(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載のハイブリッド車両の動力伝達装置において、前記第1のワンウエイクラッチは前記モータ出力軸から前記変速機入力軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前記第2のワンウエイクラッチは前記出力伝達軸から前記モータ出力軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前進走行時における前記電動モータへの回生制動トルク、後退走行時における駆動輪へのモータ出力を、それぞれ前記変速機構を介することなく、前記第2のワンウエイクラッチを介して伝達することを特徴とするハイブリッド車両の動力伝達装置。
請求項1記載のハイブリッド車両の動力伝達装置において、前記第1のワンウエイクラッチは前記変速機入力軸から前記モータ出力軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前記第2のワンウエイクラッチは前記モータ出力軸から前記出力伝達軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前進走行時における駆動輪へのモータ出力、および後退走行時における前記電動モータへの回生制動トルクを、それぞれ前記変速機構を介することなく、前記第2のワンウエイクラッチを介して伝達することを特徴とするハイブリッド車両の動力伝達装置。
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両の動力伝達装置において、前記出力伝達軸は前記第2のワンウエイクラッチに前記モータ出力軸に同軸となって連結されるトランスファ軸と、前記トランスファ軸にトランスファクラッチを介して連結され後輪に動力を伝達する後輪出力軸と、前記トランスファ軸に連結され前輪に動力を伝達する前輪出力軸とを有することを特徴とするハイブリッド車両の動力伝達装置。
【背景技術】
【0002】
エンジンと電動モータとを車両に搭載し、駆動輪にエンジン出力とモータ出力とを伝達し得るようにしたハイブリッド車両は、変速機構を介してエンジン出力を駆動輪に伝達するようにしている。変速機構が搭載されたハイブリッド車両におけるエンジンと電動モータの配置形態には、変速機構の変速機入力軸の一端部側にエンジンを配置し、他端部側に電動モータを配置して変速機構の両側にエンジンと電動モータとを配置するようにした形態、および変速機入力軸の一端部側にエンジンと電動モータとを隣り合って配置するようにした形態がある。変速機構を有するハイブリッド車両においては、エンジン出力とモータ出力とを変速機構を介して駆動輪に伝達するようにしている。電動モータをジェネレータとして機能させて回生エネルギーを回収するときには、駆動輪からの回生トルクは変速機構を介して電動モータに伝達される。
【0003】
変速機構として無段変速機(CVT)を用いて、変速機入力軸であるプライマリ軸の一端部側にエンジンを配置し、他端部側に電動モータを配置するようにしたハイブリッド車両が特許文献1に記載されている。このハイブリッド車両においては、動力伝達機構に使用される油圧を発生させるために、走行用の電動モータによりオイルポンプを駆動するようにしている。電動モータとオイルポンプとの間に遊星歯車と一方向クラッチとを用いた逆転防止機構を設け、電動モータを逆転させて車両を後退させる時には、逆転防止機構によりオイルポンプを前進時と同じ方向に回転駆動するようにしている。
【0004】
変速機構として無段変速機を用いて、プライマリ軸の一端部側にエンジンと電動モータとを隣り合って配置するようにしたハイブリッド車両が特許文献2に記載されている。このハイブリッド車両においては、エンジン駆動力を無段変速機構を介して駆動輪に伝達して走行する際に、駆動力が電動モータに逆伝達されるのをワンウエイクラッチにより阻止し、電動モータの引きずりによる駆動力の損失発生を防止するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来のハイブリッド車両においては、エンジン出力とモータ出力とを変速機構を介して駆動輪に伝達するようにしており、変速機構における動力伝達ロスの発生は不可避である。電動モータをジェネレータとして機能させて回生エネルギーを回収するときにも、駆動輪からの回生トルクは変速機構を介して電動モータに伝達されるので、動力伝達ロスが発生することになる。
