(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に係る燃料電池用電極触媒の製造方法は、
白金合金を含む燃料電池用電極触媒前駆体を電解質溶液に分散させてなる分散液を準備する工程(以下「分散液準備工程」ともいう。)、および
該分散液に対して、酸化性ガスのバブリングと、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングとを交互に実施する工程(以下「バブリング工程」ともいう。)を含んでいる。
【0017】
(分散液準備工程)
分散液準備工程では、電極触媒前駆体を電解質溶液に分散させてなる分散液を準備する。
【0018】
前記電極触媒前駆体としては、従来の、白金合金を含む燃料電池用電極触媒を用いることができ、これらは白金合金からなる燃料電池用電極触媒であってもよく、白金合金からなる触媒が担体に担持された担持型の燃料電池用電極触媒であってもよい。
【0019】
担持型の燃料電池用電極触媒の場合、高活性の触媒が得られるという観点から、担持された白金合金粒子の平均粒子径は好ましくは2nm〜10nmであり、担持型の燃料電池用電極触媒に占める白金合金の割合は、好ましくは20〜80質量%である。
【0020】
なお、平均粒子径は、例えばTEM画像の解析等により測定された値を示す。
白金合金は、白金元素と他の金属元素を含む。他の金属元素は貴金属元素であってもよく、非貴金属元素であってもよい。貴金属としては金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウムおよびイリジウムが挙げられ、高活性の触媒が得られることから、ルテニウムおよびパラジウムが好ましい。
【0021】
非貴金属としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などが挙げられ、高活性の触媒が得られることから、鉄、コバルトおよびニッケル、すなわち鉄族元素が好ましい。白金合金は白金元素を含めて3種以上の金属元素を含んでいてもよい。
【0022】
白金合金は、白金と他の金属元素とを、たとえば白金:他の金属元素=1:0.1〜10のモル比で含んでいる。成分比率(モル比)は、好ましくは活性の高い触媒が得られるように調整され、たとえば白金・パラジウム合金の場合は、好ましくはPt:Pd=1:0.5〜0.8であり、白金・コバルト合金の場合は、好ましくはPt:Co=1:0.2〜0.4である。
【0023】
前記担体としては、カーボン粒子、特開2013−116458号公報に記載された、4族または5族遷移金属元素、炭素、窒素および酸素を構成元素として含む熱処理物(構成元素のモル比を遷移金属元素:炭素:窒素:酸素=1:x:y:zと表すと、好ましくは0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。熱処理物は、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。この熱処理物は、たとえば、遷移金属化合物(1)(その一部または全部は、周期表第4族または第5族の遷移金属元素の化合物である。)と、窒素含有有機化合物(2)(化合物(1)、化合物(2)の少なくとも一方は酸素原子を有する。)と溶媒とを混合し、次いで溶媒を除去し、得られた固形分残渣を500〜1100℃で熱処理することを含む方法により製造することができる。)からなる粒子などが挙げられる。
【0024】
前記電解質溶液としては、電解質が溶解している溶液であれば限定されない。また、液性は酸性であっても、中性であっても、アルカリ性であっても構わないが、好ましくは酸性溶液であり、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸、過塩素酸水溶液などが挙げられ、電解質のイオンが触媒粒子表面に吸着しにくいという観点から、硫酸水溶液、硝酸水溶液、過塩素酸水溶液が好ましく、硫酸水溶液、過塩素酸水溶液がさらに好ましい。
【0025】
電解質溶液は、電解質が溶解しており、かつ燃料電池用電極触媒前駆体を分散可能であれば、水溶液であっても非水溶液でもよい。取り扱いの容易さや燃料電池用電極触媒前駆体による溶媒に対する副反応が少ないことから、水溶液であることが好ましい。
【0026】
前記分散液中の前記電極触媒前駆体の濃度は、たとえば1〜80質量%である。
前記電極触媒前駆体を前記電解質溶液に分散させる方法としては、バブリング工程において燃料電池用電極触媒前駆体が沈降したり、大きな凝集粒を形成したりすることのないように、燃料電池用電極触媒前駆体を十分に分散させることのできる方法であれば特に制限はなく、たとえば、スターラーを用いた攪拌や、ボールミルやホモジナイザーを用いた分散方法が挙げられる。
