【実施例】
【0020】
《構成》
図1は実施例に係る給電回路の表面側の回路図であり、
図2は裏面側の回路図である。基板は、3層で構成されており、表面と裏面には、マイクロストリップラインによる回路が配置されている。中央の層は、グランドプレーンである。各図中で反対面のパターンは、薄いグレーで書かれている。黒点はビアで、表面と裏面をつなげる。表面と裏面に配置されているHB1,HB2は、1.5λ型3dBラットレース回路で、特性インピーダンス70.7Ωの線路で設計される。ラットレース回路からアンテナ端子ANT1〜4端子につながる4本の線路は、特性インピーダンス50Ωで線路長は全て同じである。線路Ta、Tb,Tcの線路長は、それぞれλ/8, λ/4、”指定なし”であり、特性インピーダンスは、50Ω,35.3Ω,25Ωである。Taは表と裏の線路を合わせてλ/4の電気長を得るために用いる。Tbは25Ωから50Ωのインピーダンス変換のために用いる。SWは3方向切り替えスイッチで、ラットレース回路のポートA1とA2のすぐそばに配置され、スイッチとラットレース回路をつなぐ線路の長さは無視できるものとする。
【0021】
アンテナと信号源の入出インピーダンスは50Ωである。スイッチ設定が1(SW1)の時、IN端子より入力された信号は、λ/4インピーダンス変換にて25Ωに変換された後、半分の電力が表面のラットレース回路HB1のポートC1に、残りの半分が裏面のラットレース回路HB2のポートC2に導かれる。信号は、表面ではポートB1, D1より、裏面ではポートB2, D2より出力される。各ポートB1, B2, D1, D2は、4本のアンテナANT1, ANT2, ANT3, ANT4にそれぞれ給電される。ラットレース回路の特性上、ポートA1,A2からは、信号が出ないことが知られている(岡田文明著、「マイクロ波工学 基礎と応用」、山海堂発行)。そのためここに接続される線路Taは無視することができる。ここで、線路Tcの長さとラットレース回路とアンテナ間の線路の長さを無視して考えると、4つのアンテナポートの位相とパワーレベルは全て一致し、入力信号INを基準として、位相は−180°、パワーレベルは -6dBで出力される。
【0022】
スイッチ設定が2(SW2)の時、入力信号の半分は、表面のラットレース回路のポートA1に入り、半分の信号は、表面と裏面の線路Taを通り、位相が90°遅れて裏面のラットレース回路のポートA2に入る。ラットレース回路の特性により、ANT1,ANT2,ANT3,ANT4に出力される位相は、入力信号に対してそれぞれ180°, 90°, 0°, -90°であり、アンテナ間の位相差は、ANT1を基準として-90°となる。そして各アンテナ出力のレベルは、全て-6dBになる。この時、ポートC1, C2からは信号は出ないため、線路Tcは無視できる。
【0023】
スイッチ設定が3(SW3)の時、入力信号は、裏面のポートA2よりラットレース回路HB2に入り、半分の信号は、線路Taを通り位相が90°遅れて表面のラットレース回路HB1に入る。アンテナANT1,ANT2,ANT3,ANT4に出力される位相は90°, 180°, -90°, 0°であり、各アンテナ間の位相差は、ANT1を基準として+90°となる。そして各アンテナのレベルは、全て-6dBになる。
【0024】
《設計とシミュレーション》
シミュレーションは、
図1および2の回路をRF回路シミュレータSNAP(修正節点解析法、MEL)で解析する。解析は、入力ポートINをポート1(P1)、アンテナポートANT1〜ANT4をポート1〜5(P2〜P5)として伝達特性S21〜S51を求める。
また、「ラットレース回路からアンテナまでの線路の電気長、線路Tcの線路の長さ、ビア、スイッチ、線路のロス」の部分は無視して解析を行う。
【0025】
基板の特性は、HTBMで報告された値に合わせて誘電率3.3、板厚0.8mmとする。各線路の幅(W)と線路長(L)は、SNAPにより計算され、線路幅W=1.0mm (Z0=70Ω) W=1.8mm (Z0=50Ω) W=3.1mm (Z0/2=35.3Ω) W=4.9mm (Z0=25Ω), λ/4の線路長 L= 19.1mm を得た。解析周波数は2.4〜2.5GHzで行う。
【0026】
《測定結果》
図3では、シミュレータで計算されたRTBMのS21, S31, S41, S51がポーラチャート上にプロットされている。データの中にある○印のマーカーは、2.45GHzのポイントであり、表1は、その角度と振幅値をまとめたものである。
【0027】
[表1]
【0028】
SW1では4つのデータはほぼ同じになり、位相は180°、レベルは-6dBである。SW2では、S21, S31, S41, S51の位相は-179°, 89°, 0°, -90°であり、ANT1を基準とするとアンテナ間の位相は約90°遅れる。レベルは4つともほぼ同じ-6dBである。SW3では、S21, S31, S41, S51の位相は89°, -179°, -90°, 0°であり、ANT1を基準とすると、アンテナ間の位相は約90°進む。レベルは4つともほぼ同じ-6dBである。
【0029】
以上のようにシミュレーション結果は、理論値とほぼ一致し、実施例に係る給電回路が正しく動作することを確認することができた。実施例に係る給電回路のサイズは、スイッチ回路を20×20mmとすると、46×55mmと見積もられる。これは非特許文献1のHTBMに対して80%のサイズであり、HTBMより小形化が期待できる。