【実施例1】
【0012】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例では電動工具の例としてディスクグラインダを用いて説明し、同一の機能を有する部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、左右、上下の方向は
図1及び
図2に示す方向であるとして説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例に係るディスクグラインダ1の断面図である。ディスクグラインダ1は、モータ6を内部に収納するモータハウジング2と、モータハウジング2の後方に取り付けられるテールカバー32、モータハウジング2の前方に取り付けられ、一組の傘歯車38、39を収容するギヤカバー3と、ギヤカバー3から下方に延びるスピンドル11に取り付けられ、スピンドル11に装着される円形の砥石5を含んで構成される。本実施例ではディスクグラインダ1に取り付けられる先端工具(加工部品)として、砥石5を用いているが、砥石だけに限られずにその他の研削部品、切削部品又は研磨部品であっても良い。
【0014】
モータハウジング2には、ブラシレス直流形式のモータ6が収容される。モータ6は、回転軸10に永久磁石を有するロータ7が取り付けられ、モータハウジング2側にステータコア8にコイル9を巻いたステータを有する、いわゆるインナーロータ型である。モータ6の直径をできるだけ小さく構成するために、ロータ7には例えば円管形ネオジウム焼結磁石等の円筒形の薄いマグネット(永久磁石)を用いるのが好ましい。また、モータ6の直径の小型化のために、ステータコア8を例えば円周方向に等間隔でティース毎に6分割された分割コアから構成すると好ましい。本実施例のモータハウジング2の外径(直径)は、作業者が片手で容易に把持できるように35mmから45mm程度とするのが好ましく、このため、ステータコア8の直径は28から38mmとすると良い。
【0015】
モータ6の回転軸10は2つのベアリング13a、13bにより回転可能に保持される。ベアリング13aはギヤカバー3にて保持され、ベアリング13bはモータハウジング2に保持される。モータハウジング2の前端部とギヤカバー3の接合部には、円環状のベアリングストッパ30が挟み込まれ、ベアリングストッパ30によってベアリング13aの後方を保持する。ベアリングストッパ30の後方には、モータ6のステータコア8を押さえるためのステータ押さえ31が配置される。ギヤカバー3は、円周方向にほぼ等間隔に配置され、軸方向に延びる4本のネジ37(
図2参照、但し
図2では上側の2本のみ図示)にてモータハウジング2に固定される。
【0016】
モータハウジング2は、ある程度の強度が必要とされることから略円筒形状とし、アルミニウム合金等の金属又はプラスチック等の合成樹脂の一体成型により製造すると好ましい。モータハウジング2の後ろ側には、テールカバー32が取り付けられる。テールカバー32は、モータ6の回転軸10の延長線を通る鉛直面で左右に分割可能に構成される。右側のテールカバーにはネジボス35a、35bが形成され、ネジ42(
図2参照)にて左側のテールカバー32と固定される。このようにテールカバー32の部分を左右分割式に構成したので、一方のテールカバーに後述する回路部品や基板等を配置した後、他方のテールカバーをかぶせてねじ止めすることにより、容易に組み立てることができるので組立性が向上する。また、部品や基板配置に関する組立上の制約が少ないことから、テールカバー32を小型化することが可能になる。その結果、モータハウジング2を一体構成として強度を高く構成しつつ、ディスクグラインダ1の外形、特に直径を細くでき、コンパクトな電動工具を実現することが可能となる。
【0017】
ギヤカバー3には回転軸10の前方側を回転可能に保持するベアリング13aと、ベアリング13aの前端に取り付けられる傘歯車38(第1の傘歯車)が収容される。ベアリングの13aの外輪はギヤカバー3によって保持される。傘歯車38は、回転軸10の先端にボルト41によって固定され、スピンドル11に取り付けられる傘歯車39(第2の傘歯車)と噛合する。これらの傘歯車38、39によってモータ6の回転が減速されると共に、その回転方向が90度変換される。スピンドル11はギヤカバー3のベアリング40とスピンドルケース15内に保持された図示しないベアリングによって回転可能に保持され、その先端(下端)には砥石5が取り付けられる。砥石5は、例えば直径が100〜125mmであり、モータ6の回転数に対して傘歯車38、39の歯車比により減速された回転数で回転する。回転する砥石5の略半分は、ホイルガード12によって覆われる。ホイルガード12は、研削された部材や破損した砥粒等の飛散から作業者を保護するためのものである。ホイルガード12はその固定位置を円周方向に移動させることにより、砥石5の後方側を覆うか、右側略半分又は左側略半分を覆うか変更できる。尚、砥石5をスピンドル11に着脱するために、砥石5の回転を制限するロックピン36(
