(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記平行リンク機構には、前記揺動レバーに対する前記加工ヘッドの首振り動作を許容させるか動作不能にさせるかを選択可能にさせる動作切替部が設けられていることを特徴とする請求項4記載の加工ヘッド移動装置。
【背景技術】
【0002】
球体の製造過程では、二枚の平行な研磨板によって複数個の被加工物(素球)を挟み込み、両研磨板を相対的に平行移動させて被加工物に転動動作(球面全体の研磨)を起こさせ、真球度を高めてゆくという方法を採用するのが一般的である。
これに対して本出願人は、球径の異なる被加工物の加工に柔軟に対応することができ、しかも研磨精度を高めた研削や超仕上げ等を行えるようにした加工装置を開発し、特許出願している(特許文献1参照)。
図11に示すように、この加工装置100では、ベアリング等により形成された支持台101上に被加工物(素球)Wを載せ、そのうえで押し付けローラ102と一対のテーパローラ103とで被加工物Wを両横から挟持させるようにし、この被加工物Wに上方からカップ砥石104を押し付ける構成としてある。カップ砥石104は、被加工物Wへの当接面(円環状の接触部位)に対して垂直となる回転軸Pを中心として回転駆動させる。
【0003】
一対のテーパローラ103は、互いの縮径側を対向させて一軸配置されたものであって、この構成により、Vベルト用プーリ等と同様に外周部にV溝を備えた構造となっている。すなわち、これら両テーパローラ103の傾斜面間に跨らせるようにして、被加工物Wを2点当接状態に当て止めする。従って、両テーパローラ103の対向距離(図の紙面に垂直な方向に設定される相互間隔)を調節することで、被加工物Wの球径の変化に柔軟に対応できる利点がある。
【0004】
これら一対のテーパローラ103は、個々別々に回転駆動可能とされている。例えば、両テーパローラ103を同速・同方向へ回転させれば、被加工物Wに水平軸まわりの一定回転を付与できることになる。これに対し、両テーパローラ103の回転速度に差を生じさせれば、被加工物Wの回転軸を傾動させることができる。また、両テーパローラ103の回転速度差を大きくしたり小さくしたりすれば、被加工物Wの回転軸を種々様々な角度に傾動させることもできる。従って、このような回転速度の差を種々変化させる制御を継続して行うことで、カップ砥石104による加工位置(当接位置)に対して被加工物Wの表面(球面)全面が万遍なく通過するように、被加工物Wに複雑な回転を起こさせること
ができる。このように、両テーパローラ103は、被加工物Wの表面全面を万遍なく加工(研磨)させる際の球回転駆動部105を構成したものと言うことができる。
【0005】
以下、本明細書では、このように被加工物Wの表面全面を万遍なく加工させるために、被加工物Wの回転軸を様々な角度に傾動させながら生じさせる複雑な回転を「球回転」と言うものとする。
なお、この加工装置100において、支持台101は被加工物Wを支持するための「下当て部」として作用し、一対のテーパローラ103は被加工物Wの横移動を当て止めするための「横当て部」として作用する。すなわち、これら「下当て部」と「横当て部」とにより、被加工物Wを位置決めするワークセット部106が構成されている。また、押し付けローラ102は、被加工物Wを「横当て部」から離れないように保持するための「ストッパ」として作用するものであり、好ましくはこの「ストッパ」を構成に加えることで、ワークセット部106による被加工物Wの位置決めは一義的で且つ確実なものとなる。
【0006】
このような構成を具備する加工装置100において、被加工物Wをワークセット部106に対して着脱する際には、カップ砥石104を加工位置から退避させる必要がある。そこで、カップ砥石104をその回転駆動部(図示略)ごと回転軸Pに沿った方向に移動させる機構などを採用していた(例えば、研磨具を垂直方向に昇降させる機構として特許文献2等が知られている)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の加工装置100において、ワークセット部106に支持した被加工物Wは、加工(研磨や超仕上げなど)が進めば進むほど、縮小化(径小化)する。このとき被加工物Wは、押し付けローラ102の作用を受けているので、「下当て部」である支持台101への当接と「横当て部」であるテーパローラ103への当接とを維持するようになり、これら2当接間の二等分線に沿った方向Nへ向けて球心Sが移動する。すなわち、
