(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム基材を陽極として陰極と共に電解液中に配置し、両極間に第1の通電を行って前記アルミニウム基材の表面に第1のアルマイト膜を形成した後、前記両極間に第2の通電を行い、前記アルミニウム基材と前記第1のアルマイト膜との間に第2のアルマイト膜を形成し、
一定の電圧下において、前記第1の通電のデューティ比を前記第2の通電のデューティ比よりも低く設定すると共に、前記第1の通電の周波数を前記第2の通電の周波数以上となるように設定してあるアルマイト膜の形成方法。
前記第1のアルマイト膜の平均セル径を20〜60nm、及び前記第2のアルマイト膜の平均セル径を60〜100nmに形成すると共に、前記第2のアルマイト膜の厚みが1〜10μmである請求項1に記載のアルマイト膜の形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルマイト膜は複数のセルからなるものであり、陽極酸化処理によって、それぞれのセルを膜の厚み方向に成長させてアルマイト膜を形成する。
【0006】
しかし、一般に、陽極酸化処理では、アルミニウム基材における電流分布にばらつきが生じる。
このため、前記従来のような高電流密度での陽極酸化処理では、それぞれのセルに流れる電流密度に大きな差が生じることによって、セルの成長のばらつきが大きくなり、アルマイト膜の表面の平滑性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、表面の平滑性に優れたアルマイト膜の形成方法及びアルマイト膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るアルマイト膜の形成方法の特徴手段は、アルミニウム基材を陽極として陰極と共に電解液中に配置し、両極間に第1の通電を行って前記アルミニウム基材の表面に第1のアルマイト膜を形成した後、前記両極間に第2の通電を行い、前記アルミニウム基材と前記第1のアルマイト膜との間に第2のアルマイト膜を形成し、一定の電圧下において、前記第1の通電のデューティ比を前記第2の通電のデューティ比よりも低く設定すると共に、前記第1の通電の周波数を前記第2の通電の周波数以上となるように設定してある点にある。
【0009】
アルマイト膜の表層部は第1のアルマイト膜で形成され、内層側に形成される第2のアルマイト膜は、表層部にほとんど影響を及ぼさない。
通電を間欠的に行えば、電流が表面電位の低い方に広がっていくため、アルミニウム基材の表面における起点を増加させることができ、同時に成長するセルの数を増やして均一に成長させることができる。
本手段のように第1の通電及び第2の通電におけるデューティ比や周波数を設定することで、第1のアルマイト膜の平均セル径が第2のアルマイト膜の平均セル径よりも小さいアルマイト膜を確実に形成することができるため、アルマイト膜の表面の平滑性を高めることができる。
【0010】
【0011】
【0012】
本発明に係るアルマイト膜の形成方法の特徴手段は、前記第1のアルマイト膜の平均セル径を20〜60nm、及び前記第2のアルマイト膜の平均セル径を60〜100nmに形成すると共に、前記第2のアルマイト膜の厚みが1〜10μmである点にある。
【0013】
本構成によれば、アルマイト膜は複数のセルから構成されている。このため、平均セル径が異なる少なくとも2つの層で構成し、アルマイト膜の表層部のセルの平均セル径を内層側のセルの平均セル径より小さくすることで、アルマイト膜自体の強度は内層側のセルで保ちつつ、表面を緻密にして平滑にすることができる。
したがって、従来のアルマイト膜と同様な機械的強度を保ちつつ、表面の平滑性に優れたアルマイト膜を提供することができる。
また、表層部を構成するセルの平均セル径を20〜60nmと微細にすることにより、表面の平滑性をさらに向上させることができる。また、内層側の平均セル径は60〜100nmであれば、従来のアルマイト膜と同様な機械的強度を保つことができる。
アルマイト膜は、陽極酸化処理において、アルミニウム基材側から成長する。
このため、本構成のように、表層部の厚みを1〜10μmとすれば、その後のアルマイト膜の成長によって内層側にランダムな層が形成されたとしても、アルマイト膜の表面への影響をより小さくできる。このため内層側の状態に関わらず、表面の高い平滑性を保つことができる。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第一の実施形態〕
