【文献】
表和彦,微小角入射X線回折で界面の構造をみる,ぶんせき,日本,日本分析化学会,2006年 1月 5日,第2-8ページ
【文献】
Remi Lazzari,IsGISAXS: a program for grazing-incidence small-angle X-ray scattering analysis of supported islands,Journal of Applied Crystallography,IUCr,2002年 8月,Volume 35, Part 4,pp. 406-421
【文献】
Jinhwan Yoon, et al.,Nondestructive quantitative synchrotron grazing incidence X-ray scattering analysis of cylindrical nanostructures in supported thin films,Journal of Applied Crystallography,IUCr,2007年 4月,Volume 40, Part 2,pp. 305-312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記単位構造体の位置ゆらぎに周期性がある場合に、前記位置ゆらぎの振幅および周期を用いて、前記単位構造体の位置ゆらぎの二乗平均を表すことで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴とする請求項3記載の表面微細構造計測方法。
前記単位構造体が円筒内に前記実体領域を有する試料モデルで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の表面微細構造計測方法。
前記単位構造体が、前記試料表面に平行なx方向に一様な台形体内に前記実体領域を有する試料モデルで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の表面微細構造計測方法。
前記単位構造体が、前記試料表面に平行なx方向に一様な前記実体領域を有し、前記試料表面に平行で前記x方向に垂直なy方向に要素分割されている試料モデルで、前記要素の和で積分を近似することで前記X線の散乱強度を計算することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の表面微細構造計測方法。
前記単位構造体が前記試料表面に平行なx方向および前記試料表面に平行で前記x方向に垂直なy方向にそれぞれ周期構造を持つ実体領域を有し、前記試料表面に平行で前記xおよびy方向に要素分割されている試料モデルで、前記要素の和で、前記各要素による前記X線の散乱強度を積分することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の表面微細構造計測方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況下、近年、半導体製造において構造単位のサイズが微小化しCD計測が困難になっている。例えばCD−SEMのビームサイズは5nm程度と言われているが、それで20nmを測定するのは簡単ではないであろう。また、スキャトロメトリーにしても、プローブ光の短波長化は当然進むにしても、光の大気中での透過を考えると波長200nm程度が限界であり、今後測定が困難な方向へ行くのは間違いない。今後CDが32nm、25nm、20nmとなり、世代が進むにともない、これらの手法が十分な感度を持ち得なくなる可能性が高い。そのような中にあって、X線でCD計測が可能になれば、スキャトロメトリーやCD−SEMすべてを置き換えることはないにしても、それらの方法が特に不得意とする構造単位サイズの領域を測定する新たな道が拓ける。
【0012】
また、このような微細構造を持つディバイスとしては半導体集積回路だけでなく、磁気記録媒体などの高記録密度を目指したディスクリートトラック、パターンドメディアなどの研究開発も進められている。これらの評価にもX線による同様な技術が適用可能と考えられる。以上が、本発明者がX線によるCD計測開発を始めることになった背景である。
【0013】
このようなCD計測への要請に対して、特許文献2や非特許文献1に記載される方法で、微細構造の寸法をある程度まで特定することは可能である。しかし、たとえば非特許文献1記載の方法では、一次元で計算しているため、グレーティングなどの構造体の高さ方向に関しては、平均化される。したがって、ライン&スペースの微細構造で側壁部分の密度が徐々に変化している場合には、それが側壁の傾きなのか、ラフネス(粗さ)なのか判定がつかない。このように、従来の方法では微細構造の特徴を正確に特定するには限界がある。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、表面の微細な構造を正確に計測でき、3次元的な構造的特徴を評価できる表面微細構造計測方法、表面微細構造計測データ解析方法およびX線散乱測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る表面微細構造計測方法は、試料表面上の微細構造を計測する表面微細構造計測方法であって、前記試料表面に微小な入射角でX線を照射し、散乱強度を測定するステップと、表面上の微細構造により、前記表面に垂直な方向に1または複数の層が形成され、前記層内において前記表面に平行な方向に単位構造体が周期的に配列している試料モデルを仮定し、前記微細構造によって散乱されたX線の散乱強度を
試料表面に対するX線入射角α、出射角β、および散乱ベクトルの試料表面に平行な成分(Qx、Qy)の関数として計算し、前記試料モデルにより算出されるX線の散乱強度を前記測定された散乱強度にフィッティングするステップと、前記フィッティングの結果、前記単位構造体の形状を特定するパラメータの最適値を決定するステップと、を有することを特徴としている。
また、前記計算は、後述する式(1)にて明確に表されている。さらに、後述する式(1)は、後述する式(2)と式(3)を用いて補足的に、詳しく表されている。
【0016】
このように、本発明の表面微細構造計測方法は、測定対象よりも十分に短い波長の電磁波であるX線を計測に用いるため、測定対象よりも波長の長い光などを用いる場合に比べて微細な構造を正確に計測することができる。また、周期的に配列された単位構造体の3次元的な特徴を評価することができ、ライン&スペースやドットで形成された各種ディバイスの表面構造等を評価することができる。
【0017】
(2)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が前記層内で一様な実体領域および空間領域により形成され、前記実体領域により生じる、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。このように、実体領域と空間領域とに区分して試料が有する特徴を表し、X線散乱強度を計算する表式を与え、そこに現れる実体領域の形状パラメータを最適化するフィッティングを行うため、試料の正確な構造的特徴を容易に評価することができる。
