(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700924
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】電鋳体とその製造方法、および時計部品
(51)【国際特許分類】
C25D 1/00 20060101AFI20150326BHJP
G04B 19/06 20060101ALN20150326BHJP
G04B 37/22 20060101ALN20150326BHJP
【FI】
C25D1/00 381
C25D1/00 341
!G04B19/06 E
!G04B37/22 F
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-243413(P2009-243413)
(22)【出願日】2009年10月22日
(65)【公開番号】特開2011-89169(P2011-89169A)
(43)【公開日】2011年5月6日
【審査請求日】2012年8月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】岸 松雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 未英
(72)【発明者】
【氏名】新輪 隆
【審査官】
向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−516856(JP,A)
【文献】
特開2004−218002(JP,A)
【文献】
特開2004−217995(JP,A)
【文献】
特表2012−506954(JP,A)
【文献】
特開平05−106079(JP,A)
【文献】
特開2002−025573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00〜 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹部を有する電鋳部からなる電鋳体であって、
前記電鋳部の前記凹部を有する面と、前記凹部の底面と、の表面粗さが異なっており、
前記電鋳部の前記凹部の底面は、梨地状態からなることを特徴とする電鋳体。
【請求項2】
前記電鋳部の前記凹部を有する面は、鏡面状態からなることを特徴とする請求項1に記載の電鋳体。
【請求項3】
請求項1〜2の何れか一項に記載の電鋳体からなることを特徴とする時計部品。
【請求項4】
基板の導電性を有する表面に、パターンめっきにより金属層を形成する工程と、
前記表面に電鋳型を形成する工程と、
前記電鋳型の内部の前記表面及び前記金属層の上面に、前記金属層と異なる組成を有する電鋳部を形成する工程と、
前記基板及び前記電鋳型を除去する工程と、
前記金属層を除去する工程と、
を備え、
前記表面と、前記金属層の前記電鋳部と接する面と、は表面粗さが異なるように形成されることを特徴とする電鋳体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき法による電鋳体とその製造方法
、および時計部品に係り、表面部に凹部のパターンと凹部と凹部以外の表面の表面形態を異とする電鋳体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電鋳法によれば、精密に加工された電鋳型と呼ばれる部材を用いることにより、非常に高い転写性を有する部材を製造することが出来る。特に近年、シリコンプロセスにより感光性材料を用いて電鋳型形状に加工するLIGA(Lithographie Galvanofomung Abformung)法によって電鋳型を製造し、合わせて微小な形状を有する部品や金型を製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。このような電鋳型では、微小な部品を高い精度を有する電鋳体を製造することが出来ることから、複雑形状を有する機械式腕時計ムーブ部品等微小な部品への応用がなされている。
【0003】
近年、機械式腕時計では、装飾性を高めるため時計ケースや文字板等の所謂外装部品だけでなく、ケース内部が見えるように裏蓋や文字板等を透明あるいは開口部を設ける等を行い、内部すなわちムーブメントが外部から見える構造をとるようになっている。
【0004】
このため、ムーブメントを構成する歯車、受け部品や自動巻き式腕時計に具備されている回転錘等に装飾性を持たせることが望まれている。
【0005】
同様な観点から、機械式腕時計だけでなく微細部品や精密部品においても装飾性や部品の認識性、視認性を高めるといったことが広く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−15126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、LIGA法により作製される電鋳体の少なくとも一表面の一部に凹部を有し、この凹部が文字、絵模様等任意のデザイン性、装飾性、視認性を有するパターンとして形成され、さらに、この凹部表面と凹部以外の表面の表面形態が異なる電鋳体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
【0009】
本発明に係る電鋳体の製造方法は、少なくとも表面に導電性を有する基板の前記表面に、パターンめっきにより金属層を形成する工程と、前記表面に電鋳型を形成する工程と、前記電鋳型の内部に前記金属層と異なる組成を有する電鋳部を形成する工程と、前記基板及び前記電鋳型を除去する工程と、前記金属層を除去する工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この電鋳体の製造方法は、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィー等による精密なめっきレジスト層形成とめっき法からなるアディティブ法による薄膜微細パターン形成技術による金属層からなる文字、絵柄模様等のパターン形成を行い、次に所望とする電鋳体形状を与える電鋳型を厚膜フォトレジストにより形成し、さらに前記金属膜パターン上とこの電鋳型内に電鋳を行い、この電鋳体を基板から分離し、金属層を除去することにより、一表面に微細パターンの凹部を有する電鋳体を提供することが出来る。
【0011】
また、この発明に係る電鋳体の製造方法は、基板の導電性を有する表面に、パターンめっきにより金属層を形成する工程と、前記表面に電鋳型を形成する工程と、前記電鋳型の内部の前記表面及び前記金属層の上面に、前記金属層と異なる組成を有する電鋳部を形成する工程と、前記基板及び前記電鋳型を除去する工程と、前記金属層を除去する工程と、を備えることを特徴とする。また、前記表面の表面形態と、前記金属層の前記電鋳部と接する面の表面形態と、が異なることを特徴とする。