【0007】
変速機構としての無段変速機構にはベルトドライブ式、トラクションドライブ式などがある。ベルトドライブ式は、プライマリプーリが設けられたプライマリ軸とセカンダリプーリが設けられたセカンダリ軸とを有し、それぞれのプーリは溝幅が可変となっている。これら両方のプーリの間にはベルト等の動力伝達要素が掛け渡されており、プライマリ軸の回転は動力伝達要素を介して無段階に変速されてセカンダリ軸に伝達される。トラクションドライブ式は入力側ディスクが設けられたプライマリ軸と出力側ディスクが設けられたプライマリ軸とを有し、それぞれのディスクにはトロイダル面が形成されており、これらの間にはパワーローラが動力伝達要素として配置されている。
【0008】
無段変速機構においては、動力伝達時にはそれぞれのプーリに対してベルトなどの動力伝達要素に向けて締め付け力を油圧ポンプにより加える必要がある。有段変速機構においても、変速段切換用のクラッチやブレーキ等の摩擦係合要素を駆動するために油圧ポンプから油圧をクラッチ等に供給している。このため、変速機構を用いたハイブリッド車両の動力伝達装置においては、変速機構における動力伝達ロスに加えて、変速機構を駆動するために油圧ポンプを駆動する必要があり、油圧ポンプを駆動するための動力損失の発生が不可避である。
【0009】
本発明の目的はハイブリッド車両における動力伝達効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハイブリッド車両の動力伝達装置は、エンジン出力とモータ出力とを駆動輪に伝達するハイブリッド車両の動力伝達装置であって、エンジン出力軸に連結されプライマリプーリを備える変速機入力軸、および前記プライマリプーリとの間に動力伝達要素が掛け渡されるセカンダリプーリを備え前記変速機入力軸の回転が変速して伝達される変速機出力軸を有する無段変速機構と、電動モータのモータ出力軸の一端部と前記変速機入力軸との間に配置され、前記モータ出力軸と前記変速機入力軸との間で一方へのトルク伝達を行う第1のワンウエイクラッチと、前記駆動輪に連結される出力伝達軸と前記モータ出力軸の他端部との間に配置され、前記モータ出力軸と前記出力伝達軸との間で
前記無段変速機構を介することなく一方へのトルク伝達を行う第2のワンウエイクラッチとを有し、前記電動モータと前記駆動輪との間に複数のトルク伝達経路を2つの前記ワンウエイクラッチを介して形成することを特徴とする。
【0011】
本発明のハイブリッド車両の動力伝達装置は、前記第1のワンウエイクラッチは前記モータ出力軸から前記変速機入力軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前記第2のワンウエイクラッチは前記出力伝達軸から前記モータ出力軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前進走行時における前記電動モータへの回生制動トルク、後退走行時における駆動輪へのモータ出力を、それぞれ前記変速機構を介することなく、前記第2のワンウエイクラッチを介して伝達することを特徴とする。本発明のハイブリッド車両の動力伝達装置は、前記第1のワンウエイクラッチは前記変速機入力軸から前記モータ出力軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前記第2のワンウエイクラッチは前記モータ出力軸から前記出力伝達軸へのトルク伝達を行って逆方向へのトルク伝達を遮断し、前進走行時における駆動輪へのモータ出力、および後退走行時における前記電動モータへの回生制動トルクを、それぞれ前記変速機構を介することなく、前記第2のワンウエイクラッチを介して伝達することを特徴とする。本発明のハイブリッド車両の動力伝達装置は、前記出力伝達軸は前記第2のワンウエイクラッチに前記モータ出力軸に同軸となって連結されるトランスファ軸と、前記トランスファ軸にトランスファクラッチを介して連結され後輪に動力を伝達する後輪出力軸と、前記トランスファ軸に連結され前輪に動力を伝達する前輪出力軸とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の動力伝達装置においては、モータ出力軸の両端部に配置される2つのワンウエイクラッチによって、エンジン出力軸およびモータ出力軸と駆動輪との間に複数のトルク伝達経路が形成されるので、油圧クラッチを使用することなく、トルク伝達経路の切換を行うことができる。これにより、トルク伝達経路の切り換えのためにオイルポンプを作動させることが不要となるので、エンジン停止時におけるトルク伝達経路の切り換えのために電動式のオイルポンプを使用することが不要となる。
