(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルカリ成分を含有するガラス基板上に、常温から開始するスパッタリングにより、アモルファス状態の二酸化チタンを成膜し、前記アモルファス状態の二酸化チタンの膜が30nm以上の膜厚となった後に、前記ガラス基板を前記アモルファス状態の二酸化チタン膜がアナターゼ構造へ結晶化しない100〜200℃に加熱し、さらにスパッタリングを続けて、アナターゼ構造の二酸化チタンを成膜する工程を有し、
一回のスパッタリングによって、アルカリ拡散防止膜である前記アモルファス状態の二酸化チタン膜上に、光触媒膜である前記アナターゼ構造の二酸化チタン膜を成膜することを特徴とする光触媒体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態)
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
図1に示す光触媒体1は、ナトリウムやカリウム等のアルカリ成分を含有するソーダガラスの基板2の表面に、アモルファス状態の二酸化チタン膜3と、そのアモルファス状態の二酸化チタン膜の上に、アナターゼ結晶構造となっている二酸化チタン膜4が積層されている構造を有している。
【0017】
二酸化チタンよりなる光触媒機能を呈する光触媒膜は、アナターゼ結晶構造とすることで、非常に高い光触媒活性を示す。このようなアナターゼ結晶構造の二酸化チタン膜を有することで、基板表面での汚れを分解できるようになり、また高度に親水化できることから、その分解された汚れの除去も容易となる。
【0018】
高温時または長い時間をかけて、ソーダガラスからはアルカリ成分が溶出するが、ソーダガラスとアナターゼ結晶構造の二酸化チタン膜に間に配置したアモルファス状態の二酸化チタン膜によって、溶出したアルカリ成分がアナターゼ結晶構造の二酸化チタン膜へ拡散することが防止される。
【0019】
これにより、ソーダガラスから拡散したアルカリ成分と酸化チタンが反応してできる化合物を核にして、アナターゼ結晶がクラスター化し、このクラスターによる乱反射からおこる白濁化が防止できるとともに、アナターゼ結晶構造の二酸化チタンの光触媒活性が低下されることを防止できる。
【0020】
図2は、
図1の構造の光触媒体を製造する製造方法の工程を示す。
【0021】
図
6に示すような、後述する製造装置10(例えばスパッタリング装置)に、アルカリ成分を含有するガラス基板2(ソーダガラスの基板)を投入する。
【0022】
スパッタリング装置には、膜材料となるチタンからなるターゲット11がセットされており、常温のままのソーダガラスの基板2に、酸素ガスとの反応性スパッタリングによる成膜が施される(
図2(a)参照)。この時、ソーダガラスの基板表面に成膜されるチタンが二酸化チタンとなり、またアモルファス状態で成膜される。そしてスパッタ時に発生する熱によって基板が加熱されることから、ソーダガラスの基板2に含まれるアルカリ成分5が、アモルファス状態の二酸化チタンの膜中に拡散する。(図中の矢印は拡散を示す)
次に、
図2(b)に示すように、ソーダガラスの基板2が載置されたステージ12に組み込まれたヒータ13等の加熱手段によって、アモルファス状態の二酸化チタンが成膜されたソーダガラスの基板2が加熱される。
【0023】
その加熱された状態で、さらにスパッタリングが施され、アモルファス状態の二酸化チタン膜の表面に、アナターゼ構造の結晶化した二酸化チタン膜が成膜される。
【0024】
このような工程とすることで、アナターゼ化に必要な温度、例えば100℃に基板を加熱しつつスパッタリングを行っても、ソーダガラスの基板から溶出したアルカリ成分は、アモルファス状態の二酸化チタン膜中に捉えられ、アナターゼ構造の結晶化した二酸化チタン膜に拡散しない。
【0025】
図3は、参考例の光触媒体を製造する製造工程を示す。
【0026】
図3は、ソーダガラスの基板2上にアナターゼ結晶構造をとる二酸化チタン膜4を直接成膜した場合を示している。