【0027】
(バブリング工程)
バブリング工程では、前記分散液に対して、酸化性ガスのバブリングと、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングとを交互に実施する。なお、酸化性ガスのバブリングと、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングとはどちらを先に行ってもよい。
【0028】
この工程は、白金合金の表面を酸化状態もしくは還元状態(非酸化状態)になりうる雰囲気に交互に置くために実施する。この時、白金合金の表面すべてが酸化状態もしくは還元状態でなくてもかまわなく、白金合金表面の一部が酸化状態もしくは還元状態であっても良い。
【0029】
白金合金が酸化状態である前記燃料電池用電極触媒前駆体を用い、酸化性ガスのバブリングを先に行う場合は、引き続くそのあとのバブリングでは、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングと、酸化性ガスのバブリングとのサイクルを少なくとも1回行うことが好ましい。不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングを先に行う場合は、引き続くそのあとのバブリングでは、酸化性ガスのバブリングを少なくとも1回行う必要がある。
【0030】
また、白金合金が還元状態である前記燃料電池用電極触媒前駆体を用い、酸化性ガスのバブリングを先に行う場合は、引き続くそのあとのバブリングでは、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングを少なくとも1回行う必要がある。不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングを先に行う場合は、引き続くそのあとのバブリングでは、酸化性ガスのバブリングと、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングとのサイクルを少なくとも1回行うことが好ましい。
バブリングガスによる白金合金金属に対する作用を以下に示す。
【0031】
酸化性ガスを用いる場合は、白金合金の表面に酸化性ガスが吸着し、前記電極触媒前駆体に含まれる白金合金の表面電位が上がり、白金合金の表面は酸化される。このとき、白金合金が酸化状態であればより酸化が進む。
【0032】
一方、不活性ガスまたは還元性ガスを用いる場合は、白金合金の表面電位が下がり、酸化された白金合金の表面は還元される。このとき、白金合金が還元状態であれば、白金合金表面の還元状態には影響を与えないが、わずかに残る酸化物の除去など、表面を整える効果もあるので、実施してもかまわない。
【0033】
これらのバブリングを行うことによって、理由は定かではないが、前記電極触媒前駆体の触媒活性が高められる。
酸活性ガスでのバブリングは、以下の方法で測定される前記電極触媒前駆体の電位差(バブリング後の電極触媒前駆体の電位−バブリングを開始する前の電極触媒前駆体の電位)が好ましくは0.03V以上となるまで行われる。
【0034】
また、不活性ガスまたは還元性ガスでのバブリングは、以下の方法で測定される前記電極触媒前駆体の電位差(バブリング後の電極触媒前駆体の電位−バブリングを開始する前の電極触媒前駆体の電位)が好ましくは−0.03V以下となるまで行われる。
【0035】
(電極触媒前駆体の電位の測定方法)
前記触媒前駆体粒子、5質量%の濃度のナフィオン(NAFION(登録商標))溶液(DE521、デュポン社)および水を混合し、これらに超音波を照射して、触媒前駆体インクを調製する。20μlの触媒前駆体インクを円盤型グラッシーカーボン電極(面積:0.196cm
2)上に滴下し、自然乾燥させて電極を得る。
【0036】
前記電極、および参照電極としての標準水素電極を前記分散液に入れて、前記電極の電位を測定する。
前記酸化性ガスとしては、たとえば酸素ガス、オゾンガスが挙げられ、工業的に容易に製造でき、大量に使用しても環境への負荷が小さいことから酸素ガスが好ましい。酸化性ガスは不活性ガスで希釈された混合ガス(例えば空気)として供給してもよい。
【0037】
前記不活性ガスとしては、たとえば窒素ガス、希ガス(アルゴンガス等)が挙げられ、入手容易性等の観点から窒素ガスが好ましい。
前記還元性ガスとしては、水素ガス、一酸化炭素ガスが挙げられる。還元性ガスは不活性ガスとの混合ガスとして供給してもよい。
【0038】
