(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
物標からの反射波を複数のアンテナで受信した受信信号の各個の受信処理を受信部で行い、前記受信部の出力とモードベクトルに基づいて前記受信信号の到来角を算出するレーダ装置であって、
前記レーダ装置から所定角度で特定の距離に置いた仮想物標からの反射波を受信信号データとして取得し、仮想物標の前記レーダ装置からの距離相当の周波数の受信信号を取り出し、取り出した受信信号から共分散行列を計算し、計算した共分散行列に対して固有値分解を行い、求めた固有値の中から最も値の大きな固有値を検索し、検索して求めた固有値に対応する固有ベクトルを求め、求めた固有ベクトルを前記所定角度における実測値のモードベクトルとして算出する実測値のモードベクトル作成部と、
前記実測値のモードベクトルを記憶する記憶部を備え、
前記モードベクトルとして前記記憶部から読み出した実測値のモードベクトルを使って前記受信信号の到来角を算出することを特徴とするレーダ装置。
物標からの反射波を複数のアンテナで受信した受信信号の各個の受信処理を受信部で行い、前記受信部の出力とモードベクトルに基づいて前記受信信号の到来角を算出するレーダ装置における到来角を算出する方法であって、
前記レーダ装置から所定角度で特定の距離に置いた仮想物標からの反射波を受信信号データとして取得し、
仮想物標の前記レーダ装置からの距離相当の周波数の受信信号を取り出し、
取り出した受信信号から共分散行列を計算し、
計算した共分散行列に対して固有値分解を行い、
求めた固有値の中から最も値の大きな固有値を検索し、
検索して求めた固有値に対応する固有ベクトルを求め、
求めた固有ベクトルを前記所定角度における実測値のモードベクトルとして算出し、
前記実測値のモードベクトルをメモリに記憶し、
前記モードベクトルとして前記記憶した実測値のモードベクトルを使って前記受信信号の到来角を算出することを特徴とするレーダ装置の到来角算出方法。
前記仮想物標の位置を、前記レーダ装置からの距離は変えずに所定角度のみ変更して前記動作を繰り返し、所定角度範囲における実測値のモードベクトルを算出し、前記所定角度データに関連付けてマップの形式で前記メモリに記憶することを特徴とする請求項3に記載のレーダ装置の到来角算出方法。
【背景技術】
【0002】
従来、先行する車両や前方にある障害物(物標)、或いは後方からの接近車両等の物標と自分が運転する車両(自車)との間の距離と方向を常時測定し、衝突を防止したり自動走行を行うレーダ装置がある。このようなレーダ装置では、自車に設置したアンテナから電波を送信し、物標に当たって反射した反射波をアンテナで受信し、受信して得られた信号に対して信号処理を行い、反射波の到来方向を推定して物標を検出していた。反射波の到来方向を推定する方法には、DBF法、Capon法、線形予測(LP)法、最小ノルム法、MUSIC法、ESPRIT法、及びPRISM法が知られている。
DBF:Digital Beam Forming
LP: Linear Prediction
MUSIC:Multiple Signal Classification
ESPRIT:Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques
PRISM:Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix
【0003】
反射波の到来方向の推定方法では、複数の受信アンテナを用いた電子スキャンレーダで物標からの反射波を受信して、反射波の到来方向の角度を推定する。通常、物標の角度は方向θを変数としたθ方向からの反射波のパワー:P
DBF(θ)、即ち、角度スペクトラム(下付き添え字はスペクトラムを計算する際の角度推定手法(この場合はDBF法)を示す)を計算し、これがピークを示した際の変数θの値を以て反射波の到来方向(物標の角度)であると推定する。この際、スペクトラムのピークを走査する量は、θを変数としたベクトル(モードベクトル)の形式で利用されるが、実際のアンテナや装置の特性を考慮しない理想的な値(即ち、理論値)を使用する事が一般的である。
