【実施例】
【0040】
実験1
1. 実験方法
(1)鶏糞焼却灰
実験に用いた鶏糞焼却灰は鶏糞ボイラー発電炉(流動床式)より採取した。流動床炉ではあるが砂のような熱媒体は用いられていないため、採取した灰をそのまま用いた。表1に用いた灰の分析結果を示す。リンは約10%含まれていた。最も含有量の多い元素はカルシウムであり、次いでカリウムであった。重金属は0.1%以下であった。
【0041】
【表1】
【0042】
(2)プラント概要
リン回収フローを
図1に示す。また、プラントの概略を
図2に示す。タンク1(容量1m
3、外径1106mm、プラスチック製)に予め水道水450Lと70%硫酸(高杉製薬株式会社)を所定量だけ投入した後、鶏糞焼却灰を100kg投入して撹拌を開始した。所定のpHになるように硫酸を追加しpHを調整した。所定pHに達してから20分間撹拌した後、pHメーター(株式会社トーケミ、型式NN-2000)によりpHを測定した。これをリン溶出pHと呼ぶ。溶液をフィルタープレス(日本ろ過装置株式会社、800m/m×8室PFM−8C型)を用いてろ過し、ろ液をタンク2(タンク1と同様の仕様)で受けた。なお、ろ過開始時のろ液は懸濁成分が混じっていたので、ろ過開始直後はろ液をタンク1に戻し、ろ液が清澄であることを確認してからろ液をタンク2に送った(以後、この方法を循環ろ過と呼ぶ)。また、タンク1に残った残渣は水道水を用いて洗い出し、全量フィルタープレスに送った(以降の硫酸除去プロセス、回収プロセスのろ過でも同様の操作を行った)。ろ過が終了してタンク2に得られたろ液をリン溶出液と呼び、フィルタープレスで分離された残渣をリン溶出残渣と呼ぶこととする。
【0043】
リン溶出液中の硫酸を除去するために、リン溶出液に所定量の塩化カルシウム(セントラル硝子株式会社)を加えた。約20分撹拌後、フィルタープレスを用いて循環ろ過し、ろ液をタンク1に送った。ろ過が終了してタンク1に得られたろ液を硫酸除去液と呼び、フィルタープレスで分離された残渣を硫酸除去残渣と呼ぶこととする。
【0044】
回収物を回収するために、硫酸除去液に所定pHに達するように消石灰(江藤石灰工業株式会社)を加えた。所定pHに達してから20分間撹拌後、pHを測定し(これを回収pHと呼ぶ)、フィルタープレスを用いて循環ろ過し、ろ液をタンク2に送った。ろ過が終了してタンク2に得られたろ液を廃液と呼び、フィルタープレスで分離された残渣を回収物と呼ぶこととする。
【0045】
(3)分析方法
リン溶出液、硫酸除去液、廃液、鶏糞焼却灰、リン溶出残渣、硫酸除去残渣、回収物について分析を行った。リン溶出残渣、硫酸除去残渣、回収物については、含水率を測定した。鶏糞焼却灰、リン溶出残渣は硝酸・過塩素酸を用いて分解し、硫酸除去残渣、回収物については濃硝酸を用いて分解して、分析用試料液を得た。また鶏糞焼却灰および、ろ過残渣の塩素分析用の試料を得るために、焼却灰あるいはろ過残渣20gと蒸留水200mLをポリ瓶に入れ200rpmで1時間振とうし、0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過したものを試料とした。
【0046】
P、Ca、Na、K、Mg、Fe、Cu、ZnをICP-AES(Shimadzu, ICP-8100)を用いて分析し、硫酸、塩素についてはイオンクロマトグラフィー(DIONEX, QIC ANALYZER)を用いて分析した。
【0047】
回収物の飼料としての評価のための分析は飼料分析法((独)農林水産消費安全技術センター:飼料分析法、http://www.famic.go.jp/ffis/feed/sub6.html)に則って行った。肥料としての評価については、ク溶性リン酸については肥料分析法((独)農林水産消費安全技術センター:肥料分析法、http://www.famic.go.jp/ffis/fert/sub6_data/sub6_analyze.html)に則り行い、それ以外の項目については飼料分析結果を用いた。これは両者の分析方法での試料の前処理(分析液の調整)はずれも塩酸による抽出を行っており、また回収物は容易に酸に溶解したことから分析法による大きな違いは無いと考えたからである。
