特許第5701524号(P5701524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許57015241−アルキルグリセロールエーテルの調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701524
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】1−アルキルグリセロールエーテルの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/26 20060101AFI20150326BHJP
   C07C 43/13 20060101ALI20150326BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150326BHJP
【FI】
   C07C41/26
   C07C43/13 D
   !C07B61/00 300
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-154442(P2010-154442)
(22)【出願日】2010年7月7日
(65)【公開番号】特開2011-51971(P2011-51971A)
(43)【公開日】2011年3月17日
【審査請求日】2013年5月1日
(31)【優先権主張番号】10 2009 032 235.3
(32)【優先日】2009年7月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード−ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100091351
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084618
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 貞男
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(72)【発明者】
【氏名】ボルフガング・バイルフス
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・グラートケ
(72)【発明者】
【氏名】クラオス・ベーバー
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・バルタザー
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ−ゲオルク・シュテッフェン
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−025052(JP,A)
【文献】 特公平01−055263(JP,B2)
【文献】 特開平04−074147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/26
C07C 43/13
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の1−アルキルグリセロールエーテル
【化1】
の調製方法であって、以下の工程:
(a)低水分の反応混合物を、40℃より高い温度で反応させて、アシル化アルキルグリセロールエーテルを得る工程であって、
前記反応混合物は、
(i)式(II)のアルキルグリシジルエーテル
【化2】
(ここでRは、非分枝または分枝のC1〜C24−アルキル基であり、ここでアルキル基は、一または複数の水酸基および/またはC1〜C4−アルコキシ基で置換されていてもよく、および/またはアルキル鎖は、4個までの酸素原子により割り込まれていてもよい
(ii)1〜10個の炭素原子を有するカルボン酸、および
(iii)触媒量の強酸を含む、
工程と、
b)前記工程(a)で得られるアシル化アルキルグリセロールエーテルを、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールを過剰なモル量で添加することによりエステル交換し、得られたカルボン酸と脂肪族アルコールのアルキルエステルおよび過剰な脂肪族アルコールを留去し、アルカリ化剤で中和し、分留して、式(I)のアルキルグリセロールエーテルを得る工程とを含む、
方法。
【請求項2】