【0027】
また、
図4は、別な参考例の光触媒体の製造工程を示す。
【0028】
図4では、ソーダガラス基板2上に、アルカリ成分拡散防止膜として知られている二酸化ケイ素7をまず成膜し、その後にアナターゼ結晶構造をとる二酸化チタン膜4を成膜した場合を示している。
【0029】
図3の工程では、スパッタリング装置にソーダガラスの基板2の投入後、すぐに基板が所定の温度、例えば100℃に加熱され(
図3(a))、その状態でチタンターゲット11と酸素ガスによる反応性スパッタが施され、ソーダガラスの基板2上にアナターゼ結晶構造の二酸化チタン膜4が成膜される(
図3(b))。
【0030】
この工程では、基板温度が高温のため、スパッタリング中にソーダガラスの基板よりアルカリ成分が溶出し、成膜中のアナターゼ結晶構造の二酸化チタン膜中に拡散していきやすい。
【0031】
そして、ソーダガラスの基板2から拡散したアルカリ成分5であるナトリウムと酸化チタンが反応してチタン酸ナトリウム(Na4TiO4あるいはNa2TiO3)となり、これを核にしてアナターゼ結晶がクラスター化し、このクラスター6による乱反射からおこると考えられる。
【0032】
一方、結晶状態でないアモルファス状態ではクラスター化が進まず白濁化しないと考えられる。
【0033】
なお、スパッタリング開始時点での基板温度が、上記のように100℃であっても、スパッタリング中の入熱によって、それ以上の温度に基板は昇温する。これにより最終的には200℃以上には基板温度が到達し、酸化チタン膜のアナターゼ結晶化が、より十分に達成される。
【0034】
図4の工程では、
図3同様にスパッタリング装置にソーダガラスの基板が投入されるとすぐに所定の温度に加熱される。
【0035】
この状態で、まずケイ素(シリコン)をターゲットとし、酸素ガスとの反応性スパッタリングが施される。これによりソーダガラスの基板2表面に二酸化ケイ素7の膜が成膜される。
【0036】
次に、スパッタリング装置を停止し、チタンをターゲットとした別な装置にソーダガラスの基板を移し替えるか、あるいはターゲットをチタンに変更する作業を行い、その後チタンと酸素ガスとの反応性スパッタリングを行う。
【0037】
この時、二酸化ケイ素7を成膜されたソーダガラスの基板は、所定の温度に加熱されている。
【0038】
これによって、二酸化ケイ素7の膜の上に二酸化チタン膜が積層成膜される。
【0039】
この
図4の工程では、ソーダガラスのアルカリ成分の二酸化チタン膜への拡散が、二酸化ケイ素7の膜によって遮断される。
【0040】
次に、上述の本発明の実施形態の製造法による光触媒体(サンプルB)と、参考例の二酸化チタン膜のみの製造方法による光触媒体(サンプルA)を作成し、それぞれの光触媒機能を確認した結果を示す。
【0041】
前述のように、光触媒膜の二酸化チタン膜に、ソーダガラスの基板からアルカリ成分が拡散すると、二酸化チタン膜の白濁化を引き起こす。これによって拡散が発生しているかどうか外観より判断できる。
【0042】
また、食用油の油分解テストを行い、水の接触角に換算して光触媒活性を比較した。
【0044】
参考例のサンプルAは、ソーダガラスの基板2上に100nmの二酸化チタン膜を、前述の
図3に示す工程からなる製造方法によって参考例サンプルAを作成した。この時、ターゲットはチタンを使用し、スパッタ圧力2.5Pa、スパッタガスとしてアルゴン(Ar)を使用し、このArのスパッタガス流量を79sccm、反応ガスとして酸素を使用し、この酸素ガスの流量を39sccmとし、DC5kWの電力によって500secの反応性スパッタリングを行った。この結果、膜厚100nmの二酸化チタン膜が形成された。
【0045】
この時、スパッタリングの前にソーダガラスの基板2を加熱する温度を、100℃、150℃、200℃の三種類の温度でサンプルを作成した。
【0046】
本発明の実施形態であるサンプルBは、ソーダガラスの基板2上に常温(
