特許第5700946号(P5700946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5700946
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】鍛造クレーンシステム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20150326BHJP
   B66C 17/18 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   B66C13/22 L
   B66C17/18
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-73173(P2010-73173)
(22)【出願日】2010年3月26日
(65)【公開番号】特開2011-201700(P2011-201700A)
(43)【公開日】2011年10月13日
【審査請求日】2012年10月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】312005957
【氏名又は名称】三菱重工マシナリーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 昇
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴之
(72)【発明者】
【氏名】森岡 一喜
【審査官】 筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−263582(JP,A)
【文献】 実開平05−081180(JP,U)
【文献】 特開平10−182067(JP,A)
【文献】 特開昭54−100047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/22
B66C 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被鍛造物を吊下げる吊下げ手段、並びに、駆動源としての電動機、該電動機を制御するインバータ、及び前記電動機の回転状態を検出して前記インバータに出力する回転状態検出部を具備して自走するための走行手段及び横行手段をそれぞれ有する複数の鍛造クレーンと、
前記鍛造クレーンに対して同一の動作指令を出力して操作する操作部と、
前記操作部から出力される動作指令に基づいて前記インバータに走行速度指令を出力する制御部と、を備え、
前記インバータは、
前記回転状態検出部から出力される前記回転状態に基づく現在の回転速度と、前記制御部から出力される前記走行速度指令との差分を求めて、前記差分に基づいて前記走行速度指令に応じた回転速度で前記電動機が回転駆動するように交流電流を出力し、
前記鍛造クレーンそれぞれの走行手段は、
走行方向に直交する方向に2列の車輪群をそれぞれ備え、
各車輪群は、前記電動機で回転駆動する2つの駆動輪を具備し、
前記電動機を制御する前記インバータは、
前記車輪群毎に独立して設けられ、
前記回転状態検出部は、
1つの車輪群に設けられた2つの駆動輪を回転駆動する前記電動機のうち1つの前記電動機の回転状態のみを検出する鍛造クレーンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の鍛造クレーンシステムにおいて、
前記鍛造クレーンそれぞれの前記横行手段は、横行方向に直交する方向に異なる位置で複数設けられて前記電動機で回転駆動する駆動輪を具備し、前記電動機及び該電動機を制御する前記インバータが前記横行方向に直交する方向の異なる位置毎に独立して設けられていることを特徴とする鍛造クレーンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造作業を行う時に、被鍛造物を吊り下げる鍛造クレーンシステムに関し、特に、複数の鍛造クレーンが協働して被鍛造物を吊下げ可能な鍛造クレーンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鍛造工場で使用される鍛造クレーンは、被鍛造物を搬送するとともに、鍛造装置による鍛造作業時も被鍛造物を保持し続けるために利用されるクレーンである。そして、このような鍛造装置と連動した鍛造クレーンの作業によって、被鍛造物に対して鍛造処理を行ない、被鍛造物を所定の形状に加工する。
【0003】
