【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例の幾つかを示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0034】
また、以下の実施例において、基材の一つとして用いられるFe
3O
4粒子には、市販のSphereOx#200(米国:Chesapeake Specialty Products,INC.製、球状Fe
3O
4粒子、平均粒子径:85μm)がそのまま用いられたり、或いはそれを微粉砕して、平均粒子径が5μm、10μm又は30μmの微粒子として、用いられた。
【0035】
さらに、実施例において採用される下塗り塗型剤及び上塗り塗型剤の基本配合は、以下の表1に示される通りとした。なお、それぞれの塗型剤における基材の種類は、以下の実施例に示される通りであり、また、有機粘結剤としてフェノール樹脂、安定剤としては含水珪酸マグネシウムをそれぞれ用い、浸透助剤としては界面活性剤を用いると共に、分散媒としては、下塗り塗型剤ではエタノール、上塗り塗型剤では水を、それぞれ、下表に示される割合において用いた。
【0036】
【表1】
【0037】
−実施例1−
上記表1に示される下塗り塗型剤の基本配合において、基材として、下記表2に示される如く、ジルコン粉末、球状Fe
3O
4粒子及びFe
3O
4微粒子をそれぞれ組み合わせて、全基材量が100重量部となるように配合せしめることによって、A1−1〜A1−4及びB1−1〜B1−4の各種の下塗り塗型剤を準備すると共に、上塗り塗型剤として、上記表1に示される基本配合において、基材として、平均粒子径が16μmであるジルコン粉末のみを用いてなる、Fe
3O
4の如き酸化鉄を含有しない塗型剤を準備した。
【0038】
次いで、それら下塗り塗型剤と上塗り塗型剤を用いて、公知の焼結系人工砂(伊藤忠セラテック株式会社製、セラビーズ)を使用して造型されてなるフラン鋳型に対する塗型を行った。即ち、かかるフラン鋳型の金属溶湯に接する鋳型面に対して、先ず、下記表2に示される各種の下塗り塗型剤を塗布して、約200μmの厚さの下塗り塗型層を形成した後、それぞれの下塗り塗型層の上に、下記表2に示される上塗り塗型剤をそれぞれ塗布することにより、塗膜厚さが約0.6mmの上塗り塗型層を形成することにより、下塗り塗型層の構成が異なる二層構造の塗型層を有する各種の鋳型を得た。
【0039】
そして、この得られた各種の塗型構造の鋳型を、鋳込み重量:10トンの鋳鋼品の中子として用い、材質:SC410溶湯を、鋳込み温度:1570℃の条件下にて、鋳造を行った。更に、そのような鋳造の後、型ばらしを実施して、鋳造品を取り出す際に、当該鋳造品における焼着欠陥の程度や鋳肌の状態を目視観察して、焼着欠陥の激しいものや凹凸の激しい鋳肌面であるものは「×」、それが軽微なものは「△」、更にそれが存在しないものや平滑な鋳肌面を呈するものは「○」として、それぞれ評価し、その結果を、下記表2に併せ示した。
【0040】
【表2】
【0041】
かかる表2の結果から明らかなように、本発明に従ってFe
3O
4微粒子の所定量がジルコン粉末に配合されてなる基材や、そのようなFe
3O
4微粒子からなる基材を用いたA1−1〜A1−4においては、何れも、焼着欠陥が認められず、また鋳肌も改善されて、特にA1−3やA1−4においては、凹凸もなく、美麗な鋳肌面に仕上がっていることを認めた。
【0042】
これに対して、下塗り塗型剤の基材がジルコン粉末のみからなる場合や、Fe
3O
4材質であっても、平均粒子径の大きな球状Fe
3O