Rが、C3〜C18−アルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボン酸が、1〜6個の炭素原子を有することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルボン酸が、モノカルボン酸、ジカルボン酸、またはヒドロキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
式(II)のアルキルグリシジルエーテルと、カルボン酸とのモル比が、1:0.5〜1:10の範囲であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記強酸が、無機酸、有機酸、または固体酸またはポリマー酸であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(a)における反応混合物が、使用される式(II)のアルキルグリシジルエーテル1モルあたり、多くても0.9モルの水を含むことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)において、カルボン酸が最初に導入され、強酸が添加され、混合物が50〜120℃に加熱され、その後、式(II)のアルキルグリシジルエーテルが、一部ずつ、必要に応じて攪拌して、添加され、ここで混合物の温度が、少なくとも45℃であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)が、水結合剤を添加して行われることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)におけるアルカリ化剤が、水酸化アルカリ金属、水酸化アルカリ土類金属よび/またはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩であることを特徴とする請求項の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)におけるエステル交換反応の前に、混合物が、脂肪族アルコールの沸点未満の温度に冷却されることを特徴とする請求項10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)における分留の後、式(I)の1−アルキルグリセロールエーテルに安定化剤が添加されることを特徴とする請求項11の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、化粧品、医薬品および家庭用品で使用するための高品質の1−アルキルグリセロールエーテルの調製方法に関する。とりわけ、本発明は、1−(2−エチルヘキシル)グリセロールエーテルの調製方法に関する。
【0002】
特定のアルキルグリセロールエーテル、1−(2−エチルヘキシル)グリセロールエーテル(エチルヘキシルグリセロール、旧称オクトキシグリセロール)は、化粧製品のための多機能添加剤であり、登録された商標名Sensiva(登録商標)SC 50 (Schulke & Mayr GmbH, Norderstedt, Federal Republic of Germany) で、デオドラント有効成分、スキンケア添加剤、および選択された殺菌剤の有効成分の効果増強剤として主に使用される。
【0003】
従来技術によれば、エチルヘキシルグリセロールは、2−エチルヘキシルグリシジルエーテルから、低級アルカノン(たとえばアセトン)とのルイス酸触媒反応により、2,2−ジアルキル−4−(2−エチルヘキシルオキシメチル)ジオキソランを得て、その後、(たとえば硫酸を用いた)酸加水分解および分留により得られる。この方法は、エチルヘキシルグリセロールの工業的合成の基礎を形成する。この方法は、必然的に2つ以上の工程で進行し、技術的に複雑であり、(たとえば、使用される出発材料の出発グレードが異なる場合)混乱を受けやすく、しばしば生成物の不快臭につながり、これは、その後精製されなければならず、手間がかかる。
【0004】
更に、アルキルグリセロールエーテルを調製するための従来公知の方法は、以下のとおりである:
1.グリセロールをハロゲン化アルキルと塩基の存在下で反応させる、
2.アルコールをグリセロールと酸触媒の存在下で反応させる、および
3.アルコールをグリシドールと酸または塩基触媒を用いて反応させる。
【0005】
これらの方法は、多数の欠点がある:
− 調製が、選択的なやり方で進行しない、
− 望ましくない副生成物が形成され、これが収率、色およびにおいに悪影響を及ぼし、容認できない毒性効果をもつ;これら副生成物は、蒸留により分離除去されなければならず、手間がかかる、
