【実施例】
【0144】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、この実施例等により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。以下に示した実施例において使用した試薬は、特に言及しない限り和光純薬、Sigma−Aldrich等から得ることができる。また、動物実験は、京都大学において規定される基準に基づき動物愛護の精神をもって行った。
【0145】
(実施例1:Hsp90 TRP結合ペプチド−Antpキメラペプチドの生産および生物活性の測定)
本発明のキメラペプチドが、固形がん細胞株において殺細胞効果、抗腫瘍効果を示すかどうかを検討した。
【0146】
(材料および方法)
(細胞株)
ヒト乳がん細胞株(BT−20およびT47D)、肺がん細胞株(H322およびH460)、前立腺がん細胞株(LNCap)、神経膠腫細胞株(U251)、腎臓がん細胞株(Caki−1)および肺線維芽細胞の細胞株(MRC−5)を、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入した。ヒト膵臓がん細胞株(BXPC−3)を、Europiean Collection of Cell Cultures(ECACC;Salisbury,Wiltshire,UK)から購入した。ヒト胚性腎臓細胞株(HEK293)を、RIKEN Cell Bank(つくば市)から購入した。細胞は、10% FBS(BioWest,Miami,FL)、100μg/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシン(ナカライテスク株式会社、京都市)を含有する、RPMI 1640(BT−20、T47D、H322、H460、LNCap、U251およびBXPC−3)、MEM(MARC−5)またはD−MEM(HEK293、Caki−1)中で培養した。
【0147】
(ペプチド)
以下のペプチドをInvitrogen,Carlsbad,CAから購入したか、あるいは、ペプチド合成機(たとえば、Applied Biosystems:Model 433A ペプチドシンセサイザ)で合成した。
1.キメラペプチド:RQIKIWFQNRRMKWKK−KAYARIGNSYFK(Antp−TPR wild;配列番号9)
ここで、RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号5)は、本明細書においてAntennapedia homeodomain sequence(Antp)と称することがある。
【0148】
上記したキメラペプチドに加え、種々の改変ペプチドを作成した。
【0149】
合成したペプチドは以下のとおりである。
2.キメラペプチド:RQIKIWFQNRRMKWKK−KAYAR(配列番号42)
3.ペプチド:KAYARIGNSYFK(TPRペプチド;配列番号4)
4.キメラペプチド:RQIKIWFQNRRMKWKK−KAYAAAGNSYTFK(Mutant 1;配列番号44)
5.キメラペプチド:RQIKIWFQNRRMKWKK−KAYARIGNSGGG(Mutant 2;配列番号45)
また、以下も合成した。
RQIKIWFQNRRMKWKKRAYARIGNSYFK(Antp−TPR K1R;配列番号10)、
RQIKIWFQNRRMKWKKAAYARIGNSYFK(Antp−TPR K1A;配列番号11)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKGYARIGNSYFK(Antp−TPR A2G;配列番号12)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKALARIGNSYFK(Antp−TPR Y3L;配列番号13)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYGRIGNSYFK(Antp−TPR A4G;配列番号14)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYAKIGNSYFK(Antp−TPR R5K;配列番号15)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARRGNSYFK(Antp−TPR I6R;配列番号16)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIANSYFK(Antp−TPR G7A;配列番号17)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGQSYFK(Antp−TPR N8Q;配列番号18)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNYYFK(Antp−TPR S9Y;配列番号19)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSSFK(Antp−TPR Y10S;配列番号20)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYYK(Antp−TPR F11Y;配列番号21)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFR(Antp−TPR K12R;配列番号22)。
また、細胞溶解性に関する変異のものも合成した。
KQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnR1K−TPR;配列番号23)、
RNIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnQ2N−TPR;配列番号24)、
RQLKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnI3L−TPR;配列番号25)、
RQIRIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnK4R−TPR;配列番号26)、
RQIKLWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnI5L−TPR;配列番号27)、
RQIKIYFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnW6Y−TPR;配列番号28)、
RQIKIWYQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnF7Y−TPR;配列番号29)、
RQIKIWFNNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnQ8N−TPR;配列番号30)、
RQIKIWFQQRRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnN9Q−TPR;配列番号31)、
RQIKIWFQNKRMKWKKKAYARIGNSYFK(AnR10K−TPR;配列番号32)、
RQIKIWFQNRKMKWKKKAYARIGNSYFK(AnR11K−TPR;配列番号33)、
RQIKIWFQNRRCKWKKKAYARIGNSYFK(AnM12C−TPR;配列番号34)、
RQIKIWFQNRRMRWKKKAYARIGNSYFK(AnK13R−TPR;配列番号35)、
