(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701275
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】長短複合紡績糸及びその製造方法並びにこれを用いた布帛と衣料用繊維製品
(51)【国際特許分類】
D02G 3/26 20060101AFI20150326BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20150326BHJP
D03D 15/00 20060101ALI20150326BHJP
D04B 1/14 20060101ALI20150326BHJP
D02G 1/02 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
D02G3/26
D02G3/04
D03D15/00 C
D03D15/00 D
D04B1/14
D02G1/02 Z
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-257428(P2012-257428)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-105395(P2014-105395A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年5月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安田 智則
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−109532(JP,A)
【文献】
特開2004−060094(JP,A)
【文献】
特開昭58−109649(JP,A)
【文献】
実開昭60−132473(JP,U)
【文献】
特開2010−209487(JP,A)
【文献】
特開2000−080527(JP,A)
【文献】
特開昭61−070034(JP,A)
【文献】
特開2006−161227(JP,A)
【文献】
特開2008−266840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00−3/48
D03D 15/00
D04B 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチフィラメント繊維(ただし、断面偏平率2以上のマルチフィラメント繊維を除く。)と短繊維とが一体化されて撚られた長短複合紡績糸であって、
断面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維はまとまって存在し、一部露出しているが大部分は前記短繊維の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、
側面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記長短複合紡績糸の撚り方向に沿って撚回されていることを特徴とする長短複合紡績糸。
【請求項2】
前記長短複合紡績糸は単糸であり、撚り係数Kが70〜200である請求項1に記載の長短複合紡績糸。
ただし、撚り係数Kは下記の式(1)で算出する。
K=T/(10,000/D)1/2・・・式(1)
T:1m間の撚り数
D:長短複合紡績糸の繊度(deci tex)
【請求項3】
前記長短複合紡績糸はさらに追撚されており、追撚後撚り係数Kが140〜200であり、糸継ぎ部が前記長短複合紡績糸内に撚り込まれている請求項1又は2に記載の長短複合紡績糸。ただし、撚り係数Kの定義は前記式(1)と同一である。
【請求項4】
前記長短複合紡績糸は双糸であり、前記双糸の撚り方向は単糸の撚り方向と逆であり、前記双糸の撚り係数Kが70〜200である請求項1〜3のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。ただし、撚り係数Kの定義は前記式(1)と同一である。
【請求項5】
前記長短複合紡績糸は、断面から見た外観がほぼ円形である請求項1〜4のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項6】
前記長短複合紡績糸は、マルチフィラメントと短繊維の割合が、マルチフィラメント5重量%以上50重量%未満、短繊維50重量%を超え95重量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項7】
前記短繊維は獣毛繊維を含み、ウォッシャブル性を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項8】
前記短繊維が獣毛繊維或いは獣毛繊維とポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維及びシルク繊維との混紡糸である請求項1〜7のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項9】
