(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る傾斜角度推定システムについて、図を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る傾斜角度推定システムの概略図である。
傾斜角度推定システム(1)は、測定対象体(P)に取付けられた複数の加速度センサ(2)と、加速度センサ(2)とデータ通信可能なデータ演算処理ユニット(コンピュータ)(3)からなる。
図1に示す例において、測定対象体(P)は、その一方の端部を回転可能に支持されている。測定対象体(P)は、この支持点を回転中心点(R)として、一方向に回転動作をし、その姿勢を傾斜させる。したがって、
図1に示す例においては、測定対象体(P)は、一平面内で回転動作するものとなる。
加速度センサ(2)が取付けられる測定対象体(P)に対して特段の制限はないが、測定対象体の回転傾斜動作の際に生ずる慣性力により変形しない程度の剛性を有することが好ましい。傾斜角度推定のためのデータ取得時における測定対象体(P)の変形は、推定値の誤差に直結するためである。したがって、本発明が対象とする測定対象体(P)には、完全な剛体のみならず、傾斜角度推定の目的が許容する誤差を生じさせる程度に変形可能なものも含まれる。
【0028】
図1において、測定対象体(P)上に2つの加速度センサ(2)が示されているが、加速度センサの数は、2つに限定されるものではなく、3或いはそれ以上であってもよい。
図1から明らかなように、2つの加速度センサ(2)を結ぶ線の延長線上に測定対象体(P)の回転中心点(R)が位置する。尚、本明細書或いは請求の範囲で、「加速度センサ(2)を結ぶ線が回転中心点(R)を通過する」との文言が用いられるが、この文言は、必ずしも加速度センサ(2)同士を結ぶ線が正確に回転中心点(R)を通過することのみを意味するものではなく、加速度センサ(2)同士を結ぶ線が、回転中心点(R)近傍を通過することも意味する。加速度センサ(2)同士を結ぶ線と回転中心点(R)との距離は、直接的に、傾斜角度推定システム(1)から得られる推定値の誤差に直結するが、傾斜角度推定システム(1)が許容する誤差範囲内の誤差を生み出す程度の加速度センサ(2)同士を結ぶ線と回転中心点(R)との間の距離であれば、本発明の技術的範囲に属するものと解するべきである。
【0029】
データ演算処理ユニット(3)には、回転中心点(R)から各加速度センサ(2)までの距離が予め入力されている。
データ演算処理ユニット(3)は、加速度センサ(2)からの出力値(加速度データ)を受信し、データ演算処理ユニット(3)への入力値(回転中心点(R)から各加速度センサ(2)までの距離)と、加速度センサ(2)からの出力値(加速度データ)を用いて、測定対象体(P)の傾斜角度を算出する。
【0030】
図2は、データ演算処理ユニット(3)の演算処理の概念図である。
図2において、2つの座標系が示されている。本明細書において、一方の座標系を全体座標系と称し、他方の座標系を瞬時静止座標系と称する。
全体座標系において、重力加速度ベクトルに平行な方向をZ軸として定義する。また、
図1に示す測定対象体(P)が回転動作をする平面内において、Z軸に対して直交する方向をX軸とする。ここで、X軸とZ軸の交点と、測定対象体(P)の回転中心点(R)が一致するように全体座標系を定義する。
瞬時静止座標系において、2つの加速度センサ(2)同士を結ぶ線をx軸として定義する。また、
図1に示す測定対象体(P)が回転動作をする平面内において、x軸に対して直交する方向をz軸とする。ここで、x軸とz軸の交点と、測定対象体(P)の回転中心点(R)が一致するように瞬時静止座標系を定義する。
図2に示す例において、全体座標系のX軸と瞬時静止座標系のx軸との間の挟角は記号「α」で示されている。
以上の説明並びに座標系の定義から明らかであるが、
図2は、測定対象体(P)がその軸(加速度センサ(2)同士を結んだ線)を全体座標系のX軸に置いた位置から角度αだけ回転運動した瞬間の測定対象体(P)の状態を表している。
以下に、この測定対象体(P)の傾斜角度αを算出するための演算処理工程を示す。
【0031】
測定対象体(P)に取付けられた2つの加速度センサ(2)はそれぞれ、瞬時静止座標系x軸に平行な方向の加速度データ(演算記号「a
