特許第5700332号(P5700332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700332
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】改質糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 14/32 20060101AFI20150326BHJP
   D06M 14/24 20060101ALI20150326BHJP
   D06M 14/34 20060101ALI20150326BHJP
   D06M 23/06 20060101ALI20150326BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   D06M14/32
   D06M14/24
   D06M14/34
   D06M23/06
   D06M10/00 J
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2010-257614(P2010-257614)
(22)【出願日】2010年11月18日
(65)【公開番号】特開2012-107362(P2012-107362A)
(43)【公開日】2012年6月7日
【審査請求日】2013年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014487
【氏名又は名称】住江織物株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】三村 善英
(72)【発明者】
【氏名】源中 修一
(72)【発明者】
【氏名】米澤 修一
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
(72)【発明者】
【氏名】堀 照夫
(72)【発明者】
【氏名】奥林 里子
【審査官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−144296(JP,A)
【文献】 国際公開第99/004307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00−16/00
D06M 19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸であって搬送されている糸に電子線を照射する電子線照射工程と、
前記電子線照射後の搬送糸にラジカル重合性モノマーを接触させる接触工程と、
前記接触工程後の糸を80℃以上の温度で加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させるグラフト重合工程と、を含み、
前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程を不活性雰囲気で連続で実施し、
前記グラフト重合工程において、加熱槽内で前記糸の巻き取りを行いつつ糸を加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させることを特徴とする改質糸の製造方法。
【請求項2】
前記電子線照射工程の前に、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸の電子線照射工程への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を有する請求項1に記載の改質糸の製造方法。
【請求項3】
ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸であって搬送されている糸にラジカル重合性モノマーを接触させる接触工程と、
前記接触工程後の搬送糸に電子線を照射する電子線照射工程と、
前記電子線照射後の糸を80℃以上の温度で加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させるグラフト重合工程と、を含み、
前記接触工程、前記電子線照射工程および前記グラフト重合工程を不活性雰囲気で連続で実施し、
前記グラフト重合工程において、加熱槽内で前記糸の巻き取りを行いつつ糸を加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させることを特徴とする改質糸の製造方法。
【請求項4】
前記接触工程の前に、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸の接触工程への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を有する請求項3に記載の改質糸の製造方法。
【請求項5】
前記給糸工程から前記グラフト重合工程までの処理を、内部空間が給糸工程からグラフト重合工程まで連通されると共に該内部空間が不活性雰囲気である密閉可能な容器内で行う請求項2または4に記載の改質糸の製造方法。
【請求項6】
前記グラフト重合工程において、糸を100℃を超えて150℃以下の温度で加熱する請求項1〜5のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【請求項7】
前記加熱槽内で糸の巻密度が0.3g/cm3〜0.7g/cm3になるように前記糸の巻き取りを行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【請求項8】
前記電子線照射工程において、糸が電子線照射領域内を移動する合計距離(mm)を「L」とし、電子線照射装置の照射能力(kGy・m/min)を「P」とし、糸搬送速度(m/min)を「S」とし、糸搬送方向の照射幅(mm)を「d」としたとき、
