(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る銅微粒子分散液を説明する。銅微粒子分散液は、分散媒と、銅微粒子とを有する。銅微粒子は、分散媒中に分散されている。この銅微粒子分散液は、
焼結進行剤を含有する。焼結進行剤は、常温より高い温度で銅から銅酸化物を除去する化合物である。銅酸化物は、酸化銅(I)及び酸化銅(II)である。常温より高いこのような温度は、銅微粒子を光焼結するための光の照射によってもたらされる。
【0020】
焼結進行剤は、例えば、常温より高い温度で銅と錯生成する化合物である。このような化合物は、銅と錯生成することによって、銅から酸化物を除去する。この化合物は、例えば、アルコール、リン酸エステル、カルボン酸、ポリアミドイミド、ポリイミド、アミン、ホスホン酸、β−ジケトン、アセチレングリコール、チオエーテル、硫酸エステル等であり、これらに限定されない。
【0021】
焼結進行剤は、常温より高い温度で銅酸化物を溶解する酸であってもよい。このような酸は、銅酸化物を溶解することによって、銅から酸化物を除去する。この酸は、例えば、酢酸であり、これに限定されない。
【0022】
焼結進行剤は、常温より高い温度で銅酸化物を溶解するアルカリであってもよい。このようなアルカリは、銅酸化物を溶解することによって、銅から酸化物を除去する。このアルカリは、例えば、水酸化カリウムであり、これに限定されない。
【0023】
焼結進行剤は、常温より高い温度で銅酸化物を還元することによって銅から酸化物を除去する化合物であってもよい。
【0024】
これらの焼結進行剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0025】
本実施形態では、銅微粒子は、平均粒子径が20nm以上1500nm以下程度の銅の粒子である。銅微粒子が分散媒中に分散すれば、銅微粒子の粒径は限定されない。同一平均粒子径の銅微粒子を単独で用いても、2種類以上の平均粒子径を持つ銅微粒子を混合して用いてもよい。銅微粒子分散液は、銅微粒子が分散媒中に分散した液中分散系となっている。分散媒は、アルコール等の液体であり、これに限定されない。
【0026】
焼結進行剤は、例えば、分散媒に添加される。焼結進行剤は、銅微粒子分散液の製造時に添加しても、銅微粒子分散液の製造後かつ使用前に添加してもよい。このような焼結進行剤は、例えば、カルボン酸、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、アミン、ホスホン酸、β−ジケトン、アセチレングリコール、チオエーテル、硫酸エステル等であり、これらに限定されない。
【0027】
本実施形態では、分散剤が分散媒に添加される。分散剤は、銅微粒子を分散媒中に分散する。なお、分散剤を用いずに銅微粒子が分散すれば、分散剤が添加されないこともある。
【0028】
焼結進行剤として、分散剤を兼ねる化合物を用いてもよい。このような焼結進行剤は、例えば、リン酸エステル等であり、これに限定されない。
【0029】
焼結進行剤として、分散媒を兼ねる化合物を用いてもよい。このような焼結進行剤は、例えば、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコールであり、これらに限定されない。
【0030】
本実施形態の銅微粒子分散液を用いた導電膜形成方法について
図1(a)〜(d)を参照して説明する。
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、先ず、銅微粒子分散液1から成る皮膜2が、基材3上に形成される。この皮膜2中には、銅微粒子11が分散されている。皮膜2は、例えば、印刷法で形成される。印刷法では、銅微粒子分散液1が印刷用のインクとして用いられ、印刷装置によって物体上に所定のパターンが印刷され、そのパターンの皮膜2が形成される。印刷装置は、例えば、スクリーン印刷機、インクジェットプリンタ等である。皮膜2をスピンコーティング等によって形成してもよい。基材3は、例えば、ガラス、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ガラスエポキシ、セラミック、金属、紙等であり、これらに限定されない。
【0031】
次に、皮膜2が乾燥される。皮膜2の乾燥は、常温で、又は、焼結進行剤がほとんど化学変化しない温度範囲内での加熱により行われる。
図1(c)に示されるように、皮膜2の乾燥によって、皮膜2中の液体成分は蒸発するが、銅微粒子11及び焼結進行剤は、皮膜2中に残る。なお、皮膜2を乾燥する乾燥工程は、省略されることがある。例えば、分散媒が焼結進行剤を兼ねる場合、このような乾燥工程は、省略される。
【0032】
次の工程において、乾燥された皮膜2に光が照射される。皮膜2中の銅微粒子11は、光のエネルギーによって光焼結される。銅微粒子11は、光焼結において互いに溶融し、基材3に溶着する。光焼結は、大気下、室温で行われる。光焼結に用いられる光源は、例えば、キセノンランプである。光源にレーザー装置を用いてもよい。光源から照射される光のエネルギー範囲は、0.5J/cm