【0048】
また、硫酸除去残渣、回収物についてはX線回折分析(XRD)を行った(PANalytical、X'Pert PRO)。その際、硫酸除去残渣は105℃で1日乾燥させて分析試料に用いた。回収物については乾燥させただけだとブロードなピークが得られたので、800℃、1時間焼成した試料を分析に用いた。
【0049】
2. 結果と考察
(1)リン溶出プロセス
表2に目標とした実験条件と実際の測定値を示す。硫酸除去のために加えた塩化カルシウムはリン溶出液中の硫酸に対する塩化カルシウムのモル比(以後、添加塩化カルシウム比と呼ぶ)を指標として条件を設定した。
【0050】
【表2】
【0051】
図3にリン溶出pHとリン溶出率(焼却灰中のリンに対するリン溶出液中のリンの重量比)の関係を示す。溶出pH1.8以下では、リン溶出率は55-60%であった。溶出pHを1.8より高くするとリン溶出率は低下した。
図4にリン溶出pHと添加硫酸当たりのリン溶出率の関係を示す。溶出pH1.5付近で添加硫酸当たりのリン溶出率が最も高くなり、このpHで最も効率よくリンを溶出させることが可能であった。溶出pHが1.5付近より高くなると必要な硫酸量は減少するが、その効果以上にリン溶出率の減少が大きいために添加硫酸当たりのリン溶出率は減少した。また、溶出pHが1.5より低くなると硫酸を添加してpHを下げてもリン溶出率が変わらなくなるため、添加硫酸当たりのリン溶出率が低下した。
【0052】
分析データは示さないが、焼却灰に含まれていたカルシウムの98%以上がリン溶出残渣中に残留しており、リン溶出液からリンを回収するためにカルシウムを添加する必要性が認められた。
【0053】
(2)硫酸除去プロセス
添加塩化カルシウム比と硫酸除去率、リン除去率との関係を
図5に示す。ここでの除去率とは、リン溶出液中の硫酸あるいはリンに対する、硫酸除去残渣中の硫酸あるいはリンの重量比で定義される。添加塩化カルシウム比と硫酸除去率の間には比例関係が見られ、添加塩化カルシウム比と硫酸除去率(無次元)はおおむね一致した。最小除去率は20%、最大除去率は89%であった。リン除去率については6-19%と低く、また添加塩化カルシウム比の影響は見られなかった。
【0054】
硫酸除去液中のCa/Pモル比を
図6に示すが、最大で1.1であった。後で示すように、回収物中のCa/Pは1.3以上であるので、硫酸除去液中のカルシウムはリンに対して不足していた。また、データは示さないがXRD分析の結果、硫酸除去残渣の主成分は二水セッコウと半水セッコウのどちらかあるいはその混合物であった。
【0055】
(3)回収プロセス
a)回収物
図7に回収pHと硫酸除去液からのリン回収率(硫酸除去液中のリンに対するリン回収物中のリンの重量比)の関係を示す。回収pHの増加と共にリン回収率も増加し、回収pH4.8以上でおおむね回収率80%以上であった。回収pH4.7(Run1)での回収率は33%と低かったにもかかわらずわずかpH0.1だけ高い回収pH4.8(Run9)で回収率が80%に大きく向上した。この理由は、後で示すように、回収pH4.7(Run1)では硫酸除去液中のリンに対してカルシウムが不足しているが、回収pH4.8(Run9)ではカルシウムは十分供給されていたため回収率が大きく上昇したと考えられた。
【0056】
図8に回収pHと硫酸の回収物への移行率(硫酸除去液中の硫酸に対するリン回収物中の硫酸の重量比)の関係を示すが、回収pHが高くなるにつれて硫酸移行率も増加することが分かった。回収pH10付近では硫酸移行率は40-70%であった。
【0057】
図9に回収物中のリン、カルシウム、硫酸の含有量を示す。リンについては回収pH6.5以下では13-14%で一定であるが、pHが高くなるとリン含有量は低下した。最も低いリン含有量は8%であった。カルシウム含有量は22-26%、硫酸含有量は1-13%の範囲であり、いずれも回収pHの影響は見られなかった。回収物の硫酸含有量は、硫酸除去プロセスでの添加塩化カルシウム比の影響を受けると予想されるので、添加塩化カルシウム比と回収物の硫酸含有量の関係を検討した(