【0018】
(3)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記試料モデルに形成された複数の層によって生じる屈折および反射の効果を考慮し、前記微細構造によって散乱されたX線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、そのとき層構造が形成された試料モデルを仮定し、層による屈折や反射の効果を考慮するため、表面に形成された微細構造の正確な解析が可能になる。
【0019】
(4)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が厳密な周期的位置からの位置ゆらぎを有し、前記位置ゆらぎが相互の位置の差に依存せずランダムであると仮定することで前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、単位構造体の位置ゆらぎが相互の位置の差に依存しない試料の微細構造を適正に評価できる。
【0020】
(5)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が厳密な周期的位置からの位置ゆらぎを有し、前記位置ゆらぎが前記単位構造体同士の相対的な位置関係にのみ依存すると仮定することで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、単位構造体に厳密な周期位置からの位置ゆらぎがある試料の表面微細構造を評価することができる。
【0021】
(6)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体の位置ゆらぎに周期性がある場合に、前記位置ゆらぎの振幅および周期を用いて、前記単位構造体の位置ゆらぎの二乗平均を表すことで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、単位構造体の位置ゆらぎに周期性がある試料の表面微細構造を評価することができる。
【0022】
(7)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が円筒内に前記実体領域を有する試料モデルで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、単位構造体が円筒形状を有する試料の表面微細構造を容易に計測することができる。
【0023】
(8)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が、前記試料表面に平行なx方向に一様な台形体内に前記実体領域を有する試料モデルで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、ライン&スペース等の単位構造体が一定方向に一様な台形断面の形状を有する試料の表面微細構造を容易に計測することができる。
【0024】
(9)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が、前記試料表面に平行なx方向に一様な前記実体領域を有し、前記試料表面に平行で前記x方向に垂直なy方向に要素分割されている試料モデルで、前記要素の和で積分を近似することで前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、単位構造体が一定方向に一様な形状を有する試料の表面微細構造について、微細な特徴まで評価することができる。
【0025】
(10)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が前記x方向に一様な断面構造を有する実体領域を有する試料モデルを仮定し、前記断面形状の上辺両端の凸状端部の曲率半径または下辺両端の凹状裾野部の曲率半径をパラメータに含めて、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。これにより、単位構造体が一定方向に一様な台形断面の形状を有する試料の表面微細構造について、端部の曲率半径等の微細な特徴まで評価することができる。
【0026】
(11)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が、前記x方向に一様な台形体に形成された第1の実体領域を有し、前記第1の実体領域の材質とは異なる材質からなり前記第1の実体領域上に層状に形成された1または複数の第2の実体領域を有する試料モデルで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。このような試料モデルを用いれば、たとえば各種ディバイスの製造プロセスで、第2の実体領域がラインの側壁や底部に均一に成膜できているかを非破壊で測定することが可能になる。
【0027】
(12)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が、前記x方向に一様で、前記x方向に垂直な断面形状が非対称な台形となる前記実体領域を有する試料モデルで、前記X線の散乱強度を計算することを特徴としている。このような試料モデルを用いれば、たとえば各種ディバイスの製造プロセスで、非対称な側壁構造が形成された場合にも、側壁角の非対称性に検出感度を持たせることができる。その結果、非対称性が懸念されるプロセスのモニターとして有効に活用できる。
【0028】
(13)また、本発明に係る表面微細構造計測方法は、前記単位構造体が前記試料表面に平行なx方向および前記試料表面に平行で前記x方向に垂直なy方向にそれぞれ周期構造を持つ実体領域を有し、前記試料表面に平行で前記xおよびy方向に要素分割されている試料モデルで、前記要素の和で、前記各要素による前記X線の散乱強度を積分することを特徴としている。これにより、表面に2次元的な周期構造を有し、各単位構造体が複雑な断面形状を持つ場合についても断面形状の違いを評価することができる。
【0029】
(14)また、本発明に係る表面微細構造計測データ解析方法は、試料表面上の微細構造を計測する表面微細構造計測データ解析方法であって、表面上の微細構造により、前記表面に垂直な方向に1または複数の層が形成され、前記層内において前記表面に平行な方向に単位構造体が周期的に配列している試料モデルを仮定し、前記層によって生じる屈折および反射の効果を考慮し、前記微細構造によって散乱されたX線の散乱強度を
試料表面に対するX線入射角α、出射角β、および散乱ベクトルの試料表面に平行な成分(Qx、Qy)の関数として計算し、前記試料モデルにより算出されるX線の散乱強度を前記試料表面に微小な入射角でX線を照射して実測された散乱強度にフィッティングするステップと、前記フィッティングの結果、前記単位構造体の形状を特定するパラメータの最適値を決定するステップと、をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0030】
