(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700919
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】表面処理鋼板およびその製造方法およびこれらを用いた塗装方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20150326BHJP
C25D 3/54 20060101ALI20150326BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20150326BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
C23C28/00 A
C25D3/54
C23C18/31 Z
B05D7/14 Z
B05D7/14 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2009-173492(P2009-173492)
(22)【出願日】2009年7月24日
(65)【公開番号】特開2011-26662(P2011-26662A)
(43)【公開日】2011年2月10日
【審査請求日】2012年4月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】石井 均
【審査官】
深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−150654(JP,A)
【文献】
特開昭64−058379(JP,A)
【文献】
特開2002−346645(JP,A)
【文献】
特公昭36−017257(JP,B1)
【文献】
特開2006−266445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状Biが鋼板表面に5〜80mg/m2付着し、その上に防錆油が0.5〜2.0g/m2塗油されていることを特徴とする表面処理鋼板。
【請求項2】
下記の湿潤環境耐食性評価試験方法にて発錆がなく、かつ下記のアルカリ脱脂性評価試験方法にて水弾きが無いことを特徴とする請求項1記載の表面処理鋼板。
《湿潤環境耐食性評価試験方法》
JIS K 2246記載の湿潤試験(39℃、95%RH)を480時間行い、鋼板表面の発錆状態を目視判定する。
《アルカリ脱脂性評価試験方法》
メタ珪酸ナトリウム9水和物:10g/L、重炭酸ナトリウム:10g/L、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=14):2g/Lを含有するアルカリ脱脂液を40℃に保持し、浸漬法にて120秒間脱脂する。浸漬法における撹拌条件としては試験板表面に10cm/secの流れが当たるように液を攪拌する。脱脂終了後、30秒間市水に浸漬して水洗し、水洗後30秒間空中放置した後の水濡れ性を目視にて評価する。
【請求項3】
溶解したBiを含有する水溶液を使用し、陰極電解法および/または置換めっき法にて鋼板表面に粒子状Biを付着せしめ、次いでその表面に防錆油を0.5〜2.0g/m2塗油することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の表面処理鋼板を裁断し、プレス加工を施し、溶接によってこれらを接合し、脱脂および水洗を行った後、塗装することを特徴とする塗装方法。
【請求項5】
表面処理鋼板が亜鉛系めっき鋼板であり、溶接がスポット溶接であり、塗装が電着塗装である請求項4記載の塗装方法。
【請求項6】
溶解したBiを含有する水溶液を使用し、陰極電解法および/または置換めっき法にて鋼板表面に粒子状Biを付着せしめ、次いでその表面に防錆油を0.5〜2.0g/m2塗油して表面処理鋼板を得、当該表面処理鋼板を裁断し、プレス加工を施し、溶接によってこれらを接合し、脱脂および水洗を行った後、塗装することを特徴とする塗装された表面処理鋼板の製造方法。