− 出発材料の取り扱いは危険を伴い、たとえばグリシドール(2,3−エポキシプロパノール−1)は、皮膚および気道に対して顕著な局所性刺激効果を有し、重篤な眼のダメージを引き起こし、頻繁に接触する場合、皮膚炎およびアレルギー症状が起こり得る、
− 高い塩含量が産生される、
− 多量の廃棄物が産生され、これは利用することができないため、処分されなければならず、費用がかかる、
− 最終生成物の品質が、化粧品または医薬品の適用に不十分である、および
− 時々、高価なプラントおよび高いメンテナンス費が必要である(たとえば加圧反応の場合)。
【0006】
JP 60 250 53によれば、アルキルグリセロールエーテルを調製するために、第一工程で、グリシジルエーテルおよび水に酢酸が添加される。得られた中間体は、その後、最終生成物を得るために、第二工程で完成させる(work-up)。ここで、第一工程では、グリシジルエーテルの定量的な量に基づいて、好ましくは5〜7モルの水が使用される。水の存在は、比較的長い反応時間および低い空間−時間(space-time)収率につながる。グリシジル化合物1モルあたり3モル未満の水の使用は、JP 60 250 53の開示によれば、高沸点の副生成物の生成および所望のアルキルグリセロールエーテルの低い収率につながる。
【0007】
JP 581 340 49によれば、第一工程で、グリシジルエーテルを、たとえばルイス酸などの酸の存在下で、好ましくは20〜40℃で、酸無水物と反応させる。ジアシル化グリセロールエーテルが形成される。これは、その後、加水分解される。この第一工程で、厳密な温度制御が必要である。更に、無水物が過剰に使用されなければならず、これは、経済的でない。
【0008】
JP 2002 114 727によれば、グリセロールエーテルを調製するために、カルボン酸、塩基および水の混合物を最初に導入し、グリシジルエーテルを添加し、エポキシド基を開裂する。この方法では、グリシジルエーテル1モルあたり、好ましくは10モルの水が使用され、このため、この方法も、低い反応率および低い空間−時間(space-time)収率を有する。
【0009】
したがって、エチルヘキシルグリセロールなどの1−アルキルグリセロールエーテルの改良された調製方法であって、従来技術の欠点がなく、より経済的で、とりわけ高品質の生成物を産生する方法に対する需要がある。
【0010】
驚くべきことに、1−アルキルグリセロールエーテルは、従来技術に対して顕著な利点を提供する方法により、工業規模で調製可能であることがここで見出された。
【0011】
本発明の方法の第一工程(a)で、アルキルグリシジルエーテルを、低級カルボン酸、そのエステルまたは無水物と、環を開裂して反応させて、アシルアルキルグリセロールエーテル誘導体を得る。
【0012】
第二工程(b)で、アシル基を切り離す。
【0013】
その結果、本発明は、式(I)の1−アルキルグリセロールエーテル
【化1】
【0014】
の調製方法に関し、
ここで、
(a)式(II)のアルキルグリシジルエーテル
【化2】
【0015】
(ここでRは、非分枝または分枝のC1〜C24−アルキル基であり、ここでアルキル基は、一または複数の水酸基および/またはC1〜C4−アルコキシ基で置換されていてもよく、および/またはアルキル鎖は、4個までの酸素原子により割り込まれていてもよい)を、
(x)1〜10個の炭素原子を有するカルボン酸、
(y)1〜10個の炭素原子を有するカルボン酸エステルおよび/または
(z)1〜10個の炭素原子を有するカルボン酸無水物
に添加し、
触媒量の強酸を含有する低水分の反応混合物を、40℃より高い温度で反応させて、アシル化アルキルグリセロールエーテルを得て、
(b)アシル化アルキルグリセロールエーテルを、式(I)のアルキルグリセロールエーテルを得るために反応させる。
【0016】
好ましくは、本発明の方法は、不活性ガスの下、たとえば窒素雰囲気で行われる。
【0017】
本発明の一つの可能な態様において、たとえば従来の生産に由来する最適に純粋でない1−アルキルグリセロールエーテルを、工程(a)および/または工程(b)に添加し、仕上げ(work-up)まで進行させることができる。
【0018】
好ましくは、工程(a)および(b)(および特に1−(2−エチルヘキシル)グリセロールエーテルの調製の間)において、追加の溶媒は使用されない。たとえば固体のグリセロールエーテルの調製の間、または固体もしくは粘性のグリシジルエーテルを使用する場合、不活性溶媒を添加することができる。
【0019】
工程(a)
工程(a)において、式のグリシジルエーテル