【0013】
電動モータのモータ出力軸を出力伝達軸に直結させることができるので、変速機構を作動させることなく、モータ出力を駆動輪に伝達することができる。変速機構を作動させないと、変速機構に油圧を供給することが不要となり、動力伝達ロスの発生をなくすことができる。回生制動エネルギーを回収するときに、変速機構を介することなく、駆動輪からのトルクを電動モータに直接伝達することができるので、動力伝達ロスを発生させることなく、効率的に回生エネルギーを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示される動力伝達装置は変速機構として無段変速機構10を備えており、この無段変速機構10は変速機入力軸であるプライマリ軸11と、変速機出力軸であるセカンダリ軸12とを有し、プライマリ軸11とセカンダリ軸12は相互に平行となっている。無段変速機構10は変速機ケースとしてのミッションケース13a内に組み込まれ、ミッションケース13aは図示しない車体にプライマリ軸11とセカンダリ軸12とがそれぞれ走行方向と平行となるように縦置きに搭載される。
【0016】
ミッションケース13aの先端部に取り付けられるコンバータケース13b内には、トルクコンバータ14が組み込まれている。トルクコンバータ14は図示しないエンジンのクランク軸つまりエンジン出力軸15に連結されるポンプインペラ16と、このポンプインペラ16に対向するとともにタービン軸17に連結されるタービンランナ18とを備えている。動力伝達装置はオイルポンプ19を有しており、このオイルポンプ19はトルクコンバータ14のポンプインペラ16に設けられたポンプ軸により駆動される。トルクコンバータ14のタービン軸17は前後進切換機構20によりプライマリ軸11の一端部に連結されている。
【0017】
前後進切換機構20はタービン軸17に固定されるクラッチドラム21と、プライマリ軸11に固定されるクラッチハブ22とを有し、これらの間に配置される複数枚の摩擦板により前進用クラッチ23が形成されている。この前進用クラッチ23を油圧ピストン23aにより接続状態とすると、タービン軸17の回転は、クラッチハブ22を介してプライマリ軸11に伝達され、プライマリ軸11はタービン軸17と同一の正転方向に回転する。プライマリ軸11にはサンギヤ24が固定され、このサンギヤ24の径方向外方にはリングギヤ25が回転自在にミッションケース13a内に設けられている。クラッチドラム21に取り付けられたキャリア26には相互に噛み合って対をなす2つのプラネタリピニオンギヤ27,28が回転自在に装着されている。一方のピニオンギヤ27はサンギヤ24に噛み合い、他方のピニオンギヤ28はリングギヤ25に噛み合っている。なお、2つのピニオンギヤ27,28は
図1においては作図の便宜上、離して示されている。リングギヤ25とミッションケース13aとの間に配置された複数枚の摩擦板により後退用ブレーキ29が形成されている。前進用クラッチ23が開放された状態のもとで、後退用ブレーキ29を油圧ピストン29aにより締結すると、プライマリ軸11はタービン軸17とは逆転方向に回転する。プライマリ軸11を正転方向に回転するときには、後退用ブレーキ29は開放状態に設定される。
【0018】
図1に示されるように、プライマリ軸11はその一端部でトルクコンバータ14と前後進切換機構20とを介してエンジン出力軸15に連結されており、プライマリ軸11にはエンジン出力が入力される。
【0019】
無段変速機構10のプライマリ軸11にはプライマリプーリ31が設けられている。プライマリプーリ31はプライマリ軸11に固定される固定プーリ31aと、これに対向してプライマリ軸11にボールスプラインなどにより軸方向に摺動自在に装着される可動プーリ31bとを有し、プーリのコーン面間隔つまりプーリ溝幅が可変となっている。プライマリ軸11に平行なセカンダリ軸12にはセカンダリプーリ32が設けられている。セカンダリプーリ32はセカンダリ軸12に固定される固定プーリ32aと、これに対向してセカンダリ軸12にボールスプラインなどにより軸方向に摺動自在に装着される可動プーリ32bとを有し、プーリ溝幅が可変となっている。
【0020】
