特許第5700338号(P5700338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公益財団法人北九州産業学術推進機構の特許一覧

特許5700338リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置
<>
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000005
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000006
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000007
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000008
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000009
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000010
  • 特許5700338-リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700338
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】リチウム吸着剤の製造方法及びリチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20150326BHJP
   B01J 20/06 20060101ALI20150326BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20150326BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20150326BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   B01J20/30
   B01J20/06 A
   B01J20/34 G
   C02F1/28 E
   C01G45/00
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-540450(P2011-540450)
(86)(22)【出願日】2010年10月13日
(86)【国際出願番号】JP2010067986
(87)【国際公開番号】WO2011058841
(87)【国際公開日】20110519
【審査請求日】2013年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2009-257552(P2009-257552)
(32)【優先日】2009年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】802000031
【氏名又は名称】公益財団法人北九州産業学術推進機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095603
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 和治
【審査官】 近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−245542(JP,A)
【文献】 特開2000−243399(JP,A)
【文献】 特開2004−115314(JP,A)
【文献】 喜多條鮎子他,λ-MnO2粒状吸着剤を用いた海水からの高選択的リチウム回収プロセス,日本イオン交換学会誌,2005年,Vol.16, No.1,p49-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00〜20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4酸化3マンガン(Mn34)及び水酸化リチウム(LiOH)を、マンガンとリチウムのモル比がMn:Li=1〜1.2:1となるように混合し、メカノケミカル的粉砕処理を行うメカノケミカル工程と、次いで空気あるいは酸素雰囲気下にて375℃〜450℃の温度域で仮焼成する仮焼成工程と、次いで冷却し混合粉砕した後、空気あるいは酸素雰囲気下にて475℃〜550℃の温度域で本焼成を行いスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムを得る本焼成工程と、該スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムのリチウム(a)に対する酸(b)のモル比がa:b=1:20超となる過剰の酸で、前記スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムからリチウムイオンを溶離して一般式HaMn2b(式中、1.8≦a≦2、4<b≦4.2である。)で表わされるリチウム吸着剤を得る溶離工程と、を有し、前記メカノケミカル工程が、メカノケミカル的粉砕処理を45分以上行って、前記仮焼成工程で得られる仮焼成物のXRDにおけるMn34のピークを減少させるものであることを特徴とするリチウム吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記本焼成工程で得られた前記スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウム100重量部に対して、無機系バインダ2重量部〜40重量部と水を混練したあと、径0.5mm〜6mmの紐状又は粒状の成形体に加工する成形工程と、次いで前記成形体を450℃〜550℃の温度域で0.5〜3時間焼結し、成形体とする焼結工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウム吸着剤の製造方法。
【請求項3】
