特許第5700840号(P5700840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5700840エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法およびエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700840
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法およびエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/04 20060101AFI20150326BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20150326BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20150326BHJP
   C07C 253/32 20060101ALI20150326BHJP
   C07C 255/23 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   C09J4/04
   C09J11/04
   C09J11/06
   C07C253/32
   C07C255/23
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-547430(P2011-547430)
(86)(22)【出願日】2010年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2010071385
(87)【国際公開番号】WO2011077906
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西野 幸紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋明
(72)【発明者】
【氏名】波多 千秋
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4605671(JP,B2)
【文献】 特開2007−126632(JP,A)
【文献】 特開平11−100361(JP,A)
【文献】 A.Ya.Lazaris et al.,Gas Chromatographic Determination of Impurities in Ethyl Cyanoacrylate,JOURNAL OF ANALYTICAL CHEMISTRY of the USSR,1984年10月10日,Vol.39,No.4,Part 2,p.584-587
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C07C 253/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100〜10000Paの減圧下、温度5〜50℃で不活性ガスを吹き込みながら脱気することにより、アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計を1ppm以上、150ppm以下とする工程を含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法。
【請求項2】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であり、SOを、30ppm以上、100ppm以下含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項3】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であり、HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスを、合計で、1ppm以上、20ppm未満含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項4】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であり、クラウンエーテル類およびカリックスアレン誘導体からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、合計で、50ppm以上、5000ppm以下含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項5】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であり、フタル酸エステル類およびアセチルクエン酸エステル類からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、合計で、5重量%以上、40重量%以下含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項6】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であり、下記一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは、カルボキシル基、カルボン酸無水物、アルデヒド基、水酸基、カルボン酸エステル基、アルコキシ基、またはこれらの2種類以上の組み合わせを示し、nは2以上6以下の整数を示す。但し、多価カルボン酸エステルを除く。)
で表される少なくとも1つの化合物を、合計で、10ppm以上、5000ppm以下含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項7】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であり、水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが4〜7である疎水性シリカを、1重量%以上、15重量%以下含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項8】
SOを、30ppm以上、100ppm以下含むことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項9】
HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスを、合計で、1ppm以上、10ppm以下含むことを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【請求項10】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、100ppm以下であることを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白化現象及び臭気の少ないエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法およびエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エチル−2−シアノアクリレートを主成分とするシアノアクリレート接着剤組成物は、その高いアニオン重合性により、被着体表面や空気中の水分等のアニオン種によって短時間で重合硬化し各種材料を接着させるため、瞬間接着剤として電子、電気、自動車などの各種産業界、レジャー分野及び一般家庭で広く用いられている。しかし、これらのエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を使用した時に、被着体からはみ出した未硬化のエチル−2−シアノアクリレートが揮発し、接着部周辺で白化を伴う重合をしながら再付着するいわゆる白化現象を発生させる事がある。この白化現象により、被着体の外観を損ねるという問題が生ずる。特にメッキ面や透明なアクリル樹脂は、接着し難い材料である為に接着部周辺の白化を起こしやすく、かつ光沢のあるメッキや透明なアクリル樹脂上での白化は、商品価値を著しく損なうという欠点を有する。また、白化現象以外にも揮発したエチル−2−シアノアクリレートによる刺激臭も長時間、大量に使用した場合に問題となることが多い。
【0003】
上記課題を解決する方法として、アルコキシアルキル−2−シアノアクリレート、例えばメトキシエチル−2−シアノアクリレート、エトキシエチル−2−シアノアクリレートなどを用いるという試みが報告されているが(例えば、特許文献1参照)、刺激臭、白化現象共に改善は見られてはいるものの、十分ではないうえにエチル−2−シアノアクリレートと比べて非常に高価であるという欠点がある。また、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート由来の2−シアノアクリレート等、不飽和エステルをもつモノマーを用いる方法も提案されているが(例えば、特許文献2参照)、この不飽和エステルをもつモノマーは無臭、無白化の特性を有するが、重合性の高い官能基を有することから、熱や光などで重合が起きやすく生産性および貯蔵性に問題があり、さらにこれらの化合物は皮膚等に対し刺激性が強いので、原料及び製品を取扱うときに格別な注意を払わなければならないという別の問題を発生させている。加えて、このものもエチル−2−シアノアクリレートと比べて非常に高価であるという欠点がある。経済的に優位なエチル−2−シアノアクリレートを主成分とするシアノアクリレート接着剤組成物においては、いまだ、刺激臭、白化現象の改善において満足の得られる性能を持つものは見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開昭55−151074号公報(1980年11月25日公開)」
【特許文献2】日本国公表特許公報「特表平8−505383号公報(1996年6月11日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物が有しているこれらの問題点、すなわち刺激臭、白化現象を従来よりも大幅に改善したエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み、エチル−2−シアノアクリレートの製造過程で生じる分解物が白化現象及び臭気に与える影響について鋭意検討した結果、ある特定の有機低沸点化合物の含量が多い場合は、刺激臭及び白化現象が増大することを突き止め、当該有機低沸点化合物の含量を規定量以下にすることで、刺激臭及び白化現象が著しく低減することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法は、上記課題を解決するために、100〜10000Paの減圧下、温度5〜50℃で不活性ガスを吹き込みながら脱気することにより、アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計を1ppm以上、150ppm以下とする工程を含むことを特徴としている。
【0008】
また、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、上記課題を解決するために、アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、エチル−2−シアノアクリレート中に存在する特定の有機低沸点化合物の含有量を制御することにより、刺激臭や白化現象を従来よりも大幅に改善したエチル−2−シアノアクリレート系接着剤組成物を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(I)エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物
本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、特定の有機低沸点化合物の含有量を所定範囲内に制御したものである。これにより、刺激臭や白化現象を従来よりも大幅に改善することができる。
【0011】
本発明において、特定の有機低沸点化合物とは、エタノールとアクリロニトリルである。エタノールとアクリロニトリルは、エチル−2−シアノアクリレートの製造過程において発生する分解物であり、この分解物であるエタノールとアクリロニトリルの含有量を低減した場合に刺激臭や白化現象を改善する効果が大きい。エタノールの含有量とアクリロニトリルの含有量との合計としては、150ppm以下であり、100ppm以下であればより好ましい。エタノールの含有量としては、100ppm以下であり、50ppm以下であればより好ましい。アクリロニトリルの含有量としては、50ppm以下であり、20ppm以下であればより好ましい。また、エタノールの含有量とアクリロニトリルの含有量との合計を、工業的に1ppm未満にする事は難しいが、これらの合計を1ppmまで減少すれば充分な効果が得られる。
【0012】
すなわち、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であることが好ましく、1ppm以上、100ppm以下であることがより好ましい。
【0013】
アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計を前記範囲とすることに加えて、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましい。
【0014】
さらには、アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計を前記範囲とすることに加えて、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、エタノールの含有量が、100ppm以下で、かつ、アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
さらに、本発明者らは、エチル−2−シアノアクリレートの製造過程で生じる分解物が、光沢のあるメッキや透明なアクリル樹脂上での白化現象に与える影響についてさらに検討を行った。その結果、上述した有機低沸点化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、ゴムに対する白化現象及び臭気だけでなく、メッキ面やアクリル樹脂に対しても白化低減効果が発現することを見出した。
