(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、安全に、かつ容易にエネルギー源としての水素を貯蔵できる合金であり、新しいエネルギー変換用及び貯蔵用の材料として非常に注目されている。
機能性材料としての水素吸蔵合金の応用分野としては、水素の貯蔵及び/又は輸送、熱の貯蔵及び/又は輸送、熱−機械間のエネルギーの変換、水素の分離及び/又は精製、水素同位体の分離、水素を活物質とした電池、合成化学における触媒、温度センサーなどの広範囲にわたって提案されている。
【0003】
例えば、水素吸蔵合金を負極材料に使用したニッケル水素蓄電池は、(a)高容量であること、(b)過充電及び過放電に強いこと、(c)高率充放電が可能であること、(d)クリーンであること、などの特長を持つため、民生用電池として注目され、また、その実用化や、応用が活発に行われている。
このように、水素吸蔵合金は、機械的、物理的、化学的に様々な応用の可能性を秘めており、将来の産業におけるキー材料の一つとして挙げられる。
【0004】
このような水素吸蔵合金の一応用例であるニッケル水素蓄電池の電極材としては、これまでにCaCu
5型結晶構造を有するAB
5型希土類−Ni系合金が実用化されているが、これらの合金は放電容量が約300mAh/gで限界となり、さらなる高容量化は困難な状況である。
【0005】
これに対し、近年、高容量化が可能な希土類−Mg−Ni系合金が注目されている。これらの合金はそれぞれ異なる複雑な積層構造を有しており、電極に用いることでAB
5型合金を上回る放電容量を示すことが報告されており、次世代ニッケル水素電池用負極材料として期待されている。
このような希土類−Mg−Ni系合金の高い放電容量を維持したまま、サイクル特性を向上させるべく、水素吸蔵合金にさらに加える金属の種類や量を調整することが行われている(特許文献1〜4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような先行技術においても未だ十分なサイクル特性を満足させる水素吸蔵合金は得られていない。
【0008】
そこで、本発明は、電極とした場合に高い放電容量を保ちながら、サイクル特性にすぐれている水素吸蔵合金を提供することを課題とする。
また本発明は、放電容量が高く、充放電を繰り返した際にも容量維持率が低下しにくい水素吸蔵合金電極および二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、本発明にかかる水素吸蔵合金は、
化学組成が、一般式M1
tM2
uM3
vCa
wMg
xNi
yM4
z(但し、
16×(d−1.870)/(d−r)≦v≦16×(d−1.860)/(d−r)、
1.6≦w≦3.2、
4.1≦x≦5.1、
3.2≦(y+z)/(t+u+v+w+x)≦3.4、
t+u+v+w+x+y+z=100であり、
M1はLa,Pr,Ndから選択される1種又は2種以上の元素、
M2はV,Nb,Ta,Ti,Zr,Hfから選択される1種又は2種以上の元素、
M3はSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は
2種以上の元素、
M4はCo,Mn,Al,Cu,Fe,Cr,Znから選択される1種又は2種以上の元
素、
dは、M1として選択された元素の平均原子半径
(10−10m)、
rは、M3として選択された元素の平均原子半径
(10−10m)である。)
で表されることを特徴としている。
【0010】
尚、本発明において原子半径として用いられる値は「2成分合金系中の元素の金属挙動の予想に有用な算出データ集(Compilation of calculated data useful in predicting metallurgical behavior of the elements in binary alloy systems)」〔ティータム(Teatum, E.)、外2名著、LA-2345、ロスアラモス サイエンティフィック ラボラトリー(Los Alamos Scientific Laboratory)、1960年刊行〕に記載の原子半径の値をいう。
【0012】
さらに、本発明の水素吸蔵合金は、vが、0.5≦v≦3.7を満たすように設定されることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明の水素吸蔵合金は、vが、1.6≦v≦3.5を満たすように設定されることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の水素吸蔵合金は、M3がSmであることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明は、上記のような水素吸蔵合金を水素貯蔵媒体として用いたことを特徴とする水素吸蔵合金電極を提供する。