【0004】
そして、例えば、特許文献1に記載された方向探知装置では、同じ目標に対して複数回の測定を行い、測定毎に各アンテナから得られる受信信号と、測定毎に値が更新される複素乱数発生器からの出力とを掛算器で掛け合わせる事で、謂わば、測定毎に摂動を受けた受信信号を生成して毎回方向推定を行い、これらの平均値として反射波の到来方向に対応するモードベクトルを算出している。即ち、集合平均的なアプローチを採用して角度推定の精度を改善している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いて本出願の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。
図1に本発明の一実施形態のレーダ装置100の構成を示す。この実施形態のレーダ装置100は、送信部S、受信部R及び信号処理装置Pから構成されている。信号処理装置Pはマイクロプロセッサで構成されており、ここには、フーリエ変換部9、ピーク抽出部10、方位演算部15、送受信制御部20、距離・相対速度演算部30及びモードベクトル作成部50がある。
【0013】
送信部Sは発振器5と信号生成部25とを備えており、信号生成部25は信号処理装置Pにある送受信制御部20によって制御される。信号生成部25は三角形状の変調信号(三角波)を送信信号として発振器5に供給して周波数変調を行い、送信アンテナ1から電波(送信波)Wが送信される。この実施形態では、FMCW方式が用いられており、発振器5は、信号生成部25の三角波により一定の繰り返し周期で変化する送信波Wを発生する。したがって、送信波Wは発振器5の無変調時の発信周波数を中心として所定の繰り返し周期で周波数が上下するFMCW波である。この送信波Wは、図示しない送信機で電力増幅された後に送信アンテナ1から目標に向けられて送信(放射)されることもある。
【0014】
この実施形態のレーダ装置100は、車両に搭載されたものであり、送信波Wはレーダ装置100を搭載した車両の前方又は後方に向けて送信される。送信アンテナ1から前方に送信された送信波Wは、図示せぬ物標、例えば先行車両や静止物等で反射され、反射波RWが車両に向かって戻り、レーダ装置100の受信部Rで受信される。
【0015】
受信部Rは、n個の受信アンテナA1〜Anを備えたアレーアンテナ3とこれに接続する個別受信部R1〜Rnとから構成される。個別受信部R1〜Rnの各個には、ミキサM1〜Mn及びA/D変換器(図にはA/Dと記載)C1〜Cnがある。アレーアンテナ3によって受信された反射波RW1〜RWnから得られた受信信号は、図示しないローノイズアンプで増幅された後にミキサM1〜Mnに送られる。ミキサM1〜Mnには送信部Sの発振器5からの送信信号が入力されており、ミキサM1〜Mnにおいて送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされ、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差を周波数として持つビート信号が得られる。ミキサM1〜Mnからのビート信号はA/D変換器C1〜Cnでデジタル受信信号X1〜Xnに変換された後に、フーリエ変換部9の高速フーリエ変換器に供給され、ここでデジタル受信信号X1〜Xn毎に高速フーリエ変換による周波数分析(FFT処理)が行われる。
【0016】
この実施形態のレーダ装置100では、物標が移動している場合、反射波RWの周波数には、物標と自車との相対速度に比例するドップラー周波数成分が含まれる。また、本実施形態では変調方式としてFMCWを採用しているので、この周波数推移がリニアチャープである場合、反射波RWの周波数にはドップラー成分に加え、送信波が物票と自車との相対距離を伝搬する事によって付加される遅延時間を反映した周波数成分も含まれる。
【0017】
前述した如く、送信信号はリニアチャープ信号であるから、送信波Wの周波数は、
