(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(I)において、リン酸を滴下しながらスラリー水を撹拌するにあたり、スラリー水の沸点温度以下に冷却する請求項1に記載のリン酸マンガンリチウム正極活物質の製造方法。
工程(I)において得られる混合スラリー液が、水酸化リチウム1モルに対し、リン酸を0.28〜0.38モル含有する請求項1又は2に記載のリン酸マンガンリチウム正極活物質の製造方法。
工程(II)において、前駆体スラリー液中の溶存酸素濃度を0.5mg/L以下に調整する請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン酸マンガンリチウム正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリン酸マンガンリチウム正極活物質の製造方法は、水に対する溶解度を超える量の水酸化リチウムを含有するスラリー水に、リン酸を滴下しながら該スラリー水を撹拌して、pH9〜11の混合スラリー液を得る工程(I)、
得られた混合スラリー液に対して窒素をパージすることにより該混合スラリー液での反応を完了させて、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体を前駆体スラリー液として得る工程(II)、及び
得られた前駆体スラリー液に、マンガン化合物、鉄化合物及び金属M(MはCa、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す)を含む化合物を添加し、次いで水熱反応に付する工程(III)
を含む。
【0013】
工程(I)では、水に対する溶解度(飽和水溶液100g中に溶解する水酸化リチウムのg数)を超える量の水酸化リチウムを含有するスラリー水を用いる。このように、水に対する溶解度を超えるほどの過剰な量で水酸化リチウムが含有されるスラリー水を用いることにより、後述する工程を経ることとも相まって、高い電池物性を発現し得るリン酸マンガンリチウム正極活物質を得るためのリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体を微細な分散粒子として得ることが可能となる。
【0014】
かかるスラリー水を調製するには、水と、かかる水に対する溶解度を超える量の水酸化リチウムとを混合すればよい。かかるスラリー水は、水酸化リチウムの水に対する溶解度を基準として、1.5〜3.5倍の量の水酸化リチウムを含有するのが好ましく、2.2〜3.3倍の量の水酸化リチウムを含有するのがより好ましく、2.5〜3.2倍の量の水酸化リチウムを含有するのがさらに好ましい。また、水100質量部に対し、20〜50質量部の水酸化リチウムを含有するのが好ましく、25〜48質量部の水酸化リチウムを含有するのがより好ましく、30〜45質量部の水酸化リチウムを含有するのがさらに好ましい。
【0015】
より具体的には、例えば、20℃の水100gを含有するスラリー水の場合、かかるスラリー水中に、水酸化リチウムを21〜49g含有するのが好ましく、水酸化リチウムを30〜46g含有するのがより好ましく、水酸化リチウムを35〜44g含有するのが好ましい。また、40℃の水100gを含有するスラリー水の場合、水酸化リチウムを22〜51g含有するのが好ましく、水酸化リチウムを31〜47g含有するのがより好ましく、水酸化リチウムを36〜45g含有するのが好ましい。
なお、水酸化リチウムとしては、例えば、LiOH・H
2O等の水和物を用いてもよく、この場合、上記含有量は、水酸化リチウム(LiOH)量に換算した値となる。
【0016】
工程(I)では、上記スラリー水に、リン酸を滴下しながら該スラリー水を撹拌して、pH9〜11の混合スラリー液を得る。このように、飽和状態でありながら過剰な量の水酸化リチウムが存在するスラリー液に、リン酸を滴下して少量ずつ加えながら撹拌することで、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体の分散粒子が凝集するのを効果的に抑制して、有効に微細化することができる。
リン酸とは、いわゆるオルトリン酸(H
3PO
4)であり、70〜90質量%濃度の水溶液として用いるのが好ましい。リン酸の上記スラリー水への滴下速度は、好ましくは15〜50mL/分であり、より好ましくは20〜45mL/分であり、さらに好ましくは28〜40ml/分である。
工程(I)において、リン酸を滴下しながらスラリー水を撹拌する際、かかるスラリー水の撹拌速度は、好ましくは250〜600rpmであり、より好ましくは300〜550rpmであり、さらに好ましくは350〜500rpmである。
【0017】
リン酸を滴下しながらスラリー水を撹拌する際における、スラリー水の温度は、リン酸の滴下速度によっても左右されるが、好ましくは20〜90℃であり、より好ましくは20〜70℃である。
なお、スラリー水を撹拌する際、リン酸の滴下速度によっても左右されるが、さらにスラリー水の沸点温度以下に冷却するのが好ましい。具体的には、80℃以下に冷却するのが好ましく、20〜60℃に冷却するのがより好ましい。
【0018】
