【実施例】
【0037】
以下、本発明に係るショウガ抽出物及びその製造方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
生のショウガ(Zingiber officinale)から得られた抽出物を加熱し、加熱後の抽出物中の6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの含有量を定量して保存安定性を評価した。
【0039】
<ショウガ抽出物の抽出方法>
ショウガ抽出物の抽出原料として生のショウガ(Zingiber officinale)根茎を使用した。すりおろしたショウガ(Zingiber officinale)根茎120kgを乾燥し、乾燥物20kgを得た。乾燥物を、二酸化炭素を用いた超臨界抽出又は溶媒抽出により抽出し、抽出物1kgを得た。
尚、溶媒抽出により抽出する際、ヘキサンと酢酸エチルの比が3:1の混合液100kgを使用した。乾燥物20kgをヘキサンと酢酸エチルの混合液に投入し撹拌して抽出を行い、抽出物を得た。得られた抽出物を濃縮して、1kgの濃縮抽出物を得た。
【0040】
<抽出物の加熱条件>
得られた抽出物1kgを密閉容器に封入した。抽出物を100℃、120℃、130℃のいずれかの温度まで加熱し、温度を保持したままで24時間、27時間、48時間、60時間のいずれかの時間で加熱処理を施した。
【0041】
<抽出物中のジンゲロール又はショウガオール含有量の定量方法>
加熱処理後の抽出物あるいは加速劣化試験後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。
抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の量は、クロマトグラムのピーク面積から算出した。
HPLC(島津製作所製、LC10AD)の測定条件を表1に示す。尚、検出器として吸光光度検出器(UV−vis検出器)を使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
(実施例1)
超臨界抽出法で得られた抽出物を120℃、48時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0044】
(実施例2)
溶媒抽出法で得られた抽出物(濃縮物)を120℃、27時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0045】
(実施例3)
超臨界抽出法で得られた抽出物を130℃、24時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0046】
(実施例4)
溶媒抽出法で得られた抽出物を100℃、60時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0047】
(実施例5)
溶媒抽出法で得られた抽出物を130℃、60時間加熱した。加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。
【0048】
(比較例)
実施例1と同じ方法により、抽出物を得た。得られた抽出物に対して、表2に示す条件で加熱処理を施した。実施例1と同様に、加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。HPLCの条件は、表1に示す通りである。
【0049】
(参考例)
実施例1と同じ方法により抽出物を得た。得られた抽出物に対して加熱処理は施さずに、抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。HPLCの条件は、表1に示す通りである。
【0050】
表2に加熱条件とともに、実施例、比較例、参考例における加熱処理後の抽出物中の6−ジンゲロール、6−ショウガオールの含有量及び合計(重量%)を示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2より、実施例1〜5及び比較例5では、6−ショウガオールの方が6−ジンゲロールよりも多く含有されることが分かった。一方、比較例1〜4では、6−ショウガオールの方が6−ジンゲロールよりも少ないことが分かった。
参考例の結果より、加熱処理を施していないショウガ抽出物では、6−ジンゲロールの方が6−ショウガオールよりも多く含有されることがわかる。加熱処理を施すことによって抽出物中の6−ショウガオールの量が増加し、加熱処理を施していない状態よりも多く6−ショウガオールが含有されることが確認された。
【0053】
しかし、比較例1〜4の加熱条件では、6−ショウガオールの量は増加するものの、6−ジンゲロールの量は多いままである。
つまり、100℃未満の温度で長時間(24時間以上)の加熱処理、例えば、85℃で24時間(比較例1参照)や90℃で150時間(比較例3参照)の加熱処理を施しても6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回ることがない。また、100℃以上130℃未満の温度で短時間(5時間未満)の加熱処理、例えば115℃で2時間(比較例4参照)の加熱処理を施しても6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回ることがない。
比較例1〜4の加熱条件では、6−ジンゲロールの量が6−ショウガオールよりも多いため、6−ジンゲロールが6−ショウガオールに経時的に変換される可能性があることがわかった。
【0054】
表2より、比較例5の加熱条件(150℃で5時間)とすると、6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回ることとなる。しかし、実施例1では、6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量の比は約1:2.39、実施例2では約1:2.17であるが、比較例5では約1:1.26であることがわかる。
つまり、比較例5の加熱条件では、6−ショウガオールの量が6−ジンゲロールの量を上回るが、6−ショウガオールの6−ジンゲロールに対する含有量の比は1.6以上とならない。150℃という温度で加熱することにより、生成した6−ショウガオールが分解、もしくは別の化合物に更に変換されたと考えられる。
【0055】
<加速劣化試験>
実施例1、比較例1〜5の抽出物を配合したエマルションに対して加速劣化試験を行い、保存安定性について評価した。
加熱処理後の抽出物を使用し、表3に示す配合比でエマルションを調製した。
エマルションが55℃となるまで加温し、温度を保持したままで40日間若しくは63日間保存した。参考例においては、加熱処理を行わないままエマルションを調製した。
実施例1の抽出物を配合したエマルションを配合例1、比較例1〜5の抽出物を配合したものを比較配合例1〜5、参考例の抽出物を配合したものを参考配合例とした。
尚、55℃での保存は、常温を25℃とした場合に、1週間で常温180日間保存、2週間で常温360日間保存に相当する。
7日間保存、14日間、21日間、28日間、40日間、63日間におけるエマルション中の6−ジンゲロール、6−ショウガオール夫々の含有量をHPLCにより定量した。HPLCの条件は、表1に示す通りである。
【0056】
【表3】
【0057】
配合例1、比較配合例1〜5、参考配合例における加速劣化試験の結果を
図1(a)及び
図1(b)に示す。
図1(a)は、6−ジンゲロールの量の経時的な変化を示す図であり、
図1(b)は6−ショウガオールの量の経時的な変化を示す図である。
【0058】
配合例1において、40日間保存後の6−ジンゲロールと6−ショウガオールの比は、約1:2.72であった。40日間の保存後の6−ジンゲロールの変化量は、当初の含有量の約14%であり、一方、6−ショウガオールの変化量は、当初の含有量の約3%であった。また、
図1(a)からも、6−ジンゲロール、6−ショウガオールの量はともに略変化しないことがわかった。つまり、実施例1の抽出物を使用すると、25℃で2年間保存しても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有比は変化しないことが確認された。
一方、比較配合例1〜4では、7週間、14週間と保存期間が長くなるにつれて、6−ショウガオールの量が徐々に増加していき、6−ジンゲロールの量が徐々に減少していることがわかる。また、比較配合例5では、比較配合例1〜4程ではないが、経時的に6−ショウガオールの量が増加することが確認された。
【0059】
以上より、実施例1の抽出物を使用した配合例1では、25℃で2年間の長期間にわたる保存においても6−ジンゲロールと6−ショウガオールの含有量に変化がないため、品質、特に味に変化を生じることなく保存安定性に優れることが示唆された。
一方、比較例1〜5の抽出物を配合した比較配合例1〜5では、25℃の保存において経時的に6−ショウガオールの含有量が増加するため、味が変化すると考えられる。