(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700300
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】ダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/00 20060101AFI20150326BHJP
B22D 17/14 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
B22D17/00 B
B22D17/14
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-278027(P2011-278027)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-128937(P2013-128937A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 隆彰
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−048042(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/002658(WO,A1)
【文献】
特開平05−118360(JP,A)
【文献】
特開平02−217133(JP,A)
【文献】
特開昭61−150747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 17/00−17/32,
B22C 9/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの収容空間を形成する中空部を挟んで対向する対向部分と、該対向部分の両側を連結する連結部とを具備するアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法であって、
上記両対向部分のいずれか一方の対向部分に中子を用いて形成される貫通孔がピストンを摺動可能に嵌挿するシリンダ形成部を形成し、他方の上記対向部分に中子を用いて形成される凹所が上記シリンダ形成部と対向する部位に設けられるシリンダ形成部を形成し、
上記対向部分のうちの凹所が形成される側に形成された溶湯のゲートから上記連結部及び両対向部分を繋ぐブリッジを通じてアルミニウム合金からなる溶湯を注湯して鋳造するダイカスト工程と、
その後、上記ブリッジを除去するブリッジ除去工程と、を具備する、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記貫通孔と凹所が直線上に同じ中子で形成される、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記凹所が上記収容空間の中心部に関して2箇所に形成され、上記ブリッジが上記両凹所の中間部に位置する、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記凹所が3箇所以上形成され、隣接する上記凹所間に上記ブリッジが位置する、ことを特徴とするアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ブレーキキャリパは、上記ゲートからの溶湯流路途中に溶湯流路抵抗の大きい部分がある、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ブレーキキャリパは、上記ゲートからの溶湯流路途中に溶湯流路断面の小さい部分の奥に容積の大きい部分がある、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ブリッジは断面円形又は断面横長楕円形である、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ブリッジは断面角形である、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし4,7又は8のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ブリッジは上記ゲートの直線上に形成されている、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし4,7,8又は9のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記溶湯のゲートの開口面積に対する上記ブリッジの断面積が、0.5〜10倍である、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ダイカスト工程によって鋳造された半製品を、上記ブリッジ除去工程の前に、熱処理を施す熱処理工程を更に具備する、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項12】