{P×(L/d)}/S ≧ 50(kGy)
の関係式が成立することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【請求項9】
前記糸の搬送速度を100m/分〜1000m/分に設定することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【請求項10】
前記接触工程において、ディップ法、スプレー法又はコーティング法を用いて糸にラジカル重合性モノマーを接触させる請求項1〜のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【請求項11】
前記不活性雰囲気は、酸素濃度が500ppm以下の不活性雰囲気である請求項1〜10のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【請求項12】
前記ラジカル重合性モノマーとして、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、パーフルオロアルキル基、シラノール基、リン酸エステル基、グリシジル基、N−アルキルアミド基からなる群より選ばれる1種または2種以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを少なくとも用いる請求項1〜11のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト重合反応により改質(難燃性付与、抗菌性付与、吸湿性付与、吸水性付与、制電性付与、防汚性付与等)がなされた、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材の改質糸を安定して高速生産することのできる改質糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸の改質を行う技術は、古くから数多く提案されており、その中の一方法としてグラフト重合反応により糸の改質を行う方法が公知である。
【0003】
特許文献1には、糸状又は綿塊状繊維物質に、放射線グラフト重合を用いて、機能性官能基を有する重合性ビニルモノマーをグラフト重合させることにより改質糸を製造することが記載されている。また、糸に放射線を照射してラジカルを形成させ、これに重合性ビニルモノマーを反応させてグラフト重合させる前照射法と、糸を重合性ビニルモノマーの共存下で放射線を照射することによってラジカル形成とモノマーとの反応を行わせる同時照射法とがあることが記載されている。そして、前照射法の一例として、チーズボビンの周囲に糸を巻き付けたチーズに放射線を照射した後、この放射線照射糸を重合性ビニルモノマーに浸漬し、加熱することによって、グラフト重合改質糸を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−339187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、糸をチーズボビンの周囲に巻き付けたチーズを一旦製作して、この製作されたチーズを次の工程の放射線照射装置内にセットする、さらにチーズを次の浸漬、加熱工程で反応容器内にセットする、というような作業を要するものとなっており、従ってチーズ製作工程から放射線照射工程を経て浸漬、加熱工程に至るまでを一連の連続工程で実施することができないという問題があった。即ち、改質糸を連続工程で高速生産することができないという問題があった。
【0006】
また、ポリエステル糸、ポリアミド糸、ウール糸は、ラジカルが生成し難くグラフト重合させ難いものであり、改質を行うには電子線の照射時間を大きく増大させなければならず、このためにポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材を用いて高速生産で改質糸を製造することはできなかった。
【0007】
本発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、グラフト重合反応により改質(例えば難燃化等)がなされた、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材の改質糸を安定して高速生産できる改質糸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
[1]ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸であって搬送されている糸に電子線を照射する電子線照射工程と、
前記電子線照射後の搬送糸にラジカル重合性モノマーを接触させる接触工程と、
前記接触工程後の糸を80℃以上の温度で加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させるグラフト重合工程と、を含み、
前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程を不活性雰囲気で連続で実施することを特徴とする改質糸の製造方法。
【0010】
[2]前記電子線照射工程の前に、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸の電子線照射工程への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を有する前項1に記載の改質糸の製造方法。
【0011】
[3]ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸であって搬送されている糸にラジカル重合性モノマーを接触させる接触工程と、
前記接触工程後の搬送糸に電子線を照射する電子線照射工程と、
