(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記収容凹部は、隣接する前記揺動歯車の互いに向かいあう面のうちの一方の面に形成された第1凹部と、隣接する当該揺動歯車の互いに向かいあう面のうちの他方の面に形成されたおよび第2凹部とからなり、
前記収容凹部は、隣接する前記揺動歯車が互いに向かい合って当該第1凹部および第2凹部が連通することにより形成されている、
請求項1に記載の歯車装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る歯車装置の連結構造について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る歯車装置は、例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部または各種工作機械の旋回部に減速機として適用される歯車装置である。以下の本実施形態の説明では、ロボットのアームなどの旋回体に歯車装置を適用した例について説明する。
【0027】
図1に示した第1実施形態に係わる歯車装置1は、一対の相手側部材(例えば、旋回体とベース)の間で所定の減速比で回転力を伝達するものである。
【0028】
第1実施形態の歯車装置1は、
図1〜2に示されるように、外筒2と、内歯ピン3と、キャリア4と、主軸受6と、クランク軸8と、クランク軸受9と、2枚の揺動歯車10と、2個のニードル軸受18と、クランク軸歯車20と、ワッシャ21とを備えている。
【0029】
外筒2は、略円筒状に形成され、歯車装置の外面を構成するケースとして機能する。外筒2は、例えばロボットのベースなどにボルトで締結される。外筒2の内面には、多数の内歯ピン3が周方向に等間隔で配設されている。内歯ピン3は、外歯歯車からなる揺動歯車10が噛み合う内歯として機能する。
【0030】
キャリア4は、軸方向に離間して一対に設けられた主軸受6により外筒2に対して相対回転可能に支持されている。そして、キャリア4は、基部13と、端板部14とを備えている。基部13と端板部14との間には、外筒2とキャリア4との間における回転力の伝達をする伝達部材である揺動歯車10が配置されている。
【0031】
基部13は、外筒2内においてその外筒2の端部近傍に配置される基板部13aと、その基板部13aから端板部14に向かって軸方向に延びるシャフト部13bとを有する。
【0032】
端板部14は、基部13のシャフト部13bの先端に配置されている。端板部14は、ボルト15aおよびピン15bによってシャフト部13bに締結されている。それによって、基部13と端板部14とが一体化されている。
【0033】
キャリア4は、例えばロボットの旋回体などにボルトで締結される。キャリア4が外筒2に対して相対回転すると、旋回体は、ベースなどの相手側部材に対して相対的に旋回することが可能である。なお、外筒2およびキャリア4の取付対象を相互に入れ換えることも可能であり、具体的には、外筒2を旋回体に締結し、キャリア4の基部13をベースに締結して使用することも可能である。
【0034】
クランク軸8は、複数(
図2では3本)設けられており、各クランク軸8はモータなどから伝達された回転駆動力を歯車装置1へ入力するインプットギヤIGの周囲に周方向に等間隔に配置されている。その各クランク軸8の端部には、クランク軸歯車20がそれぞれ取り付けられている。各クランク軸歯車20は、インプットギヤIGの外歯Tとそれぞれ噛み合っている。この各クランク軸歯車20は、インプットギヤIGの回転をそのクランク軸歯車20が取り付けられたクランク軸8に伝達する。そして、各クランク軸8は、一対のクランク軸受9を介してキャリア4にその軸回りに回転自在に取り付けられている。すなわち、クランク軸8は、キャリア4に回転自在に支持されている。
【0035】
クランク軸8は、2個の偏心部8aと、軸部8bとを有している。軸部8bの両端部は、一対のクランク軸受9によって回転自在に支持されている。複数の偏心部8aは、当該一対のクランク軸受9の間で軸部8bに対して偏心して軸方向に並んで配置されている。各偏心部8aは、それぞれクランク軸8の軸心から所定の偏心量で偏心した円柱状に形成されている。そして、各偏心部8aは、互いに所定角度の位相差を有するようにクランク軸8に形成されている。