【請求項7】
表面処理鋼板が亜鉛系めっき鋼板であり、溶接がスポット溶接であり、塗装が電着塗装である請求項6記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防錆油塗油後の耐食性に優れ、防錆油のアルカリ脱脂性に優れ、かつリン酸亜鉛化成処理やジルコニウム系化成処理と言った塗装下地処理を行わずに塗装、特に電着塗装を施しても、塗装下地処理を行った場合と同等以上の塗装後耐食性および塗膜密着性を得ることができる表面処理鋼板およびその製造方法およびこれらを用いた塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板はその防錆性を向上させるために亜鉛系めっきが施される場合がある。よって、鋼板とは冷延鋼板、熱延鋼板のようにめっきが施されていない鋼板(以下、鉄鋼板と称する)と、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板のような亜鉛系めっき鋼板とに大別できるが、ここではその双方が対象となる。
【0003】
亜鉛系めっき鋼板についても鉄鋼板についても、その上に塗装を施す場合は、塗装前に塗装下地処理が必要となる。塗装下地処理によって形成された塗装下地皮膜によって塗装性能(塗装後耐食性および塗膜密着性)の向上が図れるからである。塗装下地処理としては、リン酸亜鉛系化成処理やジルコニウム系化成処理が一般的であり、自動車車体のような板金構成体の塗装を前提とした場合は、鋼板を切断する工程、切断された鋼板をプレス加工する工程、プレス加工された鋼板を接合する工程を経た後、塗装下地処理が施される。従来の塗装下地処理をプレス加工前に施した場合、プレス加工によって生じる皮膜欠陥によって塗装性能が著しく低下するためである。また、同時に従来の塗装下地処理を溶接前に施した場合、塗装下地皮膜の電気抵抗によって溶接性が著しく低下するためである。よって、通常板金構成体の製造に使用される鋼板には、塗装下地処理があらかじめ施されることは無い。
【0004】
ただし、亜鉛系めっき鋼板、鉄鋼板共に、それぞれの鋼板の欠点を補うための表面処理が施される場合はある。例えば、鉄鋼板であれば、特許文献1として、酸洗、連続焼鈍、研磨の少なくとも一工程を経由した後鋼板表面にTi,Mn,Ni,Co,Cu,Mo,Wの金属塩を1種または2種以上含む水溶液中で短時間陰極電解処理を施し、上記金属を0.001〜0.5g/m
2析出させることを特徴とする、燐酸塩処理性に優れた冷延鋼板の製造方法が記載されている。これはあくまでも、後に施されるリン酸亜鉛系化成処理の処理性を向上させることを目的としており、自らが塗装下地処理皮膜として作用するものではない。
【0005】
また、亜鉛系めっき鋼板であれば、特許文献2として、めっき層表面にZnO系酸化物を生成し、その上層にMn−Zn−OH−P系結晶質酸化物をMn量として0.1〜100mg/m
2及びP量として1〜100mg/m
2生成せしめたことを特徴とする潤滑性、化成処理性、接着剤適合性、溶接性に優れた亜鉛系めっき鋼板、特許文献3として亜鉛系めっき鋼板のめっき層の表面に、リン酸と亜鉛との非晶質の反応生成物を、リンに換算して20mg/m
2以上350mg/m
2以下の範囲で有することを特徴とするプレス成形性に優れた亜鉛系めっき鋼板が記載されている。
【0006】
これらはいずれも亜鉛系めっき鋼板の弱点であるプレス加工性を改善するための潤滑処理皮膜に関するものであり、塗装性能に影響を与えるものでは無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭58−37391号公報
【特許文献2】特開平8−296016号公報
【特許文献3】特開平9−170084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の如く、鉄鋼板に対して特許文献1の方法を適用した場合、リン酸亜鉛系化成処理の処理性は向上するものの、塗装性能を満足するためにはリン酸亜鉛系化成処理が前提となり、これを省略することはできない。