図2参照)が設けられるが、
図1では断面位置の関係から図示されていない。
【0018】
テールカバー32には、商用電源を供給するための電源コード19が接続され、外部から例えば50Hz、100Vの交流が供給される。また、テールカバー32の後端部には電源スイッチ18が設けられる。テールカバー32の内部には、電源基板27に搭載される電源回路17と、平滑用のコンデンサ20が設けられ、供給された交流電力を、所定の直流電力に変換する。整流された直流電力は、FET(電界効果トランジスタ)24等により構成されるインバータ回路から配線29を介してコイル9の各相に所定の間隔で順次供給される。インバータ回路や、その他の回路の構成は、公知のブラシレス直流モータを制御する回路を用いることができるので、ここではその説明を省略する。
【0019】
テールカバー32の上下及び左右面には、テールカバー32の内部と外部を連通させる複数の排出口34と空気取入口33が形成される。排出口34は空気取入口33よりも大きめの開口を有し、冷却ファン4の外周側に配置される。空気取入口33を設ける位置は比較的任意であるが、空気取入口33から取り込まれる冷却風でFET24を冷却するために、冷却ファン4に対して空気取入口33が風上側になる位置に形成することが重要である。また、空気取入口33に加えてさらに、空気取入口21がモータハウジング2の後端付近に設けられ、モータハウジング2の後端付近には半径方向外側に斜めに延びる延在部2bが円周方向に連続して形成される。延在部2bを設けることによって、作業者がモータハウジング2の延在部2bよりも前方側を把持する傾向が顕著になり、空気取入口21の部分を把持して覆ってしまうことを有効に阻止することができる。また、仮に延在部2b付近を把持したとしても空気取入口21への空気の流れを妨げることを防止できる。
【0020】
本実施例では、モータ6の回転軸10はベアリング13bを超えて後方に延伸し、この延伸した部分に冷却ファン4が取り付けられる。冷却ファン4の後方には、ロータ7の回転位置を検出するための位置検出用マグネット23がボルト28によって回転軸10に固定される。位置検出用マグネット23は外形が円形の磁石であり、制御基板26に対向する位置に位置検出用マグネット23を設けることにより、ホールIC等の回転位置検出素子43(
図3参照)を、モータ6から離れた位置に配置される制御基板26上に設けることができるようなる。
【0021】
回転軸10の冷却ファン4を保持する部分には、円周方向に1箇所に軸方向に延びる溝が形成され、その溝内に金属製のキー22が設けられる。一方冷却ファン4の内周面にもキー22を嵌め込むための軸方向に延びる溝が形成される。キー22を挿入することによって冷却ファン4が回転軸10に対して空転しないようにすることができ、キー22はいわゆる回り止めとしての機能を果たす。冷却ファン4は位置検出用マグネット23と共にボルト28によって固定される。
【0022】
図2は本発明の実施例に係るディスクグラインダ1の上面図である。モータハウジング2は作業者が握るために円筒形の形状であり、この部分が把持部となる。モータハウジング2の後端付近には鍔のように外側に張り出した延在部2bが形成される。延在部2bはテールカバー32の前端部よりも所定の距離だけ前方にあり、その結果、モータハウジング2には細径部2cが形成される。そして、空気取入口21は上から見て延在部2bに隠れるように奥まった部分に配置される。このように細径部2cを形成したことにより、仮に作業者が延在部2b付近を握ったとしても空気取入口21を密閉してしまう恐れがほとんど無く、安定した空気の取り込みができる。さらに、延在部2bは後方側に斜めに突出するので、砥石5によって発生された切削粉等の粉塵が空気取入口21から吸引されることを効果的に阻止できる。
【0023】