【0036】
2枚の揺動歯車10は、クランク軸8の各偏心部8aにそれぞれニードル軸受18を介して取り付けられている。揺動歯車10は、外筒2の内径よりも少し小さい外径を有する外歯歯車であり、揺動歯車10の外歯の数は、内歯ピン3の数よりも若干少なくなっている。揺動歯車10は、クランク軸8が回転するときに偏心部8aの偏心回転に連動して外筒2の内側に配置された内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。
【0037】
揺動歯車10は、中央部貫通孔10bと、複数の偏心部挿通孔10cと、複数のシャフト部挿通孔10dとを有する。インプットギヤIGは、中央部貫通孔10bに遊びを有した状態で挿通されている。
【0038】
偏心部挿通孔10cは、揺動歯車10において中央部貫通孔10bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各偏心部挿通孔10cには、ニードル軸受18を介装した状態で各クランク軸8の偏心部8aがそれぞれ挿通されている。
【0039】
シャフト部挿通孔10dは、揺動歯車10において中央部貫通孔10bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔10dは、周方向において偏心部挿通孔10c間の位置にそれぞれ配設されている。各シャフト部挿通孔10dには、キャリア4の各シャフト部13bが遊びを有した状態で挿通されている。
【0040】
ニードル軸受18は、クランク軸8の各偏心部8aに設けられ、揺動歯車10の偏心部挿通孔10cの内周面において、クランク軸8の偏心部8aに対して相対的に回転自在となるように揺動歯車10を支持する。
【0041】
ニードル軸受18は、
図3に示されるように、ニードル18aと、当該ニードル18aを揺動歯車10と偏心部8aとの間に転動自在に保持する保持器18bとを備える。ニードル軸受18は、本発明のころ軸受に含まれる概念である。また、ニードル18aは、針状のころであり、本発明における転動可能な転動体に含まれる概念である。
【0042】
ワッシャ21は、薄い円板状の部材であり、金属または樹脂などによって製造される。
【0043】
ワッシャ21の中央には、
図2〜3に示されるように、クランク軸8の偏心部8aの外径と同じか若干大きい円形の挿入孔21aを有する。
【0044】
ワッシャ21の挿入孔21aの周囲の位置には、当該ワッシャ21の厚さ方向に貫通し、潤滑剤が流通可能な潤滑油が通過可能な潤滑孔21bが形成されている。
【0045】
図1〜3に示されるように、隣接する2枚の揺動歯車10の互いに向かいあう面のうちのいずれか1つの面には、ワッシャ21が収容される収容凹部22が形成されている。
【0046】
収容凹部22は、ワッシャ21の厚さと同じまたはそれに近い深さ、および当該ワッシャ21の外径と同じまたはそれに近い内周径を有する。収容凹部22は、当該収容凹部22が形成された揺動歯車10において、偏心部8a、ニードル軸受18およびワッシャ21が同軸状になるような位置に形成されている。
【0047】
ワッシャ21は、当該収容凹部22が形成された揺動歯車10の軸方向を向く面と同一平面になるように、収容凹部22に収容されている。
【0048】
収容凹部22は、
図3に示されるように、軸方向規制面22aと、半径方向規制面22bとを有している。
【0049】
軸方向規制面22aは、収容凹部22の底面を構成する面であり、その法線方向が軸心Sの延びる方向と平行である。軸方向規制面22aは、ワッシャ21にクランク軸8の軸心Sの延びる方向から当接して当該ワッシャ21の軸方向の移動を規制する。
【0050】
半径方向規制面22bは、収容凹部22の内周面を構成する面であり、軸方向規制面22aの外周縁から軸心Sの延びる方向に立ち上がっている。半径方向規制面22bは、ワッシャ21の外周面に当接して当該ワッシャ21の半径方向の移動を規制する。
【0051】
ワッシャ21の外径D1は、以下のように設定される。
図3に示されるように、クランク軸8における2つの偏心部8a(