【0009】
亜鉛系めっき鋼板に対して特許文献2や特許文献3の方法を適用した場合、亜鉛系めっき鋼板のプレス加工性は向上するものの、やはり塗装性能を満足するためにはリン酸亜鉛系化成処理等の塗装下地処理が前提となり、これを省略することはできない。
【0010】
また、リン酸亜鉛化成処理やジルコニウム系化成処理をあらかじめ鋼板表面に施した場合は、その後のプレス加工にて皮膜がダメージを受けるばかりか、自身の皮膜抵抗により溶接性を低下させてしまう。さらに、リン酸亜鉛化成処理やジルコニウム系化成処理をプレス加工や溶接前に施そうとした場合、シート状の鋼板に対して処理する必要があるが、通常数十秒以上必要とされるこれらの処理をシートに対して施すことは、生産効率上困難である。
【0011】
本発明者は上記の課題を解決することを目的に鋭意検討し、その解決手段を見出した。
すなわち、本発明は次に示す(1)〜(5)である。
【0012】
(1)粒子状Biが鋼板表面に
5〜80mg/m2付着し、その上に防錆油が0.5〜2.0g/m
2塗油されていることを特徴とする表面処理鋼板。
【0013】
(2)
下記の湿潤環境耐食性評価試験
方法にて発錆がなく、かつ
下記のアルカリ脱脂性評価試験
方法にて水弾きが無いことを特徴とする前記(1)の表面処理鋼板。
《湿潤環境耐食性評価試験方法》
JIS K 2246記載の湿潤試験(39℃、95%RH)を480時間行い、鋼板表面の発錆状態を目視判定する。
《アルカリ脱脂性評価試験方法》
メタ珪酸ナトリウム9水和物:10g/L、重炭酸ナトリウム:10g/L、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=14):2g/Lを含有するアルカリ脱脂液を40℃に保持し、浸漬法にて120秒間脱脂する。浸漬法における撹拌条件としては試験板表面に10cm/secの流れが当たるように液を攪拌する。脱脂終了後、30秒間市水に浸漬して水洗し、水洗後30秒間空中放置した後の水濡れ性を目視にて評価する。
【0014】
(3)溶解したBiを含有する水溶液を使用し、陰極電解法および/または置換めっき法にて鋼板表面に粒子状Biを付着せしめ、次いでその表面に防錆油を0.5〜2.0g/m
2塗油することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
【0015】
(4)前記(1)または(2)の表面処理鋼板を裁断し、プレス加工を施し、溶接によってこれらを接合し、脱脂および水洗を行った後、塗装することを特徴とする塗装方法。
【0016】
(5)表面処理鋼板が亜鉛系めっき鋼板であり、溶接がスポット溶接であり、塗装が電着塗装である前記(4)の塗装方法。
(6)溶解したBiを含有する水溶液を使用し、陰極電解法および/または置換めっき法にて鋼板表面に粒子状Biを付着せしめ、次いでその表面に防錆油を0.5〜2.0g/m2塗油して表面処理鋼板を得、当該表面処理鋼板を裁断し、プレス加工を施し、溶接によってこれらを接合し、脱脂および水洗を行った後、塗装することを特徴とする塗装された表面処理鋼板の製造方法。
(7)表面処理鋼板が亜鉛系めっき鋼板であり、溶接がスポット溶接であり、塗装が電着塗装である前記(6)の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明(1)〜(
7)によれば、防錆油塗油後の耐食性に優れ、防錆油のアルカリ脱脂性に優れ、かつリン酸亜鉛化成処理やジルコニウム系化成処理と言った塗装下地処理を行わずに塗装、特に電着塗装を施しても、塗装下地処理を行った場合と同等以上の塗装後耐食性および塗膜密着性を得ることができるという効果を奏する。更に、本発明(5)
