(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701740
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】光学式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/38 20060101AFI20150326BHJP
【FI】
G01D5/38 G
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-286303(P2011-286303)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-134211(P2013-134211A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2013年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(74)【代理人】
【識別番号】100079175
【弁理士】
【氏名又は名称】小杉 佳男
(72)【発明者】
【氏名】山元 規彰
【審査官】
吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平5−346330(JP,A)
【文献】
特開昭59−132311(JP,A)
【文献】
特開昭62−224024(JP,A)
【文献】
特開2009−192331(JP,A)
【文献】
特開2011−112833(JP,A)
【文献】
特開昭61−2016(JP,A)
【文献】
特開昭55−4592(JP,A)
【文献】
特開2001−174290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26〜5/38
G01B 11/00〜11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可干渉性の低い光束を出射する光源、
前記光源から出射した光束の入射を受けて該光束を略平行光となるように集光する照明光学系、
第1の一次元格子パターンが形成され該第1の一次元格子パターンの格子ベクトルの方向に移動する可動スリットと、該第1の一次元格子パターンの格子ベクトルと平行な格子パターンおよび同一の格子定数を有する第2の一次元格子パターンが形成され、前記照明光学系との間に該可動スリットを挟んだ位置、あるいは該照明光学系と該可動スリットとに挟まれた位置に置かれた固定スリットとからなり、前記照明光学系から出射した光束の入射を受けて該光束に作用を及ぼすスリット対、および
前記スリット対の作用を受けた光束を光電流に変換する光検出器を備え、
前記スリット対は、前記第1の一次元格子パターンと前記第2の一次元格子パターンとの間隙が、
次式
(A)を満たす|z|又は該|z|近傍となる各位置に、前記可動スリットと前記固定スリットを備えたものであることを特徴とする光学式エンコーダ。
【数1】
ただし、
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
はn次のベッセル関数、
【数6】
は、前記照明光学系の開口数、
【数7】
は光束の波数、
【数8】
は前記第1の一次元格子パターンおよび前記第2の一次元格子パターン双方に共通の格子定数
である。
【請求項2】
前記スリット対は、前記第1の一次元格子パターンと前記第2の一次元格子パターンとの間隔が、前記式(A)を満たす|z|又は該|z|近傍の、該間隔を
【数9】
としたときよりも高コントラストとなる各位置に、前記可動スリットと前記固定スリットを備えたものであることを特徴とする請求項1記載の光学式エンコーダ。
【請求項3】
前記可動スリットと前記固定スリットとのうちの一方のスリットが、格子ベクトル方向に位相が互いに90°ずれた2つの一次元格子パターンを有し、
前記光検出器は、前記2つの一次元格子パターンそれぞれの作用を受けた各光束を各光電流にそれぞれ変換する2つの光センサを有することを特徴とする請求項1又は2記載の光学式エンコーダ。
【請求項4】
前記照明光学系は、テレセントリック光学系であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の光学式エンコーダ。
【請求項5】
前記スリット対は、前記可動スリットおよび前記固定スリットを、前記第1の一次元格子パターン平面の法線および前記第2の一次元格子パターンの平面の法線が前記照明光学系の光軸と平行となる向きに配置してなることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の光学式エンコーダ。
