(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スライド部材と、前記スライド部材と隙間を設けて重なり合う重なり部とを備えるスライド構造において、前記スライド部材が前記重なり部と重なる時に、前記重なり部と前記スライド部材との隙間に、人体の一部又は物品が引き込まれることを防止するスライド構造の引き込まれ防止方法であって、
前記スライド部材の重なり部側端部近傍に、請求項1または請求項2に記載の引き込まれ防止シートを貼り付ける
ことを特徴とするスライド構造の引き込まれ防止方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
図1,2に示すように、本発明の第1実施形態に係る引き込まれ防止シート10A,10Bは、電車の車両11Aの乗降口に設けられたスライド構造11などに用いられる。本実施形態では、電車を例示して説明するが、本発明の引き込まれ防止シートはバスなどの乗り物のスライド構造に用いられても良い。
スライド構造11は、スライド部材としての引戸12と、引戸12と重なり合う重なり部としての収納部13とを備える。スライド構造11は、図示しないレールに沿って引戸12を収納部13に対してスライド移動させることにより、乗降口を開閉する。
【0015】
引戸12は、板状部材であり、
図1では左右に開くように一対設けられている。引戸12は、上部にガラス窓121を有し、また、
図2に示すように車内側の内側表面122と車外側の外側表面123とを有する。
引戸12の表面の材質は、例えば、ステンレス板、鉄板上にメラミン樹脂が塗布されたものなどである。
このような引戸12は、表面が平滑であるため、滑り性が悪い。そのため、引戸12の内側表面122に指などが接触している状態では、引戸12の内側表面122と指などの表面との接触面積が広いため、引戸12が動く際、引戸12の内側表面122と指などとの間の摩擦力により指などが引戸12に引きずられる。
図2に示すように、引戸12は、収納部13から引き出された状態、すなわち、乗降口が閉じた状態で、収納部13と前後方向で重なる重なり部側端部としての収納部側端部124を有する。
【0016】
収納部13は、一対の引戸12をそれぞれ収納するように一対設けられている。収納部13は、いわゆる戸袋であり、互いに対向する側に開口131を有する箱状である。また、収納部13は、引戸12を収納するための空間132を形成する一対の側壁133を有する。収納部13は、引戸12に貼り付けられた引き込まれ防止シート10A,10Bと側壁133との隙間dを有して引戸12を収納する。すなわち、収納部13は、引戸12と隙間dを有して重なり合う。隙間dの幅は、8mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下が更により好ましい。隙間dを狭くすることにより、隙間dに厚みが厚い指や物品(荷物)などが引き込まれにくくなる効果がある。
【0017】
引き込まれ防止シート10A,10Bは、一対の引戸12にそれぞれ貼り付けられている。引き込まれ防止シート10A,10Bは、引戸12の収納部側端部124近傍に、引戸12を閉じた状態で収納部13の外に露出するように貼り付けられている。
引き込まれ防止シート10Aは帯状であり、
図1に示すように、左側の引戸12に貼り付けられている。この引き込まれ防止シート10Aは、収納部側端部124とガラス窓121との間に貼り付けられて、引戸12の上下方向に延びるように上端部から下端部まで貼り付けられている。
引き込まれ防止シート10Bは、
図1に示すように、右側の引戸12に貼り付けられている。この引き込まれ防止シート10Bは、引き込まれ防止シート10Aよりも幅が広く、ガラス窓121の一部を覆うように貼り付けられている。
また、引き込まれ防止シート10Bは、人間が引戸12に接触する高さの位置にのみ貼付されており、引戸12の上端部及び下端部には貼り付けられていない。具体的には、引戸12の下端部より30cm程度の高さから190cm程度の高さまで貼り付けられている。
なお、引き込まれ防止シート10A,10Bの形状は帯状に限らず、円形、楕円形、正方形、ひし形、五角形などの多角形や不定形な流線形状など、引戸12に貼り付けできるような形状であれば特に限定されない。
【0018】
引き込まれ防止シート10A,10Bは、幅が5cm以上であることが好ましく、15cm以上であることがより好ましく、30cm以上であることがさらにより好ましい。
引き込まれ防止シート10Bのように、幅をなるべく広くすることにより、指などが接触する箇所を広く覆うことができるので好ましい。一方、幅が5cm未満の場合、指などが接触する箇所を覆うことができないおそれがある。