4粒子を用いたものであるB1−1〜B1−4においては、得られた鋳造品に、激しい焼着欠陥が認められ、また鋳肌の状態も荒れたものとなっていることを確認した。
【0043】
−実施例2−
下塗り塗型剤における基材の一部として、平均粒子径が5μm又は10μmのFe
3O
4微粒子を用いたことや、酸化鉄であっても、Fe
3O
4とは異なる材質であるFe
2O
3の粉末として、顔料用として広く用いられているベンガラ(平均粒子径:2μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、下記表3及び表4に示される如き骨材組成の異なる各種の下塗り塗型剤や上塗り塗型剤をそれぞれ準備した。
【0044】
そして、それら準備された下塗り塗型剤と上塗り塗型剤を用いて、実施例1と同様にして、焼結系人工砂を用いたフラン鋳型の鋳型面に塗布して、それぞれ、各種の塗型構造を有する鋳型とした後、それを鋳込み重量:30トンの大物鋳鋼品の中子として用い、鋳込み温度:1570℃、溶湯材質:SC410の下で、鋳鋼製品の鋳造を行い、更にその鋳造の後に型ばらしを行って、実施例1と同様に、焼着欠陥の程度及び鋳肌の状態を目視観察して、その結果を、下記表3及び表4に併せ示した。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
かかる表3の結果から明らかなように、平均粒子径が10μmのFe
3O
4微粒子を全基材中に10%、30%の割合で配合してなるA2−1、A2−2及び平均粒子径が5μmのFe
3O
4微粒子を全基材中に10%の割合で配合したA2−4においては、僅かに焼着が認められたものの、ハンマー等で軽く叩くことにより、容易に除去することが出来るレベルであり、また鋳肌についても、僅かに荒れが認められたが、軽い表面処理で平坦な鋳物表面を得ることが出来るものであった。また、平均粒子径が10μmのFe
3O
4微粒子を全基材中50%の割合で配合してなるA2−3や、平均粒子径が5μmであるFe
3O
4微粒子を全基材中30%、50%の割合で配合してなるA2−5、A2−6においては、焼着欠陥は何等認められず、鋳肌の状態も凹凸無く、美しい仕上がりとなった。
【0048】
一方、表4から明らかな如く、基材としてジルコン粉末のみを用いて準備された下塗り塗型剤及び上塗り塗型剤にて、上下2層の塗型層が形成されてなるB2−1においては、激しい焼着欠陥が認められ、鋳肌の状態も荒れたものとなっており、また酸化鉄としてFe
2O
3(ベンガラ)を用いたB2−2〜B2−4にあっては、Fe
2O
3配合量の比較的少ないB2−2においては、焼着欠陥の発生は僅かではあるが、鋳肌が著しく荒れたものとなっており、更にB2−3やB2−4にあっては、何れも、激しい焼着欠陥が認められ、鋳肌の状態も荒れたものとなっていることを認めた。そして、基材として用いられるFe
3O
4微粒子にあっても、その平均粒子径が30μmとなるB2−5〜B2−7においては、その配合量が多くなるに従って、焼着欠陥が低減される傾向はあるものの、焼着欠陥がなくなることはなく、更に鋳肌の状態は、何れの場合においても、著しく荒れたものとなっているのである。
【0049】
−実施例3−
下記表5に示される各種の下塗り塗型剤と上塗り塗型剤を、実施例1と同様にして準備した後、それら塗型剤にて形成される塗型構造による割れ欠陥の抑制効果を明確にするために、割れ欠陥が生じ易い格子状形状の試験鋳型を、焼結系人工砂を使用したフラン鋳型によって作製し、鋳造試験を実施した。なお、作製された鋳型は、鋳込み重量:500kg、鋳込み温度:1570℃、溶湯材質:SC410において鋳造試験を行い、そしてその鋳造後に型ばらしを実施して、カラーチェックにより、割れ欠陥の度合いを目視観察した。その結果、割れ欠陥の激しいものは「×」、軽微なものは「△」、なしのものは「○」として評価し、下記表5に、その結果を併せ示した。