以下、本発明に係るアルマイト膜の第一の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係るアルマイト(陽極酸化)膜1は、
図1に示すように、アルミニウム基材2の表面に形成されるものである。アルミニウム基材2の表面にアルマイト膜1を設けることにより、アルミニウム基材2の耐食性や耐磨耗性を向上させることができる。
【0026】
アルミニウム基材2としては、特に限定はされず、例えば、ダイカスト等のアルミニウム鋳造材、アルミニウム鍛造材等を用いることができる。アルミニウムとしては、純アルミニウム、アルミニウム合金等を適用でき、特に制限はない。アルミニウム合金の種類は、銅、マンガン、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、錫、鉛、チタン、クロム、ジルコニウム等の1種または複数種との合金が例示される。また、アルミニウム基材2には、添加物や不純物等が含有していても何ら構わない。
【0027】
アルマイト膜1は、本実施形態においては、表層部の第1のアルマイト膜1aと、その内層側にある第2のアルマイト膜1bとの2つの層からなる。アルマイト膜1は、複数のセル3からなっており、第1のアルマイト膜1aを形成する第1のセル3aの平均セル径R
3aが第2のアルマイト膜1bを形成する第2のセル3bの平均セル径R
3bより小さくなるように形成してある。このように、表層部の平均セル径R
3aが内層側の平均セル径R
3bより小さくなるように構成することにより、アルマイト膜1の表面を緻密にして平滑にすることができる。
【0028】
アルマイト膜1の平均セル径Rは、特に制限はない。但し、第1のアルマイト膜1aの平均セル径R
3aが小さい程、表面がより緻密になり平滑性が向上するため好ましい。本実施形態においては、アルマイト膜1を、第1のアルマイト膜1aの平均セル径R
3aが20〜60nmとなり、第2のアルマイト膜1bの平均セル径R
3bが60〜100nmとなるように形成してあるが、第1のアルマイト膜1aの平均セル径R
3aは20〜50nmであることが好ましく、第2のアルマイト膜1bの平均セル径R
3bは70〜100nmであることが好ましい。
【0029】
アルマイト膜1の厚みTは、用途に応じて任意に設定可能であり、特に制限はないが、アルミニウム基材2の表面の保護という観点からは、例えば、10〜30μmであることが好ましい。本実施形態では、アルマイト膜1の厚みTは、20μmに設定してある。
【0030】
第1のアルマイト膜1aの厚みT
1aは、特に限定はされないが、例えば、1〜10μmであることが好ましい。本実施形態では、第1のアルマイト膜1aの厚みT
1aを5μmとし、第2のアルマイト膜1bの厚みT
1bを15μmとしてある。
【0031】
アルマイト膜1は、例えば、
図2に示すような陽極酸化処理装置により、アルミニウム基材2の表面に形成させることができる。本実施形態においては、アルミニウム基材2として円筒形状の基材を用いた場合について説明する。
【0032】
陽極酸化処理装置は、内部に電解液12を有する電解槽11と、陰極14と、電源15とを備えており、アルミニウム基材2を陽極13として陰極14と共に電解液12の中に配置し、両極間を通電してアルミニウム基材2を陽極酸化処理することにより、表面にアルマイト膜1が形成できる。
【0033】
電解槽11には、陽極酸化処理の温度を一定に保つために、電解液12の温度を調節する温度調節手段(図示しない)が設けてある。処理温度は、特に限定されないが、例えば、−5〜20℃であることが好ましく、本実施形態においては、0℃に設定してある。
【0034】
また、電解槽11には、電解液12を攪拌する攪拌手段(図示しない)が設けてあり、電解液12の温度を均一化し、アルマイト膜1が均一に形成できるようにしてある。攪拌手段としては、例えば、ポンプで電解液12を循環させるポンプ循環手段や、エアバブリングによるエア攪拌手段等が例示される。
【0035】
電解液12は、通常、アルミニウム基材2の陽極酸化処理において使用するものであれば、特に制限はなく、硫酸、シュウ酸等を用いることができる。電解液12の濃度についても、特に限定はされないが、例えば、電解液12が硫酸の場合、100〜640g/Lであることが好ましく、350〜400g/Lであることがより好ましい。
【0036】
陰極14は、特に限定はされないが、本実施形態においては鉛板を用い、陽極13であるアルミニウム基材2と対向するように配置してある。
【0037】
電源15は、両極間に通電を行うものであり、定電圧制御や定電流制御等、制御手段は特に限定はされない。本実施形態では、高周波パルス電源装置を用いる。
