特許第5700368号(P5700368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5700368有機・無機ハイブリッド及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700368
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】有機・無機ハイブリッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/14 20060101AFI20150326BHJP
   C01F 5/14 20060101ALI20150326BHJP
   C01F 11/02 20060101ALI20150326BHJP
   C09K 21/02 20060101ALN20150326BHJP
【FI】
   C01B13/14 A
   C01F5/14
   C01F11/02 A
   !C09K21/02
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-242726(P2010-242726)
(22)【出願日】2010年10月28日
(65)【公開番号】特開2012-91986(P2012-91986A)
(43)【公開日】2012年5月17日
【審査請求日】2013年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】独立行政法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】田村 堅志
(72)【発明者】
【氏名】森本 和也
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕久
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−080313(JP,A)
【文献】 特開2005−247682(JP,A)
【文献】 會澤 純雄, 成田 榮一,層状複水酸化物をホストとする機能性ナノ複合体の合成と応用,Journal of the Society of Inorganic Materials, Japan,日本,2010年 5月 1日,Vol.17 No.346,page 150-157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/00 − 13/36
C01F 5/14
C01F 11/02
C09K 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の無機化合物層が積層した水酸化鉱物と、前記無機化合物層の層間に包摂された有機化合物と、を有する有機・無機ハイブリッドであって、前記水酸化鉱物が、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、AlO(OH)、Fe(OH)またはFeO(OH)から選択される一つの水酸化鉱物であり、前記有機化合物が、炭素数4以上40以下の糖類であることを特徴とする有機・無機ハイブリッド。
【請求項2】
前記水酸化鉱物が、ブルーサイト、ポートランダイト、ギブサイト、ベーマイト、ノルドストランダイト、ドイライト、バイアライト、バーナライト、およびレピドクロサイトからなる群から選択される一つの水酸化鉱物であることを特徴とする請求項1に記載の有機・無機ハイブリッド。
【請求項3】
前記無機化合物層が電気的に中性で、前記無機化合物層表面に水酸基を持つことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機・無機ハイブリッド。
【請求項4】
前記無機化合物層が、Mg2+、Ca2+、Al3+またはFe3+のいずれか一つの金属イオンにOHイオンまたはO2−イオンが六配位した八面体が稜共有で板状に配列した層であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機・無機ハイブリッド。
【請求項5】
前記炭素数4以上40以下の糖類が、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機・無機ハイブリッド。
【請求項6】
前記糖アルコールが、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、およびD−エリトロ−D−ガラクト−オクチトールからなる群から選択される一つの糖アルコールであることを特徴とする請求項5に記載の有機・無機ハイブリッド。
【請求項7】
前記糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、ガラクトース、スタキオース、デンプン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、およびアガロースからなる群から選択される一つの糖であることを特徴とする請求項5に記載の有機・無機ハイブリッド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法であって、前記水酸化鉱物と炭素数4以上40以下の糖類とを混合して混合体を生成する工程と、前記混合体を溶融させる工程と、を有することを特徴とする有機・無機ハイブリッドの製造方法。
【請求項9】
前記混合体を、前記炭素数4以上40以下の糖類の熱分解温度未満であって、150℃以上の温度範囲で溶融させることを特徴とする請求項8に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法。
【請求項10】
