特許第5700382号(P5700382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 筑波大学の特許一覧

<>
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000002
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000003
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000004
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000005
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000006
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000007
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000008
  • 特許5700382-プルシャンブルー類似体の作成方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700382
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】プルシャンブルー類似体の作成方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/12 20060101AFI20150326BHJP
【FI】
   C25B3/12
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2007-216249(P2007-216249)
(22)【出願日】2007年8月22日
(65)【公開番号】特開2009-46748(P2009-46748A)
(43)【公開日】2009年3月5日
【審査請求日】2010年8月23日
【審判番号】不服2014-1624(P2014-1624/J1)
【審判請求日】2014年1月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度および平成19年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業に関する委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】守友 浩
(72)【発明者】
【氏名】中田 文也
【合議体】
【審判長】 木村 孔一
【審判官】 鈴木 正紀
【審判官】 井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−136101(JP,A)
【文献】 特開昭57−194278(JP,A)
【文献】 特開昭63−293186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08,
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む溶液が収容された電解槽内に、析出用電極を配置し、析出用電極に直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加することで、電気分解により、前記析出用電極に、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)Oで表されるプルシャンブルー類似体であって、所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー類似体を析出させることを特徴とするプルシャンブルー類似体の作成方法。
【請求項2】
対極と、参照極と、前記析出用電極としての作用極と、に接続されたポテンショスタットにより、前記重畳電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のプルシャンブルー類似体の作成方法。
【請求項3】
前記析出用電極に析出したプルシャンブルー類似体に対して、電解質溶液中で電圧を印加することにより前記プルシャンブルー類似体を酸化させることを特徴とする請求項1または2に記載のプルシャンブルー類似体の作成方法。
【請求項4】
前記析出用電極に流す電荷量を制御することにより前記プルシャンブルー類似体の酸化度を制御することを特徴とする請求項3に記載のプルシャンブルー類似体の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気分解により析出させることでプルシャンブルー類似体を作成するプルシャンブルー類似体の作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プルシャンブルー類似体は、電池の電極材料や、電圧を印加すると変色するエレクトロクロミック材料、ガスを検出するガスセンサー材料、水素吸蔵材料として、期待されており、精力的な研究が成されている。この研究の結果、プルシャンブルー類似体の均質な膜が得られている。
