【実施例1】
【0021】
実施例1に係る気流拡散解析プログラムは、地形上を流れる大気(気流)の拡散を予測するプログラムである。この気流拡散解析プログラムは、例えば、原子力施設の想定事故時における放射性物質の拡散状態を推定するために用いられている。以下、
図1を参照して、気流拡散解析プログラムについて説明する。
【0022】
図1は、実施例1の気流拡散解析プログラムを記憶した解析装置を概略的に表した説明図である。
図1に示すように、気流拡散解析プログラム10は、気流拡散解析装置(ハードウェア)20上において実行可能なプログラムであり、気流拡散解析装置20の記憶部21に記憶されている。この気流拡散解析装置20は、複数の演算部22を搭載した大規模な演算装置であり、記憶部21に記憶された気流拡散解析プログラム10を、各演算部22において実行することにより、大気の拡散解析を実行している。
【0023】
気流拡散解析プログラム10では、所定の気流計算コードを用いて、LES(Large Eddy Simulation)による数値解析が行われる。この気流拡散解析プログラム10は、空間モデル30を生成するモデル生成ステップと、気流計算コードを用いて気流の拡散解析を実行する気流拡散解析ステップと、を有している。
【0024】
図2および
図3に示すように、モデル生成ステップでは、解析対象となる空間をモデル化して空間モデル30を生成している。生成される空間モデル30は、長方体の箱状に形成された空間領域モデル31と、空間領域モデル31の内部に形成されたスパイヤモデル32と、空間領域モデル31の内部に形成された凹凸モデル(凹凸部)33とを有している。この長方体形状の空間領域モデル31において、その長手方向は、気流の主流方向(X方向)となっており、水平面内において主流方向に直交する方向は、水平方向(Y方向)となっており、主流方向および水平方向に直交する方向は、鉛直方向(Z方向)となっている。
【0025】
スパイヤモデル32は、主流方向の上流側に複数形成されており、複数のスパイヤモデル32は、水平方向に所定の間隔を空けて並べられている。各スパイヤモデル32は、鉛直方向に長い四角柱状に形成されており、Z方向における高さが、例えば520mmとなっており、Y方向における幅が、例えば52mmとなっており、X方向における長さが、例えば55mmとなっている。また、スパイヤモデル32の中心同士の間隔は、例えば150mmとなっている。
【0026】
凹凸モデル33は、スパイヤモデル32に対し主流方向の下流側に設けられた複数の凸部33aによって形成されている。複数の凸部33aは、空間領域モデル31の鉛直方向下方側の面である地表面から突出するように形成されている。各凸部33aは、長方体形状のブロックとなっており、各凸部33aの長手方向(延在方向)は、Y方向となっている。
【0027】
複数の凸部33aは、規則的なパターンで配置されている。つまり、複数の凸部33aは、主流方向に所定の間隔を空けて並べられることで、縞状に配置されている。これにより、凹凸モデル33上を流れる気流は、各凸部33aにより水平方向に案内される。ここで、各凸部33aは、Z方向における高さが、例えば5mmとなっており、Y方向における幅が、空間領域モデル31と同幅となっており、X方向における長さが、例えば55mmとなっている。また、凸部33a同士の間隔は、例えば55mmとなっている。なお、X方向におけるスパイヤモデル32と凹凸モデル33との間の間隔は、例えば55mmとなっている。
【0028】
気流拡散解析ステップでは、モデル生成ステップにおいて生成した空間モデル30における大気の拡散を、気流計算コードを用いて解析する。なお、気流拡散解析ステップにおいて使用される気流計算コードは、例えば、公知となっているRIAM−COMPACT社製の気流計算コードである。
【0029】
次に、
図4および
図5を参照して、風洞実験によって得られた気流の拡散の解析結果と、風洞実験の解析結果を気流拡散解析プログラムによって再現したときに得られる気流の拡散の解析結果とについて比較する。
図4は、風洞実験の解析結果と、従来の気流拡散解析の解析結果とを比較したグラフであり、
図5は、風洞実験の解析結果と、本実施例の気流拡散解析の解析結果とを比較したグラフである。
図4および
図5に示すグラフは、その横軸が、上流側から下流側へ向かうX方向の距離(風下距離)Xであり、その縦軸が、Y方向における拡散幅σyである。また、
図4および
図5に示すグラフには、大気安定度A,B,C,D,E,F,Gが示されており、これら大気安定度A,B,C,D,E,F,Gは、風下距離の変化に応じた水平方向における気流の拡散幅を表わしている。ここで、大気安定度Dが、最も出現頻度の多い大気条件となる中立状態である。また、大気安定度A,B,Cは、大気安定度Dよりも拡散幅が大きいため、大気安定度が不安定なものとなる一方で、大気安定度E,F,Gは、大気安定度Dよりも拡散幅が小さいため、大気安定度がより安定なものとなっている。ここで、気流の拡散解析を実行するにあたり、大気条件として、大気安定度Cから大気安定度Dの間となるように要求される。