図5の試験では24℃)で、参考例のサンプルAと同じく、ターゲットはチタンを使用し、スパッタ圧力2.5Pa、Arのスパッタガス流量を79sccm、酸素ガスの流量を39sccmとし、DC5kWの電力によって150secの反応性スパッタリングを行い、30nmの二酸化チタン膜を形成した。その後、基板温度を100℃、150℃、200℃の三種類の温度に加熱して、さらに二酸化チタン膜を70nm積層してサンプルBを作成した。
【0047】
上記、計6つのサンプルに対して、目視によって白濁の有無を観察した。
【0048】
また、各サンプル上に市販の食用油を塗り、ペーパでふき取った後、352nmの波長の紫外線を1mW/cm
2の強度で、ブラックライトを使い照射した。
【0049】
照射開始後、2時間後と66時間後に、ソーダガラスの基板2上に水滴を垂らし、市販の接触角計によって水滴の基板との接触角を測定した。
図5では、三回の測定の平均値を接触角として示している。
【0050】
図5に示すように、参考例のサンプルAでは、スパッタリング時の基板加熱温度に係らず、すべてのサンプルで白濁化が観測された。
【0051】
また、油分解テストでは、紫外線照射2時間後では、水滴の接触角が50°以上を示し、66時間後では、変化がないか、10°程度までの低下がみられた。つまり、サンプルAの水滴の接触角はすべてのサンプルで10°以上を示したことになる。
【0052】
これに対し、本発明の実施形態によるサンプルBでは、上層の70nmの二酸化チタンのスパッタリング時の基板温度が、100℃、150℃で白濁化が観測されなかった。
【0053】
さらに、油分解テストでは、紫外線照射2時間後では水滴の接触角が50°以上を示し、66時間後では水滴の接触角がすべての温度で接触角3°程度となっていた。すなわち、サンプルBの水滴の接触角はすべてのサンプルで10°以下を示したことになる。
【0054】
この結果から、ソーダガラスの基板2に、基板を加熱した状態でアナターゼ構造の結晶化した二酸化チタン膜4を成膜したサンプルAでは、二酸化チタン膜中にソーダガラスの基板中のアルカリ成分が拡散してしまったことが分かる。
【0055】
しかしながら、常温で最初に二酸化チタン膜を成膜し、その後基板を加熱して二酸化チタン膜を積層成膜したサンプルBでは、アナターゼ構造に結晶化した二酸化チタン膜中にソーダガラス基板のアルカリ成分の拡散が抑制されたことが分かる。
【0056】
発明者の知見によれば、低温でのスパッタリングでは結晶化が進まないため、アモルファス状態で成膜される。一度アモルファス状態で成膜された二酸化チタンをアナターゼ結晶構造とするには500℃近い加熱を加えないと出来ないことがわかっている。
【0057】
対して、スパッタリング開始時点から基板が高温状態であると、スパッタリング中にも結晶化が進む上に、スパッタリング自体での入熱も手伝って、さらに結晶化が進み、アナターゼ結晶構造とすることは容易である。
【0058】
したがって、サンプルBが、上層の二酸化チタン膜を、100℃の基板温度でスパッタリングしても、アナターゼ結晶構造となり、油分解試験での水の接触角が低下していることから、十分な光触媒活性を示していると言える。
【0059】
また、白濁は、前述のように結晶構造中にアルカリ成分が拡散した時のみ発現してくるので、このことから、サンプルAもアナターゼ結晶構造になっていると考えられる。
【0060】
つまり、サンプルAで油分解試験での水の接触角が小さくならないのは、アルカリ成分の拡散による光触媒活性が抑制されたことが大きな要因であると言える。
【0061】
そして、サンプルBの200℃条件で白濁が観察されたのは、温度が高いためにアルカリ成分の拡散速度が大きく、アモルファス状態の二酸化チタン層を超えて、アナターゼ構造の結晶の二酸化チタン層へ拡散が進んだためと考えられる。
【0062】
したがって、
図5の実験では、アモルファス状態の二酸化チタン膜の厚さを30nmとしたが、より厚くすれば、よりアルカリ成分の拡散を抑制できることがわかる。
【0063】