これにより、波長の短いX線を用いた利点が活かされ、光散乱強度などを用いる場合に比べて微細な構造を正確に計測することができる。また、層構造が形成された試料モデルおよび表面の実体領域の形状に合わせた散乱強度を用いることにより、試料の3次元的な構造的特徴を評価することができ、ライン&スペースやドットで形成された各種ディバイスの表面構造等を評価することができる。
【0031】
(15)また、本発明に係るX線散乱測定装置は、試料表面上の微細構造の計測に適したX線散乱測定装置であって、X線源から放射されたX線を分光するモノクロメータと、前記分光されたX線に対して、前記試料表面上でのスポットサイズを30μm以下に制限可能なスリット部と、前記分光されたX線の前記試料表面への入射角を変える回転および前記試料表面の面内回転を可能にしつつ、前記試料を支持する試料台と、前記試料表面で散乱されたX線の散乱強度を測定する2次元検出器と、を備えることを特徴としている。これにより、試料表面におけるX線の照射領域の広がりを抑え、表面に形成されたナノメートルサイズの微細構造を反映したX線の散乱強度を測定できるため、微細な構造を正確に計測することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、光散乱強度などを用いる場合に比べて微細な構造を正確に計測することができる。また、層構造が形成された試料モデルおよび表面の実体領域の形状に合わせた散乱強度を用いることにより、試料の3次元的な構造的特徴を評価することができ、ライン&スペースやドットで形成された各種ディバイスの表面構造等を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係る表面微細構造計測システムの装置構成および機能ブロックを示す
図である。
【
図2】本発明に係るX線散乱測定装置の構成例の一部を示す側面図である。
【
図3】本発明に係るX線散乱測定装置の構成例の一部を示す側面図である。
【
図4】表面微細構造を有する試料の例を模式的に示した斜視図(またはシミュレーショ
ン用の数式を理解するための補助図)である。
【
図5】表面微細構造を有する試料の例を模式的に示した斜視図(またはシミュレーショ
ン用の数式を理解するための補助図)である。
【
図6】表面微細構造測定装置におけるシミュレーションおよびフィッティングの動作を
示すフローチャートである。
【
図7】N層の多層構造を持つ試料の層内の入射X線による電場の様子を示す模式図であ
る。
【
図8】N層の多層構造を持つ試料の層内の散乱X線による電場の様子を示す模式図であ
る。
【
図9】表面にライン&スペースが形成された試料モデルの断面図である。
【
図10】層構造が形成された試料モデルを示す断面図である。
【
図11】高さにより材質の異なる構造を有する試料モデルを示す断面図である。
【
図12】凸部に段差のある試料モデルを示す断面図である。
【
図13】微細構造の上に新たな被覆層が形成された試料モデルを示す断面図である。
【
図14】乱れの周期をp=2として計算した周期和の部分から出てくる散乱強度を示す
図である。
【
図15】断面台形のライン部分を有する試料モデルの断面図である。
【
図16】
図15のモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。
【
図17】断面台形のライン部分を有する試料モデルの断面図である。
【
図18】
図17のモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。
【
図19】表面が層で覆われたライン部分を有する試料モデルの断面図である。
【
図20】
図19のモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。
【
図21】非対称な側壁が形成されたライン部分を有する試料モデルの断面図である。
【
図22】
図21のモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。
【
図23】試料の平面SEM写真である。
【
図24】試料の断面
TEM写真である。
【
図25】
図23および
図24に示す試料の試料モデルの断面図である。
【
図26】実測されたX線散乱強度を示すグラフである。
【
図27】算出されたX線散乱強度を示すグラフである。
【
図28】1次のピークについて実測したX線散乱強度と算出したX線散乱強度とを示す
グラフである。
【
図29】3次のピークについて実測したX線散乱強度と算出したX線散乱強度とを示す
グラフである。
【
図30】半導体基板の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【発明を実施するための形態】
【0034】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0035】
[システム全体の構成]
図1は、表面微細構造計測システム100の装置構成および機能ブロックを示す図である。
図1に示すように、表面微細構造計測システム100は、X線散乱測定装置110、表面微細構造解析装置120から構成されている。
【0036】
X線散乱測定装置110は、X線を微小な角度で試料に照射し、散乱強度を測定できる装置である。表面微細構造解析装置120は、既知のパラメータを用いて散乱強度を算出し、実測値とフィッティングを行うことにより、試料の表面微細構造の特徴を算出できる装置である。表面微細構造解析装置120は、たとえばPC等のようにCPU、記憶装置、入力装置、出力装置を備えるコンピュータであり、入力装置や出力装置は外部に設けられていてもよい。入力装置は、たとえばキーボードやマウスであり、既知のパラメータ等を入力する際に用いられる。出力装置は、たとえばディスプレイやプリンタであり、フィッティングの結果を出力する。
【0037】
表面微細構造解析装置120は、X線散乱測定装置110に接続されており、X線散乱測定装置110から自動送出された測定データを蓄積する。自動送出が好ましいが、記録媒体等によりデータを表面微細構造解析装置120に記憶させることとしてもよい。なお、制御プログラムをインストールしておき、実測の際に表面微細構造解析装置120から、X線散乱測定装置110を操作できるようにしてもよい。
【0038】
[解析装置の構成]
表面微細構造解析装置120は、パラメータ取得部121、数式記憶部122、シミュレート部123、フィッティング部124および出力部125を備えている。パラメータ取得部121は、X線散乱測定装置110から得られたX線散乱の条件を特定するパラメータおよびユーザの入力したパラメータを取得する。取得されるパラメータには、たとえば、X線の試料140への入射角α、試料表面の単位構造体の形状を特定するパラメータの初期値がある。また、フィッティングにより求めようとするパラメータには、たとえば断面台形の高さH、上辺の長さWt、下辺の長さWb、上辺の凸状端部の曲率半径Rt、凹状裾野部(下部エッジ)の曲率半径Rb等がある。