【0030】
先ず、風洞実験により得られた解析結果について説明する。風洞実験において、実験対象となる実験空間は、長方体形状の空間領域と、主流方向の上流側に設けた複数のスパイヤと、を有している。なお、実験空間は、気流拡散解析プログラム10において生成される空間モデル30に相当するものであり、空間領域およびスパイヤは、空間領域モデル31およびスパイヤモデル32に相当する。一方で、実験空間は、実施例1の気流拡散解析プログラム10において生成される凹凸モデル33に相当する部分を有していない。上記した実験空間によって風洞実験が行われると、
図4および
図5の白抜きの四角(□)で示すように、風洞実験により得られる解析結果は、大気安定度Cから大気安定度Dの範囲内に収まる。
【0031】
一方で、従来の気流拡散解析プログラムでは、上記の風洞実験を再現する場合、生成する空間モデル30は、風洞実験での実験空間と同様となる空間モデル30であって、凹凸モデル33が形成されていない。このため、
図4の黒塗りのひし形で示すように、従来の気流拡散解析プログラムにより得られる解析結果は、大気安定度Cから大気安定度Dの範囲内に収まっておらず、大気安定度Dから大気安定度Fの範囲内となっている。これにより、従来の気流拡散解析プログラムでは、上記の風洞実験を好適に再現しているとは言えないことが確認された。
【0032】
これに対し、実施例1の気流拡散解析プログラム10では、上記の風洞実験を再現する場合、生成する空間モデル30は、風洞実験での実験空間に相当する空間モデル30に、凹凸モデル33を追加して形成している。このため、
図5の黒塗りの三角で示すように、実施例1の気流拡散解析プログラムにより得られる解析結果は、大気安定度Cから大気安定度Dの範囲内に収まり、上記の風洞実験を好適に再現していることが確認された。
【0033】
以上により、実施例1の構成によれば、空間モデル30において、その地表面に粗度を表現した凹凸モデル33を形成することができる。このため、地表面上を流れる気流は、地表面の粗度によって、その一部が水平方向に拡散される。これにより、気流の拡散解析では、要求された所定の大気条件の範囲内に収めた状態で、気流の拡散解析を好適に行うことができる。
【0034】
また、実施例1の構成によれば、凹凸モデル33を規則的な縞状のパターンで構成することができるため、気流を積極的に水平方向に拡散させることができる。このため、空間モデルを簡易なモデルとすることができ、また、水平方向に拡散させる有用な凹凸モデル33のみを形成することができるため、気流の拡散解析を効率よく行うことができ、計算時間の増大を抑制することができる。
【実施例2】
【0035】
次に、
図6および
図7を参照して、実施例2の気流拡散解析プログラムおよび気流拡散解析装置について説明する。
図6は、実施例2に係る空間モデルの平面図であり、
図7は、風洞実験の解析結果と、実施例2の気流拡散解析の解析結果とを比較したグラフである。なお、重複した記載を避けるべく、異なる部分についてのみ説明する。実施例1における空間モデル30において、凹凸モデル33は、複数の凸部33aを縞状に配置したが、実施例2における空間モデル50において、凹凸モデル53は、複数の凸部53aを千鳥状に配置している。以下、
図6を参照して、凹凸モデル53について説明する。
【0036】
実施例2の凹凸モデル53は、スパイヤモデル32に対し主流方向の下流側に設けられた複数の凸部53aによって形成されている。複数の凸部53aは、空間領域モデル31の鉛直方向下方側の面である地表面から突出するように形成されている。複数の凸部53aは、Y方向に所定の間隔を並べて一列に配置され、一列となる複数の凸部53aは、所定の間隔を空けて複数列に並べられている。このとき、隣接する一方の列の複数の凸部53aは、他方の列の複数の凸部53aの間に位置するように、Y方向に位置ズレして配置されることで、複数の凸部53aは千鳥配置となっている。
【0037】
このとき、
図7に示すように、実施例2の気流拡散解析プログラムにより得られる解析結果は、黒塗りの四角であり、大気安定度Cから大気安定度Dの範囲内に収まることが確認された。
【0038】
以上により、実施例2の構成においても、空間モデル50において、その地表面に粗度を表現した凹凸モデル53を形成することができる。このため、地表面上を流れる気流は、地表面の粗度によって、その一部が水平方向に拡散される。これにより、気流の拡散解析では、要求された所定の大気条件の範囲内に収めた状態で、気流の拡散解析を好適に行うことができる。
【0039】
なお、実施例1および実施例2において、凹凸モデル33,35の凸部33a,53aを、縞状に配置あるいは千鳥配置としたが、この構成に限らず、地表面に粗度を表現し、大気安定度を所定の範囲内とすることが可能な凹凸モデルであればよい。このとき、凹凸モデルは、気流の拡散解析の計算効率のよいモデルがより好ましい。