バブリングのために供給されるガス(以下「バブリングガス」ともいう。)の供給量は前述した電位差が得られる条件であれば良い、たとえば前記分散液100mL当たり20〜200mL/分であってもよい。
【0039】
バブリング工程を実施する際の前記分散液の温度は、たとえば20〜90℃であり、ガス拡散が速くなり、触媒前駆体粒子の電位の変化が速くなり、より短い時間で高活性の触媒を製造できる点では、好ましくは40〜80℃である。
【0040】
各ガスのバブリングを実施する時間(すなわち、酸化性ガスのバブリングの開始から不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングの開始までの時間、または不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングの開始から酸化性ガスのバブリングの開始までの時間)は、たとえば5〜30分である。バブリングを実施する時間が比較的短い場合には、該時間を長くするほど得られる触媒の活性が高くなる。
【0041】
前記バブリング工程では、酸化性ガスのバブリング1回、不活性または還元性のガスバブリング1回からなるサイクルを1回行えば効果が得られるが、このサイクルは複数回行ってもよい。
【0042】
サイクルの回数は、たとえば1〜50回、好ましくは3〜30回である。サイクルの回数が比較的少ない場合には、回数を増やすほど得られる触媒の活性が高くなる。
上記バブリングを行い、濾過、乾燥後に、熱処理を行ってもよい。熱処理の際の雰囲気としては不活性ガスまたは4%水素と不活性ガスの混合ガスなどが挙げられる。熱処理の温度、時間は特に限定しないが、触媒粒子の凝集体を抑制の観点から、処理温度150℃〜800℃、処理時間20分〜5時間の範囲であることが好ましい。
【0043】
本発明に係る製造方法によって製造された燃料電池用電極触媒は、アノード触媒層、カソード触媒層のいずれの燃料電池用触媒層にも用いることができる。
前記燃料電池用触媒層は、好ましくは、電子伝導性粉末および高分子電解質をさらに含む。これらは、燃料電池用触媒層において従来使用されているものを特に制限なく使用できる。
【0044】
さらに、前記燃料電池用触媒層は、固体高分子型燃料電池が備える膜電極接合体の電極に設けられるカソードおよび/またはアノードの触媒層として用いることができる。
前記膜電極接合体において、電極は前記燃料電池用触媒層と多孔質支持層(ガス拡散層)とを有する。多孔質支持層(ガス拡散層)としては、燃料電池用触媒層において従来使用されているものを特に制限なく使用できる。
【0045】
また、前記膜電極接合体が備える電解質膜としては、燃料電池用触媒層において従来使用されているものを特に制限なく使用できる。
前記膜電極接合体は、燃料電池、好ましくは固体高分子型燃料電池に使用される。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[評価方法]
触媒前駆体の電位評価:
製造例で作製した触媒前駆体粒子、5質量%の濃度のナフィオン溶液(DE521、デュポン社)および水を混合し、これらに超音波を照射して、触媒前駆体インクを調製した20μlの触媒前駆体インクを円盤型グラッシーカーボン電極(面積:0.196cm
2)上に滴下し、自然乾燥させて電極を得た。なお、触媒前駆体粒子の量は、電極上のPdおよびPtの合計量が33μg/cm
2となるように調整した。
各実施例または比較例において、上記の電極、および参照電極としての標準水素電極を分散液に入れて、各種ガスのバブリングに伴う上記電極の電位の変化を測定した。
【0047】
触媒活性評価:
実施例または比較例で作製した触媒粒子、5質量%の濃度のナフィオン溶液(DE521、デュポン社)および水を混合し、これらに超音波を照射して、触媒インクを調製した。20μlの触媒インクを円盤型グラッシーカーボン電極(面積:0.196cm
2)上に滴下し、自然乾燥させて電極を得た。なお、触媒粒子の量は、電極上のPdおよびPtの合計量が33μg/cm
2となるように調整した。
参照電極:可逆水素電極 (RHE)
対電極:Ptワイヤー
電解液:0.5M H
2SO
4水溶液(測定開始前に、電解液を1時間かけて酸素で飽和させた。)
回転速度:600rpm
測定電圧範囲:1.1V〜0.3V
走査速度:5mV/s
得られたデータは、下式により標準化した。
i
k=(i
d−i)/(i・i
d)
(式中、i
kは標準化された電流密度(μA/cm
2)、iは0.9Vにおける電流密度(μA/cm
2)、i
dは拡散電流密度(μA/cm
2)である。)
i
kの値が大きいほど、酸素還元活性が高い。
【0048】
[製造例1]