2以上、30J/cm
2以下である。照射時間は、0.1ms以上、100ms以下である。照射回数は、1回でも複数回の多段照射でもよい。光のエネルギーを変えて複数回照射してもよい。光のエネルギー及び照射回数は、これらの値に限定されない。
図1(d)に示されるように、皮膜2中の銅微粒子11が光焼結されることにより、皮膜2がバルク化し、導電膜4が形成される。形成された導電膜4の形態は、連続した皮膜である。なお、光の照射前における皮膜2の乾燥を省略した場合、光の照射によって皮膜2が乾燥されるとともに、皮膜2中の銅微粒子11が光焼結される。
【0033】
銅微粒子11の表面は、酸素によって酸化され、表面酸化皮膜に覆われている。表面酸化皮膜は、光焼結において、銅微粒子11から成る皮膜2のバルク化を妨げる。従来、光焼結において、銅微粒子11の表面酸化皮膜は、光のエネルギーによる光還元反応によって金属銅に還元されると考えられていた。しかしながら、本願発明の発明者が行った実験によれば、光焼結において照射する光のエネルギーを大きくしても、皮膜2のバルク化が不十分な場合がある。また、照射する光のエネルギーが大き過ぎると、皮膜2が損傷することがあるので、光焼結において照射する光のエネルギーの大きさには限界がある。本願発明の発明者は、光のエネルギーだけでは銅微粒子11の表面酸化皮膜が十分に除去されないために光焼結が十分に進行せず、皮膜2のバルク化が不十分になる場合があると考えた。
【0034】
本願発明の発明者は、銅微粒子11の表面酸化皮膜を化学反応で除去して光焼結を進行させることを数多くの実験により発見した。本実施形態において、焼結進行剤は、皮膜2に光が照射される前の温度、すなわち常温では、銅微粒子11の表面酸化皮膜とほとんど化学反応しない。銅微粒子11は、表面酸化皮膜によって粒子内部の酸化が防がれる。銅微粒子11を光焼結するための光を皮膜2に照射したとき、銅微粒子11は、光のエネルギーを吸収し、高温になる。皮膜2中に存在する焼結進行剤は、高温の銅微粒子11によって加熱され、高温(常温より高い温度)になる。化学反応は高温で促進されるので、焼結進行剤は、銅微粒子11の表面酸化皮膜を化学反応によって除去する。表面酸化皮膜が除去された銅微粒子11が光のエネルギーで焼結されることによって、電気抵抗が低い導電膜4が形成される。
【0035】
以上、本実施形態に係る銅微粒子分散液1を用いることにより、銅微粒子11の光焼結において、焼結進行剤が銅微粒子11の表面酸化皮膜を除去するので、光焼結によって電気抵抗が低い導電膜4を容易に形成することができる。また、この銅微粒子分散液1を用いることにより、回路基板上に電気抵抗が低い導電膜4を容易に形成することができる。
【0036】
本発明の実施例として、焼結進行剤を含有する銅微粒子分散液1、及び、比較例として、焼結進行剤を含有しない銅微粒子分散液を作った。それらの銅微粒子分散液を用い、光焼結によって基板上に導電膜が形成されるかどうか試験した。
【実施例1】
【0037】
分散剤を添加し、分散媒中に銅微粒子を分散させた銅微粒子分散液を作った。分散媒は、アルコール(ジエチレングリコール)とした。この分散媒は、本実施例では焼結進行剤を兼ねる。分散剤は、リン酸エステル(ビックケミー(BYK-Chemie)社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)−102」)とした。分散剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して2質量%(mass%)とした。平均粒子径が50nmの銅微粒子を用い、銅微粒子の濃度は、40質量%とした。基板として、スライドガラスを用いた。
【0038】
この基板上に銅微粒子分散液をスピンコート法により塗布し、膜厚1μmの皮膜を形成した。皮膜の色は黒色であった。この皮膜を乾燥せずに、皮膜に光を照射した。光照射のエネルギーは、14J/cm
2とした。
【0039】
光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜の電気抵抗として、シート抵抗を測定した。導電膜のシート抵抗は、480mΩ/sqという低い値であった。
【実施例2】
【0040】
分散媒として、実施例1とは異なるアルコール(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)を用いた。この分散媒は、本実施例では焼結進行剤を兼ねる。分散剤として、実施例1とは異なるリン酸エステル(ビックケミー社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)−111」)を用いた。それ以外の条件を実施例1と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、500mΩ/sqであった。
【実施例3】
【0041】