【請求項6】
前記照明光学系は、正弦条件を満たす光学系であることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項記載の光学式エンコーダ。
【請求項7】
前記照明光学系は、さらに不遊条件を満たす光学系であることを特徴とする請求項6記載の光学式エンコーダ。
【請求項8】
前記スリット対は、前記可動スリットと前記固定スリットを、前記開口数
【数10】
として前記照明光学系の代表的な開口数を採用して算出された|z|または当該|z|近傍の間隙となる各位置に、備えたものであることを特徴とする請求項1から7のうちいずれか1項記載の光学式エンコーダ。
【請求項9】
前記スリット対は、前記可動スリットと前記固定スリットを、前記波数
【数11】
として、前記光源が出射する光束の波長分布を代表する波長を採用して算出された|z|または当該|z|近傍の間隙となる各位置に、備えたものであること特徴とする請求項1から8のうちのいずれか1項記載の光学式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置、変位量、回転量、速度、および回転速度などを検出する光学式エンコーダに係わり、とりわけ光学式リニアエンコーダ、光学式ロータリエンコーダ、光学式リニアゲージセンサなどに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
位置、変位量、回転量、速度、および回転速度などを検出する手段として、従来より光学式エンコーダが採用されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
この光学式エンコーダにおいて、近年、高分解能化が顕著である。変位量や回転量などを計測するための基準となるスケールの微細化は困難が伴うため、高分解能を達成する手段としては逓倍処理が利用されている。逓倍処理を行うためには、被測定体の変位量や回転量などに応じて、1/4周期ずれた、S/N比に優れ、かつ正弦波信号に良好に近似した2つの擬正弦波信号を生成する必要がある。
【0004】
図1,
図2は、光学系リニアゲージの基本構成を示した、それぞれ斜視図、側面図である。
【0005】
2つの良好な疑似正弦波信号を生成する手段として、例えば光学式リニアゲージにおいては、
図1,
図2に示す基本構成を従来有している。ここでは、光軸方向をZ軸、可動スリット3の可動可能方向をX軸、およびこれらの両軸に直交する方向をY軸としている。
【0006】
光源部1は耐久性とコスト面となどの要請からLED(Light Emitting Diode)などの空間的可干渉性が低い光源が使用されることが多い。光源部1のLEDが発する光束の波長をλとする。但し、一般に、LEDの発光スペクトルは単色ではなく、連続的な広がりをもつ。ここで表しているλは、そのスペクトルの最大値を示す場合のλと平均値を示す場合のλとなどがあり、光源部1のLEDが発する代表的な波長とする。
【0007】
光源部1から射出された波長λの光束は、照明光学系2に入射し、略平行光束に変換され、光軸に略垂直に配置されている可動スリット3に入射する。可動スリット3には、被測定物体の変位などを測定するためのシャフト6が接続されている。
【0008】
図3は、可動スリットの模式図(A)とその部分拡大図(B)である。
【0009】
可動スリット3の裏面には、
図3(B)に示す様に、格子ベクトルがX軸に平行な方向を向き、その定数がd、且つ濃淡長比が1:1の矩形状の濃淡格子パターンが刻まれている。
【0010】
可動スリット3の矩形状濃淡格子パターンを通過した波長λの光束は、この格子パターンによって回折を受け、可動スリット3と略平行に配置された、固定スリット4に入射する(
図1,
図2参照)。
【0011】
図4は、固定スリットの模式図(A)とその部分拡大図である。
【0012】
固定スリット4は、
図4に示すように、可動スリット3に刻まれている濃淡格子パターンと同様なパターンで、その格子ベクトル方向がX軸に平行であり、且つその位相差が1/4周期分ずれている2種類の濃淡格子パターンが、固定スリット4の表面に刻まれている。以降、これら2種類の濃淡格子パターンを、慣習にならって、A相、及びB相とそれぞれ表すことにする。
【0013】
さらにまた、可動スリット3裏面の矩形状濃淡格子パターンのフーリエイメージが良好に固定スリット4表面に形成させるために、これらの面の間隙長zは、
【0014】
【数1】