RQIKIWFQNRRMKYKKKAYARIGNSYFK(AnW14Y−TPR;配列番号36)、
RQIKIWFQNRRMKWRKKAYARIGNSYFK(AnK15R−TPR;配列番号37)、
RQIKIWFQNRRMKWKRKAYARIGNSYFK(AnK16R−TPR;配列番号38)、
RQIKIWFQNRRMKWKKRQIAKAYARIGNSYFK(Antp−TPR slong;配列番号39)、
RRRRRRRRRRRKAYARIGNSYFK(R11−TPR;配列番号40)
これらのペプチドを、化学的に合成し、そして、高速液体クロマトグラフィーにより精製して、その後、水に溶解した。
【0150】
(細胞生存性アッセイ)
1ウェルあたり合計3×10
3細胞を、96ウェルプレートに播種し、10% FBSを含有する培地中で24時間培養し、100μlにおいて漸増濃度のペプチドと共に、37℃にて48〜72時間インキュベートした。細胞の生存率を、WST−8溶液(Cell Count Reagent SF;ナカライテスク株式会社)を用いて測定した。
【0151】
(フローサイトメトリーアッセイ)
Antp−TPRペプチドががん細胞においてアポトーシスを誘導するかどうかを検討するために、アネキシンVまたはカスパーゼ3,7およびヨウ化プロピジウム(PI)の二重染色を用いて、フローサイトメトリーアッセイを行った。
【0152】
(プロトコール)
がん細胞T47Dおよび正常細胞のHEK293Tをそれぞれの培地で6−wellディッシュ(Nunc
TM)で24時間培養した後、68μMのAntp−TPRキメラペプチドを添加してさらに24時間培養した。培養後、それぞれの細胞懸濁液に対して、ヨウ化プロピジウム(PI)染色、アネキシンV標識(いずれもWako)、あるいは、カスパーゼ3,7標識を行いマルチパラメトリックフローサイトメトリーによって、アネキシンV標識またはカスパーゼ3,7標識およびPI染色について、同時に解析した。
【0153】
(結果)
結果を
図9に示す。正常細胞HEK293TにAntp−TPRペプチドを加えても影響を与えないが、がん細胞T47Dにペプチドを加えた場合、アネキシンV陽性またはカスパーゼ3,7陽性の細胞集団の増加が観察された。
【0154】
このことから、加えられたペプチドがアポトーシス性の機構によりがん細胞の死を特異的に誘導していることが示唆された。
【0155】
すなわち、正常細胞HEK293TにAntp−TPRペプチドを加えても影響を与えないが、がん細胞T47Dにペプチドを加えた場合アネキシンV陽性またはカスパーゼ3,7陽性の細胞数の増加が見受けられる。このことから、がん細胞T47Dにおいてこのペプチドの添加により細胞が死滅するか、あるいは、死滅した細胞が、アポトーシスを起こしていることがわかる。いずれにしても、本発明のペプチドにより細胞死の増加が見られ、おそらくは、その細胞死はアポトーシスを介した機構であることが示唆され、本発明は、従来の手法より好ましい治療方法でありうることが示される。
【0156】
(生体分子の相互作用)
BIACOREバイオセンサーシステム3000(BIACORE Inc,Uppsala,Sweden)を用いて、表面プラズモン共鳴(SPR)実験を行った。製造業者の説明書にしたがって、N−ヒドロキシスクシンイミドおよびN−エチル−N’−(ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド活性化化学により約5000RUのHsp90をCM5センサーチップの表面に固定した。非特異的な結合のコントロールとしてなにも固定していないセンサーチップの反応していないカルボキシメチル基を、エタノールアミンでブロックした。アッセイの間に非特異的な結合を防ぐために、HBS緩衝液(0.01M HEPES、0.15M NaCl、0.005% Tween 20、3mM EDTA[pH7.4])を泳動緩衝液として用いた。組換えヒトHsp90のTPR結合ドメイン−細胞溶解性ペプチドキメラペプチドとの相互作用解析を、以下のように行った:上述のように、約5000RUのHsp90をCM5のセンサーチップ上に固定し、次いで、いくつかの濃度のペプチドをこのセンサーチップの上に注入した。これらの実験において用いた全てのタンパク質濃度は、Bradford法(Bradford MM.A rapid and sensitive method for the quantitation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein−dye binding.Anal Biochem 1976;72:248−54)により決定した。データの解析は、BIA evaluation ver.3.2ソフトウェア(BIACORE)を用いて行った。
【0157】
(殺傷効果が高かった細胞に関するウェスタンブロッティング)
細胞殺傷効果の見受けられたがん細胞と正常細胞をそれぞれの培地で6−well(Nunc
TM)で24時間培養した後、上清をリン酸緩衝化緩衝液(PBS)で最低二回洗浄後、Cell lysis buffer(Promega)をそれぞれのウェルに300ulずつ添加し、細胞を溶解、これを細胞抽出総タンパク質(total protein)とした。この抽出液をSDS−PAGEで分離した後、セミドライ法でメンブレンに転写した。10%スキムミルク溶液をリン酸緩衝化緩衝液(PBS)で調製し、1時間30分ブロッキングした後、Hsp90、Hsp70、サービビン(survivin)、アクチン(actin)に対する抗体液(Stressgen Bioreagents,SIGMA)中で一晩反応させ、その後、二次抗体(GE Healthcare)と反応させたのち、ECLキット(GE Health science)で化学発色させ、Las3000 systemでバンドを検出した。
【0158】
(Hsp90への結合に関する実験結果)
新規に設計されたペプチド配列の野生型は、RQIKIWFQNRRMKWKK−KAYARIGNSYFK(配列番号9)である。ここで、N末端側のペプチドは、細胞透過性ペプチドAntpであり、C末端側のペプチドは、
図1(A)に示されるように、TPRペプチド(HopのTPR2Aドメイン内にあるHsp90のC末端側に結合するのに重要なへリックスの一部分の配列。)に結合する、Hsp90 TRP結合ペプチドである。
【0159】
Hsp90との結合に必要不可欠な領域に関して、立体構造表示ソフトウェア(Ras Mol ver 2.7 for Machintosh(フリーソフト、http://www.openrasmol.org/)を用いて解析した。
図1(B)は、報告されているHopのTPRドメインとHsp90のC末端配列MEEVD(配列番号64)(中央白色)との複合体の立体構造図である。この立体構造図(B)において、Hsp90との結合に重要なヘリックスの一つ(矢印)が今回設計に用いた領域であり、
図1(C)が予測されるペプチドとHsp90のC末端配列MEEVD(配列番号64)(右)との複合体の立体構造図である。ソフトウェアで表示される図上、この領域のへリックスのみで十分にHsp90に結合できることが予測された。
【0160】
図2には、BIACORE(生体分子間相互作用解析装置)を用いて、センサーチップに固定化されたHsp90と新規に設計されたAntp−TPRペプチドとの相互作用解析を行った結果、ペプチドの濃度依存的に結合することが判明したことを示す。また、親和定数(Kd)が2.09x10
−6であることも判明した。