このようなプルシャンブルー類似体の均質な膜の作製方法として、非特許文献1には、室温で、0.5mmol/LのKFe(CN)と、0.5mmol/LのCo(NOと、1mol/LのNaNOを含む水溶液の入った電解槽内において、ポテンショスタットを使用して、飽和カロメル電極(参照電極)にとの間で、白金(Pt)電極に−0.4Vを印加することで、Na1.4Co1.3[Fe(CN)]・5HOのプルシャンブルー類似体の薄膜を白金電極に製膜する技術が記載されている。
【0003】
【非特許文献1】佐藤治(O.Sato)、他4名,”シアン化コバルト鉄薄膜における室温でのスピン転移を伴う陽イオン制御による電荷移動(Cation-Driven Electron Transfer Involving a Spin Transition at Room Temperature in a Cobalt Iron Cyanide Thin Film)”,物理化学誌(The Journal of Physical Chemistry、J.Phys.Chem.B),米国,米国化学会(American Chemical Society),1997年3月,101,(20),p3903−p3905
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(従来技術の問題点)
しかしながら、非特許文献1記載のプルシャンブルー類似体の薄膜では、結晶方位が無方向(無配向)であり、結晶方位に強く依存する各種物性や機能性(磁化率やエレクトロクロミック応答性等)がそれほど高くない問題がある。また、無配向の場合、平坦な面が得られにくいという問題もある。
また、前記非特許文献1記載の技術以外に、プルシャンブルー類似体のナノ粒子を、従来公知のスピンコート法(スピンキャスト法、円板の上に支持された基板に材料を載せて高速で回転させることにより均一な膜に形成する製膜法)で膜状に形成する方法でも、結晶方位は無方向となり、同様の問題を有する。
【0005】
前述の事情に鑑み、本発明は、結晶方位の揃ったプルシャンブルー類似体を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明のプルシャンブルー類似体の作成方法は、
アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む溶液が収容された電解槽内に、析出用電極を配置し、析出用電極に直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧を印加することで、電気分解により、前記析出用電極に、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)Oで表されるプルシャンブルー類似体であって、所定の結晶方位に揃ったプルシャンブルー類似体を析出させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプルシャンブルー類似体の作成方法において、
対極と、参照極と、前記析出用電極としての作用極と、に接続されたポテンショスタットにより、前記重畳電圧を印加することを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のプルシャンブルー類似体の作成方法において、
前記析出用電極に析出したプルシャンブルー類似体に対して、電解質溶液中で電圧を印加することにより前記プルシャンブルー類似体を酸化させることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のプルシャンブルー類似体の作成方法において、
前記析出用電極に流す電荷量を制御することにより前記プルシャンブルー類似体の酸化度を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明のプルシャンブルー類似体の作成方法によれば、結晶方位のそろったプルシャンブルー類似体を析出させることができ、結晶方位が無配向の従来技術に比べて、機能性を向上させることができると共に、平坦な表面を得ることができる。
請求項2に記載の発明によれば、ポテンショスタットにより、重畳電圧を印加することができる。
請求項3に記載の発明によれば、プルシャンブルー類似体を酸化させることにより、光誘起磁性や光誘起相転移、過渡的な光スイッチ効果を、プルシャンブルー類似体に発現させることができる。
請求項4に記載の発明によれば、酸化度を制御することで、光誘起磁性や光誘起相転移、過渡的な光スイッチ効果の発現の有無や、応答性の最適化ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1のプルシャンブルー類似体作成装置の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1のプルシャンブルー類似体作成装置1は、電解槽2を有する。前記電解槽2には、アルカリ金属イオンと遷移金属イオンとシアノ錯体イオンとを含む溶液が収容されている。
