特許第5700839号(P5700839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5700839スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700839
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 47/04 20060101AFI20150326BHJP
   F02B 75/18 20060101ALI20150326BHJP
   F02B 33/22 20060101ALI20150326BHJP
   F02B 47/06 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   F02B47/04
   F02B75/18 P
   F02B75/18 C
   F02B33/22
   F02B47/06
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-540198(P2011-540198)
(86)(22)【出願日】2009年12月11日
(65)【公表番号】特表2012-511664(P2012-511664A)
(43)【公表日】2012年5月24日
(86)【国際出願番号】GB2009002867
(87)【国際公開番号】WO2010067080
(87)【国際公開日】20100617
【審査請求日】2012年10月25日
(31)【優先権主張番号】0822720.9
(32)【優先日】2008年12月12日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504189391
【氏名又は名称】リカルド ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100085198
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 久夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098604
【弁理士】
【氏名又は名称】安島 清
(74)【代理人】
【識別番号】100087620
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 範夫
(72)【発明者】
【氏名】ジャクソン, ネイヴィル, スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】アトキンス,アンドリュー,ファークハー
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/106007(WO,A1)
【文献】 特開2007−270621(JP,A)
【文献】 米国特許第03932987(US,A)
【文献】 米国特許第04186561(US,A)
【文献】 特開2001−098949(JP,A)
【文献】 特開昭63−061765(JP,A)
【文献】 特表2009−533582(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0202454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 47/04
F02B 33/22
F02B 47/06
F02B 75/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮ピストンを収容した圧縮シリンダおよび膨張ピストンを収容した膨張シリンダを含み、前記圧縮シリンダは、空気を吸引する吸引口および熱交換器の第一の経路と連通する吐出口を有し、膨張シリンダは、熱交換器の第一の経路と連通する吸引口および該第一の経路と熱交換関係にある熱交換器の第二の経路と連通する吐出口を有するスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法であって、
前記圧縮シリンダの中に液体を注入することを含み、
前記液体が、
水ではなく、前記圧縮シリンダ内で気化し、前記膨張シリンダ内に入る液化された非酸化性、非燃焼ガスである
ことを特徴とするスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法。
【請求項2】
液化されたガスが液体窒素である請求項1に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法。
【請求項3】
エンジンが該エンジンの出力によって駆動されるように接続された液体窒素発生器を含み、前記スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法は、該液体窒素発生器を作動させて大気から液体窒素を生成し、生成された液体窒素を前記圧縮シリンダ内に注入することを含む請求項2に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法。
【請求項4】
前記エンジンが減速され、瞬間的必要量を超える量の液体窒素を生成されるときには前記液体窒素発生器を好ましくはより高い速度で作動させることを含む請求項3に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法。