なお、引戸12の1枚に対して貼り付ける引き込まれ防止シート10A,10Bは1枚とは限られず、人間が接触する可能性がある高さ方向に複数枚貼り付けてもよく、横方向に複数枚貼り付けてもよい。
【0019】
引き込まれ防止シート10A,10Bは、
図3に示すように、基材シート101と、粘着剤層102とを備え、引戸12に貼り付けられる前は、剥離シート14が積層されている。
基材シート101は、引戸12の内側表面122に対する貼付面101Aと、貼付面101Aと反対側で凹凸を有する面(凹凸面)101Bとを有する。
凹凸面101Bは、引き込まれ防止シート10A,10Bが引戸12に貼り付けられた際、引き込まれ防止シート10A,10Bの表面である。この凹凸面101Bは、十点平均粗さが1μm以上1000μm以下であることが好ましく、5μm以上500μm以下であることがより好ましく、10μm以上300μm以下であることがさらにより好ましい。凹凸を施すことにより、引戸12が開く時に指などが摩擦力で収納部13に引き込まれることを防止できる。凹凸面101Bと指などの表面との接触面積が減るために両者間に発生する摩擦力を凹凸面101Bがない状態と比べて低減できるためと考えられる。十点平均粗さが1μm未満であると、指などの表面と凹凸面101Bとの接触面積が広くなるため摩擦が大きくなり、収納部13に引き込まれる場合がある。
一方、引き込まれ防止シート10A,10Bの凹凸面101Bの十点平均粗さが1000μmを超える場合、凹凸面101Bが粗くなり過ぎて、逆に抵抗が大きくなり、摩擦力が大きくなるという問題が発生する可能性がある。なお、凹凸形成は、公知の方法で実施することができ、例えば、サンドブラスト加工やエンボス加工により実施することができる。サンドブラスト加工は、砂石、金属、樹脂等からなるブラスト材を基材シートに吹き付ける方法などが挙げられる。エンボス加工は、平板プレス機、ロールエンボス機などの公知の各種プレス機、エンボス機を用いて、基材シートに熱又は圧力によりエンボス板(エンボスロール)の凹凸形状を賦形することによりエンボス模様を施す方法や、押出成形する際にクーリングロール面に柄のついたロールを使用する方法などが挙げられる。エンボス加工にはシボ加工も含まれる。
【0020】
基材シート101としては、例えば、合成樹脂シートや紙があげられる。合成樹脂シートの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などが挙げられる。
紙の基材シート101としては、上質紙、コート紙、グラシン紙、ラミネート紙などの紙を用いることができる。
基材シート101の厚みとしては特に限定されるものではないが、1μm以上3000μm以下が好ましく、5μm以上1000μm以下がより好ましく、10μm以上500μm以下がさらにより好ましい。1μm未満であると薄いためにコシが弱くなり粘着剤を塗布したりエンボス加工のように凹凸を施す加工工程において取り扱いにくい場合があり、3000μmを超えるとコシが強すぎて加工工程において逆に取り扱いにくい場合がある。
【0021】
粘着剤層102は、基材シート101の貼付面101Aに形成され、引き込まれ防止シート10A,10Bを引戸12に貼り付けるためのものである。粘着剤層102を形成する粘着剤としては、例えば、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ポリウレタン系の粘着剤が挙げられる。中でも、アクリル系粘着剤は粘着力が優れているため好ましい。粘着剤のタイプとしては、水に分散しているタイプ、水又は溶剤に溶解しているタイプなどが挙げられる。
なお粘着剤の替わりに感熱接着剤を用いてもよく、さらには粘着剤層102を設けずに引戸12に貼り付ける時に接着剤や両面テープなどを用いてもよい。引戸12に貼付するための粘着剤などとしては、一度貼付したら簡単には剥がれない永久接着タイプや簡単に剥がすことができ何度でも貼り替えが可能な再剥離タイプの粘着剤などを挙げることができる。
引戸12に貼付するための粘着剤層102などの層の厚みとしては、1μm以上500μm以下が好ましく、5μm以上300μm以下がより好ましく、10μm以上150μm以下がさらにより好ましい。1μm未満であると接着性が不足する場合があり、500μmを超えても接着性がさらに向上するという効果を期待することはできずに粘着剤などのコストが上がるという経済的な問題につながることがある。
【0022】
剥離シート14は、引き込まれ防止シート10A,10Bに積層され、引き込まれ防止シート10A,10Bの粘着剤層102を保護するものである。剥離シート14としては、例えば、樹脂フィルムや紙などの剥離シート用基材の表面に、必要に応じてフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、長鎖アルキル基含有カルバメートなどの剥離剤をコーティングして剥離剤層を形成させたシートが挙げられる。