また、アナターゼ構造の結晶化ができる範囲で、より低温の環境でスパッタリングすることが望ましい。
【0064】
次に、本発明の実施形態のおける光触媒体を製造する製造装置を、
図6を参照して説明する。
【0065】
図6の製造装置10は、減圧可能なチャンバ14を有し、そのチャンバ14内に基板を載置するステージ12が配置されている。このステージ12には、基板を加熱するヒータ13が内蔵されている。
【0066】
また、基板に対向してターゲット11を有するスパッタ源15が配置されている。このターゲット11には、電力を印加できる電力源16が接続されており、前記ヒータ13および電力源16は、図示しない制御装置によって制御される。この制御装置は、図示しない排気手段、通気手段、スパッタガス供給手段、反応ガス供給手段も制御し、通排気量やガス流量、ガス供給タイミング等を制御している。
【0067】
ソーダガラスの基板2に、二酸化チタン膜を成膜し、光触媒体を製造する場合、まず閉鎖されたチャンバ14内が、図示しない排気手段によって減圧される。次に、ロードロック17を介して、チャンバ14内の減圧状態を維持しつつ、図示しない搬送手段によりステージ12にソーダガラスの基板2を載置する。
【0068】
この時ステージ12は加熱されておらず、常温状態となっている。
【0069】
この状態でアルゴン等のスパッタガスが供給され、電力源16よりターゲット11に電力が供給される。スパッタガスがプラズマ化し、ターゲットをスパッタする。
【0070】
ターゲット11はチタン材料であり、予め設置されている。
【0071】
次に酸素ガスが供給され、ソーダガラスの基板2上に成膜されるチタン粒子と酸素が反応し、二酸化チタンとなる。(反応性スパッタ)
この時の二酸化チタンは、アモルファス状態である。
【0072】
所定の膜厚になるよう制御装置によってスパッタ時間が制御され、所定の膜厚となったタイミングで、ステージ12のヒータ13が所定温度、例えば100℃にソーダガラスの基板を加熱する。
【0073】
引き続きスパッタリングが実施され、最終的に必要な二酸化チタン膜厚になるまでスパッタリングが継続される。この時、基板温度が高温でスパッタリングされるので、二酸化チタン膜は容易にアナターゼ構造の結晶化を起こす。
【0074】
ヒータ13での加熱は、アモルファス状態の二酸化チタン層を確保するため、アモルファス状態からアナターゼ構造へ結晶化してしまうような高温(例えば500℃)にせず、高くても200℃程度とすることが望ましい。
【0075】
そして、最終的に必要な膜厚に到達した時点で電力源16がターゲット11への電力供給を停止し、スパッタリングが終了する。
【0076】
酸素ガス、アルゴンガスの供給が停止され、ステージ12の加熱も停止される。
【0077】
必要に応じて基板を冷却し、ロードロック17を介して、図示しない搬送手段によってステージ上のソーダガラスの基板をチャンバ14外へ搬出する。
【0078】
このように、スパッタリングを中断せず、結晶構造の違う二酸化チタン膜を成膜する。
【0079】
光触媒不活性なアモルファス状態の二酸化チタン膜の上に、そのまま光触媒活性を示すアナターゼ構造の結晶化した二酸化チタン膜を成膜することで、一回のスパッタによって、アルカリ拡散防止膜と光触媒膜を成膜することができる。
【0080】
このため、アルカリ拡散防止膜を成膜する装置や、複数の成膜を行う装置間を基板が行き来するための搬送手段などの準備が不要となる。
【0081】
さらに、そのような複数のスパッタや装置間の移動がないため、製造タクト時間が短縮される。
【0082】
なお、ヒータ13は、ステージ内に設置され基板を加熱するようにしているが、これに限らず、ステージ外に配置したランプヒータなども適用可能である。
【0083】
また、例えば二酸化チタンを材料としたターゲットであれば、反応性スパッタに限られない。
【0084】
ステージ側にバイパス電力を供給したり、高周波をターゲットと基板に印加する高周波スパッタも適用可能である。