図3では2つの偏心部の区別を容易にするために8a1、8a2と示す)の軸心Sからの偏心量をそれぞれσ1とし、一方の偏心部8a1の偏心軸E1からニードル軸受18の保持器18bの外周端までの距離、ならびに他方の偏心部8a2の偏心軸E2からニードル軸受18の保持器18bの外周端までの距離をそれぞれRとし、ワッシャ21が他方の偏心部8a2の偏心軸E2に同軸状に配置されているとした場合、ワッシャ21の外径D1は、(R+2σ1)の2倍以上に設定される。これにより、一方の偏心部8a1がどの角度であっても当該偏心部8a1に設けられたニードル軸受18の保持器18bの外周端はワッシャ21の外径D1の範囲内に収まる。
【0052】
また、ワッシャ21の内径D2は、(R―2σ1)の2倍以下に設定される。これにより、一方の偏心部8a1がどの角度であっても当該偏心部8a1に設けられたニードル軸受18の保持器18bの外周端はワッシャ21の内径D2と外径D1の間の範囲内に収まる。
【0053】
一方、他方の偏心部8a2に設けられたニードル軸受18の保持器18bの外周端とワッシャ21の関係については、偏心軸E2から保持器18bの外周端までの距離がRであり、ワッシャ21と保持器18bとが偏心軸E2において同軸状に配置して、常に(R+2σ1)>R>(R―2σ1)の関係が保たれる。したがって、他方の偏心部8a2においても、保持器18bの外周端は、ワッシャ21の内径D2と外径D1の間の範囲内に常に収まる。
【0054】
上記のようにワッシャ21の寸法を設定することにより、ワッシャ21は、
図3に示されるように、隣接する偏心部8aの間において、当該隣接する偏心部8aのそれぞれに設けられたニードル軸受18の保持器18bに当接することが可能な位置に設けることが可能になり、当該ニードル軸受18の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0055】
なお、ワッシャ21の内径D2および外径D1が上記の範囲内に設定されていれば、偏心部8a1、8a2のいずれの保持器18bの外周端がワッシャ21に常時接触することが可能であるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ワッシャ21が偏心部8a1、8a2のいずれの保持器18bの全面に常時接触していなくても各保持器18bの一部に常時当接することが可能な範囲でワッシャ21の内径D2および外径D1を設定すれば、各ニードル軸受18の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0056】
ワッシャ21は、収容凹部22の内部において、軸方向規制面22aおよびそれに対向する揺動歯車10の対向面23に当接することにより、当該ワッシャ21の軸方向の移動が規制され、かつ、半径方向規制面22bに当接することにより、当該ワッシャ21の半径方向の移動が規制されている。したがって、ワッシャ21は、収容凹部22が形成された揺動歯車10と一体となって揺動することが可能である。
【0057】
次に、本実施形態による歯車装置1の動作について説明する。
【0058】
モータMからインプットギヤIGに入力された回転駆動力は、各クランク軸歯車20に伝達される。これにより、各クランク軸8は、それぞれの軸回りに回転する。
【0059】
そして、各クランク軸8の回転に伴って、そのクランク軸8の偏心部8aが偏心回転する。これにより、2枚の揺動歯車10は、偏心部8aの偏心回転に連動して外筒2の内面の内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。2枚の揺動歯車10の揺動回転は、各クランク軸8を通じてキャリア4に伝達される。本実施形態では、外筒2はベースなどに固定されて不動であるので、それによって、キャリア4は、入力された回転から減速された回転数で外筒2に対して相対的に回転することが可能である。このとき、2枚の揺動歯車10の一方に形成された収容凹部22に収容されたワッシャ21は、当該収容凹部22が形成された揺動歯車10と一体となって揺動する。ワッシャ21は、揺動しながらクランク軸8の各偏心部8aに設けられたニードル軸受18の保持器18bにそれぞれ当接することにより、これらニードル軸受18におけるクランク軸8の軸方向への移動を規制することが可能である。
