【実施例1】
【0020】
本発明の一実施例の構成を、
図1に示し説明する。ここで、
図1は、本実施例における金属熱処理炉の構成を示す、一部を断面表示した正面図である。
【0021】
図1において、本実施例における金属熱処理炉は、被加熱合金を加熱するための加熱部20が内部に設けられた円缶状の加熱室10の下方に、加熱された被加熱合金を冷却するための円缶状の冷却室80が、加熱室10と軸心を同一にして配設され、両者は、円筒状の中空の連結部60を介して連結されている。
【0022】
連結された加熱室10の側壁・底壁および冷却室80の上壁・側壁・底壁、両者を連結する連結部60の側壁は、それぞれ二重構造となっており、その空隙部内に冷却水が供給されるようになっている。また、冷却室80の底部を貫通し、内部に冷却水が流通する昇降可能なパイプ状の水冷昇降軸90が、加熱室10内に進入し得るようになっている。
【0023】
上方の加熱室10内に配設された加熱部20は、本発明では誘導加熱方式を用いており、その構成について、加熱部20を拡大表示した
図2(断面図)により説明する。
【0024】
図2において、21は、素材に高純度のカーボンを用いて円筒状に形成された発熱体であり、その上部開口は、同じく高純度のカーボンを用いた円板状の発熱体22により塞がれている。また、下部開口は、
図3に示されているように、水冷昇降軸90の上端に取り付けられた、被加熱合金を支持するための円板状の支持台91(素材はムライト)と、円板状の断熱材27との間に介装された、高純度のカーボンを用いた円板状の発熱体23により、水冷昇降軸90が上昇したときに塞がれるようになっている。
【0025】
図2において、円筒状の発熱体21の外周壁は、円筒状の断熱材24により囲まれ、上部の円板状の発熱体22の上面は、円板状の断熱材26より覆われている。下部の円板状の発熱体23(
図3)の下面は、
図3に示したように、円板状の断熱材27により覆われている。各断熱材24,26,27の素材には、本実施例ではカーボン・フェルトを用いている。なお、円筒状の発熱体21は、円筒状の断熱材24の下方に連設された平面形状がリング状の断熱材25により支持され、この断熱材25は、
図1では図示を省略している、4つの脚部を有する平面形状がリング状の基台40により支持されている。
【0026】
発熱体21を囲む円筒状の断熱材24は、素材にムライトを用いた円筒状の外筒28により囲まれ、外筒28の周囲には、外筒28の高さ方向にわたって誘導コイル31が配設されている。誘導コイル31は、
図1では図示を省略している細板状のコイル支持具32a,32bにより支持されている。
【0027】
図4(部分斜視図)は、コイル支持具32a,32bにより誘導コイル31を支持するための構成を示している。図示するように、コイル支持具32aには、スリット33が設けられており、
図5(a)に示すように、側面形状が凸字状の可動ノブ34の軸部36が、スリット33に嵌合して摺動し得るようになっている。可動ノブ34の軸部36は、
図5(b)に示すように、ろう付けにより誘導コイル31に固着されている。
【0028】
したがって、可動ノブ34の頭部35(
図5(a))をつまんで可動ノブ34を上下方向において移動させれば、誘導コイル31が移動するので、そのピッチを自在に調整することができることになる。なお、
図5(c)(平面図)に示すように、コイル支持具32a〜cは、外筒28の周方向において等間隔に3つ配設され、それぞれの下端部が、基台40(
図2)に固定されている。
【0029】
ここで、誘導コイル31のピッチをすべて等しくすると、加熱部20内部の空間における温度分布は均一とはならず、均熱性を確保することができない。すなわち、誘導コイル31のピッチがすべて等しい場合は、
図6に示すように、破線の平行斜線で示す中層の部位Bが、最も温度が高く、1点鎖線の平行斜線で示す上層の部位Aは、中層の部位Bよりは温度が低く、2点鎖線の平行斜線で示す部位Cは、上層の部位Aよりもさらに温度が低くなる。これは、上層の部位Aは、外筒28(
図2)の上部が開口しているため熱が上方に逃げるとともに常温の大気に近いこと、下層の部位Cは、内部に冷却水が流通する水冷昇降軸90(
図1)が近接することによる。
【0030】
そこで、誘導コイル31のピッチが狭いほど加熱温度が高まることから、中層の部位Bに対しては、
図2に示されているように、誘導コイル31のピッチは広くし、上層の部位Aに対しては、ピッチをやや狭くし、下層の部位Cに対しては、部位Aに対するよりもさらにピッチを狭くしている。
【0031】
この誘導コイル31のピッチの具体的な設定値は、被加熱合金のサイズや形状などにより異なるものである。したがって、ピッチを設定する場合は、あらかじめピッチをすべて等しくした状態で被加熱合金を加熱したうえで、加熱部20内部の空間における温度分布を測定し、得られた測定値に基づいてピッチを設定するようにする。
【0032】
このように、被加熱合金のサイズや形状などに応じて誘導コイル31のピッチを設定すれば、温度制御が容易ではないため用途が限られていた誘導加熱方式であっても、金属の熱処理において充分に有効性を発揮することが可能となる。
【0033】
図1において、以上のような構成の加熱部20が内部に設けられた加熱室10の下端部には、加熱室10からの放射熱を遮蔽するための、図面上で左右方向において移動可能な熱遮蔽板50aが配設されている。また、加熱室10と下方の冷却室80とを連結する連結部60の中間の部位には、加熱室10と冷却室80とを仕切って両者の雰囲気を分離するための、円板状の可動のゲート71を備えた真空ゲート弁70が配設されている。