【0016】
すなわち、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物中に存在する上記有機低沸点化合物の含有量を上記範囲に低減した場合は、ゴムに対する白化現象及び臭気だけでなく、メッキ面やアクリル樹脂に対しても白化低減効果を得ることができる。
【0017】
ここでいうエタノールの含有量とアクリロニトリルの含有量とは、以下の方法によって測定、算出される数値を指す。
【0018】
[エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物中のエタノールの含有量とアクリロニトリルの含有量の測定方法]
測定方法としてはエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物をバイアル瓶に封入し、気化させたものを採取し、エタノールとアクリロニトリルを標準物質に用いた絶対検量線法により、定量したものである。
【0019】
<ガスクロマトグラフィー測定条件>
装置:島津製作所製GC−14A
カラム:ガラスカラム 外径5mm、内径2.6mm、長さ3.1m
GC充填剤:PEG6000
温度条件:70℃
注入口温度:180℃、検出器温度:180℃
キャリアーガス:ヘリウム
<検量線作成方法>
流動パラフィンに任意の量のアクリロニトリル、エタノールを秤量して添加したサンプルを調製し、20mLバイアル瓶にサンプルを1g封入する。100℃の恒温槽内で15分間暴露し、気相部1mLを上記条件のガスクロマトグラフィーに供する。得られたピーク面積からエタノールとアクリロニトリルの検量線を作成した。
【0020】
<エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物中のエタノールの含有量とアクリロニトリルの含有量の測定方法>
エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物をバイアル瓶に封入し、検量線作成時と同じ条件である100℃の恒温槽内で15分間暴露し、気相部1mLを上記条件のガスクロマトグラフィーに供する。
【0021】
エタノールとアクリロニトリルのピークは、得られたピークからGCMSにより同定を行い決定される。エタノールとアクリロニトリルのピーク面積を検量線に照らし合わせてそれぞれの含有量を算出する。なお、本明細書においてppmは、重量ppmを意味する。
【0022】
(II)エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に含まれる添加物
また、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物には、主成分であるエチル−2−シアノアクリレートの他に従来、エチル−2−シアノアクリレート接着剤に添加して用いられている増粘剤を目的に応じ、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の特性を阻害しない範囲で添加配合して使用することができる。増粘剤としては、例えば、ポリメタクリル酸アルキル単独重合体、異種のメタクリル酸エステルの共重合体、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルの共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースエステル、ポリアルキル−α−シアノアクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用しても良い。
【0023】
また、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物には、従来、エチル−2−シアノアクリレート接着剤に添加して用いられている硬化促進剤を目的に応じ、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の特性を阻害しない範囲で添加配合して使用することができる。硬化促進剤としては、多価アルコール類、ポリアルキレンオキサイド誘導体、クラウンエーテル類、カリックスアレン誘導体等が挙げられる。
【0024】
また、本発明のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物には、従来、エチル−2−シアノアクリレート接着剤に添加して用いられている安定剤(例えば、二酸化イオウ(SO)、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、BFエーテルコンプレックス、ホウフッ化水素酸(HBF)、トリアルキルボレート等のアニオン重合禁止剤や、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、カテコール、ピロガロール等のラジカル重合禁止剤等)、可塑剤(フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジイソデシル、アセチルクエン酸トリブチル等)、着色剤、香料、溶剤、強度向上剤、脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸等、目的に応じ、本効果を阻害しない範囲で添加配合して使用することができる。なお、本明細書において、BFエーテルコンプレックスとは、BFとジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−iso−プロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類との錯体をいう。
【0025】
本発明者らは、さらに、上記有機低沸点化合物を上記範囲内に低減させたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物において、上記添加物として特定の添加物を、規定量添加することにより、刺激臭及び白化現象のより優れた低減効果が発現することを見出した。
【0026】
<HBF、BFエーテルコンプレックス、SO
すなわち、上記有機低沸点化合物を上記範囲内に低減させたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物において、添加剤としてHBF、BFエーテルコンプレックスおよび/またはSOを使用し、その添加量を所定範囲内とすることにより、アクリル樹脂に対する白化低減効果を向上させることができる。これらの添加剤は通常安定剤として添加されるものである。
【0027】
HBF、BFエーテルコンプレックス、またはこれらの組み合わせを添加する場合は、その含有量は、合計で、好ましくは、1ppm以上、20ppm未満である。すなわち、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスを、合計で1ppm以上、20ppm未満含むことがより好ましく、1ppm以上、15ppm以下含むことがさらに好ましく、1ppm以上、10ppm以下含むことが特に好ましい。HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスの含有量が、合計で1ppm以上であることにより、安定剤としての効果が発揮されるため好ましい。また、HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスの合計の含有量が20ppm未満であることにより、安定剤としての効果が好適に得られるとともに、適度な時間内に硬化するため接着剤が周囲に広がらないので白化を抑制することができる。