x又はb
x」で表される)と、瞬時静止座標系z軸に平行な方向の加速度データ(演算記号「a
z又はb
z」で表される)を出力する。
測定対象体(P)の回転傾斜動作によって生ずる瞬時静止座標系x軸に平行な加速度成分は、以下の数式1から求めることができる。また、測定対象体(P)の回転傾斜動作によって生ずる瞬時静止座標系z軸に平行な加速度成分は、以下の数式2から求めることができる。
尚、数式1中、「r」は、回転中心点(R)から加速度センサ(2)までの距離を意味する。また、数式1及び数式2において、測定対象体(P)の回転運動の角速度成分、角加速度成分を演算記号「θ」の微分値として表現している。
【0034】
ここで、回転中心点(R)から離れた側に取付けられた加速度センサ(2)を、符号「2A」で表し、回転中心点(R)に近い側に取付けられた加速度センサ(2)を、符号「2B」で表す。また、演算処理ユニット(3)には、回転中心点(R)と加速度センサ(2A)の距離として、値「r
A」が入力されているものとし、回転中心点(R)と加速度センサ(2B)の距離として、値「r
B」が入力されているものとする。
加速度センサ(2)の出力は、慣性力の影響を受けることから、加速度センサの出力と、測定対象体(P)の回転動作に起因する加速度成分並びに重力加速度の関係は、下記の数式3乃至数式6によって表すことができる。尚、数式3及び数式4は、加速度センサ(2A)に対するものであり、瞬時静止座標系x軸に平行な方向の出力加速度データを演算記号「a
x」で示し、瞬時静止座標系z軸に平行な方向の出力加速度データを演算記号「a
z」で示している。数式5及び6は加速度センサ(2B)に対するものであり、瞬時静止座標系x軸に平行な方向の出力加速度データを演算記号「b
x」で示し、瞬時静止座標系z軸に平行な方向の出力加速度データを演算記号「b
z」で示している。
【0039】
上記数式3と数式5の関係から、以下の手順で、測定対象体の角度αを求めることができる。
(1)加速度センサ(2A)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2B)までの距離を積算する。
(2)加速度センサ(2B)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2A)までの距離を積算する。
(3)上記手順(1)及び(2)から得られた積算値の差分を取り、測定対象体(P)の角速度成分を除去する。
上記手順を経て得られる角度αに対する演算式を、下記数式7に示す。
【0041】
上記数式4と数式6の関係から、以下の手順で、測定対象体の角度αを求めることができる。
(1)加速度センサ(2A)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2B)までの距離を積算する。
(2)加速度センサ(2B)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2A)までの距離を積算する。
(3)上記手順(1)及び(2)から得られた積算値の差分を取り、測定対象体(P)の角加速度成分を除去する。
上記手順を経て得られる角度αに対する演算式を、下記数式8に示す。
【0043】
上記数式7及び数式8のいずれを用いても、角度αを算出することは可能である。しかしながら、数式7を用いた場合、角度αがπ/2の奇数倍の値の近傍である場合、計測誤差の影響が大きくなって現れる。また、数式8を用いた場合、角度αがπの整数倍の値の近傍である場合、計測誤差の影響が大きくなって現れる。
したがって、演算処理ユニット(3)に対する入力値として、閾値データを入力可能とすることが好ましい。例えば、演算処理ユニット(3)に対して、第1の閾値範囲として、90°を僅かに下回る値(例えば、85°)及び90°を僅かに上回る値(例えば、95°)を入力する。また、第2の閾値範囲として、0°を僅かに下回る値(例えば、−5°)及び0°を僅かに上回る値(例えば、5°)を入力する。
数式7及び/又は数式8による角度αの演算結果が、演算処理ユニット(3)に入力された第1の閾値範囲であるならば、数式8に基づいて算出された値を演算処理ユニット(3)が出力する。一方、数式7及び/又は数式8による角度αの演算結果が、演算処理ユニット(3)に入力された第2の閾値範囲であるならば、数式7に基づいて算出された値を演算処理ユニット(3)が出力する。