前記電子線照射後の糸を80℃以上の温度で加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させるグラフト重合工程と、を含み、
前記接触工程、前記電子線照射工程および前記グラフト重合工程を不活性雰囲気で連続で実施することを特徴とする改質糸の製造方法。
【0012】
[4]前記接触工程の前に、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸の接触工程への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を有する前項3に記載の改質糸の製造方法。
【0013】
[5]前記給糸工程から前記グラフト重合工程までの処理を、内部空間が給糸工程からグラフト重合工程まで連通されると共に該内部空間が不活性雰囲気である密閉可能な容器内で行う前項2または4に記載の改質糸の製造方法。
【0014】
[6]前記グラフト重合工程において、糸を100℃を超えて150℃以下の温度で加熱する前項1〜5のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0015】
[7]前記グラフト重合工程において、加熱槽内で前記糸の巻き取りを行いつつ糸を加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させる前項1〜6のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0016】
[8]前記加熱槽内で糸の巻密度が0.3g/cm3〜0.7g/cm3になるように前記糸の巻き取りを行う前項7に記載の改質糸の製造方法。
【0017】
[9]前記電子線照射工程において、糸が電子線照射領域内を移動する合計距離(mm)を「L」とし、電子線照射装置の照射能力(kGy・m/min)を「P」とし、糸搬送速度(m/min)を「S」とし、糸搬送方向の照射幅(mm)を「d」としたとき、
{P×(L/d)}/S ≧ 50(kGy)
の関係式が成立することを特徴とする前項1〜8のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0018】
[10]前記糸の搬送速度を100m/分〜1000m/分に設定することを特徴とする前項1〜9のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0019】
[11]前記接触工程において、ディップ法、スプレー法又はコーティング法を用いて糸にラジカル重合性モノマーを接触させる前項1〜10のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0020】
[12]前記不活性雰囲気は、酸素濃度が500ppm以下の不活性雰囲気である前項1〜11のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0021】
[13]前記ラジカル重合性モノマーとして、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、パーフルオロアルキル基、シラノール基、リン酸エステル基、グリシジル基、N−アルキルアミド基からなる群より選ばれる1種または2種以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを少なくとも用いる前項1〜12のいずれか1項に記載の改質糸の製造方法。
【0022】
[14]前項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法により得られた改質糸。
【発明の効果】
【0023】
[1]の発明では、搬送されている糸に電子線を照射することでラジカルを形成せしめ、該電子線照射後の糸にラジカル重合性モノマーを接触させて加熱することでラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させることができて、改質糸を製造できる。また、電子線照射工程、接触工程及びグラフト重合工程を不活性雰囲気で実施することで、電子線照射によって生成した活性種(ラジカル)の失活が起こり難くなるので、高いグラフト率の改質糸を製造できる。更に、グラフト重合工程において糸を80℃以上の温度で加熱するから、従来はラジカルが生成し難くグラフト重合させ難かった糸(ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸)であるにもかかわらず、ラジカルを十分に反応させることができて糸にラジカル重合性モノマーを十分にグラフト重合させることができる。しかして、電子線照射工程、接触工程及びグラフト重合工程を一連の連続工程で実施することで、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材の改質糸を高速で生産することが可能になる。
【0024】
[2]の発明では、電子線照射工程の前に、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸の電子線照射工程への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を設けているから、電子線照射により生成する活性種(ラジカル)の失活を十分に抑制することができ、より高いグラフト率の改質糸を製造できる。
【0025】