【0028】
また、SOを添加する場合は、その含有量は、好ましくは、30ppm以上、100ppm以下であり、より好ましくは、40ppm以上、80ppm以下である。SOは気相部の安定化に寄与すると考えられ、はみだした接着剤からのシアノアクリレートの蒸気がすぐに硬化せず、適度に拡散して白化を抑制すると考えられる。30ppm以上では、はみ出した接着剤の蒸気が重合を起こしにくいため好ましい。また、100ppm以下であれば、瞬間接着剤としての基本性能である硬化速度に優れるので好ましい。
【0029】
<クラウンエーテル類、カリックスアレン誘導体>
また、上記有機低沸点化合物を上記範囲内に低減させたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物において、添加剤としてクラウンエーテル類、カリックスアレン誘導体等を使用し、その添加量を所定範囲内とすることで白化低減効果を更に高めることができる。これらの添加剤は通常硬化促進剤として添加されるものである。
【0030】
上記クラウンエーテル類としては、特に限定されるものではないが、例えば、12−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテルなどが挙げられる。
【0031】
また、上記カリックスアレン誘導体としても、特に限定されるものではないが、例えば、特開昭60−179482号、特開昭62−235379号又は特開昭63−88152号等で開示されているカリックスアレン誘導体が挙げられる。中でも5,11,17,23,29,35−ヘキサターシャリーブチル−37,38,39,40,41,42−ヘキサ(2−エトキシ−2−オキソエトキシ)カリックス[6]アレン、5,11,17,23−テトラターシャリーブチル−25,26,27,28−テトラ(2−エトキシ−2−オキソエトキシ)カリックス[4]アレン等を特に好適に用いることができる。
【0032】
これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の添加量としては、好ましくは50ppm以上、5000ppm以下であり、より好ましくは、100ppm以上、2000ppm以下であり、更に好ましくは、200ppm以上、1000ppm以下である。すなわち、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、クラウンエーテル類およびカリックスアレン誘導体からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、合計で、50ppm以上、5000ppm以下含むことがより好ましく、100ppm以上、2000ppm以下含むことがさらに好ましく、200ppm以上、1000ppm以下含むことが特に好ましい。
【0033】
クラウンエーテル類およびカリックスアレン誘導体からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、合計で50ppm以上含むことにより、接着剤のはみ出し部の硬化を早める効果に優れることから、白化低減効果を更に高めることができる。また、5000ppm以下であることにより硬化速度が速くなりすぎないため、硬化時の発熱が大きくなりすぎない。結果として白化の原因となるシアノアクリレートの蒸発を抑えることができるので、優れた白化低減効果を得ることができる。
【0034】
<フタル酸エステル類、アセチルクエン酸エステル類>
また、上記有機低沸点化合物を上記範囲内に低減させたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物において、必要に応じて、添加剤としてフタル酸エステル類、アセチルクエン酸エステル類等を使用し、その添加量を所定範囲内とすることで白化低減効果を高めることができる。これらの添加剤は通常可塑剤として添加されるものである。
【0035】
上記フタル酸エステル類としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソデシル等を挙げることができる。また、上記アセチルクエン酸エステル類としては、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等を挙げることができる。
【0036】
これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の添加量は、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の主成分であるエチル−2−シアノアクリレートの重量に対して、好ましくは、5重量%以上、40重量%以下であり、より好ましくは、10重量%以上、30重量%以下である。すなわち、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、フタル酸エステル類およびアセチルクエン酸エステル類からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して、合計で、5重量%以上、40重量%以下含むことがより好ましく、10重量%以上、30重量%以下含むことがさらに好ましい。
【0037】
フタル酸エステル類およびアセチルクエン酸エステル類からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して、合計で、5重量%以上含むことにより、可塑化効果があるため好ましい。また、40重量%以下であることにより、硬化速度の低下が抑制されるので、優れた白化低減効果を得ることができる。
【0038】
<多置換ベンゼン>
また、上記有機低沸点化合物を上記範囲内に低減させたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物において、添加剤として、多置換ベンゼンである下記一般式(1)で表される少なくとも1つの化合物を用い、その合計の添加量を所定範囲内とすることにより、メッキ面への白化低減効果を更に高めることができる。
【0039】
【化1】
ここで、上記一般式(1)中、Rは、カルボキシル基、カルボン酸無水物、アルデヒド基、水酸基、カルボン酸エステル基、アルコキシ基、またはこれらの2種類以上の組み合わせを示し、nは2以上6以下の整数を示す。但し、多価カルボン酸エステルを除く。
【0040】
上記化合物としては、より具体的には、例えば、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テレフタルアルデヒド、カテコール、ピロガロール、テトラヒドロキシベンゼン、ヘキサヒドロキシベンゼン、サリチル酸、ガーリック酸、ガーリック酸メチルエステル等を挙げることができる。中でも、上記化合物は、トリメリット酸、無水トリメリット酸、サリチル酸、ガーリック酸またはピロガロールであることがより好ましい。これらの添加剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記化合物の添加量は、合計で、好ましくは10ppm以上、5000ppm以下であり、より好ましくは、50ppm以上、2000ppm以下であり、さらに好ましくは、100ppm以上、800ppm以下である。すなわち、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、上記一般式(1)で表される少なくとも1つの化合物を、合計で10ppm以上、5000ppm以下含むことがより好ましく、50ppm以上、2000ppm以下含むことがさらに好ましく、100ppm以上、800ppm以下含むことが特に好ましい。