前記炭素数4以上40以下の糖類が、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機・無機ハイブリッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化鉱物は、ブルーサイト、ポートランダイト、ギブサイト、ベーマイト、レピドクロサイト等に代表される鉱物であって、地球表層上に豊富に存在するユビキタスな物質である。
水酸化鉱物は、吸着性、触媒活性、人体に無害なこと(抗原抗体反応を起こさない)などの様々な特性を有している。そのため、水や廃油の浄化用吸着剤、石油クラッキングなどの触媒、火力発電所の排ガス中の硫黄酸化物の除去、酸性化した河川や土壌の中和剤、あるいは医薬品原料、プラスチックの難燃剤など様々な分野で用いられている。
特に、医薬品原料及び難燃剤として注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、制酸性が優れる水酸化鉱物を利用した医薬品原料が開示されている。また、特許文献2には、水酸化鉱物を利用した薬物伝達システム(ドラッグデリバリーシステム:Drug Delivery System:以下、DDSという。)用材料(以下、DDS用材料という。)が開示されている。なお、DDSは、体内に注入した生体分子や薬物の分布を、量的・空間的・時間的にコントロールする技術である。
【0004】
水酸化鉱物は、例えば、Mg2+、Ca2+、Al3+、Fe3+等の金属にOHもしくはO2−が六配位した八面体が稜共有で平面状に配列した層(以下、ユニット層という。)を基本構造とし、多層化された構造体である。そのため、前記ユニット層の層間に有機化合物を挿入すれば、有機化合物との親和性を高めることができると考えられる。
【0005】
実際、粘土鉱物、層状チタン酸塩、カルコゲン化合物、アルミニウム−マグネシウム系複水酸化物(以下、ハイドロタルサイトという。)等のような積層構造の無機化合物では、その層間に存在する層間イオン(以下、交換性イオンともいう。)に代えて有機化合物を挿入し、前記有機化合物が前記無機化合物にナノ領域で複合化(以下、ナノ複合化という。)した構造体(以下、有機・無機ハイブリッドという。)を形成する。特に、ナノ領域に踏み込んだDDSの開発では、層間に交換性イオンを持つに生体分子や薬物を包摂(以下、インターカレーションともいう。)させた有機・無機ハイブリッドが形成されている。
【0006】
非特許文献1、2には、室温で液体の糖アルコールである炭素数が2のグリコールや、炭素数が3のグリセロールを高温処理して調製した有機・無機ハイブリッドが記載されている。
【0007】
しかし、水酸化鉱物のユニット層は電気的に中性であり、前記ユニット層の電荷を中和するための層間イオンを持たず、前記ユニット層の隣接した面同士は水素結合によって強固に結合されている。そのため、前記ユニット層の狭い層間に有機化合物を包摂することが困難であった。
また、前記ユニット層の層間を結合する水素結合を切断する有効な方法がなく、有機分子を効率的に包摂させることができなかった。
また、DDS用材料として用いること考えると、薬物の効果を有する有機化合物は炭素数の大きなものが多いが、前記ユニット層の狭い層間には、炭素数の大きい有機化合物を包摂することは困難であった。
また、包摂した有機化合物を、一定の時間経過とともに一定量ずつ徐々に放出可能な除放性に優れた材料とすることも困難であった。
更にまた、前記ハイドロタルサイトはアルミニウムを含有する。そのため、前記ハイドロタルサイトをDDS用材料として使用すると、アルミ脳症等を引き起こす懸念があった。
【0008】
なお、水酸化鉱物が、プラスチックの難燃剤として使用可能なことも公知とされている。
例えば、ブルーサイトやギブサイトは200〜400℃で激しく脱水分解し、吸熱反応を行う。ギブサイトでは約1.5kJ/g、ブルーサイトでは1.39kJ/gの吸熱反応が進む。ポリエチレンの発熱反応はグラム当たり43.4kJとなる。そのため、仮に、ポリエチレンにギブサイトを66質量%ブレンドすると、燃焼による発熱と、ギブサイトの分解による吸熱がほぼ同じになり、燃焼反応場の温度は下降し、燃焼は継続しない。このように、水酸化鉱物は、プラスチックの燃焼反応を阻害し、プラスチックの燃焼時の温度上昇を抑え、自己消化性を有し、発煙抑制を促す。更に、ブルーサイトやギブサイトは、燃焼時にダイオキシンや有毒ガスを発生しない。そのため、環境に優しいノンハロゲン系の難燃剤として用いられている。
しかし、水酸化鉱物をポリエチレンのような高分子中に高充填すると、柔軟性と成形加工性を著しく損なう恐れがあり、実用面で大きな課題となっていた。
【0009】
また、無機化合物をナノメートルレベルまで微細化してプラスチックやゴム成分中に分散することによって、難燃性の高いナノコンポジットを得ることができる。微細無機化合物は燃焼表面にチャーとよばれる炭化膜を形成し、燃焼反応下での酸素供給を阻害することで難燃効果を発揮する。
しかし、親水性の水酸化鉱物をそのまま高分子中に複合化しても、分散性を著しく損なうので、微細分散による難燃効果を発揮させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3977724号
【特許文献2】WO2007−029376
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M.Inoue,H.Kominami,Y.Kondo,T.Inui,“Organic Derivatives of Layered Inorganics Having the Second Stage Structure” Chem.Mater.,9,1614−1619(1997).