[3]の発明では、搬送されている糸にラジカル重合性モノマーを接触させ、次いで糸に電子線を照射した後に糸を加熱するので、糸におけるラジカル形成とラジカル重合性モノマーのグラフト重合を同時的に行わせることができて、改質糸を製造できる。また、接触工程、電子線照射工程及びグラフト重合工程を不活性雰囲気で実施することで、電子線照射によって生成した活性種(ラジカル)の失活が起こり難くなるので、高いグラフト率の改質糸を製造できる。更に、グラフト重合工程において糸を80℃以上の温度で加熱するから、従来はラジカルが生成し難くグラフト重合させ難かった糸(ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸)であるにもかかわらず、ラジカルを十分に反応させることができて糸にラジカル重合性モノマーを十分にグラフト重合させることができる。しかして、電子線照射工程、接触工程及びグラフト重合工程を一連の連続工程で実施することで、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材の改質糸を高速で生産することが可能になる。
【0026】
[4]の発明では、接触工程の前に、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸の接触工程への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を設けているから、電子線照射により生成する活性種(ラジカル)の失活を十分に抑制することができ、より高いグラフト率の改質糸を製造できる。
【0027】
[5]の発明では、給糸工程からグラフト重合工程までの処理を、内部空間が給糸工程からグラフト重合工程まで連通されると共に該内部空間が不活性雰囲気である密閉可能な容器内で行うから、電子線照射により生成する活性種(ラジカル)の失活をより十分に抑制することができる。
【0028】
[6]の発明では、グラフト重合工程において、糸を100℃を超えて150℃以下の温度で加熱するから、従来はラジカルが生成し難くグラフト重合させ難かった糸(ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸)であるにもかかわらず、ラジカルをより十分に反応させることができて十分に改質がなされた改質糸を製造することができる。
【0029】
[7]の発明では、グラフト重合工程において、加熱槽内で糸の巻き取りを行いつつ糸を加熱するので、糸の搬送速度を高速に設定しても(例えば100m/分以上に設定しても)糸に対して十分な加熱を行うことができてグラフト重合反応を十分に行わせることができる。従って、改質糸をより高速で生産することが可能になる。
【0030】
[8]の発明では、加熱槽内で糸の巻密度が0.3g/cm3〜0.7g/cm3になるように糸の巻き取りを行うから、加熱された気体が糸の内部まで浸透して内部まで熱が伝わり、ムラなくグラフト重合反応させることができる利点がある。
【0031】
[9]の発明では、電子線照射工程において、{P×(L/d)}/S≧50(kGy)の関係式が成立するから、ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸に対し、十分なグラフト重合させるに足る十分な電子線を糸に照射することができ、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材からなる十分に改質がなされた改質糸を製造することができる。
【0032】
[10]の発明では、糸の搬送速度を100m/分〜1000m/分に設定するから、高速で生産でき、低コストで大量の改質糸を製造することができる。
【0033】
[11]の発明では、ディップ法、スプレー法又はコーティング法を用いて糸にラジカル重合性モノマーを接触させるから、糸に対してモノマーを均一に塗布できる利点がある。
【0034】
[12]の発明では、前記不活性雰囲気は、酸素濃度が500ppm以下の不活性雰囲気であるから、電子線照射によって生成した活性種(ラジカル)の失活がより起こり難くなり、さらに高いグラフト率の改質糸を製造できる。
【0035】
[13]の発明では、ラジカル重合性モノマーとして、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、パーフルオロアルキル基、シラノール基、リン酸エステル基、グリシジル基、N−アルキルアミド基からなる群より選ばれる1種または2種以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを少なくとも用いるから、吸湿性、撥水性、難燃性、反応性等に富む改質糸を製造できる。
【0036】
[14]の発明では、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材からなる十分に改質がなされた改質糸が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の製造方法の一例を示す概略側面図である。
図2】電子線照射装置(電子線照射領域)を通過する糸の通過態様を示す上面図である。
図3】電子線照射装置(電子線照射領域)を通過する糸の通過態様の他の例を示す上面図である。
図4】電子線照射装置(電子線照射領域)を通過する糸の通過態様のさらに他の例を示す上面図である。
図5】糸が電子線照射領域内を移動する合計距離Lの算出法の説明図(上面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
第1発明に係る改質糸の製造方法は、ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸であって搬送されている糸に電子線を照射する電子線照射工程と、前記電子線照射後の糸にラジカル重合性モノマーを接触させる接触工程と、前記接触工程後の糸を80℃以上の温度で加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させるグラフト重合工程と、を含み、前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程を不活性雰囲気で連続で実施することを特徴とする。
【0039】