図12にやや誇張ぎみに示したように、被加工物Wの上面部はカップ砥石104から斜め下方向へ逃げてゆくような状況が生起する。
【0009】
この場合、カップ砥石104に対して回転軸Pに沿って移動させる機構のみを採用していると、カップ砥石104の一部分(
図12の左端)のみが被加工物Wに当接する片当たり現象を招来し、被加工物Wに均質で高精度の加工を施すことが困難となる問題が生じていた。
一方、この問題の解消を目指して、例えば
図11中に示したテーパローラ103の上方などに設定するQ位置を支点に、カップ砥石104を揺動によって移動(昇降)させる機構を採用するものと仮定する。しかしこのようにすると、
図13に示すように、カップ砥石104を上昇させる際にカップ砥石104が被加工物Wと接触干渉することがあり、被加工物Wを傷つけてしまう問題に発展することがあった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、下当て部と横当て部とを有するワークセット部により支持した被加工物に対して研磨や超仕上げなどの加工を施す加工装置に採用する加工ヘッドの移動装置において、加工の進行に伴って被加工物が縮小化することに順応しつつ適切な加工状態を保持できるものとし、もって、被加工物に対して均質で高精度の加工を行えるようにすると共に、被加工物に対して傷を付けることなく加工ヘッドの移動を行えるようにした加工ヘッド移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る加工ヘッド移動装置は、被加工物を支持する下当て部とこの下当て部上に支持された被加工物の横移動を当て止めする横当て部とにより被加工物を位置決めするワークセット部と、前記ワークセット部にて位置決めされた被加工物に回転工具を当
接させてこの当接面に垂直な回転軸まわりで当該回転工具を回転駆動させる加工ヘッドと、前記ワークセット部にて位置決めされた被加工物を前記回転工具により加工する加工状態と前記加工ヘッドを被加工物から離反させる退避状態との間で前記加工ヘッドを移動
可能な状態に保持する動作保持機構とを有しており、前記
動作保持機構には、前記ワークセット部にて位置決めされた被加工物
へ前記加工ヘッド
に装着された前記回転工具を押圧付加させる際に
前記被加工物から見て前記回転工具を通り越した位置で前記回転軸に直交
させて設定した首振り軸
を中心としつつ前記加工ヘッドを
被加工物の縮小に追従させる方向へ揺動させることにより前記当接面と前記回転軸との交差角を一定保持させるトラニオン支持部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
前記被加工物は球体とされており、前記ワークセット部には、前記被加工物の球面全面を前記加工ヘッドの前記回転工具に当接させるべく前記被加工物に回転力を付与する球回転駆動部が設けられたものとすればよい。
前記
動作保持機構は、前記加工ヘッドをレバー先端部
で揺動自在に保持する揺動レバーと、前記揺動レバーの前記レバー先端部からレバー長手方向に離れた位置を揺動自在に保持する揺動基部とを有したものとされており、
前記揺動レバーに対して前記加工ヘッドの揺動を保持する枢軸と前記揺動基部に対して前記揺動レバーの揺動を保持する揺動軸とが平行で且つレバー長手方向に直交しており、前記揺動レバー
と前記加工ヘッドと
の保持間で前記枢軸の軸心を前記首振り軸と一致させて前記トラニオン支持部が設けられたものとするのが好適である。
【0013】
前記揺動レバーには、前記トラニオン支持部において
前記首振り軸の径方向へ突出して設けられて前記加工ヘッドと一体揺動する従動リンクと、前記揺動基部において
揺動の軸心となる揺動軸に対しその径方向へ突出して設けられて少なくとも前記揺動レバーが前記加工ヘッドを前記退避状態へ向け移動させる際に前記揺動基部との突出角を固定状態に維持する基部リンクと、これら基部リンクと従動リンクとを平行且つ等長に連結して平行リンク機構に形成する伝動リンクとが設けられたものとするのが好適である。