平均粒子径が70nmの銅微粒子を用いて銅微粒子分散液を作った。その後、焼結進行剤としてリン酸エステル(ビックケミー社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)−111」)を銅微粒子分散液に添加した。この焼結進行剤は、分散剤を兼ねる。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して10質量%とした。基板として、ガラス基板(コーニング社製、商品名「EAGLE XG(登録商標)」)を用いた。それ以外の条件を実施例2と同じにした。基板上に銅微粒子分散液から成る皮膜を形成した。皮膜を乾燥した後、皮膜に光を照射した。光照射のエネルギーは、11J/cm
2とした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成した導電膜のシート抵抗は、170mΩ/sqであった。
【実施例4】
【0042】
分散剤としてリン酸エステル(ビックケミー社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)−102」)を用いて、銅微粒子分散液を作った。その後、焼結進行剤としてカルボン酸(ビックケミー社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)−P−105」)を銅微粒子分散液に添加した。それ以外の条件を実施例3と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、350mΩ/sqであった。
【実施例5】
【0043】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてポリアミドイミド(日本高度紙工業株式会社(NIPPON KODOSHI CORPORATION)製、商品名「SOXR−U」)を添加した。それ以外の条件を実施例4と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、240mΩ/sqであった。
【実施例6】
【0044】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてポリイミド(ポリイミドワニス)を添加した。それ以外の条件を実施例5と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、250mΩ/sqであった。
【実施例7】
【0045】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてアルコール(ポリエチレングリコール、分子量600)を添加した。それ以外の条件を実施例6と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、300mΩ/sqであった。
【実施例8】
【0046】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてアミン(トリエタノールアミン)を添加した。それ以外の条件を実施例7と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、350mΩ/sqであった。
【実施例9】
【0047】
平均粒子径が50nmの銅微粒子を用い、焼結進行剤としてアミン(第一工業製薬製、商品名「ディスコール(Discole)(登録商標)N509」)を分散媒に添加して、銅微粒子分散液を作った。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して2質量%とした。基板として、スライドガラスを用いた。それ以外の条件を実施例8と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、150mΩ/sqであった。
【実施例10】
【0048】
分散剤としてポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル(第一工業製薬製、商品名「プライサーフ(Plysurf)(登録商標)A212C」)を用い、焼結進行剤としてポリアミド(ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、商品名「PVP K25」)を分散媒に添加して、銅微粒子分散液を作った。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して10質量%とした。銅微粒子の濃度は、60質量%とした。銅微粒子分散液は、ペースト状となった。この銅微粒子分散液をドローダウン法により基板上に塗布し、膜厚2μmの皮膜を形成した。それ以外の条件を実施例9と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、240mΩ/sqであった。
【実施例11】
【0049】
平均粒子径が1500nmの銅微粒子を用いて銅微粒子分散液を作った。銅微粒子分散液は、ペースト状となった。光照射のエネルギーは、20J/cm
2とした。それ以外の条件を実施例10と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、150mΩ/sqであった。