【化3】
【0020】
をアシル化する。Rは、好ましくはC3〜C18−アルキル基、より好ましくはC6〜C12−アルキル基、最も好ましくはC8−アルキル基、とりわけ2−エチルヘキシル基である。Rの更に代わりの例は、たとえば、プロピル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、メンチル、オクタデシル、ヘキサデシルおよび9−オクタデセニルである。本発明に従って、特定のグリシジルエーテルの混合物を使用することもできる。
【0021】
一つの好ましい態様において、アシル化のために使用されるカルボン酸(x)は、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜3個の炭素原子、最も好ましくは1〜2個の炭素原子を有する。カルボン酸は、モノカルボン酸、とりわけギ酸または酢酸であってもよいし、ジカルボン酸、とりわけコハク酸またはグルタル酸であってもよいし、ヒドロキシカルボン酸、とりわけグリコール酸または乳酸であってもよい。カルボン酸エステル(y)は、ギ酸エステルまたは酢酸エステル(たとえば工程(b)で留去されるエステル)であり得る。カルボン酸無水物(z)は、酢酸無水物またはコハク酸無水物であり得る。混合された無水物、すなわち二つの異なるカルボン酸の無水物を使用することもできる。ギ酸無水物は知られていないが、ギ酸と酢酸の混合された無水物が存在することは当業者に知られている。加えて、(x)カルボン酸、(y)エステルおよび/または(z)無水物の混合物を使用することができる。
【0022】
式(II)のアルキルグリシジルエーテルと(x)カルボン酸、(y)エステルおよび/または(z)無水物とのモル比は、1:0.5〜1:10の範囲、好ましくは1:1〜1:3であることが好ましい。このモル比は、約1:2であることが特に好ましい。
【0023】
無水物を使用した場合、主にジアシル化グリセロールエーテルが得られ、カルボン酸またはエステルを使用した場合、主にモノアシル化グリセロールエーテルが形成されることは当業者に明らかである。
【0024】
工程(a)で使用される強酸は、<4のpKa値、好ましくは<3のpKa値を有する。本発明の説明のため、pKa値<4のカルボン酸(たとえばギ酸、pKa値=3.75)は、カルボン酸(x)であると考えられ、強酸ではない。これは、本発明に従って、カルボン酸ではない強酸の存在が規定されることを意味する。
【0025】
工程(a)で使用される強酸は、非常に強力な無機酸、とりわけ硫酸または塩酸、有機酸、とりわけアルキルスルホン酸またはアリールスルホン酸、または固体酸またはポリマー酸、とりわけ酸性陽イオン交換体とすることができる。低水分の強酸、たとえば96%強度の硫酸を使用することが好ましい。強酸の混合物を使用することもできる。好ましくは、工程(a)は、ハロゲン化酸の存在下では、望ましくない(追加の)有機ハロゲン化合物の形成を阻止することができないため、塩酸などのハロゲン化酸の非存在下で行われる。
【0026】
アルキルグリシジルエーテル:カルボン酸のモル比は、好ましくは1:0.5〜1:10の範囲、好ましくは1:1〜1:3、特に好ましくは約1:2、あるいは特に好ましくは約1:1である。
【0027】
本発明によれば、強酸およびカルボン酸を最初に導入し、その後、グリシジルエーテルを添加することが好ましい。この態様において、反応混合物中の強酸の割合は、カルボン酸成分および強酸の混合物に基づいて、0.01〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、特に好ましくは1〜3重量%とすることができる。
【0028】
あるいは、この手順は、強酸とグリシジルエーテルを混合し、これをカルボン酸に添加することを含んでもよい。しかし、グリシジルエーテルと硫酸を最初に導入した実験は、ダイマーおよびポリマーの高い割合につながった。更に、収率がかなり低く(粗生成物で50%)、結局、グリシジルエーテルをたとえば濃硫酸と加熱することは好ましくない。
【0029】
本発明の方法は、工程(a)における水の欠如により特徴づけられる。好ましくは、工程(a)における反応混合物は、使用される式(II)のアルキルグリシジルエーテル1モルあたり1モル未満の水を含み、使用される式(II)のアルキルグリシジルエーテルの定量的な量に基づいて、たとえば多くても0.9モル、より好ましくは多くても0.7モル、最も好ましくは多くても0.5モルの水を含む。
【0030】