【非特許文献2】F.Wypych,W.H.Schreiner,R.Marangoni,“Covalent Grafting of Ethylene Glycol and Glycerol into Brucite”.J.Colloid.Interface.Sci.,253,180−184(2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、難燃性、柔軟性、成形加工性及び有機化合物との親和性が高く、炭素数の大きな有機化合物を包摂可能な有機・無機ハイブリッド及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、溶融混合法によって、電気的に中性な無機化合物層の層間に炭素数4以上の糖類を包摂することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)に示される構成を有する。
【0014】
(1) 板状の無機化合物層が積層した水酸化鉱物と、前記無機化合物層の層間に包摂された有機化合物とを有する有機・無機ハイブリッドであって、前記水酸化鉱物が、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、AlO(OH)、Fe(OH)またはFeO(OH)から選択される一つの水酸化鉱物であり、前記有機化合物が、炭素数4以上40以下の糖類であることを特徴とする有機・無機ハイブリッド。
(2) 前記水酸化鉱物が、ブルーサイト、ポートランダイト、ギブサイト、ベーマイト、ノルドストランダイト、ドイライト、バイアライト、バーナライト、およびレピドクロサイトからなる群から選択される一つの水酸化鉱物であることを特徴とする(1)に記載の有機・無機ハイブリッド。
(3) 前記無機化合物層が電気的に中性で、前記無機化合物層表面に水酸基を持つことを特徴とする(1)又は(2)に記載の有機・無機ハイブリッド。
(4) 前記無機化合物層が、Mg2+、Ca2+、Al3+またはFe3+のいずれか一つの金属イオンにOHイオンまたはO2−イオンが六配位した八面体が稜共有で板状に配列した層であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の有機・無機ハイブリッド。
(5) 前記炭素数4以上40以下の糖類が、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の有機・無機ハイブリッド。
(6) 前記糖アルコールが、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、およびD−エリトロ−D−ガラクト−オクチトールからなる群から選択される一つの糖アルコールであることを特徴とする(5)に記載の有機・無機ハイブリッド。
(7) 前記糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、ガラクトース、スタキオース、デンプン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、およびアガロースからなる群から選択される一つの糖であることを特徴とする(5)に記載の有機・無機ハイブリッド。
(8) 先に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法であって、前記水酸化鉱物と炭素数4以上40以下の糖類とを混合して混合体を生成する工程と、前記混合体を溶融させる工程と、を有することを特徴とする有機・無機ハイブリッドの製造方法。
(9) 前記混合体を、前記炭素数4以上40以下の糖類の熱分解温度未満であって、150℃以上の温度範囲で溶融させることを特徴とする(8)に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法。
(10) 前記炭素数4以上40以下の糖類が、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかであることを特徴とする(8)又は(9)に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機・無機ハイブリッドは、無機化合物が配列されて、板状の無機化合物層が積層した水酸化鉱物と、前記無機化合物層の層間に包摂された有機化合物とを有する有機・無機ハイブリッドであって、前記水酸化鉱物が、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、AlO(OH)、Fe(OH)またはFeO(OH)から選択される一つの水酸化鉱物であり、前記有機化合物が、炭素数4以上40以下の糖類である構成なので、水酸化鉱物の高難燃性を有し、炭素数4以上40以下の糖類の高柔軟性及び高成形加工性を有する材料とでき、それ自身を難燃剤として利用できる。また、前記構成により、有機化合物との親和性を具備し、プラスチックに容易に混合でき、難燃性の高いナノコンポジットへ応用が可能となる。更にまた、前記構成により、水酸化鉱物の層間の糖類同士の隙間に、糖類と親和性の高い有機化合物を保持することができ、かつ、除放性を有する材料とすることができる。これにより、物質デリバリー材料へ応用が可能となる。
【0016】