原水から請求項1又は2に記載の製法で作製されたリチウム吸着剤を用いて選択的にリチウムイオンを吸着する吸着工程と、0.1M〜2.0Mの塩酸、過塩素酸又は硝酸の内いずれか1を用いてリチウム(a)に対する酸(b)のモル比がa:b=1:20超となる過剰の酸で前記リチウム吸着剤からリチウムイオンを溶離するリチウムイオン溶離工程を有することを特徴とするリチウム濃縮方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製法で作製されたリチウム吸着剤が充填されたリチウム吸着カラムを備えたことを特徴とするリチウム濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水や地熱水等のリチウムを含むリチウム含有水から微量に含まれるリチウムを選択的に濃縮・採取するために用いる、また、廃棄物や廃水に合まれるリチウムを選択的に効率よく分離・回収するために用いるλ型マンガン酸化物からなるリチウム吸着剤の製造方法とそのリチウム吸着剤を用いたリチウム濃縮方法及びリチウム濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海水中には多くの溶存成分があり、その絶対量の大きさからその溶存成分を採取することが注目されてきた。海水中の元素量を陸上の推定埋蔵量と比較すると、大部分の元素について海水中の溶存量の方が大きいことが知られている。しかしながら、海水中の元素濃度は極めて低く、工業的に利用可能なものは限られている。この中で、現在、工業化されているものとして、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、臭素、塩化カリウムなどを挙げることができる。
【0003】
リチウム、ウラン、金、銅などは海水における溶存濃度が極めて低いが、その利用価値が高いために工業的に利用可能な採取技術の開発が進められている。リチウムは、大容量電池や航空機用軽合金のための添加元素、または核融合燃料など将来有望な用途がある。また、リチウムは、ウランなどに比べると海水中の濃度が高く、平均0.17ppmであるが、ナトリウム(10,000ppm以上)など高濃度の共存金属を随伴させることなく、リチウムのみを選択的に採取することが必要である。温泉水等地熱熱水や塩湖かん水には様々な金属イオンが溶け込んでおり、特にリチウムイオンは海水中の溶存濃度に比し格段に濃度が高く、例えば地熱熱水中の濃度は海水中のそれの約100倍であり、温泉水等地熱熱水や塩湖かん水からリチウムを濃縮・採取するシステムも有望な工業的リチウム採取システムである。
【0004】
溶存しているリチウムなどの微量成分の実験室的な採取法として、共沈法、溶媒抽出法、イオン浮選法、沈殿浮選法、クロマトグラフ法、生物濃縮法など様々な方法があり、分析化学的分離などに応用されている。しかしながら、工業的に可能性のある方法は、吸着法のみである。吸着法によって海水中のリチウムを採取する場合、膨大な量の海水と吸着剤とを接触させる必要があるので、さらなる高効率の採取法として、当初水酸化アルミニウムを用いて吸着する方法が注目されたが、実用化にはほど遠い性能であった。
【0005】
(特許文献1)には、オキシ水酸化マンガン及び/または三酸化二マンガンと水酸化リチウム水酸化物とを、耐圧容器中で加熱反応させてLiMnの組成をもつリチウムマンガン複合酸化物を得て、さらに酸素存在下で焼成してリチウム吸着剤の原料を得ることが記載されている。
【0006】
LiMnの組成をもつリチウムマンガン複合酸化物の合成法としては、(非特許文献1)にγ−MnOOHとLiOHを原料として合成する方法が、(非特許文献2)にCHCOOLi−Mn(CHCOO)・HOを原料として合成する方法が、(非特許文献3)にMn−LiCOを原料として合成する方法が、(非特許文献4)にMn−LiCOを原料にして固相反応法を用いた方法が記載されている。
【0007】
(特許文献2)には、リチウム含有マンガン酸化物をリチウム吸着剤原料として用いて海水からリチウムを濃縮し、さらに電気透析でリチウムを濃縮する方法が記載されている。
【0008】
(特許文献3)には、「マンガン化合物とリチウム化合物とを原料とし、乾式でメカノケミカル反応を行うことにより反応前駆体を形成し、次いで焼成して、Li1+xMn2−x(0≦x≦0.33)で表されるスピネル型結晶構造を含む複合化合物を得るスピネルマンガンの合成方法。」が開示されている。
【0009】
(特許文献4)は本願発明の発明者等によるもので、MnとLiOHをマンガンとリチウムのモル比を1.5〜2.5となるように混合・粉砕し、仮焼成と本焼成をしてスピネル型酸素過剰マンガンを得て、該スピネル型酸素過剰マンガンを大過剰の酸で処理してリチウムを溶離し、リチウム吸着剤を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3876308号公報
【特許文献2】特許第3883491号公報
【特許文献3】特開2004−115314号公報
【特許文献4】特許第3937865号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】R.Chitrakar,H.Knoh,Y.Miyai,K.Ooi,“Recovery of lithium from seawater using manganese oxide adsorbent(H1.6Mn1.6O4)derived from Li1.6Mn1.6O4”,Ind.Eng.Chem.Res.,40,2054−2058(2001)
【非特許文献2】K.−S.Chung,J.−C.Lee,E.−J.Kim,K.−C.Lee,Y.−S.Kim,K.Ooi,“Recovery of lithium from seawater using nano−manganese oxide adsorbents prepared by gel process”,Materials Science Forum,449−452,277−280(2004)
【非特許文献3】K.Ooi,Y.Miyai,S.Katoh,H.Maeda,M.Abe,“Analysis of pH titrationdata in a λ・MnO2+LiOH system on the basis of redox mechanism”,Langmuir,6,289−91(1990)
【非特許文献4】A.Tanaka,H.Tamura,R.Furuichi,“Surface hydroxyl site density on spinel−type λ-MnO2 as a measure of ion−exchange capacity”,Electrochemistry,67,974−978(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら上記従来の技術においては、以下のような課題を有していた。
(1)(特許文献1)に記載のリチウム吸着剤は繰り返し使用すると構造が崩れてしまい長期間の実用に耐えないという課題を有していた。