前記電解槽2には、複数の電極3、4、5が浸漬されている。実施例1では、前記電極3〜5は、電源装置の一例としてのポテンショスタット6に接続されており、それぞれ、作用極(析出用電極)3、参照極4、対極5として作用する。すなわち、前記ポテンショスタット6により、作用極3と参照極4との間の電圧が設定した所定の電圧となるように、作用極3と対極5との間の電流が制御される。実施例1では、前記作用極3に、直流電圧と所定の振幅で周期的に変化する交番電圧とを重畳した重畳電圧が印加されるように、ポテンショスタット6により作用極3と対極5との間に流れる電流が制御される。前記交番電圧は、正弦波状の交流電圧や、矩形波状の交番電圧、ノコギリ波状の交番電圧等、任意の波形の交番電圧とすることが可能である。
【0013】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1のプルシャンブルー類似体作成装置1では、作用極3にマイナスの電圧が印加されると、電気分解により、溶液中のアルカリ金属イオン、遷移金属イオン、シアノ錯体イオンが化合したプルシャンブルー類似体として析出する。
【0014】
(実験例)
次に、実施例1のプルシャンブルー類似体作成装置1で析出したプルシャンブルー類似体の結晶方位を確認する実験を行った。
(実験例1)
実験例1では、電解槽2内に、0.5mmol/LのK[Fe(CN)]と、1.25mmol/LのCoClと、1mol/LのNa(NO)を含む室温の溶液を入れた。すなわち、アルカリ金属イオンとしてのNa、遷移金属イオンとしてのCo2+、シアノ錯体イオンとしての[Fe(CN)3−が溶液中に含まれている。
【0015】
また、作用極3としてITO(Indium Tin Oxide、インジウム錫酸化物)電極、参照極4として銀塩化銀(Ag/AgCl)電極、対極5として白金(Pt)電極を使用した。さらに、前記作用極3には、中心電圧(直流電圧)−0.5V、振幅0.3Vのノコギリ波状の交番電圧を印加し、ノコギリ波状の電圧の周期を変化させた。したがって、一周期でプラスマイナス0.3V変化し、交番電圧のピーク間では0.6V変化するため、周期を制御することで、単位時間当りの電圧の変化である掃引速度を制御できる。この方法で、30分程度で透明緑色の膜が得られた。なお、このとき得られたプルシャンブルー類似体は、作用極3でFe3+が還元されるため、二価となる。得られたプルシャンブルー類似体をICP分析(Inductively Coupled Plasma spectrometry;誘導結合高周波プラズマ分光分析)で分析すると、化学式では、結晶水を含むNa0.8Co[Fe(CN)0.7であった。
【0016】
図2は本発明の実験例1のX線回折パターンのグラフであり、横軸に散乱角をとり、縦軸に強度を取った図である。
図3は本発明の実験例1の参考例としての掃引速度が0mVおよび従来の製法で作成されたバルク試料のX線回折パターンのグラフである。
図2図3において、掃引速度を0mV/sとした場合、すなわち、印加電圧を振動させずに析出させた場合には、図3に示すように、従来の製法で作成されたバルク試料の場合と同様に、結晶方位が無配向の膜であることがわかる。なお、図3では、30°付近のピークは、電極のITOおよびNaNOに対応するピークである。
図2において、掃引速度を0mV/s、5mV/s、0.5V/s、50V/sとした場合に得られたプルシャンブルー類似体の膜では、掃引速度が小さい、すなわち、周期が大きく周波数が小さい場合には、ミラー指数が(200)の結晶面に対応する部分にピーク(18°程度)が検出されているが、掃引速度が大きくなると(200)の結晶面が検出されにくくなり、(111)の結晶面に対応するピーク(15°程度)が強く検出される。すなわち、結晶方位<111>への配向が強くなったことがわかる。なお、このときの格子定数は、10.29Åであった。したがって、図2の実験結果から、掃引速度(周波数)を制御することで、結晶面の配向の程度(どの程度(111)の結晶面の割合を多くするか)を制御することができることもわかる。
【0017】
図4は本発明の実験例1の掃引速度と膜の配向性との相関についてのグラフであり、横軸に掃引速度をとり、縦軸に(200)に対する(111)の相対強度を取ったグラフである。
図4において、図2に示す結晶面(200)のX線回折の強度に対する結晶面(111)のX線回折の強度の相対強度を取ると、掃引速度が大きくなるにつれて、結晶面(111)に揃いやすい傾向があることがわかる。
【0018】
図5は本発明の実験例1で得られた膜を酸化処理した後のX線回折パターンのグラフである。なお、図5には、参考のため、バルク試料のX線回折パターンも記載している。
図6は実験例1においてプルシャンブルー類似体の酸化度を変化させた場合の光の吸収スペクトルに関する実験結果の説明図であり、図6Aは酸化前の光吸収スペクトルのグラフ、図6Bは酸化途中の光吸収スペクトルのグラフ、図6Cは酸化後の光吸収スペクトルのグラフである。
次に、実験例1で作成されたプルシャンブルー類似体の膜が形成された作用極3に対して、+0.5Vの電圧を印加しつつ、1mol/LのNaNO溶液(電解質溶液)中で、60秒間浸漬した。この結果、膜の色が透明緑色から茶色になった。これは、FeまたはCoが酸化されたことに起因している。
図5において、酸化後のプルシャンブルー類似体の薄膜では、酸化前のプルシャンブルー類似体の膜のX線回折パターンと同様のパターンが測定され、酸化の前後で、プルシャンブルー類似体の配向性は損なわれないことが確認された。なお、酸化後の膜の組成は、Na0.1Co[Fe(CN)0.7であった。