工程(I)で得られる混合スラリー液は、水酸化リチウム1モルに対し、リン酸を0.28〜0.38モル含有するのが好ましく、0.30〜0.36モル含有するのがより好ましく、0.32〜0.34モル含有するのがさらに好ましい。また、水酸化リチウム100質量部に対し、リン酸を115〜155質量部含有するのが好ましく、123〜147質量部含有するのがより好ましく、131〜139質量部含有するのが好ましい。
【0019】
混合スラリー液は、最終的にpH9〜11に調整し、好ましくはpH9.5〜11.0に調整する。これにより、副生成物ならびに粒子の成長を有効に抑制することができる。この際、必要に応じて、水酸化ナトリウムや硫酸等のpH調整剤を用いてもよい。
【0020】
工程(II)では、上記工程(I)で得られた混合スラリー液に対して窒素をパージすることにより該混合スラリー液での反応を完了させて、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体を前駆体スラリー液として得る。窒素がパージされると、混合スラリー液中の溶存酸素濃度が低減された状態で反応を進行させることができ、また得られる前駆体スラリー液中の溶存酸素濃度も効果的に低減されるため、次の工程(III)で添加するマンガン化合物、鉄化合物及び金属Mを含む化合物の酸化を抑制することができる。かかる前駆体スラリー液中において、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(リン酸三リチウム:Li
3PO
4)は、微細な分散粒子として存在する。
【0021】
上記工程(II)における圧力は、好ましくは0.1〜0.2MPaであり、より好ましくは0.1〜0.15MPaである。また、混合スラリー液の温度は、好ましくは20〜80℃であり、より好ましくは20〜60℃である。反応時間は、好ましくは5〜60分であり、より好ましくは15〜45分である。
また、窒素をパージする際、反応を良好に進行させる観点から、混合スラリー液を撹拌するのが好ましい。このときの撹拌速度は、好ましくは250〜600rpmであり、より好ましくは350〜500rpmである。
【0022】
また、工程(II)では、より効果的にリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体の分散粒子表面における酸化を抑制し、分散粒子の微細化を図る観点から、混合スラリー液中における溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とするのが好ましく、0.2mg/L以下とするのがより好ましい。
【0023】
上記工程(I)及び工程(II)を経ることにより、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体が微細な分散粒子として存在する前駆体スラリー液を得ることができる。前駆体スラリー液中における溶存酸素濃度は、0.5mg/L以下に調整するのが好ましく、0.2mg/L以下に調整するのがより好ましい。
【0024】
得られる前駆体スラリー液中におけるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(Li
3PO
4)の平均分散粒子径は、好ましくは30〜5000nmであり、より好ましくは30〜4000nmであり、さらに好ましくは30〜3500nmである。
なお、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体の平均分散粒子径とは、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(日機装社製)を用いて測定した値を意味する。
【0025】
工程(III)では、得られた前駆体スラリー液に、マンガン化合物、鉄化合物及び金属M(MはCa、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す)を含む化合物を添加し、次いで水熱反応に付する。このように、上記工程(I)及び工程(II)を経ることにより得られる前駆体スラリー液を、スラリー液のまま、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(Li
3PO
4)として用いることにより、極めて微細な粒子であって正極活物質として非常に有用なリン酸マンガンリチウム化合物を得ることができる。
なお、以下、工程(III)において添加するマンガン化合物、鉄化合物及び金属Mを含む化合物を総じて「金属化合物(III)」とも称する。
【0026】
マンガン化合物としては、2価のマンガン化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガン及びこれらの水和物等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸マンガン又はその水和物を用いるのが好ましい。
【0027】