(2)(特許文献2)に記載のリチウム濃縮方法は、リチウム吸着剤の性能が低いために、電気透析を用いてさらにリチウム濃縮をする必要があり、設備が複雑になるという課題を有していた。
(3)(非特許文献1)乃至(非特許文献4)に記載のリチウムマンガン複合酸化物は、リチウムの吸着能が低い上に、繰り返し使用すると構造が崩れてしまい長期間の実用に耐えないという課題を有していた。
(4)(特許文献3)は、酸化還元反応が優勢で正極活物質として有用なスピネルマンガンを与えるが、Mnの不均化が生じ易く、かつ、イオン交換時にMnの溶出が生じ易く、吸着剤として使用し難いという課題を有している。これは一回の高温焼成のため原料のMnが系内に残存し純粋な結晶相が得られ難いことに起因することが判った。本発明者はこの課題を解決するため鋭意研究した結果、低い温度で一旦仮焼成し、それを再び粉砕混合した後、再び低い温度で本焼成することにより単一相の合成が可能であることを見出した。
(5)(特許文献4)に記載の技術は、マンガンとリチウムのモル比を1.5〜2.5において高いリチウム吸着量を持つリチウム吸着剤を得られるが、さらにリチウムイオンの吸着量を上げるためにマンガンのモル比を下げてMnに対するLiOHの配合比を上げるとスピネル構造が生成しないか、あるいは、アモルファス等の他の構造との混合物として得られ、酸処理した場合に、吸着剤が溶解したり、スピネル構造が崩れたりしてしまい、(特許文献4)に記載されたより高いリチウム吸着量をもつ吸着剤を得られないという課題があった。
(6)また、(特許文献4)に記載の技術では、記載された比率以上にLiOHの配合比を上げた場合、出来上がったリチウムマンガン複合酸化物はマンガンとリチウムの結合が不完全となり、リチウムの選択性が低くなるのでリチウムの濃縮率が上がらず、(特許文献4)に記載された以上の性能をもつリチウム吸着剤を得られないという課題があった。
(7)またリチウムマンガン酸化物をリチウム吸着剤として用いる場合に、原料水の硫酸イオン濃度が高いと吸着効果が減少すること、およびリチウム吸着剤の構造が崩れたり、溶解したりするという課題があった。
【0013】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、
(1)低い温度での本焼成によりリチウムイオンのインターカレートと脱インターカレートに伴うMnの不均化を阻止し、Mnの溶出を防止できるので、吸着・溶離を繰り返してもスピネル構造が崩れず、通液が容易で目詰まりしにくい形状に造粒されているので工業的に利用しやすく、繰り返し使用可能なリチウム吸着剤の製造方法を提供することを目的とする。
(2)海水中あるいは地熱熱水中に含まれるリチウムを工業的に吸着・採取するための、リチウムイオンに対する選択吸着性に優れるとともに吸着速度が高くかつ重量当たりの吸着量が大きく、入手しやすい原料で工業的に生産でき、化学的に安定であり、吸着・溶離の繰り返しが可能なリチウム吸着剤の製造方法を提供することを目的とする。
(3)耐塩性や耐高温性に優れ、Liの吸着容量が大きいリチウム吸着剤を製造できるリチウム吸着剤用原料の提供を目的とする。
(4)海水中や地熱熱水中のLiを吸着したリチウム吸着剤から高効率でLiを溶離し濃縮するとともに、リチウム吸着剤を再生することができるリチウム濃縮装置の提供を目的とする。
(5)海水中あるいは地熱熱水中に含まれるリチウムを効率よく選択的に高濃縮でき、長期の繰り返し使用ができるリチウム濃縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために本発明のリチウム吸着剤の製造方法とそのリチウム吸着剤を用いたリチウム濃縮方法及びリチウム濃縮装置は、以下の構成を有している。
【0015】
本発明の請求項1に記載のリチウム吸着剤の製造方法は、4酸化3マンガン(Mn34)及び水酸化リチウム(LiOH)を、マンガンとリチウムのモル比がMn:Li=1〜1.2:1となるように混合し、メカノケミカル的粉砕処理を行うメカノケミカル工程と、次いで空気あるいは酸素雰囲気下にて375℃〜450℃の温度域で仮焼成する仮焼成工程と、次いで冷却し混合粉砕した後、空気あるいは酸素雰囲気下にて475℃〜550℃の温度域で本焼成を行いスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムを得る本焼成工程と、該スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムのリチウム(a)に対する酸(b)のモル比がa:b=1:20超となる過剰の酸で、前記スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムからリチウムイオンを溶離して一般式HaMn2b(式中、1.8≦a≦2、4<b≦4.2である。)で表わされるリチウム吸着剤を得る溶離工程と、を有し、前記メカノケミカル工程が、メカノケミカル的粉砕処理を45分以上行って、前記仮焼成工程で得られる仮焼成物のXRDにおけるMn34のピークを減少させるものである構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)メカノケミカル効果によりMn34とLiOHの相互作用が高まり、従来よりもLiの配合比が高くても酸素過剰マンガン酸リチウムがスピネル構造を保つようになった。そのため、リチウムイオンに対する選択吸着性に優れるとともに吸着速度が速くかつ吸着量が大きく、化学的に安定なリチウム吸着剤を製造できる。非量論的化合物であるMn34を用いたので反応性が高い。また、Mn34とLiOHの混合物の相転移点がMn:Li=2:1〜1.5の混合物で425〜430℃、と500〜510℃にあることを見出したので、2段焼成することで安定したスピネル構造のリチウム吸着剤を得ることができる。
(2)低い温度で仮焼成し、次いで低い温度で本焼成を行うので系内に原料のMn34が残らず純粋な単一の結晶相が得られ、結晶構造が強固となり、化学的に安定な上、繰り返しの使用にも溶解しないリチウム吸着剤を製造できる。
(3)低い温度での本焼成により、リチウムイオンのインターカレートと脱インターカレートに伴うMnの不均化を阻止し、Mnの溶出を防止するので、大過剰の酸でリチウムを溶離することでマンガンの酸化還元反応を抑えて水素イオンとリチウムイオンの交換反応のみを起こさせることができ、結晶構造を壊さない。これにより化学的に安定な上、繰り返しの使用にも溶解しないリチウム吸着剤を製造できる。
(4)リチウムの吸着量が多く、結晶構造が安定なので高能率で繰り返しリチウムイオンを吸着、溶離できるリチウム吸着剤を製造できる。
