【実施例】
【0064】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
図1に示すように、容器40の給糸部40A内で400デシテックスのPET(ポリエチレンテレフタレート)製マルチフィラメント糸(原糸)1の糸ロール(糸の巻き取り状態)から糸1の巻き出しを行って126m/分の速度で搬送し(給糸工程)、次いでこの糸1を電子線照射装置2の電子線照射領域20内で3往復移動させることによって(
図2参照)、糸1に100kGyの電子線を照射した(電子線照射工程)。電子線照射装置2の最大処理能力は1800kGy・m/分である。次いで前記電子線照射後の糸1Aを接触処理槽3内のラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)4に浸漬通過させる(ディップ法でモノマー液を接触させる)ことによって、糸1Aにラジカル重合性モノマー4を接触させて表面に付着せしめた(接触工程)。次いで、前記接触工程後の糸1Bを加熱槽5内に搬送し該加熱槽5内において120℃で加熱を行いつつ、巻密度0.4g/cm
3で糸の巻き取り(ソフトアップ)を行うことによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させた(グラフト重合工程)。
【0066】
なお、前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m
3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)で連続工程で実施した。即ち、前記給糸工程、前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程は、いずれも不活性雰囲気で実施した。
【0067】
次に、前記グラフト重合工程を経て得られた、糸を巻き取ってなるチーズに対してチーズ染色機を用いて100℃の熱水で洗浄を行った後、120℃で12時間乾燥を行うことによって、改質糸を得た。
【0068】
<実施例2>
400デシテックスのPET製マルチフィラメント糸に代えて、52/2番手のウール糸を用いた以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0069】
<実施例3>
400デシテックスのPET製マルチフィラメント糸に代えて、300デシテックスのナイロン製マルチフィラメント糸を用いた以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0070】
<実施例4>
給糸工程の雰囲気を、窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)に代えて、空気雰囲気とした以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0071】
<実施例5>
容器40の給糸部40A内で400デシテックスのPET(ポリエチレンテレフタレート)製マルチフィラメント糸(原糸)1の糸ロール(糸の巻き取り状態)から糸1の巻き出しを行って126m/分の速度で搬送し(給糸工程)、次いでこの糸を接触処理槽内のラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)に浸漬通過させる(ディップ法でモノマー液を接触させる)ことによって、糸にラジカル重合性モノマーを接触させて表面に付着せしめた(接触工程)。次いで前記接触工程後の糸を電子線照射装置2の電子線照射領域内で3往復移動させることによって、糸に100kGyの電子線を照射した(電子線照射工程)。電子線照射装置2の最大処理能力は1800kGy・m/分である。前記電子線照射後の糸を加熱槽内に搬送し該加熱槽内において120℃で加熱を行いつつ、巻密度0.4g/cm
3で糸の巻き取り(ソフトアップ)を行うことによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させた(グラフト重合工程)。
【0072】
なお、前記給糸工程から前記接触工程、前記電子線照射工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m
3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)内で窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)で連続工程で実施した。即ち、前記給糸工程、前記接触工程、前記電子線照射工程及び前記グラフト重合工程は、いずれも不活性雰囲気で実施した。
【0073】
次に、前記グラフト重合工程を経て得られた、糸を巻き取ってなるチーズに対してチーズ染色機を用いて100℃の熱水で洗浄を行った後、120℃で12時間乾燥を行うことによって、改質糸を得た。
【0074】
<実施例6>
給糸工程の雰囲気を、窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)に代えて、空気雰囲気とした以外は、実施例5と同様にして改質糸を得た。
【0075】
<実施例7>
糸1への電子線照射線量を40kGyに設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0076】
<実施例8>
糸の搬送速度を18m/分に設定すると共に、電子線照射工程において糸1を電子線照射装置2の電子線照射領域20内で往復させることなく単に1回通過させることによって、糸1に100kGyの電子線を照射した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0077】
<実施例9>
糸に対するラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)の接触を、ディップ法に代えて、ローラーでモノマー液を糸に塗布するコーティング法で行った以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0078】