剥離シート用基材としては、ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、トリアセチルセルロースなどの樹脂フィルムや、上質紙、コート紙、グラシン紙、ラミネート紙などの紙を用いることができる。
引き込まれ防止シート10A,10Bを引戸12に貼り付ける際には、剥離シート14を剥がして引戸12の内側表面122に貼り付ける。引き込まれ防止シート10A,10Bは、引戸12に貼り付けられた状態では、凹凸面101Bが表面となる。
【0023】
引き込まれ防止シート10A,10Bは、
図4(A)に示すように、基材シート101と粘着剤層102との間に、中間基材シート103と、第2粘着剤層104とを備えても良い。
具体的には、中間基材シート103は、粘着剤層102の基材シート101側に隣接する。中間基材シート103の材料としては、基材シート101と同様のものを用いることができる。また、中間基材シート103は、基材シート101側の面に装飾部103Aを有することが好ましい。装飾部103Aは、指などが引き込まれることを防止するために注意喚起するものであることが好ましいが、引き込まれ防止シート10A,10Bが貼り付けられた引戸12のデザイン性を向上させたり広告情報を表示するためのものでもよい。
装飾部103Aには、印字や着色が施されている。印字としては、例えば、
図4(B)に示すような警告文「荷物の引き込まれにご注意下さい」が挙げられ、着色としては、例えば、利用者に目立つ黄色、赤色、黄色と黒色の縞模様などが挙げられる。印字などを施す方法としては、例えば、グラビア印刷、シルク印刷、インクジェットなどが挙げられる。
【0024】
中間基材シート103が装飾部103Aを有する場合、基材シート101及び第2粘着剤層104は、装飾部103Aの視認性を確保するため、透明又は半透明であることが好ましい。
第2粘着剤層104は、中間基材シート103と基材シート101との間に介在され中間基材シート103と基材シート101とを接着する。第2粘着剤層104を形成する粘着剤としては、粘着剤層102と同様のものを用いることができる。
【0025】
(スライド構造の引き込まれ防止方法)
次に、本発明の第1実施形態に係るスライド構造の引き込まれ防止方法を説明する。
図1,2のように、引戸12が乗降口を閉じている状態で、引戸12の収納部側端部124近傍に引き込まれ防止シート10A,10Bを貼り付ける。
そして、利用者が引戸12の収納部側端部124近傍に寄りかかっている場合、引き込まれ防止シート10A,10Bに指などが接触する時があるが、引き込まれ防止シート10A,10Bの表面は凹凸面101Bであるため、指などとの接触面積が小さい。
ここで、引戸12を開くように移動させた場合、すなわち、引戸12を収納部13に収納する時、引き込まれ防止シート10A,10Bも動くが、凹凸面101Bと指などとの接触面積が小さいため、引き込まれ防止シート10A,10Bが動いた時に凹凸面101Bと指などとの間に発生する摩擦力を凹凸面101Bがない場合に比べて低減できる。そのため、引戸12が開く時に指などが摩擦力で収納部13に引き込まれることを防止できる。
【0026】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果を奏することができる。
(1)引戸12の収納部側端部124近傍に、凹凸面101Bを有する引き込まれ防止シート10A,10Bを貼り付けることにより、引戸12を収納部13に収納する時に、指などは引き込まれ防止シート10A,10Bに引きずられず、収納部13に引き込まれない。従って、既存の引戸12に凹凸加工を施した引き込まれ防止シート10A,10Bを貼り付けることにより、コストがかからず、簡単な方法で、指や物品などが収納部13に引き込まれることを防止できる。
【0027】
(2)収納部13に引戸12を収納する時、引戸12に貼り付けられた引き込まれ防止シート10A,10Bと側壁133との隙間dを8mm以下とすることにより、指や物品などが収納部13に引き込まれることを防止できる。
(3)引き込まれ防止シート10A,10Bの幅を5cm以上として引戸12に貼り付けることにより、指や物品が引き込まれることをより防止できる。
【0028】
(4)引き込まれ防止シート10A,10Bの凹凸面101Bの十点平均粗さを1μm以上とすれば、凹凸面101Bと指の表面との間の摩擦力を低減することができる。従って、指や物品などが収納部13に引き込まれることを防止できる。