【0060】
(第1実施形態の特徴)
(1)
第1実施形態の歯車装置1では、ワッシャ21がクランク軸8の隣接する偏心部8aの間に配置され、これら隣接する偏心部8aのそれぞれに設けられたニードル軸受18の保持器18bに当接可能な位置に設けられているので、ワッシャ21が保持器18bに当接することにより、ニードル軸受18の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0061】
さらに、隣接する2枚の揺動歯車10の互いに向かいあう面のうちの少なくとも1つの面に収容凹部22が形成され、ワッシャ21が当該収容凹部22に挿入されているので、クランク軸8の軸方向においてワッシャ21が占有するスペースを減少させることが可能である。
【0062】
しかも、ワッシャ21は、収容凹部22の内部において、軸方向規制面22aに当接することにより、ワッシャ21の軸方向の移動が規制され、かつ、半径方向規制面22bに当接することにより、ワッシャ21の半径方向の移動が規制される。これにより、ワッシャ21自体の軸方向および半径方向の移動を規制することが可能である。
【0063】
(2)
さらに、第1実施形態の歯車装置1では、収容凹部22が1つの揺動歯車10に形成されているので、少ない製造工程で製造することが可能であり、製造コストを抑えることが可能である。
【0064】
(3)
また、第1実施形態の歯車装置1では、ワッシャ21が、収容凹部22が形成された揺動歯車10の軸方向における範囲内に収まっており、例えば、当該収容凹部22が形成された揺動歯車10の軸方向を向く面と同一平面になるように収容されているので、当該ワッシャ21がその揺動歯車10における軸方向を向く面から突出するおそれがないので、クランク軸8の軸方向においてワッシャ21が占有するスペースを確実に減少させることが可能である。
【0065】
なお、ワッシャ21は、収容凹部22から若干突出して、当該収容凹部22が形成された揺動歯車10の軸方向を向く面と同一平面にならない場合でも、ワッシャ21によって隣接するニードル軸受18の保持器18b同士の干渉を防ぐことが可能である。
【0066】
(4)
また、第1実施形態の歯車装置1では、ワッシャ21がその厚さ方向に貫通し、油などの潤滑剤が流通可能な潤滑孔21bを有するので、潤滑剤が潤滑孔21bを通して円滑に流れることが可能になり、潤滑剤の潤滑性が向上する。
【0067】
なお、上記の第1実施形態では、2個の偏心部8aを備えた歯車装置1を例にあげて説明したが、3個以上の偏心部8aを備えた場合でも、上記第1実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0068】
また、上記第1実施形態では、複数のクランク軸8がインプットギヤIGの周囲に配置された構造を有する歯車装置1が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、後述の第3実施形態のように、1本のクランク軸108が当該歯車装置の軸心に沿って配置された、いわゆるセンタークランク式の歯車装置を採用してもよい。
【0069】
(第2実施形態)
上記実施形態では、収容凹部22が隣接する2枚の揺動歯車10のうちの1つの揺動歯車10に形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、2枚の揺動歯車10にまたがって1つの収容凹部を形成するようにしてもよい。
【0070】
すなわち、
図4〜6に示されるように、第2実施形態の歯車装置1では、円板状のワッシャ71が、隣接する2つの揺動歯車10にまたがって形成された収容凹部72に収容されている点で、上記の
図1〜3に示される歯車装置1と異なり、その他の点では共通な構成を有している。
【0071】
具体的には、第2実施形態の歯車装置では、収容凹部72は、
図6に示されるように、隣接する2枚の揺動歯車10の互いに向かいあう面のうちの一方の面に形成された第1凹部73と、隣接する当該2枚の揺動歯車10の互いに向かいあう面のうちの他方の面に形成されたおよび第2凹部74とからなる。
【0072】
