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特許5700339医療用樹脂組成物及びその製造方法並びに医療用キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700339
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】医療用樹脂組成物及びその製造方法並びに医療用キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/00 20060101AFI20150326BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20150326BHJP
   A61C 7/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   A61K6/00 D
   A61L27/00 F
   A61C7/00
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-550929(P2011-550929)
(86)(22)【出願日】2011年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2011050880
(87)【国際公開番号】WO2011090078
(87)【国際公開日】20110728
【審査請求日】2014年1月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-10216(P2010-10216)
(32)【優先日】2010年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】田仲 持郎
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−310508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00−6/10
A61C 7/00
A61L 27/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)を含有する医療用樹脂組成物であって、
重合体(A)が、メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有し、
単量体(B)が、下記式(1)
【化1】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子を示す。nは2である。]
で表される化合物(b1)を70重量%以上含有し、
重合体(A)100重量部に対して単量体(B)46〜65重量部を含有することを特徴とする医療用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1記載の医療用樹脂組成物からなる歯科用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載の歯科用樹脂組成物を硬化させてなる義歯床又はマウスピース。
【請求項5】
請求項1記載の医療用樹脂組成物からなる骨セメント。
【請求項6】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させることを特徴とする請求項1記載の医療用樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
重合体(A)が予め重合開始剤(C)を含有していることを特徴とする請求項6記載の医療用樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有する重合体(A)の粉剤と、下記式(1)
【化2】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子を示す。nは2である。]
で表される化合物(b1)を70重量%以上含有する単量体(B)の液剤、とからなり、前記粉剤又は前記液剤の少なくとも一方が重合開始剤(C)を含有し、重合体(A)100重量部に対する単量体(B)の量が46〜65重量部である医療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチルメタクリレート単位を含有する重合体、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートを含有する単量体及び重合開始剤を含有する医療用樹脂組成物、特に歯科用樹脂組成物に関する。また、そのような医療用樹脂組成物の製造方法に関する。さらに、歯科用樹脂組成物からなる義歯床又はマウスピース、医療用樹脂組成物からなる骨セメント、並びに医療用樹脂組成物を含有する医療用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、樹脂組成物は操作の簡便さや審美性を付与することの容易さから多用されている。例えば、歯科分野において、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが、粘膜調整材、機能印象材、裏装材、義歯床材又はマウスピース材などに使用されているほか、整形外科の分野などにおいては、骨セメント材などに使用されている。しかしながら、一般的に樹脂組成物からなる成形体は、機械的特性が金属材料やセラミックス材料と比べて大きく劣ることから、多くの用途においてその改善が望まれている。
【0003】
義歯床は、口腔内に義歯を安定に維持させる役割を果たすものであり、義歯床材として、コバルト・クロム合金、金合金などの金属材料や、ポリメチルメタクリレートなどからなる樹脂組成物が知られているが、操作の簡便さや審美性の点から樹脂組成物が多用されている。義歯は、数年から十数年にわたって使用される上、口腔内で長く用いられると咬合圧が加わって破損したり、人工歯の咬耗や顎堤の吸収により、咬合の不調和や義歯床の不適合が生じることがある。したがって、義歯床用の樹脂組成物には、このような長期的な使用に耐えうる機械的特性や加工修正の容易さなどが求められる。一般的に用いられている義歯床用の樹脂組成物としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)の粉剤とメチルメタクリレート(MMA)の液剤とからなるものが知られている。このような樹脂組成物は使用に際して、液剤と粉剤とを混合して、粉剤が膨潤溶解して餅状になるまで待ってから、陰型に填入したりして賦形した後、重合させて目的の形状のものを得るところにその特徴がある。しかしながら、これまでのものは、モノマー成分としてメチルメタクリレートを用いることで、強度や硬さはある程度付与されるものの、脆く、義歯床に加わった力や衝撃を吸収することがほとんどできず、使用の際に咬合圧によって破損したり、落下などによる衝撃で破損するなど、機械的強度が不十分であった。また、メチルメタクリレートは揮発性があるため、操作性の悪化、臭気による作業条件の悪化などを招いたり、気泡を巻き込むことで、硬化後の義歯床表面に微妙な凹凸が形成され、長期間使用した場合に起きる義歯の汚れや変色の原因となっていた。