(5)製造工程が煩雑でなく、入手しやすい原料から工業的に生産可能なリチウム吸着剤が製造できる。
(6)スピネル結晶構造を保ちながらLi含有量を多くすることができる。
(7)結晶構造が安定なので、吸着・脱着作業の繰り返し耐性を高めることができる。
(8)酸素を過剰に有しているため、Mn4+の含有量を増加させ、Li+とのイオン交換反応量を増やすことができる。また、スピネル結晶構造を電子的により安定化させることができる。
(9)プロトンサイト(イオン交換型サイト)にリチウム溶液中からLi+を取り込むことができる。
(10)マンガン酸化物にはトンネル構造、層状構造、網目状構造などさまざまな構造を持つ化合物があるが、スピネル型と呼ばれる構造を持つマンガン酸化物は(1×3)網目状構造になっている。金属イオンに対する吸着選択性はマンガン酸化物の結晶構造に依存するが、非量論型のスピネル型マンガン酸化物としたので、Li+に対して高い選択性を示すと共に多量のLi+とイオン交換をすることができる。また、鹹水はLi+よりイオン半径の大きいNa+やK+、Ca2+等の陽イオンを含むがこれらの陽イオンは網目状構造に入ることができない。その理由は、鋳型であるLi+を取り込むことで調製された吸着剤の前躯体からLi+を取り除くことにより、Li+の大きさの鋳型を有する多孔結晶型の吸着剤を得ることができるためである。
【0016】
ここで、メカノケミカル的粉砕処理とは機械的に粉砕する過程において、物質粒子に機械による圧縮力、剪断力、衝撃力等をかけることによって粒子表面に新しいへき開面を多数生成するとともに表面積を増大し、粒子表面での化学反応性を変化させる処理である。粉砕処理装置としてはアトライター、サンドミル、ボールミル、メディアミル、コロイドミル、ストーンミル、ケディーミル、フロージェットミキサ、スラッシャーミル、メカノヒュージョンシステム(ホソカワミクロン(株)製)、ミラーロ((株)奈良機械製作所製)などが用いられる。
処理時間、処理条件は使用する機器によって異なるが、仮焼成後にXRD測定によってMnのピークの減少・消失度合いを確認することでメカノケミカル的処理条件を決めることができる。
【0017】
仮焼成の温度が375℃より低いと均一な組成の結晶が得られないので好ましくない。また発明者らの知見によると450℃を超えると、本焼成を行っても不純物が多く残り結晶構造が脆弱になるので好ましくない。
【0018】
本焼成の温度が475℃より低いと仮焼成物の不純物が本焼成後も残り結晶構造が脆弱になるので好ましくない。550℃を超えると、スピネル型の結晶構造が崩れるため好ましくない。
【0019】
リチウムを溶離するには、大過剰の酸、例えば塩酸、過塩素酸、硝酸等をリチウム(a)と酸(b)のモル比が、a:b=1:20となる過剰の酸でリチウムを溶離する必要がある。このときの酸の濃度は、0.1〜2Mである。2Mを超える濃度の酸を適用すると、Mnを溶解させて好ましくない。また、リチウム:酸=1:20以下でリチウムを溶離するとスピネル型結晶構造が崩れて好ましくない。
【0021】
本発明の請求項2に記載のリチウム吸着剤の製造方法は、請求項1に記載のリチウム吸着剤の製造方法であって、前記本焼成工程で得られた前記スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウム100重量部に対して、無機系バインダ2重量部〜40重量部と水を混練したあと、径0.5mm〜6mmの紐状又は粒状の成形体に加工する成形工程と、次いで前記成形体を450℃〜550℃の温度域で0.5〜3時間焼結し、成形体とする焼結工程と、を備えた構成を有している。
この構成により、請求項1の作用に加えて、以下のような作用が得られる。
(1)粒状に成形されているので、カラムに詰めて使用する場合に通液が容易である。
(2)焼結により硬度が上がり粉化し難く長寿命化できる。
尚、紐状に成形した場合は、焼結後に、1〜3mmにカッターで粒状に切断される。
【0022】
本発明に記載のリチウム吸着剤の製造方法は、請求項1に記載のリチウム吸着剤の製造方法であって、前記本焼成工程で得られた前記スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウム100重量部に対して、キチンやPVCの有機系バインダ0.5重量部〜20重量部と水を混練したあと、径0.5mm〜6mm好ましくは1mm〜3mmの粒状の成形体に加工する成形工程と、次いで前記成形体を50℃〜100℃の温度域で0.5〜4時間乾燥し、成形体とする乾燥工程と、を備えた構成にすることにより、請求項2と同様の作用が得られる。また、強固に成形されるので機械的強度に優れ、吸着溶離を繰り返しても、形状が崩れないリチウム吸着剤の製造方法を提供することができる。
【0023】
ここで成形には押し出し造粒機(エクストルーダー)、圧縮造粒機、射出造粒機(ニーダールーダー)など各種造粒機を用いることができる。
ストランド状に成形した場合は成形後、長さ1mm〜6mm好ましくは1〜3mmに切断する。
造粒を終えたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムは篩にかけ微粉を除いた後で、溶離工程に掛けることが好ましい。
【0024】
リチウム吸着剤は、一般式HaMn2b(式中、1.8≦a≦2、4<b≦4.2である。)の構成を有している。
この構成により、以下の作用が得られる。
(1)酸素を過剰に有しているため、Mn4+の含有量を増加させ、Li+とのイオン交換反応量を増やすことができる。また、スピネル結晶構造を電子的により安定化させることができる。
(2)プロトンサイト(イオン交換型サイト)にリチウム溶液中からLi+を取り込むことができる。
(3)マンガン酸化物にはトンネル構造、層状構造、網目状構造などさまざまな構造を持つ化合物があるが、スピネル型と呼ばれる構造を持つマンガン酸化物は(1×3)網目状構造になっている。スピネル型マンガン酸化物の結晶構造を模式的に表したものを図1に示す。金属イオンに対する吸着選択性はマンガン酸化物の結晶構造に依存するが、非量論型のスピネル型マンガン酸化物としたので、Li+に対して高い選択性を示すと共に多量のLi+とイオン交換をすることができる。また、鹹水はLi+よりイオン半径の大きいNa+やK+、Ca2+等の陽イオンを含むがこれらの陽イオンは網目状構造に入ることができない。その理由は、鋳型であるLi+を取り込むことで調製された吸着剤の前躯体からLi+を取り除くことにより、Li+の大きさの鋳型を有する多孔結晶型の吸着剤を得ることができるためである。
【0025】
リチウム吸着剤用原料は、一般式LiMn(式中、1.8≦x≦2、4<y≦4.2である。)からなる構成を有している。