プライマリプーリ31とセカンダリプーリ32との間にはベルト33が動力伝達要素として掛け渡されており、両方のプーリ31,32の溝幅を変化させることにより、それぞれのプーリ31,32に対するベルト33の巻付け径の比率が変化する。これにより、プライマリ軸11に対するセカンダリ軸12の回転数が無段階に変速される。プライマリプーリ31の溝幅を変化させるために、可動プーリ31bとの間でプライマリ油室34を形成するシリンダ35がプライマリ軸11に取り付けられている。セカンダリプーリ32の溝幅を変化させるために、可動プーリ32bとの間でセカンダリ油室36を形成するシリンダ37がセカンダリ軸12に取り付けられている。プライマリ油室34とセカンダリ油室36にはそれぞれオイルポンプ19からの作動油が供給される。
【0021】
ミッションケース13aの後端部に取り付けられるモータケース13c内には、電動モータ40が装着されている。電動モータ40はモータ出力軸41に取り付けられるロータ42を有し、モータ出力軸41はプライマリ軸11の他端部に第1のワンウエイクラッチ39により連結されている。電動モータ40はロータ42が内部に組み込まれるステータ43を有しており、ステータ43はモータケース13cに固定される。このように、プライマリ軸11は
図1における左端部でトルクコンバータ14と前後進切換機構20とを介してエンジン出力軸15に連結され、右端部でワンウエイクラッチ39を介して電動モータ40のモータ出力軸41に連結されており、タービン軸17,プライマリ軸11およびモータ出力軸41は同軸となっている。電動モータ40は発電機つまりジェネレータとしての機能を有するモータジェネレータであり、制動時に回生エネルギーを回収してバッテリに充電する。
【0022】
図1に示す動力伝達装置は、前輪と後輪とを駆動輪としてこれらに動力を伝達することができるようにした全輪駆動つまり四輪駆動式の車両に搭載される。モータケース13cの後端部にはトランスファケース13dが取り付けられている。トランスファケース13dに吐出してモータケース13c内に配置されたトランスファ軸44には、トランスファクラッチ45が取り付けられており、トランスファクラッチ45によりトランスファ軸44は後輪出力軸46に連結される。トランスファクラッチ45は、トランスファ軸44に取り付けられるクラッチハブ47と、後輪出力軸46に取り付けられるクラッチドラム48とを有し、これらの間には複数枚の摩擦板が設けられている。摩擦板をピストン49により締結すると、トランスファ軸44と後輪出力軸46が締結される。後輪出力軸46は、プロペラシャフト51によりリアデファレンシャル機構52に連結されており、トランスファ軸44からプロペラシャフト51を介して図示しない駆動輪としての後輪に出力が伝達される。
【0023】
ミッションケース13aには前輪出力軸53がプライマリ軸11およびセカンダリ軸12に平行となって装着されており、前輪出力軸53は、トランスファ軸44に取り付けられる歯車54と、前輪出力軸53に取り付けられて歯車54に噛み合う歯車55とからなる歯車対によりトランスファ軸44に連結されている。前輪出力軸53はフロントデファレンシャル機構56に連結されており、トランスファ軸44から前輪出力軸53を介して駆動輪としての図示しない前輪に出力が伝達される。トランスファクラッチ45を締結すると、エンジン出力等は前輪と後輪に伝達される。一方、トランスファクラッチ45の締結を解除すると、エンジン出力等は前輪のみに伝達される。
【0024】
トランスファ軸44,後輪出力軸46および前輪出力軸53は、駆動輪としての前輪と後輪とに動力を伝達する出力伝達軸57を構成している。セカンダリ軸12の回転を出力伝達軸57に伝達するために、セカンダリ軸12に取り付けられる歯車61と、前輪出力軸53に回転自在に装着される歯車62とが噛み合っている。出力伝達軸57とセカンダリ軸12とを連結する連結状態と連結を解除する開放状態とに切り換えるための出力クラッチ63が歯車62と前輪出力軸53との間に配置されている。出力クラッチ63は、歯車62に取り付けられるクラッチハブ64と、前輪出力軸53に取り付けられるクラッチドラム65とを有し、これらの間にはクラッチ板が設けられている。このクラッチ板を油圧ピストン66により締結すると、セカンダリ軸12と出力伝達軸57とが連結状態となる。
【0025】
上述したプライマリ油室34とセカンダリ油室36、およびそれぞれの油圧ピストン66,49等には、エンジンにより駆動されるオイルポンプ19からの作動油が供給されるようになっているが、エンジン駆動のオイルポンプ19に代えるか、あるいは加えて電動式のオイルポンプを動力伝達装置に取り付けるようにしても良い。
【0026】