テールカバー32は、右側テールカバー32aと左側テールカバー32bにより左右分割して構成され、ネジ42にて固定される。テールカバー32の軸方向(前後方向)と垂直面の断面は略四角形であり、制御基板26、電源基板27はテールカバー32に内側に形成されたリブによって固定される。テールカバー32には複数の排出口34と、複数の空気取入口33が設けられる。排出口34は冷却ファン4の外周側に並ぶように配置され、空気取入口33は制御基板26及び電源基板27の外周付近に並ぶように配置される。本実施例では、排出口34の数がテールカバー32の上側及び下側にそれぞれ4個ずつ形成され、空気取入口33の数がテールカバー32の上側及び下側にそれぞれ8個ずつ形成されるが、この数に限られずに、排出口34の数を増やしても良い。また、空気取入口33を、テールカバー32の側方や後方に空気取入口を設けるようにしても良い。尚、モータハウジング2及びテールカバー32からなるハウジングの構造は、本実施例だけに限られず、モータハウジング2とテールカバー32aを一体構成で製造し、テールカバー32bだけを分離できるように構成しても良いし、その他の構成で実現しても良い。
【0024】
図3は、本発明の実施例に係るディスクグラインダ1の冷却風の流れを説明するための図である。ハウジング(2、32)内に流入する空気の流れは主に2つある。1つはモータの冷却用に空気取入口21から矢印aの方向に吸引され、ステータコア8の外周部及びモータハウジング2の内壁の間を流れ、ステータ押さえ31付近で流れる方向が反転され、モータ6の内部(ステータコア8のコイル間、又は、ステータコア8とロータ7の間)を通過した後に冷却ファン4に流れ、排出口34から矢印cのように排出する流れである。もう一つは、空気取入口33から矢印bの方向に吸引され、電源回路17や後方側のFET24の周囲を流れた後に冷却ファン4に流れ、排出口34から矢印cのように排出する流れである。これらの空気の流れを
図3の矢印で示しているが、この図から冷却ファン4は、軸方向前方及び後方側から空気を吸引して、径方向外側に空気を流出させる形式、即ち遠心ファンであることが理解できるであろう。
【0025】
空気取入口21から取り込まれた空気は、ステータコア8とモータハウジング2の内壁に存在するわずかな隙間を前方側に流れ、ステータ押さえ31付近まで到達する。ステータ押さえ31の上側及び下側には切り欠き部があるため、この切り欠き部を通って、空気の流れ方向が反転させられる。そして、ステータコア8の上部とモータハウジング2の内壁の下部を通ってきた空気は下側に方向を変え、ステータコア8の下部とモータハウジング2の内壁の上部を通ってきた空気は下側に方向を変える。その後、空気はロータ7とステータコア8の間の空隙間を通ってモータ6の後方に流れる。モータハウジング2の後方側には、ベアリング13bを保持するための後壁が形成されるが、この後壁には配線29を通すと共に空気を後方に流すための複数の穴2aが形成され、空気はこの穴2aを通過して冷却ファン4に流入する。
【0026】
空気取入口33から取り込まれた空気流は、電源基板27と制御基板26の間を通り、制御基板26の中央付近に設けられた貫通穴を通過して位置検出用マグネット23の後面に沿って外周側に流れ、FET24に沿って流れて冷却ファン4に流入する。この流入した空気は、モータ6部を通過した空気と共に冷却ファン4によって排出口34から矢印cの方向に排出される。尚、冷却ファン4によって排出口34から排出される空気流に吸引されて一部の空気が空気取入口33からテールカバー32の内壁を沿って直接排出口34に排出される。この空気流によってFET24の外周側の面を冷やすことができるので、冷却効果の向上を一層図ることができる。
【0027】
本実施例では、発熱の大きいFET24は制御基板26上に搭載されるが、6つのFETのうち4つ(又は2つ)を冷却ファン4に対向するように配置し、2つ(又は4つ)を冷却ファン4とは反対側に配置する。このように配置することにより、空気取入口33から吸入された風がFET24の周囲を流れた後に冷却ファン4に流入するので、FET24を効果的に冷却することができる。
【0028】
次に
図4〜
図6を用いてモータハウジング2の各部分の断面構造を説明する。
図4は、
図1のA−A部の断面図である。本実施例では、径の小さいモータ6を実現するために、ステータコア8を6つの分割コア8a〜8fで構成した。分割コア8a〜8fはティース毎に円周方向に6分割される。分割コア8a〜8fの各ティース部分には銅線が巻かれ、コイル9が形成される。本実施例では、コイル9をU、V、W相の3相を有するスター結線とすることが好ましい。コイル9(U、V、W)には、回転位置検出素子43の位置検出信号に基づいて電気角120°の通電区間に制御された電流が、FET24を介して供給される。
【0029】