図10)。添加塩化カルシウム比が高くなると回収物の硫酸含有量が低下し、硫酸除去の効果が見られた。添加塩化カルシウム比0.7以上では硫酸含有量が1-3%で一定になることが分かった。
【0058】
また、回収pHと回収物のCa/Pモル比、回収プロセスでの投入Ca/Pモル比との関係を
図11に示す。投入Ca/Pモル比とは、回収プロセスで用いられた硫酸除去液および消石灰中のカルシウムとリンのモル比のことである。投入Ca/Pモル比はRun 1 = 0.75、Run 2 = 2.30、Run 3 = 2.98、Run 4 = 1.89、Run 5 = 2.23、Run 6 = 2.29、Run 7 = 1.72、Run 8 = 2.22、Run 9 = 1.32であり、回収物のCa/Pモル比はRun 1 = 1.34、Run 2 = 1.42、Run 3 = 1.77、Run 4 = 1.80、Run 5 = 1.64、Run 6 = 2.52、Run 7 = 1.40、Run 8 = 1.64、Run 9 = 1.46である。回収pHが高くなると固形物中のCa/Pモル比は大きくなる傾向が見られた。
【0059】
Run1, 2, 3, 6の回収物のXRDチャートを
図12に、主要成分を表3に示す。Run4,5,7,8はRun3と同様の回折パターンであり、Run9はRun1と同様のパターンであった。回収pHの低いRun1,9はCa
18Mg
2H
2(PO
4)
14が、回収pHが6.5以上ではCa
5(PO
4)
3Clや、Ca
5(PO
4)
3(OH,Cl,F)等のアパタイトが主要成分であった。Run6(回収pH 10.5)では回収物中のCa/Pモル比が2.5と高く、カルシウムはアパタイト以外の化合物としても存在すると予想されたが、XRDの結果では同定できなかった。
【0060】
【表3】
【0061】
回収pH4.7(Run1)では投入Ca/Pモル比は0.75であったが、この条件での回収物中の主要成分であるCa
18Mg
2H
2(PO
4)
14の理論Ca/Pモル比1.3よりも少ないため、カルシウムの供給不足でリンの回収率が低かったと考えられる。また、これ以外の条件ではおおむね投入Ca/Pモル比が回収物中Ca/Pモル比と同程度か大きく、カルシウムは十分に供給されていたと考えられた。
【0062】
回収pHと消石灰当たりの硫酸除去液からのリン回収率を
図13に示す。消石灰はリンを回収するためのカルシウムの供給とpH調整の二つの役割があり、回収pH を高くすることは添加するカルシウム量も増えることを意味する。回収pH10以下では、消石灰当たりリン回収率は回収pHの影響を受けていず4.4-6.6(%/kg)であった。回収pHが10を越えると消石灰当たりリン回収率は減少した。これは、
図7に示したとおり、このpHではpHを増加させても、すなわち消石灰添加量を増やしてもリンの回収率は変わらないためである。
【0063】
b)廃液
図14に回収pHと廃液中のリン濃度の関係を示すが、回収pHが高くなるにつれてリン濃度は低下した。回収pH6以上でリン濃度は排水基準(16mg/L)を満足した。添加塩化カルシウム比と廃液中の硫酸、塩素濃度の関係を
図15に示す。硫酸は
図5に示したように添加塩化カルシウム比が高くなると硫酸除去プロセスでの除去率が上昇するために、廃液中の濃度は減少した。硫酸の最小濃度は500mg/Lであった。塩素については、添加塩化カルシウム比の増加と共に廃液中の濃度も増加し、最大濃度は63,000mg/Lであった。カリウムについては結果は示さないが、回収pHの影響は見られず18,000-31,000mg/Lの範囲であった。また、Fe,Cu,Znについては最大でも0.6mg/Lであり排水基準を満足していた。
【0064】
(4)プロセス全体としての評価
a)焼却灰基準のリン回収率および回収物収率
焼却灰に含まれるリンを基準にした回収物へのリン回収率(焼却灰中のリンに対する回収物中のリンの重量比)は15-62%であった。溶出pH、添加塩化カルシウム比、回収pHを説明変数とした重回帰分析を行った結果、有意水準5%で有意性が認められ、寄与率は84%であった。各説明変数の係数、t値およびp値を表4に示すが、添加塩化カルシウム比のp値が0.05以上有り有意性が見られなかった。リン回収率はリン溶出pHが低く、回収pHが高いほど、リン回収率は高くなることが分かった。