【0161】
(細胞生存性アッセイの結果)
図3および以下の表に、その結果としてAntp−TPRならびに、Antp−TPR変異体ペプチドによる細胞障害活性を示す。
【0162】
【表1】
【0163】
新規に設計したペプチドの細胞障害活性を調べた結果(A)、(B)のように細胞透過性ペプチドAntpとのキメラペプチドでは、正常細胞である、HEK、MRC5には影響を及ぼさなかったが、がん細胞であるCaki−1、(腎がん)、Bxpc3(すい臓がん)、T47D(乳がん)、A549(肺がん)には影響を与えること、KAYAR(配列番号3)の5アミノ酸より伸長させたKAYARIGNSYFK(配列番号4)の方が効果が高いこと、またTPRペプチドのみ(C)では、いずれの細胞にも障害活性は、見受けられなかった。さらに、細胞障害活性のデータから、IC
50値を算出した結果、細胞透過性ペプチドAntpと組み合わせた結果、正常細胞には、影響せずがん細胞にのみ殺傷能力を示し、IC
50値20μM〜60μMの範囲でがん細胞に影響を与えることが判明した(表1A:Antp−TPRペプチドの阻害濃度(IC
50))。
【0164】
【表1A】
【0165】
(変異体での試験)
設計したTPRペプチドが、サービビンを含むいくつかのがん原性タンパク質のがん細胞における正確なフォールディングに必須なHsp90とHopのTPR2Aドメインとの相互作用と特異的に競合できるかどうかを検討した。
図7および以下の表は、センサーチップ上に固定化されたヒトHopのTPR2Aドメインタンパク質に対して、前もってHsp90とTPRペプチド、TPR scramble、TPR mutant 1、あるいはTPR mutant 2ペプチドをそれぞれ混合させておき、Hsp90に十分に結合させておいてからTPR2Aとの相互作用を確認することで、阻害効果を確認した実験である。センサーグラムとグラフで示されるように、TPRペプチドではその濃度増加によりHsp90とTPR2Aとの相互作用に影響を与える(
図7AおよびC)が、TPR scramble、TPR mutant 1、あるいはTPR mutant 2ペプチドでは高濃度を前もって添加しておいてもその完全阻害は見受けられない(
図7BおよびC)。
【0166】
さらに、TPRペプチドの特異性を調べるために、重要と予測されるアミノ酸に変異を加えたmutant 1、mutant 2はいずれも障害活性を保持していたが、その障害活性が低下した(
図7AおよびC)。
【0167】
これらの結果から、設計したTPRペプチドは、Hsp90とHopのTPR2Aドメインとの相互作用を阻害し得る特異的な競合因子であり、変異体による実験において標的としたアミノ酸が、このタンパク質相互作用が生じるために重要であることが示された。
【0168】
【表2】
【0169】
(Antp−TPRペプチドによるHsp90クライアントタンパク質の消失)
Antp−TPRペプチドを細胞に添加した後のHsp90クライアントタンパク質のレベルを検討したところ、Antp−TPRで処理したT47D細胞は、サービビン、CDK4およびAktを含む複数のHspクライアントペプチドの消失を示した。対照的に、Antp−TPRペプチドは、Hsp90自体のレベルには影響しなかった(
図4(A))。これらの結果は、今回設計したAntp−TPRペプチドが、Hsp90クライアントタンパク質の正確なフォールディングに必須のコシャペロン補充と競合することによってがん細胞における細胞生存経路に影響を及ぼすようである。
【0170】
(各タンパク質の発現量)
特に殺傷効果が高かった細胞に関して、ウェスタンブロッティングにより各Hsp90クライアントタンパク質の発現量を調べたところ、
図4(B)に示すようにサービビンの発現量が特に多いことが判明した。このことから、今回新規に設計したペプチドががん細胞の中でも特にサービビンの発現量が多いものに効果的であることが判明した。
【0171】
また、
図9に示されるフローサイトメトリーの結果からAntp−TPRペプチドで処理したがん細胞はアネキシンV陽性かつカスパーゼ3,7陽性であり、さらに、
図4(A)に示されるようにAntp−TPRペプチドはまたサービビンの消失を引き起こしたことから、Antp−TPRペプチドは、アポトーシス性の機構によって、サービビンの発現に依存性のがん細胞の大幅な殺傷を引き起こすようである。
【0172】
(考察)
以上のように、今回新規に設計したペプチドは、Hsp90に特異的に結合すること、単独では機能せず、細胞透過性ペプチドとキメラ化することで、細胞内に取り込まれたときに、がん細胞特異的に殺傷効果を示すこと、特にサービビンが高発現しているがん細胞に効果的であることから、実際に治療が困難ながんの新規治療薬への応用が大いに期待できる。従来の化合物を用いてHsp90を標的とした手法と大きく異なりペプチドを用いていることと、正常細胞に実際に影響を示さなかったことから、がんの治療で問題となる副作用もクリアできることが考えられる。今後は、上記配列のアミノ酸を一つずつ置換すること、あるいは他の細胞透過性ペプチドとの組み合わせを試みることにより、今回設計された配列よりもさらにがん細胞特異的であり、殺傷能力の強い配列を設計できることが大いに期待できる。さらに、このようなペプチドを組み合わせた新規治療薬は、がんだけでなく、ペプチドを用いて炎症性サイトカイン等を抑制することにより、炎症性疾患、間質性肺炎などの難治性疾患にも大いに応用できることが期待される。
【0173】
(実施例2:TRPドメイン結合ペプチドの網羅的解析)
本実施例では、Hsp90 TPRドメイン結合ペプチドのアナログ(アミノ酸配列X
1X
2X
3X
4X
5X
6X
7X
8X
9X
10X
11X
12(配列番号1);式中
X
1は、K、RまたはAであり;
X
2は、AまたはGであり;
X
3は、YまたはLであり;
X
4は、AまたはGであり;
X
5は、R、AまたはKであり;
X
6は、IまたはRであり;
X
7は、GまたはAであり;
X
8は、NまたはQであり;
X
9は、SまたはYであり;
X
10は、YまたはSであり;
X
11は、FまたはYであり;
X
12は、KまたはRであるか、あるいは
TPRペプチドを延長させたAntp−TPR slong(Antp−RQIAKAYARIGNSYFKEEKYK;配列番号39)ものが使用可能であるかどうかを決定するための実験を行った。また、TPRに代えてR11を使用したものを用いた実験も行った。
【0174】
ペプチド配列が異なること以外は、すべてのプロトコールは実施例1に準じた。使用したペプチドは以下のとおりである。
配列番号9:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFK(Antp−wild)
配列番号10:RQIKIWFQNRRMKWKKRAYARIGNSYFK(Antp−K1R)
配列番号11:RQIKIWFQNRRMKWKKAAYARIGNSYFK(Antp−K1A)
配列番号12:RQIKIWFQNRRMKWKKKGYARIGNSYFK(Antp−A2G)
配列番号13:RQIKIWFQNRRMKWKKKALARIGNSYFK(Antp−Y3L)
配列番号14:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYGRIGNSYFK(Antp−A4G)
配列番号15:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYAKIGNSYFK(Antp−R5K)