【0004】
特許文献1には、レジンマトリックスモノマーとして単官能(メタ)アクリレート、粉末状ポリマーとして少なくともポリメチルメタクリレート、及び、常温重合開始剤を含有してなる義歯床用材料であって、前記ポリメチルメタクリレートの分子量が60,000〜100,000で平均粒径が30〜50μmであるものが記載されている。このとき、さらに架橋剤として多官能アクリレートを含むことが記載されていて、その例として列記されているものの中に、ポリエチレングリコールジメタクリレートも記載されている。常温〜55℃で重合させることで、適合性のよい義歯床が得られ、作製時に加熱の必要がなく操作性も優れているとされている。しかしながら、単官能(メタ)アクリレートとしては、メチルメタクリレートが好適であるとされており、作業環境の悪化を招くとともに、靭性が不十分であった。
【0005】
特許文献2には、不飽和二重結合を持つ重合性モノマーと、ポリアルキル(メタ)アクリレートと、重合触媒とが混合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも一部が前記重合性モノマー中に溶解していることを特徴とする義歯床用樹脂材料が記載されている。これにより、予めペースト状となっていて操作が簡略化できるとともに、弾性エネルギーが大きく適度な硬さと粘り強さとを有した硬化体が得られるとされている。実施例には、エチレングリコールジメタクリレート40重量部、メチルメタクリレート・スチレン共重合体60重量部、重合触媒0.4重量部及び充填剤5重量部からなる義歯床用樹脂材料が記載されている。しかしながら、当該樹脂材料から得られる硬化体は靭性が不十分であった。
【0006】
特許文献3には、モノマー成分とポリマー成分よりなる義歯床用裏装材において、モノマー成分にエチレングリコールジメタクリレートを60重量%以上配合する義歯床用裏装材が記載されている。モノマー成分として、トリエチレングリコールジメタクリレートなどを40重量%以下の割合で配合されることも記載されており、実施例には、モノマー成分にエチレングリコールジメタクリレート及びトリエチレングリコールジメタクリレートの混合物を用い、ポリマー成分にポリエチルメタクリレートを用いてなる義歯床用裏装材が記載されている。しかしながら、当該義歯床用裏装材は弾性率が低く、靭性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−332044号公報
【特許文献2】特開2000−254152号公報
【特許文献3】特開平8−48609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高強度、高弾性率であるとともに、靭性にも優れた成形品を製造することができる医療用樹脂組成物、特に歯科用樹脂組成物を提供することを目的とするものである。また、そのような樹脂組成物を操作性よく調製することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)を含有する医療用樹脂組成物であって、重合体(A)が、メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有し、単量体(B)が、下記式(1)
【化1】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子を示す。nは2〜4の整数である。]
で表される化合物(b1)を70重量%以上含有することを特徴とする医療用樹脂組成物を提供することによって解決される。
【0010】
このとき、重合体(A)100重量部に対して単量体(B)30〜100重量部を含有することが好適である。
【0011】
前記医療用樹脂組成物からなる歯科用樹脂組成物が本発明の好適な実施態様であり、具体的には、歯科用樹脂組成物を硬化させてなる義歯床又はマウスピースが好適な実施態様である。前記医療用樹脂組成物からなる骨セメントも本発明の好適な実施態様である。
【0012】
また、重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させる前記医療用樹脂組成物の製造方法を提供することが好適である。このとき、重合体(A)が予め重合開始剤(C)を含有していることが好適である。
【0013】
上記課題は、メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有する重合体(A)の粉剤と、下記式(1)
【化2】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子を示す。nは2〜4の整数である。]
で表される化合物(b1)を70重量%以上含有する単量体(B)の液剤、とからなり、前記粉剤又は前記液剤の少なくとも一方が重合開始剤(C)を含有する、医療用キットを提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物を硬化させた成形品は、高強度、高弾性率であるとともに、靭性にも優れたものである。したがって、該樹脂組成物は、義歯床又はマウスピースなどの製造に好適に用いられる。また、本発明の製造方法によれば、前記樹脂組成物を操作性よく調製することが可能である。さらに、本発明の医療用キットによれば、前記樹脂組成物を簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1〜3及び比較例1において作製した試験片について、横軸に単量体のエチレングリコール単位の数(n)を、縦軸に曲げ弾性係数(GPa)をプロットしたグラフである。
図2】実施例1〜3及び比較例1において作製した試験片について、横軸に単量体のエチレングリコール単位の数(n)を、縦軸に曲げ強さ(MPa)をプロットしたグラフである。
図3】実施例1〜3及び比較例1において作製した試験片について、横軸に単量体のエチレングリコール単位の数(n)を、縦軸に最大撓み量(mm)をプロットしたグラフである。
図4】実施例1〜3及び比較例1において作製した試験片について、横軸に単量体のエチレングリコール単位の数(n)を、縦軸に破断エネルギー(KJ/m)をプロットしたグラフである。
図5】実施例5において、横軸に粉液比(g/ml)を、縦軸に曲げ弾性係数(GPa)をプロットしたグラフである。
図6】実施例5において、横軸に粉液比(g/ml)を、縦軸に曲げ強さ(MPa)をプロットしたグラフである。
図7】実施例5において、横軸に粉液比(g/ml)を、縦軸に最大撓み量(mm)をプロットしたグラフである。
図8】実施例5において、横軸に粉液比(g/ml)を、縦軸に破断エネルギー(KJ/m)をプロットしたグラフである。
図9】実施例6において、粉液比1.2(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図10】実施例6において、粉液比1.4(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図11】実施例6において、粉液比1.6(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図12】実施例6において、粉液比1.8(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図13】実施例6において、粉液比2.0(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図14】実施例6において、粉液比2.2(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