鉄化合物としては、2価の鉄化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化鉄等のハロゲン化物;硫酸鉄、等の硫酸塩;シュウ酸鉄、酢酸鉄等の有機酸塩;並びにこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸鉄又はその水和物を用いるのが好ましい。
【0028】
マンガン化合物及び鉄化合物の使用モル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、好ましくは100:0を超え51:49以下であり、より好ましくは99:1〜51:49であり、さらに好ましくは95:5〜70:30であり、またさらに好ましくは90:10〜80:20である。
【0029】
金属M(MはCa、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す)を含む化合物としては、金属Mの価数に応じた価数を有する化合物及びこれらの水和物等であればよく、例えば、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩や酢酸塩等の有機酸塩、及びこれらの水和物等が挙げられる。なかでも、電池物性を高める観点から、硫酸塩又はその水和物を用いるのが好ましい。これらマンガン化合物、鉄化合物及び金属Mを含む化合物(金属化合物(III))の合計添加量は、前駆体スラリー液中に含有されるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(Li
3PO
4)1モルに対し、好ましくは0.95〜1.01モルであり、より好ましくは0.97〜1.005モルである。
【0030】
水熱反応に付する際に用いる水の使用量は、金属化合物(III)の溶解性、撹拌の容易性、及び合成の効率等の観点から、前駆体スラリー液中に含有されるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(Li
3PO
4)のリン酸イオン1モルに対し、好ましくは10〜30モルであり、より好ましくは12.5〜25モルである。
【0031】
金属化合物(III)の添加順序は特に制限されない。また、金属化合物(III)を添加するとともに、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。かかる酸化防止剤としては、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na
2S
2O
4)、アンモニア水等を使用することができる。酸化防止剤の添加量は、過剰に添加されることでリン酸マンガンリチウム化合物の生成が抑制されるのを防止する観点から、金属化合物(III)1モルに対し、好ましくは0.01〜1モルであり、より好ましくは0.03〜0.5モルである。
【0032】
前駆体スラリー液に金属化合物(III)を添加し、必要に応じて酸化防止剤等を添加することにより得られる混合液は、リン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(リン酸三リチウム:Li
3PO
4)を多量に含有してなる。このように、微細な分散粒子を形成してなるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体を多く含む混合液を水熱反応に付することにより、正極活物質として有用な、極めて微細な粒子のリン酸マンガンリチウム化合物を得ることができる。かかる混合液中におけるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体の含有量は、好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは15〜45質量%であり、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0033】
得られた上記混合液を水熱反応に付するにあたり、金属化合物(III)の酸化を有効に防止する観点から、例えば
図1に示すように、蒸気加熱式オートクレーブを用いるのが好ましい。蒸気加熱式オートクレーブは、飽和蒸気を受け入れて加圧・加熱しているので、オートクレーブ内が飽和蒸気で満たされており、水熱合成時にオートクレーブ内での金属化合物(III)における金属の酸化を有効に防止することができる。また飽和蒸気は、冷却されても水(ドレン水)以外を発生しないので、その過程でも金属化合物(III)における金属の酸化を抑制することが可能である。オートクレーブ内に飽和蒸気を導入して加熱を開始する際、オートクレーブ内の空気を飽和蒸気で押し出す(置換する)操作を行い、オートクレーブ内に残留する酸素をさらに低減することが好ましい。
【0034】
なお、飽和蒸気は水を加熱して作られるが、水を加熱するためのボイラーに使用する水は脱酸しておくのが好ましい。この蒸気を製造する水は、溶存酸素濃度0.5mg/L以下であるのが好ましく、溶存酸素濃度0.2mg/L以下であるのがより好ましい。このような脱酸した水は、例えば水に窒素ガスをバブリングすることや膜分離装置を用いることで容易に製造することができる。
【0035】