この構成により、以下の作用が得られる。
(1)酸洗時(溶離時)に定量的にLiを溶離させ、かつ、吸着時の繰り返し耐性に優れる。
【0026】
本発明の請求項3に記載のリチウム濃縮方法は、原水から請求項1又は2に記載の製法で作製されたリチウム吸着剤を用いて選択的にリチウムイオンを吸着する吸着工程と、0.1M〜2.0Mの塩酸過塩素酸又は硝酸の内いずれか1を用いてリチウム(a)に対する酸(b)のモル比がa:b=1:20超となる過剰の酸で前記リチウム吸着剤からリチウムイオンを溶離するリチウムイオン溶離工程を備えた構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)リチウムイオンの選択性に優れ、リチウムイオンの吸着速度が速く、リチウムイオンの吸着量が多いリチウム吸着体を、安定して繰り返し使用できるので、工業的にリチウムを高濃縮できる。
(2)溶離工程で用いる酸がリチウム吸着剤を溶かさず、またリチウム吸着剤の結晶構造を崩さないので、リチウム吸着剤が劣化しないので、効率のよいリチウム濃縮を工業的に継続できる。
【0027】
ここで、リチウム吸着剤からリチウムイオンを溶離させる酸の濃度が0.1M未満の場合、溶離の初期において酸の濃度が薄い状態がリチウム吸着剤において部分的に発生し、マンガンの酸化還元反応が起こり、結晶構造が崩れてMnが溶出する恐れがあり好ましくない。またリチウム吸着剤からリチウムイオンを溶離させる酸の濃度が2.0M超であると、長期の反復使用で少しずつ吸着剤が溶解して劣化する恐れがあり好ましくない。
より好ましくは0.5M〜1.5Mの酸が採用される。カラム内の残液による希釈や、溶離液の混合ムラによる吸着剤の損傷を防ぐためである。
【0028】
本発明の請求項4に記載のリチウム濃縮装置は請求項1又は2に記載の製法で作製されたリチウム吸着剤が充填されたリチウム吸着カラムを持つ構成を有している。
この構成により、以下のような作用が得られる。
(1)繰り返し使用でき、選択性の高く吸着速度が高く吸着量の多いリチウム吸着剤を充填したカラムを利用するので高能率でリチウムを濃縮できる装置となる。
【0029】
ここで、リチウム吸着剤を充填したカラムをパッケージとして脱着を容易にすることで、リチウムイオンを吸着する工程と溶離工程を分離することができ、装置の設計・配置の自由度を増すことができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように本発明のリチウム吸着剤の製造方法及びリチウム吸着剤、リチウム吸着剤用原料、リチウム濃縮方法、リチウム濃縮装置によれば、以下のような有利な効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、
(1)メカノケミカル効果によりMn34とLiOHの相互作用が高まり、従来よりもLiの配合比が高くても酸素過剰マンガン酸リチウムがスピネル構造を保つようになったため、リチウムに対する選択吸着性に優れるとともに吸着速度が速くかつ吸着量が大きく、化学的に安定なリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。
(2)非量論的化合物であるMn34を用いたので反応性が高い。また、Mn34とLiOHの混合物の相転移点がMn:Li=1〜1.2:1の混合物で425〜430℃、と500〜510℃にあることを見出したので、2段焼成することで安定したスピネル構造のリチウム吸着剤を得ることができる。仮焼成工程と本焼成工程を有するので、結晶構造が強固となり、化学的に安定な上、繰り返しの使用にも溶解しないリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。
(3)大過剰の酸でリチウムイオンを溶離することでマンガンの酸化還元反応を抑えて水素イオンとリチウムイオンの交換反応のみを起こさせることができ、結晶構造を壊さないので、化学的に安定な上、繰り返しの使用にも溶解しないリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。
(4)リチウムイオンの吸着量が多く、結晶構造が安定なので高能率で繰り返しリチウムイオンを吸着、溶離できるリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。
(5)製造工程が煩雑でなく、入手しやすい原料から工業的に生産可能なので、低原価で量産性に優れたリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。
(6)安定なスピネル結晶構造を保ち、Li含有量が多く、吸着・脱着作業の繰り返し耐久性の高いリチウム吸着剤を低原価で量産できるリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。
【0032】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1の効果に加え、
(1)径0.5mm〜6mm好ましくは1〜3mmの粒状に成形されているので、カラム等に充填しても通液性がよく使用しやすいリチウム吸着剤の製造方法を提供することができる。
(2)焼結により硬度が上がり粉化し難く耐久性に優れたリチウム吸着剤の製造方法を提供することができる。
【0034】
請求項1又は2の製造方法により、次の有利な効果を実現できるリチウム吸着剤を提供できる。
(1)酸素を過剰に有しているため、Mn4+の含有量を増加させ、Li+とのイオン交換反応量を増やすことができる。
(2)プロトンサイト(イオン交換型サイト)にリチウム溶液中からLi+を取り込むことができる。
(3)マンガン酸化物にはトンネル構造、層状構造、網目状構造などさまざまな構造を持つ化合物があるが、スピネル型と呼ばれる構造を持つマンガン酸化物は(1×3)網目状構造になっている。金属イオンに対する吸着選択性はマンガン酸化物の結晶構造に依存するが、非量論型のスピネル型マンガン酸化物としたので、Li+に対して高い選択性を示すと共に多量のLi+とイオン交換をすることができる。また、鹹水はLi+よりイオン半径の大きいNa+やK+、Ca2+等の陽イオンを含むがこれらの陽イオンは網目状構造に入ることができない。その理由は、鋳型であるLi+を取り込むことで調製された吸着剤の前躯体からLi+を取り除くことにより、Li+の大きさの鋳型を有する多孔結晶型の吸着剤を得ることができるためである。
【0035】
請求項1又は2の製造方法により、次の有利な効果を実現できるリチウム吸着剤用原料を提供できる。