収容凹部72は、隣接する2枚の揺動歯車10が互いに向かい合って当該第1凹部73および第2凹部74が連通することにより形成されている。第1凹部73および第2凹部74は、それぞれ、
図5に示されるように軸方向から見て円形状を呈する凹部であり、同一の寸法形状を有している。これらの第1凹部73および第2凹部74は、
図6に示されるように、クランク軸8の軸心Sから互いに180度ずれた方向へ偏心している。第1凹部73と第2凹部74とがワッシャ71の半径方向において重なっている範囲75において、円板状のワッシャ71をクランク軸8の軸部8bと同軸状に収容することが可能である。したがって、円板状のワッシャ71の軸方向の中心は、クランク軸8の軸心Sと一致する。
【0073】
第1凹部73および第2凹部74は、
図6に示されるように、それぞれ、軸方向規制面73a、74aと、半径方向規制面73b、74bとを有している。
【0074】
軸方向規制面73a、74aは、第1凹部73および第2凹部74のそれぞれの底面を構成する面であり、それらの法線方向がそれぞれ軸心Sの延びる方向と平行であり、互いに平行になるように形成されている。軸方向規制面73a、74aは、ワッシャ71にクランク軸8の軸心Sの延びる方向から当該ワッシャ71に両側から当接して当該ワッシャ71の軸方向の移動を規制する。
【0075】
半径方向規制面73b、74bは、第1凹部73および第2凹部74のそれぞれの内周面を構成する面であり、軸方向規制面73a、74aの外周縁から軸心Sの延びる方向にそれぞれ立ち上がっている。半径方向規制面73b、74bは、ワッシャ71の外周面に当接して当該ワッシャ71の半径方向の移動を規制する。
【0076】
第1凹部73および第2凹部74は、揺動歯車10を支持する偏心部8aに対応するように、ワッシャ71の半径方向に互いにずれた位置で、向かい合って配置されている。これにより、第1凹部73および第2凹部74のそれぞれの内面は、互いに偏心しているが、クランク軸8の回転角がどの角度であってもワッシャ21に接することが可能な形状を有する。
【0077】
具体的には、
図6に示されるように、第1凹部73および第2凹部74によって形成される収容凹部72の全幅W(すなわち、軸方向規制面72a、73a間の距離)は、ワッシャ71の厚さと同じか若干大きい程度に設定される。また、第1凹部73と第2凹部74とがワッシャ71の半径方向において重なっている範囲75の半径方向の距離は、ワッシャ71の外径D3と同じか若干大きい程度に設定される。これにより、ワッシャ71は、
図6に示されるように、第1凹部73および第2凹部74のそれぞれの内面によって対角位置で保持される。これによって、ワッシャ71の軸方向および半径方向の移動が規制される。これにより、クランク軸8が回転したときには、2枚の揺動歯車10はそれぞれ各偏心部8aとともに揺動運動をするが、ワッシャ71は、第1凹部73と第2凹部74とがワッシャ71の半径方向において重なっている範囲75に収容された状態で、クランク軸8の軸心Sを中心に回転することが可能である。
【0078】
ワッシャ71の外径D3は、以下のように設定される。
図6に示されるように、クランク軸8における2つの偏心部8aの軸心Sからの偏心量をσ1とし、一方の偏心部8a1の偏心軸E1からニードル軸受18の保持器18bの外周端までの距離、ならびに他方の偏心部8a2の偏心軸E2からニードル軸受18の保持器18bの外周端までの距離をそれぞれRとし、ワッシャ71がクランク軸8の軸心Sと同軸状に配置されているとした場合、ワッシャ71の外径D1は、(R+σ1)の2倍以上に設定される。これにより、両方の偏心部8a1、8a2がどの角度であっても当該偏心部8a1、8a2にそれぞれ設けられたニードル軸受18の保持器18bの外周端はワッシャ71の外径D3の範囲内に収まる。
【0079】
また、ワッシャ71の内径D4は、(R―σ1)の2倍以下に設定される。これにより、両方の偏心部8a1、8a2がどの角度であっても当該偏心部8a1、8a2にそれぞれ設けられたニードル軸受18の保持器18bの外周端はワッシャ71の内径D4と外径D3の間の範囲内に収まる。
【0080】
上記のようにワッシャ71の寸法を設定することにより、ワッシャ71は、