および(7)については、亜鉛系めっき鋼板をスポット溶接する際のスポット溶接性が向上するという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の鋼板とは、冷延鋼板、熱延鋼板のような鉄鋼板、および溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板のような亜鉛系めっき鋼板がその対象となる。
【0019】
本発明の表面処理鋼板は粒子状Biが鋼板表面に付着し、その上に防錆油が0.5〜2.0g/m
2塗油されていることを特徴としている。
【0020】
析出するBiは粒子状である。Bi粒子の平均粒子径は特に限定されないが、5〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、15〜100nmが最も好ましい。Bi粒子径が微細化しすぎると、粒子が積層し塗膜密着性が低下する場合がある。粒子が粗大化しすぎると、素地表面に対するBi被覆率が低下し塗装後耐食性が低下する場合がある。Biが粒子状ではなく連続膜として析出した場合は、粒子状Biによって得られる塗膜密着性向上効果が発揮されなくなるので、もはや塗装下地としての優位性を失ってしまう。前記粒子状Biは、Biを含んでいれば、他の物質を含んでいても含んでいなくてもよいが、通常、粒子状の核となる部分は金属Biを含み、表面汚染の影響を考慮すると最外層にはBi水酸化物(Bi(OH)
3等)やBi酸化物(Bi
2O
3等)を含む層が形成されていると考えられる。
【0021】
Bi付着量は特に限定されないが、1〜100mg/m
2が好ましく、5〜80mg/m
2がより好ましく、10〜50mg/m
2が最も好ましい。Bi付着量が不足すると鉄鋼板に塗油された防錆油のアルカリ脱脂性が劣化し、亜鉛系めっき鋼板におけるプレス加工性の低下を招くだけでなく、塗装後耐食性が低下する。過剰な場合は塗膜密着性が低下していく。
【0022】
鋼板上の粒子状Biは塗装下地皮膜や潤滑皮膜としての機能だけではなく、亜鉛系めっき鋼板のスポット溶接性を向上させる効果および鉄鋼板の脱脂性を向上させる効果も併せ持つ。これらの効果の発現メカニズムについては不明な点も多いが、発明者らは次のように考えている。亜鉛系めっき鋼板に対するスポット溶接性の低下は、銅電極へのZnの拡散によるものと考えられているが、亜鉛系めっき表面にBiが存在している場合、銅電極表面に速やかにCu/Bi合金層が形成され、Znの拡散を抑制するものと考えられる。
鉄鋼板に対する脱脂性向上は、防錆油に含まれる防錆添加剤の鉄鋼板表面への過度な吸着を抑制する効果によるものと考えられる。なお、先行技術においてこのような作用を有するものは無く、種々金属の中でもBiのみが奏する効果である。
【0023】
本発明の表面処理鋼板は粒子状Biの上に防錆油が0.5〜2.0g/m
2塗油されている。下限を下回ると発錆の問題が生じ、上限を上回ると脱脂性が低下する。この範囲が発錆等の表面変質が無く、かつ塗装前に速やかに油分除去し得る防錆油付着量として好適である。
【0024】
以上で、本発明の表面処理鋼板の構成を説明したので、次に、本発明の表面処理鋼板の性質を説明することとする。上述したように、本発明の表面処理鋼板は、リン酸亜鉛化成処理やジルコニウム系化成処理といった塗装下地処理を行った場合と同等以上の塗装後耐食性および塗膜密着性を有している。更に、本発明の表面処理鋼板は、その表面に所定量(防錆および脱油性の観点から設定された所定範囲)の防錆油を有しているが、この防錆油の優れた防錆性能を維持しつつ、後に施される油分除去性能(アルカリ脱脂性能)も有している。防錆油塗油後の防錆性能およびアルカリ脱脂性能は、下記の湿潤環境耐食性評価試験およびアルカリ脱脂性評価試験にて評価され、試験を合格する必要がある。
【0025】
《湿潤環境耐食性評価試験方法》
JIS K 2246記載の湿潤試験(39℃、95%RH)を480時間行い、鋼板表面の発錆状態を目視判定する。発錆無しを○、点錆または面錆の発生を×とし、○のみを合格とする。
《アルカリ脱脂性評価試験方法》