図6において、酸化させる前後の状態では、図6A図6Cに示すように、光の吸収スペクトルが変化しており、光応答性も変化するものと考えられる。このとき、浸漬時間が30秒の場合、図6Bに示すように、図6Aに示す酸化前の状態と図6Cに示す酸化後の場合と比較して、吸収スペクトルのピークの高さが中間程度となっており、浸漬時間、すなわち、流れた電荷量の総量に応じて、酸化度を制御できることがわかる。
【0019】
このように、酸化後のプルシャンブルー類似体の膜では、光誘起磁性の発現や光誘起相転移の発現、過渡的な光スイッチ効果の発現が見られた。なお、光誘起磁性に関しては、例えば、「O. Sato, T. Iyoda, A. Fujishima, K. Hashimoto, Science, 1996, 272, 704-705、 “Photoinduced Magnetization of a Cobalt-Iron Cyanide(コバルト鉄シアノ錯体の光誘起磁性)”」に記載されているため、詳細な説明は省略する。また、光誘起相転移に関しては、例えば、「M. Hanawa, Y. Moritomo, A. Kuriki, J. Tateishi, K. Kato, M. Takata and M. Sakata”, Coherent Domain Growth under Photo-Excitation in a Prussian Blue Analogue”, J. Phys. Soc. Jpn., 72, 987 - 990 (2003),“ プルシャンブルー類体の光励起によるコヒーレントな結晶成長”」に記載されているため、詳細な説明は省略する。さらに、過渡的な光スイッチ効果に関しては、例えば、「T. Yamauchi, A. Nakamura, Y. Moritomo, T. Hozumi, K. Hashimoto, S. Ohkoshi, Phys. Rev., B, 2005, 72, 214425 Spectroscopic investigation of the dynamical behavior of the photoinduced phase transition of Na0.6Co1[Fe(CN6)]・4H2O(コバルト鉄シアノ錯体の光誘起相転移の動力学の分光学的研究)」に記載されているため、詳細な説明は省略する。
【0020】
また、前記プルシャンブルー類似体の酸化度は、流れた電荷量、実験例1では電圧を印加した時間により変化し、流れた電荷量が多くなるほど酸化度が上昇した。
すなわち、流す電荷量を制御することにより、プルシャンブルー類似体の酸化度(FeやCoの価数の変化や、膜全体における価数の変化したものと変化していないものの割合)を制御することが可能である。ここで、印加電圧が低すぎると、目的の酸化度に到達する前に電流が流れなくなることがあるため、配向性が損なわれない必要最低限の電圧(実験例1では+0.5V)とする必要がある。前記酸化度の制御により、前記光誘起磁性や光誘起相転移、光スイッチ効果について、発現の有無を制御したり、光誘起磁性の応答性、光誘起相転移の応答性、光スイッチ効果の応答性等の制御、最適化が可能となる。特に、配向性のある膜が得られているため、無配向の場合に比べて、各応答性が向上することが期待される。
【0021】
(実験例2)
図7は実験例2のプルシャンブルー類似体のSEM写真である。
実験例2では、掃引速度を10V/sとした以外は、実験例1と同様にして実験を行った。
得られたプルシャンブルー類似体の膜のSEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)写真を図7に示す。図7において、100nm程度のサイズの揃った粒子が[111]方向を向けて整列していることがわかる。
【0022】
図8は実験例2のプルシャンブルー類似体と、従来の方法で作成されたバルク試料のプルシャンブルー類似体のX線回折パターンのグラフであり、横軸に散乱角を取り、縦軸に強度を取ったグラフである。
また、実験例2のプルシャンブルー類似体のX線回折パターンを測定した。X線パターンを図8に示す。図8において、実験例2の場合では図8の実線で示すように、結晶面(111)と、(111)に平行な(222)に対応するピークが検出された。一方、従来のバルク試料の場合では図8の点線で示すように、結晶面(111)や(222)のピークは非常に小さいだけでなく、(200)やその他の結晶面に対応するピークが検出され、無配向であることが改めて確認された。なお、このときの格子定数は10.27Åであった。
【0023】
したがって、実施例1のプルシャンブルー類似体作成装置1において、電極3に直流電圧に交番電圧を重畳した重畳電圧を印加することで、原理は不明であるが実験結果から、結晶方位が所定の方向に配向した(揃った)プルシャンブルー類似体の薄膜を作製することができる。この結果、結晶方位が揃っているため、無配向の場合に比べて、磁化率やエレクトロクロミックの応答性といった物性について所定の機能を確保しやすくなり、機能性の向上が期待できる。また、結晶方位が揃っているため、粒子サイズが揃いやすく、無配向の場合に比べて、より平坦な表面を得ることができる。
【0024】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H05)を下記に例示する。