本発明の有機・無機ハイブリッドの製造方法は、先に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法であって、水酸化鉱物と炭素数4以上40以下の糖類とを混合して混合体を生成する工程と、前記混合体を溶融させる工程と、を有する構成なので、水酸化鉱物の層同士を強固に結合している水素結合を切断し、前記層間の間隔を広げて、炭素数4以上40以下の糖類を包摂させることができ、無機化合物が配列されて、板状の無機化合物層が積層した水酸化鉱物と、前記無機化合物層の層間に包摂された有機化合物とを有する有機・無機ハイブリッドを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の有機・無機ハイブリッドの一例を示す概略図であって、(a)は斜視図であり、(b)は側面図である。
図2】無機化合物層の一例を示す斜視図である。
図3】無機化合物層の別の一例を示す斜視図である。
図4】水酸化鉱物の一例を示す概略側面図である。
図5】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(180℃反応)のXRDパターンである。
図6】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(180℃反応)のFT−IRスペクトルである。
図7】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/キシリトールハイブリッド(b)(180℃反応)のXRDパターンである。
図8】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/キシリトールハイブリッド(b)(180℃反応)のFT−IRスペクトルである。
図9】ポートランダイト(a)およびポートランダイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(180℃反応)のXRDパターンである。
図10】ポートランダイト(a)およびポートランダイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(180℃反応)のFT−IRスペクトルである。
図11】ポートランダイト(a)およびポートランダイト/エリトリトールハイブリッド(b)(180℃反応)のXRDパターンである。
図12】ポートランダイト(a)およびポートランダイト/エリトリトールハイブリッド(b)(180℃反応)のFT−IRスペクトルである。
図13】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(150℃反応)のXRDパターンである。
図14】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(150℃反応)のFT−IRスペクトルである。
図15】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(120℃反応)のXRDパターンである。
図16】ブルーサイト(a)およびブルーサイト/D−ソルビトールハイブリッド(b)(120℃反応)のFT−IRスペクトルである。
図17】ブルーサイト(a)および水溶媒で調製したブルーサイト/D−ソルビトール(b)(水熱反応180℃、24時間)のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本発明の実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッドについて説明する。
図1は、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッドの一例を示す概略図である。
図1(a)に示すように、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、有機化合物と無機化合物とからなる構造体であって、板状の無機化合物層11a、11b、11c、11dが積層された水酸化鉱物40と、無機化合物層11a、11b、11c、11dの層間に挿入された有機化合物13と、を有して概略構成されている。
なお、図1(a)では、無機化合物層11a、11b、11c、11dは4層積層されているが、これに限られるものではなく、2層以上であればよい。2層以上であれば、層間に有機化合物13を挿入できるためである。
【0019】
水酸化鉱物40は、水酸化マグネシウムMg(OH)(ブルーサイト)、水酸化カルシウムCa(OH)(ポートランダイト)、及び、γ−Al(OH)(ギブサイト)、γ−AlO(OH)(ベーマイト)、β−Al(OH)(ノルドストランダイト)、δ−Al(OH)(ドイライト)、α−Al(OH)(バイアライト)に代表される水酸化アルミニウム、及び、Fe(OH)(バーナライト)、γ−FeO(OH)(レピドクロサイト)に代表される水酸化鉄(III)の群から選択される一つの水酸化鉱物である。ブルーサイト、ギブサイト,ベーマイト、ポートランダイトがより好ましい。これらの材料は、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉄の金属イオンからなり、無機化合物層11a、11b、11c、11dが水素結合で結びついて結晶構造をなし、安定性の高い有機・無機ハイブリッドを製造できる。
【0020】