他の方法として、数式7及び数式8に基づく算出結果から、正接関数値を算出し、この正接関数値に基づき、角度αを算出してもよいし、数式7及び数式8に基づき得られた値を積算し、正弦関数の半角の公式に基づき、角度αを算出してもよい。
【0044】
尚、数式7により、角度αに対する正弦関数値が定まるので、この正弦関数値を上記の数式3及び5に代入し、測定対象体(P)の回転傾斜運動の角速度を算出することが可能である。また、数式8により、角度αに対する余弦関数値が定まるので、この余弦関数値を上記の数式4及び6に代入し、測定対象体(P)の回転傾斜運動の角加速度を算出することが可能である。
このようにして求められる測定対象体(P)の回転傾斜運動の角速度及び角加速度の算出式を下記数式9及び数式10に示す。
【0047】
このようにして、
図1及び
図2に示す実施形態においては、本発明に係る傾斜角度推定システム(1)では、積分演算工程を実行することなく、傾斜角度、傾斜角速度及び傾斜角加速度を算出することが可能である。したがって、従来のジャイロセンサを利用する方式と比して、傾斜角度推定値に積分誤差が含まれることがない。このようにして、本発明に係る傾斜角度推定システム(1)は、出力される推定値に対して、高い精度を確保可能となる。
【0048】
尚、上記数式3及び数式4或いは数式5及び数式6から明らかであるが、回転中心点(R)から加速度センサ(2)までの距離を「0」とすれば、加速度センサ(2)からの出力値は、測定対象体(P)の回転動作に係る角速度成分或いは角加速度成分を含まないものとなる。したがって、加速度センサ(2)を回転中心点(R)に一致するように取付けることで、加速度センサ(2)の出力値を重力加速度で除算することにより、傾斜角度αの正弦関数値或いは余弦関数値を求めることが可能である。尚、この場合には、測定対象体(P)の回転動作に係る角速度成分或いは角加速度成分を得るためには、算出された角度αに対して時間微分処理を行う必要がある。
【0049】
図1及び
図2に示す例において、全体座標系(X,Z)が静止している場合を考えたが、本発明は、全体座標系が加速度運動している場合にも適用可能である。ここでは、便宜的に、全体座標系の原点(X
O,Z
O)を基準点として説明するが、この基準点は、2つの加速度センサ(2)のうち一方の位置に置き換えてもよい。全体座標系(X,Z)が一平面内で加速度運動している場合、全体座標系における加速度(D
X,D
Y)は、下記の数式11及び数式12によって、それぞれ表される。
【0052】
これを瞬時静止座標系(x,z)に座標変換し、瞬時静止座標系(x,z)における基準点(X
O,Z
O)の加速度成分(D
x,D
z)を得ることができる。座標変換に係る演算を、下記数式(13)に示す。
【0054】
上記数式3乃至数式6で示すものと同様に、加速度センサ(2)からの出力(a
x,a
z,b
x,b
z)を全体座標系が移動している場合について表すと、下記数式13を得ることができる。
【0056】
基準点(X
O,Z
O)の両方向の加速度成分が既知の値である場合、
図1及び
図2に関連して説明した手順と同様に、下記手順を実行することにより、以下の数式14及び数式15に示す関係を得ることができる。
(1)加速度センサ(2A)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2B)までの距離を積算する。
(2)加速度センサ(2B)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2A)までの距離を積算する。
(3)上記手順(1)及び(2)から得られた積算値の差分を取り、測定対象体(P)の角速度成分或いは角加速度成分を除去する。
【0059】
数式14及び数式15は、一変数の関数であるから、いずれか一方の式から傾斜角度αを算出することもできるし、数式14及び数式15を連立させて、正弦関数値或いは余弦関数値を算出してもよい。
また、
図1及び
図2に関連して説明したものと同様の手法を用いて、測定対象体(P)の回転運動の角速度及び角加速度を積分演算工程なしに算出することが可能である。
【0060】
基準点(X