請求項11記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記熱処理工程は溶体化処理を含む熱処理工程である、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項13】
請求項12記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記溶体化処理後、水冷による焼入れ処理を含むことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記ダイカスト工程が、真空ダイカスト法、酸素雰囲気ダイカスト法、又は真空ダイカスト法と酸素雰囲気ダイカスト法を組み合わせた方法のいずれかである、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載のダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、
上記溶湯を複数のゲートから注湯する、ことを特徴とするダイカスト法を用いたアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイカスト法を用い
たアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム製品の鋳造法には多種の方法があり、例えば、重力金型鋳造法や重力と反対方向に溶湯を押し上げて金型内に注湯する低圧鋳造法がある。また、上記鋳造法に比べて寸法精度の向上及び生産性の向上が図れる技術として、高速及び高圧力によって金型内に溶湯を注湯(圧入・充填)して鋳造するダイカスト法が知られている。アルミニウム製品の製造方法としてもダイカスト法も利用されている。また、ダイカスト法としてはキャビティ内の空気の巻込みによる巣の発生を防ぐ目的で無孔性ダイカスト法も知られている。
【0003】
一般にアルミニウム製のディスクブレーキ用キャリパ(以下に、ブレーキキャリパという)は、例えば、特許文献1に示されるように重力鋳造方法により製造されていた。また、ダイカスト法を用いてブレーキキャリパを製造することを示唆する文献として、例えば、特許文献2に示されるものもあるが、その具体的製造方法は言及されていない。
【0004】
ブレーキキャリパは、ディスクを収容する収容空間(中空部)を挟んで対向する対向部分と、該対向部分の両側を連結する連結部とを具備し、対向部分にはピストンが嵌挿可能なシリンダ部が形成される複雑な形状を有している。
【0005】
また、高速で回転するディスクを上記ピストンに取付けたブレーキパットで挟持させ回転停止させるものであり、最終的寸法精度は精密性を要するため、寸法精度を高く鋳造可能なダイカスト方法での製造を行うことにより最終仕上げ加工工数も低減できるので、ダイカスト方法の実現が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−220667号公報(
図2)
【特許文献2】特開平5−118360号公報(段落0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記ブレーキキャリパのような複雑な形状を有するアルミニウム製品をダイカスト法で製造する場合、金型分割線の配置、中子の配置に制限が生じ、溶湯のゲートの配置等の金型の構造に制限が生じる。
【0008】
このため、一方の対向部分側から注湯された溶湯は両側の連結部を通して他方の対向部分に迂回して流れるため、溶湯の湯流れや湯回りが遅くなり、それが起因して微細な気泡や鋳巣が生じて、品質が低下する懸念がある。また、溶湯の流路途中に溶湯の流路抵抗の大きい部分のある製品も同様の問題があった。
【0009】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、鋳造時の溶湯の湯流れや湯回りの改善を図り、生産性の向上及び品質の向上を図れるようにしたダイカスト法を用い
たアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、この発明のダイカスト法を用いたアルミニウム製
ブレーキキャリパの製造方法は、
ディスクの収容空間を形成する中空部を挟んで対向する対向部分と、該対向部分の両側を連結する連結部とを具備するアルミニウム製
ブレーキキャリパの製造方法であって、
上記両対向部分のいずれか一方の対向部分に中子を用いて形成される貫通孔がピストンを摺動可能に嵌挿するシリンダ形成部を形成し、他方の上記対向部分に中子を用いて形成される凹所が上記シリンダ形成部と対向する部位に設けられるシリンダ形成部を形成し、 上記対向部分のうちの凹所が形成される側に形成された溶湯のゲートから上記連結部及び両対向部分を繋ぐブリッジを通じてアルミニウム合金からなる溶湯を注湯して鋳造するダイカスト工程と、 その後、上記ブリッジを除去するブリッジ除去工程と、を具備する、ことを特徴とする(請求項1)。
【0011】
このように構成することにより、ディスクの収容空間を形成する中空部を挟んで対向する対向部分を有するブレーキキャリパにおいて、対向部分の一方側から注湯された溶湯は両側の連結部と両対向部分を繋ぐブリッジを通して他方の対向部分に流れるので、湯流れ及び湯回りの改善が図れる。