【0039】
数式記憶部122は、特定の試料モデルに対して、シミュレーションにより散乱強度を算出するための数式を記憶する。シミュレート部123は、一方で、数式記憶部122から所望の試料モデルに対する散乱を算出するための数式を数式記憶部122から取得し、他方で既知パラメータから取得された既知パラメータから必要な各種パラメータの値を選択し、X線の散乱強度を算出する。フィッティング部124は、シミュレート部123により算出されたX線の散乱強度とX線散乱測定装置110により実測されたX線の散乱強度とをフィッティングする。
【0040】
X線散乱強度の算出に各数式を用いる場合、入射角α、第m層の屈折率、偏光因子P等の既知数などが必要となる。たとえば、入射角αはX線散乱測定装置110の自動送出、第m層の屈折率n
m、偏光因子Pは手動入力、古典電子半径r
cは、予め記憶されたものの利用により得られる。表面微細構造解析装置120には、このための入力手段、記憶手段等が必要であり、これら各種手段から得た数値をもとにシミュレート部123は散乱強度を算出する。X線散乱強度の算出およびフィッティングの際の表面微細構造解析装置120の動作については後述する。なお、測定したX線散乱強度から構造モデルと整合する屈折率n
mを求めてもよい。
【0041】
[測定装置の構成]
図2および
図3は、それぞれX線散乱測定装置110の構成例の一部を示す側面図である。
図2に示す構成では、X線散乱測定装置110は、モノクロメータ113、第1のコリメーションブロック114、第2のコリメーションブロック115、試料台115a、2次元検出器116およびビームストップ117を備えている。
【0042】
モノクロメータ113は、図示しないX線源から放射されたX線を分光し、分光されたX線を試料140方向へ照射する。第1のコリメーションブロック114および第2のコリメーションブロック115は、X線を遮蔽可能な部材よりなり、分光されたX線を絞るスリット部を構成している。このような構成により、試料140へのX線の照射角は、0.1以上0.5°以下の範囲にまで小さくされている。一対のコリメーションブロック114、115により、試料表面上でのX線のスポットサイズを30μm以下に制限することができる。これにより、試料表面におけるX線の照射領域の広がりを抑え、表面に形成されたナノメートルサイズの微細構造を反映したX線の散乱強度を測定できるため、微細な構造を正確に計測することができる。なお、スポットサイズを20μm以下に制限できる構成であればさらに好ましい。このように、スポットサイズを小さくし、入射角を小さくすることにより試料表面のナノメートルサイズの微細構造を測定することができる。特に、コリメーションブロック114、115を利用することで、精密にX線を阻止しコリメーションの精度を高めることができる。
【0043】
試料台115aは、平面の台上で試料140を支持している。また、試料台115aは、分光されたX線の試料表面への入射角を変える回転および試料表面の面内回転が可能である。このように試料140の回転を可能にすることで、試料140による散乱強度を回折角に応じて測定できる。
【0044】
試料140は、表面に微細構造を有する部材であり、たとえばシリコン等からなる表面微細構造を有する基板である。2次元検出器116は、試料表面で散乱されたX線の散乱強度を検出面上で測定する。ビームストップ117は、試料140を透過した入射X線を受け止める。このようにX線散乱測定装置110は、試料表面上の微細構造の計測に適した構造を有している。
【0045】
また、
図3に示す構成では、X線散乱測定装置110は、
図2に示す構成の一対のコリメーションブロック114、115に代えてスリット118およびナイフエッジ119を備えている。このようにスリット118およびナイフエッジ119を用いることで、簡易にX線のスポットサイズを調整することができる。
【0046】
[試料]
図4および
図5を、ここでは表面微細構造を有する試料140および145の例を模式的に示した斜視図として参照する。試料140、145は、表面に数nm〜数百nm程度の微細な周期構造の単位を有する。このような試料にX線を照射し、散乱X線を測定、解析することで、周期的に配列した単位構造体を特徴づけるパラメータが測定可能となる。
【0047】
図4に示す試料140は基板状に形成され、その表面141上に円柱状の単位構造体が図中のX方向およびY方向に周期的に整列した微細構造が形成されている。また、
図5に示す試料145も同様に基板状に形成されているが、その表面146にはX方向に一様でYZ平面による断面が矩形状である単位構造体がY方向に周期的に整列している。
【0048】
このような試料140、145に対し、スポットサイズを50μm以下、好ましくは30μm以下に絞ったX線を試料140の表面141に入射角αで入射させて、実測された散乱X線の強度と、同様な形状の試料モデルを用いて算出された散乱X線の強度とをフィッティングさせることで、実際の試料形状を得ることができる。なお、実際のX線照射の実験をする際には、周期構造が有する方向性と入射X線の方向性との整合をとるように試料140、145を配置する。なお、図中のX方向は、試料を配置した際の試料表面とX線の入射面との交線方向、Z方向は試料表面と垂直な方向、Y方向はX方向および
Z方向の両方に垂直な方向である。
【0049】
[測定方法]
次に、上記のように構成された表面微細構造計測システム100を用いて試料表面上の微細構造を計測する表面微細構造計測方法を説明する。まず、所定の試料を微細構造の方向性に合わせて試料台に設置し、試料表面に微小な入射角でX線を照射してX線散乱強度を測定する。X線出射角βに応じてX線強度を測定する。その際、周期的構造によるX線の回折を利用するため、必要に応じ試料を、Z軸を中心として面内で回転しながら測定する。
【0050】
そして、所定の試料の周期的構造の単位構造体の形状を特定するパラメータにより、試料モデルを仮定し、シミュレーションでX線散乱強度を算出する。すなわち表面上の微細構造により表面に垂直な方向に1または複数の層が形成され、層内において表面に平行な方向に単位構造体が周期的に配列している試料モデルを仮定し、それぞれの界面により屈折および反射されたX線の構造体による散乱を計算し、これに基づいて試料モデルにより算出されるX線の散乱強度を測定された散乱強度にフィッティングする。そして、フィッティングの結果、単位構造体の形状を特定するパラメータの最適値を決定する。以下、詳細に説明する。
【0051】
[シミュレーション用の数式]