水熱反応における反応温度は、100℃以上であればよく、好ましくは130〜250℃であり、より好ましくは140〜230℃である。蒸気加熱式オートクレーブを用いる場合、オートクレーブ中で密封して蒸気で加熱するのみでよく、圧力は、130〜250℃で反応を行う場合、0.3〜1.5MPaとなり、140〜230℃で反応を行う場合、0.4〜1.0MPaとなる。反応時間は10分〜3時間が好ましく、さらに10分〜1時間が好ましい。
【0036】
水熱反応終了後、生成したリン酸マンガンリチウム化合物をろ過により採取し、洗浄するのが好ましい。洗浄は、ケーキ洗浄機能を有したろ過装置を用いて水で行うのが好ましい。得られた結晶は、必要により乾燥する。乾燥手段は、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
【0037】
得られるリン酸マンガンリチウム化合物は、リチウムイオン電池用の正極活物質として用いることができる。具体的には、例えば下記式(A)で表わされる。
LiFe
aMn
bM
cPO
4 ・・・(A)
(式中、MはCa、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。a、b及びcは、0<a<0.5、0.5<b<1、及び0<c≦0.2を満たし、かつ2a+2b+(Mの価数)×c=2を満たす数を示す。)
上記式(A)中におけるMは、より電池物性の高いリン酸マンガンリチウム化合物を得る観点から、Zr、Laであるのが好ましく、Laがより好ましい。
【0038】
得られたリン酸マンガンリチウム化合物は、カーボン担持し、次いで焼成することにより、正極活物質とするのが好ましい。カーボン担持は、リン酸マンガンリチウム化合物に常法により、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、サッカロース、デンプン、デキストリン、クエン酸等の炭素源及び水を添加し、次いで焼成すればよい。焼成条件は、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下に400℃以上、好ましくは400〜800℃で10分〜3時間、好ましくは0.5〜1.5時間行うのが好ましい。かかる処理によりリン酸マンガンリチウム化合物の粒子表面にカーボンが担持された正極活物質とすることができる。炭素源の使用量は、リン酸マンガンリチウム化合物100質量部に対し、炭素源に含まれる炭素として3〜15質量部が好ましく、炭素源に含まれる炭素として5〜10質量部がさらに好ましい。
【0039】
上記本発明の方法により得られるリン酸マンガンリチウム正極活物質は、粒径が微細で均一であることから、リチウムイオン電池の正極材料として有用である。具体的には、リン酸マンガンリチウム正極活物質の平均粒子径は、好ましくは10〜100nmであり、より好ましくは10〜50nmである。
【0040】
次に本発明のリン酸マンガンリチウム正極活物質を正極材料として含有するリチウムイオン電池について説明する。
本発明の正極材料を適用できるリチウムイオン電池としては、正極と負極と電解液とセパレータを必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0041】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト又は非晶質炭素等の炭素材料等である。そしてリチウムを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。
【0042】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0043】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4及びLiAsF
6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO
3CF
3、LiC(SO
3CF
3)
2及びLiN(SO
3CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2及びLiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0044】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
《前駆体スラリー液の調製》
LiOH・H
2O 4.9kgと水 11.7kgを混合してスラリー水を得た。次いで、得られたスラリー水を、25℃の温度に保持しながら撹拌速度400rpmにて撹拌し、ここに70%のリン酸水溶液 5.09kgを35mL/分で滴下して混合スラリー液を得た。かかる混合スラリー液のpHは10.0であり、水酸化リチウム1モルに対し、0.33モルのリン酸を含有していた。
【0047】
次に、得られた混合スラリー液に対し、400rpmの速度で30分撹拌しながら窒素をパージして、混合スラリー液での反応を完了させ、溶存酸素濃度0.5mg/Lに調整された前駆体スラリー液を得た。
得られた前駆体スラリー液中におけるリン酸三リチウム(Li
3PO