第2発明に係る改質糸の製造方法は、ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸であって搬送されている糸にラジカル重合性モノマーを接触させる接触工程と、前記接触工程後の糸に電子線を照射する電子線照射工程と、前記電子線照射後の糸を80℃以上の温度で加熱することによって前記ラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させるグラフト重合工程と、を含み、前記接触工程、前記電子線照射工程および前記グラフト重合工程を不活性雰囲気で連続で実施することを特徴とする。
【0040】
なお、上記第1、第2いずれの発明においても、前工程として、巻き取り状態の糸の巻き出しと、該巻き出された糸1の次工程(第1発明では電子線照射工程、第2発明では接触工程)への移送を不活性雰囲気で行う給糸工程を設けるのが好ましい。
【0041】
上記第1、第2発明によれば、ラジカル重合性モノマーを搬送されている糸にグラフト重合させることができて、改質糸を製造できる。また、電子線照射工程、接触工程及びグラフト重合工程を不活性雰囲気で実施することで、電子線照射によって生成した活性種(ラジカル)の失活が起こり難くなるので、高いグラフト率の改質糸を製造できる。更に、グラフト重合工程において糸を80℃以上の温度で加熱するから、従来はラジカルが生成し難くグラフト重合させ難かった糸(ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸)であるにもかかわらず、ラジカルを十分に反応させることができて糸にラジカル重合性モノマーを十分にグラフト重合させることができる。しかして、電子線照射工程、接触工程及びグラフト重合工程を一連の連続工程で実施することで、ポリエステル素材、ポリアミド素材又はウール素材の改質糸を高速で生産することが可能になる。
【0042】
なお、表1に、糸素材として使用し得る各ポリマーのラジカルのG値を示す。「ラジカルのG値」とは、電子線のエネルギー吸収線量100eV当たりの生成ラジカル数を意味するものであり、この数値が大きい程、電子線照射でより多くのラジカルを発生することができる。表1から明らかなように、ポリエステル素材、ポリアミド素材及びウール素材は、ラジカルのG値が他の素材よりも格段に小さく、電子線が照射されてもラジカルを非常に生成し難いことがわかる。
【0043】
【表1】
【0044】
第1発明の製造方法の一実施形態を図1に示す。本実施形態では、前記給糸工程から前記グラフト重合工程までの処理を、内部空間が給糸工程からグラフト重合工程まで連通されると共に該内部空間が窒素雰囲気である密閉可能な容器40内で行う。
【0045】
前記容器40は、給糸部40Aと、電子線照射部40Bと、接触・重合部40Cと、給糸部40Aと電子線照射部40Bを連通する第1連通部40Xと、電子線照射部40Bと接触・重合部40Cを連通する第2連通部40Yと、を備えている(図1参照)。
【0046】
前記給糸部40A内に糸が巻き取られてなる糸ロールが配置され、該給糸部40A内で糸1の巻き出しと、該巻き出された糸1の電子線照射工程への移送が行われ、前記第1連通部40Xを介して糸1が電子線照射部40B内へ搬送される。この電子線照射部40B内で、搬送されている(搬送移動中の)糸1に対して電子線照射装置2から電子線が照射される。電子線照射後の糸1Aは、前記第2連通部40Yを介して接触・重合部40C内へ搬送される。接触・重合部40C内には、ラジカル重合性モノマー液4を収容した接触処理槽3が上流側に配置されると共に下流側に加熱槽5が配置されている。しかして、電子線照射後の糸1Aは、接触処理槽3内のラジカル重合性モノマー液4に浸漬され、浸漬後の糸(接触工程後の糸)1Bは、加熱槽5内に搬送され、該加熱槽5内で糸は巻き取られつつ80℃以上の温度で加熱され、このような加熱によりラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させて改質糸を得る。
【0047】
本発明において、改質対象の糸としては、ポリエステル糸、ポリアミド糸またはウール糸を使用する。
【0048】
前記糸の種類としては、特に限定されるものではないが、例えば、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、紡績糸、前記素材の混紡糸、前記素材の混合素材糸等が挙げられる。
【0049】
(電子線照射工程)
電子線の照射量は、照射対象の糸の性能や照射による糸物性の低下を考慮して適宜決めればよいが、10kGy〜300kGyの範囲に設定するのが好ましい。照射量が10kGy以上であることでグラフト重合に必要な量の活性種が得られると共に、300kGy以下であることで糸を構成する繊維の主鎖の切断を防止できて糸物性の低下を防止できる。電子線照射は不活性雰囲気で行う。前記不活性雰囲気とは、電子線照射によって生成した活性種が失活したり、揮散しないような状況下をいう。前記不活性雰囲気の具体例としては、フィルムで密閉したり容器に入れ可能な限り空気を抜いて酸素濃度を低くした状態の他、窒素雰囲気などが挙げられる。
【0050】
この電子線照射工程では、例えば、改質対象の糸を電子線照射領域20で複数回以上往復移動させて該糸に電子線を照射する。図1、2に示すように、電子線照射装置2による電子線照射領域20に配置された複数個の糸反転用ローラ19に糸1を誘導しつつ各糸反転用ローラ19で糸の移送方向を順次反転させることによって改質対象の糸1を電子線照射領域20で複数回以上往復移動させ、こうして電子線が照射された糸1Aを得る。なお、改質対象の糸を電子線照射領域20で複数回以上往復移動させる形態は、図2に例示したものに特に限定されるものではない。
【0051】