(1)酸洗時(溶離時)に定量的にLi+を溶離させ、かつ、吸着時の繰り返し耐久性に優れるリチウム吸着剤を与えるリチウム吸着剤用原料を提供できる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、
(1)リチウムイオンの選択性に優れ、リチウムイオンの吸着速度が高く、リチウムイオンの吸着量が高いリチウム吸着体を、安定して繰り返し使用できるので、工業的にリチウムを高濃縮できるリチウム濃縮方法を提供できる。
(2)溶離工程で用いる酸がリチウム吸着剤を溶かさず、またリチウム吸着剤の結晶構造を崩さないので、リチウム吸着剤が劣化しないので、効率のよいリチウム濃縮を工業的に継続できるリチウム濃縮方法を提供できる。
【0037】
請求項4に記載の発明によれば、
(1)高性能で化学的に安定なリチウム吸着体を有しているので安定で効率的運転が可能なリチウム濃縮装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例1のメカノケミカル的処理時間による仮焼成物のX線回折の変化を示す図
図2】実施例1のメカノケミカル的処理時間による本焼成後のX線回折の変化を示す図
図3】実施例2の破過曲線を示す図
図4】実施例3の溶離曲線を示す図
図5】実施例5のリチウム吸着等温線を示す図
図6】実施例6のリチウム吸着等温線を示す図
図7】リチウム吸着量と吸着剤組成との関係図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の、リチウム吸着剤として機能する層状λ型二酸化マンガン組成物は、スピネル型構造を持ち粒径が1μm〜100μmの微粒子状あるいは膜状を呈している。
【0040】
本発明のリチウム吸着剤である、層状λ型二酸化マンガン組成物を製造するときに用いるスピネル型マンガン酸リチウム(一般組成:LiMn)は電池材料として知られており、一般的に、酸化マンガンとリチウム塩の化合物を加熱することによって得られる。その際、酸化マンガンとリチウム塩の混合割合、焼成温度、時間などを変化させることによって、様々な組成を得ることができる。
【0041】
この実施形態においては、リチウム吸着剤を次のようにして得る。即ち、4酸化3マンガン(Mn34)と水酸化リチウム(LiOH)を、マンガンとリチウムのモル比がMn:Li=1〜1.2:1となるように混合する。これを遊星型高速ボールミルなどメカノケミカル的な粉砕ができる装置で1時間〜2時間処理し、粉砕するとともに物理的な圧縮力、剪弾力、衝撃力を与えるメカノケミカル的な処理を行う。次いでこの粉砕物を、空気雰囲気下375℃〜450℃の温度域で1時間〜10時間仮焼成する。仮焼成後、仮焼成物を混合、粉砕し、これを空気雰囲気下に475℃〜525℃で1時間〜10時間本焼成する。これにより、(化1)、(化2)で示す反応式により非量論型のリチウム吸着剤を得ることができる。
【化1】
【化2】
発明者らの知見によれば、本焼成のみ(1回焼成)で得られるスピネル型のマンガン酸リチウムは不純物が多く、これを酸処理してリチウムを溶離すると結晶構造が崩れ、層状のλ型二酸化マンガン組成物を得ることが困難になることがわかった。これに対し、本実施の形態においては、低温の仮焼成で非量論的化合物のMn34と低融点のLiOHを、溶融インターカレーション法を用いて合成することで安定したスピネル構造でイオン交換性に優れたリチウム吸着剤が得られる。次いで、本焼成でLiOHの融点より少し高めで焼成することにより、反応性が非常に高い非量論型のMn34に溶液状で反応性に富むLiOHが接触し、Li+がMn34の結晶格子に入り強固な網目構造を形成する酸化還元型でなく、イオン交換型のリチウム吸着剤を形成するものと思われる。
【0042】
得られたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムを造粒した後で、酸処理してλ型二酸化マンガン組成物を得る。即ち、スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムに酸を適用して、イオン交換反応によってリチウムイオンを溶離する。(造粒については後述する。)
【0043】
焼成によって得られたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムから酸によって初めてリチウムイオンを溶離するに際しては、大過剰の酸たとえば塩酸、過塩素酸、硝酸をリチウムと酸のモル比が、1:20超、好ましくはリチウム:酸=1:40以上となる過剰の酸でリチウムイオンを溶離する必要がある。このときの酸の濃度は0.1M〜2Mである。2Mを超える濃度の酸を適用すると、Mnを溶解させて好ましくない。
【0044】
大過剰の酸でリチウムイオンを溶離することによって、マンガンの酸化還元反応を抑えて水素イオンとリチウムイオンのイオン交換反応を優先して起こさせることができ、マンガンの溶出を防ぎスピネル構造を維持できる。発明者らの知見によれば、リチウムと酸のモル比を、1:10乃至1:20としてスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムからリチウムを溶離すると、λ型二酸化マンガンの結晶構造が崩れることがわかった。スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムから酸によってリチウムを溶離する場合、マンガンの酸化還元反応と水素イオンとリチウムイオンのイオン交換反応が起こることが理由と考えられる。
【0045】
スピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムから酸によってリチウムを溶離するに際して用いる酸は鉱酸が好ましく、塩酸、過塩素酸、硝酸を用いることができる。発明者らの知見によれば、硫酸水溶液を用いると、得られるλ型二酸化マンガンの結晶構造が破壊されるため好ましくない。
【0046】
本発明のリチウム吸着剤の製造方法におけるリチウム吸着剤を造粒する方法について説明する。
本焼成によって得られたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウムに対してアルミナやシリカ等の無機バインダ又はキチンやポリ塩化ビニルからなる有機系バインダを15重量%〜50重量%加え、少量の水でよく攪拌混合し、押し出し成形機を用いて径0.5mm〜6mm好ましくは1〜3mmのペレット状や、ロッド状、紐状に成形する。次いで、無機バインダを用いた場合は、500℃〜550℃で約3時間焼成する。ロッド状や紐状に成形した場合は室温に冷却後に長さ1〜3mmにカッターで切断する。篩に掛けて微粉を除いた後、カラムに充填し前述の方法でリチウムを溶離するとリチウム吸着カラムとなる。