水酸化鉱物40は、天然に産出する鉱物でもよく、人工的に合成したものであってもよい。合成方法としては、例えば、比較的低温でアルカリによる中和反応や、過飽和水溶液からの析出、金属アルコキシドの加水分解などの方法を挙げることができる。
【0021】
図1(b)は、図1(a)に示す有機・無機ハイブリッド1の側面図である。
図1(b)に示すように、無機化合物層11a、11b、11c、11dの隣接する層のOH基同士には水素結合が形成されていない。無機化合物層11a、11b、11c、11dの層間には有機化合物13が包摂されている。
なお、図1に示す有機・無機ハイブリッド1では、無機化合物層の層間の水素結合はすべて切断されているが、一部の水素結合が切断されず、残されていてもよい。
また、無機化合物層11a、11bの隣接面間距離はt、無機化合物層11a、11bの底面距離はtとされている。
【0022】
無機化合物層11a、11b、11c、11dは、無機化合物が配列されて、板状とされてなる。
前記無機化合物は、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、AlO(OH)、Fe(OH)またはFeO(OH)の群から選択される一つの水酸化鉱物であることが好ましい。
【0023】
図2は、無機化合物層の一例を示す斜視図であり、水酸化鉱物としてブルーサイト、ポートランダイト等を用いた場合の一例を示す図である。
また、図3は、無機化合物層の別の一例を示す斜視図であり、水酸化鉱物としてベーマイト、レピドクロサイト等を用いた場合の一例を示す図である。
図2及び図3に示す無機化合物層11aの構成単位となる八面体は、その中心にMg2+、Ca2+、Al3+またはFe3+のいずれか一の金属イオンを有しており、各頂点にOHイオンまたはO2−イオンが配位してなる。
図2及び図3に示すように、無機化合物層11aは、Mg2+、Ca2+、Al3+またはFe3+のいずれか一つの金属イオンにOHイオンまたはO2−イオンが六配位した八面体が稜共有で板状に配列した層を用いることが好ましい。安定な無機化合物層とすることができるためである。
【0024】
無機化合物層11a、11b、11c、11dは電気的に中性で、前記無機化合物層表面に多くの水酸基を持つことが好ましい。層電荷をもつとそれを中和するために層間に交換性イオンが存在しなくてはならない。交換性イオンがある場合、それと対になるイオン性有機物質でないと安定して層間に包摂することが困難になる。本発明においては層表面の水酸基と炭素数4以上40以下の糖および/または糖アルコールが強い親和性を持つため安定な包摂化合物を形成する。
【0025】
有機化合物13は、炭素数4以上40以下の糖類であることが好ましい。炭素数4未満では高分子との親和性が十分でないために微細分散状態を達成することが困難であり、難燃性や機械的特性の十分な向上を見込むことが出来ず、炭素数が40を超えると分子のサイズが大きすぎて水酸化鉱物の無機化合物層間に包摂することが難しくなる。
炭素数4以上40以下の糖類を用いることにより、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1を高柔軟性及び高成形加工性を有する材料とでき、それ自身を難燃剤として利用できる。また、有機化合物との親和性を高くして、プラスチック中に容易に微細な無機化合物層を分散できる材料にすることができる。これにより、難燃性の高いナノコンポジットへ応用が可能となる。更にまた、無機化合物層11a、11b、11c、11dの層間の糖類13同士の隙間に、糖類13と親和性の高く、薬物として使用可能な有機化合物を保持することができ、かつ、この薬物を一定の時間経過とともに一定量ずつ徐々に放出可能な除放性に優れた材料とすることができる。これにより、DDS用材料へ応用が可能となる。
【0026】
炭素数4以上の糖類としては、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかを挙げることができる。
前記糖アルコールは、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、D−エリトロ−D−ガラクト−オクチトールの群から選択される一の糖アルコールであることが好ましい。
【0027】
前記糖は、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、ガラクトース、スタキオース、デンプン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロースの群から選択される一の糖であることが好ましい。
【0028】
なお、無機化合物層の層間に包摂する炭素数4以上40以下の糖類は、1種類に限られるものではなく、2種類以上の糖類を包摂させてもよい。これにより、有機・無機ハイブリッドの特性をより最適化できる。
【0029】
次に、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッドの製造方法について説明する。
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッドの製造方法は、溶融混合法と呼称する方法であり、有機・無機ハイブリッド1の製造方法であって、水酸化鉱物と炭素数4以上40以下の糖類とを混合して混合体を生成する工程(以下、混合体生成工程という。)と、前記混合体を溶融させる工程(以下、溶融工程という。)と、を有する。