メタ珪酸ナトリウム9水和物:10g/L、重炭酸ナトリウム:10g/L、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(HLB=14):2g/Lを含有するアルカリ脱脂液を40℃に保持し、浸漬法にて120秒間脱脂する。浸漬法における撹拌条件としては試験板表面に10cm/secの流れが当たるように液を攪拌する。脱脂終了後、30秒間市水に浸漬して水洗し、水洗後30秒間空中放置した後の水濡れ性を目視にて評価する。水濡れ面積率100%を○、水弾きの確認された場合を×とし、○のみを合格とする。
【0026】
本発明は鋼板表面に陰極電解法および/または置換めっき法にてBiを付着せしめる方法に関するが、処理液としては溶解したBiを含有する水溶液である必要がある。処理液中に水酸化Bi、酸化Bi、金属Bi等の不溶性Bi化合物が存在しても本発明の効果を妨げるものではないが、析出方法が陰極電解および置換めっきに限定されるため、還元析出し得る形態、つまり溶解したイオン状のBiが溶存している必要がある。
【0027】
Biの供給方法としては、硫酸Biや硝酸Biを水溶液に溶解させる方法の他に、無機酸や有機酸に水酸化Bi、酸化Biを溶解させる方法を用いることができる。無機酸としては硫酸、塩酸、硝酸等が使用可能であり、有機酸としては酢酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、シスチン、カテコール、タイロン、EDTA、NTA、HEDTA等が使用可能である。また、EDTA等のアミノポリカルボン酸のようにBiに対して充分なキレート能を発揮する有機酸を用いた場合はアルカリ金属やアンモニアによってpH調整することもできる。
【0028】
処理液のpHは特に規定されるものではなく、pH1〜13に任意に調整できる。但し、置換めっき法を適用させる場合は素材をエッチングさせる必要あるため、pH1〜4が好ましい。処理液の温度についても特に規定されるものではないが25〜60℃が好ましい。但し、置換めっき法を適用される場合はpHの場合と同様素材をエッチングさせる必要があるため40〜60℃が好ましい。
【0029】
水溶液中のBi原子の含有率である質量濃度は特に規定されるものではないが、100〜10000ppmが好ましく、200〜7000ppmがより好ましく、500〜5000ppmが最も好ましい。
【0030】
Biを析出させる方法としては陰極電解法および/または置換めっき法が用いられる。陰極電解法および/または置換めっき法によってBiイオンを還元析出させることで初めて微細粒子状のBiを析出させることが可能となる。ドライプレーティング等の乾式析出方法ではBiが粒子状とならず、連続膜として析出してしまい、充分な塗膜密着性が得られなくなる。
【0031】
陰極電解法の場合、処理液中に鋼板を浸漬させ、不溶性陽極との間に電圧を印加する方法が採られる。不溶性電極としては白金電極、ステンレス電極、鉛電極等が使用できる。電流密度は特に限定されないが0.01〜50A/dm
2が好ましく、0.05〜20A/dm
2がより好ましく、0.1〜10A/dm
2が最も好ましい。
【0032】
置換めっき法の場合、鋼板に処理液を接触させれば処理可能である。具体的には、陰極電解の場合と同様、処理液中に鋼板を浸漬させる方法および鋼板に処理液をスプレー処理する方法が採られる。
【0033】
陰極電解法と置換めっき法を組み合わせても構わない。具体的には処理液中に鋼板を浸漬し、無電解で置換めっきしてから陰極電解処理しても本発明の効果を損なうものではない。
【0034】
Biの付着した鋼板は、その表面に防錆油が塗油される必要がある。鋼板表面に付着したBiは塗装下地として機能は発揮するものの、塗装前の鋼板への防錆効果は乏しいので防錆油の塗油は必須となる。Biの付着した鋼板は、防錆油を塗布しても後の脱脂工程において、防錆油由来の成分が残留しにくくなる。防錆油の付着量は0.5〜2.0g/m
2が好ましい。0.5g/m
2を下回ると防錆油の持つ防錆効果が失われ、塗装されるまでの間に鋼板表面が発錆してしまう。2.0g/m