燃料電池用触媒前駆体の製造:
500mLの水に担体粉末として0.4gのカーボンブラック担体(ケッチェンブラック EC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル(株)製)を加え、40℃のウォーターバスで30分間撹拌した。得られた分散液に、56.6mlの(NH
4)
2PdCl
4の水溶液(Pd濃度:0.19質量%)と103.1mlのH
2PtCl
6の水溶液(Pt濃度:0.19質量%)を添加し、40℃のウォーターバスで6時間撹拌した。なお、これらの添加操作および撹拌操作の間、Na
2CO
3の水溶液(濃度:4.2質量%)を加えることにより分散液のpHを9に維持した。
【0049】
得られた分散液を、室温(25℃)まで放冷した後に濾過し、次いで、得られた固形物を80℃のオーブンで12時間かけて乾燥させた。得られた乾燥物を乳鉢で粉砕し、石英炉で窒素ガスと水素ガスとの混合ガス(水素ガス濃度:4体積%)の雰囲気で300℃で2時間かけて焼成して、PdおよびPtを含む粒子を担持してなる担持型粒子(以下「触媒前駆体粒子」ともいう。)を得た。
【0050】
[実施例1−1]
100mLの0.5M硫酸水溶液に、0.5gの前記触媒前駆体粒子を分散させて分散液を調製し、この分散液に対して10分間の窒素ガスのバブリングを行い、次いで10分間の酸素ガスのバブリングを行い、再び10分間の窒素ガスのバブリングを行う、というように10分間の窒素ガスのバブリングおよび10分間の酸素ガスのバブリングを、合計1時間、以下の条件下で交互に繰り返し行った。なお、バブリングの際は内径約1mmの直管を用いてガスを噴出させた。
【0051】
バブリング後、孔径1μmのフィルターを用いて分散液を吸引濾過、純水で十分に洗浄した後に、80℃のオーブンで、10時間で乾燥して粉体の燃料電池用電極触媒を製造した。
窒素ガス供給量:50mL/分
酸素ガス供給量:50mL/分
分散液の温度:ウォーターバスを用いて60℃に維持した。
バブリング工程における触媒前駆体の電位の変化を表1に示す。また、各種条件および得られた触媒の評価結果を表2に示す。
【0052】
[実施例1−2]
酸素ガスのバブリングおよび窒素ガスのバブリングの合計の時間を1時間から2時間に変更したこと以外は実施例1−1と同様の操作を行い、燃料電池用触媒を製造した。
バブリング工程における触媒前駆体の電位の変化を表1に示す。また、各種条件および得られた触媒の評価結果を表2に示す。
【0053】
[実施例2−1、2−2]
触媒前駆体粒子として製造例1で得られた触媒前駆体粒子に替えて市販の白金・コバルト合金/カーボン担体触媒(TEC36EA52、田中貴金属社製)を用いたこと以外は実施例1−1、1−2と同様の操作を行い、燃料電池用触媒を製造した。
バブリング工程における触媒前駆体の電位の変化を表1に示す。また、各種条件および得られた触媒の評価結果を表2に示す。
【0054】
[比較例1−1〜1−3]
酸素ガスのバブリングおよび窒素ガスのバブリングを交互に行うことに替えて、酸素ガスのバブリングのみを1時間、2時間または5時間行ったこと以外は実施例1−1と同様の操作を行い、燃料電池用触媒を製造した。
バブリング工程における触媒前駆体の電位の変化を表1に示す。また、各種条件および得られた触媒の評価結果を表2に示す。
【0055】
[比較例2−1〜2−3]
酸素ガスのバブリングおよび窒素ガスのバブリングを交互に行うことに替えて、窒素ガスのバブリングのみを時間、2時間または5時間行ったこと以外は実施例1−1と同様の操作を行い、燃料電池用触媒を製造した。
バブリング工程における触媒前駆体の電位の変化を表1に示す。また、各種条件および得られた触媒の評価結果を表2に示す。
【0056】
[参考例1、2]
バブリング工程を行っていない製造例1の触媒前駆体粒子、白金・コバルト合金/カーボン担体触媒(TEC36EA52、田中貴金属社製)の触媒の評価結果を、それぞれ参考例1、参考例2として表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表2に示されるように、実施例では、バブリング工程を行ったことにより、活性の高い触媒を得ることができた。
一方、酸素ガスのみ、または窒素ガスのみのバブリングを行った比較例では、実施例と同程度の時間のバブリングを行っても、実施例ほど活性の高い触媒を得ることはできなかった。
[解決手段]白金合金を含む燃料電池用電極触媒前駆体の粒子を電解質溶液に分散させてなる分散液を準備する工程、および該分散液に対して酸化性ガスのバブリングと、不活性ガスまたは還元性ガスのバブリングとを交互に実施する工程を含む燃料電池用電極触媒の製造方法。