及び点D(0.360,0.340)を通る直線と、点D(0.360,0.340)及び点A(0.275,0.250)を通る直線とで囲まれた領域Xにあることをいう。
【0010】
また、遮光基板は、不透明ガラス基板と、その不透明ガラス基板の表面に形成されている着色層とにより構成されていてもよい。着色層は、不透明ガラス基板の表面全体に形成されていてもよいし、不透明ガラス基板の表面の一部にのみ形成されていてもよい。着色層は、不透明ガラス基板の表面にマトリクス状に形成された着色ドットにより構成されていてもよい。
【0011】
さらに、遮光基板は、透明結晶化ガラス基板などの透明基板のいずれか一方の表面に遮光層が形成されたものであってもよい。具体的には、遮光基板は、例えば、いずれか一方の表面に金属膜が形成されている透明結晶化ガラス基板であってもよい。
【0012】
本発明においては、遮光基板の上に、高い屈折率を有する窒化珪素膜が形成されている。このため、遮光基板の表面、すなわち遮光基板と窒化珪素膜との界面における光の反射率を高めることができる。さらに、窒化珪素膜の表面においても高い反射率で光が反射する。従って、反射率が高く、光沢性に優れた調理器用トッププレートを実現することができる。
【0013】
窒化珪素膜の膜厚は、27nm〜113nmの範囲内にあることが好ましい。窒化珪素膜の膜厚を27nm〜113nmの範囲内とすることにより、400nm〜700nmにおける平均反射率を10%以上にすることができる。従って、光沢性をより高くすることができる。
【0014】
なお、反射率を高める観点のみからは、遮光基板の上に形成する膜は、屈折率が高い膜であればよい。例えば、遮光基板の上に、窒化チタン膜や窒化ニオブ膜などを形成することにより、反射率を高めることができる。
【0015】
しかしながら、窒化チタン膜や窒化ニオブ膜は、可視波長域(400nm〜700nm)に大きな吸収を有する。このため、窒化チタン膜や窒化ニオブ膜を遮光基板の上に形成すると、遮光基板が着色してしまう。よって、遮光基板の色合いを生かした調理器用トッププレートを得ることができない。また、窒化チタン膜や窒化ニオブ膜の光吸収のため、実現できる調理器用トッププレートの色調が限られることとなる。
【0016】
それに対して、窒化珪素膜は、可視波長域における光吸収率が低い。このため、遮光基板の上に窒化珪素膜を形成しても、遮光基板が着色しにくい。従って、遮光基板の色調を生かした多様な色調の調理器用トッププレートを実現することができる。
【0017】
しかしながら、本発明の調理器用トッププレートでは、窒化珪素膜の表面における反射光(以下、「表面反射光」とする。)と、遮光基板と窒化珪素膜との界面における反射光(以下、「界面反射光」とする。)との干渉光が反射光として観察される。この干渉光の色調は、窒化珪素膜の膜厚によっては、表面反射光の色調と異なる。よって、窒化珪素膜の膜厚によっては着色しやすくなる場合がある。このような干渉現象による着色を抑制するため、窒化珪素膜の膜厚は、88nm以下であることが好ましく、86nm以下であることがより好ましく、42nm〜83nmの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0018】
また、窒化珪素膜は、高硬度であり、かつ耐熱性が高い。従って、窒化珪素膜を遮光基板の上に形成することにより、調理器用トッププレートの擦傷性及び耐熱性を向上することができる。
【0019】
このように、遮光基板の調理面上に窒化珪素膜を形成することにより、優れた光沢性を実現できるばかりか、調理器用トッププレートの着色を抑制でき、さらには、調理器用トッププレートの擦傷性及び耐熱性を向上することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、遮光基板の調理面上に窒化珪素膜が形成されているため、優れた光沢性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例における窒化珪素膜の膜厚と、反射色度との関係を表すx−y色度図である。
図2】実験例の調理器用トッププレートの模式的断面図である。
図3】実験例における窒化珪素膜の膜厚と、反射色差との関係を表すグラフである。
図4】実験例における窒化珪素膜の膜厚と、平均反射率との関係を表すグラフである。
図5】実験例2における波長と反射率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