【0018】
また、本発明は、上記のような水素吸蔵合金を含む負極を備えたことを特徴とする二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る水素吸蔵合金は、前記のような化学組成を有する水素吸蔵合金であるため、水素の吸蔵と放出とを繰り返した場合にも水素吸蔵容量の保持率が高く、しかも水素吸蔵量も多いという極めて優れた性質を備えたものである。
【0020】
また、本発明に係る二次電池は、そのような新規な水素吸蔵合金を備えたことにより、放電容量が高く、充放電を繰り返した際にも容量維持率が低下しにくいサイクル性に優れた二次電池となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る水素吸蔵合金の実施形態について説明する。
本実施形態の水素吸蔵合金は、化学組成が、一般式M1
tM2
uM3
vCa
wMg
xNi
yM4
zで表されるものであって、一般的に希土類−Mg−Ni系合金と称されるもののうち、特に、希土類−Ca−Mg−Ni系合金と称される水素吸蔵合金に含まれる合金である。
【0023】
ここで、M1はLa、Pr,Ndから選択される1種又は2種以上の元素、M2はV,Nb,Ta,Ti,Zr,Hfから選択される1種又は2種以上の元素、M3はSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は2種以上の元素で、M4はCo,Mn,Al,Cu,Fe,Cr,Znから選択される1種又は2種以上の元素である。
このとき、M1として選択された元素の平均原子半径をdとし、M3として選択された元素の平均原子半径をrとした場合、M3の比率vは16×(d−1.870)/(d−r)≦v≦16×(d−1.860)/(d−r)を満たし、Caの比率は、1.6≦w≦3.2、Mgの比率は、4.1≦x≦5.1を満たし、各成分の比率は、3.2≦(y+z)/(t+u+v+w+x)≦3.4、で且つt+u+v+w+x+y+z=100の関係を満たす。
尚、前記各平均原子半径d、rの単位は、10
−10mである。
【0024】
尚、上記M3の比率であるvについて、16×(d−1.870)/(d−r)≦v≦16×(d−1.860)/(d−r)を満たす場合、すなわち、M1として選択された金属及びM3として選択された金属の各原子半径と、M3の比率の関係が上記式を満たす場合には、主生成相であるCe
2Ni
7型結晶構造(2:7H)、(あるいはGd
2Co
7型結晶構造(2:7R))におけるa軸長は5.023Å〜5.033Åの範囲となる。
a軸長がこの範囲にある時に本実施形態の水素吸蔵合金は特に顕著にサイクル特性の改善が見られる。
具体的には、M3の比率vの範囲は0.5≦v≦3.7、好ましくは1.6≦v≦3.5を満たすことが好ましい。
【0025】
また、M3としての金属元素であるSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuのいずれも、その含有比率が上記式を満たす場合には前記a軸長が5.023Å〜5.033Åの範囲となる関係にある。これは、M1とM3を含む全希土類の平均原子半径とa軸長との間に直線関係があることに起因する。そして、本実施形態の水素吸蔵合金において希土類であるM1の一部を置換する金属としてM3を含有した場合に、サイクル特性の顕著な改善という効果を発揮しうる。
但し、M3の含有比率は元素によって相違する。例えば、M1としてLaを採用した場合において、M3=Smの場合にはv=1.6〜3.5、M3=Gdの場合にはv=1.6〜3.5、M3=Tbの場合にはv=1.3〜2.8、M3=Dyの場合にはv=1.2〜2.6、M3=Hoの場合にはv=1.1〜2.4、M3=Erの場合にはv=1.0〜2.2、M3=Tmの場合にはv=0.9〜2.0、M3=Ybの場合にはv=0.9〜1.9、M3=Luの場合にはv=0.9〜1.9となる。
【0026】
また、本実施形態の水素吸蔵合金においては、M1の比率t,M2の比率u,M3の比率v,カルシウムCaの比率wおよびマグネシウムMgの比率xを足した値(t+u+v+w+x)と、ニッケルNiの比率yとM4の比率zを足した値B(y+z)のB/A比が3.2以上3.4以下の範囲となるが、この範囲は後述するようなCe
2Ni