図6に示されるように、隣接する偏心部8aの間において、当該隣接する偏心部8aのそれぞれに設けられたニードル軸受18の保持器18bに当接することが可能な位置に設けることが可能になり、当該ニードル軸受18の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0081】
(第2実施形態の特徴)
(1)
上記のように構成された第2実施形態の歯車装置1では、収容凹部72は、隣接する2枚の揺動歯車10の互いに向かいあう面のうちの一方の面に形成された第1凹部73と、その他方の面に形成されたおよび第2凹部74とからなり、隣接する2枚の揺動歯車10が互いに向かい合って当該第1凹部73および第2凹部74が連通することにより形成されている。
【0082】
これによって、上記実施形態1と同様に、ワッシャ71がクランク軸8の隣接する偏心部8aの間に配置され、これら隣接する偏心部8aのそれぞれに設けられたニードル軸受18の保持器18bに当接可能な位置に設けられているので、ワッシャ71が保持器18bに当接することにより、ニードル軸受18の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0083】
さらに、隣接する2枚の揺動歯車10の互いに向かいあう面にまたがって収容凹部72が形成され、ワッシャ71が当該収容凹部72に挿入されているので、クランク軸8の軸方向においてワッシャ71が占有するスペースを減少させることが可能である。
【0084】
しかも、ワッシャ71は、収容凹部72の内部において、軸方向規制面73a、74aに当接することにより、ワッシャ71の軸方向の移動が規制され、かつ、半径方向規制面73b、74bに当接することにより、ワッシャ71の半径方向の移動が規制される。これにより、ワッシャ71自体の軸方向および半径方向の移動を規制することが可能である。
【0085】
(2)
さらに、第2実施形態では、収容凹部72が隣接する2枚の揺動歯車10にまたがって形成され、当該収容凹部72を構成する第1凹部73および第2凹部74の寸法形状が同じであるので、歯車装置の組立作業時には共通の寸法形状の凹部を有する揺動歯車10を用意すればよく、製品管理が容易になる。
【0086】
なお、第2実施形態では、第1凹部73および第2凹部74の寸法形状が同じ例が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1凹部73および第2凹部74の寸法形状を互いに異なるようにしてもよい。
【0087】
なお、上記の第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、2個の偏心部8aを備えた歯車装置1を例にあげて説明したが、3個以上の偏心部8aを備えた場合でも、上記第2実施形態と同様の効果を奏することが可能である。
【0088】
また、上記第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、複数のクランク軸8がインプットギヤIGの周囲に配置された構造を有する歯車装置1が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、後述の第3実施形態のように、1本のクランク軸108が当該歯車装置の軸心に沿って配置された、いわゆるセンタークランク式の歯車装置を採用してもよい。
【0089】
(第3実施形態)
上記第1〜2実施形態では、2枚の揺動歯車10の対向面の一方または両方に収容凹部が形成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、3枚以上の揺動歯車を有する歯車装置であってもワッシャを収容する収容凹部を形成してワッシャを収容することが可能である。
【0090】
すなわち、
図7〜9に示されるように、第3実施形態の歯車装置101は、1本のクランク軸108が当該歯車装置の軸心に沿って配置された、いわゆるセンタークランク式の歯車装置であり、外筒102と、内歯ピン103と、キャリア104と、主軸受106と、1本のクランク軸108と、クランク軸受109と、3枚の揺動歯車110と、3個のニードル軸受118と、2枚のワッシャ121とを備えている。