の近傍に設定されている。この条件は、光源部1が点光源の場合、最も望ましい間隙長である。
【0015】
光源部1がレーザのような点光源の場合、固定スリット4表面に形成される、可動スリット3裏面の矩形状濃淡格子パターンのフーリエイメージは、その格子パターン同様矩形分布する。しかしながら、光源部1がLEDの様な面光源の場合、照明光学系2が提供する略平行光束は開口数を伴う。照明光学系2の焦点距離を最適化すれば、上記矩形イメージは照明光学系2の開口数の影響を受け、その像がボケ、あたかも正弦波のような様相を示す。この像を擬正弦波として用いるのが一般的である。
【0016】
上記の正弦波の様な光強度分布を有する波長λの光束は、固定スリット4に刻まれている濃淡格子パターンを通過することによって、可動スリット3の変位に応じて、その光強度が変動することになる。例えば、可動スリット3がその移動方向に対し等速運動している場合、固定スリット4を通過してくる光束の光強度は、時間の経過にしたがって、擬正弦波振動をすることとなる。この際、固定スリット4に刻まれている2つの濃淡格子パターン、A相と、B相とを通過した波長λの光束による擬正弦波光強度は、それぞれ1/4周期分の位相差を伴う。
【0017】
固定スリット4の2つの矩形濃淡格子パターン、A相と、B相とを通過した波長λの光束は、光検出器5を構成するそれぞれ別個の光センサ5a,5bに入射し、それぞれ光電流に変換される。多くの場合、これらの光電流は電圧に変換され、逓倍処理回路にて、可動スリット3や固定スリット4に刻まれている濃淡格子パターンより細かい分解能に変換された電気信号を出力する。
【0018】
従来は、この様な構成にて高逓倍に対応していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平05−346330号公報
【特許文献2】特開2006−58116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述の濃淡格子パターン間の間隙長設定値は、光源がレーザ光の様な点光源とみなせる場合においての最適値である。このとき、可動スリット裏面の矩形状濃淡格子パターンのフーリエイメージは最大のコントラストを呈し、良好なS/N比の信号を提供することは周知のとおりである。
【0021】
しかしながら、上述の背景技術のように、光源としてLEDに代表される面光源を用いる場合、式(1)にて表される濃淡格子パターン間間隙長設定値において、可動スリット裏面の矩形状濃淡格子パターンによって、固定スリットに刻まれている濃淡格子パターン上に形成される可動スリット裏面の矩形状濃淡格子パターンフーリエイメージの光強度分布は、良好なコントラストを呈しない。
【0022】
通常、シャフトなどが取り付けられている可動スリットの回転が拘束された直線運動には、ピッチング、ヨーイングなどの揺動が伴う。このとき、固定スリットに刻まれている濃淡格子パターン上に形成される可動スリット裏面の矩形状濃淡格子パターンフーリエイメージの光強度分布コントラストが、矩形濃淡格子パターン間間隙長に対し極値を示していなければ、得られる正弦波の振幅が変動することとなり、良好な逓倍処理機能を行うことが難しくなる。また、その光強度分布が最大コントラストを示していなければ、良好なS/N比の信号もえられない。ここで、固定スリットに刻まれている濃淡格子パターン上に形成される可動スリット裏面の矩形状濃淡格子パターンフーリエイメージの光強度分布が最大コントラストを示していれば、その矩形濃淡格子パターンフーリエイメージの光強度分布コントラストが、矩形状濃淡格子パターン間間隙長に対する極値を示すことと同じであることは明白である。
【0023】
また、逓倍処理を施すための2つの擬正弦波信号を、照明光学系の開口数にたよった可動スリット矩形状濃淡格子パターンのフーリエイメージのボケにて表現する場合、固定スリットの矩形状濃淡格子パターン上に形成される可動スリット裏面の矩形状濃淡格子パターンフーリエイメージの光強度分布は、照明光学系の正弦条件、及び不遊条件がほぼ満たされている場合、可動スリット矩形状濃淡格子パターンのフーリエイメージと照明光学系の開口数によるボケとのコンボリューションとなるが、良好な擬正弦波信号を得るためには、原理的にボケ幅を大きくとらなければならず、そのため、照明光学系の焦点距離を小さくし、結果として信号振幅が小さくなるため、電気処理系にて信号増幅の割合が大きくなり、擬正弦波信号のS/N比の向上に不利益をもたらす。
【0024】
前掲の特許文献1では、発光面積が比較的大きなLEDを使用することを前提として良好なコントラストの信号を得る試みがなされているが、その特許文献1では点光源を仮定した式が採用されており、誤った結果しか得られていない。