配列番号16:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARRGNSYFK(Antp−I6R)
配列番号17:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIANSYFK(Antp−G7A)
配列番号18:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGQSYFK(Antp−N8Q)
配列番号19:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNYYFK(Antp−S9Y)
配列番号20:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSSFK(Antp−Y10S)
配列番号21:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYYK(Antp−F11Y)
配列番号22:RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFR(Antp−K12R)
(プロトコール)
それぞれの変異体ペプチドに関して、細胞生存性アッセイを行った。具体的には1ウェルあたり合計Caki−1(American Type Culture Collection(Manassas,VA)を3×10
3細胞、96ウェルプレート(Nunc
TM)に播種し、10% FBS(ウシ胎仔血清;Biowest)を含有する培地(DMEM(ナカライテスク株式会社))中で24時間培養し、100μlにおいて漸増濃度のペプチドと共に、37℃にて48〜72時間インキュベートした。細胞の生存率を、WST−8溶液(Cell Count Reagent SF;ナカライテスク株式会社)を用いて測定するこの時に、野生型のAntp−TPRペプチドと比較した。
【0175】
(結果)
結果を
図5および以下の表に示す。表中の数値野生型を100%としたときの相対値を示す。
【0176】
【表3】
【0177】
以上のすべての数値は、ポジティブと判断できる。なぜなら、非常に活性が高い野生型の1(%)程度が残存すれば、「抗がん活性」はあると判断可能であるからである。
【0178】
以上から、A4G(配列番号14),S9Y(配列番号19),F11Y(配列番号21)について、野生型より効果の増加が観察され、A2G(配列番号12),G7A(配列番号17),N8Q(配列番号18),Y10S(配列番号20),K12R(配列番号22)について、野生型に比べてほぼ同程度の効果が観察された。これら以外についても、少ないが殺傷効果が維持されたことが見出された殺傷ペプチドとしての効果を発揮することができることが見出された。
【0179】
以上の結果、以下のような改変が許容されるようであることがわかる。
アミノ酸配列X
1X
2X
3X
4X
5X
6X
7X
8X
9X
10X
11X
12(配列番号1);
X
1は、Kまたはそれに類似する同じ親水性アミノ酸のR、Aなどのアミノ酸であり、好ましくは、Kであり、;
X
2は、Aまたはそれに類似する脂肪族系側鎖のG、V、L、Iなどのアミノ酸であり;
X
3は、Yまたはそれに類似する疎水性アミノ酸Lなどのアミノ酸であり、好ましくは、Yであり、;
X
4は、Aまたはそれに類似する脂肪族系側鎖のG、V、L、Iなどのアミノ酸であり;
X
5は、Rまたはそれに類似するK、Aなどのアミノ酸であり、好ましくはRであり;
X
6は、Iまたはそれに類似するRなどのアミノ酸であり、好ましくはI(または別途実施例からIもしくはAであり);
X
7は、Gまたはそれに類似する他のTPRドメインで見受けられるAなどのアミノ酸であり;
X
8は、Nまたはそれに類似する他のTPRドメインで見受けられるQなどのアミノ酸であり;
X
9は、Sまたはそれに類似するOH基を有するT、Yなどのアミノ酸であり;
X
10は、Yまたはそれに類似するOH基を有するS、Tなどのアミノ酸であり;
X
11は、Fまたはそれに類似する芳香族を有するYなどのアミノ酸であり;
X
12は、Kまたはそれに類似する塩基性のRなどのアミノ酸である。
【0180】
全般的に保存的置換が許容されることが明らかになったが、
図1に示すような三次元モデルからは、X
1、X
5では、厳密に側鎖の構造が抗がん活性に影響するようであることがわかった。したがって、保存的置換を行う場合は、これら以外のアミノ酸位に導入されるべきことがわかる。なお、X
6においてRへの置換は保存的置換ではなく、実施例8、表9における結果からも明らかなように保存的置換であるAへの置換では活性が保持されていることから、側鎖の構造は抗がん活性にそれほど厳密に影響を与えるものではないものと考えられる。本発明のペプチドは、活性を野生型以上にしようとする場合、好ましくは、X
1およびX
5以外の残基を変異させることが有利であるがこれに限定されない。
【0181】
また、好ましいパターンとしては、以下を認めることができる。
【0182】
すなわち、上記アミノ酸配列において、X
2は、Gであり;X
4は、Gであり;X
7は、Aであり;X
4は、Qであり;X
9は、Yであり;X
10は、Sであり;X
11は、Yであり;および/またはX
12は、Rである、もの、これらの好ましい置換は任意の組み合わせが有効でありうる。
【0183】
より好ましくは、上記アミノ酸配列において、X
4は、Gであり;X
9は、Yであり;X
11は、Yであるもの、これらの好ましい置換は任意の組み合わせがさらに有効でありうる。
【0184】
これらの結果から、殺傷効果が維持された変異を複数組み合わせても殺傷効果が維持されることが期待されることが理解される。
【0185】
また、以下のような付加・挿入配列あるいは欠失も許容されることがわかる。すなわち、Antp−RAYAR(配列番号65)、Antp−AAYAR(配列番号66)、Antp−KGYAR(配列番号67)、Antp−KALAR(配列番号68)、Antp−KAYGR(配列番号69)なども効果があるものと理解することができる。つまり、Antp−KAYAR(配列番号42)でも殺傷効果が出ていることから、同じような置換もまた、同様に効果のあるものとして使用されうることが理解される。
【0186】
(実施例3:他の細胞透過性ペプチドの試験)
本実施例では、Antpペプチド以外の細胞透過性ペプチドが使用可能か調べた。
【0187】
使用するペプチドは以下のとおりである。細胞透過性ペプチドのペプチド配列が異なること以外は、すべてのプロトコールは実施例1に準じた。
【0188】
具体的には、TPRペプチドを延長させたAntp−TPR slong(Antp−RQIAKAYARIGNSYFKEEKYK;配列番号39)、TPRに代えてR11(RRRRRRRRRRR;配列番号7)を使用したものを用いた実験を行った。
【0189】
細胞透過性ペプチドのペプチド配列が異なること以外は、すべてのプロトコールは実施例1に準じた。
YGRKKRRQRRR(TAT 配列番号6)
RRRRRRRRRRR(R11 配列番号7)
製造した配列は、以下のとおりである。
【0190】
R11−TPR(RRRRRRRRRRRKAYARIGNSYFK;配列番号40)
TAT−TPR(YGRKKRRQRRRKAYARIGNSYFK;配列番号50)
(結果)
TATについては、
図3Dに、R11については、