【0041】
上記一般式(1)で表される少なくとも1つの化合物を合計で10ppm以上、5000ppm以下の範囲で含むことにより、メッキ面への白化低減効果を更に高めることができる。
【0042】
<疎水性シリカ>
また、上記有機低沸点化合物を上記範囲内に低減させたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物において、添加剤として、水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが4〜7である疎水性シリカを使用し、その添加量を所定範囲内とすることで白化低減効果をさらに高めることができる。この添加剤は、例えばチクソトロピック剤として添加されるものである。
【0043】
上記疎水性シリカの添加量は、より好ましくは、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の主成分であるエチル−2−シアノアクリレートの重量に対して、1重量%以上、15重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以上、10重量%以下である。すなわち、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが4〜7である疎水性シリカを、エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して、1重量%以上、15重量%以下含むことがより好ましく、3重量%以上、10重量%以下含むことがさらに好ましい。特に好ましくは、本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物は、水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが5〜6である疎水性シリカを、エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して、3重量%以上、10重量%以下含むことにより白化低減効果を更に高めることができる。これらの条件を満たす疎水性シリカとしては、例えば、日本アエロジル社製のRY200S;DEGUSSA社、CABOT社製のもので上記条件にあてはまる疎水性シリカを使用することができる。
【0044】
(III)エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法
エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物中の上記有機低沸点化合物を低減させる方法としては、一般的に蒸留精製を行う方法が挙げられるが、単蒸留による方法では有機低沸点化合物の除去は困難である。棚段塔や充填塔を用いて行う蒸留方法では、高温で長時間暴露されることにより、蒸留中にエチル−2−シアノアクリレートの分解反応を生じ、結果としてエタノールやアクリロニトリルといった分解物が増加する傾向がある。従って、本発明の特定の有機低沸点化合物であるエタノールやアクリロニトリルを低減させるには、分解物が生じしにくい方法をとる必要がある。例えば、熱暴露の小さい、減圧下で窒素を吹き込み、バブリングを行いながら脱気し、エタノールやアクリロニトリルといったエチル−2−シアノアクリレートの分解物である有機低沸点化合物を効果的に除去する方法、蒸留時に有機低沸点化合物を含む初留分を除去して得たエチル−2−シアノアクリレートに前記バブリングを行いながら脱気する方法、等が挙げられる。
【0045】
脱気方法としては、通常、減圧度100〜10000Pa、好ましくは、減圧度200〜5000Pa、さらに好ましくは、減圧度300〜2000Paで不活性ガスを吹込み、バブリングをさせながら行う。減圧度が100Paより低い場合は、脱気温度を5℃以下に設定しないとシアノアクリレートモノマーが留出するおそれがあり、減圧度が10000Paより高い場合は、脱気温度を50℃以上に設定しないとバブリングが少なくなり、エタノールやアクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。脱気温度としては、通常5〜50℃、好ましくは10〜45℃、さらに好ましくは、15〜40℃で行う。脱気温度を5℃未満にした場合は、温度制御に時間を要するため経済性を損ない、脱気温度を50℃より高くした場合は、脱気中に分解反応を生じ、結果としてエタノールやアクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。脱気時間及び不活性ガスの流量は、スケールによって異なるが、蒸留時に有機低沸点化合物を含む初留分を除去して得たエチル−2−シアノアクリレート1kg当りの脱気時間及び不活性ガスの流量については減圧下でバブリングさせながら、窒素ガスのような不活性ガスを通常0.01〜100L/分、好ましくは0.05〜50L/分、さらに好ましくは、0.1〜20L/分吹き込んで行う。脱気時間としては通常1〜50時間行う。好ましくは、3〜30時間行う。さらに好ましくは5〜24時間行う。不活性ガスの流量や脱気時間が通常より少なければ、エタノールやアクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。また、不活性ガスの流量や脱気時間が通常より多ければ、脱気中に分解反応を生じ、結果としてエタノールやアクリロニトリルを除去する能力が低減する傾向がある。上記の脱気方法により、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物中に含まれる(1)アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計を、150ppm以下、(2)エタノールの含有量を、100ppm以下、または(3)アクリロニトリルの含有量を、50ppm以下に抑えることができ、その事により、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の刺激臭及び白化現象を著しく低減することができたのである。
【0046】
すなわち本発明は、下記〔1〕〜〔14〕を提供するものである。
【0047】
〔1〕100〜10000Paの減圧下、温度5〜50℃で不活性ガスを吹き込みながら脱気することにより、アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計を1ppm以上、150ppm以下とする工程を含むことを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法。
【0048】