また、このように構成することにより、金型の設計も容易となる。
【0012】
この発明において、上記アルミニウム製品は、上記ゲートからの溶湯流路途中に溶湯流路抵抗の大きい部分がある場合(請求項
5)、あるいは、上記ゲートからの溶湯流路途中に溶湯流路断面の小さい部分の奥に容積の大きい部分がある場合(請求項
6)が含まれる。
【0013】
また、この発明において、上記ブリッジは、断面円形又は断面横長楕円形あるいは断面角形であってもよい(請求項
7,8)。この場合、上記ブリッジは上記ゲートの直線上に形成されている方が好ましい(請求項
9)。
【0014】
このように構成することにより、ブリッジの断面が円形又は楕円形である場合、溶湯の流路抵抗が減少する。また、ブリッジの断面が角形の場合は、ブリッジの一部が分割線に掛かればよいので、ブリッジの位置の設計に自由度を増すことができる。
【0015】
また、この発明において、上記溶湯のゲートの開口面積に対する上記ブリッジの断面積を、0.5〜10倍とする方がよい(請求項
10)。
【0016】
ゲートの開口面積に対するブリッジの断面積の比が、0.5倍より小さいと、湯流れに対する抵抗が大きくなる可能性があり、湯回り性向上の効果が小さくなる。また、ゲートの開口面積に対するブリッジの断面積の比が、10倍より大きいと、ブリッジの体積が大きくなりすぎて、本来不必要な部分の比率が多くなり、除去工程も負荷が上がるなど、コスト面で不利になる。
【0019】
また、請求項
11記載の発明は、請求項1ないし
10のいずれかに記載の発明において、上記ダイカスト工程によって鋳造された半製品を、上記ブリッジ除去工程の前に、熱処理を施す熱処理工程を更に具備することを特徴とする。この場合、上記熱処理工程は溶体化処理を含む熱処理工程とするものである(請求項
12)。また、上記溶体化処理後、水冷による焼入れ処理を施すのがよい(請求項
13)。
【0020】
このように構成することにより、ダイカスト工程によって鋳造された半製品を、例えばT6処理(溶体化処理後焼入れし、人工時効硬化処理)することで、製品の強度を高めることができる。この際、半製品の中空部にはブリッジが設けられることで、熱処理に際しての加熱に伴う製品の軟化による製品の変形を防止・抑制することができる。この場合、溶体化処理することにより、溶体化処理後の焼入れによる急冷に伴う変形を防止・抑制することができる(請求項
13)。
【0021】
また、この発明において、上記ダイカスト工程は、高圧・高速充填を行うダイカスト法であれば任意の方法であってもよいが、好ましくは真空ダイカスト法、酸素雰囲気ダイカスト法又は真空ダイカスト法と酸素雰囲気ダイカスト法を組み合わせた方法のいずれかを用いる方がよい(請求項
14)。この場合、真空ダイカスト法は、空気やガスの巻き込みを防ぐために溶湯を注湯(圧入・充填)する直前に金型キャビティを真空ポンプで吸引し、減圧状態にした後に溶湯を注湯(圧入・充填)する方法であるため、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制することができる。また、酸素雰囲気ダイカスト法は、湯路、金型キャビティの空気を酸素ガスで置換した後に、溶湯を注湯(圧入・充填)するため、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制することができる。また、真空ダイカスト法や酸素雰囲気ダイカスト法を用いることで、T6処理が可能となる。
【0022】
また、この発明において
、上記溶湯を複数のゲートから注湯するようにしてもよい(請求項15)。
【0023】
このように構成することにより、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。
【0027】
請求項
1又は2に記載のアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、上記凹所が上記収容空間に2箇所に形成され、上記ブリッジが上記両凹所の中間部に位置し、上記ブリッジを通じて流れる溶湯を対向部分に流すようにする方が好ましい(請求項
3)。
【0028】
このように構成することにより、溶湯の湯流れ及び湯回りを均一かつ迅速にすることができる。
【0029】
また、請求項
1又は2に記載のアルミニウム製ブレーキキャリパの製造方法において、上記シリンダ部が3箇所以上形成され、隣接する上記凹所間に上記ブリッジが位置する方が好ましい(請求項
4)。
【0030】
このように構成することにより、ブリッジを通じて流れる溶湯を隣接する両凹所側に流すことができるので、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0031】
この発明によれば、上記のように構成されているので、以下のような顕著な効果が得られる。
【0032】
(1)請求項
1,2,5〜10記載の発明によれば、
ディスクを収容する中空状の収容空間を挟んで対向する対向部分を有するブレーキキャリパにおいて、対向部分の一方側から注湯された溶湯を両側の連結部と両対向部分を繋ぐブリッジを通して他方の対向部分に流すことにより、湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。したがって、