4)の平均分散粒子径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(日機装社製)で測定したところ、3000nmであった。
かかる前駆体スラリー液中におけるリン酸三リチウム(Li
3PO
4)の分散粒子のSEM像を
図2に示す。
【0048】
《リン酸マンガンリチウム正極活物質の製造》
続いて、前駆体スラリー液21.7kgに対し、FeSO
4・7H
2O1.52kg、MnSO
4・H
2O 5.60kg、及びZrSO
4・4H
2O 71gを添加し、さらにNa
2SO
3 46.8gを添加して撹拌速度400rpmにて撹拌・混合して混合液を得た。このとき、添加したFeSO
4とMnSO
4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、85.9:14.1であり、混合液中におけるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(Li
3PO
4)の含有量は、24質量%であった。
次いで、混合液を
図1の蒸気加熱式オートクレーブ内に設置した合成容器に投入した。オートクレーブ内は、隔膜分離装置により溶存酸素濃度0.5mg/L未満とした水を加熱して得た飽和蒸気を用いて、170℃で1時間加熱した。加熱中も容器内の混合スラリー液の攪拌を続けた。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した結晶をろ過し、次いで水により洗浄した。洗浄した結晶を60℃1Torrの条件で真空乾燥した。得られた粉末を8.4g分取し、これにグルコース(炭素濃度として10%)及び超純水10cm
3を加え、還元雰囲気下で600℃で1hr焼成してリン酸マンガンリチウム正極活物質を得た。
得られたリン酸マンガンリチウム正極活物質(
LiFe
0.14Mn
0.85Zr
0.005PO
4)の平均粒子径は、40nmであった。
【0049】
《リチウムイオン電池の製造》
得られたリン酸マンガンリチウム正極活物質、ケッチェンブラック(導電剤)、ポリフッ化ビニリデン(粘結剤)を重量比75:20:5の配合割合で混合し、これにN−メチル−2−ピロリドンを加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
【0050】
次いで、上記の正極を用いてコイン型リチウムイオン電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1mol/lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンなどの高分子多孔フィルムなど、公知のものを用いた。これらの電池部品を露点が−50℃以下の雰囲気で常法により組み込み収容し、コイン型リチウムイオン電池(CR−2032)を製造した。
【0051】
製造したリチウムイオン電池を用いて定電流密度での充放電試験を行った。このときの充電条件は電流0.1CA(17mAg)、電圧4.5Vの定電流充電とし、放電条件を電流0.1CA、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。温度は全て30℃とした。
そして、放電容量(mAh/g)及び平均放電電圧(V)の値に基づき、重量エネルギー密度(Wh/kg)を算出したところ、585Wh/kgであった。
【0052】
[実施例2]
ZrSO
4・4H
2O 71gの代わりにLa
2(SO
4)
3・9H
2O 95gを用いた以外、実施例1と同様にして前駆体スラリー液の調製し、これを用いて実施例1と同様にしてリン酸マンガンリチウム正極活物質を製造した。
得られたリン酸マンガンリチウム正極活物質(
LiFe
0.14Mn
0.85La
0.007PO
4)の平均粒子径は、40nmであった。
次いで、実施例1と同様にしてコイン型リチウムイオン電池(CR−2032)を製造し、定電流密度での充放電試験を行い、同様にして重量エネルギー密度(Wh/kg)を算出したところ、590Wh/kgであった。
【0053】
[比較例1]
LiOH・H
2O 4.9kgの代わりにLi
2CO
3 4.31kgを用いた以外、実施例1と同様にして前駆体スラリー液の調製し、かかる前駆体スラリー液21.7kgに対し、FeSO
4・7H
2O1.63kg、MnSO
4・H
2O 5.60kgを添加し、さらにNa
2SO
3 46.8gを添加して撹拌速度400rpmにて撹拌・混合して混合液を得た。このとき、添加したFeSO
4とMnSO
4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、85:15であり、混合液中におけるリン酸マンガンリチウム正極活物質前駆体(Li
3PO
4)の含有量は、24質量%であった。
続いて、実施例1と同様にしてリン酸マンガンリチウム正極活物質を得た。
得られたリン酸マンガンリチウム正極活物質(
LiFe
0.15Mn
0.85PO
4)の平均粒子径は、150nmであった。
次いで、実施例1と同様にしてコイン型リチウムイオン電池(CR−2032)を製造し、定電流密度での充放電試験を行い、同様にして重量エネルギー密度(Wh/g)を算出したところ、575Wh/gであった。