〔2〕アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、150ppm以下であることを特徴とするエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0049】
〔3〕アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることを特徴とする〔2〕記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0050】
〔4〕エタノールの含有量が、100ppm以下で、かつ、アクリロニトリルの含有量が、50ppm以下であることを特徴とする〔2〕記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0051】
〔5〕SOを、30ppm以上、100ppm以下含むことを特徴とする〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0052】
〔6〕HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスを、合計で、1ppm以上、20ppm未満含むことを特徴とする〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0053】
〔7〕クラウンエーテル類およびカリックスアレン誘導体からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、合計で、50ppm以上、5000ppm以下含むことを特徴とする〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0054】
〔8〕フタル酸エステル類およびアセチルクエン酸エステル類からなる群に含まれる少なくとも1つの化合物を、合計で、5重量%以上、40重量%以下含むことを特徴とする〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0055】
〔9〕下記一般式(1)
【0056】
【化2】
(一般式(1)中、Rは、カルボキシル基、カルボン酸無水物、アルデヒド基、水酸基、カルボン酸エステル基、アルコキシ基、またはこれらの2種類以上の組み合わせを示し、nは2以上6以下の整数を示す。但し、多価カルボン酸エステルを除く。)
で表される少なくとも1つの化合物を、合計で、10ppm以上、5000ppm以下含むことを特徴とする〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0057】
〔10〕水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが4〜7である疎水性シリカを、1重量%以上、10重量%以下含むことを特徴とする〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0058】
〔11〕SOを、30ppm以上、100ppm以下含むことを特徴とする〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0059】
〔12〕HBFおよび/またはBFエーテルコンプレックスを、合計で、1ppm以上、20ppm未満含むことを特徴とする〔7〕〜〔10〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【0060】
〔13〕アクリロニトリルの含有量とエタノールの含有量との合計が、1ppm以上、100ppm以下であることを特徴とする〔7〕〜〔12〕のいずれかに記載のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例により、さらに詳しく本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例において、白化試験および臭気感度試験は以下の方法により、行った。
【0062】
〔白化試験〕
(1)ゴム表面の白化
50mLのポリエチレン製容器にエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を0.1g入れ、NBR板で蓋をして、1日養生後NBR板の白化度合いを目視にて確認した。
【0063】
(2)メッキ表面の白化
クロムメッキ加工を施した1.6×25×100mmの鋼試験片同士を、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1gを塗布し重ね合わせて接着する。接着後、直ちに接着した試験片表面に指紋を付着させて、250mlポリエチレン製容器に入れ、蓋をし、1日養生後に指紋付着部分の白化度合いを目視にて確認した。
【0064】
(3)アクリル樹脂板面の白化
2.0×25×100mmのアクリル試験片同士を、エチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1gを塗布し重ね合わせて接着する。接着後、直ちに接着した試験片表面に指紋を付着させて250mlポリエチレン製容器に入れ、蓋をし、1日養生後に指紋付着部分の白化度合いを目視にて確認した。
【0065】
(4)評価基準
白化がほとんどない場合を○、薄い白化が認められる場合を△、濃い白化が認められる場合を×と評価した。なお、表中に記載の「○−△」は、○よりは白化が認められるが△よりも薄い白化が認められたことを意味する。
【0066】
〔臭気感度試験〕
50mLのポリエチレン製容器にエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を0.1g入れ、ポリエチレン製容器で蓋をした。10分後に蓋を開けて、被験者5人により臭気を判定し、○、△、×のうち、最も多い度合いを採用した。
【0067】
なお、臭気をほとんど感じない場合を○、臭気をやや感じる場合を△、臭気がかなりきつい場合を×と評価した。
【0068】
〔合成例1〕
<粗エチル−2−シアノアクリレートの合成>
攪拌機、温度計、水分離器、および滴下ロートを備えた三ツ口フラスコにパラホルムアルデヒド60部、トルエン200部、およびピペリジン0.2部を仕込み、80〜90℃の温度に保ち、攪拌しながらシアノ酢酸エチルエステル226部を60分かけて滴下した。滴下終了後、生成水を共沸分離しながら還流させ、理論量の水が留出するまで約6時間反応させ、ポリマーのトルエン溶液を得た。この溶液を常圧脱溶媒後、リン酸トリクレジル30部、五酸化リン6部、およびハイドロキノン3部を加えて、充分混合した。減圧脱溶媒した後、続いて400Paの減圧下で、170〜200℃に加熱して解重合を行い、エチル−2−シアノアクリレートの粗製品212部を得た。得られた粗エチル−2−シアノアクリレート100部に対して、重合禁止剤としてハイドロキノン0.5部、五酸化リン0.1部、およびBF錯体(三弗化ホウ素ジエチルエーテルコンプレックス)0.005部をそれぞれ添加し、133〜400Paの減圧下、35〜90℃で蒸留した。低沸成分を除く為に初留分として粗エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して3重量%をカットし、その後、主留分として90重量%を留出させ、精製エチル−2−シアノアクリレートモノマーを得た。この精製エチル−2−シアノアクリレートモノマー100重量部に対し、0.001重量部のホウフッ化水素酸と0.1重量部のハイドロキノンを添加したエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を調製した。