図6および以下の表にその結果を示す。R11−TPRについてもAntp−TPRの野生型と同等の効果を示したことから、R11でも効果の多少の違いはあれ、細胞殺傷効果があるといえる。Antp−TPR slongは、野生型の効果を保持した。したがって、長さを変動させても、抗がん活性は消失しないことが実証された。また、TATでも同様の効果が示された(
図3D)ことから、TPRの前に、細胞透過性ペプチドを組み合わせることで、効果を発揮できるペプチドであることを証明できたといえ、本発明の汎用性が立証された。
【0191】
【表4】
【0192】
(実施例4:細胞透過性ペプチドの改変)
本実施例では、細胞透過性ペプチド(RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号5))のアナログ(アミノ酸配列Y
1Y
2Y
3Y
4Y
5Y
6Y
7Y
8Y
9Y
10Y
11Y
12Y
13Y
14Y
15Y
16(配列番号8)を有するものであって、ここで
Y
1は、Rまたはそれに類似する親水性アミノ酸Kなどのアミノ酸であり;
Y
2は、Qまたはそれに類似するアミド系のN、GlxとしてEなどのアミノ酸であり;
Y
3は、Iまたはそれに類似する脂肪族系のLなどのアミノ酸であり;
Y
4は、Kまたはそれに類似する親水性アミノ酸Rなどのアミノ酸であり;
Y
5は、Iまたはそれに類似する脂肪族系のLなどのアミノ酸であり;
Y
6は、Wまたはそれに類似する芳香族を有するYなどのアミノ酸であり;
Y
7は、Fまたはそれに類似する芳香族を有するYなどのアミノ酸であり;
Y
8は、Qまたはそれに類似するアミド系のN、GlxとしてEなどのアミノ酸であり;
Y
9は、Nまたはそれに類似するアミド系のQなどのアミノ酸であり;
Y
10は、Rまたはそれに類似する親水性アミノ酸Kなどのアミノ酸であり;
Y
11は、Rまたはそれに類似する親水性アミノ酸Kなどのアミノ酸であり;
Y
12は、Mまたはそれに類似するS含有アミノ酸のCなどのアミノ酸である、
Y
13は、Kまたはそれに類似する親水性アミノ酸Rなどのアミノ酸である、
Y
14は、Wまたはそれに類似する芳香族を有するYなどのアミノ酸である、
Y
15は、Kまたはそれに類似する親水性アミノ酸Rなどのアミノ酸である、
Y
16は、Kまたはそれに類似する親水性アミノ酸Rなどのアミノ酸であるものである)を使用することができるかどうかを調べた。ペプチド配列が異なること以外は、すべてのプロトコールは実施例1に準じた。
【0193】
(プロトコール)
それぞれの変異体ペプチドに関して、細胞生存性アッセイを行う、具体的には1ウェルあたり合計Caki−1(American Type Culture Collection(Manassas,VA))を3×10
3細胞、96ウェルプレート(Nunc
TM)に播種し、10% FBSを含有する培地中で24時間培養し、100μlにおいて漸増濃度のペプチドと共に、37℃にて48〜72時間インキュベートした。細胞の生存率を、WST−8溶液(Cell Count Reagent SF;ナカライテスク株式会社)を用いて測定するこの時に、野生型のAntp−TPRペプチドと比較する。
【0194】
(結果)
結果を
図8Aおよび以下の表に示す。表中の数値は、野生型を100%としたときの相対値を示す。
【0195】
【表5】
【0196】
以上のすべての数値は、ポジティブと判断できる。なぜなら、非常に活性が高い野生型の1(%)程度が残存すれば、「抗がん活性」はあると判断可能であるからであり、上記では、すべて約30%以上の活性が残存していたからである。
【0197】
以上から、K4R(配列番号26),Q8N(配列番号30),N9Q(配列番号31),R10K(配列番号32),R11K(配列番号33),M12C(配列番号34),K13R(配列番号35),K15R(配列番号37)およびK16R(配列番号38)については野生型より効果の増加が観察された。また、Q2N(配列番号24),W14Y(配列番号36),についても、野生型に比べてほぼ同程度の効果が見出された。これら以外の変異でも、少ないながらも殺傷効果が維持されていることが示された。したがって、細胞透過性ペプチドに関して細胞透過性さえ維持されれば、本発明のがん細胞殺傷効果が保持されることが実証された。
【0198】
以上のように、細胞透過性ペプチドへの変異についても、細胞透過性の効果が維持されていることが理解される。
【0199】
(実施例5:治療法)
本実施例では、実際の治療への応用を確認した。
【0200】
ここでは、薬物送達システム(=Drug Delivery system、DDS)を用いた体内動態安定化及び徐放化等の検討とともに担がん動物モデルでの抗腫瘍効果を研究する。
【0201】
(DDS)
アテロコラーゲン(atelocollagen;高研)とAntp−TPRペプチドを混合して(Antp−TPRペプチド(配列番号9)400μg/ml濃度中にアテロコラーゲンが0.3%になるように混合)、その安定化をHPLCで測定する、具体的には、ペプチドのみの波形を測定し、アテロコラーゲンとペプチドの混合物を測定したときに、ペプチドの位置の波形が時間ごとにどの程度検出されるかで、アテロコラーゲンからの放出の度合いを知ることができると同時に、ペプチドの安定性を確認することができる。また混合物を下記のように作成した固形がんを移植した動物に投与することで、その治療効果を検討した。
【0202】
(担がん動物モデルでの局所投与による抗腫瘍効果)
ヒトすい臓がん細胞(Bxpc3)、5.0×10
6個の細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)150μlに懸濁し、ヌードマウス(BALB/c Slc−nu/nu)に皮下移植した。5日後、固形がんに対してAntp−TPRペプチドを1mg/kg−5mg/kgの濃度で150μlずつPBSに懸濁し固形がんに一日おきに計9回局所投与してその縮小効果を検討した。腫瘍径は、カリパスを用いて測定し、そして、腫瘍容積(mm
3)は、式:長径(mm)×短径(mm)
2×0.5を用いて計算した。
【0203】
(担がん動物モデルでの静脈内投与による抗腫瘍効果)
ヒトすい臓がん細胞(Bxpc3)、5.0×10
6個の細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)150μlに懸濁し、7〜9週齢のヌードマウス(Balb/c Slc−nu/nu)(体重17〜21g)の側腹部領域に皮下移植した。腫瘍容積が20〜50mm
3に到達した時点でマウスを無作為に3群(n=6/群)に分け、そして、PBS(コントロール)またはAntp−TPR(1または5mg/kg)を、週に3回、計9回静脈内注射(50μl/注射)して、腫瘍の縮小効果を検討した。腫瘍径の測定および腫瘍容積の計算は、局所投与の場合と同様にして行った。
【0204】
(結果)
結果を
図8B(局所投与による抗腫瘍効果)および
図8C(静脈内投与による抗腫瘍効果)に示す。
【0205】
図8Bから明らかなように、局所投与による実験において、PBS投与群に対して、Antp−TPRペプチドを投与したマウスのがんの縮小効果が見受けられた。また、このときの投与痕やその後の行動を見る限り(通常の行動をしており、食欲減退など見受けられない)、マウスに対する毒性はほとんど見受けられなかった。
【0206】
また、
図8Cから明らかなように、静脈内投与による実験でも、PBSを投与したコントロール群に対して、Antp−TPRペプチドを投与したマウスのがんの縮小効果が見受けられた。具体的には、コントロール群が漸進的な腫瘍の増殖を示し、58日目には腫瘍容積が749mm