図15】実施例6において、粉液比2.4(g/ml)において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の医療用樹脂組成物は、重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)を含有する医療用樹脂組成物であって、重合体(A)が、メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有し、単量体(B)が、下記式(1)
【化3】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子を示す。nは2〜4の整数である。]
で表される化合物(b1)を70重量%以上含有するものである。
【0017】
本発明の樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合して調製することが好ましい。このとき、重合開始剤(C)は予め粉剤又は液剤の少なくとも一方に含有されていてもよいし、樹脂組成物の調製時に添加してもよい。粉剤と液剤とを混合したら、粉剤が液剤によって膨潤された後、水あめ状を経て餅状へと変化する。該樹脂組成物を義歯床用材料などに用いる場合において、模型上で作業するようなときには、樹脂組成物が水あめ状であっても賦形できるが、通常、樹脂組成物が餅状になってから、陰型に填入したりして所望の形態に賦形することが好ましい。このため、樹脂組成物を賦形する作業中は、樹脂組成物が餅状の状態を持続することが好ましい。樹脂組成物を賦形した後は、樹脂組成物中の単量体(B)を重合させることで、硬化した成形体が得られる。
【0018】
従来、医療用樹脂組成物、特に歯科用樹脂組成物においては、樹脂組成物中で重合反応を進行させるための単量体としてメチルメタクリレートが広く用いられてきた。その主たる理由は、通常粉剤として用いられるポリメチルメタクリレートを短時間で膨潤させることができたり、重合反応性が良好なためであり、重合反応後に未反応の残存モノマーが少ない樹脂組成物が得られるのが特徴であった。しかしながら、膨潤性が良好であるために、樹脂組成物が餅状を維持するのは、通常、5分間程しかなく、賦形するための時間が十分確保されなかった。また、重合反応時の反応熱や収縮が問題になることがあったほか、義歯床用材料などとして用いた場合には、機械的特性が不十分であった。特に、靭性が不十分で脆いため、義歯の使用時に、咬合圧によって義歯床が割れたり、落下によって破損することなどが問題となっていた。一方、粉剤にガラス転移温度が低くて膨潤しやすい、ポリエチルメタクリレートやエチルメタクリレートとメチルメタクリレートの共重合体などを用いた場合には、弾性率や強度が不十分であった。
【0019】
これに対して本発明の樹脂組成物は、重合体(A)と混合する単量体として上記式(1)で表される化合物(b1)を70重量%以上含有する単量体(B)を使用することを最大の特徴とする。化合物(b1)は、ポリエチレングリコール単位の両末端に重合性基であるメタクリロイル基又はアクリロイル基を有する架橋性の単量体であり、重合体(A)を適度な速さで十分に膨潤させることが可能であると共に、餅状の状態を賦形などの作業をするのに十分な時間維持することが可能である。また、単量体(B)を用いた場合には、重合反応後に得られる成形品を、高強度で高弾性率でありながら、靭性に優れたものとすることが容易である。
【0020】
まず、重合体(A)について説明する。重合体(A)はメチルメタクリレート単位を70重量%以上含有する重合体である。メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有することで、高強度で高弾性率の成形品を得ることができる。したがって、このような成形品は、所定の強度や弾性率が求められる材料である、義歯床用材料などとして好適に用いることができる。ポリメチルメタクリレートは、医療用材料として好適に使用されているものであり、メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有する重合体(A)は生体適合性等も高いと考えられる。また、重合体(A)は比較的ガラス転移温度の高い非晶性の重合体であり、懸濁重合などによって本発明の実施に好適な粒径の粉剤を容易に得ることが可能である。重合体(A)は、メチルメタクリレートの単独重合体であってもよいし、メチルメタクリレートとその他の単量体との共重合体であっても構わない。重合体(A)のメチルメタクリレート単位の含有量は、80重量%以上が好適であり、90重量%以上がより好適であり、95重量%以上がさらに好適である。メチルメタクリレート単位が70重量%未満の場合には、得られる成形品の強度や弾性率が低下してしまう。
【0021】
重合体(A)が共重合体である場合にメチルメタクリレートと共重合させる単量体は、メチルメタクリレートと共重合可能な単量体であれば特に制限されない。例えば、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート又はt−ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレンなどのオレフィン;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニル;無水マレイン酸;アクリロニトリル;スチレン;塩化ビニルなどが挙げられる。これらの単量体は1種類でも使用可能であるし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。重合体の膨潤しやすさの観点からは、エチルメタクリレートが好適である。これらの単量体の含有量は、30重量%以下であり、20重量%以下が好適であり、10重量%以下がより好適であり、5重量%以下がさらに好適である。
【0022】