図2(a)の波形図に実線で示されるように、周波数が直線的に上昇する期間(上昇区間)と、下降する期間(下降区間)とを繰り返す。そして、反射波RWは、
図2(a)の波形図に破線で示されるように、送信波Wに比べ、相対速度によるドップラー周波数推移とともに相対距離による時間遅延との双方の影響を同時に受けるので、送信波Wと反射波RWとの間の周波数の差は、一般に上昇区間と下降区間で異なる値を取る。
【0018】
即ち、送信波Wと反射波RWの周波数の差の周波数は、上昇区間はfup、下降区間はfdownとなる。従って、各ミキサM1〜Mnにおいては、遅延時間に基づく周波数にドップラー周波数が重畳された
図2(b)の波形図に示されるビート信号が得られる。上昇区間におけるビート信号はUPビート、下降区間におけるビート信号はDOWNビートと呼ばれる。なお、
図2(a)、(b)の場合には、UPビートの周波数fupよりもDOWNビートの周波数fdownの方が大きくなっており、物標との相対距離が小さくなる方向(接近方向)の相対速度を示している。
【0019】
各ミキサM1〜Mnにおいて得られたUPビートとDOWNビートのビート信号は、前述のようにA/D変換器C1〜Cnでデジタル受信信号X1〜Xnに変換された後に、フーリエ変換部9に供給される。フーリエ変換部9では、各ミキサM1〜MnからのUPビート周波数fup成分とDOWNビート周波数fdown成分がそれぞれ高速フーリエ変換器に供給され、ここで高速フーリエ変換による周波数分析(FFT処理)が行われる。ここで、受信アンテナA1のFFT処理の結果を
図2(c)に示す。
図2(c)の上側の波形図は、UPビート周波数fup成分から得られる周波数スペクトラムを示しており、
図2(c)の下側の波形図は、DOWNビート周波数fdown成分から得られる周波数スペクトラムを示している。
【0020】
図2(c)に示すように、アンテナA1のUPビートのFFT結果の周波数スペクトラムには、UP周波数fu1、fu2、fu3にそれぞれピークPu11,Pu12,Pu13がある。受信アンテナA2〜Anについても同じピーク周波数を持つ同様なFFT結果が得られる。例えば、アンテナA2ではUP周波数fu1、fu2、fu3にそれぞれピークPu21,Pu22,Pu23があるFFT結果が得られる。また、アンテナA1のDOWNビートのFFT結果の周波数スペクトラムには、DOWN周波数fd1、fd2にそれぞれピークPd11,Pd12がある。受信アンテナA2〜Anについても同じピーク周波数を持つ同様なFFT結果が得られる。例えば、アンテナA2ではDOWN周波数fd1、fd2にそれぞれピークPd21,Pd22があるFFT結果が得られる。
【0021】
すなわち、各受信アンテナA1〜Anは同じ物標からの反射波RWを受信するため、FFT処理では同じピーク周波数を有する同じ形状の周波数スペクトラムが得られる。ただし、受信アンテナに応じて反射波の位相が異なるため、同じ周波数のピークを持つ位相情報は受信アンテナ毎に異なる。
【0022】
図1に戻って、フーリエ変換部9の出力は、ピーク抽出部10に供給される。ピーク抽出部10では、受信アンテナA1〜An毎に、FFT処理で得られた周波数スペクトラムにおいて、UPビート、DOWNビートのそれぞれで所定パワー以上のピークを抽出し、抽出したピークの周波数、パワー、位相情報(以下、ピーク周波数情報という)を抽出する。ピーク抽出部10において抽出されたピーク周波数情報は、方位演算部15に供給される。
【0023】
また、ピーク抽出部10では、受信アンテナA1〜An毎に、FFT処理されたビート信号のピーク周波数fbu、fbdに対応する複素データの抽出を行う。そして、ピーク抽出部10で得られた周波数fbu又はfbdの複素データは、受信アンテナ毎にモードベクトル作成部50に供給される。
【0024】
周波数スペクトラムにおける1つのピークには通常複数の物標の情報が含まれるため、1つのピークから物標を分離し、分離した物標の角度を推定する必要がある。そのため、方位演算部15では、全受信アンテナA1〜AnでUP側、DOWN側それぞれで同じ周波数を有するピークのピーク周波数情報(例えば、UPビートの場合は、Pu11,Pu21,・・・Pun1、DOWNビートの場合は、Pd11,Pd21、・・・Pdn1)を基に、
図3に示すような角度スペクトラムが演算により求められる。角度スペクトラムの求め方としては、Capon法、DBF法等の方式を用いることができる。
図3における実線がUPピーク周波数fu1(Pu11,Pu21,・・・Pun1)の角度スペクトラムを示し、破線がDOWNピーク周波数fd1(Pd11,Pd21、・・・Pdn1)の角度スペクトラムを示している。
【0025】
方位演算部15では、
図3に示される角度スペクトラムにおいて、閾値以上のパワーを持つピーク、ここではピークP1,P2を物標と判断し、その角度、パワーを抽出する。更に詳しく述べると、角度スペクトラムはFFT処理のピーク周波数毎に求める。
図2(c)に示した例では、5つの周波数fu1、fu2、fu3、fd1、fd2における5つの角度スペクトラムを算出する。
図3はUPピーク周波数fu1のピークから求めた角度スペクトラムとDOWNピーク周波数fd1のピークから求めた角度スペクトラムを併記したものであり、UPピーク周波数fu1とDOWNピーク周波数fd1には共に2つの物標P1(角度0[Deg])とP2(角度約3[Deg])が存在していることを示している。方位演算部15で得られた結果は、
図4に示すようになる。
【0026】
方位演算部15では、
図4に示されるデータを基に、UPビート側の物標情報とDOWNビート側の物標情報とで近い角度、パワーを持つもの同士のペアリングを行う。
図4では、UPビート側の周波数fu1の角度θu1の物標U1と、DOWNビート側の周波数fd1の角度θd2の物標D2とがペアリングされたことを示し、5つの物標が検出されたことを示す。ペアリングして得られたUP周波数とDOWN周波数とで距離、相対速度を演算する。その物標の角度はUPビート側とDOWNビート側の角度の平均値が取られる。距離・相対速度はUPピーク周波数fu1とDOWNピーク周波数fd1とから求め、角度は(θu1+θd2)/2で求める。
【0027】
ここで、
図5(a)に示すように、受信アンテナA1〜Anが6つのアンテナA1〜A6であり、アンテナA1〜A6には1つの電波のみが到来すると仮定した場合の方位演算部15の動作について説明する。なお、隣接するアンテナ間の間隔をd、6つのアンテナA1〜A6を結ぶ線に垂直な方向に対する到来波の到来方向をθ、到来波の波長をλとする。この場合、隣接するアンテナ間の位相差φは、φ=(2π/λ)dsin(θ)となる。従って、第1のアンテナA1における或る時点の到来波の振幅がA(t)であるとすると、同時点の第2のアンテナA2における到来波の振幅は、A(t)exp[j(2π/λ)dsin(θ)]となる。
【0028】
説明を分かりやすくするために、方向θから来た振幅1の信号の各アンテナの理想的な信号を並べたものをモードベクトルa(θ)とする。そして、時刻t1における等移動面の基準がアンテナA1にあると考えると、同時刻でのアンテナA1に対するアンテナA2〜A6における位相は以下のようになる。
アンテナA2:exp[−j(2π/λ)dsin(θ)]
アンテナA3:exp[−j(2π/λ)2dsin(θ)]
アンテナA4:exp[−j(2π/λ)3dsin(θ)]
アンテナA5:exp[−j(2π/λ)4dsin(θ)]
アンテナA6:exp[−j(2π/λ)5dsin(θ)]
【0029】
よって、このときのモードベクトルa(θ)は、a(θ)=(1,exp[−j(2π/λ)dsin(θ)],exp[−j(2π/λ)2dsin(θ)],exp[−j(2π/λ)3dsin(θ)],exp[−j(2π/λ)4dsin(θ)],exp[−j(2π/λ)5dsin(θ)])
tとなる。(なお、tは時刻ではなくベクトルの転置を意味する)。
【0030】
また、
図3(b)に示す如く、上述のアレーアンテナに2つの方向θ1,θ2から電波が到来し、時刻tにおいて、アンテナA1で受信された2つの信号の振幅をそれぞれp1、p2、基準アンテナA1の位相をφ1、φ2とすれば、これらが重畳された受信信号は、p1*exp[−j*φ1]・a(θ1)+p2*exp[−j*φ2]・a(θ2)