具体的には、鍛造クレーンは、例えば、建屋レール上を走行するガーダと、建屋レールと垂直方向に設置されるガーダ上のレールを横行するトロリーと、レール上を走行するトロリーと、トロリー上で支持されて、ワイヤが巻回されたドラムと、ドラムを回転駆動する電動機などにより構成されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、このような鍛造クレーンでは、鍛造作業時には、吊荷である被鍛造物自身の重量のみならず、鍛造装置のプレスによって発生する荷重がワイヤに作用する場合がある。そして、鍛造クレーンでは、このような鍛造装置からの荷重にも対抗し得るため、単に荷の吊り込みを行うだけの通常のクレーンと比較して大きい安全率で設計がなされ、吊り込みできる荷重を大きく設定する必要がある。また近年、鍛造装置では、より大型の鍛造物を加工することが要求されており、被鍛造物を吊込んで鍛造装置と協働して作業を行う鍛造クレーンにおいても、より重量物及び特殊な形状の被鍛造物を吊り込み可能なものが要求されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、2つの鍛造クレーンが協働して被鍛造物を吊り込んで鍛造装置により鍛造作業を実施する点が開示されている。そして、このような被鍛造物は、鍛造作業前後において、2つの鍛造クレーンが協働して、吊り込んで移動することで、1つの鍛造クレーンでは、重量、大きさ、形状により、吊り込んで移動することが困難な被鍛造物でも鍛造作業を実施することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭45−24939号公報
【特許文献2】特開昭63−215333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、2つの鍛造クレーンによって安定して被鍛造物を搬送するためには、2つの鍛造クレーンが相対位置を変えずに同じ速度で走行する必要があった。そして、2つの鍛造クレーンを各々の運転手が目視で2つの鍛造クレーン間の距離を確認し、各鍛造クレーンを個別で操作する必要があり、2つの鍛造クレーンを同時に運転可能となることが望まれていた。しかしながら、各鍛造クレーンに作用する荷重は、被鍛造物の形状、被鍛造物と各鍛造クレーンとの相対位置の違いによって異なってくる。また、2つの鍛造クレーンと被鍛造物との位置関係によっては、被鍛造物の搬送方向、すなわち2つの鍛造クレーンの走行方向に対して、各鍛造クレーンに被鍛造物から作用する荷重の方向が異なる場合がある。そして、これらの場合には、各鍛造クレーンに作用する荷重の大きさ及び方向の相違により各鍛造クレーンの走行速度が異なって相対位置に差が生じ、被鍛造物を安定して搬送することができなくなってしまう問題があった。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、複数の鍛造クレーンによって被鍛造物を安定的に搬送することが可能な鍛造クレーンシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の鍛造クレーンは、被鍛造物を吊下げる吊下げ手段、並びに、駆動源としての電動機、該電動機を制御するインバータ、及び前記電動機の回転状態を検出して前記インバータに出力する回転状態検出部を具備して自走するための走行手段及び横行手段をそれぞれ有する複数の鍛造クレーンと、これら複数の鍛造クレーンのそれぞれの前記インバータに対して、同一の走行速度指令を出力可能な操作部とを備え、前記インバータは、前記回転状態検出部から出力される検出信号に基づいて、前記走行速度指令に応じた回転速度で駆動するように前記電動機に対して交流電流を出力し、前記鍛造クレーンそれぞれの走行手段は、走行方向に直交する方向に2列の車輪群をそれぞれ備え、各車輪群は、前記電動機で回転駆動する2つの駆動輪を具備し、前記電動機を制御する前記インバータは、前記車輪群毎に独立して設けられ、前記回転状態検出部は、1つの車輪群に設けられた2つの駆動輪を回転駆動する前記電動機のうち1つの前記電動機の回転状態のみを検出することを特徴とする。
【0009】
この構成では、複数の鍛造クレーンの各吊下げ手段で同時に、同一の被鍛造物を吊下げた状態で、走行手段により各鍛造クレーンを自走させることで、被鍛造物を搬送することができる。ここで、複数の鍛造クレーンを移動させる際には、操作部から各鍛造クレーンに対し出力される同時かつ同一の速度指令に従い、各鍛造クレーンのインバータに対して同一の速度指令が出力される。そして、各鍛造クレーンの走行手段においては、インバータが、入力された速度指令に対して、回転状態検出部で検出され出力される回転状態に基づいて速度指令に応じた回転速度で駆動するように、電動機に対して交流電流を出力する。このため、複数の鍛造クレーンは、同一の速度指令に応じた速度で走行することができ、これにより相対位置を一定に保ったまま走行することができる。このため、被鍛造物の形状、被鍛造物に対する複数の鍛造クレーンそれぞれの相対位置、走行方向に対する各鍛造クレーンに作用する荷重の方向に係らず、安定して走行して被鍛造物を搬送することができる。