【0030】
(混合体生成工程)
まず、水酸化鉱物と炭素数4以上40以下の糖類とをそれぞれ所定の量だけ準備してから、これらを混合して混合体を生成する。前記水酸化鉱物は、粉末状とすると、均一の割合で混合された混合体を生成することができる。水酸化鉱物と炭素数4以上40以下の糖類とを、なるべく多くの面積で接触させることが重要である。
【0031】
図4は、水酸化鉱物40の一例を示す概略側面図であり、無機化合物層11a、11b、11c、11dが積層されてなり、かつ、各層がOH基間の水素結合により強固に結合されている。
【0032】
(溶融工程)
次に、前記混合体を、温度・撹拌制御が可能な反応容器に投入する。
次に、前記糖類の熱分解温度未満であって、150℃以上の温度範囲で溶融させる。溶融時間は、例えば、24時間とする。これにより、図1に示す有機・無機ハイブリッド1を容易に製造することができる。
なお、反応後、反応生成物をメタノール等の有機溶媒で洗浄、ろ過してから、乾燥してもよい。これにより、不純物をより除去でき、有機・無機ハイブリッド1の純度を向上させることができる。
更にまた、本溶融混合法において、上述の各成分を混合した後、溶融混練してもよい。これにより、水酸化鉱物の無機化合物層の層間に、より均一に有機化合物を包摂させることができる。溶融混練の方法は、具体的には、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、ロール、単軸もしくは多軸の押出機及びコニーダーなどの公知の加熱・混練方法を用いて連続、或いはバッチ生産する方法を挙げることができる。
【0033】
前記混合体の溶融温度は、前記糖類の熱分解温度未満であって、150℃以上の温度範囲で溶融させることが好ましい。
前記混合体の溶融温度が150℃未満の場合には、無機化合物層の層間の水素結合が切断されない部分が残ってしまい、十分な量の有機化合物を包摂させることができない。逆に、前記混合体の溶融温度が炭素数4以上40以下の糖類の熱分解温度以上の場合には、長時間の溶融混合によって糖、糖アルコールの熱劣化が進んでしまい、均質な有機・無機ハイブリッドを調製できなくなる。
【0034】
有機・無機ハイブリッドとする前の水酸化鉱物40の無機化合物層11a、11bの隣接面間距離tは、有機・無機ハイブリッドとした後の水酸化鉱物40の無機化合物層11a、11bの隣接面間距離tよりも狭い。また、有機・無機ハイブリッドとする前の水酸化鉱物40の無機化合物層11a、11bの底面距離tは、有機・無機ハイブリッドとした後の水酸化鉱物40の無機化合物層11a、11bの底面距離tよりも狭い。
しかし、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッドの製造方法を用いることにより、無機化合物層を結合する水素結合を切断し、隣接面間距離及び底面距離を広げ、層間に炭素数4以上40以下の糖類等の有機化合物を包摂させることができる。
なお、水酸化鉱物に有機化合物を包摂させるためには、一般的には粉末固体状の糖類を良溶媒に溶解させた後、反応させる方法(溶媒法)が用いられるが、この溶媒法は、無機化合物層の層間の水素結合を効率よく切断することができないので、十分な量の有機化合物を包摂させることができず、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1を製造することができない。
【0035】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、板状の無機化合物層11a、11b、11c、11dが積層した水酸化鉱物40と、無機化合物層11a、11b、11c、11dの層間に包摂された有機化合物13と、を有する有機・無機ハイブリッドであって、前記水酸化鉱物が、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)、AlO(OH)、Fe(OH)またはFeO(OH)から選択される一つの水酸化鉱物であり、有機化合物13が、炭素数4以上40以下の糖類である構成なので、水酸化鉱物の高難燃性を有し、炭素数4以上40以下の糖類の高柔軟性及び高成形加工性を有する材料とでき、それ自身を難燃剤として利用できる。また、前記構成により、有機化合物との親和性を具備し、プラスチックに容易に混合でき、難燃性の高いナノコンポジットへ応用が可能となる。更にまた、前記構成により、水酸化鉱物の層間の糖類同士の隙間に、糖類と親和性の高い有機化合物を保持することができ、かつ、除放性を有する材料とすることができる。これにより、物質デリバリー材料へ応用が可能となる。
特に、本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1を、アルミニウムを含まない構成、例えば、有機化合物とブルーサイト(Mg(OH))のハイブリッドとすることにより、アルミ脳症等を引き起こす懸念のないDDS用材料とすることができる。
【0036】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、水酸化鉱物40が、ブルーサイト、ポートランダイト、ギブサイト、ベーマイト、ノルドストランダイト、ドイライト、バイアライト、バーナライト、およびレピドクロサイトからなる群から選択される一つの水酸化鉱物である構成なので、安定な層構造を有し、安定性の高い有機・無機ハイブリッドを製造できる。