【0014】
前記平行リンク機構には、前記揺動レバーに対する前記加工ヘッドの首振り動作を許容させるか動作不能にさせるかを選択可能にさせる動作切替部が設けられたものとするのが好適である。
前記揺動レバーには揺動力を付与する揺動装置が連結されており、前記揺動装置は、前記ワークセット部にて位置決めされた被加工物に対して前記加工ヘッドを前記加工状態と前記退避状態との間で移動させる移動駆動部と、前記加工状態にある前記加工ヘッドを被加工物へ押し付ける加圧駆動部とが互いに直列配置で連結されることによって形成されており、前記移動駆動部は圧縮性流体を動作源とするアクチュエータによって形成されていると共に前記加圧駆動部は圧縮性流体を入力源とし非圧縮性流体を動作源とするアクチュエータによって形成されているものとするのが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る加工ヘッド移動装置は、下当て部と横当て部とを有するワークセット部により支持した被加工物に対して研磨や超仕上げなどの加工を施す加工装置に採用する加工ヘッドの移動装置において、加工の進行に伴って被加工物が縮小化することに順応しつつ適切な加工状態を保持できるものであり、これにより、被加工物に対して均質で高精度の加工を行えるものであり、しかも、被加工物に対して傷を付けることなく加工ヘッドの移動を行えるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至
図10は、本発明に係る加工ヘッド移動装置1の一実施形態を示している。本実施形態では、素球を被加工物Wとする場合について説明する。また、本実施形態において本発明の加工ヘッド移動装置1は、この被加工物Wに研削や超仕上げによる球面研磨を施すための加工装置2に対して組み込まれている場合を説明する。
【0018】
本発明に係る加工ヘッド移動装置1は、
図1に示すように、被加工物Wを位置決めするワークセット部3と、このワークセット部3で保持された被加工物Wに加工を施す加工ヘッド4と、この加工ヘッド4を被加工物Wに対して移動
可能な状態に保持する動作保持機構5とを有している。なお、装置上半部は、外から加工の様子を視認できるように一部又は全部が透明となったカバー6で覆ってある。このカバー6により、被加工物Wを中心とした加工雰囲気を清浄に保ち、且つ研磨液類の飛散防止、防塵及び防音、外観性向上、作業者Mの保護等を図ることができる。
【0019】
ワークセット部3及び加工ヘッド4は、前記特許文献1に記載の加工装置に備えられたものと略同じとしてあり、まずこれらについて説明する。
ワークセット部3は、
図6(a)又は(b)に示すように、被加工物Wをその下から受けて支持する下当て部10と、この下当て部10上に支持された被加工物Wの横移動を当て止めする横当て部11とを有している。また、このワークセット部3は、下当て部10及び横当て部11によって位置決めされた被加工物Wを、横当て部11との間で挟持するようにしたストッパ部12をも有している。
【0020】
下当て部10は、
図6(a)に示すように、被加工物Wを低摩擦で摺動自在に保持するシュータイプとしてもよいし、
図6(b)に示すように、球回転するボールで保持するボールタイプとしてもよい。また、ベアリング等によって保持するタイプ(特許文献1の
図7中に示す符号9参照)としてもよい。
これに対して横当て部11は、
図2に示すように、一対のテーパローラ13が互いの縮径側を対向させて一軸配置されることにより形成されている。これら両テーパローラ13の外周部には、互いに向き合うようにされた傾斜面によってV溝が形成されており、このV溝内で被加工物Wを横移動(ここでは
図2の左方への移動を言う)不能な状態に当て止めする。
【0021】
なお、両テーパローラ13の対向距離は可変とされており、この距離調整を行うことにより、被加工物Wの球径の変化に柔軟に対応できる。ここにおいて「球径の変化」は、被加工物Wのサイズ種を指すことはもとより、被加工物Wが加工によって縮小する場合をも含む。更に、このような両テーパローラ13の対向距離調整は、テーパローラ13に磨耗が生じたときに、その摩耗程度に合わせて被加工物Wを設定位置に合致させておくようにするうえでも役立つ。
【0022】