【0065】
また、焼却灰1kgから得られる回収物の重量(回収物収率)は12-59%であった。溶出pH、添加塩化カルシウム比、回収pHを説明変数とした重回帰分析を行った結果、有意水準5%で有意性が認められ、寄与率は92%であった。各説明変数の係数、t値およびp値も表4に示すが、添加塩化カルシウム比のp値が0.05以上有り有意性が見られなかった。回収物収率についてもリン溶出pHが低く、回収pHが高いほど、回収物収率が高くなることが分かった。
【0066】
【表4】
【0067】
b)薬品費の評価
本プロセスで用いる薬品の単価を業者ヒアリングの結果、70%硫酸について58.6円/L、塩化カルシウムについて49.4円/kg、消石灰について26.5円/kgとして、回収物当たりの薬品費を求めた結果を
図16に示す。薬品費の構成は硫酸>塩化カルシウム>消石灰の順であり、消石灰の寄与率が最も低かった(最大18%)。
【0068】
リン溶出pHを2、添加塩化カルシウム比を1で一定にした場合、回収pHが高くなるほど薬品費は安くなった。これは回収pHが高くなると消石灰の量が増えるが、その効果以上に回収物収率が増加するためであった。
【0069】
添加塩化カルシウム比を1、回収pH を10で一定にした場合、溶出pH1.4で最も薬品費が安くなった。これは、溶出pHが1.4よりも高くなると硫酸量は少なくなるが、その効果以上に回収物収率が低下するため、溶出pH2.8の方が薬品費が高くなる。溶出pH0.8では溶出pH1.4と回収物収率は同じであったが、pHをより下げるため硫酸を多く使ったことから塩化カルシウムの添加量が増えたため、薬品費がpH1.4よりも高くなった。
【0070】
溶出pHを1.5、回収pH を10で一定にした場合、添加塩化カルシウム比は0.40で最も薬品費が安くなった。これは回収物収率はほぼ一定であるが、塩化カルシウムの使用量が減ったためである。
【0071】
リン溶出pHを1、添加塩化カルシウム比1で一定にした場合も回収pHが高くなるほど薬品費は安くなった。これは回収物収率が増加するためであった。
【0072】
以上から、回収物当たりの薬品費が最も安くなる条件は、RUN6(実測値で、溶出pH1.6、添加塩化カルシウム比0.40、回収pH10.5)のときで、66円/kgであった。この値は、硫酸の代わりに塩酸を用いた時に推定された値(99円/kg)の2/3であり、硫酸を用いることで薬品費を下げることができた。このときの焼却灰基準のリン回収率は46%、回収物収率は42%であった。
【0073】
また、
図17にRun6でのリン、硫酸、カルシウムの物質収支を示す。図中の数字は、焼却灰、加えた硫酸、塩化カルシウム、消石灰中の合計量を100としたときのそれぞれの画分中の元素の量である。焼却灰から溶出したリンは硫酸除去残渣および廃液にはほとんど行かず、80%が回収物として回収された。硫酸は焼却灰中に含まれている量の7倍相当を硫酸溶液として加えていた。リン溶出液中硫酸の約40%がリン溶出残渣に残った。これは、焼却灰中のカルシウムのほとんどが溶出せず、リン溶出残渣に残っていることから、硫酸とカルシウムが難溶性の化合物(おそらくセッコウ)を生成していると考えられる。また、硫酸除去プロセスでは、塩化カルシウムとして加えたカルシウムのほとんどが硫酸除去に使われていた。リン溶出液中の硫酸の20%がリン酸除去物として除去された。回収プロセスで加えられた消石灰中のカルシウムのほとんどが回収物を作るために使われていた。
【0074】
また、回収リン当たりの薬品費について
図18に示すが、Run4の条件で741円/kg-Pと最も安価であった。Run6では851円/kg-Pであった。
【0075】
c)回収物の飼料・肥料としての評価