【0025】
そこで、本発明は、斯かる点に鑑み、光源としてLEDに代表される面光源を用いる場合であっても、スリット対を構成する、光源に近い側のスリットに形成された格子パターンのフーリエイメージの良好な光強度分布コントラストをもう一方のスリットの格子パターン上に提供し、さらに、照明光学系の開口数にたよらずに良好な擬正弦波信号を生成すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の光学式エンコーダは、
可干渉性の低い光束を出射する光源、
上記光源から出射した光束の入射を受けて該光束を略平行光となるように集光する照明光学系、
第1の一次元格子パターンが形成され第1の一次元格子パターンの格子ベクトルの方向に移動する可動スリットと、第1の一次元格子パターンの格子ベクトルと平行な格子パターンおよび同一の格子定数を有する第2の一次元格子パターンが形成され、照明光学系との間に可動スリットを挟んだ位置あるいは照明光学系と可動スリットとに挟まれた位置に置かれた固定スリットとからなり、照明光学系から出射した光束の入射を受けてその光束に作用を及ぼすスリット対、および
上記スリット対の作用を受けた光束を光電流に変換する光検出器を備え、
上記スリット対は、前記第1の一次元格子パターンと第2の一次元格子パターンとの間隙が、
次式
(A)を満たす|z|又は|z|近傍となる各位置に、可動スリットと固定スリットを備えたものであることを特徴とする。
【0027】
【数2】
ただし、
【0028】
【数3】
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
【数6】
はn次のベッセル関数、
【0032】
【数7】
は、照明光学系の開口数、
【0033】
【数8】
は光束の波数、
【0034】
【数9】
は第1の一次元格子パターンおよび第2の一次元格子パターン双方に共通の格子定数
である
。
【0035】
ここで、上記スリット対は、第1の一次元格子パターンと第2の一次元格子パターンとの間隔が上記式(A)を満たす|z|又は該|z|近傍の、該間隔を
【0036】
【数10】
としたときよりも高コントラストとなる各位置に、上記の可動スリットと固定スリットを備えたものであってもよい。
【0037】
後述する式の導出過程から明らかな通り、第1の一次元格子パターンと第2の一次元格子パターンとの間隔が、上記の|z|又は|z|近傍となる各位置に、可動スリットと固定スリットを備えることにより、面光源を用いて、良好な擬正弦波信号を生成することができる。
【0038】
また、
本発明の光学式エンコーダにおいて、可動スリットと固定スリットとのうちの一方のスリットが、格子ベクトル方向に位相が互いに90°ずれた2つの一次元格子パターンを有し、上記光検出器は、それら2つの一次元格子パターンそれぞれの作用を受けた各光束を各光電流にそれぞれ変換する2つの光センサを有することが好ましい。
【0039】
この構成により、位相が異なる2つの良好な擬正弦波信号を得ることができ、高精度な逓倍処理を行なうことができる。
【0040】
また、本発明の光学式エンコーダにおいて、
(1)上記照明光学系は、略テレセントリック光学系であること
(2)上記スリット対は、可動スリットおよび固定スリットが、第1の一次元格子パターン平面の法線および第2の一次元格子パターンの平面の法線が照明光学系の光軸と平行となる向きに配置されていること
(3)上記照明光学系は、略正弦条件を満たす光学系であること
(4)上記照明光学系は、さらに略不遊条件を満たす光学系であること
(5)上記スリット対は、可動スリットと固定スリットを、上記開口数
【0041】
【数11】
として照明光学系の代表的な開口数を採用して算出された間隙|z|または|z|近傍の間隙となる各位置に、備えたものであること
(6)この場合にその開口数が
【0042】
【数12】
を満たすこと
(7)上記スリット対は、可動スリットと固定スリットを、上記波数
【0043】
【数13】
として、上記光源部が出射する光束の波長分布を代表する波長を採用して算出された|z|または|z|近傍の間隙となる各位置に、備えたものであること
が、それぞれ好ましい。
【0044】
これらを満たすことにより、|z|が一層高精度に算出される。
【0045】
尚、上記照明光学系は、レンズ系(球面レンズ、非球面レンズなど)であってもよく、回折光学系(フレネルレンズなど)であってもよく、あるいはそれらの複合からなる光学系であってもよい。
【発明の効果】
【0046】