7型結晶構造を有する結晶相が安定となる範囲である。
また、本実施形態の水素吸蔵合金においては、マグネシウムMgの比率xが4.1〜5.1原子%の範囲となる。
Mgの比率の範囲がこの範囲である場合には、合金を粉砕した場合に微粉化が抑制され且つサイクル特性の改善が発揮される。
【0027】
本実施形態の水素吸蔵合金に含まれるM1の比率tの範囲は、13.9〜14.5原子%の範囲であることが好ましく、M2の比率uの範囲は0〜0.7原子%、M4の比率zの範囲は0〜0.8原子%であることが好ましい。さらに、Niの比率yの範囲は75.0〜77.0原子%であることが好ましい。これらの範囲の場合には、サイクル特性をより優れたものにすることができる。
【0028】
尚、M2としてのV,Nb,Ta,Ti,Zr,Hfはいずれも4A族あるいは5A族に属する金属元素である。これらの金属元素は水素化物を生成しやすく、Ce
2Ni
7型結晶構造相やGd
2Co
7型結晶構造相に固溶しにくいという共通の性質を有する。
【0029】
上記のような新規な化学組成からなる水素吸蔵合金では、高い水素の吸蔵性を維持したままで、サイクル特性の向上がみられる。
【0030】
また、M3がSmである場合、すなわち、希土類−Ca−Mg−Ni系合金の希土類の一部をSmで置換した合金においては顕著なサイクル特性の改善がみられる。
このときの、Smの比率は1.6≦v≦3.5であることが好ましい。
Smの比率がこの範囲である場合には、後述するようなCe
2Ni
7型結晶構造を有する結晶相が安定となり、且つ、Sm置換によるサイクル特性の向上効果が発揮される。
【0031】
さらに、合金中に含まれるSmの最適な量はCaの合金中の量とも関係する。
水素吸蔵合金全体に対するSmの比率が1.6原子%以上3.5原子%以下であり、且つCaの比率が1.6原子%以上3.2原子%以下であると、このような水素吸蔵合金を電極として用いたニッケル水素蓄電池などの二次電池におけるサイクル特性が顕著に向上するという効果が認められる。
尚、Caの比率を上記範囲内にすることで、水素吸蔵合金の腐食が抑制され且つ高容量を維持することができる。
【0032】
従来の希土類―Ca−Mg−Ni系合金の耐久性が十分ではなかった理由としては、この系の合金が有する結晶相の構成によるものと推測されている。
すなわち、この系の合金では、Laves型のA
2B
4ユニットとCaCu
5型のAB
5ユニットという異なる格子サイズのユニットが積層された結晶構造となっており、水素の吸蔵放出を繰り返した際に両相ユニットで体積変化に大きな差があるため、両相の境界面に歪みが生じることに起因して、容量の低下が生じると考えられる。
【0033】
このような系の合金においてSmを上記範囲の量添加した場合に容量の低下が抑制される。これは、Smの原子半径がLa,Pr,Ndなどの希土類に比べて小さいため、小さな原子が入りやすいA
2B
4ユニットの希土類のサイトを選択的に占有することで、格子サイズの差が緩和されて、水素の吸蔵放出を繰り返した場合でも、ひずみが生じにくくなり、該水素吸蔵合金の耐久性を向上させるものと考えられる。
【0034】
尚、A
2B
4ユニットとは、六方晶MgZn
2型結晶構造(C14構造)又は六方晶MgCu
2型結晶構造(C15構造)を持つ構造ユニットであり、AB
5ユニットとは、六方晶CaCu
5型結晶構造を持つ構造ユニットである。
【0035】
また、本実施形態の水素吸蔵合金はCe
2Ni
7型結晶構造を有する結晶相が主生成相であることが好ましい。かかる構成により高容量の維持とサイクル特性をより優れたものにできる。これは結晶構造にCaが固溶しやすいことに起因するものと考えられる。
【0036】
ここで、Ce
2Ni
7型結晶構造を有する結晶相とは、A
2B
4ユニット間に、AB
5ユニットが2ユニット挿入された結晶構造である。
【0037】
尚、前記Ce
2Ni
7型結晶構造が主生成相であるとは、合金中に含まれる他の結晶構造からなる相、例えばGd
2Co
7型結晶構造からなる相よりも、Ce
2Ni
7型結晶構造が多く存在していることをいう。
Ce
2Ni
7型結晶構造からなる相が合金中に含まれる量としては44質量%以上含まれていることが好ましい。
Ce
2Ni
7型結晶構造からなる相の含まれる割合が上記範囲内であれば、高容量を維持しつつ、優れたサイクル特性を示す。
【0038】
上記結晶構造は、例えば粉砕した合金粉末についてX線回析測定を行い、得られた回析パターンをリートベルト法により解析することで特定することができる。
【0039】