【0038】
このような陽極酸化処理装置を用い、まず、両極間に第1通電を間欠的に行い(パルス通電)、アルミニウム基材2の表面に第1のアルマイト膜1aを形成させる。この後、通電量が前記第1の通電の通電量より大きくなるように、両極間に第2の通電を行い、アルミニウム基材2と第1のアルマイト膜1aとの間に第2のアルマイト膜1bを形成する。これにより、第1のアルマイト膜1aの平均セル径R
3aを第2のアルマイト膜1bの平均セル径R
3bより小さくすることができ、表面の平滑性が高いアルマイト膜1を形成することができる。
【0039】
第1のアルマイト膜1aを形成する際の第1の通電は、周波数が高く、デューティ比が低い方が好ましい。一般に、陽極酸化処理では、アルマイト膜1の極初期の起点は表面電位の低いところから進行する。特に直流電源を使用する場合には、起点から成長した膜は発熱によって電流が流れる時間が長くなり、成長が促進される。このため、電流が膜の他の表面部に流れるまでに時間を要し、表面に凹凸が発生し易くなる。したがって、第1の通電において、周波数を高くすれば、電流が表面電位の低い方に広がっていくため、アルミニウム基材2の表面における起点を増加させることができ、同時に成長する第1のセル3aの数を増やして均一に成長させることができる。そして、この際、デューティ比を低くすれば、1周期における通電量が小さくなり、それぞれの第1のセル3aの平均セル径R
3aを小さくすることができるため、表面がより平滑なアルマイト膜1を形成することができる。このような方法によれば、例え、アルミニウム基材2に、合金を構成する他の金属成分、添加物、不純物等が含有している場合でも、それらを平均セル径R
3aが小さい第1のセル3aが取り囲むことになるため、表面の高い平滑性を維持することができる。第1の通電の条件は、求める膜厚等によって任意に設定可能であるが、例えば、周波数5〜10kHz、デューティ比10〜40:80〜50、通電時間100〜500秒、定電圧(40〜50V)で行うことができる。
【0040】
一方、第2のアルマイト膜1bを形成する際の第2の通電については、特に限定されないが、周波数が第1の通電の周波数以下であり、デューティ比が第1の通電のデューティ比より高くなるように行うことが好ましい。第2通電において、周波数を小さくし、デューティを高くすることで、1周期あたりの通電量が第1の通電の1周期あたりの通電量より大きくなり、第2のセル3bは速く成長し、平均セル径R
3bも大きくなるため、アルマイト膜1の形成効率が高くなる。但し、第2の通電は、必ずしも間欠的に行う必要はなく、直流、交直重畳等、任意に選択可能である。第2の通電の条件も、第1の通電の場合と同様に求める膜厚等によって任意に設定可能であるが、例えば、周波数5〜10kHz、デューティ比80〜50:10〜40、通電時間100〜500秒、定電圧(40〜50V)で行うことができる。
【0041】
(第一の実施形態の実施例)
以下に、本実施形態に係るアルマイト膜1を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態に係る陽極酸化処理装置において、電解液として393g/Lの硫酸を用い、アルミニウム基材(AC8R材相当)に対し、表1に示す条件により、定電圧(42V)で陽極酸化処理を行い、アルマイト膜を形成した。
【0044】
得られたアルマイト膜の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、実施例1のアルマイト膜では、
図3に示すように、厚み方向に亘って平均セル径Rの異なる2つの層が形成されていた。表層部の平均セル径R
3aは、
図4に示すように20〜60nmの範囲にあり、内層側の平均セル径R
3bは、
図5に示すように60〜100nmの範囲にあり、第1のアルマイト膜1aと第2のアルマイト膜1bとが形成されていることが確認できた。アルマイト膜の表面状態をSEMで観察すると、
図6に示すように略平滑であり、表面の粗さの測定では、表2に示すように5.7μRzであった。また、アルマイト膜の厚みは19.9μmであり、平均セル径R
3aが小さい表層部の厚みは5μmであった。
【0045】
実施例2のアルマイト膜についても、
図7に示すように、厚み方向に亘って平均セル径Rの異なる2つの層から形成されていた。表層部の平均セル径R
3aは、
図8に示すように20〜60nmの範囲にあり、内層側の平均セル径R
3bは、
図9に示すように60〜100nmの範囲にあり、第1のアルマイト膜1aと第2のアルマイト膜1bとが形成されていることが確認できた。アルマイト膜の表面状態をSEMで観察すると、