前記マルチフィラメント繊維が、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維及びシルク繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維である請求項1〜8のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項10】
前記長短複合紡績糸の単糸繊度は58.8〜417deci texである請求項1〜9のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項11】
前記短繊維に対する前記マルチフィラメント繊維の巻きつけピッチが0.5〜5.0mmである請求項1〜10のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸の製造方法であって、
リング精紡機のドラフトゾーンに短繊維束を供給し、
前記フロントローラの上流側にマルチフィラメント繊維をテンションフリーの状態で供給し、
前記リング紡績機のフロントローラのニップ線上でドラフトされた前記短繊維束に前記マルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加えて長短複合紡績糸を製造することを特徴とする長短複合紡績糸の製造方法。
【請求項13】
前記マルチフィラメント繊維のテンションフリーの状態が、テンション0〜15gの範囲である請求項12に記載の長短複合紡績糸の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の長短複合紡績糸を含む織物又は編み物としたことを特徴とする布帛。
【請求項15】
請求項14に記載の布帛を衣料用繊維製品としたことを特徴とする衣料用繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメント繊維と短繊維を含む長短複合紡績糸及びその製造方法並びにこれを用いた布帛と衣料用繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
長短複合紡績糸は、フィラメント繊維と短繊維の持つそれぞれの長所を生かせることから、従来から様々な提案がされている。例えば、下記のような方法が知られている。
(1)マルチフィラメント繊維を電気開繊して短繊維と撚糸し、均一混繊構造の長短複合紡績糸を作る方法(特許文献1)
(2)長繊維であるモノフィラメント繊維を芯とし、短繊維である紡績用繊維を鞘として外周に被覆した状態で撚り込ませて芯鞘構造のコアヤーンを作る方法(特許文献2)
(3)マルチフィラメント繊維と短繊維を層別に混紡し、杢糸構造の精紡交撚糸を作る方法(特許文献3)
【0003】
しかしながら、従来の長短複合紡績糸は、静電気発生装置が必要で製造コストが高いという問題(特許文献1)、モノフィラメント繊維をマルチフィラメント繊維に換えて芯に配置し、短繊維を鞘に配置すると部分的にマルチフィラメント繊維が外に飛び出してしまう問題(特許文献2)、杢糸構造では一般的用途には展開が難しい(特許文献3)などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−102445号公報
【特許文献2】特開2006−225827号公報
【特許文献3】特開2003−73944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来の問題を解決するため、マルチフィラメント繊維と短繊維との一体性が良好であり、ウォッシャブル性を有し、風合いは柔らかい長短複合紡績糸及びその製造方法並びにこれを用いた布帛と衣料用繊維製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の長短複合紡績糸は、マルチフィラメント繊維
(ただし、断面偏平率2以上のマルチフィラメント繊維を除く。)と短繊維とが一体化されて撚られた長短複合紡績糸であって、断面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維はまとまって存在し、一部露出しているが大部分は前記短繊維の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、側面から見たとき、前記マルチフィラメント繊維は前記長短複合紡績糸の撚り方向に沿って撚回されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の長短複合紡績糸の製造方法は、前記の長短複合紡績糸の製造方法であって、リング精紡機のドラフトゾーンに短繊維束を供給し、前記リング紡績機のフロントローラの上流側にマルチフィラメント繊維をテンションフリーの状態で供給し、前記フロントローラのニップ線上でドラフトされた前記短繊維束に前記マルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加えて長短複合紡績糸を製造することを特徴とする。