各試料モデルに対するシミュレーション用の数式を説明する。表面に層構造を有し、各層内で単位構造体が周期的に配列した微細構造を有する試料モデルに対しては、以下の数式(1)を用いてX線散乱強度を算出することができる。ここでは
図4および
図5を、以下の数式の理解を助けるための補助図として参照する。
【数1】
なお、F
DWBAは、後述の式(37)に基づく。
【0052】
また、数式(1)では、単位構造体が層内で一様な実体領域および空間領域により形成され、実体領域により散乱が生じると仮定しており、Zmj(xj,yj)は、実体領域と空間領域の境界を示している。このように、層構造が形成された試料モデルおよび表面の実体領域の形状に合わせた散乱強度式を用いることにより、試料の3次元的な構造的特徴を評価することができ、ライン&スペースやドットで形成された各種ディバイスの表面構造等を評価することができる。
【0053】
数式(1)では、単位構造体が厳密な周期的位置からの位置ゆらぎu(X
j)を考慮しているが、u(X
j)についてはこのままでは具体的に計算できない。単位構造体の位置ゆらぎがXjに依存せずランダムであると仮定できる場合には以下の数式(2)を用いることができる。
【数2】
【0054】
なお、数式(2)では、位置ゆらぎによる散乱への影響が単位構造体同士の相対的な位置関係に依存していないと仮定している。これにより、単位構造体にランダムな位置ゆらぎがある試料の表面微細構造を評価することができる。
【0055】
一方、単位構造体の位置ゆらぎに周期性がある試料モデルを仮定できる場合には、以下の数式(3)を用いることができる。
【数3】
このように、単位構造体の位置ゆらぎに周期性がある場合に、位置ゆらぎの振幅および周期を用いてX線散乱強度を計算することができ、試料の表面微細構造を評価することができる。
【0056】
単位構造体の構造因子F
jについての積分は、試料モデルの単位構造体の形状に応じてパラメータを入れて求める必要があるが、特定の場合には、簡易な数式で積分を求めることができる。以下に、単位構造体の形状に応じて用いられる構造因子を説明する。
【0057】
(円筒形状)
単位構造体が円筒形状を有する試料モデルを仮定できる場合には、以下の数式(4)に示す単位構造体の構造因子F
jを用いることができる。数式(4)では、単位構造体が円筒内に実体領域を有する試料モデルを仮定している。
【数4】
【0058】
(断面台形形状)
単位構造体がx方向に一様な台形断面の形状を有する試料モデルを仮定できる場合には、以下の数式(5)に示す単位構造体の構造因子F
jを用いることができる。数式(5)では、単位構造体が、試料表面に平行なx方向に一様な台形体内に実体領域を有する試料モデルを仮定している。
【数5】
【0059】
(その他の複雑な形状)
x方向に一様な形状を対象とするときに上記のような単純な形状の試料モデルであれば、数学的にF
jを求めることも可能である。しかし、たとえば、断面台形形状で端部の曲率を考慮しなければならない場合等、複雑な形状の試料モデルを仮定しなければならない場合には、単位構造体がx方向に一様な形状を有し、y方向に要素分割されている試料モデルを仮定し、以下の数式(6)に示す単位構造体の構造因子F
jを用いてフィッティングを行うことができる。このような数式を用いることでたとえば、台形断面の高さ、上辺、下辺、上辺両端の曲率半径および下辺両端の裾野部の曲率半径等のパラメータを得ることができる。このように、数式(6)では単位構造体が、試料表面に平行なx方向に一様な実体領域を有し、試料表面に平行でx方向に垂直なy方向に要素分割されている試料モデルを仮定している。そして、要素の和で積分を近似している。
【数6】
【0060】
なお、数式(6)において、単位構造体のy−z断面に関し、高さ、上辺の長さ、下辺の長さ、上辺両端の凸状端部の曲率半径および下辺両端の凹状裾野部の曲率半径を、単位構造体を特徴づけるパラメータとすることができる。このように、数式(6)によって微細な特徴まで評価することができる。
【0061】
[算出方法(シミュレーションおよびフィッティング)]
次に、試料の層内に形成された周期構造の単位構造体を特定するパラメータを用いてX線散乱強度を求める方法として、シミュレーションおよびフィッティングを説明する。
図6は、表面微細構造解析装置120におけるシミュレーションおよびフィッティングの動作を示すフローチャートである。あらかじめ、実測したX線散乱強度は、X線散乱測定装置110から自動送出され表面微細構造解析装置120に記憶されているものとする。
【0062】
まず、実測した試料に応じて試料モデルを仮定して、表面に周期構造を有する試料モデルに合った数式を数式(1)〜(3)および(4)〜(6)から選択する。実際の測定時と同じ条件に設定して、適切な試料モデルによる数式を選択する。表面微細構造解析装置120は、ユーザからの数式選択の入力を受け付ける(ステップS1)。選択された数式で与えられる散乱強度では、形状因子Fjが重要な要素となっている。
【0063】
試料に入射し複数の層内を進むX線は、試料表面だけでなく、各層間の界面(基板と膜との間の界面を含む)において屈折および反射が生じる。この効果は多層になればなるほどその影響が重畳されていく。このため、界面での屈折および反射をも考慮した数式を用いることで、複雑な表面構造を有する試料についての解析の精度を向上させることができる。
【0064】
次に、その数式を用いる計算に必要な数値をユーザの入力およびX線散乱測定装置110の自動送出により受け付ける(ステップS2)。初期のフィッティングパラメータとしては、たとえば円柱の径a、高さH、台形の上辺Wt、下辺の長さWb、高さH、上辺凸状端部の曲率半径Rt、裾野部の凹部曲率半径Rbの数値がある。また、全構造体数Nにより全体の強度が決まる。後述するように各パラメータ[a、H、N]または[Wt、Wb、H、Rt、Rb、N]の数値を最適化することで、実測の散乱強度にフィットする散乱強度を算出できる。
【0065】
次に、上記で選択される数式および受け付けた数値を用いて、散乱強度を算出する(ステップS3)。上記のパラメータを用いて数式を算出することにより、検出面上の各Qy、Qzに対する散乱強度が得られる。
【0066】
そして、算出したX線散乱強度と実測したX線散乱強度とのフィッティングを行う(ステップS4)。X線散乱強度は、それぞれ検出面上の曲線として表される。このフィッティングでは、実験および算出した両曲線の一致度(あるいは両曲線の差)を検討する。たとえば、両曲線の差Wは、次の式で得られる。
【数7】
【0067】
そして、その差Wが所定範囲内であれば両曲線は一致すると判断し、そうでなければ両曲線は一致しないと判断する(ステップS5)。
【0068】
両曲線が一致しないと判断した場合は、単位構造体の形状を特定するフィッティングパラメータを変更して(ステップS6)、再度、X線散乱強度を算出し、実測したX線散乱強度との一致を判断する。これを、両曲線が一致するまでフィッティングパラメータの数値を調整および変更しながら繰り返す。
【0069】