尚、キチンとPVCを比べた場合、海水や鹹水からリチウムを採取する場合は、キチンが好ましい。アルカリ域の水では不溶であり、PVCバインダより高粘性であり、造粒効率も高く、また、キチンはバイオマスポリマーであり、環境に対して無害なので好適である。
【実施例1】
【0047】
4酸化3マンガン(Mn)(99.9% 添川化学製)と水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)(関東化学製)を、マンガンとリチウムのモル比が1.2:1となるように、瑪瑙乳鉢にて15分間混合・粉砕した混合・粉砕物を高速遊星型ボールミル(ドイツ フリッチュ社製、モデルP−5)によって、ディスク回転数50rpm、ポット回転数400rpmで15分〜2時間メカノケミカル的な粉砕処理をした。次いで処理物を、空気雰囲気中で375℃に保たれた電気炉にて5時間、仮焼成を行った。
仮焼成物を一旦冷却した後15分〜2時間瑪瑙乳鉢で混合・粉砕し、再び空気雰囲気下、500℃に保たれた電気炉にて5時間、本焼成を行った。
【0048】
図1に実施例1の仮焼成後の仮焼成物のX線回折の結果を示す。メカノケミカル的な処理の時間を長くしていくにつれて4酸化3マンガンのピーク(図中の矢印で示したピーク)が消失してスピネル構造になっていくことが示された。またメカノケミカル的処理が短いと仮焼成後に4酸化3マンガンが未反応で残ることが示された。
図2に実施例1の本焼成後の焼成物のX線回折の結果を示す。本焼成後の焼成物のX線回折のパターンでは、メカノケミカル的な処理の時間を変えても、図1に見られたような変化は見られなかった。
【0049】
しかし、発明者らの知見によるとメカノケミカル的処理が短く、4酸化3マンガンが未反応で残っているものは、本焼成をしても、強度が弱く、酸によるリチウムの溶離によって崩れやすいことがわかった。X線回折のパターンでは現れない結晶構造の違いがあるものと考えられる。
【0050】
実施例1の本焼成後の試料を3M 塩酸/10%Hに全溶解し、ICP−AESによってLiとMnの比を求めた。
メカノケミカル的な処理の時間が15分のもの及び30分のものではどちらもLi1.4Mn4.2(有意差なし)であった。
メカノケミカル的な処理の時間が45分〜120分のものではいずれもLi1.8Mn4.2(有意差なし)であった。
メカノケミカル的な処理により結晶構造に取り込まれるLiの量が増えていることが示された。
【実施例2】
【0051】
実施例1でメカノケミカル的な処理の時間を90分として得られたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウム6.5gとアルミナバインダ(日揮触媒化成工業製AP−1)3.5gとを少量のイオン交換水とよく混合し、団子状とし、ビニル袋に入れて一晩室温放置する。一晩放置した団子状の混合物を押し出し成形機(自作エクストルーダー)を用いて直径1mmのロッド状にした。ロッド状に成形したものを再度、一晩室温放置する。一晩放置したロッド状の混合物を電気炉で550℃で3時間焼結した。室温まで冷ましたロッド状の焼結物を1〜2mm長さにカッターで切断した。篩い分けによって微粉を除いた後、このリチウムを含んだ状態の吸着剤を長さ10cmのカラムに充填し(3.2g、湿容量= 3.5cm)、1.0 Mの塩酸で5回、酸処理を行い、リチウムイオンを溶離して、リチウム吸着剤を得た。
このカラムを用いて海水(pHini = 8.1)を流した場合のリチウムの溶離について調べた。供給溶液としては海水を用い、送液ポンプを用いて流速0.2cm/分でカラムに通液した。溶出液は、一定時間ごとにフラクションコレクターを用いて採取した。リチウムイオンの破過を確認した後、イオン交換水を2時間流してカラム洗浄を行い、続いて1.0Mの塩酸をカラムに通液することでリチウムの溶離を行った。ベッドボリューム(BV)は、以下の式を用いて計算した。
BV = v×t/V
ここで、vは供給溶液の流速[cm/分]、tはサンプリング時間[分]、Vはカラムに充填した粒子状吸着剤のウェットボリューム[cm]である。リチウムの最大吸着量は、溶離曲線を積分することによって得られたリチウム溶出量と、用いた造粒リチウム吸着剤の量から計算することによって求めた。粒子状吸着剤中のリチウム吸着剤の量は、粒子状吸着剤の重量からバインダ量を差し引くことによって計算した。
【実施例3】
【0052】
実施例1でメカノケミカル的な処理の時間を90分として得られたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウム10gとシリカバインダスラリー(AGCエスアイテック製サンラブリーLFS)3.0gとをビニル袋内に入れてよく混合し、団子状にする。硬さはイオン交換水で調整する。団子状の混合物をビニル袋内で一晩室温放置する。一晩放置した混合物を押し出し成形機(自作エクストルーダー)を用いて直径1mmのロッド状にした。ロッド状に成形したものを再度、一晩室温放置する。一晩放置したロッド状の混合物を電気炉で550℃で3時間焼結した。室温まで冷ましたロッド状の焼結物を1〜2mm長さにカッターで切断した。篩い分けによって微粉を除いた後、実施例2と同様にカラムに充填し、リチウムイオンを溶離してリチウム吸着剤を得た。このカラムを用いて海水(pHini = 8.1)を流した場合のリチウムの溶離について実施例2と同様にして調べた。
【実施例4】
【0053】
キチン(東京化成製)0.5gと塩化リチウム・1水和物(LiCl・HO)(関東化学製)2.5gとN−メチルピロリジン(関東化学製)50mLを混ぜ、2日間攪拌し、高粘性の液状キチンバインダ(キチン含量1重量%)を得た。実施例1でメカノケミカル的な処理の時間を90分として得られたスピネル型酸素過剰マンガン酸リチウム10gと前記液状キチンバインダスラリー10gとを2−プロパノール中に滴下し、キチンを不溶化することによって粒状化した。粒状化した沈殿物をろ過によって回収し、60℃で10時間乾燥させた。これを実施例2と同様にカラムに充填し、リチウムイオンを溶離してリチウム吸着剤を得た。このカラムを用いて海水(pHini=8.1)を流した場合のリチウムイオンの溶離について実施例2と同様にして調べた。
【0054】
図3に実施例2の海水(pHini=8.1)を流した場合のリチウムイオンの破過曲線(a)を示した。これにより、ナトリウムイオンが大量に(10,780ppm)存在する海水の場合においても、微量成分であるリチウムイオンを選択的に吸着・回収できることが明らかとなった。