ブレーキキャリパの生産性の向上が図れると共に、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制して、品質の向上を図ることができる。
【0033】
(2)請求項
11〜13記載の発明によれば、ダイカスト工程によって鋳造された半製品を熱処理、例えばT6処理(溶体化処理後焼入れし、人工時効硬化処理)することで、上記(1)に加えて、更に製品の強度を高めることができる。また、半製品の中空部にはブリッジがあることで、製品の変形を防止・抑制することができるので、製品の剛性が図れる。
【0034】
(3)請求項
14記載の発明によれば、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制することができるので、上記(1),(2)に加えて、更に品質の向上を図ることができる。
【0035】
(4)請求項
15記載の発明によれば、更に溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができるので、上記(1)〜(3)に加えて、更に生産性の向上及び品質の向上を図ることができる。
【0037】
(
5)請求項
3記載の発明によれば、溶湯の湯流れ及び湯回りを均一かつ迅速にすることができるので、上記(
1)に加えて、更にブレーキキャリパの生産性の向上が図れると共に、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制して、品質の向上を図ることができる。
【0038】
(
6)請求項
4記載の発明によれば、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができるので、上記(
1)に加えて、更にブレーキキャリパの生産性の向上が図れると共に、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制して、品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】この発明におけるダイカスト工程によって作製されるアルミニウム製品の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態のアルミニウム製品の溶湯の流れを示す概略断面図である。
【
図3】この発明におけるダイカスト工程によって作製されるアルミニウム製品の第2実施形態を示す斜視図である。
【
図4】第2実施形態のアルミニウム製品の溶湯の流れを示す概略断面図である。
【
図5】この発明におけるダイカスト工程によって作製されるアルミニウム製品の第3実施形態を示す斜視図である。
【
図6】第3実施形態のアルミニウム製品の溶湯の流れを示す概略断面図である。
【
図7】この発明におけるダイカスト工程によって作製されるアルミニウム製品の第4実施形態を示す斜視図である。
【
図8】第4実施形態のアルミニウム製品の溶湯の流れを示す概略断面図である。
【
図10A】この発明におけるダイカスト工程によって作製されるアルミニウム製ブレーキキャリパを示す斜視図である。
【
図11】上記ブレーキキャリパの溶湯の流れを示す概略断面図(a)及び別の溶湯の流れを示す概略断面図(b)である。
【
図12A】この発明におけるダイカスト工程によって作製される別のアルミニウム製ブレーキキャリパを示す斜視図である。
【
図13】上記ブレーキキャリパの溶湯の流れを示す概略断面図である。
【
図14】この発明に係る第1の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図15】上記第1の製造方法によって作製される製品の工程を示す概略断面図である。
【
図16】この発明に係る第2の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図17】上記第2の製造方法によって作製される製品の工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、この発明を実施するための形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0041】
まず、この発明に係る製造方法のダイカスト工程によって作製されるアルミニウム製品について、
図1ないし
図11を参照して説明する。
【0042】
<第1実施形態>
第1実施形態のアルミニウム製品1A(以下に製品1Aという)は、
図1に示すように、中空部2を挟んで対向する対向部分3a,3bと、対向部分3a,3bの両側を連結する一対の連結部4とからなる中空矩形状に形成されており、中空部2における中心部の対向部分3a,3bには、ダイカスト工程後に除去されるブリッジ5が繋がれている。上記中空部2,対向部分3a,3b,連結部4及びブリッジ5は、図示しない金型によって形成されるキャビティ内に溶湯が充填されることで形成される。
【0043】