【0011】
さらに、この構成では、走行方向に直交する方向に異なる位置の駆動輪同士は、互に異なるインバータによる独立した制御のもと、電動機の駆動により回転駆動することとなる。このため、走行方向に直交する方向に位置ずれして被鍛造物を吊り込んだりしても、各インバータにより、操作部からの速度指令に応じた回転速度で駆動するように、それぞれ対応する電動機に対して交流電流を出力することができる。その結果、走行方向に直交する方向に配列した駆動輪同士で速度が異なることなく、安定してそれぞれの鍛造クレーンを走行させて被鍛造物を搬送することができる。
【0012】
また、上記の鍛造クレーンにおいて、前記鍛造クレーンそれぞれの前記横行手段は、横行方向に直交する方向に異なる位置で複数設けられて前記電動機で回転駆動する駆動輪を具備し、前記電動機及び該電動機を制御する前記インバータが前記横行方向に直交する方向の異なる位置毎に独立して設けられていることを特徴とする。
【0013】
この構成では、横行方向に直交する方向に異なる位置の駆動輪同士は、互に異なるインバータによる独立した制御のもと、電動機の駆動により回転駆動することとなる。このため、横行方向に直交する方向に位置ずれして被鍛造物を吊り込んだりしても、各インバータにより、操作部からの速度指令に応じた回転速度で駆動するように、それぞれ対応する電動機に対して交流電流を出力することができる。その結果、横行方向に直交する方向に配列した駆動輪同士で速度が異なることなく、安定してそれぞれの鍛造クレーンを走行させて被鍛造物を搬送することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の鍛造クレーンでは、複数の鍛造クレーンによって被鍛造物を安定的に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係わる鍛造クレーンシステムを示す概略構成図である。
図2】本発明の鍛造クレーンシステムを示すブロック図である。
図3】本発明の鍛造クレーンシステムにおいて、各鍛造クレーンの走行手段の詳細を示す平面図である。
図4】本発明の鍛造クレーンシステムにおいて、吊下げ用治具を利用してワークを吊下げた状態を説明する正面図である。
図5】本発明の鍛造クレーンシステムにおいて、吊下げ用治具を利用してワークを吊下げた状態を説明する吊下げ用治具を拡大視した側面図である。
図6】本発明の鍛造クレーンシステムにおいて、吊下げ用治具を利用してワークを吊下げた場合で、鍛造クレーン同士が離間した状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について図1から図4を参照して説明する。図1から図3は、本実施形態の鍛造クレーンシステムを示している。図1に示すように、本実施形態の鍛造クレーンシステム100は、複数の鍛造クレーン1により、被鍛造物であるワークWを吊り下げて、鍛造装置101と協働してワークWに対して鍛造処理を行うものである。本実施形態では、鍛造クレーン1A、1Bと二つの鍛造クレーン1を備えている。
【0017】
鍛造装置101は、鍛造時にワークWをその上面に載置する支持台102と、該支持台102の上方位置に配置され該支持台102との間に配置されたワークWに圧力を加えるプレス103と、該プレス103を昇降するシリンダ104とを備える。そして、鍛造装置101は、鍛造クレーンシステム100の各鍛造クレーン1で吊り下げられたターニング装置110によって回転させられるワークWに対して、ワークWの鍛造作業を行うものである。ここで、ターニング装置110は、ワークWの軸部W1を保持するベルト111と、該ベルト111を回転させることによって軸部W1とともにワークWを軸回りに回転させる回転装置112とから構成されている。
【0018】
次に、鍛造クレーンシステム100について説明する。図1及び図2に示すように、鍛造クレーンシステム100は、レールL上を走行可能な二つの鍛造クレーン1(1A、1B)と、二つの鍛造クレーン1A、1Bに対して同一の動作指令を出力して操作する操作部10とを備える。各鍛造クレーン1は、レールL上を走行可能な支持部2と、支持部2に支持されて吊荷となるワークWをワイヤ31によって吊り下げる吊下げ手段3と、各構成の制御を行う主制御部であるPLC(Programmable logic controller)4とを有する。PLC4は、操作部10から出力される動作指令を受け付け、該動作指令に基づいて各構成の制御を行う。なお、動作指令には、吊下げ手段3による巻上げ、巻下げなどの指令を行う巻き操作指令や、後述する走行手段20による走行方向及び走行速度などの指令を行う走行速度指令などが含まれる。また、走行速度指令は、例えば走行速度を絶対値によって表すとともに、走行方向を正負符号によって表す。