このように横当て部11を形成している各テーパローラ13は、同時に、被加工物Wを球回転させる球回転駆動部16を構成する。すなわち、各テーパローラ13は、軸受け部17を介して回転自在に保持されていると共に、サーボモータ等の高精度制御が可能な駆動部18が接続されており、それぞれ回転方向や回転速度を同調又は個々別々に駆動制御できるようになっている。そのため、各駆動部18により、両テーパローラ13を同速・同方向へ回転させることで被加工物Wを水平軸まわりに一定回転させたり、互いの回転速
度に差を生じさせることで被加工物Wに球回転を起こさせたりできる。
【0023】
加工ヘッド4は、例えばカップ砥石等の回転工具20(
図6参照)を下端の円環状部分が下向きになる状態で備えたものである。この回転工具20は、その上部に設けられた回転駆動部21(
図3等参照)によって回転駆動可能となっている。従って、この加工ヘッド4は、回転工具20の下端部(円環状部分)をワークセット部3にて位置決めされた被加工物Wに当接させたとき、この当接面に垂直な回転軸Pまわりで回転工具20を回転駆動させ、もって被加工物Wを研磨加工することができる。
【0024】
この加工ヘッド4には、
図1に示すように、作業者Mから見て正面側となる部分に対して前方(作業者M側)へ突出するハンドル23が取り付けられている。作業者Mがこのハンドル23を掴んで加工ヘッド4を昇降させるようにすることで、回転工具20をワークセット部3にて位置決めされた被加工物Wに接離させることが容易に行えるようにしてある。
【0025】
次に、
動作保持機構5について説明する。
動作保持機構5は、加工ヘッド4を加工状態と退避状態との間で移動可能に保持させるための機構である。すなわち、
動作保持機構5により加工ヘッド4を移動させることで、ワークセット部3にて位置決めされた被加工物Wに回転工具20を当接させ、更に加工のための加圧をしたり、回転工具20を被加工物Wから離反させたりする。
【0026】
この
動作保持機構5は、
図3に示すように、揺動レバー26と、この揺動レバー26を揺動自在に保持する揺動基部27と、揺動レバー26に対して揺動用の駆動を付与する揺動装置28(
図1参照)とを有している。
揺動基部27は、揺動レバー26におけるレバー長手方向の中間位置に配置されている。揺動基部27に対して揺動レバー26を揺動自在に保持するための揺動軸45は充分に太く形成し、また揺動基部27には、この揺動軸45をテーパコロ軸受46で支持する構造を採用してある。これにより、スラスト方向(軸方向)及びラジアル方向(径方向)に高剛性の安定した支持が得られるようにしてある。
【0027】
揺動レバー26において、揺動基部27による保持位置からレバー長手方向に離れた一方の端部(
図3の右方側の端部であり、以下「レバー先端部26a」と言う)に対して、前記した加工ヘッド4が設けられている。また、揺動基部27による保持位置からレバー長手方向に離れた他方の端部に対して、前記した揺動装置28が設けられている。そして、揺動レバー26には、揺動基部27による保持位置とレバー先端部26aとの間に渡り、平行リンク機構30が設けられている。
【0028】
揺動レバー26は、
図4に示すように、加工ヘッド4をその左右両側(
図1の作業者Mから見た左右方向とおく:以下同じ)から挟み込むように、左右一対設けられている。前記した揺動装置28に対しても、これら左右一対の揺動レバー26で挟み込むようになっている(
図2参照)。
揺動レバー26のレバー先端部26aと加工ヘッド4との連結部分には、トラニオン支持部33が設けられている。このトラニオン支持部33は、加工ヘッド4から左右両側方へ一軸配置で突出する枢軸34を、加工ヘッド4の左右両側に配置された軸受け部(図示略:揺動レバー26のレバー先端部26aに組み付けられている)によって回転自在に保持する構造となったものである。そのため、加工ヘッド4は、回転工具20の回転軸Pに対して直交関係にある首振り軸Rを中心として、そのまわりで揺動自在になっている。
この首振り軸Rは枢軸34の軸心と一致するものであり、また前記した揺動軸45(揺動基部27に対して揺動レバー26を揺動自在に保持する軸)と平行である。
【0029】