【請求項5】
前記液体窒素発生器がさらに液体酸素を生成し、前記スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法は、液体酸素を使って前記圧縮シリンダ内に吸引される空気を冷却することを含む請求項4に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法。
【請求項6】
前記圧縮ピストンと前記膨張ピストンは、クランクシャフトのそれぞれの部分に接続され、これらの部分が可変伝動比の歯車機構によって互いに接続されており、前記スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法は、前記圧縮ピストンと前記膨張ピストンが異なる速度で動くように伝動比を選択的に変化させることを含む請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
圧縮ピストンを収容した圧縮シリンダと、
膨張ピストンを収容した膨張シリンダと、
液体を前記圧縮シリンダ内に注入するための液体注入器と、
前記液体注入器に連通し、前記液体注入器に注入される液体を貯蔵するための液体リザーバと、
を含み、
前記圧縮シリンダは、
空気を吸引する吸引口および熱交換器の第一の経路と連通する吐出口を有し、
前記膨張シリンダは、
前記熱交換器の前記第一の経路と連通する吸引口および前記第一の経路と熱交換関係にある前記熱交換器の第二の経路と連通する吐出口を有し、
前記液体リザーバには、
前記圧縮シリンダ内で気化し、前記膨張シリンダ内に入る非酸化性、非燃焼ガスを液化した、水ではない液体が貯留されている
ことを特徴とするスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン。
【請求項8】
エンジンの出力によって駆動されるように接続されて大気から液体窒素を生成しそれを前記ガスリザーバに供給するように構成された液体窒素発生器を含む請求項7に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン。
【請求項9】
制御システムおよびそれに接続されエンジン出力と前記液体窒素発生器の間に接続された駆動装置を含み、前記制御システムは、エンジンが減速されているときを感知して前記駆動装置を好ましくはより高い速度で作動させ、それによって前記液体窒素発生器が瞬間的必要量を超える量の液体窒素を生成するようにプログラムされている請求項8に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン。
【請求項10】
前記液体窒素発生器は、液体酸素吐出口で液体酸素も生成するように構成され、液体酸素吐出口は、圧縮シリンダの吸引口と連通している請求項8に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン。
【請求項11】
前記圧縮ピストンと前記膨張ピストンは、クランクシャフトのそれぞれの部分に接続され、これらの部分が可変伝動比の歯車機構によって互いに接続されており、前記スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンは、前記圧縮ピストンと前記膨張ピストンが異なる速度で動くように伝動比を選択的に変化させることを包含する請求項7〜10の何れか一項に記載のスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンに関し、イソエンジンと呼ばれてきた種類のエンジンに関係するものである。より詳しくは、本発明は、圧縮ピストンを収容した圧縮シリンダおよび膨張ピストンを収容した膨張シリンダを含み、圧縮シリンダは、空気を吸引する吸引口および熱交換器の第一の経路と連通する吐出口を有し、膨張シリンダは、熱交換器の第一の経路と連通する吸引口および第一の経路と熱交換関係にある熱交換器の第二の経路と連通する吐出口を有するスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンの操作方法であって、圧縮シリンダの中に液体を注入することを含んだ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のエンジンは、公知であり、例えばWO07/081445号公報に開示されている。
ディーゼル・サイクルまたはオットー・サイクルを用いた従来の内燃エンジンでは、空気は、断熱的に圧縮される。吸引口から装填した空気を圧縮すると、圧縮中に加えられるエネルギーのためにそれに対応して温度が上昇する。いずれにせよ、エンジンの各シリンダは、エンジン・サイクルの異なるストロークで交互に圧縮と膨張の双方を行うため、すなわち、燃焼を行うために用いられる。
【0003】