(H01)前記実験例において例示した媒質や溶媒については、例示したものに限定されず、電気分解によりプルシャンブルー類似体を析出可能な任意の溶媒、溶質を使用可能である。一例を挙げると、CoClに替えて、Co(NOを使用したり等、適宜変更可能である。
(H02)前記実施例において、ITO電極にプルシャンブルー類似体の膜を製膜する場合について説明したが、これに限定されず、白金、金、アルミニウム等の導電体表面に製膜することが可能である。さらに、ITO電極にパターンニングを行えば、そのパターンどおりの製膜が可能であり、デバイス化にとって有利である。さらに、プルシャンブルー類似体の表面に、さらに別の材料の層を形成することも可能である。また、薄膜状に形成する場合に限定されず、層状、板状のように、ある程度の厚みを有するように形成することも当然可能である。
【0025】
(H03)前記実施例において、プルシャンブルー類似体は、実験例で例示した構成に限定されず、製法や用途等に応じて、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)・nHOで表されるプルシャンブルー類似体を使用可能である。なお、前記Aのアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記Mの遷移金属としては、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、V、Cu、Znが挙げられる。また、Lの遷移金属としては、Fe、Cr、V、Mn、Tiが挙げられる。また、x、y、zは、それぞれ、遷移金属Mの1モルに対するアルカリ金属A、L(CN)、結晶水HOの割合(モル)を示し、プルシャンブルー類似体では、製法や構造により、xが0〜2、yが0〜1、zが0〜14の値を取りうる。
【0026】
(H03)前記実施例において、プルシャンブルー類似体は、実験例で例示した構成に限定されず、製法や用途等に応じて、Aをアルカリ金属の少なくとも一種、Mを遷移金属の少なくとも一種、Lを遷移金属の少なくとも一種、xを0より大きく2以下の数、yを0より大きく1以下の数、zを0より大きく14以下の数とした場合に、化学式AM[L(CN)Oで表されるプルシャンブルー類似体を使用可能である。なお、前記Aのアルカリ金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。また、前記Mの遷移金属としては、Fe、Mn、Ni、Co、Cr、V、Cu、Znが挙げられる。また、Lの遷移金属としては、Fe、Cr、V、Mn、Tiが挙げられる。また、x、y、zは、それぞれ、遷移金属Mの1モルに対するアルカリ金属A、L(CN)、結晶水HOの割合(モル)を示し、プルシャンブルー類似体では、製法や構造により、xが0〜2、yが0〜1、zが0〜14の値を取りうる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
前述の本発明のプルシャンブルー類似体の析出による製膜を行うことにより、例えば、膜状のプルシャンブルー類似体についてエレクトロクロミック応答性を向上させたり、電池の電極材料やガスセンサー、水素吸蔵合金としての性能が向上することが期待される。また、結晶方位が揃った高性能な錯体界面を有するデバイスの作成にも適用することが可能となる。さらに、掃引速度(振動数)の制御により、プルシャンブルー類似体の表面の形態を制御により、機能に応じたプルシャンブルー類似体の膜の作成も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は本発明の実施例1のプルシャンブルー類似体作成装置の全体説明図である。
図2図2は本発明の実験例1のX線回折パターンのグラフであり、横軸に散乱角をとり、縦軸に強度を取った図である。
図3図3は本発明の実験例1の参考例としての掃引速度が0mVおよび従来の製法で作成されたバルク試料のX線回折パターンのグラフである。
図4図4は本発明の実験例1の掃引速度と膜の配向性との相関についてのグラフであり、横軸に掃引速度をとり、縦軸に(200)に対する(111)の相対強度を取ったグラフである。
図5図5は本発明の実験例1で得られた膜を酸化処理した後のX線回折パターンのグラフである。
図6図6は実験例1においてプルシャンブルー類似体の酸化度を変化させた場合の光の吸収スペクトルに関する実験結果の説明図であり、図6Aは酸化前の光吸収スペクトルのグラフ、図6Bは酸化途中の光吸収スペクトルのグラフ、図6Cは酸化後の光吸収スペクトルのグラフである。
図7図7は実験例2のプルシャンブルー類似体のSEM写真である。
図8図8は実験例2のプルシャンブルー類似体と、従来の方法で作成されたバルク試料のプルシャンブルー類似体のX線回折パターンのグラフであり、横軸に散乱角を取り、縦軸に強度を取ったグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1…プルシャンブルー類似体作成装置、
2…電解槽、
3…析出用電極、作用極、
4…参照極、
5…対極、
6…ポテンショスタット、電源装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図8
図7