【実施例1】
【0020】
図2は、実施例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。実施例1では、窒化物半導体のHEMTの場合を例に説明する。
図2のように、実施例1に係る半導体装置は、例えばSiC(炭化シリコン)基板10上に、AlN(窒化アルミニウム)からなるシード層12、GaN電子走行層14、n型のAlGaN電子供給層16、n型のGaNキャップ層18が順次積層されている。シード層12の厚さは例えば300nmであり、GaN電子走行層14の厚さは例えば1000nmであり、AlGaN電子供給層16の厚さは例えば20nmであり、GaNキャップ層18の厚さは例えば5nmである。GaN電子走行層14とAlGaN電子供給層16との界面には2DEG(2次元電子ガス)が生じてチャネル層17が形成される。なお、基板10は、SiC基板の他、サファイア基板やSi(シリコン)基板を用いることもできる。
【0021】
GaNキャップ層18の表面には、ソース電極20とドレイン電極22とが設けられている。ソース電極20およびドレイン電極22は、例えばGaNキャップ層18側からTi(チタン)、Al(アルミニウム)が順次積層された2層構造をしている。ソース電極20とドレイン電極22との間のGaNキャップ層18の表面には、ゲート電極24が設けられている。ゲート電極24は、例えばGaNキャップ層18側からNi(ニッケル)、Au(金)が順次積層された2層構造をしている。
【0022】
ゲート電極24を覆うように、GaNキャップ層18上に窒化シリコン膜26が設けられている。窒化シリコン膜26の厚さは例えば300nmである。ソース電極20とドレイン電極22とは、窒化シリコン膜26から露出している。窒化シリコン膜26には、ゲート電極24の形状に起因した段差部28が形成されている。言い換えると、窒化シリコン膜26には、ゲート電極24の上面と側壁とがなす角の形状に起因した段差部28が形成されている。ゲート電極24とドレイン電極22との間の窒化シリコン膜26の表面に、ゲート電極24の端部30の上方からドレイン電極22の方向に延在してフィールドプレート32が設けられている。つまり、ゲート電極24とフィールドプレート32とは、一部の領域で重なっている。フィールドプレート32は、窒化シリコン膜26側からTi、Auが順次積層された2層構造をしている。フィールドプレート32は、配線を介してソース電極20に電気的に接続している。フィールドプレート32と窒化シリコン膜26に形成された段差部28の角34との間には、空洞部36が形成されている。言い換えると、ゲート電極24とGaNキャップ層18とがなす角に起因した窒化シリコン膜26の角34とフィールドプレート32の間には、空洞部36が形成されている。即ち、フィールドプレート32は、空洞部36を介在して角34から離れるように設けられている。空洞部36は、角34から例えば1μm範囲の領域に設けられている。つまり、角34と空洞部36の端部との距離X1は例えば1μmである。また、フィールドプレート32は、角34から例えば2μm離れた部分にまで延在している。つまり、角34とフィールドプレート32の端部との距離X2は例えば2μmである。
【0023】
次に、実施例1に係る半導体装置の製造方法について説明する。
図3(a)から
図4(c)および
図5(b)は、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面模式図の例である。
図5(a)は、
図4(c)に対応する上面模式図の例である。
図3(a)のように、SiC(炭化シリコン)基板10上に、例えばMOCVD法(有機金属気相成長法)を用いて、シード層12、GaN電子走行層14、AlGaN電子供給層16、GaNキャップ層18をエピタキシャル成長により順次積層する。GaNキャップ層18の表面に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、ソース電極20およびドレイン電極22を形成する。その後、例えば500℃から800℃の温度でアニールを行い、AlGaN電子供給層16にオーミック接触するオーミック電極としてのソース電極20およびドレイン電極22を形成する。次いで、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用い、ソース電極20とドレイン電極22との間のGaNキャップ層18の表面に、ゲート電極24を形成する。次いで、例えばプラズマCVD法(プラズマ化学気相成長法)を用いて、ゲート電極24を覆うように窒化シリコン膜26を形成する。窒化シリコン膜26には、ゲート電極24の形状に起因した段差部28が形成される。