【0050】
【表5】
【0051】
かかる表5の結果から明らかなように、骨材としてジルコンのみを含む塗型剤を用いて得られた鋳型を使用したB3−1においては、激しい割れ欠陥が発生することを認めた。一方、平均粒子径が10μmであるFe
3O
4微粒子を全基材中10%、30%の割合で配合したA3−1、A3−2及び平均粒子径が5μmのFe
3O
4微粒子を全基材中10%の割合で配合したA3−4にあっては、僅かに割れ欠陥が認められるに過ぎないものであった。更に、平均粒子径が10μmであるFe
3O
4微粒子を全基材中50%の割合で配合してなるA3−3や、平均粒子径が5μmであるFe
3O
4微粒子を全基材中30%、50%の割合で配合してなるA3−5、A3−6においては、何れも、割れ欠陥が全く認められないものであった。
【0052】
−実施例4−
下塗り塗型剤中の基材を、ジルコン粉末から他の材質、即ちアルミナ粉末、ムライト粉末、マグネシア粉末又はジルコニア粉末へ変更した場合の影響を調べた。なお、Fe
3O
4微粒子の平均粒子径は10μmとして、その配合量は、全基材中30%の一定とし、そのようなFe
3O
4微粒子の配合の有無において、比較した。
【0053】
下記表6に示されるそれぞれの下塗り塗型剤を、焼結系人工砂を使用したフラン鋳型に対して塗布し、更にその上に、下記表6に示される上塗り塗型剤を塗布することにより、2層構造の塗型層を鋳型面に形成した。なお、比較のために、酸化鉄成分を基材として含まない下塗り塗型剤及び上塗り塗型剤をそれぞれ用いて、塗型層を形成してなる従来のジルコン系塗型の鋳型も準備した。そして、その作製された各種の鋳型を、鋳込み重量:30トンの大物鋳鋼品の中子として用い、鋳込み温度:1570℃、溶湯材質:SC410の下において、目的とする鋳物製品を鋳造した。そして、その鋳造後に型ばらしを行い、その際に、焼着欠陥の程度及び鋳肌の状態をそれぞれ目視観察して、実施例1と同様にして評価し、その結果を、下記表6に併せ示した。
【0054】
【表6】
【0055】
かかる表6の結果から明らかな如く、Fe
3O
4微粒子を基材の一つとして用いていない下塗り塗型剤を用いたB4−1〜B4−5においては、何れも、激しい焼着欠陥が認められ、鋳肌の状態も荒れたものとなっていることを認めた。これに対して、平均粒子径が10μmのFe
3O
4微粒子を基材中30%の割合で配合し、更に基材にムライト粉末を用いてなるA4−2においては、僅かに焼着欠陥が認められたものの、鋳肌の状態は美しく仕上がったものとなり、同様に、基材にマグネシア粉末を用いたA4−3においては、僅かに焼着欠陥が認められ、また鋳肌の状態にも、僅かに凹凸が認められたが、実用上問題ない程度であるものと判断された。更に、同様に、基材にアルミナ粉末やジルコニア粉末を用いてなるA4−1やA4−4においては、焼着欠陥が何等認められず、鋳肌の状態も、凹凸が無く、美しく仕上がっていることを認めた。
【0056】
−実施例5−
鋳型を作製する際に用いられる鋳物砂を、焼結系人工砂から再生クロマイト砂に変更した場合の影響を調べた。また、塗型剤の適用部位を、押し湯周囲としたこと以外は、実施例2の適用方法に準じて、下塗り塗型剤と上塗り塗型剤の塗布を行った。なお、Fe
3O
4微粒子としては、平均粒子径が10μmのものを用い、その配合量は、基材中10%又は20%の割合とした。更に、そのようなFe
3O