重合体(A)の分子量は特に制限されないが、通常5,000〜2,000,000の重量平均分子量を有するものが使用される。分子量が5,000より低い場合には、得られる成形体の強度が不十分になるおそれがある。分子量は200,000以上がより好適であり、300,000以上がさらに好適である。重合体(A)の分子量は1,500,000以下がより好適であり、1,000,000以下がさらに好適である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物が含有する単量体(B)は、上記式(1)で表される化合物(b1)を70重量%以上含有するものである。式(1)で表される化合物(b1)は、式中のnが2〜4のポリエチレングリコール単位の両末端に重合性基であるメタクリロイル基(式中、Rがメチル基)又はアクリロイル基(式中、Rが水素原子)を有する架橋性の単量体である。このような単量体を用いることで、樹脂組成物を重合して得られる成形品は優れた靭性を有するようになる。通常、樹脂組成物からなる成形品は、硬くすると脆くなり、強靭にすれば硬さは失われ、強度及び弾性率と、靭性とを両立することが難しい。それに対して、本発明の樹脂組成物からなる成形品は、重合体(A)に由来する高強度や高弾性率を有しつつ、単量体(B)によって付与される靭性をも兼ね備える。また、単量体(B)は、式(1)で表される化合物(b1)を70重量%以上含有することで、ポリメチルメタクリレートを膨潤させることが可能である。ポリメチルメタクリレートを膨潤させることができる(メタ)アクリレート単量体は、メチルメタクリレート以外には、これまでにあまり知られていなかった。例えば、本発明者の検討によると、1,3−プロピレングリコールジメタクリレート又は1,10−デカンジオールジメタクリレートなどの脂肪族直鎖ジメタクリレートなどではポリメチルメタクリレートを膨潤させることができなかった。単量体(B)中の化合物(b1)の含有量は、80重量%以上が好適であり、90重量%以上がより好適であり、95重量%以上がさらに好適である。化合物(b1)の含有量が70重量%未満の場合には、得られる成形品の靭性が不十分になる。化合物(b1)は、単独であってもよいし、2種以上が混合しているものであってもよい。
【0024】
式(1)中のRは、メチル基又は水素原子である。Rがメチル基の場合には、化合物(b1)の両端の重合性基はメタクリロイル基であり、Rが水素原子の場合には、化合物(b1)の両端の重合性基はアクリロイル基である。化合物(b1)は、このような重合性基を両末端に有する架橋性の単量体であり、本発明の樹脂組成物は、化合物(b1)が重合することによって架橋され、硬化した成形品になる。化合物(b1)がこのような重合性基を分子内に2個有することによって、重合体(A)を膨潤させられるとともに、靭性に優れた成形品を得ることができる。高強度で高弾性率の成形品を得るためには、Rがメチル基であることが好適である。一方、靭性に優れた成形品を得るためには、Rが水素原子であることが好適である。
【0025】
式(1)中のnは2〜4である。nはポリエチレングリコール単位中のエチレングリコール単位の数に相当する。nが2〜4であることで、靭性に優れた成形品が得られる。nが2未満の場合には、得られる成形品の靭性が不十分になる。nが5以上の場合には、得られる成形品の強度や弾性率が低下する上に、重合体(A)の膨潤速度も低下してしまう。nが3以下であることが好適であり、nが2であることが特に好適である。nが2の場合には、強度及び弾性率と、靭性とのバランスが特に優れた成形品が得られるとともに、重合体(A)の膨潤速度が速い。
【0026】
本発明の単量体(B)を使用することによって高強度で高弾性率であり、しかも靭性に優れた成形体が得られる。このときのメカニズムについての詳細は明らかになっていないが、次のようなことが推測される。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有する、重合体(A)の分子鎖の間に単量体(B)が入り込んだ後、単量体(B)が重合されることによって、重合体(A)の分子鎖と単量体(B)中の化合物(b1)が重合された架橋構造体が相互に絡み合った、いわゆる「セミ相互侵入網目構造」を形成していると推定される。このとき、重合後の架橋構造体の架橋点間の距離が適度であることで、得られる成形品に優れた靭性が与えられるものと考えられる。理論上、架橋点間の距離は化合物(b1)の両端の重合性基間の距離に比例するため、式(1)で表される化合物(b1)のポリエチレングリコール単位の長さによって成形品の靭性が大きく影響されるものと推測される。すなわち、nが2未満の場合には、架橋点間の距離が近すぎて、成形品が硬くなり過ぎて脆弱になり、nが5以上の場合には、架橋点間の距離が遠くなりすぎて、柔軟になり過ぎるものと考えられる。
【0028】
単量体(B)は、化合物(b1)以外の単量体を含有してもよい。このときの単量体としては、化合物(b1)と共重合可能なものであれば特に制限されない。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロメチル(メタ)アクリレート又は1H−1H−3H−テトラフロオロプロピル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート;プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、1,6−オクタフルオロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート又は1,2−トリデカフロオロノナンジオールジ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニル;無水マレイン酸;アクリロニトリル;スチレン;塩化ビニル;オレフィンなどが挙げられる。単量体(B)中の、化合物(b1)以外の単量体の含有量は、30重量%以下であり、20重量%が好適であり、10重量%以下がより好適であり、5重量%以下がさらに好適である。
【0029】
重合開始剤(C)は、単量体(B)を重合させることのできるものであれば特に限定されず、ラジカル重合開始剤や光重合開始剤などが使用される。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物や有機アゾ化合物が好適に使用される。これらのラジカル重合開始剤は加熱することによってラジカルを発生させるものであっても構わないし、アミンなどの還元剤などと混合することによって常温でラジカルを発生させるものであっても構わない。また、光重合開始剤を使用する場合には増感剤と還元剤の組み合わせなどが採用される。
【0030】
加熱することによってラジカルを発生させる重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ[(o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート又はt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが例示される。
【0031】
過酸化物と還元剤を組み合わせた、常温でラジカルを発生させるものとしては、過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキシド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ[(o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート又はt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが例示され、還元剤としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン,N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−i−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジt−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジi−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジt−プロピルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル又は4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル等の芳香族第3級アミンやトリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n-ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、p−トリルジエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等の脂肪族第3級アミンやベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−i−プロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどのスルフィン酸またはその塩などが例示される。
【0032】
また、光重合開始剤の場合の増感剤と還元剤としては、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4’−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキシド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド,2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド,ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート,2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド,3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン,3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン,2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン,2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン又は2−メチル4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどの増感剤や4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ビス{(メタ)アクリロイルオキシエチル}−N−メチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノンなどの3級アミンやジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類や2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸などのチオール基を有する化合物やベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−i−プロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどのスルフィン酸またはその塩などの還元剤が例示される。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)100重量部に対して単量体(B)30〜100重量部を含有することが好適である。単量体(B)の含有量が30重量部より少ない場合には、重合体(A)の粉剤を十分膨潤させることができず、均一な餅状のものが得られにくくなるおそれがある。単量体(B)の含有量は35重量部以上であることがより好適であり、40重量部以上であることがさらに好適であり、46重量部以上であることが特に好適である。重合体(A)100重量部に対して単量体(B)が100重量部より多い場合には、得られる成形品の機械的強度が低下したり、重合収縮率が高くなったりするおそれがある。単量体(B)の含有量は80重量部以下であることがより好適であり、70重量部以下であることがさらに好適であり、65重量部以下であることが特に好適である。得られる成形品の機械的強度の観点からは、単量体(B)の含有量は、重合体(A)の粉剤を十分膨潤することができる範囲内において、少ないほうが好ましい。
【0034】
重合開始剤(C)の含有量は、単量体(B)100重量部に対して通常0.01〜10重量部である。重合開始剤(C)の含有量が、単量体(B)100重量部に対して0.01重量部未満の場合には、重合反応を促進する効果が十分でなくなるおそれがある。好適には0.1重量部以上である。一方、重合開始剤(C)の含有量が、単量体(B)100重量部に対して10重量部を超える場合には、重合反応を促進する効果が頭打ちになるとともに、重合開始剤(C)に由来する溶出成分が増加するおそれもある。好適には5重量部以下である。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)、単量体(B)及び重合開始剤(C)以外の成分を含有しても構わない。例えば、フィラー、着色料、抗菌剤、香料などを用途に応じて配合することができる。
【0036】
本発明の樹脂組成物の好適な製造方法は、重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して増粘させる方法である。混合した後、樹脂組成物は、水あめ状から餅状となる。該粉剤と該液剤とを混合する際には、樹脂組成物内部への気泡の混入を防止したい場合には、液剤中に粉剤を散布するか、粉剤中に液剤を浸み込ませるかした後、撹拌せずに静置して増粘させるのが好ましい。しかしながら、増粘速度を向上させたり、全体を均質にしたりするためには、撹拌することが好ましい。
【0037】
重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合すると、粉剤を構成する重合体(A)の粒子中に単量体(B)が徐々に含浸することにより当該粒子が膨潤する。樹脂組成物が餅状になったときには、単量体(B)が含浸した前記粒子は、成形時の応力によって容易に変形する程に軟化している。このとき、表面近傍に多量の単量体(B)が含浸することで前記粒子が膨潤していると考えられる。このようにして重合体(A)の粒子が単量体(B)により膨潤していると考えられる。
【0038】
一方、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合すると、重合体(A)の粉剤の隙間が単量体(B)の液剤で埋められる。樹脂組成物が餅状になったときには、前記単量体(B)中に重合体(A)が溶解していると考えられる。
【0039】
重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合して得られる餅状の樹脂組成物は、上述のように、単量体(B)が含浸して膨潤した重合体(A)の粒子と、当該粒子間の隙間を埋める形で存在する、重合体(A)が溶解した単量体(B)の溶液からなる。