図4に実施例3の1.0Mの塩酸溶液を用いて溶離した場合の、リチウム、ナトリウム、マンガンの各イオンの溶離曲線を示した。この結果から、リチウムイオンは早い段階で容易に溶離できること、および、溶離溶液中にはナトリウムイオンはほとんど含有されていないことが明らかとなった。また、溶離液中のリチウム濃度は最大3777ppmとなり、供給溶液の約400倍に濃縮することに成功した。また、溶離曲線を積分して得られるリチウム吸着量は、2.31mmol/gとなり、リチウム吸着剤の性能試験で得られた最大吸着量とほぼ一致した。また、造粒リチウム吸着剤からのマンガンの溶出量は、吸着剤中のマンガン0.15重量%が溶出するにとどまった。これに対して実施例4の有機系バインダによる造粒法は、マンガンの溶出が0.42重量%であった。また(特許文献3)に記載の有機系ポリマーによる造粒ではマンガンの溶出が0.46重量%であるので、無機系バインダの使用によって60重量%のマンガンの溶出を抑制できることが示された。実施例2と実施例3の無機系バインダの種類の違いによる差は認められなかった。
【実施例5】
【0055】
実施例2と同じ方法で作成したHMn型のリチウム吸着剤10mgをサンプル1としてLiCl溶液10mL(0.5〜20ppm)をそれぞれ三角フラスコに入れ、25℃の振とう機で約12時間振とうさせ、振とう後のリチウムの濃度を原子吸光で測定しリチウム吸着剤の性能を調べた。サンプル2として、特許文献4のリチウム吸着剤10mgを準備し、サンプル1と同様に行った。
【0056】
図5に実施例5の結果を示す。横軸が吸着平衡に達したときの水溶液中に残っているリチウム濃度を示し、縦軸がリチウム吸着量を示す。サンプル1を×印でサンプル2を△印で示している。
この吸着等温実験からサンプル1とサンプル2のリチウム最大吸着量はそれぞれ2.36mmol/g、2.08mmol/gとなった。この値は、(特許文献4)の吸着剤のそれぞれ1.6倍、1.4倍高い値であり、メカノケミカル効果によりリチウム吸着量が増えたことが示された。
【実施例6】
【0057】
実施例1で得られたリチウム吸着剤(Li1.4Mn4.2,Li1.8Mn4.2)を用い、リチウム吸着に対する、吸着剤のpH依存性を調べた。LiCl溶液のpHを6.0、7.0、8.0、8.3、8.5、8.8、9.0にした以外は実施例4と同様にして、それぞれ三角フラスコに入れ、25℃の振とう機で約12時間振とう(回転数:150rpm)させ、振とう後の溶液のpH(平衡pH)とリチウムの濃度を測定した。
尚、比較例として、特許文献4の実施例に基づいて、リチウム吸着剤を作製した。X線回折で確認したところ、Li1.0Mn4.2であった。この試料を用い同様にしてpH依存性を測定した。
【0058】
その結果を図6に示した。Li1.4Mn4.2は◆印、Li1.8Mn4.2は■印、Li1.0Mn4.2は△印で示した。図6において、横軸が平衡pHで、縦軸がリチウム吸着量を表す。比較例として(特許文献4)に記載のLiMn4.2の結果を三角印で示している。弱酸性〜アルカリ域で実施例1で得られたリチウム吸着剤が特許文献4に記載のリチウム吸着剤LiMn4.2より高い吸着性能を示した。また、図6から明らかなように、Li1.8Mn4.2(Mn/Li=1.11)がLi1.4Mn4.2(Mn/Li=1.43)よりもpH6〜8の間でリチウム吸着量が135〜145%優れていることがわかった。
【実施例7】
【0059】
(1)リチウム吸着剤の作製
スピネル型マンガン酸リチウムのイオン交換によるリチウムの吸着量に対する酸素モル数の依存性について確認した。
4酸化3マンガン(Mn)(99.9% 添川化学製)と水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)(関東化学製)、TiO(関東化学製)、NiO(関東化学製)を準備し、(表1)に示すモル比となるように調整し、瑪瑙乳鉢にて15分間混合・粉砕した混合・粉砕物を高速遊星型ボールミル(ドイツ フリッチュ社製、モデルP−5)によって、ディスク回転数50rpm、ポット回転数400rpmで90分間メカノケミカル的な粉砕処理をした。次いで処理物を、空気雰囲気中で375℃に保たれた電気炉にて5時間、仮焼成を行った。
各仮焼成物を一旦冷却した後15分〜2時間瑪瑙乳鉢で混合・粉砕し、再び空気雰囲気下、500℃に保たれた電気炉にて5時間、本焼成を行った。
【0060】
本焼成後の各試料を3M 塩酸/10%Hに全溶解し、ICP−AESによってLi、Mn、Oのモル比を求めた。その結果を表1の組成式に示した。
【0061】
【表1】
【0062】
(2)吸着剤の再生
(イ)サンプルを1gずつ秤量し、1mol/塩酸20mlと三角フラスコに入れ密封して、空気浴振盪機で一晩振盪した(温度:30℃ 回転数:150rpm)。
(ロ)ロートを用いて減圧濾過し、蒸留水で丁寧に洗浄した。その後そのまま60℃に設定した乾燥機にいれ1時間乾燥させた。これを1回酸処理物とし5回同じ操作で酸処理を行った。そしてリチウム吸着剤(H型)とした。
【0063】
(3)吸着剤のリチウム吸着実験
(イ)5mmol/LのNaCl、LiClを含むpH=8.1の0.1mol/L‐NHCl・NHOH緩衝溶液を調整し、この緩衝溶液10mlと酸処理済みの吸着剤0.02gを三角フラスコにいれ密封し、空気浴振盪機で一晩振盪した(温度:30℃ 回転数:150rpm)。
(ロ)その後自然濾過し、濾液はAASを用いてLi、Naの定量を行った。その結果を図7に示す。
【0064】
(4)結果と考察
酸素過剰型の実験No.1,7,8が一般組成型より極めて高いLi吸着能を示した。しかもNaの吸着は全試料において認められなかった。
この結果、海水や地熱水等からLiを選択的に高収率で採取できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本願発明によれば、太陽電池やバッテリー材料として重要な元素でありながら、従来の鉱物資源からの供給では、資源の枯渇が心配されていたリチウムを海水や地熱水などの環境水から、リチウム資源として活用できるリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。さらに、廃棄物や廃水などから効果的にリチウムを回収できるリチウム吸着剤の製造方法を提供できる。また本願発明によれば、海水や地熱水などの微量のリチウムを含む水や、リチウムを含む廃棄物や廃水などから、工業的に、安定に、継続してリチウムを濃縮できるリチウムの濃縮方法とその装置を提供できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7