この場合、ブリッジ5は、例えば断面が円形又は横長楕円形に形成される。ブリッジ5の断面を円形又は楕円形にした場合は、ブリッジ5の直径が後述する金型(図示せず)の分割線D上に位置する必要があるが、溶湯の流路抵抗を減少することができる。なお、ブリッジ5の断面を角形に形成してもよい。ブリッジ5の断面を角形にすることにより、ブリッジ5の一部が分割線Dに掛かればよいので、ブリッジ5の位置の設計に自由度を増すことができる。
【0044】
金型における一方の対向部分3a側には溶湯を注湯するための溶湯のゲート6が設けられ、他方の対向部分3b側にはオーバーフローゲート(図示せず)が設けられている。この場合、ゲート6とブリッジ5は、図示しない金型の分割線D(破線で図示)上に位置している。なお、ゲート6は、上記中心部以外に複数例えば左右の対称位置に設けてもよい。
【0045】
上記製品1Aを作製するダイカスト工程における溶湯の流れは、
図2に示すように、ゲート6に圧入された溶湯はゲート6を通過した後広がってブリッジ5側と左右の連結部4側へ流れて、他方の対向部分3b側へ流れる。
【0046】
<第2実施形態>
第2実施形態のアルミニウム製品1B(以下に製品1Bという)は、
図3に示すように、第1実施形態の製品1Aにおける対向部分3a,3bにおける中心部に対して両側に貫通孔である円形開口部7が設けられ、溶湯流路に流路の断面積が減少する箇所、つまり溶湯流路抵抗の大きい部分がある点で第1実施形態と相違する。第2実施形態において、その他の部分は第1実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付して説明は省略する。上記中空部2,円形開口部7を有する対向部分3a,3b,連結部4及びブリッジ5は、図示しない金型によって形成されるキャビティ内に溶湯が充填されることで形成される。
【0047】
上記製品1Bを作製するダイカスト工程における溶湯の流れは、
図4に示すように、ゲート6に到達した溶湯はゲート6を通過した後広がってブリッジ5側と左右の連結部4側へ流れて、他方の対向部分3b側へ流れる。この際、対向部分3a,3bを流れる溶湯は、円形開口部7を囲むようにして流れる。
【0048】
<第3実施形態>
第3実施形態のアルミニウム製品1C(以下に製品1Cという)は、
図5に示すように、第1実施形態の製品1Aにおける対向部分3a,3bにおける中心部及び左右両端部に断面矩形状の脚部8が設けられ、溶湯流路途中に溶湯流路断面の小さい部分(連結部4)のゲート6側より奥に容積の大きい部分(脚部8)がある点で第1実施形態と相違する。第3実施形態において、その他の部分は第1実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付して説明は省略する。上記中空部2,脚部8を有する対向部分3a,3b,連結部4及びブリッジ5は、図示しない金型によって形成されるキャビティ内に溶湯が充填されることで形成される。
【0049】
上記製品1Cを作製するダイカスト工程における溶湯の流れは、
図6に示すように、ゲート6に到達した溶湯はゲート6を通過した後広がってブリッジ5側と左右の連結部4側へ流れて、他方の対向部分3b側へ流れる。この際、対向部分3a,3bを流れる溶湯は脚部8にも流れる。
【0050】
<第4実施形態>
第4実施形態のアルミニウム製品1D(以下に製品1Dという)は、
図7及び
図9に示すように、第1実施形態の製品1Aにおける対向部分3a,3bにおける中心部に対して両側に貫通孔である矩形開口部9が設けられる点と、連結部4aが対向部分3a,3bの上面より隆起して設けられる点で相違している。また、第4実施形態は、第1実施形態に対して溶湯流路に流路の断面積が減少する箇所、溶湯流路抵抗の大きい部分、及び、溶湯流路途中に溶湯流路断面の小さい部分のゲート6側より奥に容積の大きい部分がある点で相違する。また、第4実施形態においては、金型の分割線Dが対向部分3a,3bの矩形開口部9の上端面と連結部4の下面に沿う段状になっている点で相違する。
【0051】
なお、第4実施形態の製品1Dに設けられる矩形開口部9は中子(図示せず)を用いて形成される。なお、第4実施形態において、その他の部分は第1実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付して説明は省略する。
【0052】
上記製品1Dを作製するダイカスト工程における溶湯の流れは、
図8に示すように、ゲート6に到達した溶湯はゲート6を通過した後広がってブリッジ5側と左右の隆起する連結部4a側へ流れて、他方の対向部分3b側へ流れる。この際、対向部分3a,3bを流れる溶湯は矩形開口部9を囲むようにして流れる。
【0053】
<第5実施形態>
第5実施形態はアルミニウム製品をアルミニウム製ブレーキキャリパ10に適用した場合である。
【0054】
上記ブレーキキャリパ10は、
図10A及び
図10Bに示すように、第1〜第4実施形態の中空部がディスクの収容空間11を形成し、対向部分3a,3bのうちの対向部分3aにおける中心部に対して両側の位置に、ピストンを摺動可能に嵌挿する貫通孔よりなるシリンダ形成部12が設けられ、他方の対向部分3bには、シリンダ形成部12と対向する部位に凹所よりなるシリンダ形成部13が設けられ、シリンダ形成部13の中間部に溶湯のゲート6が設けられている。また、一方の対向部分3aの左右両側には、ブレーキの取り付けのための肉厚円筒部14が突設されており、連結部4の中央下部にはスリット15が設けられている。なお、肉厚円筒部14に代えて板状の取付部を設けてもよい。