O,Z
O)の加速度成分のうち一方が未知である場合においても、上記数式14及び数式15が、同一未知パラメータに係る2式をなすので、測定対象体(P)の傾斜角度α並びに基準点(X
O,Z
O)の未知の加速度成分を、数式14及び数式15を連立させることにより算出することができる。特に、対象となる測定対象体(P)が一方向しか直線移動をしない場合に、この関係は非常に有利である。特に、人間の歩行動作を対象とするとき、多くの場合、鉛直方向の移動は存在せず、専ら、水平方向の移動が取扱われる。したがって、この場合、Z方向の加速度成分を既知の値「0」として取扱うことができ、上記数式14及び数式15を連立して得られる下記数式16によって、測定対象体(P)の傾斜角度を算出することができる。
【0062】
図3は、測定対象体(P)が3次元空間内で回転傾斜動作する態様を示す。
図1及び
図2に関連して説明した実施形態においては、測定対象体(P)が2次元平面内を移動していたが、本発明の傾斜角度推定システム(1)は、3次元空間内で回転傾斜運動をする測定対象体(P)に対しても適用可能である。
図3において、初期位置にある測定対象体(P)は点線で示されており、回転傾斜動作を開始した後の測定対象体(P)は実線で示されている。3次元空間の全体座標系(X,Y,Z)のZ軸は、重力加速度に対して平行な方向に設定される。また、測定対象体(P)の初期位置は、本発明の理解を容易にするために、測定対象体(P)の軸、即ち、測定対象体(P)に取付けられた複数の加速度センサ(2)同士を結ぶ線がZ軸と直交するように配されているものとする。また、測定対象体(P)に取付けられた複数の加速度センサ(2)同士を結ぶ線に一致するようにX軸が定められる。また、Y軸は、X軸とZ軸の交点を通過するとともにX軸及びZ軸に直交する軸として定義される。
測定対象体(P)の回転中心点(R)は、X軸、Y軸及びZ軸の交点と一致するものとする。
【0063】
次に、瞬時静止座標系の定義について説明する。瞬時静止座標系において、回転傾斜動作開始後の測定対象体(P)の軸をx軸として定義する。したがって、瞬時静止座標系(x,y,z)は、全体座標系(X,Y,Z)をY軸周りに所定角度回転させ、その後、Z軸周りに所定角度回転させた座標ということができる。
【0064】
図4及び
図5は、全体座標系(X,Y,Z)から瞬時静止座標系(x,y,z)への座標変換を説明する図であり、
図4は、Y軸周りの回転をさせたときの状態を示し、
図5は、
図4に示す状態からZ軸周りの回転をさせたときの状態を示す。
座標変換の一例として、全体座標(X,Y,Z)上の点G(0,0,g)を考える。この点Gは、全体座標が加速度を表す座標であるとき、重力加速度を意味する点である。
図4は、この点GをY軸周りに角度α
YだけX軸に向けて回転させた状態を示す。この回転動作の後の点G
Yの座標(x
g1,y
g1,z
g1)は、下記の数式17により表される。
【0066】
図5は、
図4に示す点G
Yをz軸周りに角度α
zだけY軸に向けて回転させた状態を示す。この回転動作の後の点G
YZの座標(x
g,y
g,z
g)は、下記の数式18により表される。
【0068】
図3乃至
図5に関連する説明により、3次元空間における全体座標系と瞬時静止座標系の関係が明らかとなった。次に、瞬時静止座標系における測定対象体(P)上の点の加速度成分について考える。
図1及び
図2に関連してなされた説明と同様に、測定対象体(P)上に取付けられた2つの加速度センサ(2A,2B)が検知する加速度について考える。
回転動作後の測定対象体(P)上の任意の位置(x,y,z)の加速度成分は、下記数式19により表される。尚、瞬時静止座標系のx軸に沿う方向の加速度成分は、瞬時静止座標系のy軸周りの角速度とz軸周りの角速度の関数で表され、瞬時静止座標系のy軸に沿う方向の加速度成分は、瞬時静止座標系のy軸周りの角加速度の関数で表され、瞬時静止座標系のz軸に沿う方向の加速度成分は、瞬時静止座標系のz軸周りの角加速度の関数で表される。
【0070】
図1及び
図2で説明したように、加速度センサ(2)が出力する加速度は、測定対象体(P)の回転傾斜動作に起因する加速度成分と重力加速度(慣性力)に起因する加速度成分を含むので、加速度センサ(2)が出力する加速度は、下記数式20及び数式21により表される。尚、数式20は、加速度センサ(2)のうち、回転中心点(R)から離れた位置(回転中心点(R)から加速度センサ(2A)までの距離r