【0091】
外筒102は、上記実施形態1と同様に、略円筒状に形成され、歯車装置の外面を構成するケースとして機能する。外筒102は、例えばロボットのベースなどにボルトで締結される。外筒102の内面には、多数の内歯ピン103が周方向に等間隔で配設されている。内歯ピン103は、外歯歯車からなる揺動歯車110が噛み合う内歯として機能する。
【0092】
キャリア104は、軸方向に離間して一対に設けられた主軸受106により外筒102に対して相対回転可能に支持されている。そして、キャリア104は、基部113と、端板部114とを備えている。基部113と端板部114との間には、外筒102とキャリア104との間における回転力の伝達をする伝達部材である揺動歯車110が配置されている。
【0093】
基部113は、外筒102内においてその外筒102の端部近傍に配置される基板部113aと、その基板部113aから端板部114に向かって軸方向に延びるシャフト部113bとを有する。
【0094】
端板部114は、基部113のシャフト部113bの先端に配置されている。端板部114は、ボルト115によってシャフト部113bに締結されている。それによって、基部113と端板部114とが一体化されている。
【0095】
1本のクランク軸108は、キャリア4の中央に形成された貫通孔104bに収容されている。クランク軸108はモータなどから伝達された回転駆動力を直接受けることが可能である。クランク軸108は、一対のクランク軸受109を介してキャリア104に回転自在に支持されている。
【0096】
クランク軸108は、3個の偏心部108aと、軸部108bとを有している。軸部108bの両端部は、一対のクランク軸受109によって回転自在に支持されている。
【0097】
3個の偏心部108aは、当該一対のクランク軸受109の間で軸部108bに対して偏心して軸方向に並んで配置されている。各偏心部108aは、それぞれクランク軸108の軸心から所定の偏心量で偏心した円柱状に形成されている。そして、各偏心部108aは、互いに所定角度の位相差を有するようにクランク軸108に形成されている。
【0098】
3枚の揺動歯車110は、上記第1〜2実施形態と同様に外歯歯車からなり、クランク軸108の各偏心部108aにそれぞれニードル軸受118を介して取り付けられている。揺動歯車110は、外筒102の内径よりも少し小さい外径を有しており、クランク軸108が回転するときに偏心部108aの偏心回転に連動して外筒102内面の内歯ピン103に噛み合いながら揺動回転する。
【0099】
揺動歯車110は、その中央に1個形成された偏心部挿通孔110cと、複数のシャフト部挿通孔110dとを有する。
【0100】
各偏心部挿通孔110cには、ニードル軸受118を介装した状態で各クランク軸108の偏心部108aがそれぞれ挿通されている。
【0101】
シャフト部挿通孔110dは、揺動歯車110において偏心部挿通孔110cの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔110dには、キャリア104の各シャフト部113bが筒状部材130で覆われた状態で当該シャフト部挿通孔110dの内周面との間に遊びを有した状態で挿通されている。
【0102】
第3実施形態の歯車装置101では、ニードル軸受118は、クランク軸108の各偏心部108aに設けられ、揺動歯車110を当該揺動歯車110の偏心部挿通孔110cの内周面においてクランク軸108の偏心部108aに相対的に回転自在に支持する。
【0103】
ニードル軸受118は、
図9に示されるように、ニードル118aと、当該ニードル118aを揺動歯車110と偏心部108aとの間に転動自在に保持する保持器118bとを備える。
【0104】
ワッシャ121は、薄い円板状の部材であり、金属または樹脂などによって製造される。
【0105】
ワッシャ121の中央には、クランク軸108の偏心部108aの外径と同じか若干大きい円形の挿入孔121aを有する。
【0106】
さらに、ワッシャ121の挿入孔121aの周囲の位置には、当該ワッシャ121の厚さ方向に貫通し、潤滑剤が流通可能な潤滑油が通過可能な潤滑孔121bが形成されている。
【0107】