別の方法で表現すると、工程(a)における水分含量は、(式(II)のグリシジルエーテルおよび(x)、(y)および/または(z)および任意に水を含む)反応混合物に基づいて、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満、とりわけ5重量%未満、たとえば4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満、またはとりわけ1重量%未満である。
【0031】
2−エチルヘキシルグリシジルエーテルとギ酸とのモル比1:2での反応は、純粋なギ酸(純度>99重量%)を使用した場合、高い収率で高品質の生成物を産生した。ギ酸水溶液(85重量%)を使用した場合、最終生成物のにおいが多少悪かったが、たとえば産業上の適用においてそのまま利用可能であり、収率は、「純粋な」ギ酸の反応に匹敵していた。(25重量%の水分含量またはグリシジルエーテル1モルあたり5.1モルの水に相当する)50重量%の含量のギ酸を使用した場合、収率およびにおいは、許容できなかった。カルボン酸成分(x)としての>80重量%、好ましくは>85重量%、とりわけ>90重量%または>95重量%、たとえば>98重量%、または>99重量%の含量のギ酸を用いた反応は、希釈ギ酸を用いるよりも良いにおいの最終生成物を産生し、結果として好ましい。
【0032】
工程(a)における反応は、好ましくは55〜110℃の範囲の温度、より好ましくは60〜105℃、とりわけ約65℃で行われる。
【0033】
好ましくは、本発明の方法では、工程(a)において、当該方法が、カルボン酸、カルボン酸エステルおよび/またはカルボン酸無水物を最初に導入し、強酸を添加し、カルボン酸と強酸の混合物を、50〜120℃、好ましくは55〜110℃、最も好ましくは60〜105℃、とりわけ約65℃に加熱することを含む。その後、式(II)のアルキルグリシジルエーテルを、好ましくは一部ずつ、とりわけ滴下して添加する。添加の間、必要であれば攪拌が行われ、ここで混合物の温度は、好ましくは少なくとも45℃、とりわけ少なくとも50℃であり、および/または好ましくは150℃を超えず、より好ましくは120℃を超えず、最も好ましくは100℃を超えない。
【0034】
反応温度は、たとえば約65℃であり:ギ酸を最初に導入し、硫酸を添加し、混合物を65℃に加熱し、65℃で攪拌しながらグリシジルエーテルを添加し、ここでの添加は、冷却により、70℃の反応温度を超えないように制御される。反応は、COと水へのギ酸の起こり得る分解を回避するため、可能な最低温度で行われる。
【0035】
工程(a)において、水結合剤を添加することができ、たとえば、塩化カルシウム、硫酸ナトリウムまたは硫酸マグネシウム、および水結合多孔性粒子、たとえばモレキュラーシーブである。反応物として使用可能なカルボン酸無水物(y)およびカルボン酸エステル(z)は、水を結合するため、これらが使用される場合、特定の水結合剤は、好ましくは添加されない。
【0036】
工程(b)
工程(b)において、アシル化グリセロールエーテルを、式(I)の1−アルキルグリセロールエーテルを得るために反応させる。ここでは、工程(a)でアシル化グリセロールエーテルを完成させ、その後、工程(b)でこれを使用することが可能である。しかし、工程(b)では、アシル化グリセロールエーテルを完成させることなく、工程(a)からの生成物を使用することが好ましい。
【0037】
工程(b)の一つの好ましい態様(これ以降(b)(i)と称する)において、反応は、式(I)の1−アルキルグリセロールエーテルを得るために、アシル化アルキルグリセロールエーテルが、pH>7でアルカリ化剤により加水分解され、その後、中和され、分留されるという事実に基づいて行われる。1−アルキルグリセロールエーテルの単離は、分留により行われる。工程(b)(i)における反応手順は、好ましくは、アシル化アルキルグリセロールエーテルを、水酸化アルカリ金属水溶液により、20℃〜80℃の範囲の温度で加水分解することにより行われる。
【0038】
態様(b)(i)において、アシル化グリセロールエーテルの水酸化アルカリ金属水溶液による加水分解は、(たとえば、室温またはそれより高温、たとえば40℃または80℃で)行うことができる。しかし、当該方法の工程(b)(および特に(b)(ii)によるアルコールを用いたアシル化グリセロールエーテルのカルボン酸エステルへのエステル交換反応)は、好ましくは、後述のとおり低水分条件下で行われる。
【0039】