電子線照射領域20における糸の搬送態様としては、図3、4に示す搬送態様を採用してもよい。図3では、電子線照射領域20において、糸をロールの外周面に複数回巻き付けつつ搬送しており、これにより糸に対し照射する電子線量を顕著に増大させることができ、こうして十分に電子線が照射された糸1Aを得ることができる。また、図4では、電子線照射領域20において、複数個の糸反転用ローラ21を介して糸を複数回略反転させて搬送しており、これにより糸に対し照射する電子線量を顕著に増大させることができ、こうして十分に電子線が照射された糸1Aを得ることができる。
【0052】
電子線照射工程において、糸1が電子線照射領域内を移動する合計距離(mm)を「L」とし、電子線照射装置の照射能力(kGy・m/min)を「P」とし、糸搬送速度(m/min)を「S」とし、糸搬送方向の照射幅(mm)を「d」としたとき(図5参照)、
{P×(L/d)}/S ≧ 50(kGy)
の関係式が成立するのが好ましく、この場合には糸(ポリエステル糸、ポリアミド糸及びウール糸からなる群より選ばれる糸)に対し、十分なグラフト重合させるに足る十分な電子線を糸に照射することができ、十分に改質がなされた改質糸を製造できる。
【0053】
なお、糸1が電子線照射領域内を移動する合計距離Lは、図5において太線で示す糸の照射部分(電子線が照射される部分)の長さの総和である。
【0054】
(接触工程)
接触工程では、糸にラジカル重合性モノマーを接触させる。糸にラジカル重合性モノマーを接触させる方法としては、ラジカル重合性モノマーを水、低級アルコール等の溶媒に希釈した溶液に糸を浸漬するディップ法、前記希釈溶液をローラー等で糸に塗布するコーティング法、前記希釈溶液を糸にスプレー塗布するスプレー法などが挙げられる。前記希釈溶液におけるラジカル重合性モノマーの濃度は、設定するグラフト率により適宜設定すればよいが、通常、1〜70容量%とするのがよい。前記ラジカル重合性モノマーの糸への付与量(付着量)は、糸100質量部に対し0.5〜50質量部に設定するのが好ましい。
【0055】
前記ラジカル重合性モノマーとしては、ラジカル重合可能なモノマーであれば特に限定されない。前記ラジカル重合性モノマーとしては、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、パーフルオロアルキル基、シラノール基、リン酸エステル基、グリシジル基、N−アルキルアミド基からなる群より選ばれる1種または2種以上の官能基を有するラジカル重合性モノマーを少なくとも用いるのが好ましい。前記ラジカル重合性モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。前記ラジカル重合性モノマーを選択することにより、吸水性、制電性、防汚性、抗菌性、難燃性、吸湿性等の様々な性能を糸に付与して改質することができる。
【0056】
糸に難燃性を付与する場合には、リン酸系ラジカル重合性モノマー(リン酸基及びラジカル重合性基を含有するモノマー)を少なくとも用いるのが好ましい。中でも、下記一般式(1)で表されるビニルホスフェート化合物を用いるのが特に好ましい。
【0057】
【化1】
【0058】
(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、nは1〜3の整数を表し、mは1〜6の整数を表す)。
【0059】
中でも、一般式(1)におけるR1がメチル基であり、R2が水素原子であるビニルホスフェート化合物を用いるのが好ましい。また、R3は水素原子であるのが好ましい。また、水溶液として難燃加工を行う場合には、nは1または2であるのが好ましい。
【0060】
一般式(1)で表されるビニルホスフェート化合物としては、例えば、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジエチル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール−(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ポリアルキレングリコール−(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート等が挙げられる。
【0061】
(グラフト重合工程)
グラフト重合工程では、糸を加熱することによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させる。前記加熱温度は80℃〜150℃に設定するのが好ましい。80℃以上とすることで重合速度が大きくなり十分なグラフト率を得ることができると共に、150℃以下とすることでグラフト鎖同士の結合により重合の停止反応が起こることを抑制することができる。中でも、グラフト重合工程では糸を100℃を超えて150℃以下の温度で加熱するのが特に好ましい。
【0062】
グラフト重合工程において、加熱槽5内で前記糸の巻き取りを行いつつ糸を加熱することによってラジカル重合性モノマー4を糸にグラフト重合させるのが好ましい。この時、糸の巻き取りの巻密度は0.3g/cm3〜0.7g/cm3の範囲に設定するのが好ましい。
【0063】
本発明において、各工程での不活性雰囲気としては、酸素濃度が500ppm以下の不活性雰囲気を採用するのが好ましい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