さらに、本実施形態の水素吸蔵合金は、前記結晶相のa軸長が、5.023〜5.033Åであることが好ましい。該a軸長が5.023〜5.033Åの範囲内であれば、高容量を維持しつつサイクル特性の向上を図ることができる。
尚、a軸長はX線回折パターンから算定することができる。
【0040】
また、本発明に係る水素吸蔵合金としては上記のものに限定されるものではない。すなわち、一般的な水素吸蔵合金において採用される種々の形態を、本発明の効果を損なわない範囲で採用することができる。
例えば、上記実施形態で示した水素吸蔵合金は、本発明の効果を損なわない範囲で、一般式M1
tM2
uM3
vCa
wMg
xNi
yM4
zで規定されていない元素を含みうる。
【0041】
例えば、化学組成が、一般式M1
tM2
uM3
vCa
wMg
xNi
yM4
zM5
s(但し、
16×(d−1.870)/(d−r)≦v≦16×(d−1.860)/(d−r)、
1.6≦w≦3.2、
4.1≦x≦5.1、
3.2≦(y+z)/(t+u+v+w+x)≦3.4、
t+u+v+w+x+y+z=100、
sが、0<s≦0.4、であり、
M1はLa,Pr,Ndから選択される1種又は2種以上の元素、
M2はV,Nb,Ta,Ti,Zr,Hfから選択される1種又は2種以上の元素、
M3はSm,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択される1種又は2種以上の元素、
M4はCo,Mn,Al,Cu,Fe,Cr,Znから選択される1種又は2種以上の元素、
M5は、前記M1、M2、M3及びM4以外の元素、
dは、M1として選択された元素の平均原子半径、
rは、M3として選択された元素の平均原子半径である。)
で表されるような水素吸蔵合金が挙げられる。
【0042】
前記M5の含有量sは、本発明の効果を損ねない範囲の量である。すなわち、前記のようにM5の含有量sが,0<s≦0.4を満たす量であれば、本発明の効果は損なわれない。
前記M5が含まれる原因としては、原料インゴット中に不純物が含まれていることが挙げられる。
従って、原料インゴットの純度を制御することにより前記水素吸蔵合金中のM5の量を制御することができる。
【0043】
前記水素吸蔵合金は公知の水素吸蔵合金の製造方法で製造することができる。
例えば、まず、目的とする水素吸蔵合金の化学組成に基づいて合金の原料粉末を所定量秤量し、反応容器に入れ、減圧又は常圧下の不活性ガス雰囲気中で高周波溶融炉を用いて該原料粉末を溶融させた後、準安定相の生成率を高めるため1000℃/秒以上の冷却速度で急冷凝固させる。さらに加圧状態の不活性ガス雰囲気下で860〜1000℃にて3〜50時間焼鈍することによって前記合金を高効率に生成させることができる。
【0044】
溶融および焼鈍する際の雰囲気や温度条件については、合金組成によって適宜調整することができる。冷却方法としては、メルトスピニング法、ガスアトマイズ法、水冷金型鋳造法、水冷板上急冷凝固法などを好適に用いることができる。
【0045】
また、不活性ガス雰囲気にて焼鈍を行う際には、0.1MPa(ゲージ圧)以上に加圧された不活性ガス雰囲気(例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス)で行うことが好ましく、これによって熱処理中の合金からのMg等の合金の蒸発を防止することができる。
また、不活性ガスとしてはヘリウムガスを用いることが好ましく、加圧条件としては、0.2〜1.0MPa(ゲージ圧)とすることが好ましい。
ヘリウムはアルゴンと比べて熱伝導性に優れるため、焼成炉内の温度差が少なくなり、より均一な温度で合金を熱処理することが可能となる。このような均一な温度による熱処理により、例えばMg等の合金の蒸発を効果的に防止し、合金重量を変動させることなく所望の組成および相を有する合金を作製することが可能となる。
【0046】
必要により粉末化した後、得られた粉末を適当なバインダー(例えば、ポリビニルアルコール等の樹脂)および水(または他の液体)と混合してペースト状とし、ニッケル多孔体に充填して乾燥した後、所望の電極形状に加圧成型することにより、ニッケル−水素電池等の二次電池に使用しうる負極を製造することができる。
【0047】
前記のようにして作製された負極は、正極(例えばニッケル電極 )、およびアルカリ電解液等と組合わされ、本発明に係る二次電池(例えば、ニッケル−水素電池)が製造される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