(5)中間基材シート103を設けることにより、引き込まれ防止シート10A,10B自体の厚みを厚くして隙間dを狭くできるため、指や物品が引き込まれることをさらに防止できる。
【0029】
(6)中間基材シート103に装飾部103Aを設けることにより、利用者に指や物品などが引き込まれないよう注意喚起をしたり、引戸12のデザイン性を向上させたりすることができる。
(7)凹凸面101Bを有する引き込まれ防止シート10A,10Bを引戸12の収納部側端部124近傍に貼り付けることにより、指や物品などが引き込まれることを防止できるスライド構造11及びスライド構造の引き込まれ防止方法を提供できる。
【0030】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る引き込まれ防止シート、スライド構造、スライド構造の引き込まれ防止方法では、引き込まれ防止シートの形状及び貼付対象が異なる以外は第1実施形態と同様である。
図5に示すように、第2実施形態に係る引き込まれ防止シート20A,20Bは、ビル21Aの出入り口のスライド構造21に用いられる。
第2実施形態のスライド構造21は、第1実施形態と同様に、一対の引戸22と、一対の収納部23とを備える。スライド構造21に用いられる引戸22の表面の材質としては、ステンレス板、ガラス、メラミン塗装板などが挙げられる。引き込まれ防止シート20A,20Bは、引戸22の内側表面221における収納部側端部近傍にそれぞれ貼り付けられる。
引き込まれ防止シート20Aは、
図5の左側の引戸22に貼り付けられており、半楕円形である。具体的には、引き込まれ防止シート20Aは、引戸22の高さの略半分の位置において、最も幅が広くなるように、反対側の引戸22に向かって膨らむ形状である。
引き込まれ防止シート20Bは、
図5の右側の引戸22に貼り付けられている。この引き込まれ防止シート20Bは、小さい円形であり高さ方向に複数枚貼り付けられている。また、引き込まれ防止シート20Bは、引戸22の下端部を除いた位置に貼り付けられている。なお、引き込まれ防止シート20Bの枚数は特に限定されず、10枚あるいは20枚でもよく、貼り付ける位置は人が引戸22に接触すると予想される箇所を含むことが好ましい。
以上のような本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果のほかに、以下の効果も奏することができる。
(8)引き込まれ防止シート20A,20Bが多様な形状であるため、引き込まれ防止シート20A,20Bが貼り付けられた引戸22のデザイン性をさらに向上させることができる。
(9)引き込まれ防止シート20Aでは、収納部23に引き込まれやすい引戸22の略半分の高さ位置において、最も幅が広いため、良好に指などが引き込まれることを防止できる。
【0031】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る引き込まれ防止シート、スライド構造、スライド構造の引き込まれ防止方法では、引き込まれ防止シートの形状及び貼付対象が異なる以外は第1実施形態と同様である。
図6に示すように、第3実施形態に係る引き込まれ防止シート30A,30Bは、エレベーター31Aのスライド構造31に用いられる。
エレベーター31Aのスライド構造31は、第1実施形態と同様に、一対の引戸32と、一対の収納部33とを備える。
引き込まれ防止シート30A,30Bは、引戸32のエレベーター31A内の内側表面321における収納部側端部近傍に貼り付けられる。
引き込まれ防止シート30Aは、
図6の左側の引戸32に貼り付けられており、三角形状である。具体的には、引き込まれ防止シート30Aは、引戸32の高さの略半分の位置において、最も幅が広くなるように、反対側の引戸32に向かって突き出す形状である。
引き込まれ防止シート30Bは、
図5の右側の引戸32に貼り付けられており、引き込まれ防止シート30A側の端部が波形に形成されている。引き込まれ防止シート30Bは、引戸32の上端部及び下端部から所定距離離れた位置で貼り付けられている。
以上のような本実施形態によれば、第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0032】
[第4実施形態]
第4実施形態に係る引き込まれ防止シート、スライド構造、スライド構造の引き込まれ防止方法では、引き込まれ防止シートの形状及び貼付対象が異なる以外は第1実施形態と同様である。
図7,8に示すように、第4実施形態の引き込まれ防止シート40は、家屋の玄関41Aなどの出入り口に設けられたスライド構造41に用いられる。
スライド構造41は、第1引戸421及び第2引戸422と、第1引戸421及び第2引戸422を収納する一つの収納部43とを有する。