図1に示すように、容器40の給糸部40A内で400デシテックスのPET(ポリエチレンテレフタレート)製マルチフィラメント糸(原糸)1の糸ロール(糸の巻き取り状態)から糸1の巻き出しを行って126m/分の速度で搬送し(給糸工程)、次いでこの糸1を電子線照射装置2の電子線照射領域20内で3往復移動させることによって(図2参照)、糸1に100kGyの電子線を照射した(電子線照射工程)。電子線照射装置2の最大処理能力は1800kGy・m/分である。次いで前記電子線照射後の糸1Aを接触処理槽3内のラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)4に浸漬通過させる(ディップ法でモノマー液を接触させる)ことによって、糸1Aにラジカル重合性モノマー4を接触させて表面に付着せしめた(接触工程)。次いで、前記接触工程後の糸1Bを加熱槽5内に搬送し該加熱槽5内において120℃で加熱を行いつつ、巻密度0.4g/cm3で糸の巻き取り(ソフトアップ)を行うことによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させた(グラフト重合工程)。
【0066】
なお、前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)で連続工程で実施した。即ち、前記給糸工程、前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程は、いずれも不活性雰囲気で実施した。
【0067】
次に、前記グラフト重合工程を経て得られた、糸を巻き取ってなるチーズに対してチーズ染色機を用いて100℃の熱水で洗浄を行った後、120℃で12時間乾燥を行うことによって、改質糸を得た。
【0068】
<実施例2>
400デシテックスのPET製マルチフィラメント糸に代えて、52/2番手のウール糸を用いた以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0069】
<実施例3>
400デシテックスのPET製マルチフィラメント糸に代えて、300デシテックスのナイロン製マルチフィラメント糸を用いた以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0070】
<実施例4>
給糸工程の雰囲気を、窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)に代えて、空気雰囲気とした以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0071】
<実施例5>
容器40の給糸部40A内で400デシテックスのPET(ポリエチレンテレフタレート)製マルチフィラメント糸(原糸)1の糸ロール(糸の巻き取り状態)から糸1の巻き出しを行って126m/分の速度で搬送し(給糸工程)、次いでこの糸を接触処理槽内のラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)に浸漬通過させる(ディップ法でモノマー液を接触させる)ことによって、糸にラジカル重合性モノマーを接触させて表面に付着せしめた(接触工程)。次いで前記接触工程後の糸を電子線照射装置2の電子線照射領域内で3往復移動させることによって、糸に100kGyの電子線を照射した(電子線照射工程)。電子線照射装置2の最大処理能力は1800kGy・m/分である。前記電子線照射後の糸を加熱槽内に搬送し該加熱槽内において120℃で加熱を行いつつ、巻密度0.4g/cm3で糸の巻き取り(ソフトアップ)を行うことによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させた(グラフト重合工程)。
【0072】
なお、前記給糸工程から前記接触工程、前記電子線照射工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)内で窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)で連続工程で実施した。即ち、前記給糸工程、前記接触工程、前記電子線照射工程及び前記グラフト重合工程は、いずれも不活性雰囲気で実施した。
【0073】
次に、前記グラフト重合工程を経て得られた、糸を巻き取ってなるチーズに対してチーズ染色機を用いて100℃の熱水で洗浄を行った後、120℃で12時間乾燥を行うことによって、改質糸を得た。
【0074】
<実施例6>
給糸工程の雰囲気を、窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)に代えて、空気雰囲気とした以外は、実施例5と同様にして改質糸を得た。
【0075】
<実施例7>
糸1への電子線照射線量を40kGyに設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0076】
<実施例8>
糸の搬送速度を18m/分に設定すると共に、電子線照射工程において糸1を電子線照射装置2の電子線照射領域20内で往復させることなく単に1回通過させることによって、糸1に100kGyの電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0077】
<実施例9>
糸に対するラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)の接触を、ディップ法に代えて、ローラーでモノマー液を糸に塗布するコーティング法で行った以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0078】
<実施例10>
糸に対するラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)の接触を、ディップ法に代えて、モノマー液を糸にスプレー状に塗布するスプレー法で行った以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0079】
<実施例11>
グラフト重合工程における糸の巻き取りの巻密度を0.8g/cm3に設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0080】