【0055】
第5実施形態のブレーキキャリパ10に設けられるシリンダ形成部12と凹所よりなるシリンダ形成部13は、直線上に同じ中子(図示せず)で形成され、ゲート6が中子を取り外す側でないシリンダ形成部13の側の対向部分3bに形成されている。なお、上記シリンダ形成部12と13は図面上円形に形成されているが、円形以外の形状、例えば半月形に形成してもよい。
【0056】
なお、第5実施形態において、その他の部分は第1実施形態と同じであるので、同一部分には同一部分には同一符号を付して説明は省略する。
【0057】
上記ブレーキキャリパ10を作製するダイカスト工程における溶湯の流れは、
図11(a)に示すように、ゲート6に到達した溶湯はゲート6を通過した後広がってブリッジ5側と左右の連結部4側へ流れて、他方の対向部分3a側へ流れる。この際、対向部分3bを流れる溶湯はシリンダ形成部13を囲むようにして流れる。また、他方の対向部分3aを流れる溶湯はシリンダ形成部12を囲むようにして流れると共に、左右の肉厚円筒部14に流れる。
【0058】
なお、
図11(a)では、ゲート6が対向部分3b側の中心部の1箇所に設けられる場合について説明したが、
図11(b)示すように、対向部分3bの両側に更に2つのゲート6を設けて、3つのゲート6から溶湯を注湯するようにしてもよい。
【0059】
<その他の実施形態>
上記実施形態では、ブリッジ5が1個の場合について説明したが、ブリッジ5は必ずしも1個である必要はなく、例えば
図1に二点鎖線で示すように、中心部のブリッジ5の両側の位置にブリッジ5を設けてもよい。
【0060】
また、上記第5実施形態のブレーキキャリパ10では、1個のブリッジ5と2つのシリンダ形成部12を有する場合について説明したが、例えば
図12に示すように、シリンダ形成部12とシリンダ形成部13が3箇所形成され、ブリッジ5が隣接するシリンダ形成部12及びシリンダ形成部13間に位置し、上記ブリッジ5を通じて流れる溶湯を隣接する両シリンダ形成部12及びシリンダ形成部13側に流すようにしてもよい。
【0061】
このように構成することにより、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。
【0062】
次に、この発明に係る製造方法について、
図14ないし
図17を参照して詳細に説明する。ここでは、アルミニウム製品が第5実施形態のブレーキキャリパ10である場合について説明する。
【0063】
◎製造方法−1
<ステップS−1:金型組付け>
金型を組み付けると共に、中子(図示せず)を用いて、収容空間11を挟んで対向する対向部分3a,3bと、対向部分3a,3bの両側を連結する連結部4と、対向部分3a,3bの中心部を繋ぐブリッジ5及び対向部分3aの左右両側に突出する肉厚円筒部14のキャビティを形成すると共に、一方の対向部分3aにおけるブリッジ5に対して両側の位置にシリンダ形成部12と、他方の対向部分3bにシリンダ形成部13を形成する(
図15(a)参照)。
【0064】
<ステップS−2:ダイカスト工程>
一方の対向部分3b側に設けられたゲート6から溶湯を注入して、溶湯を上記対向部分3a,3b,連結部4,ブリッジ5及び肉厚円筒部14の湯路内に流す。すると、溶湯はゲート6を通過した後広がってブリッジ5側と左右の連結部4側へ流れて、他方の対向部分3a側へ流れる。この際、対向部分3bを流れる溶湯はシリンダ形成部13を囲むようにして流れる。また、他方の対向部分3aを流れる溶湯はシリンダ形成部12を囲むようにして流れると共に、左右の肉厚円筒部14に流れる(
図15(b)参照)。
【0065】
ここで、溶湯はダイカスト用アルミニウム合金のうち、耐圧性,機械的性質及び耐食性に優れている例えばADC3{Cu:0.6重量%,Si:9.0〜10.0重量%,Mg:0.4〜0.6重量%,Zn:0.5重量%,Fe:1.3重量%,Mn:0.3重量%,Ni:0.5重量%,Sn:0.1重量%,残部Al}が使用される。
【0066】
このダイカスト工程において、溶湯のゲート6の開口面積に対するブリッジ5の断面積は、0.5〜10倍に設定する方がよい。
【0067】
その理由は、ゲート6の開口面積に対するブリッジ5の断面積の比が、0.5倍より小さいと、対向部分3aに溶湯の流れの抵抗が増し、湯回り性向上の効果が小さくなる。また、ゲート6の開口面積に対するブリッジ5の断面積の比が、10倍より大きいと、ブリッジ5の体積が大きくなりすぎて、本来不必要な部分の比率が多くなり、後工程の除去工程において負荷が上がるなど、コスト面で不利になるからである。
【0068】
<ステップS−3:熱処理工程>
ダイカスト工程の後、ダイカスト工程によって作製されたブリッジ5を有する半製品に熱処理(例えばT6処理)を施す。すなわち、半製品を溶体化処理後人工時効硬化処理する。この場合、溶体化は480〜520℃の温度下で30分〜5時間行い、水冷による焼入れ処理後、時効は150〜180℃の温度下で3〜6時間行う(