図2は、本実験例において作成した調理器用トッププレートの模式的断面図である。本実験例では、図2に示すように、白色不透明結晶化ガラス基板(日本電気硝子株式会社製ネオセラム N−11)2の上に、白色のドット3がマトリクス状に形成されてなる遮光基板4の調理面4aの上に、スパッタリング法により、種々の膜厚の窒化珪素膜5を形成した調理器用トッププレート1を作製した。
【0024】
得られた各調理器用トッププレート1について、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−4000を用いて、380〜780nmの波長範囲の各波長における反射率を測定した。測定結果を図5に示す。なお、図5に示す符号は、窒化珪素膜の膜厚(単位:nm)を示す。すなわち、例えば、符号「70」で参照されるグラフは、窒化珪素膜の膜厚が70nmである窒化珪素膜のデータを示す。
【0025】
そして、測定結果に基づいて、平均反射率を算出した。算出した平均反射率と、窒化珪素膜5の膜厚との関係を図4に示す。なお、「平均反射率」とは、380〜780nmの波長範囲の反射率を平均して得られる値である。
【0026】
図4に示すように、窒化珪素膜5の膜厚を27nm〜113nmの範囲内とすることにより、平均反射率を10%以上とすることができ、優れた光沢度が得られることがわかる。
【0027】
次に、測定された反射率を用いて、反射色度を算出した。具体的には、三刺激値(X10、Y10、Z10)を、380nm〜780nmの波長範囲の各波長における反射率を用いて「JIS Z 8701:1999 5.2.1 反射による物体色の三刺激値」に記載の式(2)に従って算出し、さらに「JIS Z 8701:1999 7.1 色度座標の求め方」に記載の色(4)に従って、上記三刺激値から色度座標(反射色度)を算出した。なお、三刺激値の算出にあたって、等色関数としては、X10Y10Z10表色系における等色関数を用いた。算出した反射色度の結果を下記の表1と図1に示す。なお、図1における数値は窒化珪素膜の膜厚を示している。例えば、図1において「100」が付された点は、窒化珪素膜の膜厚が100nmのデータを表す点である。
【0028】
さらに、窒化珪素膜5を形成する前の遮光基板4(窒化珪素膜の膜厚が0nmの場合)についても同様に反射色度を測定し、反射色差を求めた。結果を、下記の表1及び図3に示す。
【0029】
なお、「反射色差」とは、遮光基板4の反射色度と、調理器用トッププレート1の反射色度との差をいう。具体的には、遮光基板4の反射色度を(x,y)、調理器用トッププレート1の反射色度を(x,y)とした場合、反射色差は、((x−x+(y−y1/2となる。
【0030】
【表1】
【0031】
図3及び上記の表1に示す結果から、窒化珪素膜5の膜厚を88nm以下とすることにより、反射色差(遮光基板の色度と、調理器トッププレートの色度との差)を0.06以下にできることがわかる。また、窒化珪素膜5の膜厚を86nm以下とすることにより、反射色差を0.05以下にできることがわかる。さらには、窒化珪素膜5の膜厚を42nm〜83nmの範囲内とすることにより、反射色差を0.04以下にできることがわかる。
【0032】
従って、窒化珪素膜の膜厚を、88nm以下、より好ましくは、86nm以下、さらに好ましくは、42nm〜83nmの範囲内とすることにより、遮光基板の色度と、調理器トッププレートの色度との差を小さくすることができ、よって、遮光基板の色調を生かした多様な色調の調理器用トッププレートを実現することができることがわかる。
【0033】
なお、本実験例の場合、図1に示すように、窒化珪素膜の膜厚が90nm以下と薄い場合には、調理器用トッププレート1の色調が白色であったが、100nm以上では、調理器用トッププレート1の色調が白色からはずれていた。
【0034】
また、図5に示すように、窒化珪素膜の膜厚が40nm及び90nmの場合は、400nm〜700nmの波長領域のほぼ全域において、10%以上の反射率が得られ、窒化珪素膜の膜厚が50nm〜80nmの場合は、400nm〜700nmの波長領域の全域において、10%以上の反射率が得られた。この結果から、窒化珪素膜の膜厚を45nm〜85nm、より好ましくは、50nm〜80nmの範囲内とした場合には、可視波長域において、波長の如何に関わらず高い反射率が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0035】
1…調理器用トッププレート
2…白色不透明結晶化ガラス基板
3…着色ドット
4…遮光基板
4a…遮光基板の調理
5…窒化珪素膜
図1
図2
図3
図4
図5