2を上回ると塗装前の脱脂工程で油分を除去する際、除去性が低下してしまう。塗布される防錆油としては、既知の防錆油を使用可能であるが、例えば、石油スルフォン酸ナトリウム塩、石油スルフォン酸バリウム塩、石油スルフォン酸カルシウム塩、脂肪酸バリウム塩などの防錆添加剤を含有する、石油炭化水素からなる鉱物油が挙げられる。特に、カルシウム塩やバリウム塩と言ったアルカリ土類金属塩は防錆力が高い反面、一般的にアルカリ脱脂性が劣化する傾向があるため、本発明に使用される防錆油として好適である。なお、市販の防錆油は低沸点溶剤を含む場合があり、塗油後防錆油付着量が低下していく傾向にあるが、この場合の防錆油付着量は室温にて24時間放置した後の残渣であり、揮発分は含まない。
【0035】
最後に、本発明の表面処理鋼板の塗装方法を説明することとする。まず、本発明の表面処理鋼板の塗装工程に至るまでの工程に際しては、本発明の表面処理鋼板に付着した防錆油を除去する脱脂工程を必須的に含むこと以外は、特に限定されない。例えば、裁断工程、プレス工程、溶接による接合工程が存在していてもいなくともよい。また、塗装工程も特に限定されない。但し、本発明の鋼板は裁断され、プレス加工が施され、スポット溶接によってこれらが接合され、脱脂および水洗を行った後、電着塗装されることが好ましい。このプロセスを採ることにより、板金構成体の製造工程およびその塗装工程から塗装下地処理工程を省略することができる。塗装として電着塗装が選択される理由としては、複雑な構造、例えば袋構造を有する板金構成体の全体を付き廻り性良く塗装する塗装方法として優れているからである。
【0036】
なお、処理液とは本発明の処理に使用される処理液である。また、プレス加工、溶接、脱脂および水洗、電着塗装は公知の技術を使用することが可能である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。
【0038】
試験板の作製
試験板として、冷延鋼板:SPCC SD(JIS G 3141)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板:SGCD3 SMO F06(JIS G 3302)、溶融亜鉛めっき鋼板:SGCD3 ZSMO Z08(JIS G 3302)、電気亜鉛めっき鋼板:SECE MO E24(JIS G 3313)を用い、あらかじめその表面を、アルカリ脱脂剤を使用して脱脂処理した。脱脂処理後はスプレー水洗し、組成物1〜5に示す処理液に浸漬させ、条件1〜4に示す電解条件にて処理した。ただし、処理条件の内、処理時間は第1表に記載した。処理後の試験板は直ちに30秒間スプレー水洗し、ロール絞り後エアブロー乾燥した。分析用の試験板はここで取り出し、Bi付着量は蛍光X線分光分析(XRF)にて測定し、Bi粒子径および被覆率は電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて判定した。その他の試験板はエアブロー乾燥後直ちにロールコートにて防錆油:ダフニーオイルコートZ3(出光興産社製防錆油、防錆添加剤としてバリウム塩使用)を室温24時間後に1.0g/m
2となるように塗油した。
【0039】
処理液組成物
組成物1 Bi
2O
3 3g/L
50%H
2SO
4 30g/L
18%NH
3 pH調整分
pH 1.7
温度 40℃
(50%H
2SO
4にBi
2O
3を溶解後、18%NH
3を用いてpH調整)
組成物2 Bi
2O
3 10g/L
50%H
2SO
4 50g/L
18%NH
3 pH調整分
pH 1.5
温度 40℃
(50%H
2SO
4にBi
2O
3を溶解後、18%NH
3を用いてpH調整)
組成物3 Bi
2O
3 5g/L
HEDTA 30g/L
18%NH
3 pH調整分
pH 4.5
温度 40℃
(HEDTA水溶液にBi
2O
3を溶解後、18%NH
3を用いてpH調整)
組成物4 NiSO
4・6H