このようにトラニオン支持部33によって揺動自在とされた加工ヘッド4では、ワークセット部3にて位置決めされた被加工物Wが加工の進行に伴って縮小するときに、被加工物Wに対して回転工具20が当接する当接面と、回転工具20の回転軸Pとの交差角を一定に保持させることができる。すなわち、回転工具20を被加工物Wに押圧付加させた状態を、加工中も一定角度に維持させることができる。
【0030】
なお、ここで言う交差角は、回転工具20がカップ砥石(下端面が円環状)であり且つ被加工物Wが球体であれば、回転工具20の回転軸Pが被加工物Wの球心を通るように設
定するので、常に90°となるが、回転工具20の形体や被加工物W(加工箇所)の形状によっては、必ずしも90°とは限らない。
平行リンク機構30は、
図3乃至
図5に示すように、従動リンク37と、基部リンク38と、伝動リンク39とを有しており、これら各リンク37,38,39が揺動レバー26をベースにして(揺動レバー26に固定リンクの作用を生じさせて)平行四辺形を構成するように連結されている。この平行リンク機構30には動作切替部40が備えられている。
【0031】
従動リンク37は、
図3及び
図4に示すように、加工ヘッド4の枢軸34に対してその軸端部に回転不能状態に結合されている。すなわち、この従動リンク37は、トラニオン支持部33において径方向(
図3、
図4の上方)へ突出するようにして設けられており、揺動レバー26に対して加工ヘッド4がトラニオン支持部33の作用で揺動するときに、加工ヘッド4と一体となって揺動する。
【0032】
基部リンク38は、
図5に示すように、揺動基部27から回転不能な状態で左方(
図5の右方)へ突出して設けられた基軸42に対し、この基軸42に回転自在に保持される軸受体43を介して取り付けられている。要するに、基部リンク38は、揺動基部27において径方向へ突出して設けられたものであると共に、この揺動基部27に対して、原則として基軸42を中心に揺動自在に保持されたものとなっている。
【0033】
なお、基軸42は、揺動基部27に対して揺動レバー26を揺動自在に保持するための揺動軸45と同軸の配置(一軸配置)となっているが、この揺動軸45とは連結されていない。
伝動リンク39は、従動リンク37の突端部(
図4参照)と基部リンク38の突端部(
図5参照)との間を連結するものであって、これら従動リンク37と基部リンク38とが平行で且つ等長となり、更に両リンク37,38間の連結距離が、従動リンク37の揺動中心(枢軸34)と基部リンク38の揺動中心(基軸42)との軸間距離(即ち、固定リンクの長さ)と等しくなるように設定している。当然に、この伝動リンク39と両リンク37,38との連結は、それぞれ関節動作(揺動)が自在に行われるようにしてある。
【0034】
一方、動作切替部40は、
図3及び
図5に示すように、揺動基部27から回転不能な状態で突設された基軸42に対し、この基軸42に対しても回転不能(一体回転可能)な状態で径方向外方へ張り出して取り付けられたブレーキ板47と、このブレーキ板47へ向けてクランプ棒48を進退させるブレーキ駆動源49と、このブレーキ駆動源49がクランプ棒48を進出させたときにこのクランプ棒48との間でブレーキ板47をクランプするクランプ台50とを有している。このクランプ台50は、ブレーキ駆動源49を基部リンク38に対して取り付けるブラケット51に固定されているものとした。
【0035】
ブレーキ駆動源49は、流体圧シリンダや電磁石、電動モータなどによりクランプ棒48をクランプ台50へ向けて進退させるものである。なお、停電時などの安全対策として、クランプ棒48はバネ52により進出方向へ常時付勢され、ブレーキ板47をクランプ台50へ押し付けてブレーキ作用を生じさせる(以下、このブレーキ作用が生じた状態をブレーキ板47の「ロック状態」と言う)構造としてある。要するに、ブレーキ駆動源49を非作動にさせている間はブレーキ板47がロック状態となり、ブレーキ駆動源49を作動させることでブレーキ板47のロック状態は解除される。
【0036】
このような動作切替部40を備えて構成される平行リンク機構30では、動作切替部40においてブレーキ駆動源49を非作動にさせ、ブレーキ板47をロック状態にすることで、基軸42と基部リンク38との間が相対回転不能に固定され、その結果、基部リンク38は揺動基部27からの突出角を一定に維持する(揺動不能に固定される)ことになる。