A)に配される加速度センサ(2A)に対するものであり、加速度センサ(2A)の瞬間静止座標中の位置座標を(x
A,y
A,z
A)で表し、この位置座標に対応する加速度成分を(a
x,a
y,a
z)で表している。また、数式21は、加速度センサ(2)のうち、回転中心点(R)から近い位置(回転中心点(R)から加速度センサ(2B)までの距離r
B)に配される加速度センサ(2B)に対するものであり、加速度センサ(2B)の瞬間静止座標中の位置座標を(x
B,y
B,z
B)で表し、この位置座標に対応する加速度成分を(b
x,b
y,b
z)で表している。
【0073】
傾斜角度α
y及びα
zの算出は、
図1及び
図2に関連したものと同様の下記の手順により実行可能である。
(1)加速度センサ(2A)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2B)までの距離を積算する。
(2)加速度センサ(2B)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2A)までの距離を積算する。
(3)上記手順(1)及び(2)から得られた積算値の差分を取り、測定対象体(P)の角速度成分或いは角加速度成分を除去する。
この手順にしたがって得られる一組の関係式を下記数式22に示す。
【0075】
上記数式22から明らかであるが、数式22に示す関係式から傾斜角度α
y及びα
zを算出する方法は多数存在する。例えば、瞬時静止座標系z軸方向の加速度成分のデータから、Y軸周りの傾斜角α
yに関する余弦関数値を算出することができる。このY軸周りの傾斜角α
yに関する余弦関数値に基づき、Y軸周りの傾斜角α
yに関する正弦関数値の算出も可能である。算出されたY軸周りの傾斜角α
yに関する正弦関数値を、瞬時静止座標系x軸方向或いはy軸方向の加速度成分の上記関係式に代入することにより、Z軸周りの傾斜角α
zの余弦関数値或いは正弦関数値を算出することができる。
このようにして、3次元空間内を回転する測定対象体(P)に対しても、積分演算工程を行なうことなく、傾斜角の算出を実行可能である。
【0076】
3次元空間内の測定対象体(P)の回転傾斜動作の角加速度も、積分演算工程を行うことなしに算出可能である。
上記数式20及び数式21を参照する。ここで、加速度センサ(2A)が出力する瞬時静止座標系のy軸方向の加速度成分と、加速度センサ(2B)が出力する瞬時静止座標系のy軸方向の加速度成分の差をとることにより、全体座標系Z軸周りの角加速度を算出することができる。下記、数式23に、全体座標系Z軸周りの角加速度と加速度センサ(2)の出力値との関係を示す。
同様に、加速度センサ(2A)が出力する瞬時静止座標系のz軸方向の加速度成分と、加速度センサ(2B)が出力する瞬時静止座標系のz軸方向の加速度成分の差をとることにより、全体座標系Y軸周りの角加速度を算出することができる。下記、数式24に、全体座標系Y軸周りの角加速度と加速度センサ(2)の出力値との関係を示す。
【0079】
尚、角速度成分と加速度センサ(2)の出力値との関係を、加速度センサ(2)の瞬時静止座標系x軸方向の加速度に関する出力値に基づき、上記と同様に加速度センサ(2A)と加速度センサ(2B)の差をとることにより得ることができる。この関係式を下記数式25に示す。数式25から明らかであるが、角速度に関しては、積分演算或いは微分演算のデータ処理工程が必要となる。しかしながら、上記の如く、関係式は必要とされるもの以上に存在するため、微分演算処理或いは積分演算処理を行ったとしても、高い精度を確保可能である。
【0081】
図6は、
図3に示す測定対象体(P)の回転傾斜動作に対して、更に、測定対象体(P)の軸(加速度センサ(2A,2B)を結ぶ線)周りに回転する動作を加えた状態を示す。
図3乃至
図5に関連して説明した実施形態においては、まず全体座標系のY軸周りの回転傾斜動作を考え、その後、全体座標系のZ軸周りの回転傾斜動作を考えたが、
図6に示す測定対象体(P)の運動に対しては、別の手法により、角度算出を行なう必要がある。
【0082】
図7は、