と表され、同時刻におけるアンテナA2における信号は以下のようになり、
p1*exp[−jφ1]*exp[−jψ1]+p2*exp[−jφ2]*exp[−j*2*ψ2]
アンテナA6における信号は以下のようになる。
p1*exp[−j*φ1]*exp[−j*5*ψ1]+p2*exp[−j*φ2]*exp[−j*5*ψ2]
なお、ここでは相互干渉やノイズはないものとする。このように、複数の到来方向から電波を受信したとき、受信信号は各到来方向の電波のモードベクトルを用いて表すことができる。
【0031】
なお、a(θ1)及びa(θ2)は以下の通りである。
a(θ1)=[1、exp[−j*ψ1]、exp[−j*2*ψ1]、exp[−j*3*ψ1]、exp[−j*4*ψ1]、exp[−j*5*ψ1]]
a(θ2)=[1、exp[−j*ψ2]、exp[−j*2*ψ2]、exp[−j*3*ψ2]、exp[−j*4*ψ2]、exp[−j*5*ψ2]]
【0032】
ここで、モードベクトル作成部50について説明する。モードベクトル作成部50は、共分散行列算出器51、固有値・固有ベクトル算出器52及びモードベクトル記憶部70を備えて構成される。アンテナA1〜Anの出力はそれぞれ個別受信部R1〜Rnにそれぞれ入力される。
【0033】
個別受信部R1〜Rnから出力され、前述のようにフーリエ変換部9を経てピーク抽出部10に入力され、ピーク抽出部10から出力されたビート信号のピーク周波数fbu又はfbdの複素データX1〜Xnは、モードベクトル作成部50の共分散行列算出器51に入力される。共分散行列算出器51では共分散行列が算出され、これが固有値・固有ベクトル算出器52に入力される。固有値・固有ベクトル算出器52では、共分散行列算出器51から出力される共分散行列に基づいて固有値および固有ベクトルが算出される。固有値・固有ベクトル算出器52で算出された固有値および固有ベクトルはモードベクトル記憶部70を経て方位演算部15に入力される。
【0034】
方位演算部15では、物標からの反射波を各アンテナで受信して得られた受信信号に基づいた固有値および固有ベクトル、FFT処理で得られた周波数ピーク情報とモードベクトルから到来角を算出し、これを到来波の角度情報として距離・相対速度演算部30に出力する。距離・相対速度演算部30は、距離・相対速度情報及び角度情報を目標物情報として出力する。レーダ装置100ではこのようにして得られた目標物情報から物標と自車との関係を検出して自車の走行制御を行う。
【0035】
実測値のモードベクトルを作成する場合は、
図6に示すように、例えば1本の送信アンテナ1と6本の受信アンテナA1〜A6を備えたレーダ装置100の前方に、仮想物標として、1個のコーナリフレクタCRを(レーダ装置100から)所定角度の位置に所定距離Lだけ離して設置する。そして、送信アンテナ1からコーナリフレクタCRに向けて送信信号を送信し、その反射波を6本の受信アンテナA1〜A6で受信して、前述の所定の角度におけるモードベクトルを所定の手順に沿って予め取得する。この後、レーダ装置100に対するコーナリフレクタCRの角度のみを変更し、複数の角度におけるモードベクトルを実測する。このようにして取得したモードベクトルは実測値のモードベクトルとして、角度情報と共にレーダ装置100に設けられているメモリ(
図1のモードベクトル作成部50に内蔵されている)に記憶しておく。
【0036】
図7は実測値からのモードベクトルの作成手順の一例を説明するものである。この例では、まず、最初に
図6に示したコーナリフレクタCRを、レーダ装置100の前方方向(0(deg)、但し、図中では「deg」は「°」で表記)に対して−21(deg)の適当な距離位置に置いて実測値のモードベクトルを算出している。そして、以後コーナリフレクタCRとレーダ装置100との距離を等しく保ったまま、角度位置のみを、例えば、1(deg)ずつ移動して実測値のモードベクトルを算出する。この動作をレーダ装置100の前方方向+21(deg)まで行っている。