算出したX線散乱強度と実測したX線散強度とが一致したときのフィッティングパラメータの選択値が、試料の表面微細構造を構成する単位構造体の形状を示す値となる。表面微細構造解析装置120は、得られたフィッティングパラメータの結果を出力し(ステップS7)、終了する。なお、このフィッティングにおいては、たとえば非線形最小二乗法を用いることにより、効率的に各フィッティングパラメータの最適値を求めることができる。また、上記のフィッティング例では、フィッティングパラメータの値を調整しながらその最適値を算出しているが、フィッティング方法は任意であり、特に限定されない。
【0070】
以上の実施形態におけるX線散乱強度の算出およびフィッティングは、コンピュータにて記憶・起動可能なソフトウェアにより、表面微細構造解析装置120に実行させることができる。また、表面微細構造計測システム100は、X線散乱測定装置110と表面微細構造解析装置120との間で双方向あるいは一方向でデータを送受できるように構築されることが好ましい。シミュレート部123によるパラメータの最適値の選択では、算出されたX線散乱強度と実測されたX線散乱強度との一致度が高くなるように(たとえば所定値に近づくように)、最小二乗法等を用いて自動的に選択することで、完全自動で解析を行うことが好ましい。なお、任意にパラメータを手動入力することとしてもよい。また、各ステップについて連続的に自動計算を行うようにしてもよいし、ユーザがコンピュータを用いて算出することとしてもよい。
【0071】
[原理および数式の導出]
(周期的配列構造からのX線回折)
上記のシミュレーションに用いられる数式の導出について説明する。まず、単位構造体の集合からのX線散乱・回折に関して考えると、散乱の基本式は、次の通りである。
【数8】
【0072】
小角散乱の場合、単位構造体を作る原子は離散的に存在するのではなく、連続的に存在すると仮定しても,よい近似が得られる。そこで、単位構造体の内部座標r
μを導入し、原子位置を、X
μ→X
j+r
μと書き換える。ここで、X
jは単位構造体jを代表する位置座標である。こうして数式(7)を書き直すと、次の通りである。
【数9】
【0073】
ここで、単位構造体の内部の原子は連続的に分布しているものと仮定して、その構造因子を以下のような積分で表している。
【数10】
【0074】
そして、単位構造体内部で原子分布が一様だと仮定すれば、数式(9)はさらに単純に、次式のように表せる。
【数11】
【0075】
このように単位構造体の形状を表す関数が導かれるため、この関数を形状因子あるいは外形因子と呼ぶこともある。
【0076】
次に、単位構造体が周期的に配列している場合の散乱強度を求めるために、数式(8)の和を周期構造およびその「乱れ」を考慮して計算する。周期構造の乱れは結晶においては、熱振動による原子位置の揺らぎや結晶欠陥による原子の結晶格子位置からの静的な変位等に関して、定式化されている。この方法を単位構造体の周期的配列からの乱れに対して、適用する。そのために、単位構造体の位置ベクトルX
jを厳密な周期位置とそこからの乱れに分ける。
【数12】
【0077】
さらに個々の単位構造体の位置揺らぎや大きさの揺らぎを考慮して散乱強度を計算するために、統計的な扱いを導入する。
【数13】
【0078】
ただし、以下の演算子は全単位構造体数Nについての物理量Aの統計的平均を表している。
【数14】
【0079】
ここでは系全体の均一性により、相関関数は両者の相対的な位置関係kにのみ依存するものと仮定した。
【0080】
まず、位置揺らぎについて考えて指数関数を展開する。簡単のため、次の関係が成り立つと仮定する。
【数15】
【0081】
そして、以下の式を得る。
【数16】
【0082】
相対的な位置関係には必ず正負が存在するため、それらについて平均を取ると一次の項はゼロとなり、二次の項が残る。したがって、この近似の範囲で次式のように表せる。
【数17】
【0083】
ただし、変位の相関は相互の位置の差ΔX
kのみの関数g(ΔX
k)で表せると仮定した。また、Q
uは散乱ベクトルQの変位u方向への投影を表している。位置揺らぎの相関はX線回折における、いわゆるHung散乱を生む原因となる。相関の簡単な例として、距離に関係なくランダムに変位している場合と周期的な位置揺らぎがある場合についての具体的な表式を与える。まず、g(ΔX
k)を用いると数式(6)は次のように書ける。
【数18】
【0084】
g(ΔX
k)が距離に関係ない場合には、式(16a)に示すように一定の平均二乗ゆらぎとして表される。距離に関係なく表される平均二乗ゆらぎは、ちょうど結晶による回折における温度因子に似たふるまいをする。また、周期pを持つ位置揺らぎの振幅をbとすれば、以下の式(16b)のように表すことができる。
【数19】
【0085】
そして、回折強度は次のように表せる。
【数20】
この式により、本来の周期による回折ピークの他に、そのp倍の超格子周期によるピークを表現することができる。
【0086】
ところで、一般的には、構造因子が数式(9)あるいは(10)で表される単位構造体の構造ゆらぎも相互の位置の差ΔX
kに依存する相関を持つ場合がありえる。しかし、そのような相関が無視できる場合に構造因子の相関は以下の式のように表せる。
【数21】
【0087】
そして、数式(12)、(16)および(17)は、次のようにさらに簡単に表される。
【数22】
【0088】
ここで、注目すべき点は、単位構造体の構造因子の式で、はじめの項は自分自身の二乗であるので、二乗後に平均をとり、後の項は異なる散乱体間の干渉の結果現れる項であるので、それぞれの構造因子について平均をとり、その後に二乗する形になっている点である。したがって、周期構造が長距離まで続いている場合は、二項目が大きな寄与をする一方、規則性が弱い場合には、この二つの項の寄与がQの大きさにより徐々に変化する。これらの式を採用することで、構造因子の平均の取り方が変わって行く様子を正しく記述することができる。ただし、一般的にX線の可干渉領域は狭く、観測している領域すべてが可干渉的に散乱に寄与することは少ない。そのような場合に構造の分布を考慮するためには、上の3つの式において、さらにそれぞれの分布に応じた新たな平均化が必要になる。
【0089】
(表面や薄膜における反射・屈折を考慮したX線の回折)
本発明は、表面の単位構造体の構造解析が目的である。そのため、X線を表面すれすれの微小角で入射させて回折・散乱を測定する。そのような場合には、X線の表面における反射・屈折効果を考慮した回折強度計算が必要である。その計算方法について以下に説明する。
【0090】
X線を低角度で試料表面に入射した場合、表面や界面における反射および屈折が重要である。反射X線小角散乱を測定する場合には、それを考慮する必要がある。
図7および
図8は、一般的なN層の多層構造を持つ試料の層内の電場の様子を示す模式図である。ここで、
TE
m、
RE
mはそれぞれm層内における進行波と反射波を表している。これらの値は、各層の屈折率n