<実施例12>
グラフト重合工程における糸の加熱温度を80℃に設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0081】
<実施例13>
前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で酸素濃度1500ppmの窒素雰囲気で実施した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0082】
<実施例14>
糸の搬送速度を918m/分に設定すると共に、電子線照射工程において糸1を電子線照射装置2の電子線照射領域20内で25往復移動させた以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。なお、糸1への電子線照射量は100kGyであった。
【0083】
【表2】
【0084】
<比較例1>
前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で空気雰囲気(酸素濃度20000ppm)で実施した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0085】
<比較例2>
400デシテックスのPET(ポリエチレンテレフタレート)製マルチフィラメント糸(原糸)1の糸ロール(チーズ状態)に対し、窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)下で100kGyの電子線を照射した(電子線照射工程)。次いで、電子線照射後の糸ロールから糸の巻き出しを行って126m/分の速度で搬送し(給糸工程)、糸を接触処理槽3内のラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)4に浸漬通過させる(ディップ法でモノマー液を接触させる)ことによって、糸にラジカル重合性モノマー4を接触させて表面に付着せしめた(接触工程)。次いで、前記接触工程後の糸を加熱槽5内に搬送し該加熱槽5内において120℃で加熱を行いつつ、巻密度0.4g/cm3で糸の巻き取り(ソフトアップ)を行うことによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させた(グラフト重合工程)。
【0086】
なお、前記電子線照射工程、給糸工程、前記接触工程、前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)内で窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)で実施した。即ち、前記給糸工程、前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程は、いずれも不活性雰囲気で実施した。
【0087】
次に、前記グラフト重合工程を経て得られた、糸を巻き取ってなるチーズに対してチーズ染色機を用いて100℃の熱水で洗浄を行った後、120℃で12時間乾燥を行うことによって、改質糸を得た。
【0088】
<比較例3>
グラフト重合工程における糸の加熱温度を50℃に設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0089】
<比較例4>
前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で空気雰囲気(酸素濃度20000ppm)で実施した以外は、実施例5と同様にして改質糸を得た。
【0090】
<比較例5>
グラフト重合工程における糸の加熱温度を50℃に設定した以外は、実施例5と同様にして改質糸を得た。
【0091】
【表3】
【0092】
上記のようにして得られた改質糸のグラフト率を下記評価法に基づいて評価した。その結果を表2、3に示す。
【0093】
<グラフト率評価法>
前記洗浄、乾燥を行った後のチーズ状態の改質糸における内層部51、中層部52、外層部53(図1参照)の糸をそれぞれ検尺用繰返機で一定の長さ(200m)採取し、これら採取糸を120℃で2時間乾燥した後、その質量を測定し、下記算出式よりグラフト率を求めた。
【0094】
グラフト率(質量%)={(M−N)÷N}×100
M:採取糸(200m)の質量
N:処理前の原糸(200m)の質量。
【0095】
グラフト率の平均値が10%以上であるものを「◎」とし、5%以上10%未満であるものを「○」、2%以上5%未満であるものを「△」、0%以上2%未満であるものを「×」とした。
【0096】
表2、3から明らかなように、本発明の製造方法で得られた実施例1〜14の改質糸は、糸の素材としてポリエステル、ポリアミド又はウールを用いているにもかかわらず、高いグラフト率が得られており、十分に改質された改質糸を高速で製造することができた。
【0097】
これに対し、全工程を空気雰囲気で実施した比較例1、4では、グラフト率は格段に低く、糸の改質が殆どなされていない。また、グラフト重合工程での糸の加熱温度を50℃に設定した比較例3、5では、グラフト率は格段に低く、糸の改質が殆どなされていない。また、非連続で製造した比較例2では、グラフト率は格段に低く、糸の改質が殆どなされていない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の製造方法で得られた改質糸は、グラフト重合反応により改質(難燃性付与、抗菌性付与、吸湿性付与、吸水性付与、制電性付与、防汚性付与等)がなされていて高機能性であるので、例えば編物、織物、不織布等を構成する糸として用いられる。
【符号の説明】
【0099】
1…糸
1A…電子線照射糸
1B…接触工程後の糸
2…電子線照射装置
3…接触処理槽
4…ラジカル重合性モノマー
5…加熱槽
20…電子線照射領域
図1
図2
図3
図4
図5