工程(b)の一つの別の好ましい態様(これ以降(b)(ii)と称する)において、(好ましくは酸触媒の)反応は、1〜4個の炭素原子を有する脂肪族アルコールを過剰なモル量で添加することによるエステル交換反応をし、得られたカルボン酸と脂肪族アルコールのアルキルエステルおよび過剰な脂肪族アルコールを留去することにより行われる。一つの好ましい態様において、アシル化グリセロールエーテルを、反応容器に存在させ、アルコールを添加し、これは、反応生成物が反応容器に得られたまま残るという利点を有する。その後、反応溶液に残る触媒量の強酸をアルカリ化剤で中和し、その後、混合物を、式(I)のアルキルグリセロールエーテルを得るために分留する。
【0040】
本発明の方法の態様(b)(ii)は、態様(b)(i)より好ましい。
【0041】
工程(b)(ii)では、低水分条件下で作用させることを優先する。工程(b)における水分含量は、反応混合物に基づいて、好ましくは20重量%未満、より好ましくは10重量%未満、とりわけ5重量%未満、たとえば4重量%未満、3重量%未満、2重量%未満またはとりわけ1重量%未満である。
【0042】
工程(b)(ii)において、使用される脂肪族アルコールは、たとえば、エタノールまたはメタノールであり得る。ここで、メタノールが好ましい。脂肪族アルコールの混合物を使用することもできる。
【0043】
工程(b)(ii)における反応手順は、エステル交換反応の前に、混合物を、脂肪族アルコールの沸点未満の温度(あるいは、形成するエステルの沸点未満の温度)に冷却するように行うことができる。ここで、この手順は、典型的には、工程(a)におけるグリシジルエーテルの全量の添加後、反応の最後に、一定時間、たとえば1時間、最適な反応温度で後攪拌することを伴う。その後に限り、工程(b)(ii)におけるプラントが安全に操作できるように、反応混合物は、エステル交換反応のために使用されるアルコールの沸点未満の温度(または、形成するエステルの沸点未満の温度)に(たとえば、エアー冷却または水冷却により)冷却される。
【0044】
蒸留分離の間、1ポットプロセスの場合、以下のことに注意すべきである:グリシジルエーテルと、たとえばカルボン酸(x)との反応(=工程(a))の後、アルコールをアシル化グリセロールエーテルに添加する(=工程(b)(ii))。カルボン酸とアルコールのエステルを蒸留により平衡状態から取り除く。エステル交換反応が完了し、カルボン酸とアルコールのエステルが定量的に留去されたら、残りのアルコールを蒸留により除去する。その後、触媒量の強酸を中和する。ここで、1−アルキルグリセロールエーテルは、(たとえば真空中で)蒸留することができる。役に立つように分離を実施することができるように、カルボン酸とアルコールのエステルは、他の成分の沸点より有意に低い沸点をもつべきである。このことは、平衡状態からこのエステルを取り除くことができること、すなわち、エステル交換反応が起こることを保証する。
【0045】
以下の概要は、アルコールとエステルの沸点の差の例を記載する。
【表1】
【0046】
沸点の差Δ>20Kについて、このプロセスで平衡状態から蒸留によりエステルを定量的に取り除くことは、経済的にとりわけ簡単である。上記表は、工程(a)におけるカルボン酸(x)として、特に好ましくはギ酸が最も適切であり、工程(b)(ii)におけるアルコールとして、メタノールが最も適切であることを示す。工程(b)(ii)におけるアルコールとしてのエタノールは、高いコスト、大きいモル体積、および同じバッチサイズに対する低い収率などにもかかわらず、その低い毒性のために、一つの選択肢である。
【0047】
一つの特に好ましい態様(これ以降、1ポットプロセスと称される)において、エステル交換反応(b)(ii)は、反応(a)が行われたのと同じ反応容器で行われる。ここで、工程(b)において、低沸点の成分を留去した後、粗生成物は、NaOHなどのアルカリ化剤で中和され、真空中で分留を受ける。好ましくは、工程(a)において、ルイス酸は、特にここで説明される1ポットプロセスの場合、望ましくない副生成物につながり得るため、強酸として使用されない。
【0048】
工程(b)における手順が(i)に従うか(ii)に従うかにかかわらず、工程(b)(i)または(b)(ii)における分留の後、式(I)の1−アルキルグリセロールエーテルに安定化剤を添加することが好ましい。
【0049】
工程(b)(i)または(b)(ii)におけるアルカリ化剤は、たとえば、水酸化アルカリ金属、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、酸化または水酸化アルカリ土類金属、たとえば水酸化カルシウムまたは酸化カルシウム、および/またはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩または炭酸水素塩であり得る。水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムの濃水溶液を使用することを優先する。