【0037】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、無機化合物層11a、11b、11c、11dが電気的に中性で、前記無機化合物層表面に多くの水酸基を持つ構成なので、炭素数4以上40以下の糖アルコールおよび/または糖を包摂させることができる。
【0038】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、無機化合物層11a、11b、11c、11dが、Mg2+、Ca2+、Al3+またはFe3+のいずれか一つの金属イオンにOHイオンまたはO2−イオンが六配位した八面体が稜共有で板状に配列した層である構成なので、安定な無機化合物層とすることができ、有機・無機ハイブリッド1の安定性を高めることができる。
【0039】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、前記炭素数4以上40以下の糖類が、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかである構成なので、有機・無機ハイブリッド1を高柔軟性及び高成形加工性を有する材料とでき、それ自身を難燃剤として利用できる。また、有機化合物との親和性を高くして、プラスチックに容易に微細複合化できる材料にすることができる。これにより、難燃性の高いナノコンポジットへ応用が可能となる。更にまた、無機化合物層11a、11b、11c、11dの層間の糖類13同士の隙間に、糖類13と親和性の高く、薬物として使用可能な有機化合物を保持することができ、かつ、この薬物を一定の時間経過とともに一定量ずつ徐々に放出可能な除放性に優れた材料とすることができる。これにより、DDS用材料へ応用が可能となる。
【0040】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、前記糖アルコールが、エリトリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、イジトール、ガラクチトール、ソルビトール、マンニトール、ボレミトール、ペルセイトール、およびD−エリトロ−D−ガラクト−オクチトールからなる群から選択される一つの糖アルコールである構成なので、難燃性、柔軟性、成形加工性及び有機化合物との親和性が高く、炭素数の大きな有機化合物を包摂可能な有機・無機ハイブリッドとすることができる。
【0041】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1は、前記糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノース、ガラクトース、スタキオース、デンプン、グリコーゲン、セルロース、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、およびアガロースからなる群から選択される一つの糖である構成なので、難燃性、柔軟性、成形加工性及び有機化合物との親和性が高く、炭素数の大きな有機化合物を包摂可能な有機・無機ハイブリッドとすることができる。
【0042】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1の製造方法は、先に記載の有機・無機ハイブリッドの製造方法であって、水酸化鉱物40と炭素数4以上40以下の糖類13とを混合して混合体を生成する工程と、前記混合体を溶融させる工程と、を有する構成なので、水酸化鉱物40の無機化合物層同士を強固に結合している水素結合を切断し、前記層間の間隔を広げて、炭素数4以上40以下の糖類13を包摂させることができ、無機化合物が配列されて、板状とされた無機化合物層と、積層された前記無機化合物層の層間に包摂された有機化合物と、を有する有機・無機ハイブリッドを容易に製造することができる。
【0043】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1の製造方法は、前記混合体を、前記糖類の熱分解温度未満であって、150℃以上の温度範囲で溶融させる構成なので、前記無機化合物層の層間の水素結合を十分に切断し、十分な量の有機化合物を包摂させることができる。また、長時間の溶融混合によっても、糖、糖アルコールの熱劣化を進ませることがなく、均質な有機・無機ハイブリッドを調製することができる。
【0044】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッド1の製造方法は、前記炭素数4以上40以下の糖類が、糖アルコール、糖又はこれらの誘導体のいずれかである構成なので、難燃性、柔軟性、成形加工性及び有機化合物との親和性が高く、炭素数の大きな有機化合物を包摂可能な有機・無機ハイブリッドを容易に製造することができる。
【0045】
本発明の実施形態である有機・無機ハイブリッドは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
水酸化鉱物/糖ハイブリッドの評価には、調製前後の試料をX線回折装置(Cu−Kα線)(ULTIMA−IV、リガク製)により底面反射の変化を調べた。
同時にフーリエ変換赤外吸収測定装置(IRAffinity、島津製作所製)を使用してATR法により水酸化鉱物層間の水素結合のスペクトル変化を調べた。