m、厚さd
mおよびX線入射角α
0が与えられれば、Fresnelの公式に基づいて計算することができる。
【0091】
散乱波については、膜内で生成して表面から出射角a
0で出ていく波を考える必要がある。そのような条件を満たす多層膜内の電場を表す波動方程式の解としては、通常の解を時間反転したものがある。これは、通常の解の複素共役をとり、さらにt→−t(k→−k)とすることによって得られる。この解を以下の記号で表す。
【数23】
【0092】
まず、
入射波(wave1)による電場は具体的には、以下のように書ける。
【数24】
【0093】
また、散乱波(wave2)についても同様に次式で与えられる。
【数25】
【0094】
これらの量は、入射角、出射角および膜構造のパラメータn
m、d
mが与えられれば計算することができる。また、上式の代わりに、界面粗さσ
mを考慮した式として、以下の式を用いることもできる。
【数26】
【0095】
これらを用いて、層m内の密度不均一によるポテンシャルV
mによって起こるwave1からwave2への遷移振幅は次のように書ける。
【数27】
ここで得られた数式(27)の絶対値の2乗が散乱確率を与える。以上で示した表面散乱の扱いはDistorted Wave Born Approximation (DWBA)と呼ばれる。
【0096】
(表面ナノ構造の形状(構造)因子)
上記の基本的な計算の枠組みをもとに実際のナノ構造の構造因子を与え、具体的なX線散乱強度計算を行う。
図9は、表面にライン&スペースが形成された試料モデルの断面図である。コヒーレント長より十分小さな間隔で並んだ単位構造体が表面に存在するところへ臨界角近傍の低角度でX線が入射すると、X線は単位構造体底面だけでなく単位構造体の上面でも反射される。そして、あたかも表面に薄膜が形成されたかのようにX線反射率において単位構造体の高さHを反映した干渉縞が現れる。
【0097】
これを考慮すると、表面に密に形成された構造に対しては、例えば、各層に周期構造を有する層構造に対する表面電磁場を計算し、それをもとに表面構造からの散乱問題を扱う必要があることがわかる。
図10は、層構造が形成された試料モデルを示す断面図である。表面での反射波および屈折波に関しては後述し、数式(25)〜(27)によって表されている膜内にポテンシャルVを持つ散乱体がある時の散乱振幅を説明する。たとえば、
図9に示す表面形状での散乱振幅を計算するには、まずこの表面形状を各点(X,Y)における表面の高さZ(X,Y)として表す。なお、
図9の例では単位構造体は第1層にのみ存在しているが、一般には、単位構造体は複数の層にまたがって存在してもよい。構造体が表面の複数の層にまたがって存在しているとすると、第m番の層(Lm)における散乱振幅は、以下のように表される。
【数28】
【0098】
ただし、θ(x)は以下で表される階段関数である。
【数29】
【0099】
このとき、0<Z
m(X,Y)<d
mであれば、数式(28)のz
mに関する積分は以下のように実行できる。
【数30】
【0100】
そして、それぞれの項を次式のように表すこととする。
【数31】
【0101】
したがって、散乱振幅数式(27)は次のようにまとめることができる。
【数32】
【0102】
さらに単位構造体がY方向に周期性を持つ場合を考える。そのような場合に関して(7)〜(17’)式で論じてきた。これを数式(32)の具体的な計算に適用してみる。まず表面ナノ構造を一般的に扱うため、面内に二次元的周期構造が形成された場合を考える。そのため、周期構造を作る一つ一つの単位構造体内における個々の点(X,Y)を局所座標(x
j,y
j)とそれぞれのセルの位置座標(X
j,Y
j)を使って(X,Y)=(Xj+xj,Yj+yj)と表し、数式(31)を書き直すと、次式のようになる。
【数33】
【0103】
これらは、全反射領域においてに大きな虚数項を持つ点に注目すべきである。またここで、数式(33)における形状関数Zmj(X
j,Y
j)についての積分部分を繰り返し構造における単位部分の構造因子として、次式のように定義する。
【数34】
【0104】
これを用いて数式(32)を書くと、次のようにまとめられる。
【数35】
【0105】
ここでは、表面に形成された微細構造が一層あるいはそれ以上の層構造をとっていても散乱振幅を計算できる。このように、微細構造が複数の層を形成する例としては次のような構造が挙げられる。
図11は、高さにより材質の異なる構造を有する試料モデル147を示す断面図である。
図11に示すように、試料モデル147は、凸部の先端部147aの材質と、凸部の裾野部147bおよび基板本体部分の材質が異なっている。この先端部147aを層L1とみなし、裾野部147bを層L2とみなすことで計算が容易になる。
図12は、凸部に段差のある試料モデル148を示す断面図である。
図12に示すように、試料モデル148は、凸部の先端部148aと凸部の裾野部148bとの間に段差が存在する。これらについても、先端部148aを層L1とみなし、裾野部148bを層L2とみなすことができる。また、
図13は、微細構造149bの上に新たな被覆層149aが形成された試料モデル149を示す断面図である。この場合には、被覆層149aを層L1と、微細構造149bを層L2とみなすことができる。このような場合には多層構造モデルが有効である。
【0106】
周期構造に乱れがある場合には、jに関する和をとる際、各セルの位置座標を次式のように平均位置と乱れによる変位に分けて散乱断面積(散乱強度)を計算する。
【数36】
【0107】
その場合には数式(12’)、(16’)および(17’)等がそのまま適用できる。
【数37】
【0108】
図14は、数式(40)を例に乱れの周期をp=2として計算した周期和の部分から出てくる散乱強度を示す図である。横軸の散乱ベクトルQの値が、0.1の倍数位置に現れているピークは、本来の周期構造による。また、それぞれの中間位置に出ているやや弱いピークは、周期的乱れに起因する。
【0109】
次に、単位構造体に対応する拡張した構造因子F
DWBAの具体的計算を説明する。ここで、「拡張した」とは、数式(36)で示されているように表面における反射および屈折をDWBAに基づいて考慮したことを表しており、構造因子F
DWBAは散乱ベクトルQのみでなく、入射角αと出射角βに直接依存する関数になっていることに注意すべきである。数式(36)の各要素は数式(35)で与えられているので、まずこれをいくつかの具体的例について求める。
【0110】
(円筒形(高さH、半径A))
このとき、半径Aの内部では円筒の高さは常にHであるので、次の解析的な解が得られる。
【数38】
【0111】
(一次元台形Grating)
次にX方向に無限に長い台形形状をもつ一次元Gratingを考える。このときも積分は解析的に実行できて、次の形状因子が得られる。
【数39】
なお、台形のパラメータは、上辺の長さWt、下辺の長さWb、高さHである。