分割コア8a〜8fの外周側には回転軸と平行な方向に連続する凹部81が形成され、分割コア8a〜8fを6つ組み合わせてステータコア8を組み立てた後に、モータハウジング2に形成された軸方向に延びるリブ2dに凹部81を案内させながら、モータハウジング2の前方側の開口からステータコア8を挿入し、モータハウジング2に形成された突き当て部(空気取入口21付近の内壁側であって内径が小さくなった部分)に当接する位置まで押し込む。リブ2dは、コイル9が巻かれたステータコア8を保持するためにモータハウジング2の内壁に設けられた軸方向に連続する4本の突起である。
図4の状態では、分割コア8b、8c、8e、8fの凹部81がリブ2dに当接している状態を示しているが、分割コア8a、8dの凹部81はリブには当接していない。
【0030】
図5は、
図1のB−B部の断面図である。本図からステータコア8とモータハウジング2の内壁間の隙間14の部分に、空気を流すことができることが理解できるであろう。また、ステータコア8の内周側には、ロータコア7bと円筒形のマグネット7aからなるロータ7が回転可能に保持される。図示からはわかりにくいが、各コイル9の間、及び、マグネット7aとステータコア8との間には軸方向に連続する空間があり、この空間に空気を流すことができる。
【0031】
図6は、
図1のC−C部の断面である。C−C部においては、モータハウジング2の径が大きくなっていると共に、上下に5つずつの空気取入口21が形成されることが理解できるであろう。空気取入口21は、
図5で示した隙間14に連通する。尚、モータハウジング2の左右側の内壁とステータコア8の間であって、2つのリブ2d間にも空間があるが、本実施例ではこの空間に連通する空気取入口21は設けられていない。しかしながら、この空間に連通するように空気取入口21をモータハウジング2の側部にも設けるようにしても良い。
【0032】
ステータコア8のモータハウジング2への組み込みは、モータハウジング2の前方側の開口から後方に挿入するように行う。ステータコア8がモータハウジング2の内壁後端に突き当たった後に、ステータ押さえ31を前方側の開口から挿入し、ベアリングストッパ30を挟み込むようにして、ギヤカバー3をモータハウジング2にネジ止めする。尚、この組立ての際には、モータ6のロータ部分の組み立てや、コイル9からの配線29のテールカバー32内への引き出しなどの作業も伴うが、その組み立て手順は従来とほぼ同じであるのでここでの説明は省略する。
【0033】
以上のように構成することにより、ステータコア8のモータハウジング2への組み込み及び固定が容易にできる。また、この構成によりステータコア8の外周とモータハウジング2の内周(内壁)の間に微少の隙間が形成されるので、この空間に冷却風を流すことができ、ステータコア8やコイル9を良好に冷却することができる。
【0034】
図7は冷却ファン4の形状を示す斜視図であり、斜め前方から見た図である。冷却ファン4は、例えばプラスチックや軽金属等の一体構成によって構成された遠心ファンであり、円筒形の胴体部4aから円周方向に延びる8本のフィン4bを有する。胴体部4aの内側には回転軸10の延伸部分を貫通させるための貫通孔4cが形成される。尚、貫通孔4cには、回り止め部材であるキー22(
図1参照)を収容するための軸方向に延びる切り欠き部4dが形成される。
【0035】
図8はステータ押さえ31の形状を示す図であり、(1)は正面図であり、(2)は側面図である。ステータ押さえ31は、モータハウジング2に挿入されたステータコア8を固定するための保持部材である。また、モータ6の外周及び内部を流れる空気流を導くための案内部材としての役割を果たす。ステータ押さえ31の基本形状は円筒形であり、後方側の上部及び下部の約80°の範囲に渡って切り欠かれた切り欠き部31aが形成される。切り欠き部31aを形成した残りの部分、即ち側部は、後方に突出する押さえ部31bとなる。この押さえ部31bによってステータコア8が前後方向に移動しないように保持することができる。
【0036】
以上、本実施例によればモータの回転軸であって、先端工具側とは反対側の延伸部に冷却ファンを取り付けたので、モータを収容するハウジング部分の大きさの制限を受けることなく大きな外径の冷却ファンを取り付けることが可能となり、効果的にハウジング内部を冷却することができる。また、モータハウジングの後端付近に設けられた空気取入口から取り入れられた空気は、モータの外壁とモータハウジングの間の空間を通ってモータの前端付近まで流れて方向を変え、モータのステータとロータの間を流れて冷却ファンに流入し、排出口により外部に排出されるので、モータの前端から後端部まで全体を効率よく冷却することができる。さらに、テールカバーの空気取入口から吸引された空気でスイッチング素子を冷却したのち排出口により外部に排出するので、取り込んだ外気で直接スイッチング素子を冷却することができ、高い冷却効果を実現することができる。