図1は全輪駆動式の動力伝達装置を示すが、前輪のみを駆動輪とするFF式の動力伝達装置とする場合には、トランスファクラッチ45は除去されることになる。一方、後輪のみを駆動輪とするFR式の動力伝達装置とする場合には、トランスファクラッチ45と前輪出力軸53とが除去されることになり、セカンダリ軸12は歯車やチェーンを介して後輪出力軸46に連結される。
【0027】
モータ出力軸41の他端部はトランスファ軸44に第2のワンウエイクラッチ59により連結されている。このように、電動モータ40は、モータ出力軸41の一端部と変速機入力軸としてのプライマリ軸11との間に配置される第1のワンウエイクラッチ39によりプライマリ軸11に連結され、モータ出力軸41の他端部と出力伝達軸57との間に配置される第2のワンウエイクラッチ59により出力伝達軸57に連結されている。
【0028】
第1のワンウエイクラッチ39のトルク伝達方向を車両前進走行時に電動モータ40からプライマリ軸11に向かう方向に設定すると、第2のワンウエイクラッチ59の車両前進走行時のトルク伝達方向は駆動輪からつまり出力伝達軸57から電動モータ40に向かう方向に設定され、それぞれ逆方向へのトルク伝達は防止される。後退走行時にはそれぞれのワンウエイクラッチ39,59におけるトルク伝達方向は前進走行の場合とは逆方向となる。
【0029】
上述とは逆に、第1のワンウエイクラッチ39のトルク伝達方向を車両前進走行時にプライマリ軸11から電動モータ40に向かう方向に設定すると、第2のワンウエイクラッチ59の前進走行時のトルク伝達方向は電動モータ40から出力伝達軸57に向かう方向に設定され、それぞれ逆方向へのトルク伝達は防止される。後退走行時にはそれぞれのワンウエイクラッチ39,59におけるトルク伝達方向は前進走行の場合とは逆方向となる。
【0030】
このように、2つのワンウエイクラッチ39,59は電動モータ40のモータ出力軸41を基準とすると、常にモータ出力軸41において一方向にトルクを伝達し、逆方向へのトルク伝達は行わない。2つのワンウエイクラッチ39,59によって車両前進走行時における電動モータ40の力行方向つまり電動モータ40により発生されたモータ出力をプライマリ軸11に伝達し、回生時に駆動輪からモータ出力軸41に回生トルクを直接伝達する作動形態を第1のクラッチ作動形態とし、その場合におけるトルク伝達経路のパターンを示すと、
図2の通りである。この第1のクラッチ作動形態のもとで、車両を後退走行させたときにおけるトルク伝達経路のパターンを示すと、
図3に示す通りである。
【0031】
これに対し、2つのワンウエイクラッチ39,59によって車両前進走行時における電動モータ40の力行方向つまり電動モータ40により発生されたモータ出力を出力伝達軸57に直接伝達し、回生時に駆動輪からモータ出力軸41に無段変速機構10を介して回生トルクを伝達する作動形態を第2のクラッチ作動形態とし、その場合におけるトルク伝達経路のパターンを示すと、
図4に示す通りである。この第2のクラッチ作動形態のもとで、車両を後退移動させたときにおけるトルク伝達経路のパターンを示すと、
図5に示す通りである。
【0032】
図2〜
図5において、符号P、M、Tと不等号は、プライマリ軸11、電動モータ40、トランスファ軸44との間における回転数差に基づくトルク大小関係を示しており、回転数が高くトルクが大きい方がトルク伝達経路における上流側となる。
【0033】
第1のクラッチ作動形態について、
図2および
図3を参照しつつ説明すると、
図2は車両が前進走行しているときにおけるトルク伝達経路を示し、
図3は車両が後退走行しているときにおけるトルク伝達経路を示す。
【0034】
第1のクラッチ作動形態においては、
図2(A)に示すように、プライマリ軸11がエンジンにより前進方向に回転駆動され、モータ出力軸41が前進方向に回転駆動された状態のもとで、電動モータ40の出力トルクMがプライマリ軸11のトルクPよりも大きくなると、モータ出力軸41はプライマリ軸11に対して上流側となるので、太い矢印で示すように電動モータ40はプライマリ軸11に対し力行モードとなってプライマリ軸11にはモータ出力が伝達される。このときには、電動モータ40のトルクMの方がトランスファ軸44のトルクTよりも大きいので、第2のワンウエイクラッチ59はモータ出力軸41からトランスファ軸44には動力伝達を行わない。
【0035】
したがって、