2O 3g/L
(NH
4)
2SO
4 15g/L
pH 4.7
温度 40℃
組成物5 過マンガン酸カリウム 20g/L
リン酸1カリウム 50g/L
リン酸 15g/L
硫酸 5g/L
温度 40℃
【0040】
処理条件
条件1 陰極電解 電流密度:0.1Adm
−2
条件2 陰極電解 電流密度:2.0Adm
−2
条件3 無電解2秒(置換めっき)後陰極電解 電流密度:0.1Adm
−2
条件4 無電解(置換めっきのみ)
【0041】
湿潤環境耐食性評価
明細書に記載の評価試験方法にて耐食性を評価した。発錆無しを○、点錆または面錆の発生を×とし、○のみを合格とした。
【0042】
アルカリ脱脂性評価
明細書記載の評価試験方法にて脱脂性を評価した。水濡れ面積率100%を○、水弾きの確認された場合を×とし、○のみを合格とした。
【0043】
潤滑性評価
10日間室内放置した試験板を直径115mmの円盤状に打ち抜き、高速深絞り試験機を用いて潤滑性を評価した。下記条件にて試験を行い、限界しわ押さえ圧を測定した。なお、潤滑性評価は亜鉛系めっき鋼板に対してのみ行った。
ポンチ径:50.0mm ポンチ肩:5mmR ダイス肩:5mmR
表面仕上げ:#1200 ポンチ速度:60m/min 絞り比:2.3
測定結果は次の判定基準に基づき評価した。
0.5ton未満: ×
0.5ton以上、2.0ton未満: △
2.0ton以上、3.0ton未満: ○
3.0ton以上: ◎
【0044】
スポット溶接性評価
スポット溶接試験は、以下に示す溶接条件によりスポット溶接時の連続打点数を調査して行った。電極は、先端径4.5mmφ、先端角120度、外径13mmφのCu−Cr製電極を使用した。50Hz電源により、10サイクルの通電を行った。1.7kNの加圧力で通電前30サイクル、通電後10サイクル、アップダウンスロープなしで加圧した。
【0045】
なお、連続打点性調査における溶接電流値は、板厚をt(mm)とした時の4√tで示されるナゲット径が得られる電流値I1(kA)及び溶着電流値I2(kA)の平均値を用い、4√tのナゲット径が維持された最大打点数を求めた。
測定結果は次の判定基準に基づき評価した。
表面処理無しの素材における連続打点数の120%以上: ◎
表面処理無しの素材における連続打点数の80%以上、120%未満: ○
表面処理無しの素材における連続打点数の80%未満: ×
【0046】
塗装
実施例および比較例の処理を施し、塗油された試験板に対し、アルカリ脱脂剤を使用して脱脂処理し、スプレー水洗し、リン酸亜鉛系化成処理等の塗装下地処理を施さずに、関西ペイント社製カチオン電着塗料「GT−10HT」を用いて電着塗装を行った。電着塗料の温度は28℃、電圧の印加条件は30秒かけて200Vまで直線的に昇圧し、その後200Vを150秒間維持した。塗装後のカップ状成形物は水洗後、電気オーブンを用いて170℃にて30分間塗膜を焼き付けた。
【0047】
塗装後耐食性評価
塗装後の試験板にカッターを用いてクロスカットを入れ、JIS Z 2371に準じて塩水噴霧試験を1000時間行った。塩水噴霧試験後のカットからの片側最大錆幅を測定し、下記評価基準に従って評価した。
冷延鋼板に対する判定基準
錆幅1.0mm未満: ◎
錆幅1.0mm以上、1.5mm未満: ○
錆幅1.5mm以上、2.0mm未満: △
錆幅2.0mm以上: ×
亜鉛系めっき鋼板に対する判定基準
錆幅0.5mm未満: ◎
錆幅0.5mm以上、1.0mm未満: ○
錆幅1.0mm以上、1.5mm未満: △
錆幅1.5mm以上: ×
【0048】
塗膜密着性評価
塗装後の試験板を脱イオン水の沸騰水中に1時間浸漬させ、その後塗面にカッターを用いて1mm間隔の平行線11本を直角に引いて、100個の碁盤目状カット傷を入れた。次いで碁盤目部分にセロテープを貼り、テープ剥離した後、塗膜の碁盤目剥離個数を下記評価基準に従って評価した。
0個: ◎
1〜5個: ○
6〜10個: △
11個以上: ×
【0049】
【表1】