【0040】
このような餅状の樹脂組成物を重合させた場合には、重合体(A)の粒子に由来する部分において、重合体(A)の粒子に含浸した単量体(B)中の化合物(b1)が架橋することにより、前述した「セミ相互侵入網目構造」が形成されると推定される。これにより、得られる成形品が高強度で高弾性率であり、しかも靭性に優れたものとなると考えられる。得られる成形品の機械的特性の観点からは、単量体(B)の液剤の量が、重合体(A)の粉剤を十分膨潤することができる範囲内において、少ないほうが好ましい。これにより、得られる成形品における、重合体(A)の粒子に由来する部分の比率が多くなり、強度、弾性率及び靭性がさらに向上する。
【0041】
重合体(A)の粉剤の平均粒径は、特に制限されないが、通常2〜200μmである。平均粒径が2μmより小さい場合には、重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合する際に、粉剤が均一に分散されないおそれがある。平均粒径は10μm以上がより好適であり、20μm以上がさらに好適である。また、重合体(A)の平均粒径が200μmより大きい場合には、粉剤の膨潤速度が遅くなりすぎるおそれがある。平均粒径は150μm以下がより好適であり、100μm以下がさらに好適である。
【0042】
重合開始剤(C)を混合する方法は特に制限されない。重合開始剤(C)を予め重合体(A)の粉剤又は単量体(B)の液剤の少なくとも一方に含有させておいてもよいし、樹脂組成物の調製時に混合してもよい。重合開始剤(C)を重合体(A)の粉剤又は単量体(B)の液剤の少なくとも一方に予め含有させておくことが、操作を簡便にできて好ましい。
【0043】
重合体(A)が予め重合開始剤(C)を含有していることが好ましい。すなわち、粉剤を構成する重合体(A)の粒子が重合開始剤(C)を含有していることが好ましい。このような場合には、懸濁重合などによって重合体(A)を製造するときに加えられた重合開始剤をそのまま使用することができる。また、重合開始剤(C)が複数種類の化合物を混合してラジカルを発生させるものである場合には、その一方を重合体(A)に、他方を単量体(B)に、予め含有させておくこともできる。
【0044】
重合体(A)の粉剤と単量体(B)の液剤とを混合することによって、重合体(A)の中に単量体(B)が浸透し、重合体(A)が膨潤して徐々に粘度が上昇して餅状に至る。このようにして増粘させた後に賦形して成形品を製造することが好ましい。賦形する際の樹脂組成物は、十分に粘度が上昇していながらも流動性を保った餅状であることが好ましい。賦形は、型に充填したり、押し付けることによって、あるいは、手で形を整えたりすることなどにより行われる。樹脂組成物を義歯床用材料などに用いるに際して、模型上で作業する場合には、樹脂組成物は粘弾性の高い水あめ状でも使用できる。この場合には粉剤と液剤とを混合後、短時間で使用が可能になる。
【0045】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合した後、樹脂組成物が餅状になるまでの時間は、用途に応じて調整される。式(1)で表される化合物(b1)のポリエチレングリコール単位の長さが短いほど、樹脂組成物が餅状になるまでの時間は短い。nが3又は4の場合には、樹脂組成物が餅状になるまでに数日かかることもある。nが3以下であることが好適であり、nが2であることが特に好適である。
【0046】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合した後、樹脂組成物が餅状を維持する時間は、特に制限されないが、樹脂組成物を賦形したりする作業に必要な時間は維持されることが好ましい。液剤として、本発明の単量体(B)を用いた場合には、メチルメタクリレートを用いた場合とは異なり、作業するのに十分な時間、樹脂組成物が餅状を維持する。
【0047】
本発明の樹脂組成物を、賦形した後、重合反応を行うことで、硬化した成形品が得られる。室温で重合反応が進行するような重合開始剤(C)を使用する場合には、混合しただけでも増粘と同時に重合反応が進行するが、熱や光を用いて重合反応を進行させる場合には、熱や光で処理するまでは実質的に重合反応は進行しない場合が多い。加熱することや、光照射することによって、賦形した後で重合反応を進行させることができるが、作業性を考慮すれば加熱する方法が好適である。例えば、温水に浸漬するだけでも簡単に重合反応を進行させることができる。重合する際に温度などの重合条件や重合時間などの調整により重合度を変えることによって、樹脂組成物の硬さを上昇させることもできるから、用途に応じて、所望の硬さを有する成形品を容易に得ることができる。
【0048】
重合体(A)の粉剤と、単量体(B)の液剤とを、重合開始剤(C)の存在下で混合して得られる、餅状になった樹脂組成物は、単量体(B)が含浸して膨潤した重合体(A)の粒子と、当該粒子間の隙間を埋める形で存在する、重合体(A)が溶解した単量体(B)の溶液からなる。このような餅状の樹脂組成物を重合した場合には、重合体(A)の粉末を構成する粒子は、重合した後も概ねその形状を維持する。このような重合体(A)の粒子に由来する粒子形状の部分の隙間は、単量体(B)が重合により硬化したものにより埋められる。このように、重合して得られる成形品が、重合体(A)の粒子に由来する粒子形状の部分とその隙間を埋める単量体(B)に由来する部分からなることが好適である。これにより成形品は、強度、弾性率及び靭性がさらに優れたものとなる。成形品における、重合体(A)の粒子に由来する部分の粒子形状は、球に近い形状であってもよいし、歪んだ形状であっても構わない。成形時の圧力により、重合体(A)の粒子に由来する部分の形状が歪む場合がある。
【0049】
このとき、成形品における、重合体(A)の粒子に由来する部分の比率ができるだけ大きいことが好ましい。これにより成形品は、強度、弾性率及び靭性がさらに優れたものとなる。「セミ相互侵入網目構造」が形成されていると推定される重合体(A)の粒子に由来する部分同士が接近した構造をとることにより、強度、弾性率及び靭性が向上するものと考えられる。重合体(A)の粒子に由来する部分と単量体(B)の液剤に由来する部分からなる成形品の構造は、成形品を薄くスライスして得られる薄切片を光学顕微鏡により観察することなどにより確認することができる。
【0050】
本発明の医療用樹脂組成物は、歯科用樹脂組成物として好適に用いられる。具体的には、当該樹脂組成物を硬化させてなる義歯床又はマウスピースが好適な実施態様である。通常、義歯の作製は、患者の口腔内の印象を採取して石膏模型を作製した後、石膏模型上でワックスを用いて義歯床部を形成し、これに人工歯を配列して作製したロウ義歯を埋没材を用いてフラスコ内に埋没してロウ義歯の型を取った後、熱湯等でワックスを流して義歯床部分の空洞を埋没材中に形成させる。この空洞に餅状の樹脂組成物を填入して重合、硬化させた後、埋没材から取り出して、最終段階の形態修正や研磨が施されて完成する。また、マウスピースの作製方法は、人口歯を配列する点を除けば、義歯の作製方法とほぼ同じである。本発明の樹脂組成物を重合させた成形品は高強度で高弾性率を有するとともに、優れた靭性を有することから、肉厚が薄くても十分な強度を有し、しかも、咬合圧や衝撃等による破損を抑制することができる。また、単量体(B)が、メチルメタクリレートに比べて、低溶出性であり、生体に対する安全性が高いと考えられる。さらに、単量体としてメチルメタクリレートを用いた場合に比べて、重合収縮率が低いので、義歯やマウスピースと、患者の口腔内の粘膜面との寸法適合性がよい。