【0112】
(複雑な形状関数の場合における構造因子)
以上の2つの例は、解析的に積分が実行できる場合である。しかし一般には、このような積分が容易にできるわけではない。そこで、複雑な形状に対しても適用可能な方法について考える。例えば、LSIのゲート構造をモデル化した
図9で示す構造をもつ一次元Gratingにおいては解析的な積分ができないため、離散化した数値積分により数式(35)の形状因子を計算し、散乱強度を求める必要がある。このとき実用上の観点から、できるだけ効率よく積分を実行することが必要である。その計算を具体的に行う前に、数式(38)〜(40)の特徴に関して述べておく。どの場合も、
図14に示すような周期構造に由来する回折ピークが現れ、表面ナノ構造を反映したX線散乱強度が観測されるのはこの回折ピーク位置のみである。したがって散乱強度の計算は表面に平行な散乱ベクトルQ
//が回折条件2Lsinθ=hλを満たす回折角でのみ計算すればよい。このような場合、以下に示すように周期構造のフーリエ変換としてのFast Fourier Transformation(FFT)を以下のように有効に使うことができる。
【数40】
【0113】
ここで、回折条件と定義を示す数式(45)から数式(46)が回折ピーク位置を与えていることがわかる。
【数41】
【0114】
つまり、数式(44)で示したFFTによって、与えられた、断面形状関数Z(y)において、各Q
zaの値に対するすべての回折ピーク位置での散乱強度を一度に計算することができる。また、上記ではX方向に無限に続く一次元的なGratingを考えているが、これを二次元的な構造Z(x,y)に拡張すると以下のようになる。
【数42】
【0115】
次に、この数式(47)による計算方法を用いて
図9で示すような解析的に積分できない複雑な断面形状を持つ場合の散乱強度計算を行った例を示す。ここでは、台形形状に加え、各エッジの丸みも考慮に入れて、それが散乱パターンにどのような影響を与えるかを評価する。
図15および
図17は、断面台形のライン部分を有する試料モデルの断面図である。
図15に示すモデルに比べて、
図17に示すモデルは裾野部の形状を大きく変えている。
図16および
図18は、それぞれ
図15および
図17に示すモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。断面形状の違いが大きな散乱パターンの差となって現れていることが確認できる。
【0116】
(表層が単層または複数の膜で覆われた試料モデル)
上記のような複雑な形状関数の場合における構造因子を用いる方法は、表面が単層あるいは複数の層(膜)で覆われた試料モデルに対しても適用できる。
図19は、表面が層で覆われたライン部分を有する試料モデルの断面図である。
図20は、
図19のモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。
図20に示すように、このような試料モデルでは、平行なx方向に一様な台形体に形成されたコア部分(第1の実体領域)と、コア部分上に層状に形成された1または複数のレイヤー部分(第2の実体領域)とが単位構造体として試料表面に形成されている。レイヤー部分の材質は、コア部分とは材質とは異なっている。レイヤー部分は、複数の膜によって形成されていてもよい。このような試料モデルに対しても、X線の散乱強度を計算することができる。
【0117】
各種ディバイスの製造プロセスで、ラインアンドスペース構造の上にバリヤ膜やメタル膜をコーティングして形成した部材を検査する場合、薄膜はラインの上、側壁、底部にできるだけ均一な膜厚で形成されることが望ましい。このような場合に、上記の試料モデルを用いればラインの側壁や底部に均一に成膜できているかを非破壊で測定することが可能になる。
【0118】
(非対称な側壁が形成されたライン部分を有する試料モデル)
また、複雑な形状関数の場合における構造因子を用いる方法は、非対称な側壁が形成されたライン部分を有する試料モデルに対しても適用できる。
図21は、非対称な側壁が形成されたライン部分を有する試料モデルの断面図である。
図22は、
図21のモデルに対するシミュレーション結果を示す図である。
図21に示すように、試料表面に平行なx方向に垂直な断面形状が非対称な台形に形成された単位構造体を有する試料モデルであっても、X線の散乱強度を計算することができる。なお、上記の例は、試料表面に平行なx方向に一様なラインアンドスペース構造を有している。
【0119】
レジストでラインを形成し、それ以外の場所をエッチングによって削り取り、ラインアンドスペース構造を作成する際、異方的にエッチングガス等に曝され、非対称な側壁構造が形成される場合がある。このような場合にも、上記の試料モデルを用いることで側壁角の非対称性にも検出感度を持たせることができる。その結果、非対称性が懸念されるプロセスのモニターとして、非常に有効に活用できる。
【実施例】
【0120】
[実験結果]
単位構造体が繰り返し周期構造を有する試料を用いて実験を行った。試料には、正確な微細構造を確認済みである校正用のものを用いた。
図23および
図24は、それぞれ試料の平面SEM写真および断面TEM写真である。
図23および
図24に示すように、試料の表面には、X方向に一様な断面形状のライン部分146aが繰り返し単位としてY方向に一定間隔で整列して形成されている。すなわち、YZ平面による断面形状を解析する。また、ライン部分146aの間にはスペース部分146bが形成されている。断面台形の形状は、単なる台形ではなく、上辺の凸状端部146cと凹状の裾野部146dに所定の曲率半径を有する丸みが形成されていることが分かる。
【0121】
図25は、上記試料の試料モデルの断面を示す図である。上辺の長さ、下辺の長さ、高さという台形的な特徴だけでなく、上辺の凸状端部の曲率半径、凹状の裾野部の曲率半径のパラメータも導入し、上記の丸みを有する部分についての曲率半径も反映可能に表されている。
【0122】
上記の試料についてX線散乱強度を実測し、上記の試料モデルによるX線散乱強度を算出し、フィッティングによりパラメータの最適値を得た。
図26は、実測されたX線散乱強度を示すグラフである。
図26において、X線散乱強度の高い部分が白く示されている。一方、
図27は、最適なパラメータについてシミュレーションにより算出されたX線散乱強度を示すグラフである。
図26および
図27が示すように、散乱強度がほぼ一致していることが分かる。
【0123】
図28、
図29は、上記の結果に対して、それぞれ1次および3次のピークについて、実測したX線散乱強度と算出したX線散乱強度とを示すグラフである。各図において、実測値と計算値がほぼ一致していることが分かる。このように、パラメータを求めて得られたY−Z平面内における断面形状が
図24に示す断面TEM写真の形状と非常に良く一致していることが確認され、本発明の表面微細構造計測方法が有効であることが確認された。