図2(A)に示すように、モータ出力は無段変速機構10を介して出力伝達軸57に伝達されることになり、エンジン出力とモータ出力とが無段変速機構10を介して駆動輪に伝達される。しかも、無段変速機構10により任意の変速比を選択することができ、要求駆動力を満たす走行が可能となる。このときに、エンジンを停止させればモータ出力のみが駆動輪に伝達され、電動モータ40を停止させればエンジン出力のみが駆動輪に伝達される。電動モータ40を停止させると、第1のワンウエイクラッチ39はフリーつまりロック解除状態となり、第2のワンウエイクラッチ59はロック状態となってモータ出力軸41はトランスファ軸44により連れ回ることになる。
【0036】
図2(A)に示す動力伝達状態のもとで、トランスファ軸44の回転数がモータ出力軸41よりも高くなってトランスファ軸44がモータ出力軸41に対して上流側となると、トルク循環を起こすことになる。このときには、出力クラッチ63を開放すると、トルク循環の発生を防止することができる。ただし、無段変速機構10の変速比により、トランスファ軸44の回転数がモータ出力軸41の回転数よりも高くならないように設定すると、トルク循環の発生を防止することができる。
【0037】
図2(B)は車両が前進走行している状況のもとで、回生制動により電動モータ40を発電するときのトルク伝達経路を示す。第1のクラッチ作動形態のもとで、回生制動が行われると、トランスファ軸44の方がモータ出力軸41よりも回転数が高めとなり、制動トルクが太い矢印で示すように第2のワンウエイクラッチ59を介してモータ出力軸41に伝達される。このときには、プライマリ軸11の方がモータ出力軸41よりも回転数が高めとなるので、第1のワンウエイクラッチ39は開放状態となる。このように、回生制動時には回生エネルギーは無段変速機構10を介することなく、出力伝達軸57から直接モータ出力軸41に伝達されるので、制動エネルギーの回収時には無段変速機構10における動力伝達ロスの発生がなく、高効率で回生エネルギーを回収することができる。
【0038】
図3(A)は、第1のクラッチ作動形態において、プライマリ軸11がエンジンにより後退方向に回転駆動され、モータ出力軸41が後退方向に回転駆動されている状態を示す。この状態のもとでは、電動モータ40の出力トルクMがトランスファ軸44のトルクTよりも大きくなると、モータ出力が出力伝達軸57を介して駆動輪に伝達される。このように、後退走行時にはモータ出力は無段変速機構10を介することなく、直接出力伝達軸57に伝達されるので、動力伝達ロスを発生させることなく、高効率で車両を後退走行させることができる。しかも、ワンウエイクラッチ59によりモータ出力軸41と出力伝達軸57とを直結することができるので、エンジン停止させた状態でモータ出力を駆動輪に伝達することができる。これにより、エンジン停止時にオイルポンプを駆動するための電動モータを設けることが不要となる。
図3(A)に示すトルク伝達経路においては、エンジン出力を駆動輪に伝達することも可能であるが、トランスファ軸44の回転数の方がモータ出力軸41の回転数よりも大きくなってトランスファ軸44がモータ出力軸41に対して上流側とならないように、無段変速機構10の変速比が設定される。
【0039】
図3(B)は、第1のクラッチ作動形態において、車両が後退走行している状況のもとで、回生制動により電動モータ40を発電するときのトルク伝達経路を示す。第1のクラッチ作動形態のもとで後退走行時に回生制動が行われると、トランスファ軸44の方がモータ出力軸41よりも回転数が高めとなり、第2のワンウエイクラッチ59はトランスファ軸44からモータ出力軸41へのトルク伝達を行わない。これにより、制動トルクは太い矢印で示すように無段変速機構10を介してモータ出力軸41に伝達される。
【0040】
次に、第2のクラッチ作動形態について、
図4および
図5を参照しつつ説明すると、
図4は車両が前進走行しているときにおけるトルク伝達経路を示し、
図5は車両が後退走行しているときにおけるトルク伝達経路を示す。
【0041】
第2のクラッチ作動形態においては、
図4(A)に示すように、プライマリ軸11がエンジンにより前進方向に回転駆動され、モータ出力軸41が前進方向に回転駆動された状態のもとで、電動モータ40の出力トルクMがトランスファ軸44のトルクTよりも大きくなると、モータ出力軸41はトランスファ軸44に対して上流側となるので、電動モータ40はトランスファ軸44に対して力行モードとなってトランスファ軸44には第2のワンウエイクラッチ59を介してモータ出力が伝達される。このときには、プライマリ軸11のトルクPの方が電動モータ40の出力トルクMよりも小さければ、第1のワンウエイクラッチ39はモータ出力軸41に対してプライマリ軸11のトルク伝達を行わない。