3に達したのに対し、Antp−TPRペプチド(1または5mg/kg)を静脈内投与したマウスは、腫瘍の増殖が顕著に抑制された。平均腫瘍容積は、58日目には、1mg/kg投与群では371mm
3、そして、5mg/kg投与群では204mm
3(コントロール群のマウスに対してP<0.05)であった。
【0207】
これらの結果は、本願発明のAntp−TPRペプチドがインビボでがん細胞の死を効果的に誘導することを示唆するものである。
【0208】
そして、これらの結果およびインビトロでの結果から、インビトロでAntp−TPRペプチドと同様の効果を示した変異体は、インビボでも同様の結果を示すことが期待され、同様に半分程度のものであれば、半分程度と期待されるところ、インビトロで半分程度の効果があったものでもインビボで従来のシェファーディンの5倍以上の活性を見積もられることから、本発明は、全体にわたり従来の抗がん剤、ペプチド抗がん剤よりも優れた活性を有するものと期待される。
【0209】
(実施例6:FACSによるがん細胞殺傷効果の検討)
本実施例では、本発明のDDSとしてのがん細胞に対する特異性を確認する目的で、がん細胞殺傷効果を検討した。
【0210】
(プロトコール)
がん細胞T47Dおよび正常細胞のHEK293Tをそれぞれの培地で6−wellディッシュ(Nunc
TM)で24時間培養した後、68μMのAntp−TPRキメラペプチドを添加してさらに48時間培養した。培養後、それぞれの細胞懸濁液に対して、ヨウ化プロピジウム(PI)染色、あるいは、アネキシンV標識(いずれもWako)を行いマルチパラメトリックフローサイトメトリーによって、アネキシンV標識およびPI染色について、同時に解析した。
【0211】
(結果)
結果を
図9に示す。正常細胞HEK293TにAntp−TPRペプチドを加えても影響を与えないが、がん細胞T47Dにペプチドを加えた場合、アネキシンV陽性またはカスパーゼ3,7陽性の細胞集団の増加が観察された。
【0212】
このことから、加えられたペプチドがアポトーシス性の機構によりがん細胞の死を特異的に誘導していることが示唆された。
【0213】
すなわち、正常細胞HEK293TにAntp−TPRペプチドを加えても影響を与えないが、がん細胞T47Dにペプチドを加えた場合PIとアネキシンV陽性またはカスパーゼ3,7陽性の細胞数の増加が見受けられる。このことから、がん細胞T47Dにおいてこのペプチドの添加により細胞が死滅するか、あるいは、死滅した細胞が、アポトーシスを起こしているようであることがわかる。
【0214】
(実施例7:トランスフェクション試薬としての利用)
TPRペプチドあるいは、TPR scrambleペプチドを市販のtransfection試薬(Profect−P2あるいは、Lipofectamine LTX)などと混合して、20分常温で静置して、リポソームを形成し、その後この複合体をがん細胞(Caki−1(腎臓がん細胞))に添加、その後、細胞の生存率をWST−8溶液(Cell Count Reagent SF;ナカライテスク株式会社)を用いて測定しTPR scrambleペプチドおよびリポソームのみ添加の場合と比較した。
【0215】
(結果)
結果を
図10および以下の表に示す。
図10からも明らかなように、リポソーム単独およびTPR scrambleでは効果がなく、TPRペプチドを導入した場合のみ、殺傷効果が見受けられた。
【0216】
トランスフェクション試薬でTPRペプチドのみをがん細胞Caki−1に導入した場合、TPRペプチドのみ殺傷効果が観察された。
【0217】
【表6】
【0218】
したがって、TPRペプチドは、特異的送達(DDS)の因子として使用することができることが理解できる。
【0219】
(実施例8:Hsp90 TRP結合ペプチド−Antpキメラペプチドの生産および生物活性の測定)
本発明のキメラペプチドが、血液がん細胞、特に、白血病由来細胞株においても同様に殺細胞効果、抗腫瘍効果を示すかどうかを検討した。
【0220】
(材料および方法)
(細胞株)
ヒト白血病由来細胞株:U937(単芽球性白血病)、K562(慢性骨髄性白血病)、THP−1(単球性白血病)、HL−60(骨髄芽球性白血病)、ヒト正常B細胞(RPMI1788)をヒューマンサイエンス振興財団(東京、日本)から購入した。ヒト胚性腎臓細胞株(HEK293)を、RIKEN Cell Bank(つくば市、日本)から購入した。ヒト肺正常上皮細胞(WI38)をAmerican Type Culture Collection(Manassas,VA,USA)から購入した。ヒト正常すい臓上皮細胞(PE)をDSファーマ、バイオメディカルから購入した。細胞は、10% FBS(BioWest,Miami,FL,USA)、100μg/ml ペニシリンおよび100μg/ml ストレプトマイシン(ナカライテスク株式会社、京都市、日本)を含有する、RPMI 1640(U937、K562、THP−1、HL−60、RPMI1788)、CSC(PE)、MEM(WI38)またはD−MEM(HEK293)中で培養した。
【0221】
(ペプチド)
以下のペプチドをInvitrogen,Carlsbad,CA,USAから購入したか、あるいは、ペプチド合成機(たとえば、Applied Biosystems,CA USA:Model 433A ペプチドシンセサイザ)で合成した:
キメラペプチドAntp−TPR:RQIKIWFQNRRMKWKK−KAYARIGNSYFK(配列番号9)、
RQIKIWFQNRRMKWKKRAYARIGNSYFK(Antp−TPR K1RまたはAntp−K1R;配列番号10)、
RQIKIWFQNRRMKWKKAAYARIGNSYFK(Antp−TPR K1AまたはAntp−K1A;配列番号11)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKGYARIGNSYFK(Antp−TPR A2GまたはAntp−A2G;配列番号12)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKALARIGNSYFKを(Antp−TPR Y3LまたはAntp−Y3L;配列番号13)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYGRIGNSYFK(Antp−TPR A4GまたはAntp−A4G;配列番号14)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYAKIGNSYFK(Antp−TPR R5KまたはAntp−R5K;配列番号15)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARRGNSYFK(Antp−TPR I6RまたはAntp−I6R;配列番号16)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIANSYFK(Antp−TPR G7AまたはAntp−G7A;配列番号17)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGQSYFK(Antp−TPR N8QまたはAntp−N8Q;配列番号18)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNYYFK(Antp−TPR S9YまたはAntp−S9Y;配列番号19)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSSFK(Antp−TPR Y10SまたはAntp−Y10S;配列番号20)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYYK(Antp−TPR F11YまたはAntp−F11Y;配列番号21)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARIGNSYFR(Antp−TPR K12RまたはAntp−K12R;配列番号22)、