【実施例12】
【0050】
平均粒子径が20nmの銅微粒子を用い、焼結進行剤としてポリアミド(ポリビニルピロリドン、商品名「PVP K90」)を分散媒に添加して、銅微粒子分散液を作った。銅微粒子分散液は、ペースト状となった。光照射のエネルギーは、10J/cm
2とした。それ以外の条件を実施例11と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、250mΩ/sqであった。
【実施例13】
【0051】
平均粒子径が1500nmの銅微粒子を用い、分散媒としてエチレングリコールを用いて、銅微粒子分散液を作った。銅微粒子の濃度は、40質量%とした。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して30質量%とした。銅微粒子分散液は、ペースト状となった。光照射のエネルギーは、20J/cm
2とした。それ以外の条件を実施例12と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、770mΩ/sqであった。
【実施例14】
【0052】
平均粒子径が70nmの銅微粒子を用い、分散媒としてN−メチルピロリドンを用いて、銅微粒子分散液を作った。銅微粒子分散液は、ペースト状となった。その後、焼結進行剤として、ポリアミド(ポリビニルピロリドン、商品名「PVP K25」)を銅微粒子分散液に添加した。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して10質量%とした。光照射のエネルギーは、11J/cm
2とした。それ以外の条件を実施例13と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、200mΩ/sqであった。
【実施例15】
【0053】
分散媒としてジエチレングリコールを用いて、銅微粒子分散液を作った。その後、焼結進行剤としてホスホン酸(60質量%ヒドロキシエチリデンジホスホン酸水溶液)を銅微粒子分散液に添加した。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して10質量%とした。それ以外の条件を実施例9と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、270mΩ/sqであった。
【実施例16】
【0054】
分散媒としてジエチレングリコールモノエチルエーテルを用いて、銅微粒子分散液を作った。その後、焼結進行剤として酢酸を銅微粒子分散液に添加した。それ以外の条件を実施例15と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、240mΩ/sqであった。
【実施例17】
【0055】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてβ−ジケトン(アセチルアセトン)を添加した。それ以外の条件を実施例16と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、250mΩ/sqであった。
【実施例18】
【0056】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてアセチレングリコール(商品名「サーフィノール(Surfynol)(登録商標)420」)を添加した。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して1質量%とした。それ以外の条件を実施例17と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、340mΩ/sqであった。
【実施例19】
【0057】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてチオエーテル、アルコール(チオジグリコール)を添加した。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して10質量%とした。それ以外の条件を実施例18と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、160mΩ/sqであった。
【実施例20】
【0058】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤として硫酸エステル(商品名「サンデットEN」)を添加した。それ以外の条件を実施例19と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、200mΩ/sqであった。
【実施例21】
【0059】
銅微粒子分散液を作った後、焼結進行剤としてアミン、カルボン酸(グリシン)を添加した。それ以外の条件を実施例20と同じにした。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、180mΩ/sqであった。
【実施例22】
【0060】