【0019】
支持部2は、レールL上を車輪22によって自走するための走行手段20を備える。走行手段20は、フレーム21と、フレーム21に回転可能に支持され、レールL上に配された車輪22と、車輪22を回転駆動させる電動機である走行用モータ23と、走行用モータ23の回転状態として角度情報を取得する回転状態検出部であるパルスジェネレータ24と、走行用モータ23を制御するインバータ25とを有する。また、支持部2は、フレーム21上を、走行手段20による走行方向と直交する方向を横行方向として横行するための横行手段27を備える。横行手段27は、フレーム21上に配置したトロリーによって構成され、該トロリーは、図示しないが、走行手段同様に、横行方向に回転可能な車輪と、車輪を回転駆動させる電動機である横行用モータと、横行用モータの回転状態として角度情報を取得する回転状態検出部であるパルスジェネレータと、横行用モータを制御するインバータとを有する。
【0020】
図3に示すように、本実施形態において、各鍛造クレーン1の走行手段20は、レールLに平行な走行方向Xに直交する方向に2列の車輪群26A、26Bを有している。各車輪群26A、26Bは、走行方向Xに沿って6個ずつ設けられた車輪22によって構成されている。また、各車輪群26A、26Bにおいて、6個の車輪22のうちの2つが駆動輪22−1として、残りの4つが従動輪22−2として構成されている。そして、各駆動輪22−1には、それぞれ走行用モータ23が接続されていて、走行用モータ23の回転駆動力を伝達させることが可能となっている。また、図2に示すように、各走行手段20は、車輪群26A、26Bのそれぞれにおいて独立して制御可能に2つのインバータ25を備える。そして、各車輪群26A、26Bのそれぞれにおいて、2つ駆動輪22−1と対応する2つの走行用モータ23は、同一のインバータ25に接続されており、同一の交流電流を出力することが可能となっている。また、これら2つの走行用モータ23のうち、1つにパルスジェネレータ24に接続されており、回転状態として回転位置を検出することが可能となっている。そして、インバータ25には、一方の走行用モータ23と接続されたパルスジェネレータ24で検出された回転位置を角度情報θとして出力することが可能となっている。
【0021】
以上、図2に示すように、本実施形態では、2つの鍛造クレーン1のそれぞれは、2つの車輪群26A、26Bと対応して2つのインバータ25と4つの走行用モータ23とを備えている。そして、これら2つのインバータ25は、PLC4に接続されおり、操作部10からPLC4を介して出力される同一の走行速度指令ω0に応じて、対応する走行用モータ23に交流電流を出力する。ここで、インバータ25は、PLC4からの走行速度指令ω0に基づいて、交流電源から入力される交流電流を、直流電流に変換した後に、対応する周波数及び振幅の交流電流として出力するインバータ本体25aと、走行用モータ23に取り付けられたパルスジェネレータ24から角度情報θを取得し、現在の回転速度ωを算出する微分器25bと、PLC4からの走行速度指令ω0から微分器25bから出力された回転速度ωを減算した差分Δωを演算しインバータ本体25aに出力する減算器25cとを備える。なお、上記パルスジェネレータ24では、回転位置を検出するのに限らず、回転状態として例えば回転速度を検出するものとしても良い。
この場合には、インバータ25において微分器25bが不要となる。
【0022】
図1に示すように、吊下げ手段3は、ターニング装置110を支持する吊具30と、該吊具30を吊下げるワイヤ31と、該ワイヤ31が巻回されている複数の滑車32、33と、該滑車32、33を経たワイヤ31の一端31a側が巻回されたドラム34と、該ドラム34を回転させる図示しない主巻モータ及び主巻モータを制御する主巻用インバータとを有する。そして、ターニング装置110は、吊具30のフック30aに係合されている。
【0023】