【0008】
本発明の布帛は、前記の長短複合紡績糸を含む織物又は編み物としたことを特徴とする。また、本発明の衣料用繊維製品は、前記の布帛を衣料用繊維製品としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の長短複合紡績糸は、断面から見たときマルチフィラメント繊維は長短複合紡績糸の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、側面から見たときマルチフィラメント繊維は長短複合紡績糸の撚り方向に沿って撚回されている。この構造により、マルチフィラメント繊維と短繊維との一体性が高く、短繊維の周囲はマルチフィラメント繊維によって巻きつけられ毛羽部伏せされていることから、ウォッシャブル性を発揮する。また、全体として風合いが柔らかい長短複合紡績糸並びにこれを用いた布帛と衣料用繊維製品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1Aは本発明の一実施例の長短複合紡績糸の断面図であり、
図1Bは同紡績糸の側面図である。
【
図2】
図2は同、長短複合紡績糸を製造するためのリング精紡機の要部を示す斜視図である。
【
図3】
図3は同、リング精紡機のフロントローラ要部の模式的説明図である。
【
図4】
図4は従来技術のリング精紡機のフロントローラ要部の模式的説明図である。
【
図5】
図5Aは従来技術の長短複合紡績糸の断面図であり、
図5Bは同紡績糸の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、長短複合紡績糸を製造するに際し、電気開繊装置などコストのかかる装置を使用せずに風合いなどの品位の優れたものはできないかを検討した。従来から一般的に行われている長短複合紡績糸は、
図4に示すようにフロントローラ5のニップ線17までマルチフィラメント繊維16と短繊維束15とを間を空けて供給し、ニップ線17を通過した後に両者を撚りあわせる方法が採用されていた。この方法により得られる長短複合紡績糸23の断面図は
図5A、側面図は
図5Bに示すように短繊維24の外側にマルチフィラメント繊維25が凸状に飛び出した杢糸形状の糸である。このような杢糸形状の長短複合紡績糸23は粗硬であり、布帛にするとシャリ感はあるが、夏物衣料など、用途は限られていた。
【0012】
そこで、シャリ感を抑え、通常のウール紡績糸のようなふっくらとした柔らかい風合いの長短複合紡績糸が製造できないか検討した。ウール100%使い紡績糸に比べて、例えばポリエステルマルチフィラメント繊維とウールとの長短複合紡績糸は、着心地の良さなどのウールの特徴を保ったままプリーツ加工ができ、家庭洗濯を含めたウォッシャブル性、強度、耐久性、寸法安定性などに優れ、学生服、ユニホーム、スーツ、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、肌着などに好適である。
【0013】
本発明はこのような着想から完成したものである。本発明の長短複合紡績糸は、マルチフィラメント繊維をテンションフリーの状態でリング紡績機のフロントローラの上流側から供給し、フロントローラのニップ線上でドラフトされた短繊維束にマルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで重ね合わせた状態で実撚りを加えて得られる。
【0014】
本発明の長短複合紡績糸は、マルチフィラメント繊維と短繊維とが一体的に撚られ、断面から見たとき、マルチフィラメント繊維は長短複合紡績糸の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在しており、側面から見たとき、マルチフィラメント繊維は長短複合紡績糸の撚り方向に沿って撚回されている。これを図面で示すと、
図1Aのようにマルチフィラメント繊維22は短繊維21に取り込まれ、長短複合紡績糸20の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在している。すなわち、偏心している。また側面から見たとき、
図1Bのようにマルチフィラメント繊維22は短繊維21に取り込まれ、長短複合紡績糸20の撚り方向に沿って螺旋状に撚回されている。マルチフィラメント繊維22は短繊維21に取り込まれた構造によって、マルチフィラメント繊維22は埋め込まれて露出度が低くなり、短繊維21の特性をより多く引き出せることから、シャリ感を抑え、ふっくらとした柔らかい風合いのものとなる。加えて、短繊維は周囲からマルチフィラメント繊維によって巻きつけられ毛羽部伏せされている。すなわち縛り付けられている。このことから毛羽は少なく、ピリングの発生も少なく、ウォッシャブル性を発揮する。
【0015】