RQIAKAYARIGNSYFKEEKYK(延長型TPRペプチド;配列番号43)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYAAIGNSYFK(Antp−R5A;配列番号51)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKAYARAGNSYFK(Antp−I6A;配列番号52)、
RQIKIWFQNRRMKWKKKGYGRIGNYYYK(Antp−A2G,A4G,S9Y,F11Y;配列番号53)、
RQIKIWFQNRRMKWKKRKFSAAIGYNKY(Antp−スクランブルペプチド;配列番号54)。
【0222】
これらのペプチドを、化学的に合成し、そして、高速液体クロマトグラフィーにより精製して、その後、水に溶解した。
【0223】
(細胞生存性アッセイ)
1ウェルあたり合計3×10
3細胞を、96ウェルプレートに播種し、10% FBSを含有する培地中に、100μlにおいて段階希釈したペプチドと共に、37℃にて48〜72時間インキュベートした。細胞の生存率を、WST−8溶液(Cell Count Reagent SF;ナカライテスク株式会社)を用いて測定した。
【0224】
(ウェスタンブロッティング)
白血病細胞株をそれぞれの培地で6−well(Nunc
TM)で24時間培養した後、上清をリン酸緩衝化緩衝液(PBS)で最低二回洗浄後、Cell lysis buffer(Promega)をそれぞれのウェルに300ulずつ添加し、細胞を溶解、これを細胞抽出総タンパク質(total protein)とした。この抽出液をSDS−PAGEで分離した後、セミドライ法でメンブレンに転写した。10%スキムミルク溶液をリン酸緩衝化緩衝液(PBS)で調製し、1時間30分ブロッキングした後、Hsp90,サービビン,アクチンに対する抗体液(Stressgen Bioreagents,SIGMA)で一晩反応させ、その後、二次抗体(GE Healthcare,USA)を反応させたのち、ECLキットで(GE Health science)で化学発色させ、Las3000 systemでバンドを検出した。
【0225】
(蛍光顕微鏡解析)
U937細胞、マウス白血病細胞株EL4、または、マウス末梢血から調整された末梢血単核白血球細胞(Peripheral blood mononuclear cells:PBMCs)、1×10
6細胞に対して、TPR−TAMRA(TAMRA標識体)あるいは、Antp−TPR−TAMRA(TAMRA標識体)を用いて、最終濃度10μMになるように添加し、一時間培養したのち、細胞内に取り込まれたペプチドの様子あるいは、ペプチド透過による細胞への培地の流入をカルセインを培地に添加したものを用いて、コンフォーカル顕微鏡(Olympus FV1000(Olympus))を用いて観察した。
【0226】
(フローサイトメトリーアッセイ)
白血病細胞株U937細胞の50μMのAntp−TPRキメラペプチドによるがん細胞殺傷効果を決定するために、ペプチドで処理した培養物を、ヨウ化プロピジウム(PI)染色、あるいは、マルチパラメトリックフローサイトメトリーによって、アネキシンV標識およびPI染色について、同時に解析した。
【0227】
ミトコンドリアの電位変化の測定には、上記処理後の細胞をさらに蛍光カチオン色素試薬JC−1を含む培地で15分インキュベートし、その後PBSで洗った後、マルチパラメトリックフローサイトメトリーによって、測定した。
【0228】
カスパーゼ3,7測定には、同様に上記処理後の細胞をカルボキシフルオレセインFLICAカスパーゼ3,7アッセイ(Immunochemistry Technologies,Bloomington,MN,USA)を用いてカスパーゼ活性およびヨウ化プロピジウム(PI)染色について、マルチパラメトリックフローサイトメトリーによって測定した。
【0229】
(細胞生存性アッセイの結果)
図11および以下の表に、細胞生存性アッセイの結果としてAntp−TPRによる細胞障害活性を示す。
【0230】
(A)〜(C)はHsp90阻害剤である低分子化合物ゲルダナマイシン(Geldanamycin)(A)、17−AAG(B)、Antp−TPRキメラペプチド(C)による白血病細胞株(U937、K562、THP−1、HL−60)に対する殺細胞効果であり、(D)は、固形がん細胞株(BT20、OE19、MCF−7)に対するAntp−TPRキメラペプチドの殺細胞効果を示す。
【0231】
【表7】
【0232】
図11の結果から、本発明のキメラペプチドAntp−TPRが、Hsap90阻害剤であるゲルダナマイシン、17−AAGと同様に、急性骨髄性白血病細胞株に対して殺細胞効果があること、また、これら殺細胞効果があった細胞株いずれもサービビンが高発現していることが判明した。また、
図11(D)に示される結果から固形がん細胞株と同様の殺細胞様式を示すことも判明した。
【0233】
さらに、細胞障害活性のデータからIC
50値を算出した結果、ゲルダナマイシンと17−AAGは、正常細胞、急性骨髄性白血病細胞株いずれにも殺細胞効果を示した(いずれも低いIC
50濃度)のに対し、Antp−TPRキメラペプチドは、正常細胞にはほとんど効果がなく、白血病細胞株にのみ殺細胞能力を示し、IC
50値20μM〜60μMの範囲で白血病細胞株に影響を与えることが判明した(表8:正常細胞ならびに急性骨髄性白血病細胞株に対するゲルダナマイシン(Geldanamycin)、17−AAG、Antp−TPRキメラペプチドの殺細胞効果(IC
50))。
【0234】
【表8】
【0235】
(各タンパク質の発現量)
各白血病細胞株(U937、K562、THP−1、HL−60)に関して、ウェスタンブロッティングにより各タンパク質(Hsp90、サービビン、βアクチン(コントロール))の発現量を調べたところ、
図12に示されるように、U937およびTHP−1においてサービビンの発現量が多いことが判明した。このことから、Antp−TPRキメラペプチドは、白血病細胞株においても、固形がん細胞と同様、サービビンの発現量が多いものに効果的であることが分かった。
【0236】
(Antp−TPRキメラペプチドの急性骨髄性白血病細胞株U937に対する透過実験)
U937細胞1×10
6細胞に対して、TPR−TAMRA(TAMRA標識体)あるいはAntp−TPR−TAMRA(TAMRA標識体)を、最終濃度10μMになるように添加し、一時間培養したのち、細胞内に取り込まれたペプチドの様子あるいは、ペプチド透過による細胞への培地の流入を、カルセイン含有培地を用いて、コンフォーカル顕微鏡(Olympus FV1000(Olympus))を用いて観察した。
【0237】
図13(A)に示されるように、TAMRA標識されたAntp−TPRは細胞内に透過することが確認されたが、AntpなしのTPRペプチドは、細胞内に透過されていないことが確認された。また、