図10に示すように略平滑であり、表面の粗さの測定では、表2に示すように5.8μRzであった。また、アルマイト膜の厚みは16.9μmであり、平均セル径R
3aが小さい表層部の厚みは5μmであった。
【0046】
比較例のアルマイト膜では、
図11〜13に示すように、平均セル径Rが60〜100nmの範囲にある層が厚み方向の全体に亘って形成されていることが確認できた。アルマイト膜の表面状態をSEMで観察すると、
図14に示すように、実施例1,2に比べて粗く、表面の粗さの測定では、表2に示すように9.6μRzであった。また、アルマイト膜の厚みは19.6μmであった。
【0048】
以上のように、実施例1,2で形成したアルマイト膜は、比較例で形成したアルマイト膜に比べて平滑性が向上していることが確認できた。
【0049】
〔第二の実施形態〕
次に本発明に係るアルマイト膜の第二の実施形態について説明する。本実施形態に係るアルマイト膜は、第一の実施形態に係るアルマイト膜1において表層部の第1のアルマイト膜1aがセル3を有しないものである。このように、表層部をセル3がないアルマイト膜で構成することによっても、アルマイト膜1の表面を緻密にして平滑にすることができる。尚、その他の構成は第一の実施形態と同様である。
【0050】
本実施形態に係るアルマイト膜は、第一の実施形態に係るアルマイト膜1を形成するために使用する陽極酸化処理装置と同様の装置を用いて形成することができる。すなわち、まず、両極間に第1の通電として0.1〜1Aの微弱電流を通電し、アルミニウム基材の表面に第1のアルマイト膜を形成させる。この後、通電量が第1の通電の通電量より大きくなるように、両極間に第2の通電を行い、アルミニウム基材と第1のアルマイト膜との間に第2のアルマイト膜を形成する。これにより、セルを有しない第1のアルマイト膜を形成することができ、表面の平滑性が高いアルマイト膜を形成することができる。
【0051】
第1のアルマイト膜を形成する際の第1の通電は、0.1〜1Aの微弱電流を流すものであれば、特に限定はされない。第1の通電は、例えば、直流、交直重畳、間欠的等、任意に選択可能である。第1の通電の条件は、求める膜厚等によって任意に設定可能であるが、例えば、定電流(0.1〜1A)、通電時間1〜15分で行うことができる。
【0052】
第2のアルマイト膜1bを形成する際の第2の通電は、通電量が第1の通電の通電量より大きければ、特に限定されない。第2の通電についても、例えば、直流、交直重畳、間欠的等、任意に選択可能である。第2の通電においては、通電量を大きくすることにより、セルが速く成長し、平均セル径が大きくなるため、アルマイト膜の形成効率が高くなる。第2の通電の条件も、第1の通電の場合と同様に求める膜厚等によって任意に設定可能であるが、例えば、第1の実施形態に係るアルマイト膜を形成する場合と同様の条件や、定電流(10〜50A)、通電時間0.5〜15分で行うことができる。
【0053】
(第二の実施形態の実施例)
以下に、本実施形態に係るアルマイト膜を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
第一の実施形態の実施例で使用した陽極酸化処理装置を用い、アルミニウム基材(AC4M材相当)に対し、表3に示す条件により、定電流方式(直流電源)で陽極酸化処理(バッチ式)を行い、アルマイト膜を形成した。
【0056】
得られたアルマイト膜の表面及び断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、実施例3〜5のアルマイト膜は、
図15〜17に示すように、いずれの場合も厚み方向に亘って2つの層が形成されていた。表層部はセルを有しておらず、内層側は平均セル径が60〜100nmの範囲にあり、第1のアルマイト膜と第2のアルマイト膜とが形成されていることが確認できた。実施例3〜5のアルマイト膜の表面の粗さは、1.5〜3.0μRzであった。また、実施例3〜5のアルマイト膜の厚みは20μmであり、セルを有しない表層部の厚みは1μmであった。
【0057】
以上のように、実施例3〜5で形成したアルマイト膜についても、比較例で形成したアルマイト膜に比べて平滑性が向上していることが確認できた。
【0058】
〔別実施形態〕
上記の実施形態においては、アルマイト膜1が第1のアルマイト膜1aと第2のアルマイト膜1bとの2層からなる例を説明したが、これに限定されない。アルマイト膜1は、第2のアルマイト膜1bが複数の層からなる3層以上から構成することもできる。