【0051】
また、本発明の医療用樹脂組成物は骨セメントとしても好適に使用される。本発明の樹脂組成物は、単量体(B)が、メチルメタクリレートに比べて、低溶出性であるので、生体に対する安全性が高く、しかも、単量体としてメチルメタクリレートを用いた場合に比べて、重合による熱の発生や収縮も少ないと考えられるため、このような用途にも適していると考えられる。
【0052】
メチルメタクリレート単位を70重量%以上含有する重合体(A)の粉剤と、下記式(1)
【化4】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子を示す。nは2〜4の整数である。]
で表される化合物(b1)を70重量%以上含有する単量体(B)の液剤、とからなり、前記粉剤又は前記液剤の少なくとも一方が重合開始剤(C)を含有する、医療用キットも本発明の好適な実施態様である。このような医療用キットは、該粉剤及び該液剤の2成分を混合するのみの容易な操作で樹脂組成物を調製することができる。粉剤又は液剤に重合開始剤(C)を含有させる方法としては、樹脂組成物の製造方法のところで説明した方法を採用できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。実施例における試験片の作製や測定は、23℃、湿度50%の実験室にて実施した。本実施例で用いた単量体は以下のとおりである。
【0054】
[単量体]
・エチレングリコールジメタクリレート[1G、n=1、比重1.05g/ml(at 23℃)]
・ジエチレングリコールジメタクリレート[2G、n=2、比重1.07g/ml(at 23℃)]
・トリエチレングリコールジメタクリレート[3G、n=3、比重1.07g/ml(at 23℃)]
・テトラエチレングリコールジメタクリレート[4G、n=4、比重1.08g/ml(at 23℃)]
ジエチレングリコールジアクリレート[DEGDA、n=2、比重1.12g/ml(at 23℃)]
【0055】
実施例1
懸濁重合によって製造された、ポリメチルメタクリレートの粉剤(根上工業株式会社製「ハイパールD−100M」:重量平均分子量500,000、平均粒径約50〜80μm、ベンゾイルパーオキサイド0.5〜1.0重量%含有)4gとジエチレングリコールジメタクリレート(以下、2Gと略記することがある)の液剤2mlを混和し静置した。約24時間後に、餅状態となった混和物を、2mm×2mm×25mmの試験片が成形できるテフロン(登録商標)型に填入してクランプし、恒温チャンバー(エスペック社製「ST−101B1」)内にて65℃で60min、続いて100℃で90min加熱して重合を進行させた。自然放冷後、テフロン(登録商標)型から取り出した試験片を空気中に一日放置した後、万能試験機(インストロン5544)で三点曲げ試験(支点間距離:20mm、クロスヘッドスピード:0.5mm/min)を行い、曲げ弾性係数、曲げ強さ、最大撓み量および破断エネルギーをそれぞれ測定した。4種の曲げ特性測定の結果を表1及び図1〜4に示す。
【0056】
実施例2及び3
実施例1において、液剤として2Gの代わりにトリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記することがある)又はテトラエチレングリコールジメタクリレート(以下、4Gと略記することがある)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、液剤と粉剤を混和し静置した。液剤として、3Gを用いた場合には約48時間後に、4Gを用いた場合には約96時間後に、餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。それぞれについて、4種の曲げ特性測定の結果を、表1及び図1〜4に示す。
【0057】
比較例1
実施例1において、液剤として2Gの代わりにエチレングリコールジメタクリレート(以下、1Gと略記することがある)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、液剤と粉剤を混和し静置した。約20時間後に、餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。4種の曲げ特性測定の結果を、表1及び図1〜4に示す。
【0058】
比較例2
市販のアクリル系義歯床用レジンである「アクロン」(株式会社ジーシー製)を用いて、その取扱説明書に指示された方法により2mm×2mm×25mmの大きさの試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。4種の曲げ特性測定の結果を表1に示す。また、比較データとして、各測定値を図1〜4に示す。
【0059】
図1〜4は、式(1)で表される化合物(b1)中のポリエチレングリコール単位の長さと、得られた成形品の機械的特性との関係を示したものである。図1に示されるように、化合物(b1)中のポリエチレングリコール単位が短いほど、得られた成形品の曲げ弾性係数は高かった。一方、図2に示されるように、曲げ強さは、驚くべきことに、ポリエチレングリコール単位が最も短い1Gの場合に得られた成形品ではなく、2Gの場合に得られた成形品が最も高かった。図3及び4に示されるように、ポリエチレングリコール単位が長くなるにつれて、得られた成形品の最大撓み量及び破断エネルギーが大きく向上した。2Gの場合に得られた成形品は、市販アクリルレジン(比較例2)よりも、曲げ弾性係数及び曲げ強さが高かった。3G及び4Gの場合に得られた成形品は、市販アクリルレジン(比較例2)よりも、曲げ弾性係数及び曲げ強さが若干低かった。最大撓み量及び破断エネルギーは、2G、3G及び4Gの場合に得られたすべての成形品が、市販アクリルレジン(比較例2)よりも、顕著に高かった。2Gの場合に得られた成形品は、強度と弾性率と、靭性とのバランスが最も優れていた。
【0060】
実施例4
実施例1において、液剤として2Gの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(以下、DEGDAと略記することがある)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、液剤と粉剤を混和し静置した。約12時間後に、餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。DEGDAは、2G中の両末端のメタクリロイル基のところが、アクリロイル基に代わったものである。それぞれの測定結果を表1に示す。このとき得られた成形品は、曲げ強さ及び曲げ弾性係数は、化合物(b1)が2Gの場合に得られた成形品よりは若干低かったが、最大撓み量及び破断エネルギーに関しては、2Gの場合に得られた成形品より高かった。
【0061】
比較例3及び4