【0047】
水酸化鉱物としてブルーサイト((株)レアメタリック製)1gと糖としてD−ソルビトール(ナカライテスク(株)製)10gを混合し、温度・撹拌制御が可能な反応容器(Chemist Plaza,柴田科学(株)製)に投入し、溶融混合の条件を180℃、24時間とした。反応後、メタノールで洗浄、ろ過して、乾燥して水酸化鉱物/糖アルコールハイブリッド粉末を調製した。
X線回折測定の結果、ブルーサイトの底面距離(0.48nm)は、D−ソルビトールとの反応後1.2nmに拡大していた(図5)。また、FT−IRスペクトルはD−ソルビトールとの反応後、3690cm−1近傍のOH伸縮振動が消失し、2900cm−1、2840cm−1のCH伸縮振動が現れた。これはブルーサイト層間の水素結合が切れ、D−ソルビトールがインターカレートしたことを示唆している(図6)。
【0048】
(実施例2)
糖をキシリトール(ナカライテスク(株)製)に変えた以外はすべて実施例1と同様に行った。X線回折測定の結果を図7に示す。ブルーサイトの底面距離(0.48nm)は、キシリトールとの反応後0.9nmに拡大していた(図7)。FT−IRスペクトルの結果は、キシリトールとの反応後、3690cm−1近傍のOH伸縮振動が消失し、2900cm−1、2840cm−1のCH伸縮振動が現れ、キシリトールのインターカレーションが確認された(図8
【0049】
(実施例3)
水酸化鉱物を水酸化カルシウムCa(OH)(和光純薬製)(ポートランダイト)に変えた以外はすべて実施例1と同様に行った。X線回折測定の結果を図9に示す。ポートランダイトの0.49nmの底面間隔が1.3nmに拡大していた。FT−IRスペクトルの結果は、D−ソルビトールとの反応後、3640cm−1近傍のOH伸縮振動が消失し、ブロードな2900cm−1、2840cm−1のCH伸縮振動が現れ、D−ソルビトールのインターカレーションが確認された(図10
【0050】
(実施例4)
糖アルコールをエリトリトール(ナカライテスク(株)製)に変えた以外はすべて実施例3と同様に行った。X線回折測定の結果を図11に示す。ポートランダイトの0.49nmの底面間隔が0.9nmに拡大していた。FT−IRスペクトルの結果は、エリトリトールとの反応後、3640cm−1近傍のOH伸縮振動が消失し、2900cm−1、2840cm−1のCH伸縮振動が現れ、エリトリトールのインターカレーションが確認された(図12
【0051】
(実施例5)
溶融混合の条件を150℃、72時間とした以外は、実施例2と同様に行った。ブルーサイトの底面距離(0.48nm)は、キシリトールとの反応後0.9nmに拡大していた(図13)。FT−IRスペクトルの結果は、キシリトールとの反応後、3690cm−1近傍のOH伸縮振動が消失し、2900cm−1、2840cm−1のCH伸縮振動が現れ、キシリトールのインターカレーションが確認された(図14)。このことは、キシリトールがインターカレートできなかったことを示している。
【0052】
(比較例1)
溶融混合の条件を120℃、24時間とした以外は、実施例1と同様に行った。ブルーサイトの底面距離(0.48nm)は、D−ソルビトールとの反応後も変化しなかった(図15)。FT−IRスペクトルの結果は、D−ソルビトールの反応後も3690cm−1近傍のOH伸縮振動が観察された。弱い2900cm−1、2840cm−1のCH伸縮振動が現れた(図16)。このことは、D−ソルビトールがインターカレートできなかったことを示している。
【0053】
(比較例2)
D−ソルビトール(ナカライテスク(株)製)20gを蒸留水20mlに溶かし、ブルーサイト((株)レアメタリック製)0.3gを加えたのち、前記水熱反応容器を用いて180℃、24時間、加熱して試料を調製した。得られた試料を洗浄乾燥後、前記実施例と同様に評価した。その結果、ブルーサイトの底面距離(0.48nm)は、D−ソルビトールとの反応後も変化しなかった(図17)。FT−IRスペクトルの結果は、D−ソルビトールの反応後も3690cm−1近傍のOH伸縮振動が観察され、図16とほぼ同様スペクトルが得られた。このことは、D−ソルビトールがインターカレートできなかったことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の有機・無機ハイブリッドは、難燃性、柔軟性、成形加工性及び有機化合物との親和性の高い有機・無機ハイブリッド及びその製造方法に関するものであり、水や廃油の浄化用吸着剤、石油クラッキングなどの触媒、火力発電所の排ガス中の硫黄酸化物の除去、酸性化した河川や土壌の中和剤、あるいは医薬品原料、プラスチックの難燃剤など様々な用途で用いることができ、特に、難燃剤、DDS用材料として有効であり、有機合成化学産業、医薬品産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0055】
1…有機・無機ハイブリッド、11a、11b、11c、11d…無機化合物層、13…有機化合物(炭素数4以上の糖類)、40…水酸化鉱物、t、t…底面距離、t、t…無機化合物層の隣接面間距離。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
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図15
図16
図17