水素吸蔵合金の元素の原子%比が表1に示す比となるように、原料インゴットをそれぞれ所定量秤量し、るつぼに入れ、減圧されたアルゴンガス雰囲気下において高周波溶融炉を用いて1500℃に加熱し、材料を溶融させた。そして、溶融させた材料を前記高周波溶融炉中で水冷鋳型に移し固化させた。さらに、得られた合金を0.2MPa(ゲージ圧、以下同じ)に加圧されたヘリウムガス雰囲気下で910℃で焼鈍することにより、各実施例および比較例の水素吸蔵合金を得た。
得られた水素吸蔵合金を、アルゴンガス雰囲気下で粉砕機により機械的に粉砕し、平均粒径(D50)が50μmとなるように調整した。
【0050】
(充放電特性の測定)
(a)電極の作製
得られた実施例又は比較例の水素吸蔵合金粉末100重量部に、ニッケル粉末(INCO社製、#210)3重量部を加えて混合した後、増粘剤(メチルセルロース)を溶解した水溶液を加え、さらに、結着剤(スチレンブタジエンゴム)を1.5重量部加え、ペースト状にしたものを厚み45μmの穿孔鋼板(開口率50%)の両面に塗布して乾燥した後、厚さ0.36mmにプレスし、負極とした。
一方、正極としては、シンター式水酸化ニッケル電極を用いた。
【0051】
(b)開放形電池の作製
前記のようにして作製した負極をセパレータを介して正極で挟み込み、これらの電極に1kgf/cm
2の圧力がかかるようにボルトで固定し、開放形セルに組み立てた。電解液としては6.8mol/LのKOH溶液を使用した。
【0052】
(c)最大放電容量の測定
作製した電池を20℃の水槽中に入れ、充電は0.1Cで150%、放電は0.2ItAで終止電圧−0.6V(vs.Hg/HgO)の条件で充放電を10サイクル繰り返し、放電容量が最大となった点を最大放電容量とした。
【0053】
(d)容量維持率の測定
前記最大放電容量の測定に引き続き、同じ水槽中において、充電は0.1Cで150%、放電は1.0ItAで終止電圧−0.6V(vs.Hg/HgO)の条件で1〜9サイクルの充放電を行った後、再び0.2ItAで終止電圧−0.6V(vs.Hg/HgO)の条件に戻し、10サイクル目の放電容量を測定した。
そして、測定された10サイクルまでの最大放電容量と10サイクル目の放電容量から、容量維持率(10サイクル後の容量維持率(%))を求めた。
【0054】
(e)結晶構造の測定
実施例および比較例の各合金の粉末を、X線回析装置を用いてX線回析測定を行い、各生成相の含有量を測定した。
具体的には、得られた実施例および比較霊の水素吸蔵合金を粉砕した後、粉末X線回析装置(リガク社製、RINT2400)を用い、ゴニオ半径185mm、発散スリット1deg.、散乱スリット1deg.、受光スリット0.15mm、X線源CuKα線、管電圧50kV、管電流200mAで測定した。
尚、回析角は、2θ=15.0〜85.0°の範囲とし、スキャンスピードは4.000°/min.、スキャンステップは0.020°とした。
得られたX線回析結果に基づいてリートベルト法(解析ソフト RIETAN2000使用)により結晶構造の解析を行った。
結果を併せて表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示したように、本発明の水素吸蔵合金(実施例1〜15)では、高い最大放電容量を維持しつつ、10サイクル後の容量維持率も高いことが認められる。
【0057】
また、Caの含有量とSmの含有量の関係で容量維持率がどのように変化するのかを
図1のグラフに示した。
前記実施例および比較例の中から、Caの含有率が1.9原子%である実施例および比較例、Caの含有率が2.3原子%である実施例および比較例、Caの含有率が3.2原子%である実施例および比較例、Caの含有率が0原子%である比較例、Caの含有率が4.4原子%である比較例、Caの含有率が1.1原子%である比較例を選び(表2を参照のこと)、X軸にSmの量をとり、Y軸に容量維持率%をとったグラフに各実施例、比較例をプロットした。
【0058】
【表2】
【0059】
図1からわかるように、Ca含有量が1.9、2.3および3.2原子%である場合であり、且つ、Smの含有量が1.6以上、3.5原子%以下の範囲において、サイクル容量維持率が顕著に向上することがわかる。
【0060】
また、前記表2の各実施例、比較例について、最大放電容量がどのように変化するかについて前記容量維持率の場合と同様に、X軸にSmの量をとり、Y軸に最大放電容量mAh/gをとったグラフに各実施例、比較例をプロットしたグラフを
図2に示した。
図2からわかるように、Ca含有量が1.9、2.3および3.2原子%である場合には、Smの含有量が1.6未満、3.5原子%を超える範囲よりも最大放電容量が高くなることがわかる。