本発明においてウォッシャブル性とは、家庭洗濯できることを言う。具体的にはJIS L0217(104法)に規定されている方法で水洗い洗濯15回した後、タテ、ヨコとも寸法変化が2.0%以下である。このように寸法変化が少ない理由は、本発明の長短複合紡績糸は短繊維の周囲にマルチフィラメント繊維が螺旋状(ヘリカル状)に巻きついて短繊維の動きを制約しているからと推定される。したがって、短繊維がウールのような水中で揉まれると収縮を起こしやすい繊維であっても、ウォッシャブル性を発揮する。
【0016】
図1Aに示すように、長短複合紡績糸20は断面から見た外観がほぼ円形であることが好ましい。また
図1Bに示すように、側面から見た外観がほぼ直線状態であるのが好ましい。このような外観であると、前記と同様にマルチフィラメント繊維22は埋め込まれて露出度は低くなり、短繊維21の特性をより多く引き出せることから、シャリ感を抑え、ふっくらとした柔らかい風合いのものとなる。
【0017】
長短複合紡績糸20は単糸であり、撚り係数Kは70〜200であることが好ましい。さらに好ましくは75〜190であり、80〜180がとくに好ましい。撚り係数Kは下記の式(1)で示される。リング紡績機で紡績される単糸の撚り係数Kが前記の範囲であると、さらに好ましい特性、すなわちシャリ感を抑え、通常のウール紡績糸のようなふっくらとした柔らかい風合いの長短複合紡績糸となる。この糸は単糸のままでニット糸又はジャージ糸として有用である。
K=T/(10,000/D)
1/2・・・式(1)
T:1m間の撚り数
D:長短複合紡績糸の繊度(deci tex)
【0018】
長短複合紡績糸20の追撚後の撚り係数は140〜200が好ましく、さらに好ましくは145〜190であり、150〜180がとくに好ましい。糸継ぎ部が長短複合紡績糸内に撚り込まれていてもよい。ただし、撚り係数Kの定義は前記式(1)と同一である。この糸は織糸用として有用である。また、糸継ぎ部が長短複合紡績糸内に撚り込まれていることにより、綜絖等の織機通過性がよく、緯糸としても取扱い性が良好な糸となる。
【0019】
撚り係数とも関係するが、マルチフィラメント繊維の巻きつきピッチは、0.5〜5.0mmが好ましく、さらに好ましくは0.6〜4.0mmであり、0.7〜3.0mmがとくに好ましい。マルチフィラメント繊維の巻きつきピッチが前記の範囲であれば、短繊維を周囲から巻きつけ一体化し、ウォッシャブル性を向上できる。また、短繊維の周囲にマルチフィラメント繊維が螺旋状に巻きついていると、長さ方向に引っ張るとマルチフィラメント繊維がコイルのように伸びるため、長短複合紡績糸に好ましい伸びを与える。とくに短繊維がウールの場合、繊維長は55〜100mmであるので、マルチフィラメント繊維の巻きつきピッチが前記範囲であると、1本の単繊維当たり相当数マルチフィラメントが巻き付けられていることになり、短繊維とマルチフィラメント繊維との一体化にとって好ましい状態となる。
【0020】
長短複合紡績糸20は双糸であり、双糸の撚り方向は単糸の撚り方向と逆であり、単糸の撚り係数K70〜200、双糸の撚り係数K70〜200が好ましい。双糸のさらに好ましい撚り係数Kは75〜190であり、80〜180がとくに好ましい。ただし、撚り係数Kの定義は前記式(1)と同一である。この糸も織糸用として有用である。双糸とは2本の単糸を撚り合わせた糸である。双糸を使う理由は、製織時の張力に耐える強度を付与するとともに、単糸の持つ太さムラを相殺させ、目風をきれいにするためである。双糸にする場合、双糸の撚り方向は、単糸の追撚前の撚り方向又は追撚後の撚り方向と逆にするのが好ましい。このようにすると単糸の撚りは撚り戻されて甘撚りの状態になり、単繊維が動き易くなることから、表面はふっくらと柔軟になり、温かみのある風合いを出しやすいという相乗効果がある。
【0021】
本発明の長短複合紡績糸は、マルチフィラメントと短繊維の割合が、マルチフィラメント5重量%以上50重量%未満、短繊維50重量%を超え95重量%以下が好ましく、さらに好ましくはマルチフィラメント10重量%以上40重量%以下、短繊維60重量%以上90重量%以下である。前記の範囲であればマルチフィラメントと短繊維のそれぞれの長所を引き出せる。
【0022】
短繊維は獣毛繊維を含む天然繊維、化学繊維、合成繊維などいかなる繊維であってもよい。例えば短繊維は、獣毛繊維或いは獣毛繊維とポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維及びシルク繊維との混紡糸が好ましい。混紡繊維の場合、獣毛繊維が20〜80重量%、その他のポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維及びシルク繊維が20〜80重量%が好ましい。この中で暖かさや着心地の良さから獣毛繊維100%使いがとくに好ましい。獣毛繊維は、ウール、カシミヤ、モヘヤ、キャメル等の毛繊維である。ウールはとくに有用であるが、カシミヤやモヘヤを混合したウールは軽くて色つやもよく、高級素材となる。短繊維の繊維長は20〜200mmが好ましく、さらに好ましくは30〜180mmである。
【0023】