しかし、イソエンジンは、圧縮および燃焼/膨張が異なるシリンダで起こる点で根本的に異なる動作を行う。空気は、圧縮シリンダが圧縮される間、液体、通常は霧化された水もシリンダの中に注入され、これが生成された熱を吸収し、そのため圧縮は、少なくとも準等温的となる。温度がほとんど上昇しないため、圧縮を行うために必要な作業はかなり減少する。次に、圧縮された空気は、圧縮シリンダの吐出口を通って熱交換器すなわちレキュペレータ(復熱装置)の一方の経路に流入し、その中でかなりの温度まで加熱されて膨張シリンダに流入する。次に、燃料、通常はディーゼル燃料または天然ガスが、加熱圧縮された空気中に注入されて燃やされる。ピストンが上死点の位置近くにある間、膨張シリンダの吸引口バルブは、通常は開いた状態に保たれることから、膨張シリンダ内の圧縮は、一次的には蓄圧器すなわちアキュムレータ(空気室)に接続され得るその吸引口の圧力によって決まる。燃焼は、圧縮シリンダの吸引口バルブがまだ開いている間に起こり、燃焼と膨張が同時に起こって、燃焼中はほぼ定圧が保たれる。全体の膨張効率が最大となるように吸引口バルブの開度が調節される。したがって、この燃焼プロセスは、ほぼ等圧的である。燃焼ガスの膨張に続いて、膨張シリンダの排気バルブが開かれ、高温の排気ガスは、排気口を通って熱交換器の中に送られ、それが熱源となって膨張シリンダの吸引口に装填した高圧の空気の温度が上昇する。これら二つのピストンは、2ストロークモードで効率よく作動し、これが、ほぼ等温圧縮と排気熱エネルギーの回収と合わさって、このエンジンをきわめて高いブレーキ熱効率を有するものとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この公知の種類のエンジンは、とくに自動車に適用された場合、若干の不利な点を示すことになる。その圧縮をほぼ等温に保つために、水の熱容量が利用される。したがって、かなりの量の水を注入する必要があり、その多くは、通常、圧縮シリンダのすぐ下流で回収される。しかし、水の一部は、熱交換器および膨張シリンダを通過し、また、エンジンの水消費量を抑えることをより確実にするため、エンジンが自動車エンジンの場合にはとくに重要なことである。車両に取り付けられたエンジンは、排気ガスが、水を凝縮する冷却ファンを含む凝縮器を通され、水は貯水器に戻される。水の回収および再循環は、複雑で高価であり、また冷却用凝縮器の使用は、エンジンの効率を低下させる。さらに、熱交換を効果的に行うために、圧縮シリンダと膨張シリンダの間の熱交換器は、大きい表面積を必要とし、したがって、かなりの量の高圧ガスを収容している。このことは、圧縮シリンダから膨張シリンダへの装填空気圧および体積供給の変化にかなりの遅れを生じさせるため、車両の加速に必要となるエンジン出力の上昇率を著しく低減するおそれがある。さらに、熱交換器は、限られた量の圧縮ガスを高圧で蓄えているが、その量は、車両のブレーキ即ち減速中に望ましいエネルギーの貯蔵または回収の方法を提供するには少なすぎる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明の目的は、上に述べた種類のとくに自動車に使用されるエンジンであって、上に述べた諸問題を克服または少なくとも軽減するエンジンを提供することにある。より具体的には、水の使用を排除し及び/又はエンジンの効率および比出力を高めることが本発明の目的である。
本発明によれば、注入される液体は、液化された非酸化性、不燃性ガスである。
このガスは、ヘリウムまたはアルゴンなどの不活性ガスとすることができるが、とくに大気から容易に入手できるため窒素を使用することが好ましい。
【0006】
この種の従来のエンジンで用いられている水を液化ガスで置換することには、多くの効果が認められる。すなわち、第一に、ガスの熱容量は、圧縮シリンダでガスが気化するときに吸収されるその気化潜熱と比較するときわめて僅かである。ガスの気化潜熱が高いため、望ましい結果を得るのに注入する必要のあるガスの量は、公知のエンジンで注入する水量よりかなり少ない。第二に、窒素を用いた場合には、窒素を単に大気中に放出してやればよいので、圧縮シリンダの下流でガスを回収する必要もなく、また膨張シリンダの下流に凝縮器を配設する必要もない。第三に、圧縮ガス中の膨張した液化ガスは、ガスの質量を増大させ、燃焼プロセスでバラストとして作用し、したがって本来エンジンの比出力を高めるものである。したがって、第一に燃焼/膨張プロセスに関与するガスの量が増加する結果、第二に以前は必要だった水の凝縮器が排除される結果、水の使用に関連する諸問題は排除され、エンジンの出力は増大することになる。
【0007】
液化ガスは、加圧タンクから供給することもできるが、この方法は、とくに自動車エンジンの場合には実用的ではない。したがって、エンジンには、エンジンの出力によって駆動されるように接続された液体窒素発生器を含めること、および本発明の方法が液体窒素発生器を作動させて大気から液体窒素を生成しまた生成された液体窒素を圧縮シリンダの中に注入することを含むことが好ましい。
【0008】
液体窒素発生器は、選択的可変速度で駆動されるように構成されることが好ましく、また本発明の一実施形態にあっては、液体窒素発生器は、エンジンが減速されるとき即ちエンジンが自動車エンジンで車両が減速されるときには高速で作動させ、瞬間必要量を超える液体窒素を生成することが好ましい。この余分な液体窒素は、リザーバに貯蔵して後で圧縮シリンダに注入されることになる。圧縮シリンダに多くの液体窒素を注入することによって、膨張シリンダに入る圧縮ガスの温度がさらに下げられる結果、圧縮および膨張プロセスに関与するガスの質量が増大する結果、エンジンの出力が増大する。したがって、過剰な量の液体窒素を生成することは、後で使用するエネルギーを貯蔵することになり、液体窒素発生器は、エンジンが組み込まれている車両の回生ブレーキのために使用できることになり、ブレーキをかけた場合、車両の運動エネルギーは、液体窒素量の増加に切り替わり、そのエネルギーは、エンジンのエネルギー出力を増加させる必要が生じたときに圧縮シリンダ内への液体窒素の注入によってその後、解放される。