<実施例10>
糸に対するラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)の接触を、ディップ法に代えて、モノマー液を糸にスプレー状に塗布するスプレー法で行った以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0079】
<実施例11>
グラフト重合工程における糸の巻き取りの巻密度を0.8g/cm
3に設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0080】
<実施例12>
グラフト重合工程における糸の加熱温度を80℃に設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0081】
<実施例13>
前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m
3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で酸素濃度1500ppmの窒素雰囲気で実施した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0082】
<実施例14>
糸の搬送速度を918m/分に設定すると共に、電子線照射工程において糸1を電子線照射装置2の電子線照射領域20内で25往復移動させた以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。なお、糸1への電子線照射量は100kGyであった。
【0083】
【表2】
【0084】
<比較例1>
前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m
3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で空気雰囲気(酸素濃度20000ppm)で実施した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0085】
<比較例2>
400デシテックスのPET(ポリエチレンテレフタレート)製マルチフィラメント糸(原糸)1の糸ロール(チーズ状態)に対し、窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)下で100kGyの電子線を照射した(電子線照射工程)。次いで、電子線照射後の糸ロールから糸の巻き出しを行って126m/分の速度で搬送し(給糸工程)、糸を接触処理槽3内のラジカル重合性モノマー液(50質量%のアクリル酸水溶液)4に浸漬通過させる(ディップ法でモノマー液を接触させる)ことによって、糸にラジカル重合性モノマー4を接触させて表面に付着せしめた(接触工程)。次いで、前記接触工程後の糸を加熱槽5内に搬送し該加熱槽5内において120℃で加熱を行いつつ、巻密度0.4g/cm
3で糸の巻き取り(ソフトアップ)を行うことによってラジカル重合性モノマーを糸にグラフト重合させた(グラフト重合工程)。
【0086】
なお、前記電子線照射工程、給糸工程、前記接触工程、前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m
3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)内で窒素雰囲気(酸素濃度は400ppm)で実施した。即ち、前記給糸工程、前記電子線照射工程、前記接触工程および前記グラフト重合工程は、いずれも不活性雰囲気で実施した。
【0087】
次に、前記グラフト重合工程を経て得られた、糸を巻き取ってなるチーズに対してチーズ染色機を用いて100℃の熱水で洗浄を行った後、120℃で12時間乾燥を行うことによって、改質糸を得た。
【0088】
<比較例3>
グラフト重合工程における糸の加熱温度を50℃に設定した以外は、実施例1と同様にして改質糸を得た。
【0089】
<比較例4>
前記給糸工程から前記電子線照射工程、前記接触工程を経て前記グラフト重合工程までの処理を連続した50m
3の密閉可能な容器(ステンレス製容器)40内で空気雰囲気(酸素濃度20000ppm)で実施した以外は、実施例5と同様にして改質糸を得た。
【0090】
<比較例5>
グラフト重合工程における糸の加熱温度を50℃に設定した以外は、実施例5と同様にして改質糸を得た。
【0091】
【表3】
【0092】
上記のようにして得られた改質糸のグラフト率を下記評価法に基づいて評価した。その結果を表2、3に示す。
【0093】
<グラフト率評価法>
前記洗浄、乾燥を行った後のチーズ状態の改質糸における内層部51、中層部52、外層部53(
図1参照)の糸をそれぞれ検尺用繰返機で一定の長さ(200m)採取し、これら採取糸を120℃で2時間乾燥した後、その質量を測定し、下記算出式よりグラフト率を求めた。
【0094】
グラフト率(質量%)={(M−N)÷N}×100
M:採取糸(200m)の質量
N:処理前の原糸(200m)の質量。
【0095】
グラフト率の平均値が10%以上であるものを「◎」とし、5%以上10%未満であるものを「○」、2%以上5%未満であるものを「△」、0%以上2%未満であるものを「×」とした。
【0096】
表2、3から明らかなように、本発明の製造方法で得られた実施例1〜14の改質糸は、糸の素材としてポリエステル、ポリアミド又はウールを用いているにもかかわらず、高いグラフト率が得られており、十分に改質された改質糸を高速で製造することができた。
【0097】
これに対し、全工程を空気雰囲気で実施した比較例1、4では、グラフト率は格段に低く、糸の改質が殆どなされていない。また、グラフト重合工程での糸の加熱温度を50℃に設定した比較例3、5では、グラフト率は格段に低く、糸の改質が殆どなされていない。また、非連続で製造した比較例2では、グラフト率は格段に低く、糸の改質が殆どなされていない。