マルチフィラメント繊維は、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、セルロースアセテート繊維、キュプラ繊維、シルク繊維などが使用できる。この中でもポリエチレンテレフタレートのマルチフィラメント繊維は強度が高く、プリーツ性もあり、最も汎用的な素材である。マルチフィラメント繊維のトータル繊度は10〜300deci texが好ましく、より好ましくは20〜200deci texである。マルチフィラメント繊維を構成する繊維の単糸繊度は0.1〜4deci texが好ましく、より好ましくは0.2〜3deci texである。マルチフィラメント繊維の構成本数は、3〜200本程度が好ましく、より好ましくは5〜100本程度である。ウールとポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント繊維とを組み合わせると汎用的な織物や編み物に好適である。ウールとシルクマルチフィラメント繊維とを組み合わせると光沢のある高級素材が得られる。
【0024】
本発明の長短複合紡績糸の繊度の好ましい単糸繊度は58.8〜417deci tex(24〜170メートル番手単糸、1/24〜1/170と表示)であり、さらに好ましくは64.5〜333.3deci tex(30〜155メートル番手単糸、1/30〜1/155と表示)である。双糸の好ましい繊度は117.6〜833deci tex(12〜85メートル番手双糸、2/24〜2/170と表示)である。
【0025】
次に本発明の製造方法について説明する。本発明方法は前記の通り、リング精紡機のドラフトゾーンに短繊維束を供給し、リング紡績機のフロントローラの上流側にマルチフィラメント繊維をテンションフリーの状態で供給し、フロントローラのニップ線上でドラフトされた前記短繊維束にマルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加えて長短複合紡績糸を製造する。前記において、マルチフィラメント繊維のテンションフリーの状態は、ワッシャテンサなどを使用せず、摩擦をできるだけ少なくして単に糸ガイドを通過させることを意味する。具体的な張力で示すと、テンション値は0〜15gであり、さらに好ましくは0〜10gであり、とくに好ましくは0〜6.5gの範囲である。
【0026】
以下、図面を用いて説明する。
図2は本発明の一実施例におけるリング精紡機の要部を示す斜視図である。積極回転駆動するフロントボトムメインシャフト3にはフロントボトムローラ4を錘ごとに設ける。フロントボトムローラ4の上にはフロントトップローラ5をのせる。フロントトップローラ5はゴムコットで被覆され、荷重を掛けた共通のアーバー6にそれぞれ独立に転動可能に外嵌する。粗糸ボビン1から引き出した短繊維束15は、ガイドバーからトランペットフィーダー7を介してバックローラ8に供給する。バックローラ8から送出されてドラフトエプロン9でドラフトされた短繊維束15は、フロントボトムローラ4とフロントトップローラ5にニップされて紡出される。
【0027】
パーン2から引き出されたマルチフィラメント繊維16は、糸ガイドを通過し、テンションフリーの状態でヤーンガイド14を通し、フロントトップローラ5の上流側に供給し、フロントボトムローラ4とフロントトップローラ5のニップ線上で短繊維束と重ね合わせ、次いで実撚りが加えられる。実撚りは、糸をスネルワイヤ10とアンチノードリング11を通過させ、トラベラ12を介して錘上の糸管13に巻き取ることにより加えられる。得られた長短複合紡績糸20は糸管13に巻き取られる。
【0028】
図3は短繊維束15とマルチフィラメント繊維16を合撚する際に、フロントトップローラ5の上方から見た説明図である。フロントボトムローラとフロントトップローラ5のニップ線17上において、短繊維束15とマルチフィラメント繊維16を合体させ、ニップ線17を通過した後に撚りを加えて長短複合紡績糸20とする。
【0029】
次に本発明の布帛について説明する。本発明の布帛は前記長短複合紡績糸を含む織物又は編み物である。布帛全体を100重量%としたとき、前記長短複合紡績糸は10〜100重量%が好ましい。前記長短複合紡績糸に使用する短繊維が獣毛繊維(例えばウール)の場合は、布帛全体の5重量%程度で柔らかい風合いと暖かさを発揮でき、良好な着心地が得られる。布帛は一般的な織物、編み物に広く使用できる。織物は例えば平織、斜文織、朱子織など任意の組織を含む。編物は例えばタテ編、ヨコ編、両面編など任意の組織を含む。織物、編み物の好ましい目付は100〜300g/m
2である。染色は、綿(わた)、糸、布帛(織物、編み物)等いかなる段階で行ってもよく、染色方法は常法を採用できる。
【0030】
本発明の衣料製品は前記布帛を縫製して衣料用繊維製品とする。衣料用繊維製品としては、一例としてスーツ、ユニホーム、学生服、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、肌着などがある。これらの衣料製品は秋〜春物にかけての3シーズン着用するのに好適である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明の実施例、比較例における測定方法は次のとおりとした。