【0009】
実際問題として、液体窒素発生器は、液体酸素も生成するため、本発明の方法は、生成された液体酸素を圧縮シリンダ内に入れられた空気を冷却するために使用することを含むことが好ましい。それによって、エンジン効率及び/又はエンジン出力がさらに高められる。液体酸素は、冷却されて流入する空気を間接的に、即ち熱交換器の中で使用することが好ましい。
【0010】
熱交換器を通って流れた後、その酸素は、大気中に直接放出してもよく、又はターボチャージャーの排気タービン上流側の排気ダクトの中に放出してもよい。排気ダクトの中に放出することは、排気ガスが冷却されるだけでなくより多くの質量のガスがタービンを通って流れ、それによってターボチャージングのためにより多くの量のエネルギーを抽出できることを意味する。
【0011】
圧縮ピストンおよび膨張ピストンは、通常、エンジンの一本のクランクシャフトに連結されるため、本来同じ速度で動くものである。このことは、エンジンの任意の速度で、圧縮空気の生成速度は一定となることを意味する。しかし、圧縮空気の生成速度をエンジンの速度とは独立に制御できることが望ましい場合もあり得るので、圧縮ピストンと膨張ピストンは、クランクシャフトのそれぞれの部分に接続され、これらの部分が可変伝動比の歯車機構によって互いに接続されていることが好ましい。本発明の方法は、圧縮ピストンと膨張ピストンが異なる速度で動くように伝動比を選択的に変えることを含むものである。したがって、例えばエンジンを低速で運転している場合、それは通常、圧縮シリンダによる圧縮空気の生成速度が低いことを意味するが、歯車機構の伝動比を例えば2:1、3:1またはそれ以上に高め、それによって圧縮空気の生成速度を高めることが可能となる。これは、エンジンを低速から急に加速させることが求められる場合に望ましいことであろうし、上に述べたように圧縮シリンダに多くの量の液体窒素を注入しそれによってエンジンを低速からきわめて迅速に加速させることが可能となることとの関連で活用することができ得る。スーパーチャージャー、より具体的には内燃エンジンとの関連で知られているターボチャージャーを組込むことによって、エンジンの性能はさらに高めることができ得る。
【0012】
本発明は、また、上に述べた方法を行うように構成されたスプリットサイクル・レシプロ・ピストンエンジンを取り入れるものである。
本発明の他の特徴および詳細は、以下に添付のきわめて図式的な図面を参照して行う本発明に基づくエンジンの具体的な一実施形態の説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図に示すように、エンジンは、接続ロッド6によってクランクシャフトの一部分10上のそれぞれのクランク8に接続された圧縮ピストン4を収容した圧縮シリンダ2を備えている。エンジンは、また、接続ロッド16によってクランクシャフトの他部分20上のそれぞれのクランク18に接続された膨張ピストン14を収容した膨張シリンダ12を包含する。一本の圧縮シリンダ2および一本の膨張シリンダ12のみを示してあるが、任意の求める数のシリンダを設けることが可能で、さらに圧縮シリンダの数が膨張シリンダの数と同じである必要はなく、また二種類のシリンダの大きさが同じである必要はないことは理解されよう。クランクシャフトの二つの部分10、20は、従来の互いに一体に接続されて同じ速度で回転するのではなく、選択的に可変な伝動比の伝動システム即ちギヤボックス(変速機)22を介して接続されている。クランクシャフト10、20は、また、車両の推進伝動システム24に接続されているが、このシステムは従来タイプのものでよいので、本発明のいかなる部分を形成するものではなく、したがってこれ以上の説明は省略する。
【0014】
圧縮シリンダ2は、その側壁またはシリンダの内部に液体窒素を噴射するように構成されたシリンダ・ヘッドにある(この場合は2である)任意の数の注入ノズル26を含むものである。ノズル26は、以下で説明するように液体窒素リザーバ(貯蔵器)28と連通している。圧縮シリンダ2は、吸引口ダクト30を含み、吸引口ダクト30は、吸引口バルブ31によって制御されていて熱交換器32の一つの経路を含みまたその中にはターボチャージャーのタービンまたは送風ホイール33が配置されている。圧縮シリンダ2は、また、吐出口ダクト36を含み、吐出口ダクト36は、吐出口バルブ38によって制御されている。この種のエンジンで生成される大きい圧力差のために、吐出口バルブ38は、いわゆる圧力補償タイプのものとされる。そのために、バルブ・ステム(弁心棒)は、チャンバ42内に往復自在に載置されてチャンバ42を二つの部分に分割するピストン40を備えている。圧縮シリンダから離れた側のチャンバ部分は、通路44を介して圧縮シリンダ内に連通しており、圧縮シリンダに近い側のチャンバ部分は、通路46を介して吐出口ダクト36と連通している。したがって、圧縮シリンダ2内で生成されるかなり高い圧力は、吐出口バルブ38の一方向に作用するだけでなくピストン40の反対方向にも作用し、それによって吐出口バルブ38は、それに対してきわめて大きい力を加える必要なく開くことができる。