なお、図1においては、吊下げ手段3は、ターニング装置110を介してワークWを吊下げるものとしたが、鍛造時にワークWを回転させる必要がない場合、あるいは、ワークWの搬送のみを行う場合には、ターニング装置110を用いず、吊具30のフック30aに直接ワークWを係合し、あるいは、別の吊下げ用治具を用いてワークWを吊下げるようにしても良い。図4及び図5は、吊下げ用治具の一例を示している。図4及び図5に示すように、吊下げ用治具50は、ワークWを挟み込むトング51と、トング51を吊下げるビーム52とを備える。トング51は、中間部分の回転支持部53で互いに回転可能にピン結合された一対の挟持部材54と、挟持部材54の基端54aを支持する支持部材55と、支持部材55にU字状の設けられた被係合部56とを有する。挟持部材54は、回転支持部53より先端側でワークWを挟持し保持可能に先端54bに鉤状に形成された係合部54cを有する。また、挟持部材54の基端54aは、ワークWを挟持する方向に互いにスライド可能に支持部材55に支持されている。
【0024】
ビーム52は、トング51の被係合部56に係合するフック57と、フック57を支持するビーム本体58と、ビーム本体58の両端に設けられて、各鍛造クレーン1の吊具30のフック30aが係合されるU字状に形成された一対の被係合部59とを有する。なお、トング51の支持部材55における被係合部56の位置、並びに、ビーム52におけるフック57の位置は、それぞれ支持部材55及びビーム本体58の略中央に位置している。また、ビーム52における一対の被係合部59は、対称に配置されている。このため、吊下げ用治具50を用いてワークWを吊り下げる2つの鍛造クレーン1のフック30aには、ワークW及び吊下げ用治具50による荷重が均等に作用するようになっている。
【0025】
次に、本実施形態の鍛造クレーンシステム100の作用について、図4に示した吊下げ用治具50でワークWを搬送する場合を例として説明する。
本実施形態の鍛造クレーンシステム100を構成する2つの鍛造クレーン1によって協働してレールLに沿ってワークWを搬送する場合、操作部10において所望の方向及び速度を入力する。これによって操作部は、入力と対応する同一の走行速度指令ω0を、PLC4を介して、各鍛造クレーン1が備えるそれぞれ2つ、計4つのインバータ25に出力する。各インバータ25は、走行速度指令ω0に対応した速度となるように周波数及び振幅を設定して、対応するそれぞれ2つの走行用モータ23に交流電流を出力する。これにより、各鍛造クレーン1は、各車輪群26A、26Bの駆動輪22−1が回転駆動することで、操作部10で入力された走行方向X及び走行速度で走行しようとする。
【0026】
また、各インバータ25と対応する2つの走行用モータ23の一方では、パルスジェネレータ24がインバータ25に角度情報θを出力している。そして、インバータ25では、微分器25bにおいてパルスジェネレータ24から出力される角度情報θに基づいて現在の回転速度ωを演算し、減算器25cに出力する。減算器25cでは、PLC4から出力される走行速度指令ω0から、微分器25bから出力される現在の回転速度ωを減算することで差分Δωを演算してインバータ本体25aに出力する。このため、インバータ本体25aは、差分Δωを考慮して走行速度指令ω0に対応する回転速度で走行用モータ23が回転駆動するような交流電流を生成して出力することができる。
【0027】
通常、2つの鍛造クレーン1には、吊下げ用治具50により、図4に示すように鉛直方向に均等な荷重が作用した状態となっている。しかしながら、何らかの原因により鍛造クレーン1同士の距離が変化すると、各鍛造クレーン1には、鉛直方向に対して傾斜した方向に荷重が作用することになる。このように距離が変化する原因としては、例えば、移動開始時において、ビーム52における被係合部59間の距離に対して鍛造クレーン1同士の距離が僅かに異なっていたり、各走行用モータ23における応答時間の僅かな差や、吊荷の僅かな振れ、レールLと鍛造クレーン1における車輪22との転動摩擦の僅かな相違などにより、速度差が生じてしまうことによる。
【0028】
図6は、上記のような原因により、鍛造クレーン1同士の距離が、ビーム52の一対の被係合部59間の距離よりも離れてしまった場合を示している。図6に示すように、このような場合には、各鍛造クレーン1には、荷重F0により、鉛直方向の成分Fvが作用するとともに、各鍛造クレーン1からビーム52の中央に向かって水平方向の成分Fhが作用し、当該水平方向の成分Fhは、鍛造クレーン1同士で逆向きになる。このため、2つの鍛造クレーン1を走行させてワークWを搬送する場合、水平方向成分Fhは、走行方向X前方X1側の鍛造クレーン1の走行用モータ23に対して減速させるトルクとして作用し、後方側の鍛造クレーン1に対して加速させるトルクとして作用する。
【0029】