【0037】
ステップ501では、まず、レーダ装置100からの角度θが−21(deg)に設定される。続くステップ502では、レーダ装置100から角度θで特定の距離Lに置いたコーナリフレクタCR(
図7にはC/Rと略記)の受信信号データを取得する。そして、ステップ503において、フーリエ変換部9でFFT処理により求めたC/Rの距離相当の周波数の受信信号ベクトル(X)を取り出し、ステップ504において受信信号から共分散行列(相関行列とも言う)Rxx(=XX
H)を計算する。但し、X=[X1、‥Xn]
tである。勿論、角度精度を向上させる為に、実測モードベクトルの次元とトレードオフになるが、Rxxに対して空間平均等の手法を適用してもよい。
【0038】
次のステップ505では、共分散行列Rxxに対して固有値分解を行い、ステップ506では、求めた固有値の中から最も値の大きな固有値を検索する。そして、ステップ507では、検索して求めた固有値に対応する固有ベクトルを求め、ステップ508において、求めた固有ベクトルを角度θにおけるモードベクトルとしてメモリに記憶する。ステップ509は角度θが+21(deg)を越えたか否かを判定するものであり、θ>21(deg)の場合はこのルーチンを終了するが、θ≦21(deg)の場合はステップ510に進む。ステップ510では角度θの値を、所望の角度、例えば1(deg)だけ増大させてステップ502に戻り、ステップ502〜ステップ509の動作を繰り返す。このようにして、−21(deg)から+21(deg)までの実測値のモードベクトルが1(deg)間隔で算出されて角度情報と共にマップの形でメモリに記憶される。
【0039】
なお、上述の実測値からのモードベクトルの作成手順では、測定毎に角度θの値を1(deg)だけ増大させているが、上記の如く、角度θの間隔は1(deg)に限定されるものではなく、より細かく測定しても良い。また、±21(deg)はアンテナ間隔から決まる値に応じて変更して良い。本発明のレーダ装置100では物標の角度推定時に理論値のモードベクトルに代えて、上述のようにして算出した実測値のモードベクトルを使用することにより、受信アンテナの特性の誤差の影響を低減することができる。これを
図8を用いて説明する。
【0040】
図8は、電子スキャンレーダ装置においてコーナリフレクタを、
図6で説明したような定点においてコーナリフレクタの位置を推定する定点試験を行い、本発明に開示の手法で求めた実測値のモードベクトルを用いた場合と、理論値のモードベクトルを用いた場合の、双方における角度推定の精度を示すものである(この精度は真の角度と推定された角度との誤差で評価した)。
図8の縦軸が推定値と実際の角度との誤差を示しており、横軸が電子スキャンレーダ装置の前方を0(deg)として、コーナリフレクタを設置した左右の角度を示している。菱形で示すドットが実測値のモードベクトルを使用した場合の推定誤差データであり、四角で示すドットが理論値のモードベクトルを使用した場合の推定誤差データである。
【0041】
図8から、±20(deg)の中での最大角度誤差は、理論値のモードベクトルを用いて角度推定を行った場合では0.395(deg)となり、実測値のモードベクトルを用いて角度推定を行った場合では0.049(deg)となることが分かる。この結果、±20(deg)の中で、実測値のモードベクトルを用いて角度推定を行う事で、最大、0.346(deg)も改善されていることが分かる。
【0042】
なお、この実施の形態では、
図1に示すように、モードベクトル作成部50にピーク抽出部10からピークについての信号が供給されている。そこで、±20(deg)の受信信号の到来方向θの中で、ピーク周辺に限定して処理を行うこともできる。つまり、物標の検出範囲全てについて反射波の到来方向θを高精度で推定する場合に比べて、その計算量を減少させることもできるので、レーダ視野角の特定の中でも特に角度推定精度の高さが重要な範囲だけに本発明の手法を適用する事で、効率的な検出を行わせるような装置構成にもできる。