図15(c)参照)。
【0069】
この熱処理(T6処理)の際、半製品は収容空間11にブリッジ5を有するので、熱処理によって変形の防止・抑制が図れる。また、熱処理工程において溶体化処理時の高温による軟化により、溶体化処理後の焼入れに際して変形をしにくくすることができる。
【0070】
<ステップS−4:ブリッジ除去工程>
上記のようにして熱処理を行った後、両対向部分3a,3bを繋ぐブリッジ5を対向部分3a,3bから切除する(
図15(d)参照)。
【0071】
<ステップS−5:仕上げ>
ブリッジ5を切除した後、機械加工によってシリンダ形成部12に連通する作動油の連通路を形成してブレーキキャリパ10を作製する。この場合、ドリル等の工具を用いて連通路を形成することができ、連通路を形成した後、ドリルの挿入口に作動油の供給口を形成する。なお、不要なドリル挿入口は栓で塞ぐ。
【0072】
◎製造方法−2
製造方法−2は、
図16及び
図17に示すように、製造方法−1と同様に、金型組付け(ステップS−1、
図17(a)参照)、ダイカスト工程(ステップS−2,
図17(b)参照)、熱処理工程(ステップS−3,
図17(c)参照)及びブリッジ除去工程(ステップS−4,
図17(d)参照)を具備しているが、以下の点で相違している。
【0073】
すなわち、製造方法−2は、上記製造方法−1のダイカスト工程の溶湯の注湯(圧入・充填)前に、金型によって形成された、対向部分3a,3bと、対向部分3a,3bの両側を連結する連結部4と、対向部分3a,3bの中心部を繋ぐブリッジ5及び対向部分3aの左右両側に突出する肉厚円筒部14のキャビティ内を真空引きするか(ステップS−2a、
図17(e)参照)、あるいは、キャビティ内を減圧(ステップS−2b)した後、酸素ガス(O2)を供給してキャビティの空気を酸素ガスで置換する(ステップS−2b、
図17(f)参照)。
【0074】
このようにキャビティ内を真空引き、あるいは、酸素ガスで置換した後、溶湯を注湯(圧入・充填)することにより、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制することができる。また、真空ダイカスト法や酸素雰囲気ダイカスト法を用いることで、鋳巣の発生を防止し良好な製品を得ることができ、更にT6処理を好適に行うことができる。
【0075】
なお、上記製造方法では、アルミニウム製品がアルミニウム製ブレーキキャリパである場合について説明したが、ブレーキキャリパ10以外の第1〜第4実施形態アルミニウム製品1A〜1Dについても上記製造方法−1,製造方法−2を用いてアルミニウム製品1A〜1Dを作製することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、ダイカスト工程の後に熱処理工程を行う場合について説明したが、熱処理工程を経ずに、ブリッジ除去工程を行ってもよい。
【0077】
上記のように構成される上記実施形態によれば、中空部2(収容空間11)を挟んで対向する対向部分3a,3bの一方の対向部分3a又は3b側から注湯された溶湯を両側の連結部4と両対向部分3a,3bを繋ぐブリッジ5を通して他方の対向部分3b又は3aに流すことにより、湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。したがって、生産性の向上が図れると共に、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制して、品質の向上を図ることができる。
【0078】
また、ダイカスト工程によって鋳造された半製品を熱処理、例えばT6処理(溶体化処理後焼入れし、人工時効硬化処理)することで、製品の強度を高めることができる。また、半製品の中空部にはブリッジ5があることで、溶体化処理後の水冷時の急激な冷却によっても製品の変形を防止・抑制することができるので、製品の剛性が図れる。
【0079】
また、ダイカスト工程における溶湯の注湯前に、キャビティ内を真空引き、あるいは、酸素ガスで置換することにより、溶湯中の微細な気泡や鋳巣を抑制することができるので、更に品質の向上を図ることができる。
【0080】
また、溶湯のゲート6及びブリッジ5を、油路を形成する金型の分割線D上に形成することにより、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。
【0081】
また、対向部分3a,3bを複数のブリッジ5で繋ぐことにより、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。また、溶湯を複数のゲート6から注湯することにより、溶湯の湯流れ性及び湯回り性を良好にすることができる。したがって、更に生産性の向上及び品質の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0082】
1A〜1D アルミニウム製品
2 中空部
3a,3b 対向部分
4 連結部
5,5a,5b ブリッジ
6 ゲート
7 円形開口部
8 脚部
9 矩形開口部
10 ブレーキキャリパ
11 収容空間
12 シリンダ形成部
13 シリンダ形成部
14 肉厚円筒部
15 スリット