【0069】
〔合成例2〕
<粗エチル−2−シアノアクリレートの合成>
攪拌機、温度計、水分離器、および滴下ロートを備えた三ツ口フラスコにパラホルムアルデヒド60部、トルエン200部、およびピペリジン0.2部を仕込み、80〜90℃の温度に保ち、攪拌しながらシアノ酢酸エチルエステル226部を60分かけて滴下した。滴下終了後、生成水を共沸分離しながら還流させ、理論量の水が留出するまで約6時間反応させ、ポリマーのトルエン溶液を得た。この溶液を常圧脱溶媒後、リン酸トリクレジル30部、五酸化リン6部、およびハイドロキノン3部を加えて、充分混合した。減圧脱溶媒した後、続いて400Paの減圧下で、170〜200℃に加熱して解重合を行い、エチル−2−シアノアクリレートの粗製品212部を得た。得られた粗エチル−2−シアノアクリレート100部に対して、重合禁止剤としてハイドロキノン0.5部、五酸化リン0.1部、およびBF錯体(三弗化ホウ素ジエチルエーテルコンプレックス)0.005部をそれぞれ添加し、133〜400Paの減圧下、35〜90℃で蒸留した。低沸成分を除く為に初留分として粗エチル−2−シアノアクリレートの重量に対して3重量%をカットし、その後、主留分として90重量%を留出させ、精製エチル−2−シアノアクリレートモノマーを得た。この精製エチル−2−シアノアクリレートモノマー100重量部に対し、0.002重量部のSOを添加したエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物を調製した。
【0070】
〔実施例1〕
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で24時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
〔実施例2〕
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを1330Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で24時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0072】
〔実施例3〕
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、45℃で24時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0073】
〔実施例4〕
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で4時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0074】
〔実施例5〕
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを1330Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、40℃で4時間脱気を行った後にサンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
〔実施例6〕
実施例2で得られた、脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物にさらに0.001重量部のホウフッ化水素酸を追加、混合したのちに白化試験、臭気感度試験を行った。結果を表2に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例2と同じである。
【0076】
〔実施例7〕
合成例2で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを1330Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で24時間脱気を行った後にSOを添加し、20ppmになるように調製後、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表2に示す。
【0077】
〔実施例8〕
実施例7で得られた脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物にSOを添加し、40ppmになるように調製後、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表2に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例7と同じである。
【0078】
〔実施例9〕
実施例7で得られた脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物にSOを添加し、200ppmになるように調製後、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表2に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例7と同じである。
【0079】
〔実施例10−12〕
実施例4で得られた脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に18−クラウン−6エーテルを、それぞれ、40ppm、500ppm、10000ppmになるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表2に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例4と同じである。
【0080】
〔実施例13〕
実施例4で得られた脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に5,11,17,23−テトラターシャリーブチル−25,26,27,28−テトラ(2−エトキシ−2−オキソエトキシ)カリックス[4]アレンを1000ppmになるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表2に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例4と同じである。
【0081】
【表2】
〔実施例14−15〕
実施例7で得られた、SOを20ppmに調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、フタル酸ジメチルをそれぞれ、調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物全体の重量に対して、20重量%、45重量%となるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表3に示す。エタノールおよびアクリロニトリルの含有量は、実施例14においてそれぞれ、50ppmおよび25ppmであり、実施例15においてそれぞれ、40ppmおよび20ppmであった。