【0037】
すなわち、
図7(a)及び(b)に示すように、基部リンク38は、揺動レバー26がどのように揺動しようとも(揺動レバー26の揺動に影響されることなく)、揺動基部27との固定関係を維持することになる。ここにおいて、平行リンク機構30は、元来、従動リンク37と基部リンク38とを平行に保つ機能を有したものであるから、従動リンク37と基部リンク38との平行状態も、揺動レバー26の揺動に影響されることなく維持
されるようになる。
【0038】
一方で、揺動レバー26に対し、加工ヘッド4はトラニオン支持部33を介して首振り自在に保持されていると共に、従動リンク37と加工ヘッド4とは一体揺動する関係に結合されている。それ故、揺動レバー26が揺動軸45を支点とする円弧カーブの揺動軌跡L
1を描きながら上下揺動して、加工ヘッド4を上昇させたり、反対に加工ヘッド4を下降させたりするときには、基部リンク38と従動リンク37とが平行を維持し、且つ従動リンク37と加工ヘッド4とが両者間の角度関係を不変にさせる状態が常に維持されるようになる。すなわち、加工ヘッド4の回転工具20は、揺動レバー26が描く円弧カーブの揺動軌跡L
1と同じ曲率半径を有した揺動軌跡L
2を描きながら上下移動することになり、この揺動軌跡L
2にしたがって被加工物Wからの退避(上昇時)や被加工物Wへの当接(下降時)を行うものとなる。
【0039】
図8は、加工ヘッド4が円弧カーブの揺動軌跡L
2を描きながら上昇する際に、ワークセット部3に位置決めされている被加工物Wから回転工具20が離反する様子を拡大して示している。この
図8から明らかなように、回転工具20が描く円弧カーブの揺動軌跡L
2は、被加工物Wとの当接位置を起点に、上方へゆくにしたがって徐々に後方(
図8の左方)へ変位するような緩やかな円弧カーブとなっている。すなわち、回転工具20が被加工物Wから上昇を始めると、回転工具20の下端(カップ砥石の円環状部分)の周方向全部が被加工物Wの球面から瞬間的且つ一斉に離反し、回転工具20が仮に首振り動作をしたとしても(実際には首振り動作はしない)、被加工物Wとは接触しなくなる高さmを一気に越えるようになっている。
【0040】
このような円弧カーブは、
図13で従来の問題回避策として説明したカップ砥石104の退避移動軌跡(下凸の円弧カーブ)とは、明らかに中心角の向きを異ならせたものとなっている(それぞれの円弧カーブにおいて被加工物Wに当接した位置の接線は横向きと縦向きとの関係で交差する)。このように、本発明では平行リンク機構30を採用することにより、加工ヘッド4の回転工具20に前記した(縦向きの)揺動軌跡L
2を採用できるものとなり、回転工具20が、ワークセット部3にて位置決めされている被加工物Wからの退避(上昇時)や被加工物Wへの当接(下降時)を行う際に、被加工物Wへの無用な接触を防止できるものとなる。これにより、被加工物Wに傷をつけないようにできる。
【0041】
これに対し、動作切替部40においてブレーキ駆動源49を作動させ、ブレーキ板47のロック状態を解除させることでクランプ棒48をバネ52に抗しつつ引き戻すと、基軸42と基部リンク38との間が相対回転自在となる。すなわち、基部リンク38は揺動基部27に対して揺動自在な状態に保持されることになる。
従って、揺動レバー26を非揺動状態に静止させていても、加工ヘッド4は、トラニオン支持部33によって首振り自在な状態を保持するため、ワークセット部3にて位置決めされた被加工物Wが加工の進行で縮小化(径小化)したときには、被加工物Wに対して回転工具20が当接する当接面と、回転工具20の回転軸Pとの交差角を一定に保持させることができる、という、トラニオン支持部33による作用効果を有効に受けることができる。
【0042】
このように、動作切替部40のブレーキ駆動源49を非作動にするのか、或いは作動させるかの選択によって、揺動レバー26に対する加工ヘッド4の首振り動作を許容させるか、又は動作不能にさせるかを切り換えることができるものとなっている。なお、加工ヘッド4の回転工具20をワークセット部3にて位置決めされている被加工物Wから離反のため退避させるとき(上昇させるとき)は、必ずブレーキ駆動源49を非作動にさせ、ブレーキ板47をロック状態にする。
【0043】
揺動レバー26を揺動させるための揺動装置28は、