分散媒として水を用い、分散剤として酸基を有する共重合物のアルキロールアンモニウム塩(商品名「DISPERBYK(登録商標)−180」)を用いて、銅微粒子分散液を作った。その後、焼結進行剤として、アルカリ(水酸化カリウム)を銅微粒子分散液に添加した。焼結進行剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して1質量%とした。それ以外の条件を実施例21と同じにした。作った銅微粒子分散液は、分散したが、銅微粒子の水への溶解が進行するため、1日後には青色の液体になった。このため、銅微粒子分散液を作成後速やかに使用した。光の照射によって皮膜の外観が金属銅の外観に変化し、基板上に導電膜が形成された。形成された導電膜のシート抵抗は、260mΩ/sqであった。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同じ銅微粒子分散液と基板を用いた。この基板上に膜厚1μmの皮膜を形成した。皮膜の色は黒色であった。皮膜を乾燥した後、皮膜に光を照射した。光の照射前に皮膜を乾燥したので、分散媒は焼結進行剤として機能しない。光照射のエネルギーは、実施例1と同じとした。
【0062】
光の照射によって、皮膜の色が青色に変化した。この青色は、酸化銅皮膜の干渉色であるので、基板上に導電膜が形成されなかった。銅微粒子の焼結進行が不十分であるため、皮膜が大気中の酸素と反応して酸化したと考えられる。
【0063】
(比較例2)
分散媒としてジエチレングリコールジブチルエーテルを用い、平均粒子径が70nmの銅微粒子を用いて、銅微粒子分散液を作った。分散剤も焼結進行剤も分散媒に添加しなかった。銅微粒子の濃度は、40質量%とした。この銅微粒子分散液は、銅微粒子の安定分散性が低く、銅微粒子は、かき混ぜた後しばらくの間は分散したが、1時間程度で沈殿した。基板として、実施例3と同じガラス基板を用いた。この基板上に銅微粒子分散液から成る皮膜を形成した。皮膜を乾燥した後、皮膜に光を照射した。光照射のエネルギーは、11J/cm
2とした。光の照射によって、凝集した銅微粒子が多くの塊として基板上に残った状態となった。このような状態は、「吹き飛び(blow-off)」と呼ばれる。銅微粒子の焼結はある程度進行したが、導電膜は形成されなかった。
【0064】
(比較例3)
分散媒としてn−ヘキサンを用いた。分散剤としてリン酸エステル(商品名「DISPERBYK(登録商標)−102」)を用いた。分散剤の濃度は、銅微粒子分散液に対して2質量%とした。それ以外の条件を比較例2と同じにした。基板上に銅微粒子分散液から成る皮膜を形成した。皮膜を乾燥した後、皮膜に光を照射した。光の照射後、基板上の皮膜は、黒色であり、そのシート抵抗は、1Ω/sqという高い値であった。光照射エネルギーを11J/cm
2より高くすると、皮膜の色が青色に変化し、皮膜の表面酸化が起こった。
【0065】
(比較例4)
分散媒として1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いた。それ以外の条件を比較例3と同じにした。光の照射後、基板上の皮膜は、黒色であり、そのシート抵抗は、1Ω/sqであった。光照射エネルギーを11J/cm
2より高くすると、皮膜の色が青色に変化し、皮膜の表面酸化が起こった。
【0066】
(比較例5)
分散媒としてN−メチルピロリドンを用いた。それ以外の条件を比較例4と同じにした。光の照射後、基板上の皮膜は、黒色であり、そのシート抵抗は、1Ω/sqであった。光照射エネルギーを11J/cm
2より高くすると、皮膜の色が青色に変化し、皮膜の表面酸化が起こった。
【0067】
(比較例6)
分散媒として炭酸プロピレンを用いた。それ以外の条件を比較例5と同じにした。光の照射後、基板上の皮膜は、黒色であり、そのシート抵抗は、1Ω/sqであった。光照射エネルギーを11J/cm
2より高くすると、皮膜の色が青色に変化し、皮膜の表面酸化が起こった。
【0068】
(比較例7)
分散媒として水を用いた。分散剤として、酸基を有する共重合物のアルキロールアンモニウム塩(商品名「DISPERBYK(登録商標)−180」)を用いた。それ以外の条件を比較例6と同じにした。作った銅微粒子分散液は、銅微粒子の水への溶解が進行するため、1日後には青色の液体になった。このため、銅微粒子分散液を作成後速やかに使用した。光の照射後、基板上の皮膜は、黒色であり、そのシート抵抗は、1Ω/sqであった。光照射エネルギーを11J/cm
2より高くすると、皮膜の色が青色に変化し、皮膜の表面酸化が起こった。
【0069】
上記の実施例1〜22に示されるように、焼結進行剤を含有する銅微粒子分散液を用いた場合、光焼結によって電気抵抗が低い導電膜が基板上に形成された。上記の比較例1〜7に示されるように、焼結進行剤を含有しない銅微粒子分散液を用いた場合、電気抵抗が低い導電膜が基板上に形成されなかった。
【0070】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、基材3の形状は、板状に限られず、任意の3次元形状であってもよい。