4微粒子に対して、平均粒子径の大きな球状Fe
3O
4粒子を組み合わせて用いた場合も、実施した(A5−3)。その結果を、下記表7に示す。
【0057】
【表7】
【0058】
かかる表7の結果から明らかな如く、本発明に従ってジルコン粉末に微細なFe
3O
4微粒子の所定量を配合してなる下塗り塗型剤を用いた場合にあっては、焼着欠陥は何等認められず、また鋳肌の状態においても、良好な結果が得られた。更に、微細なFe
3O
4微粒子と共に、粒径の大きなFe
3O
4粒子を組み合わせて用いた場合(A5−3)にあっては、焼着欠陥は何等認められず、また鋳肌の状態も凹凸無く、美しく仕上がっていることを認めた。
【0059】
−実施例6−
下塗り塗型剤や上塗り塗型剤の塗布回数を、それぞれ、下記表8に示される回数としたこと以外は、実施例2と同様にして、フラン鋳型の鋳型面に、それぞれの塗型剤の塗布を行った。なお、下塗り塗型剤は、分散媒としてアルコールを用いることにより、アルコール性とする一方、上塗り塗型剤は、分散媒として水を用いることにより、水性とした。また、A6−1〜A6−3における各下塗り塗型剤は、基材として、ジルコン粉末の70%と、平均粒子径が10μmのFe
3O
4微粒子の30%とを用いて得られたものにて、構成した。更に、B6−1における下塗り塗型剤は、表4のB2−1と同様の構成とした。加えて、各上塗り塗型剤には、先の実施例と同様なジルコン粉末のみが、基材とされた。なお、下塗り回数や上塗り回数が2回となることにより、それぞれの塗膜厚みは、1回の場合の約2倍の厚みとなっている。
【0060】
【表8】
【0061】
かかる表8の結果から明らかな如く、基材としてジルコン粉末のみを用いて準備された下塗り塗型剤及び上塗り塗型剤を用いたB6−1の場合にあっては、激しい焼着欠陥が認められ、また鋳肌の状態も荒れたものとなっていることが認められる。これに対して、平均粒子径が10μmのFe
3O
4微粒子を基材中30%の割合で配合してなる下塗り用塗型剤を用い、下塗り1回、そしてジルコン粉末のみを基材とした上塗り塗型剤を用いた上塗り1回において、塗型構造を形成した場合(A6−1)にあっては、僅かに焼着欠陥が認められ、また鋳肌の状態も僅かに荒れが観察された。また、そのような下塗り塗型剤を下塗り2回、上塗り塗型剤を上塗り1回において塗布してなるA6−2の場合にあっては、焼着欠陥が何等認めらなかったものの、僅かに鋳肌表面に荒れが認められるものとなった。更に、そのような下塗り塗型剤を下塗り2回、上塗り塗型剤を上塗り2回において塗布して、鋳型構造を形成せしめてなるA6−3の場合にあっては、焼着欠陥は何等認められず、また鋳肌表面も凹凸無く、美しい仕上がりとなっていることを確認した。
【0062】
−実施例7−
下塗り塗型剤において用いられる粘結剤、浸透助剤及び分散媒の割合を変化させること以外は、実施例1におけるA1−2の場合と同様にして、塗型構造を形成し、その下塗り塗型層の浸透厚み(深さ)を評価する一方、基材としてジルコン粉末のみを用いたB1−1の場合における浸透厚みを評価して、その結果を、下記表9に示した。また、それら各種の浸透厚みを有する鋳型を用いて、実施例1と同様な鋳造実験を行い、得られた鋳造品における焼着欠陥や鋳肌の状態を評価し、その結果を、下記表9に併せ示した。
【0063】
【表9】
【0064】
かかる表9の結果から明らかな如く、微細なFe
3O
4微粒子を骨材の一部として含有する下塗り塗型剤を用いて、下塗り塗型層を形成せしめた場合にあっては、その下塗り塗型層の鋳型内部への浸透厚み(深さ)が大きくなるに従って、焼着欠陥や鋳肌表面の状態も改善されていることを認めることが出来る。