図9に示すように、揺動レバー26の後端部を上げ下げさせるように駆動を付与する状態で設けられている。具体的には、後述するように装置ベース61に揺動支持台62を設け、この揺動支持台62に対して揺動基部27を揺動自在に保持させてあるが、この揺動基部27の支点軸となる部分に継ぎ手部材60を設けて、この継ぎ手部材60と揺動レバー26の後端部との間に、揺動装置28を設けるようにしている。ただ、揺動支持台62や継ぎ手部材60は必ずしも必要な
構成ではなく、省略することも可能である。そのため、揺動装置28の下端部を装置ベース61に対して直接的に連結させるようにしてもよい。
【0044】
この揺動装置28は、移動駆動部53と加圧駆動部54とが互いに直列配置で連結されることによって形成されている。ここにおいて「直列配置」とは、移動駆動部53から生起される駆動力と加圧駆動部54から生起される駆動力とが、一列に並んで繋がるように、両駆動部53,54が配置されていることを言う。従って例えば、移動駆動部53と加圧駆動部54とが互いの尾部側を連結させる配置や、移動駆動部53と加圧駆動部54とが互いの駆動側を連結させる配置、或いは、移動駆動部53と加圧駆動部54とが一方の尾部側と他方の駆動側とを連結させるような配置など、複数の態様がある。
【0045】
なお、移動駆動部53から生起される駆動力と加圧駆動部54から生起される駆動力とが同軸となるような配置(一軸配置)であるか否かは条件とされず、軸心がずれた配置としてもよい。従って例えば、移動駆動部53と加圧駆動部54とのいずれか一方又は双方を複数設けるものとして、それらを並列させるような構成とすることも可能となる。
移動駆動部53は、圧縮性流体(空気やその他のガス)を動作源とするアクチュエータによって形成されている。例えば、この移動駆動部53はエアシリンダとする。この移動駆動部53には、その駆動制御系に電磁弁55が接続されており、また電気信号に比例して圧縮性流体の供給圧を任意に制御できるようにした電空レギュレター56が接続されている。
【0046】
加圧駆動部54は、圧縮性流体(空気やその他のガス)を入力源とし非圧縮性流体(水やオイル)を動作源とするアクチュエータによって形成されている。例えば、この加圧駆動部54はエアハイドロシリンダとする。この加圧駆動部54についても、入力源に圧縮性流体を用いていることによってその駆動制御系に電磁弁55及び電空レギュレター56が接続されたものとしてある。また、この加圧駆動部54では、圧縮性流体と非圧縮性流体とを用いることで、エアハイドロコンバータ57が接続されたものとしてある。
【0047】
このように、移動駆動部53及び加圧駆動部54を備えた揺動装置28では、ワークセット部3にて位置決めされた被加工物Wに対して加工ヘッド4を加工状態と退避状態との間で移動させる際には、移動駆動部53による駆動力を用いる。これにより、迅速な加工ヘッド4の移動が実現し、作業サイクルの短縮化が図れる利点がある。
また、被加工物Wに当接状態にある加工ヘッド4を、加工のために被加工物Wへ押し付ける(加圧をする)際には、加圧駆動部54による駆動力、即ち、非圧縮性流体による押圧力を用いる。これにより、加工ヘッド4(回転工具20)の安定した位置決めが可能となり、加工振動(ビビリ)などを防止できる利点がある。また、加圧駆動部54では、回転工具20の摩耗程度に合わせて被加工物Wに対する高精度の位置合わせが可能となっている。また、回転工具20の摩耗が進行した場合や、被加工物Wが加工に伴って縮小化したときも、これらに合わせた高精度の追従が可能となる。
【0048】
この揺動装置28は、移動駆動部53及び加圧駆動部54の両方に電空レギュレター56を採用してあるため、両駆動部53,54の供給圧を同圧に設定したり一方の駆動部を他方より若干高めに設定したり(例えば、移動駆動部53を少しだけ高めに設定)する制御が可能になる。そのため、加工ヘッド4に対して被加工物Wから押し戻す方向へ突発的な負荷が生じた際には、移動駆動部53によりこの負荷を吸収するダンパー作用が得られる。これにより、例えば、加工当初の被加工物Wに生じている粗削りな(大きな)凹凸に対して柔軟に加工ヘッド4を追従移動させることができ、もって、被加工物Wの表面に傷を付けるようなことを回避できる。また、加工ヘッド4(殊に回転工具20)の破損を未然に防止できる利点もある。