ワッシャ121は、隣接する3個の偏心部108aの間において、当該隣接する偏心部108aのそれぞれに設けられたニードル軸受118の保持器118bに当接可能な位置に設けられ、当該ニードル軸受118の軸方向の移動を規制する。すなわち、ワッシャ121は、キャリア4の中央に配置されたクランク軸108の3個の偏心部108aの間にそれぞれ配置され、すなわち、本実施形態では、2枚のワッシャ121が配置される。
【0108】
隣接する揺動歯車110の互いに向かいあう面であって、3枚の揺動歯車110のうちの外側の2枚の揺動歯車110の内側の面には、ワッシャ121が収容される収容凹部122がそれぞれ形成されている。
【0109】
各収容凹部122は、ワッシャ121の厚さと同じまたはそれに近い深さ、および当該ワッシャ121の外径と同じまたはそれに近い内周径を有する。各収容凹部122は、当該収容凹部122が形成された揺動歯車110において、偏心部108a、ニードル軸受118およびワッシャ121が同軸状になるような位置に形成されている。
【0110】
各ワッシャ121は、当該収容凹部122が形成された揺動歯車110の軸方向を向く面と同一平面になるように、収容凹部122に収容されている。
【0111】
各収容凹部122は、上記第1実施形態の収容凹部22と同様に、ワッシャ121にクランク軸108の軸方向から当接して当該ワッシャ121の軸方向の移動を規制する軸方向規制面122aと、当該ワッシャ121の外周面に当接して当該ワッシャ121の半径方向の移動を規制する半径方向規制面122bをそれぞれ有している。
【0112】
各ワッシャ121は、上記第1実施形態のワッシャ21と同様に、収容凹部122の内部において、軸方向規制面122aおよびそれに対向する揺動歯車10の対向面123に当接することにより、当該ワッシャ121の軸方向の移動が規制され、かつ、半径方向規制面122bに当接することにより、当該ワッシャ121の半径方向の移動が規制されている。
【0113】
(第3実施形態の特徴)
(1)
第3実施形態の歯車装置101は、3枚の揺動歯車110を有する歯車装置であり、2枚のワッシャ121がクランク軸108の隣接する偏心部108aの間にそれぞれ配置されている。このような構成でも、上記第1〜2実施形態と同様に、これら隣接する偏心部108aのそれぞれに設けられたニードル軸受118の保持器118bに当接可能な位置にワッシャ121が設けられているので、ワッシャ121が保持器118bに当接することにより、ニードル軸受118の軸方向の移動を規制することが可能である。
【0114】
さらに、隣接する揺動歯車110の互いに向かいあう面であって、3枚の揺動歯車110のうちの外側の揺動歯車110の面に収容凹部122が形成され、2枚のワッシャ121が当該収容凹部122にそれぞれ挿入されているので、クランク軸108の軸方向においてワッシャ121が占有するスペースを減少させることが可能である。
【0115】
しかも、ワッシャ121は、収容凹部122の内部において、軸方向規制面122aに当接することにより、ワッシャ121の軸方向の移動が規制され、かつ、半径方向規制面122bに当接することにより、ワッシャ121の半径方向の移動が規制される。これにより、ワッシャ121自体の軸方向および半径方向の移動を規制することが可能である。
【0116】
(2)
さらに、第3実施形態の歯車装置101では、収容凹部122が3枚の揺動歯車110のうち両側の揺動歯車110に形成されており、収容凹部122が同一の寸法形状を有しているので、製品管理が容易になる。
【0117】
(3)
また、第3実施形態の歯車装置101では、ワッシャ121がその厚さ方向に貫通し、潤滑剤が流通可能な潤滑孔121bを有するので、潤滑剤が潤滑孔121bを通して円滑に流れることが可能になり、潤滑剤の潤滑性が向上する。
【0118】
(変形例)
(A)
上記第1〜3実施形態では、ころ軸受の一例として針状ころ(ニードル)および保持器を有するニードル軸受を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、転動自在の転動体とそれを保持する保持器を備えたころ軸受を備えた偏心揺動型歯車装置であれば、本発明を適用することが可能である。