第1引戸421は、収納部43から引き出された状態で、収納部43に隣り合って配置される。
第2引戸422は、収納部43から引き出された状態で、第1引戸421と引き出し方向に隣り合って配置される。
第1引戸421及び第2引戸422は、上框423A、下框423B、及び左右の縦框423C,423Dと、これら上框423A、下框423B、及び左右の縦框423C,423Dで框組した枠体に嵌め込まれるガラスパネル424とにより構成されている。
【0033】
図8に示すように、第1引戸421及び第2引戸422が収納部43から引き出された状態では、第1引戸421は、収納部43と前後方向で重なる第1収納部側端部421Aを有し、第2引戸422は、第1引戸421と前後方向で重なる第2収納部側端部422Aを有する。
ここで、第1引戸421の第1収納部側端部421A及び第2引戸422の第2収納部側端部422Aは、それぞれ左側の縦框423Cに対応する。
収納部43は、第1引戸421及び第2引戸422をそれぞれ重なり合わせて収納する空間431を有するが、箱状ではない。すなわち、収納部43の側壁432は、1枚のみから構成されている。また、収納部43は、第1引戸421と、第2引戸422に貼り付けられた引き込まれ防止シート40との隙間d1を有するように第1引戸421及び第2引戸422を収納する。
引き込まれ防止シート40は、第1収納部側端部421A近傍、すなわち第1引戸421における左側の縦框423Cに隣接するガラスパネル424において、その内側表面424Aの全面に貼り付けられている。また、引き込まれ防止シート40は、第2収納部側端部422A近傍、すなわち第2引戸422における左側の縦框423Cに隣接するガラスパネル424において、その内側表面424Aの全面にも貼り付けられている。この場合、引き込まれ防止シート40は、ガラスの透明性を妨げないように、透明であることが好ましい。
【0034】
以上のような本実施形態によれば、第1実施形態で説明した以外に以下の効果も奏することができる。
(10)ガラスパネル424全面に引き込まれ防止シート40を貼り付けるため、第1引戸421及び第2引戸422間の隙間d1に指などが引き込まれることを防止できる。
(11)ガラスパネル424全面に引き込まれ防止シート40を貼り付けるため、ガラスパネル424が割れた時、ガラスが飛散することを防止できる。
【0035】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、以下に示すような変形をも含むものである。
すなわち、第1実施形態から第3実施形態まででは、引戸の収納部側端部近傍にのみ引き込まれ防止シートを貼り付ける構成を説明したが、引戸の全面に引き込まれ防止シートを貼り付けてもよい。
また、各実施形態では、引戸の内側表面にのみ引き込まれ防止シートを貼り付ける構成を説明したが、引戸の外側表面にも引き込まれ防止シートを貼り付けてもよい。引戸の外側表面に引き込まれ防止シートを貼り付けることにより、引戸の内側表面に引き込まれ防止シートを貼り付けた場合と同様に、指などが引戸と収納部との隙間に引き込まれることを防止できる。
そして、各実施形態では、引戸が複数から構成される説明をしたが、1枚でもよい。
さらに、第4実施形態では、スライド構造は、2枚の引戸(第1引戸及び第2引戸)を備える構成を説明したが、3枚以上の引戸を備える構成でもよい。
また、本発明のスライド部材として、各実施形態では電車の引戸、ビルの出入り口の引戸、エレベーターの引戸、家屋の玄関の引戸などを例示したが、これに限られるものではない。スライド部材としては、駅のプラットホームに設置された保護柵の引戸でもよい。また、スライドして開閉するドアでもよく、例えば、部屋の出入口の自動ドア、手動ドアなどが挙げられる。
また、本発明のスライド部材としては、各実施形態では収納部に収納される引戸を説明したが、これに限られない。スライド部材としては例えば、引き違い窓などのスライド式の窓、戸棚や本棚などに設けられた引き違い戸などのスライド式の戸でもよい。
例えば、引き違い窓の場合、一方の窓がスライド部材であり、他方の窓が重なり部であり、引き違い戸も同様である。
そして、第1実施形態から第3実施形態までではスライド部材の表面の材質として、ステンレス板などを説明したが、ガラスでもよい。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1の引き込まれ防止シートは、LAG protect M−019PN200(リンテック株式会社製)であり、