【0015】
圧縮シリンダ2からの吐出口ダクト36は、熱交換器すなわち復熱装置50を介して一通路の一端と連通している。熱交換器を通る一通路の他端は、膨張シリンダ12の吸引口ダクト52と連通している。吸引口ダクト52は、吸引口バルブ54を介して膨張シリンダの内部と連通しているが、吸引口バルブ54も同じく圧力補償タイプのものであり、燃料注入器57はシリンダ12の内部と連通している。膨張シリンダ12は、また吐出口バルブ58によって制御される吐出口ダクト56と連通している。吐出口ダクト56は、ターボチャージャーの排気ガスタービン59を含み、第一の通路と熱交換関係にある熱交換器50内の第二の通路の一端と連通している。第二の通路の他端は、大気中に直接放出する排気ダクト60と連通している。熱交換器は、また選択的に開くことのできるバルブ64によって制御されるバイパス通路62を包含する。このバルブ64は、エンジンの始動時には開かれ、それによって熱交換器を通る流れに関連する圧力損失を生じさせない。エンジンの始動時には、熱交換器はもちろん低温であり、圧縮空気がその中を通ることは何の役にも立たないことを意味する。低温の始動状態の間は、注入ノズル26は操作されず、それによって最終的に圧縮温度が上昇し、膨張シリンダ内で安定した燃焼を生じさせることができる。熱交換器がヒートアップすると、バルブ64が閉じられ、注入ノズル26は正常運転を始める。
【0016】
液体窒素リザーバ28は、公知のブレイトン/ジュール/トムソン型の液体窒素発生器の一部を形成している。この発生器は、回転コンプレッサ70を含み、回転コンプレッサのシャフトは、タービン膨張機72および可変比伝動システム74の出力に接続されており、可変比伝動システムの入力は、エンジン・クランクシャフトに接続されている。液体窒素発生器は、また二つの熱交換器76、78およびファン冷却式アフタークーラー80を包含する。使用時には、コンプレッサ70によって空気が吸引口82を介して液体窒素発生器の中に引き入れられ、圧縮、膨張、および熱交換器内通過の後、液体窒素が生成されてリザーバ28へ進み、また液体酸素も生成されて導管84内に放出される。導管は、熱交換器32の第二の経路に接続されている。
【0017】
自動車上で使用するときには、エンジンは上に説明した方法で始動される。通常運転が始まると、圧縮シリンダ2内では取り入れた空気のほぼ等温圧縮が行われる。取り入れた空気は、ダクト30を通って圧縮シリンダ2内に流れ込み、そこでターボチャージャー・タービン33によって加圧され、熱交換器32内での熱交換によって冷却され、副産物として窒素発生器によって液体酸素が生成される。圧縮された空気は、圧縮シリンダ2を離れ、復熱装置50の中でかなりの温度まで加熱された後、膨張シリンダ14に入る。燃料注入器57による燃料の注入後、燃料が燃焼し、ピストン14を動かすことによって作業がなされ、それによってクランクシャフトを回転させる。膨張シリンダ12からの排気ガスは、ターボチャージャーの排気タービン59を通ってそれを回転させ、次に復熱装置50を通って流入してくる圧縮空気を加熱し、排気パイプ60を介して大気中に放出される。注入器26によって注入された液体窒素は、圧縮シリンダ2の中で蒸発し、それによって主としてその蒸発の潜熱の吸収の結果として空気を低温に保つ。次に、窒素はその後の燃焼/膨張プロセスの一部にそしてプロセスに関与するガスの質量を増加させ、それによってエンジンの出力を増大させる。次に、窒素はそれが最初にそこから得られた大気中に放出される。液体窒素発生器は、コンプレッサ70が駆動される速度で決定される率で液体窒素を生成することになる。この速度は、伝動システム74の伝動比とギヤボックス(変速機)22の伝動比によって決まり、この二つの伝動比は、実際には最新式の車両では配備されているエンジン管理システムの一部を構成あるいは形成するコントローラ(制御装置)によって決められる。コントローラは、液体窒素の生成率がリザーバ28内の液体窒素の貯蔵量を適切に維持するのに確実に足りるようにする。コントローラは、車両がブレーキされていることを感知すると、伝動システム74及び/又はギヤボックス22の伝動比を高めることによってコンプレッサ70の速度を高くし、それによって直接消費するために必要なレベルより高いレベルまで液体窒素の生成率を高める。その結果、リザーバ28内の液体窒素の量が増大し、その分は、上に述べたように後の段階で出力の増大が必要になったときに圧縮シリンダ2内に注入される。車両がブレーキされたときにギヤボックス22の伝動比が高まると、その結果、膨張ピストン14の速度に比べて圧縮ピストン4の速度が増大する。その結果、圧縮空気の量が現在の必要量を超えるまで生成されるが、そのように余分な圧縮空気は、圧力リザーバ内に貯蔵され、後の段階でエンジンの出力を高めることが必要になったときに使用される。これは、回生ブレーキのためのエネルギー貯蔵の更なる方法である。また、エンジンが低速で動作していて急速に加速することが望まれる場合、ギヤボックス22の伝動比が高められて圧縮シリンダ2による圧縮空気の生成率が高められ、その結果、とくにリザーバ28からの液体窒素の注入率の増大と組み合わされた場合、エンジンの出力はより急速に増大することになる。
図1