図13(B)に示されるように、Antp−TPRキメラペプチドが細胞内に透過した後もカルセイン(緑色)の流入が見受けられないことから、Antp−TPRキメラペプチドは、細胞膜を破壊することなく透過していることも分かった。さらに、ペプチドが透過した後も、膜は破壊されていない。図中の矢印は、それぞれペプチドが透過した細胞を示す。
【0238】
(Antp−TPRキメラペプチドによる白血病細胞株U937におけるがん細胞殺傷効果の解析)
図14にフローサイトメトリーアッセイの結果を示す。
【0239】
U937細胞を50μMのAntp−TPRキメラペプチドとともに一晩37℃でインキュベートし、ヨウ化プロピジウム(PI)染色を行い、アネキシンV標識およびPI染色についてマルチパラメトリックフローサイトメトリーにより解析した結果を
図14(A)に示す。Antp−TPR処理を行ったものについて、グラフ中右上の四半分パネルに見られるようなアネキシンV陽性の死細胞の増加が観察された。
【0240】
また、同様にキメラペプチドで処理したU937細胞をJC−1で15分間処理し、緑色および赤色の蛍光についてマルチパラメトリックフローサイトメトリーにより解析した結果を
図14(B)に示す。Antp−TPR処理を行ったものについて、グラフ中右下の四半分パネルに見られるようなミトコンドリア膜電位変化が観察された。
【0241】
さらに、同様にキメラペプチドで処理したU937細胞に対して、カルボキシフルオレセインFLICAカスパーゼ3,7アッセイを用いて、カスパーゼ活性およびPI染色についてマルチパラメトリックフローサイトメトリーにより解析した結果を
図14(C)に示す。Antp−TPR処理を行ったものについて、グラフ中右上の四半分パネルに見られるようなカスパーゼ3 & 7の活性細胞の増加が観察された。
【0242】
以上の結果から、Antp−TPRキメラペプチドは、白血病細胞株U937に対して、カスパーゼ3,7の活性化を介してアポトーシスを誘導すること、また、この際ミトコンドリアの膜電位の変化を起こしていることが分かった。
【0243】
(Antp−TPRキメラペプチドによるHsp90クライアントタンパク質の消失)
U937細胞をAntp−TPRキメラペプチドとともに一晩37℃でインキュベートし、その後、細胞抽出液に対して、それぞれ示されるタンパク質に対する抗体でウェスタンブロッティングを行った。
図15に示されるように、Antp−TPR(+)では、Antp−TPR(−)よりも各タンパク質の発現量が減少しており、Antp−TPRキメラペプチドが、白血病細胞株U937に対して、Hsp90のクライアントタンパク質のフォールディングに影響を与えていることが予想され、そしてその結果、各タンパク質の減退が起こっていることが分かった。
【0244】
(Antp−TPRキメラペプチドの各アミノ酸の変異によるU937細胞株に対する殺細胞効果の影響)
図16に示すアミノ酸変異を導入したキメラペプチドの各々について、U937に対する殺細胞効果を調べた。その結果、それぞれの位置に保存的アミノ酸の変異を導入してもなお、殺細胞能力を有していることが分かった。また、以下の表には、野生型の数値を100%としたときの相対値を示す。また、評価のために、細胞生存率の低下を数値化したもの、およびがん細胞を死傷させた比率を数値化した抗がん活性を提示する。野生型より強いものについては、細胞生存率の低下を検討することで、よりその抗がん剤としての活性の改善が評価されうる。
【0245】
【表9】
【0246】
以上のすべての数値は、ポジティブと判断できる。なぜなら、非常に活性が高い野生型の1(%)程度が残存すれば、「抗がん活性」はあると判断可能であるからであり、またscrambleより高ければ、活性増強効果が見られるというべきであり、上記では、すべてこの基準を満たすからである。
【0247】
また、Antp−A2G(配列番号2)、Antp−I6A(配列番号52)、Antp−G7A(配列番号17)、Antp−N8Q(配列番号18)、Antp−S9Y(配列番号19)、Atnp−F11Y(配列番号21)、Antp−K12R(配列番号22)およびAtnp−A2G,A4G,S9Y,F11Y(配列番号53)については、野生型より効果の増加が観察された。これらのペプチドは、細胞生存率の低下を指標とした場合、実に2000%を超える活性増強すら見いだされた。また、Antp−Y10S(配列番号20)についても野生型に比べてほぼ同程度の効果が見出された。これら以外の変異でも、少ないながらも殺傷効果が維持されていることが示された。したがって、細胞透過性ペプチドに関して細胞透過性さえ維持されれば、本発明のがん細胞殺傷効果が保持されることが実証された。そして、その例示として、活性のあるペプチドに基づき保存的置換等の性質の類似したアミノ酸置換が有効であることも実証された。
【0248】
以上のように、この細胞透過性ペプチドへの変異についても、細胞透過性の効果が維持されていることが理解される。
【0249】
(種間での殺細胞効果の検討)
マウスの末梢血から採取した正常リンパ球を含む末梢血単核白血球細胞(Peripheral blood mononuclear cells:PBMCs)、ヒト正常B細胞、マウスの白血病細胞株EL4に対して、Antp−TPRキメラペプチドの殺細胞効果を検討した。
【0250】
結果を
図17(A)および以下の表に示す。Antp−TPRキメラペプチドは、マウスPBMCsまたはヒト正常B細胞に対しては殺細胞効果を示さないこと、さらに、マウスの白血病細胞株に対しても殺細胞効果を有することが分かった。
【0251】
【表10】
【0252】
また、(B)に示すように、ヒト、マウス、ラット、ウシ間のHsp90のC末端側アミノ酸配列、ならびに、HOP中のTPR2Aドメインのアミノ酸配列を比較すると、このキメラペプチドが抗がん作用を示すのに重要な部分の配列(Hsp90のC末端配列MEEVD(配列番号64)およびHOP中のTPR2Aドメイン配列KAYARIGNSYFK(配列番号4))は、ヒト、マウス、ラット、ウシの種間で完全に保存されていることが分かる。以上の結果から、本発明のAntp−TPRキメラペプチドは、種を超えて殺細胞効果を示すといえる。
【0253】
(Antp−TPRキメラペプチドのマウス白血病細胞株EL4およびPBMCsに対する透過実験)
マウス白血病細胞株EL4、またはマウス末梢血単核白血球細胞(Peripheral blood mononuclear cells:PBMCs)1×10
6細胞に対して、TPR−TAMRA(TAMRA標識体)あるいはAntp−TPR−TAMRA(TAMRA標識体)を、最終濃度10μMになるように添加し、一時間培養したのち、細胞内に取り込まれたペプチドの様子あるいは、ペプチド透過による細胞への培地の流入を、カルセイン含有培地を用いて、コンフォーカル顕微鏡(Olympus FV1000(Olympus))を用いて観察した。
【0254】
図18に示されるように、マウスの細胞株にもAntp−TPRキメラペプチドが透過されていること、また、透過しても正常細胞PBMCsには殺細胞効果を示さず、マウス白血病細胞株には殺細胞効果を示していることから、血液がん細胞においても固形がん細胞と同様に、正常、がん細胞の選択性を有しているペプチドであることが証明された。
【0255】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0256】
本願は、日本国で2008年11月14日に出願された特願2008-292849に対する優先権を主張する。特願2008-292849の内容は、その全体が本明細書において援用され、本明細書の一部を構成するものとみなされることが理解される。