【0012】
この電鋳体の製造方法は、フォトレジストを用いたフォトリソグラフィー等による精密なめっきレジスト層形成とめっき法からなるアディティブ法による薄膜微細パターン形成技術により、基板の表面形態とは異なる表面形態を有する金属層からなる文字、絵柄模様等のパターン形成を行い、次に所望とする電鋳体形状を与える電鋳型を厚膜フォトレジストにより形成し、さらに前記金属膜パターン上とこの電鋳型内に電鋳を行い、この電鋳体を基板から分離し、ついて、前記金属層を除去することにより、一表面に微細パターンの凹部を有し、且つ、凹部表面の形態とそれ以外の表面における表面形態、すなわち表面粗さが異なる電鋳体を提供することが出来る。
【0013】
このような電鋳体およびその製造方法は、部分的な表面形態の改質を行う代表的な手段であるマスキング後のホーニング等の手段と比べて、マスキング精度が高く、容易かつ均一な表面形態の変更が出来る。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、少なくとも一表面に装飾性、視認性等視覚的に優れた凹凸パターンを有し、微細性、精度に優れた電鋳体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る電鋳体を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電鋳体の製造方法を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電鋳体の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る実施形態について、
図1から
図3を参照して説明する。
図1(a)は本発明の第1の実施形態の電鋳体である電鋳歯車の一表面を示す図であり、
図1(b)は
図1(a)におけるA−A’における断面を示す図である。
【0017】
本実施形態に係る電鋳体である電鋳歯車101は、
図1に示すように、軸穴102と歯車の軽量化を図るために設けた歯車開口部103を有する。また、電鋳体である電鋳歯車101の一表面を構成する部分のうち歯先表面部104、開口部縁部105の表面部および文字パターン部106の表面部は鏡面になっている。さらに、凹部107は、梨地状態の表面を有している。また電鋳体は、例えば金、ニッケル、鉄や、またはこれらの合金等で形成することができる。すなわち、歯先表面部104、開口部縁部105の表面および文字パターン部106の表面は、凹部105の表面と表面形態が異なっている。なお、すなわち、歯先表面部104、開口部縁部105の表面および文字パターン部106の表面の表面形態と、凹部105の表面形態とが異なっていればよい。
【0018】
この電鋳体の製造方法は、
図2に示したように少なくとも一表面に導電性を有する基板に任意のパターンを有する金属層を形成する工程と、
図3に示した電鋳型を形成する工程と、この電鋳型内に電鋳体を形成し、電鋳体を基板および型から分離し独立させる工程と、金属層を除去する工程と、から構成されている。
【0019】
金属層を形成する工程では、まず、
図2(a)に示すように、表面状態が鏡面の単結晶シリコンウエハからなる基板109上に基板109側からクロム、銅の2層(図示しない)からなる導電層110を形成する。さらに
図2(b)に示すように、この基板109の導電層110表面にポジ型フォトレジストを塗布し、露光、現像を順次行うことにより、文字、絵模様等所望とする開口パターンを有する厚み10μmの第1のレジスト層111を形成する。なお、導電層110は、クロム、または銅の単層でもよい。また、第1のレジスト層111は、ネガ型フォトレジストを用いてもよい。
【0020】
次に、
図2(c)に示すように、電気めっき法により、表面状態が梨地状態となる7μmの厚みの銅めっきを第1のレジスト層111の開口部に施すことにより金属層112を形成する。次いで
図2(d)に示すように、第1のレジスト層111をアルカリ性水溶液やアセトンのような有機溶剤等の剥離剤で剥離除去する。なお、第1のレジスト層111及び金属層112の厚さは、上記に記載した厚さに限定されるものではなく、金属層112が第1のレジスト層111より厚くなければよい。
【0021】
図3(a)の電鋳型を形成する工程と電鋳体を形成し、電鋳体を分離する工程では、化学増幅型エポキシ系厚膜フォトレジストを塗布し、露光、加熱による硬化促進後、現像を行うことにより電鋳型113を形成する。この電鋳型113の厚さは、機械式腕時計用歯車では、50μmから1mm程度となる。
【0022】
次に、
図3(b)に示すように電鋳型113の開口部にニッケル電鋳を行い電鋳部114を形成する。また、必要に応じて研磨等により電鋳部114の厚さや表面形態の調整を行う。さらに、
図3(c)に示すように、基板109、導電層111および電鋳型113を除去することにより電鋳物115を得る。最後に、
図3(d)に示すようにこの電鋳物115からエッチングにより銅からなる金属層112を除去し、電鋳体117を得る。
【0023】
このようにして作製された電鋳体117は、基板109上の導電層110と接していた部分では鏡面部118となり、金属層112と接していた部分では表面形態が梨地状態である凹部116を有しており、表面の凹凸に加え、両者間の表面形態の違いにより、大きなコントラストが発現されることにより、凹部118として形成されたパターンがより強調された装飾性や視認性に優れた面を有するものとなる。
【0024】
図2および
図3では、金属層112は、電鋳型113開口部の内部にのみ形成されているが、内部だけに規定されるものではなく、金属層112と電鋳型113が重なる部分があってもなんら本実施形態を限定するものではない。
【0025】
また、本実施形態では金属層112で銅めっき層、また、電鋳部108ではニッケル電鋳を用いたが、これらは限定されるものではなく、めっきとして可能な材料であればいずれも自由に選択できるものである。
【0026】
なお、本発明の電鋳体は、回転錘、歯車、がんぎ車、アンクル、てんわなどの時計部品を形成することが可能である。また、時計部品に限らず、微細部品や精密部品を形成することができる。
【符号の説明】
【0027】
101 電鋳歯車
102 軸穴
103 歯車開口部
104 歯先表面部
105 開口部縁部
106 文字パターン部
107 凹部
108 電鋳部
109 基板
110 導電層
111 第1のレジスト層
112 金属層
113 電鋳型
114 電鋳部
115 電鋳物
116 凹部表面部
117 電鋳体
118 鏡面部