(1)糸の強伸度
JIS L1095 9.5.1法に従って測定した。
(2)織物強度
JIS L 1096A法に従って測定した。
(3)抗ピル性
JIS L 1076A法に従って測定した。
(4)風合い
カトーテック社製KES風合い計測法試験によって測定した。
(5)その他の物性
JIS又は業界規格にしたがって測定した。
【0032】
(実施例1)
(1)長短複合紡績糸の製造
本実施例の長短複合紡績糸は単糸織物用である。
図2〜3に示す方法によって長短複合紡績糸を製造した。短繊維束15としてメリノ種ウールの粗糸3.3メートル番手(3030deci tex)を供給し、精紡機のドラフトゾーンで14倍にドラフトした。マルチフィラメント繊維16はポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント繊維(トータル繊度:33deci tex,フィラメント数:12本)をテンションフリー(0〜6.5g)の状態でフロントローラの上流側に供給した。そしてフロントローラのニップ線上でドラフトされたウール繊維束にPETマルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加えて長短複合紡績糸を製造した。得られた長短複合紡績糸は、40メートル番手単糸(1/40と表示、250 deci tex)、撚り数630回/m(Z撚り、マルチフィラメントの巻き付けピッチ:1.59mm)、撚り係数Kは100であった。また、得られた長短複合紡績糸の割合は、ウール87重量%、PETマルチフィラメント繊維13重量%であった。得られた長短複合紡績糸を、Z撚りを320回/m追撚して単糸とした。得られた単糸は40メートル番手(1/40と表示、250 deci tex)、強度250cN/250deci tex,伸度34%であった。この糸を顕微鏡で観察したところ、
図1A−Bに示すとおりであった。
【0033】
(2)織物製造
前記の単糸を経糸と緯糸にそれぞれ使用し、1/1平組織で仕上げ、表1に示す経糸密度及び緯糸密度の織物を得た。得られた織物の物性は表1にまとめて示す。
【0034】
(実施例2)
本実施例の長短複合紡績糸は双糸織物用である。
図2〜3に示す方法によって長短複合紡績糸を製造した。短繊維束15としてメリノ種ウール61質量%とPET短繊維(繊維長89mm,単繊維繊度3.3deci tex) 39 質量%の粗糸3.3メートル番手(3030deci tex)を供給し、精紡機のドラフトゾーンで19倍にドラフトした。マルチフィラメント繊維16はポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント繊維(トータル繊度:33deci tex,フィラメント数:12本)をテンションフリー(0〜6.5g)の状態でフロントローラの上流側に供給した。そしてフロントローラのニップ線上でドラフトされたウール繊維束にPETマルチフィラメント繊維を重ね合わせ、次いで実撚りを加えて長短複合紡績糸を製造した。得られた長短複合紡績糸は、52メートル番手単糸(1/52と表示、192.3deci tex)、撚り数720回/m(Z撚りマルチフィラメントの巻き付けピッチ:1.39mm)、撚り係数Kは100であった。また、得られた長短複合紡績糸の割合は、ウール50重量%、PET 短繊維32重量%、PETマルチフィラメント繊維18重量%であった。この糸を顕微鏡で観察したところ、
図1A−Bに示すとおりであった。得られた長短複合紡績糸を2本引き揃え、S撚りを720回/m加えて双糸とした。得られた双糸は52メートル番手双糸(2/52と表示、384.6deci tex)、強度650cN/192.3deci tex,伸度28%であった。
【0035】
(比較例1)
図4に示すように、PETマルチフィラメント繊維16のテンションを20g掛けた状態でウール繊維束15と8mm離してフロントローラの上流側に供給した以外は実施例1と同様に実験した。得られた長短複合紡績糸23は
図5A−Bに示す状態となった。すなわち、短繊維24の外側にマルチフィラメント繊維25が凸状に飛び出した杢糸形状の糸となった。このような杢糸形状の長短複合紡績糸23は粗硬であり、布帛にするとシャリ感はあるが、夏物衣料など、用途は限られていた。得られた単糸は40メートル番手(1/40と表示、250 deci tex)、強度240cN/250deci tex,伸度28%であった。
【0036】
(比較例2)
PETマルチフィラメント繊維16を使用しないウール50重量%、PET 短繊維50重量%のみの単糸を使用した以外は実施例2と同様に実験した。得られた双糸は52メートル番手双糸(2/52と表示、384.63deci tex)、強度640cN/192.3deci tex,伸度21%であった。
【0037】
【表1】
【0038】
表1の「洗濯寸法変化15回経」について実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、実施例1及び2はいずれも-2.0%以下であり、ウォシャブル性は合格であった。これに対して比較例1及び2は寸法変化が大きく、不合格であった。また実施例1〜2品は、引張強さ・伸び率、引裂き強さがすべて大きくなった。