このような場合に、従来の鍛造クレーンの各走行用モータに、所定速度で回転駆動するように走行速度指令を出力すると、各走行用モータは当該走行速度指令に応じた回転速度で回転しようとする。しかしながら、上記吊荷の荷重によって作用するトルクにより、走行方向X前方X1側の鍛造クレーンでは、減速させられることで走行速度指令と対応する走行速度よりも遅くなり、また、後方X2側の鍛造クレーンでは、加速させられることで走行速度指令と対応する走行速度よりも速くなり、結果として両者の間隔が狭まっていく。また、鍛造クレーン同士の距離がビーム52の一対の被係合部59間の距離よりも狭まってしまった場合には、上記と逆となり、すなわち、走行方向X前方X1側の鍛造クレーンでは、加速させられることで走行速度指令と対応する走行速度よりも速くなり、また、後方X2側の鍛造クレーン1では、減速させられることで走行速度指令と対応する走行速度よりも遅くなり、結果として両者の間隔が広がっていく。そして、鍛造クレーンの速度の変化は、吊荷の荷重に起因する加減速によって起こることから、従来の鍛造クレーンにおいては、速度の変化が相互間の位置の変化に遅れて生じることとなり、これにより鍛造クレーン同士は接近、離間を繰り返してしまうことになる。
【0030】
一方、本実施形態の鍛造クレーン1では、各インバータ25は、対応する走行用モータ23に接続されたパルスジェネレータ24から回転状態として角度情報θを取得し、該角度情報θから現在の回転速度ωを取得している。そして、各インバータ25は、走行速度指令ω0と、現在の回転速度ωとの差分Δωに基づいて、走行速度指令ω0と対応する回転速度となるように、走行用モータ23に出力する交流電流の周波数及び振幅を制御している。このため、吊荷や摩擦抵抗などの外乱によって生じるトルクに係らず、常に走行速度指令ω0に応じた回転速度で走行用モータ23を駆動させて駆動輪22−1を回転させることができる。そして、各鍛造クレーン1の各インバータ25には、操作部10から同一の走行速度指令ω0が出力されていることから、2つの鍛造クレーン1は、この同一の走行速度指令ω0に応じた走行速度で安定して走行してワークWを搬送することができる。
【0031】
なお、上記においては、吊下げ用治具50を用いて搬送する例を示したが、これに限るものではなく、図1のようにターニング装置110を介して、あるいは直接ワークWを釣り込んで搬送するようにしても良い。この場合、ワークWの形状が非対称であると、鍛造クレーン1同士の相対位置と関係なく、ワークWの形状の非対称性、ワークWと各鍛造クレーン1との相対位置関係によっても各鍛造クレーン1に作用する荷重が変化してしまう。しかしながら、このような場合でも2つの鍛造クレーン1を走行速度指令ω0に応じた走行速度で安定して走行させてワークWを搬送することができる。
【0032】
また、本実施形態の鍛造クレーンシステム100の鍛造クレーン1では、走行方向Xに直交する方向に異なる位置の駆動輪22−1同士が、互に異なるインバータ25による独立した制御のもと、走行用モータ23の駆動により回転駆動することとなる。このため、走行方向Xに直交する方向に位置ずれしてワークWを吊り込んだりしても、各インバータ25により、操作部10からの走行速度指令ω0に応じた回転速度で駆動するように、それぞれ対応する走行用モータ23に対して交流電流を出力することができる。その結果、走行方向Xに直交する方向に配列した駆動輪22−1同士で速度が異なることがなく、より安定してそれぞれの鍛造クレーン1を走行させてワークWを搬送することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0034】
なお、上記実施形態の鍛造クレーンシステム100では、2台の鍛造クレーン1で構成されるものとしたが、これに限るものではなく、3台以上で構成するようにしても良い。また、各鍛造クレーン1におけるインバータ、駆動輪、走行用モータの数は一例であり、一組以上設けられていれば良い。また、上記では、走行駆動のみについての記述であるが、走行手段20を構成するガーダ上に設置されたレールをトロリーが走行する横行駆動についても同様の制御がなされ、安定して2つの鍛造クレーンを横行させて被鍛造物を搬送することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 鍛造クレーン
3 吊下げ手段
10 操作部
20 走行手段
22−1 駆動輪
23 走行用モータ(電動機)
24 パルスジェネレータ(回転状態検出部)
25 インバータ
100 鍛造クレーンシステム
W ワークW(被鍛造物)
X 走行方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6