【0049】
なお、本実施形態では、被加工物Wの入れ換えや回転工具20の交換、その他、加工ヘッド4等に対する各種メンテナンス作業を容易に行えるようにするため、
図10に示すように、装置ベース61に設けた揺動支持台62を支点として、揺動基部27を揺動自在な構造にすると共に(
図9を併せて参照)、この揺動基部27と、揺動基部27の後方に設けた柱状のブラケット64との間を連結するようにしてメンテナンス用アクチュエータ63を装備させてある。このアクチュエータ63は例えばエアシリンダ等としている。
【0050】
そのため、
図10(a)に示すように、被加工物Wに対して回転工具20を接離させる場合には、前記したように揺動装置28を用いるが、メンテナンス時には
図10(b)に示すように、メンテナンス用アクチュエータ63を用いて加工ヘッド4を大きく上方へ移動させることができるようにしてある。
このようにすることで、被加工物Wの入れ換えをハンドリング装置などにより行わせることができるようになり、省力化、自動化、高能率化などに大きく寄与する。
【0051】
以上詳説したところから明らかなように、本発明に係る加工ヘッド移動装置1では、ワークセット部3に支持した被加工物Wは、加工の進行に伴って縮小化することで下当て部10への当接と横当て部11への当接とを維持して、球心S(
図11参照)が斜めに移動することがあっても、加工ヘッド4がトラニオン支持部33を介して保持されていることから、回転工具20が被加工物Wに当接する状況は常に継続し、安定する。そのため、従来の問題とされていた片当たり現象(
図12参照)等を招来することはない。従って、被加工物Wに均質で高精度の加工を施すことができる。
【0052】
また、加工ヘッド4が平行リンク機構30を備えた揺動レバー26によって移動するようになっているため、回転工具20が退避移動中に被加工物Wと接触干渉することはなく、従来の問題とされていた被加工物Wへの傷つけ(
図13参照)を起こすおそれもない。
このように、加工の進行に伴って被加工物Wが縮小化することに順応しつつ適切な加工状態を保持できるものであり、被加工物Wに対して均質で高精度の加工を行えるようになる。また、被加工物Wに対して傷を付けることなく加工ヘッドの移動を行えるようになっている。
【0053】
ところで、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
例えば、加工ヘッド4の回転工具20は、カップ砥石に限定されるものではなく、円柱形や円錐台形、球形等に形成された砥石をはじめ、エンドミル等の切削工具としてもよい。
【0054】
ワークセット部3において、横当て部11と球回転駆動部16とを一対のテーパローラ13が兼ねる構造として説明したが、これに限らず、これら横当て部11及び球回転駆動部16を別個独立した構成とさせてもよい。また、下当て部10や横当て部11については、被加工物Wの形状等に応じて適宜形状を変更させたり、被加工物Wとの当接構造を変更させたりすることができる。
【0055】
動作保持機構5は平行リンク機構30を具備するものとしたが、平行リンク機構30に限らず、台形リンクなどの四節リンク機構(従動リンク37、基部リンク38、伝動リンク39の各長さが異なって設定されるもの)を採用することも可能である。
被加工物Wは球体とすることが限定されるものではなく、円盤形や多面体、角形ブロックなどとすることも可能である。
【課題】下当て部10と横当て部11とを有するワークセット部3により支持した被加工物Wを加工する加工装置に採用する加工ヘッド移動装置において、加工の進行に伴って被加工物Wが縮小化することに順応しつつ適切な加工状態を保持できるものとし、もって、被加工物Wに対して均質で高精度の加工を行えるようにすると共に、被加工物Wに対して傷を付けることなく加工ヘッド4の移動を行えるようにする。
【解決手段】加工状態と退避状態との間で加工ヘッド4を移動させるヘッド移動機構5を有しており、ヘッド移動機構5には、被加工物Wが加工に伴い縮小するのに合わせて加工ヘッド4を押圧付加させる際に、回転工具20の回転軸Pに直交する首振り軸Rまわりで加工ヘッド4を揺動可能にして当接面と回転軸Pとの交差角を一定保持させるトラニオン支持部33が設けられている。