図6に示す測定対象体(P)の位置変化について説明する図である。尚、全体座標系の定義、瞬時静止座標系の定義並びに測定対象体(P)の初期位置に関する定義は、
図3に関連して説明したものと同様である。
図6に示す測定対象体(P)の位置は、初期位置からY軸周りに角度αだけ測定対象体(P)を回転させ(
図7(a)参照)、その後、測定対象体(P)をY軸周りに角度γだけ回転させた位置に一致するものとする(
図7(b)参照)。
【0083】
図8は、測定対象体(P)の軸周りに測定対象体(P)が回転した状態を示す。
図8(a)は、初期位置の測定対象体(P)の横断面を示し、
図8(b)は、
図6に示す測定対象体(P)の位置における測定対象体(P)の横断面を示す。
図8から明らかな如く、ここでは、
図6に示す位置に測定対象体(P)が移動する間に、測定対象体(P)はその軸周りに角度βだけ回転したものとする。
【0084】
まず、この実施形態においても、上記数式19に示される関係式は成立する。
次に、
図3に関連した説明したものと同様に、加速度を表す全体座標上の点G(0,0,g)の座標変換を考える。尚、点Gは、
図3に関連して説明したものと同様に重力加速度を意味する点である。
ここで、全体座標系のY軸周りに、X軸からZ軸方向に向けて点G(0,0,g)を回転変換させた場合を考える。この座標変換後の座標(x
g1,y
g1,z
g1)との間の関係を、下記数式26に示す。
【0086】
上記数式19で示される加速度センサ(2)が出力する加速度の各成分に、数式26で示す座標変換後の重力加速度成分を加える。この変換後の重力加速度成分の加算式を下記数式27に示す。
【0088】
次に、測定対象体(P)の軸周りの回転について考える。測定対象体(P)の軸が、瞬時静止座標系のx軸と一致するように瞬間静止座標系が定義されているから、測定対象体(P)の軸周りにz軸からy軸に向けて角度βだけ回転させたとすると、上記数式27は、下記数式28に変換されることとなる。
【0090】
回転中心点(R)から距離r
aの位置に存する加速度センサ(2A)の瞬時静止座標系の各成分を(a
x,a
y,a
z)で表し、回転中心点(R)から距離r
bの位置に存する加速度センサ(2B)の瞬時静止座標系の各成分を(b
x,b
y,b
z)で表すと、以下の数式29乃至数式31に示す関係式を得ることができる。尚、下記数式29は、瞬時静止座標系のx軸方向の加速度成分を示し、下記数式30は、瞬時静止座標系のy軸方向の加速度成分を示し、下記数式31は、瞬時静止座標系のz軸方向の加速度成分を示す。
【0094】
数式29乃至数式31に示す一対の関係式に対して、上記した手順と同様の下記手順により、角速度成分或いは角加速度成分を除去する。
(1)加速度センサ(2A)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2B)までの距離を積算する。
(2)加速度センサ(2B)の出力値に対して、回転中心点(R)から加速度センサ(2A)までの距離を積算する。
(3)上記手順(1)及び(2)から得られた積算値の差分を取り、測定対象体(P)の角速度成分或いは角加速度成分を除去する。
この手順にしたがって得られる一組の関係式を下記数式32に示す。
【0096】
上記数式32から明らかな如く、瞬時静止座標系x軸に係るデータから、全体座標系Y軸周りの回転傾斜角度の正弦関数値を算出できる。また、この正弦関数値に基づき、余弦関数値も既知のものとなる。したがって、この既知の余弦関数値と、瞬時静止座標系x軸周りの回転角度βを算出することができる。
したがって、全体座標系Y軸周りの回転傾斜角度並びに瞬時静止座標系x軸周りの回転傾斜角度の算出は、積分演算処理を要せず、代数演算のみで実行可能である。
【0097】
続いて、瞬時静止座標系z軸周りの回転を考え、その後、これを全体座標系(X,Y,Z)上に座標変換し、全体座標系Z軸周りの回転傾斜角度を算出する。
まず、加速度センサ(2A,2B)それぞれから得られた加速度成分の差を算出する。この演算工程を下記数式(33)に示す。
【0099】
上記数式33に示すy軸成分とz軸成分に係る関係式を連立させることにより、瞬時静止座標系のy軸周りの角加速度及びz軸周りの角加速度を算出することができる。