【0042】
したがって、
図4(A)に示すように、モータ出力は第2のワンウエイクラッチ59を介して出力伝達軸57に伝達されることになり、モータ出力は無段変速機構10を介することなく、直接出力伝達軸57に伝達される。これにより、無段変速機構10における動力伝達ロスを発生させることなく、高効率で車両を走行させることができる。しかも、ワンウエイクラッチ59によりモータ出力軸41と出力伝達軸57とを直結することができるので、エンジン停止させた状態でモータ出力を駆動輪に伝達することができる。これにより、エンジン停止時にオイルポンプを駆動するための電動モータを設けることが不要となる。一方、エンジン出力は無段変速機構10を介して出力伝達軸57に伝達することも可能であるが、トランスファ軸44の回転数の方がモータ出力軸41の回転数よりも大きくなってトランスファ軸44がモータ出力軸41に対して上流側とならないように、無段変速機構10の変速比が設定される。エンジンを停止させればモータ出力のみが駆動輪に伝達される。このように、
図4(A)のトルク伝達経路は、走行方向は逆であるが、
図3(A)と同様となる。
【0043】
図4(B)は第2のクラッチ作動形態において車両が前進走行している状況のもとで、回生制動により電動モータ40を発電するときのトルク伝達経路を示す。第2のクラッチ作動形態のもとで、回生制動が行われると、トランスファ軸44の方がモータ出力軸41よりも回転数が高めとなる。これにより、制動トルクは、太い矢印で示すように、第2のワンウエイクラッチ59が締結されることなく、無段変速機構10および第1のワンウエイクラッチ39を介して電動モータ40に伝達される。このように、
図4(B)のトルク伝達経路は、走行方向は逆であるが、
図3(B)と同様となる。
【0044】
図5(A)は、第2のクラッチ作動形態において、モータ出力軸41が後退方向に回転駆動されて車両が後退走行している状態を示す。このときのトルク伝達経路は、走行方向は逆であるが、
図2(A)と同様である。この状態のもとでは、電動モータ40の出力トルクMがプライマリ軸11の出力トルクPよりも大きくなると、電動モータ40のモータ出力トルクが無段変速機構10を介して出力伝達軸57に伝達される。このときには、
図2(A)に示したトルク伝達経路と同様に、エンジン出力とモータ出力とを無段変速機構10を介して駆動輪に伝達することができる。エンジンを停止させればモータ出力のみが駆動輪に伝達され、電動モータ40を停止させればエンジン出力のみが駆動輪に伝達される。
【0045】
図5(B)は、第2のクラッチ作動形態において、車両が後退走行している状況のもとで、回生制動により電動モータ40を発電するときのトルク伝達経路を示す。このときのトルク伝達経路は、走行方向は逆であるが、
図2(B)と同様である。第2のクラッチ作動形態のもとで後退走行時に回生制動が行われると、トランスファ軸44の方がモータ出力軸41よりも回転数が高めとなり、第2のワンウエイクラッチ59がトランスファ軸44とモータ出力軸41とを連結締結させて制動トルクが無段変速機構10を介することなく、直接モータ出力軸41に伝達される。したがって、後退走行における回生制動時に動力伝達ロスの発生を起こさせることなく、高効率で回生制動エネルギーを回収することができる。
【0046】
図1に示されるように、この動力伝達装置は、電動モータ40のモータ出力軸41の一端部とプライマリ軸11との間に配置される第1のワンウエイクラッチ39と、モータ出力軸41の他端部と出力伝達軸57との間に配置される第2のワンウエイクラッチ59とを有している。これにより、油圧を供給することなく作動するそれぞれのワンウエイクラッチ39,59により、複数のトルク伝達経路が動力伝達装置に形成される。ワンウエイクラッチ39,59によりトルク伝達経路の切換を行うことができるので、オイルポンプ19を駆動させるためにエンジンを駆動させることなく、電動モータ40の動力により車両を発進させることができる。
【0047】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、変速機構としては無段変速機構10が用いられているが、有段変速機構を変速機構とする車両に対しても本発明を適用することができる。また、図示する無段変速機構10はベルトドライブ式であるが、トラクションドライブ式としても良い。