懸濁重合によって製造された、メチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの等モル共重合体の粉剤(根上工業株式会社製「ハイパールD−200」:重量平均分子量500,000、平均粒径約70〜90μm、ベンゾイルパーオキサイド0.5〜1.0重量%含有)4gと1G(比較例3)又は2G(比較例3)2mlの液剤を混和し静置した。液剤として、1Gを用いた場合には約0.5時間後に、2Gを用いた場合には約1時間後に、餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。それぞれについて、得られた4種の曲げ特性の測定結果を表1に示す。重合体の粉剤にメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの等モル共重合体を用いた場合には、液剤が1G又は2Gのどちらの場合でも、最大撓み量及び破断エネルギーが著しく低い値であった。また、曲げ強さも著しく低い値であった。
【0062】
比較例5
懸濁重合によって製造された、ポリメチルメタクリレートの粉剤(根上工業株式会社製「ハイパールD−100M」:重量平均分子量500,000、平均粒径約50〜80μm、ベンゾイルパーオキサイド0.5〜1.0重量%含有)4gと1G及び3Gとの等モル混合物2mlの液剤を混和し静置した。約22時間後に、餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。それぞれについて、得られた4種の曲げ特性の測定結果を表1に示す。1Gと3Gとの等モル混合物の液剤を用いた場合には、最大撓み量及び破断エネルギーが、液剤が3Gのみの場合に得られる成形品(実施例2)より、著しく低い値であった。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例5
本発明の樹脂組成物における粉剤と液剤との含有比(粉液比)が、重合させた成形品の機械的特性に与える影響について検討した。懸濁重合によって製造された、ポリメチルメタクリレートの粉剤(根上工業株式会社製「ハイパールD−100M」:重量平均分子量500,000、平均粒径約50〜80μm、ベンゾイルパーオキサイド0.5〜1.0重量%含有)と2Gの液剤を、粉液比[粉剤(g)/液剤(ml)]=1.2〜2.4の範囲において、0.2間隔で、それぞれ混和し静置した[静置時間(粉液比):約30時間(1.2)、約30時間(1.4)、約30時間(1.6)、約24時間(1.8)、約24時間(2.0)、約24時間(2.2)、約24時間(2.4)]。餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様にして、それぞれ試験片を作製して、万能試験機にて試験片の三点曲げ試験を行った。粉液比を横軸に、4種の曲げ特性の測定値をそれぞれ縦軸にプロットしたグラフを図5〜8に示す。各グラフには、比較データとして、比較例2に示した市販アクリル系義歯床用レジンの場合の測定結果を併せて示す。
【0065】
図5に示されるように、曲げ弾性係数に関しては、検討したすべての粉液比(1.2〜2.4)において、本発明の樹脂組成物を重合させた成形品は、「アクロン」より高い値を示した。図6に示されるように、曲げ強さに関しては、本発明の樹脂組成物の粉液比が1.4〜2.4g/mlの範囲で、市販のアクリル系義歯床用レジンである「アクロン」より高い値を示した。一方、図7及び8から分かるように検討したすべての粉液比において最大撓み量及び破断エネルギー共に、本発明の樹脂組成物を重合させた成形品は「アクロン」より高い値を示し、特に粉液比1.8〜2.2g/mlの範囲において高い値を示した。
【0066】
実施例6
本発明の樹脂組成物における粉剤と液剤との含有率(粉液比)が、重合させた成形品の組織構造に与える影響を検討した。ポリメチルメタクリレート粒子内に顔料(ダークピンク)を含む粉剤[株式会社ジーシー製「アクロン」の粉剤(該当規格:JIS T6501「義歯床用アクリル系レジン(第一種)」)]と液剤である2Gを、粉液比[粉剤(g)/液剤(ml)]=1.2〜2.4の範囲において、0.2間隔で、それぞれ混和し静置した[静置時間(粉液比):約30時間(1.2)、約30時間(1.4)、約30時間(1.6)、約24時間(1.8)、約24時間(2.0)、約24時間(2.2)、約24時間(2.4)]。餅状になった混和物を用いて、実施例1と同様の重合条件で、2mm×2mm×25mmの試験片を作製した。試験片を2mm×2mm×10mmに切断し、ミクロトーム用シリコン包埋板に入れてエポキシ樹脂(エポフィックス冷間埋込樹脂、ストルアス社製)で包埋し、24時間かけて硬化させた。エポキシ樹脂に包埋された試験片はミクロトーム(ULTRACUT E、Leica社製)を用いて硝子ナイフ(45°)で切削し、厚さ約5μmの薄切片を得た。薄切片試料は光学顕微鏡(オリンパス株式会社製、「BX51」)を用いて透過光にて200倍(対物レンズ20倍、接眼レンズ10倍)の条件下で観察し、接眼レンズに取り付けたデジタルカメラ(Canon PowerShot S95)で薄切片を撮影した。各粉液比において得られた成形品の薄切片の顕微鏡画像を図9〜15[図番(粉液比):図9(1.2)、図10(1.4)、図11(1.6)、図12(1.8)、図13(2.0)、図14(2.2)、図15(2.4)]に示す。
【0067】
図9は、作製した成形品の中で、粉剤の量が最も少ない(粉液比が1.2g/ml)場合である。図9において、複数の黒い円が見られる。当該円が黒いのは、ポリメチルメタクリレートに含有されている顔料によるものであり、これにより、当該円がポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分であることが分かる。一方、当該円の隙間の部分は白く、光が透過している。したがって、当該部分は顔料を含まない液剤(2G)に由来する部分であることが分かる。
【0068】
粉剤の量が少ない、粉液比が1.2〜1.6g/ml(図9〜11)の場合には、黒いポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分は、円に近い形状をしていた。そして、光を透過する液剤(2G)に由来する部分の面積が比較的大きかった。一方、粉剤の量が増えた、粉液比が1.8〜2.2g/ml(図12〜14)の場合には、黒いポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分は、円ではなく、歪んだ形状となっていた。そして、ポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分同士がほぼ接する状態となり、液剤(2G)に由来する光が透過した部分の面積が非常に小さくなっていた。さらに粉剤の量が増えた、粉液比2.4g/ml(図15)の場合には、歪んだ形状のポリメチルメタクリレートの粒子に由来する部分とともに、円に近い形状のものも見られた。また、液剤(2G)に由来する部分の面積は非常に小さかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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図15