下記数式34に算出された瞬時静止座標系のy軸周りの角加速度及びz軸周りの角加速度を全体座標系(X,Y,Z)上に変換する行列式を示す。尚、この変換において、X軸からZ軸に向かう方向を正としている。また、瞬時静止座標系x軸に沿う加速度成分は「0」である。
【0101】
上記数式34に基づき、全体座標系(X,Y,Z)の角加速度成分を得ることができ、これらを積分演算することにより、角速度成分を得ることができる。この積分演算により得られる角速度成分の関係式を下記数式35に示す。
【0103】
上記数式33のうち瞬時静止座標系x軸方向の加速度出力の関係式は、瞬時静止座標系y軸周り及びz軸周りの回転に係る加速度成分の関数であるから、上記数式35を利用して、全体座標系のY軸周りの回転速度とZ軸周りの回転速度の関係式を得ることができる。この関係式を利用して、全体座標系Z軸周りの角速度を積分することにより、積分誤差を抑制しつつ、全体座標系Z軸周りの回転傾斜角度γを算出することができる。
【0104】
図9は、
図6乃至
図8に関連して説明した傾斜角度推定システム(1)の演算方式の応用例を示す。
図9に示す例において、2つの測定対象体(P1,P2)が1つの回転中心点(R)において連結している。また、2つの測定対象体(P1,P2)は、それぞれ無関係に回転中心点(R)を軸として、回転傾斜動作をしている。
測定対象体(P1)には2つの加速度センサ(2A1,2B1)が取り付けられ、測定対象体(P2)には、2つの加速度センサ(2A2,2B2)が取り付けられている。回転中心点(R)から加速度センサ(2A1)までの距離はr
a1で表され、回転中心点(R)から加速度センサ(2B1)までの距離はr
b1で表され、回転中心点(R)から加速度センサ(2A2)までの距離はr
a2で表され、回転中心点(R)から加速度センサ(2B2)までの距離はr
a2で表される。
【0105】
各加速度センサ(2A1,2B1,2A2,2B2)は、測定対象体(P1,P2)の軸方向の加速度、測定対象体(P1,P2)の軸に対して直交する方向の加速度及び測定対象体(P1,P2)の軸周りの回転に係る加速度を測定可能である。これにより、測定対象体(P1,P2)それぞれの加速度測定点における3成分からなる加速度ベクトルを得ることができる。各測定点の加速度ベクトルが加速度センサ(2A1,2B1,2A2,2B2)から求めることができることから、測定対象体(P1,P2)の回転中心点(R)における加速度ベクトルを算出することができる。
以下に、回転中心点(R)における加速度ベクトルの算出式を示す。下記数式36は、測定対象体(P1)に対するものであり、下記数式37は測定対象体(P2)に対するものである。
【0108】
上記数式36に示される測定対象体(P1)の回転中心点(R)における加速度ベクトルを全体座標系(X,Y,Z)のY軸周りに角度αだけ回転させ、Z軸周りに角度γだけ回転させ、測定対象体(P1)軸周りに角度βだけ回転させたとき(
図7及び
図8参照)、他方の測定対象体(P2)の加速度ベクトルに一致する場合を考える。このような角度(α,β,γ)を数値演算により求めることにより、測定対象体(P1)に対する測定対象体(P2)の相対的角度位置を算出することができる。
【0109】
図10は、互いに直交するように配された3つの測定対象体(P1,P2,P3)を考えた場合の概念図である。3つの測定対象体(P1,P2,P3)は、互いに一点で交わり、この1つの交点を回転中心点(R)として回転傾斜運動をする。回転中心点(R)には、各測定対象体(P1,P2,P3)の軸方向の加速度成分を測定する加速度センサ(2)が取り付けられている。また、各測定対象体(P1,P2,P3)上には更にそれぞれ1つずつ加速度センサが取り付けられている。
測定対象体(P1,P2,P3)のうち1つをx方向と定めると、他の測定対象体(P1,P2,P3)の軸は、自ずからy方向及びz方向として定義されることとなる。この結果、下記数式38に示す関係式を得ることができる。
【0111】
上記数式38の各軸方向成分に係る関係式を連立させることにより、3つの角速度の絶対値を算出することができる。3つの軸のうち2つの方向に関しては、角速度が計測により求められているので、符号が判明する。他のもう1つの軸については、角速度が計測により判明する軸と平行な方向の加速度を同時に測定することにより、当該他のもう1つの軸の加速度の符号も判明する。