【0024】
図3(b)のように、窒化シリコン膜26等の上面を覆うように、例えばフォトレジスト38を塗布する。
図3(c)のように、例えば露光および現像を行い、フォトレジスト38を、ドレイン電極22側の段差部28にのみ残存させる。
【0025】
図4(a)のように、フォトレジスト38にエッチバックを実施して、フォトレジスト38を、段差部28の角34にのみ残存させる。
図4(b)のように、フォトレジスト38に熱処理を実施して、フォトレジスト38を硬化させる。熱処理を実施することで、フォトレジスト38は丸みを帯びた形状になる。
【0026】
図4(c)のように、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用いて、窒化シリコン膜26の段差部28に、フォトレジスト38を覆うようにして、ゲート電極24の端部30の上方からドレイン電極22の方向に延在するフィールドプレート32を形成する。
図5(a)のように、フィールドプレート32は、ゲート電極24の長手方向にも延在していて、ゲート電極24の長手方向に所定の間隔で細隙40が設けられている。例えば、細隙40の幅X3は2μmで、隣接する細隙40の間隔X4は10μmである。
【0027】
図5(b)のように、例えば酸素プラズマ処理を実施して、細隙40を介してフォトレジスト38を除去する。これにより、フィールドプレート32と角34との間に空洞部36が形成された、実施例1に係る半導体装置が完成する。
【0028】
以上説明してきたように、実施例1によれば、
図2に示すように、GaNキャップ層18の表面にソース電極20、ドレイン電極22、およびソース電極20とドレイン電極22との間にゲート電極24が形成され、ゲート電極24は窒化シリコン膜26により覆われている。ゲート電極24とドレイン電極22との間の窒化シリコン膜26表面にはフィールドプレート32が形成され、フィールドプレート32と、ゲート電極24とGaNキャップ層18とがなす角に起因した窒化シリコン膜26の角34と、の間には、空洞部36が設けられている。つまり、フィールドプレート32と窒化シリコン膜26のゲート電極24の形状に起因した段差部28の角34との間には、空洞部36が設けられている。このように、窒化シリコン膜26の膜質の悪い角34とフィールドプレート32との間に空洞部36を介在させることで、高耐圧化を実現でき、高温・高電圧で動作させた場合であっても、角34での窒化シリコン膜26に破壊が生じることを抑制できる。よって、故障の発生を抑制できる。
図2に示す実施例1の構造とすることで、
図1に示した比較例1の構造の場合に比べて、10倍程度の寿命の改善効果が得られる。
【0029】
また、
図2に示すように、フィールドプレート32は、ゲート電極24の端部30の上方からドレイン電極22の方向に延在して設けられている。即ち、フィールドプレート32とゲート電極24とは、一部領域で重なるように設けられている。これにより、ドレイン電極22からの電界に対してゲート電極24をシールドする効果が得られる。例えば、特許文献1の
図2のように、フィールドプレートをドレイン電極側にシフトさせて絶縁膜に形成された段差部に配置されない構造(つまり、ゲート電極とドレイン電極との間の平坦な絶縁膜上にフィールドプレートを形成する構造)とすることでも、高温・高電圧動作での絶縁膜の破壊を抑制できるが、この構造では、ゲート電極をシールドする効果が弱まってしまうため好ましくない。さらに、この構造の場合、ゲート電極とドレイン電極との間を拡張する必要があり、レイアウトの自由度が制約される点でも好ましくない。
【0030】
実施例1において、窒化シリコン膜26の厚さは、300nmである場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。しかしながら、窒化シリコン膜26の厚さが厚すぎると、フィールドプレート32による電界緩和の効果が得られ難くなるため好ましくなく、また、600nmより厚くなると、窒化シリコン膜26の角34での破壊が生じ難くなるため、窒化シリコン膜26の厚さは600nm以下である場合が好ましい。また、窒化シリコン膜26の厚さが薄くなりすぎると、角34だけでなく平坦部においても窒化シリコン膜26に破壊が生じてしまうため、窒化シリコン膜26の厚さは200nm以上の場合が好ましい。したがって、窒化シリコン膜26の厚さは、200nmから600nmである場合が好ましく、300nmから500nmである場合がより好ましく、300nmから400nmである場合がさらに好ましい。
【0031】