【0082】
〔実施例16−17〕
実施例7で得られた、SOを20ppmに調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが5〜6である疎水性シリカを、調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物全体の重量に対して、それぞれ5重量%、20重量%となるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表3に示す。エタノールおよびアクリロニトリルの含有量は、実施例16においてそれぞれ、57ppmおよび29ppmであり、実施例17においてそれぞれ、50ppmおよび25ppmであった。
【0083】
〔実施例18〕
実施例7で得られた、SOを20ppmに調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、サリチル酸を、400ppmとなるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表3に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例7と同じである。
【0084】
〔実施例19〕
実施例4で得られた脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、サリチル酸を、1000ppmとなるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表3に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例4と同じである。
【0085】
【表3】
〔実施例20〕
合成例2で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で24時間脱気を行い、BFジエチルエーテルコンプレックスを添加し、15ppmに調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、15−クラウン−5−エーテルを800ppm、トリメリット酸を400ppmとなるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表4に示す。
【0086】
〔実施例21〕
脱気後にSOを40ppmに調製する以外は実施例7と同じ条件で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、水/メタノール=1:1(wt/wt)溶液中に4wt%分散させた時のpHが5〜6である疎水性シリカを、SO調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物全体の重量に対して、5重量%添加し、更にガーリック酸を、500ppmとなるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表4に示す。
【0087】
〔実施例22〕
実施例1で得られた脱気後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に15−クラウン−5エーテルを1000ppm、ピロガロールを500ppmになるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表4に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例1と同じである。
【0088】
〔実施例23〕
脱気後にSOを80ppmに調製する以外は実施例7と同じ条件で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に5,11,17,23−テトラターシャリーブチル−25,26,27,28−テトラ(2−エトキシ−2−オキソエトキシ)カリックス[4]アレンを4000ppm、ピロガロールを5000ppmになるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験の測定を行った。結果を表4に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は実施例7と同じである。
【0089】
〔実施例24〕
合成例2で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物1kgを666Paの減圧下で窒素を吹き込みながら(2L/分)、30℃で4時間脱気を行い、SOを20ppmに調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、HBFを2ppm、18−クラウン−6−エーテルを100ppm、トリメリット酸を100ppmとなるように添加、混合した後に、サンプルを採取し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表4に示す。
【0090】
【表4】
〔比較例1〕
合成例1で得られたエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物について、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
〔比較例2〕
実施例1の脱気処理を施したエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、エタノールおよびアクリロニトリルを、それぞれ、300ppmおよび200ppmとなるように加えた後に白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
〔比較例3〕
実施例8で得られた、SOを40ppmに調製後のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物に、アクリロニトリルおよび5,11,17,23−テトラターシャリーブチル−25,26,27,28−テトラ(2−エトキシ−2−オキソエトキシ)カリックス[4]アレンを、それぞれ、120ppmおよび1000ppmとなるように添加し、白化試験、臭気感度試験及びエタノール、アクリロニトリルの含有量の測定を行った。結果を表2に示す。
【0093】
〔比較例4〕
比較例1の接着剤組成物に、トリメリット酸を、400ppmとなるように添加し、白化試験、臭気感度試験を行った。結果を表3に示す。エタノール、アクリロニトリルの含有量は比較例1と同じである。
【0094】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係るエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物の精製方法およびエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物によれば、従来のエチル−2−シアノアクリレート接着剤組成物が有している問題点、すなわち刺激臭、白化現象を従来よりも大幅に改善することができる。それゆえ、接着剤の製造工業だけではなく、広く電子、電気、自動車などの各種産業界においても利用することができ、非常に有用である。