図3の引き込まれ防止シートに対応する構成である。基材シートとしては、厚みが200μmのポリ塩化ビニルフィルム(エンボスマットタイプ)であり、粘着剤層としては、厚みが25μmのアクリル系接着剤である。すなわち引き込まれ防止シート全体の厚みは225μmである。実施例1の引き込まれ防止シートを用いて、下記評価方法により評価した。
【0037】
(評価方法)
ビルの出入り口の自動ドアである引戸(
図5)に、
図1の左側に示された引き込まれ防止シート(幅10cm)をステンレス製の引戸の収納部側端部近傍に貼り付けた。
引き込まれ防止シートの凹凸面に指を置いた後、引戸を開くように移動させた時、指が引戸と収納部との隙間に引き込まれそうになった場合を「×」とし、隙間に引き込まれそうにならなかった場合を「○」とした。また、実施例1の引き込まれ防止シートの凹凸面について、下記の方法により十点平均粗さを測定した。それらの結果を表1に示す。
(十点平均粗さの測定方法)
株式会社ミツトヨ社製の接触式表面粗さ計SV3000S4を用いて、Rz(十点平均粗さ)を測定した。
測定条件は、測定長さ4.0mm、速度0.5mm、測定ピッチ0.5μmとした。
【0038】
(実施例2)
実施例1で用いた引き込まれ防止シートを、
図4(A),(B)に示す構成に変更した以外は、実施例1と同様にして評価した。
実施例2の引き込まれ防止シートは、黄色のViewcal VC9012(中間基材シート及び粘着剤層に対応、リンテック株式会社製)とLAG protect M−019PN200(基材シート及び第2粘着剤層に対応、リンテック株式会社製)との積層構成である。
基材シートとしては、厚みが200μmのポリ塩化ビニルフィルム(エンボスマットタイプ)であり、中間基材シートとしては、厚みが50μmのマーキングフィルムであり、粘着剤層及び第2粘着剤層としては、厚みが25μmのアクリル系接着剤である。すなわち引き込まれ防止シート全体の厚みは300μmである。
なお、黄色のViewcal VC9012の中間基材シートには、シルク印刷により「荷物の引き込まれにご注意下さい」との印字を施して装飾部を形成した。
【0039】
(実施例3)
実施例2の引き込まれ防止シートで用いたLAG protect M−019PN200を、LAG protect M−020PN120(基材シート及び第2粘着剤層に対応、リンテック株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様にして評価した。
基材シートとしては、厚みが120μmのポリ塩化ビニルフィルム(エンボスマットタイプ)であり、中間基材シートとしては、厚みが50μmのマーキングフィルムであり、粘着剤層及び第2粘着剤層としては、厚みが25μmのアクリル系接着剤である。すなわち引き込まれ防止シート全体の厚みは220μmである。
なお、Viewcal VC9012の中間基材シートには、シルク印刷により実施例2と同様の印字を施して装飾部を形成した。
【0040】
(実施例4)
実施例2の引き込まれ防止シートで用いたLAG protect M−019PN200を、LAG protect M−010PN80(基材シート及び第2粘着剤層に対応、リンテック株式会社製)に変更した以外は、実施例2と同様にして評価した。
基材シートとしては、厚みが80μmのポリ塩化ビニルフィルム(エンボスマットタイプ)であり、中間基材シートとしては、厚みが50μmのマーキングフィルムであり、粘着剤層及び第2粘着剤層としては、厚みが25μmのアクリル系接着剤である。すなわち引き込まれ防止シート全体の厚みは180μmである。
なお、Viewcal VC9012の中間基材シートには、シルク印刷により実施例2と同様の印字を施して装飾部を形成した。
【0041】
(比較例1)
実施例2でViewcal VC9012のみを用い、また、このシートに印字を施さなかった以外は、実施例2と同様にして評価した。
(比較例2,3)
比較例2では、引戸の表面の材質として、表1に示すように、実施例1から実施例3までと同様の既存のステンレス板を用い、引き込まれ防止シートを貼り付けなかった以外は、実施例1と同様に評価した。
一方、比較例3では、表1に示すように、既存のガラスを用い、引き込まれ防止シートを貼り付けなかった以外は、実施例1と同様に評価した。
表面粗さについては、引戸と同材質のステンレス及びガラス板について、実施例1の表面粗さと同様に測定した。
【0042】
【表1】
【0043】
(評価結果)
エンボス加工を施して凹凸を有する引き込まれ防止シートを用いた実施例1から実施例4まででは、凹凸面の滑り性が良好であるため、指が引き込まれることを防止できた。
一方、エンボス加工を施していないシートを用いた比較例1では、指が引き込まれることを防止できない。また、シートを貼り付けず、引戸の表面に既存の材質を用いた比較例2,3でも指が引き込まれることを防止できない。