【0039】
次に風合い試験をカトーテック社製KES風合い計測法試験によって測定した。結果を表2にまとめて示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2の「伸び」について実施例1と比較例1、及び実施例2と比較例2をそれぞれ比較すると、実施例1及び2はいずれも伸びが高かった。ポリウレタンのような弾性繊維を使用せずに伸びが高いのは、
図1Bに示すように、短繊維の周囲をマルチフィラメント繊維が螺旋状に巻きついていることから、長短複合紡績糸を長さ方向に引っ張ると、マルチフィラメント繊維がコイルのように伸びるためと推定される。
【0042】
実施例1及び2で得られた織物をスーツに仕立てた。両スーツとも暖かみがあり柔らかい風合いで秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で伸びもあり活動しやすく、丈夫で長持ちし、しわが入りにくく、ウォシャブル性があり家庭洗濯が可能でイージーケアができ、着心地もよかった。
【0043】
(実施例3)
マルチフィラメント繊維としてシルク生糸繊維(トータル繊度:16deci tex,フィラメント数:7本)を使用し、短繊維としてウールを使用して実施例1と同様にして100メートル番手単糸(1/100と表示、100deci tex)の長短複合紡績糸を作成した。得られた糸は撚り数1000回/m(Z撚りマルチフィラメントの巻き付けピッチ:1.00mm)、撚り係数Kは100であり、ウール82重量%、シルク生糸繊維18重量%であった。この長短複合紡績糸を使用してニット編み物を作成した。30インチ−32ゲージ編機を用いてスムース組織に編成した。編地のウェール数28個/インチ、コース数24個/インチ、目付は176g/m
2であった。
【0044】
得られた編地をニットシャツに仕立てた。このニットシャツは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯もできてイージーケアができ、着心地もよかった。
【0045】
(実施例4)
マルチフィラメント繊維としてシルク生糸繊維(トータル繊度:16deci tex,フィラメント数:7本)を使用し、短繊維としてウールを使用して実施例1と同様にして60メートル番手単糸(1/60と表示、167deci tex)の長短複合紡績糸を作成した。得られた糸は撚り数1300回/m(Z撚りマルチフィラメントの巻き付けピッチ:0.77mm)、撚り係数Kは168であり、ウール90重量%、シルク生糸繊維10重量%であった。この長短複合紡績糸を使用して1/1平組織で織物を作成した。打ち込み密度は経348本/10cm、緯282本/10cm、目付は120g/m
2であった。
【0046】
得られた織物を薄物ジャケットに仕立てた。このジャケットは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯もできてイージーケアができ、着心地もよかった。
【0047】
(実施例5)
マルチフィラメント繊維としてポリエチレンテレフタレート(PET)マルチフィラメント繊維(トータル繊度:84deci tex,フィラメント数:24本)を使用し、短繊維としてウールを使用して実施例1と同様にして36メートル番手単糸(1/36と表示、278deci tex)の長短複合紡績糸を作成した。得られた糸は撚り数1140回/m(Z撚りマルチフィラメントの巻き付けピッチ:0.88mm)、撚り係数Kは190であり、ウール67重量%、PETマルチフィラメント繊維33重量%であった。この長短複合紡績糸を使用して2/2綾組織で織物を作成した。打ち込み密度は経366本/10cm、緯310本/10cm、目付は216g/m
2であった。
【0048】
得られた織物を薄物ジャケットに仕立てた。このジャケットは暖かみがあり柔らかい風合いで、秋〜春にかけてのスリーシーズン着用ができ、軽量で活動しやすく、丈夫で長持ちし、家庭洗濯もできてイージーケアができ、着心地もよかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の長短複合紡績糸は、着心地の良さなど短繊維の特徴を保ったままプリーツ加工ができ、家庭洗濯を含めたウォッシャブル性、強度、耐久性、寸法安定性などに優れ、学生服、ユニホーム、スーツ、作業着、スポーツ用衣類、シャツ、肌着などに好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 粗糸ボビン
2 パーン
3 フロントボトムメインシャフト
4 フロントボトムローラ
5 フロントトップローラ
6 アーバー
7 トランペットフィーダー
8 バックローラ
9 ドラフトエプロン
10 スネルワイヤ
11 アンチノードリング
12 トラベラ
13 糸管
14 ヤーンガイド
15 短繊維束
16,22 マルチフィラメント繊維
17 ニップ線
20 長短複合紡績糸
21 短繊維