【0034】
他方、冷却室80の上端部にも、図面上で左右方向において移動可能な熱遮蔽板50bが配設されている。ここにおける熱遮蔽板50bは、加熱室10の下端部に配設された熱遮蔽板50aと相まって、耐熱性がさほど高くない真空ゲート弁70を保護するためのものである。
【0035】
さらに、冷却室80の側面部には、冷却室80内に冷却用のガスを導入するためのガス導入管81が開口して備えられ、その内部には、ガスを圧送するためのファン82と、ガスを冷却するための熱交換器83aが配設されている。また、このガス導入管81と対向する位置の冷却室80の側面部には、冷却室80内に導入されたガスを外部に排出するためのガス排出管84が開口して備えられ、その内部に熱交換器83bが配設されている。冷却室80内に導入されるガスは、冷却室80より排出されるガスを循環して使用する。なお、熱交換器83a,83bは、ガス導入管81およびガス排出管84の双方ではなく、いずれか一方に配設するようにしてもよい。
【0036】
図7は、以上のように構成された熱処理炉を使用して被加熱合金を加熱している状態を示している。被加熱合金Aを加熱する場合は、水冷昇降軸90を上昇させて、その上端に固定された、被加熱合金を支持する支持台91を、加熱室10内に配設された加熱部20内部の空間内に進入させたうえで、被加熱合金Aを支持台91上に搭載する。支持台91への被加熱合金Aの搭載は、加熱室10の円板状の上部蓋11をはずして行う。所要の作業が完了したならば、加熱室10内に開口する、図示されてはいない排気口を介して排気をして、加熱室10および冷却室80内を真空にする。
【0037】
そこで、周波数が例えば1kHzの高周波電流を誘導コイル31に流して、加熱部20の内部を例えば1300℃程度に加熱する。このとき、誘導コイル31のピッチは、等間隔ではなく、加熱部20内部の温度分布が均一となるように調整されており、これにより、均熱性が±5℃の範囲で確保されている。
【0038】
この状態で、一定の時間が経過したならば、
図8に示すように、水冷昇降軸90を下降させて被加熱合金Aを冷却室80内に移動させる。同時に、各熱遮蔽板50a,50bおよび真空ゲート弁70のゲート71を、それぞれ張り出させる。
【0039】
そこで、ファン82の駆動のもとに、ガス導入管81を介する冷却用のガスを、熱交換器83aを通して冷却室80内に送り込んで、被加熱合金Aを冷却する。冷却室80内に送り込まれたガスは、ガス排出管84の開口部に配設された熱交換器83bにより冷却されて、冷却室80より排出された後、循環してガス導入管81に導かれて冷却室80内に送り込まれる。
【0040】
ここで、冷却用のガスは、HeガスやArガスなどの不活性ガスに限られない。
図10に示した従来例では、例えば、N
2ガスは、素材がWやMoである抵抗発熱体211を損傷する危険性があるため用いることができない。しかし、本発明による熱処理炉の冷却室80内では、そのような危険性はないことから、安価なN
2ガスを用いることが可能である。
【0041】
このようにして冷却室80内で冷却される被加熱合金Aの冷却速度は、本願発明者が行った実験によれば、加熱温度が1350℃付近の場合で400℃/分である。したがって、
図10に示した従来例によった場合の冷却速度が最大150℃/分であるのと比較して、極めて高い冷却速度を実現することができることになる。
【0042】
なお、本発明による熱処理炉は、鋼鉄などの金属の熱処理にも使用することができるが、鋼鉄などの浸炭を嫌う金属を熱処理する場合は、発熱体21〜23に用いるカーボンにSiC(炭化珪素)のコーティングを施すことにより対処することができる。
【0043】
以上においては、発熱体21を円筒状に形成し、上下開口を塞ぐ発熱体22,23を円板状に形成したものを、例に挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。その他にも、例えば、発熱体を角筒状に形成し、上下開口を塞ぐ発熱体を開口の形状に対応した形状に形成する場合についても、本発明は適用され得るものである。
【0044】
また、加熱された被加熱合金Aを冷却するための構成として、冷却室80に、ガス導入管81、ファン82、ガス排出管84および熱交換器83a,83bを配設する場合について説明した。しかし、本発明は、これに限られるものではない。例えば、
図9(部分断面図)に示すように、冷却室80B内の上部に張り出す熱遮蔽板50bの下方に、平面形状がリング状のガス供給管85を配し、その下面に、冷却用のガスを円錐状に噴出する多数のノズル86を、それぞれが破線で示す被加熱合金Aを指向するように、所定の角度(例えば、45°)をもって付設するとともに、冷却室80B内の下部に開口するガス排出管87を設ける構成としてもよい。
【0045】
さらに、冷却室80内に冷却用のガスを導入する場合について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。本願発明者が行った実験によれば、冷却用のガスを使用しなくても、加熱された被加熱合金Aの冷却速度は、加熱温度が1300℃付近の場合で300℃/分以上であり、
図10に示した従来例によった場合よりも高い冷却速度を得ることができる。したがって、冷却室80へのガス導入管81、ファン82、ガス排出管84および各熱交換器83a,83bの配設を省略しても、ランニング・コストの低廉化とともに本発明の目的である冷却速度の向上化を達成することができるものである。