回収物当たりの最も薬品費の少ない条件であるRUN6で得られた回収物の飼料・肥料分析結果を表5に示す。なお、飼料原料としてのリン、カルシウムの基準はないので市販されている飼料の製品規格(例えば小野田化学工業:http://www.onoda-kagaku.co.jp/product/002.html)を参考とした。有害物質の基準は魚粉、肉粉、肉骨粉についての基準((独)農林水産消費安全技術センター:http://www.famic.go.jp/ffis/feed/tuti/63_2050.html)を用いた。リンおよびカルシウムの含有量が市販のものと比べてやや低いが、重金属含有量は基準を満足しており、飼料原料としての利用が可能であると言えた。
【0076】
【表5】
【0077】
肥料としては、汚泥肥料の含有を許される有害成分の最大量((独)農林水産消費安全技術センター:http://www.famic.go.jp/ffis/fert/kokuji/60k0284.htm)と比較すると全ての有害物質について基準を満足した。また、肥効成分であるク溶性リン酸(P
2O
5)については副酸リン酸肥料の含有すべき主成分の最小量である15%を満足していた。以上から得られた回収物については肥料としては十分利用可能であると言えた。
【0078】
また、リンとしての含有量は、原料焼却灰と比べて回収物の方が0.5%だけ減少したが、ク溶性リン酸の含有量は回収物の方が2%増加した。原料焼却灰のリンに占めるク溶性リンの割合は80%、回収物中の割合は90%であった。このことから、本プロセスにより鶏糞焼却灰よりも肥効性の高い回収物を製造することができたと言える。なお、鶏糞焼却灰のpHはL/S10の条件でpH12であったが、回収物の溶出pHは9であり、本回収物の施肥量の制限や硫安との配合比率の制限は少ないと考えられる。
【0079】
このように、最も薬品費の少ない条件での回収物は飼料・肥料としての利用が可能であることが分かった。
【0080】
実験2
本発明の無機リン化合物の取得方法と、特許文献1に記載の無機リン化合物の取得方法とを比較した。以下、本発明の方法による試験区を「本発明区」、特許文献1の方法による試験区を「比較区」と呼ぶ。
【0081】
本発明区に用いた鶏糞焼却灰、薬品、手順は実験1と同様である。リン溶出pH、添加塩化カルシウム比、回収pHは表6に示すとおりである。比較区とは異なり、炭酸カルシウムによる鉄除去工程を含まない。
【0082】
比較区では、鶏糞焼却灰から実験1と同様に硫酸水溶液を用いてリンを溶出させ(リン溶出pH=1.5)、ろ過してリン溶出液を得た。次にリン溶出液に炭酸カルシウムを加えてpHを3に調整することにより、水酸化鉄錯体を生じさせた。生じた水酸化鉄錯体を除去し、鉄イオンが除去された鉄除去液を得た。鉄除去液に水酸化カルシウムを添加してpHを4又は10とし、無機リン化合物を生じさせ回収した。本発明区と異なり、塩化カルシウムによる硫酸除去工程を含まない。比較区における添加塩化カルシウム比は、リン溶出液中の硫酸に対して加えたカルシウム塩(炭酸カルシウム)のCaのモル比を指す。
【0083】
試験条件を表6に、回収pH4での比較結果を表7に、回収pH10での比較結果を表8にそれぞれ示す。
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
【表8】
【0087】
実験2まとめ
リン回収量について:回収pH4において本発明区の方が比較区の場合よりも約10倍多い。回収pH10において、本発明区のほうが比較区よりも若干劣る。
【0088】
リン純度について:回収pH4、10どちらの場合も本発明区の方が比較区の場合よりもリン純度が高い(pH4で1.3倍、pH10で1.7倍)。これは硫酸含有量が本発明区の場合の方が低いためであり、リン溶出用の酸として硫酸を用いる場合、リン含有量を高める点で本発明の優位性を示している。
【0089】
コスト低減効果について:いずれの回収pHにおいても、本発明区の方が回収物当たりの薬品費が比較区の場合よりも低い。
【0090】
以上のとおり、本発明区の方が、比較区と比較して、回収物のリン含有量を高くできること、回収物当たりの製造コスト(薬品費)を低くできること、回収pHによらずリン回収率が高いことが確認された。