【0050】
本発明の1ポットプロセスにおいて、生成物中の有機ハロゲン(AOX)の含量は、必然的に塩を含有する(中和に由来する強酸+アルカリ化剤)粗生成物の蒸留の結果、減少することが考えられる。必要であれば、塩の含量は、増大させることができ、および/または有機ハロゲン低減添加剤(たとえば、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩)を添加することができる。
【0051】
好ましいアルキルグリシジルエーテルは、少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、特に好ましくは少なくとも99重量%の含量を有する。
【0052】
現在の工業生産プロセスに従えば、得られた生成物には、出発材料 (エピクロロヒドリンおよび2−エチルヘキシルアルコールから調製されるグリシジルエーテル) に由来し、蒸留により取り除くことが難しい有機塩素化合物が混入し得る。この公知のプロセスにおいて、最終生成物は、いずれの時点でも、有機ハロゲン化合物の分解につながるアルカリ性反応媒体と接触しない。対照的に、本発明は、とりわけ、本発明の方法が、(たとえば触媒酸の中和のため)アルカリ化剤で処理することを好ましくは含むという事実に基づいている。ここで、アルカリ化剤での処理は、(量、温度、処理時間の任意の変化)有機ハロゲン化合物の分解が、最終生成物の収率および質を損なうことなく、目標としたやり方で起こるように行われる。
【0053】
本発明の方法は、以下の利点を提供する:
− 経済的、
− 高い収率、
− 高い選択性、
− 可能な1ポットプロセス、すなわち中間体を他の方法で単離、保存、処理する必要がない、
− 高品質の最終生成物(とりわけ、色、におい、安定性、不純物に関して)、
− 不純物のタイプおよび量が、有意に低減する (たとえば、グリシジルエーテル、2−エチルヘキサノール、有機ハロゲン化合物)、特に、蒸留により分離することが難しい1,3−ビス(2−エチルヘキシルオキシ)プロパン−2−オールは、ここで記載される反応の間に僅かに検出可能な量で形成される、
− (たとえば、出発材料の品質のばらつきの結果としての)プロセスの混乱に対する低い可能性、
− 出発材料を取得し保存する際、プラントを提供し維持する際、プラントを準備しクリーニングする際、残留物を処分する際の低い費用、
− 有機ハロゲンが少ない、好ましくは有機ハロゲンを含まない生成物を取得する、
− 水を含む追加の溶媒の不使用(および処分)、
− 比較的少量の利用不可能な廃棄物を産生する、
− 可能な反応生成物(たとえば、カルボン酸エステル)の実用的な利用、
− 可能な分離後の反応物の再利用(たとえばカルボン酸エステルにおそらく混入される低級アルコール;たとえば工程(b)由来のカルボン酸エステルの工程(a)での再利用)、
− 比較的穏やかな反応条件、
− コンパクトな反応体積(高い収率に対して比較的小さい反応体積、たとえば約875 gの出発材料は、1ポットプロセスで320 gの最終生成物を産生する)、
− 高い空間/時間収率、
− 可能な高いプラント能力の利用、および
− 比較的短い反応時間。
【0054】
本発明の利点は、とりわけ以下の実施例から明らかである。この調査は、100%強度のギ酸を用いた反応が、希釈ギ酸を用いた場合より良いにおいの最終生成物を産生することを示す。
【実施例】
【0055】
4モルのギ酸(98%強度、BASF)および2 gの濃硫酸を、80℃に加熱し、100℃の反応温度を超えないように、総量2モルの2-エチルヘキシルグリシジルエーテルと混合した。その後、混合物を95℃で更に1時間攪拌し、その後、60℃に冷却し、モル過剰(9モル)のメタノールと混合し、ギ酸メチルをカラムを通して留去した。残留物をNaOHで中和し、真空中で蒸留した。これにより、透明、無色、少ないにおいの生成物(2-エチルヘキシルグリセロールエーテル)を78.1%の収率で得る。生成物は、99.5%の純度を有する。
【0056】
本発明の更なる実験において、エステル交換反応は、工程(b)でエタノールを用いて実施した。収率は65.7%であった。エステル交換反応を工程(b)でエタノールを用いて同様に実施した(工程(a)で硫酸を使用しない)対応の比較実験において、収率は56.7%であった。