図5(a)のように、フィールドプレート32は、ゲート電極24の長手方向に、例えば10μm間隔で2μm幅の細隙40が設けられている場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。ドレイン電極22からの電界に対してゲート電極24をシールドする効果を得るために、フィールドプレート32が、ゲート電極24の長手方向に対して80%以上の領域を占めていれば、その他の間隔および幅の細隙40が設けられている場合でもよい。
【0032】
実施例1においては、窒化物半導体のHEMTの場合を例に説明したが、これに限られない。例えば、砒素を含むIII−V族化合物半導体層を有するHEMTの場合でもよいし、窒素を含むIII−V族化合物半導体層または砒素を含むIII−V族化合物半導体層を有するHEMT以外の半導体装置の場合でもよい。特に、高出力で動作する半導体装置である場合が好ましい。窒素を含むIII−V族化合物半導体の例として、GaN、InN、AlN、AlGaN、InGaN、AlInGaN等が挙げられる。砒素を含むIII−V族化合物半導体の例として、GaAs、InAs、AlAs、InGaAs、AlGaAs、InAlGaAs等が挙げられる。
【0033】
図6は、実施例1の変形例1に係る半導体装置の断面模式図の例である。
図6のように、実施例1の変形例1に係る半導体装置では、フィールドプレート32と窒化シリコン膜26との間に介在する空洞部36が、ゲート電極24の側壁に起因して形成された窒化シリコン膜26の側壁42全面を覆うように設けられている。その他の構成については、実施例1と同じであり、
図2に示しているので、ここでは説明を省略する。
【0034】
実施例1の変形例1に係る半導体装置では、
図4(a)で示したレジストの残存幅(ゲート電極24からドレイン電極22方向)より大きくなるため、
図3(c)に示すフォトリソグラフィ工程での1回の露光により所望のレジストを残存させることができる。その後、
図4(b)以降に示した実施例1と同様の製造方法により製造することができる。
【0035】
側壁42における窒化シリコン膜26の膜質もあまり良好でないことから、空洞部36が、窒化シリコン膜26の側壁42全面を覆うようにすることで、高耐圧化をより実現できる。よって、高温・高電圧で動作させた場合であっても、窒化シリコン膜26に破壊が生じることをより抑制でき、故障の発生をより抑制できる。
【実施例2】
【0036】
図7は、実施例2に係る半導体装置の断面模式図の例である。
図7のように、実施例2に係る半導体装置では、フィールドプレート32と窒化シリコン膜26に形成された角34との間に、フォトレジスト38が設けられている。その他の構成については、実施例1と同じであり、
図2に示しているので、ここでは説明を省略する。
【0037】
実施例2に係る半導体装置は、
図4(b)で説明した熱処理工程において、高温でフォトレジスト38を焼き固め、
図5(b)で説明した酸素プラズマ処理を実行しないことで、実施例1と同様の製造方法により製造することができる。
【0038】
実施例2のように、フィールドプレート32と角34との間にフォトレジスト38を設けることでも、高耐圧化が実現でき、高温・高電圧で動作させた場合でも、窒化シリコン膜26に破壊が生じることを抑制でき、故障の発生を抑制できる。
【0039】
また、実施例2では、フォトレジスト38を除去しないため、
図5(a)で説明したような細隙40をフィールドプレート32に設ける必要がない。つまり、フィールドプレート32は、ゲート電極24の長手方向に対して100%の領域を占めて形成することができる。このため、実施例2では、ドレイン電極22からの電界に対してゲート電極24をシールドする効果がより大きくなる。
【0040】
実施例2においては、フィールドプレート32と角34との間にフォトレジスト38を介在させる場合を例に示したが、これに限られる訳ではない。例えばポリイミド、ベンゾシクロブテン、Si、SiO
2(酸化シリコン)など、窒化シリコン以外の絶縁物であれば、その他の絶縁物をフィールドプレート32と角34との間に介在させる場合でもよい。
【0041】
図8は、実施例2の変形例2に係る半導体装置の断面模式図の例である。
図8のように、フィールドプレート32と窒化シリコン膜26との間に介在するフォトレジスト38が、ゲート電極24の側壁に起因して形成された窒化シリコン膜26の側壁42全面を覆うように設けられている。その他の構成については、実施例1と同じであり、
図2に示しているので、ここでは説明を省略する。
【0042】
実施例2の変形例2のように、フォトレジスト38が側壁42全面を覆うようにすることで、高耐圧化をより実現でき、高温・高電圧で動作させた場合でも、窒化シリコン膜26に破壊が生じることをより抑制でき、故障の発生をより抑制できる。