以上の本発明によれば、スリット対を構成する、光源に近い側のスリットに形成された格子パターンのフーリエイメージの良好な光強度分布コントラストをもう一方のスリットの格子パターン上に提供し、さらに、照明光学系の開口数にたよらずに良好な擬正弦波信号が生成される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】光学系リニアゲージの基本構成を示した斜視図である。
【
図2】光学系リニアゲージの基本構成を示した側面図である。
【
図3】可動スリットの模式図(A)とその部分拡大図(B)である。
【
図4】固定スリットの模式図(A)とその部分拡大図(B)である。
【
図5】
図1,
図2に示す基本構成において、前述の式(14)に基づいて可動スリット上の格子パターンと固定スリット上の格子パターンとの間の距離を変えたときの、距離zとコントラストとの対応関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に説明する実施形態は、上記の課題を解決するために、位置、変位量、回転量、速度、および回転速度などを検出する光学式エンコーダにおいて、例えば光学式リニアゲージセンサにおいては、LEDに代表される可干渉性の低い面光源と、光源からの光束を略平行に変換する照明光学系と、光源の光軸に略垂直に配置され、変位量、回転量などを検出するため可動であり、且つ格子ベクトルが可動方向に平行に設定された矩形状濃淡格子パターンをその下面に有している可動スリットと、可動スリットと略平行に配置され、且つその上面に、矩形状濃淡格子パターンが可動スリットに刻まれている矩形状濃淡格子パターンと平行に設定されたA相やB相などのパターンを有している固定スリットと、上記A相やB相などの矩形状濃淡格子パターンを通過した波長λの光束を別個に検出する光検出器群とからなり、可動スリットの揺動に対しても、擬正弦波信号の振幅の変化量が小さく、尚且つ、良好な擬正弦波信号を生成するため、照明光学系によって略平行に変換され、また開口数
【0050】
【数14】
を有する場合でも、波長λの光束が受ける可動スリットの矩形状濃淡格子パターンによる回折光束の内、0次光と±1次光との干渉の効果が最大になる様、濃淡格子パターン間間隙長を設定することを特徴とする光学式エンコーダを提供する。
【0051】
表現を変えると、固定スリットの矩形状濃淡格子パターン上に提供される擬正弦波信号のコントラストが、濃淡格子パターン間間隙長に対し極値をとると同時に、可動スリットの矩形状濃淡格子パターンから発せられる回折光の内、0次光と±1次光との干渉の効果が最大になる濃淡格子パターン間間隙長を定量的に表現すること、つまりは、濃淡格子パターン間間隙長最適値を照明光学系の開口数と、光束は波長λと、そして可動スリットの矩形状濃淡格子パターン定数
【0052】
【数15】
との関数として表すことによって課題を解決しようとするものである。
【0053】
本実施形態においても基本構成は
図1〜
図4を参照して説明した通りであり、以下では、
図1〜
図4を本実施形態の基本構成を表わした図として取り扱って、本実施形態を説明する。
【0054】
以下に、上記の濃淡格子パターン間間隙長最適値を求める。
【0055】
ここで採用する座標系を、上述した系、すなわち、光源部1の光軸方向をZ軸、可動スリット3の可動可能方向をX軸、およびこれらの両軸にそれぞれ直交する方向をY軸としたカーテシアン座標系とする。
【0056】
まず、濃淡格子パターン間の電場を決定する。
【0057】
厳密には、電場はベクトル量として扱われるべきであるが、矩形状濃淡格子パターンの格子定数
【0058】
【数16】
は、光束の波長λより十分大きいものと仮定し、この条件下で有効な近似であるスカラー波
【0059】
【数17】
で電場を表現する。可動スリットの矩形状濃淡格子パターンによって回折を受ける波長λの光束のスカラー波
【0060】
【数18】
は、定常状態における波動方程式、
【0061】
【数19】
を満たし、且つ境界条件として可動スリットの矩形状濃淡格子パターン上のz=0においては、濃淡格子パターンに合致した振幅分布をもつことが期待される。なお
【0062】
【数20】
は光束を代表する波数ベクトルである。また、後にスカラー波
【0063】
【数21】
から光強度を求め、これが議論の中心となるので、スカラー波
【0064】
【数22】
の任意の位相項は無視し、なおかつスカラー波
【0065】
【数23】
は成分分離形式で表現できるとすると、スカラー波
【0068】
【数26】
と表現できる。式(3)と式(4)とを式(2)に代入し、フレネル回折領域までの近似を行なうと、
【0070】
【数28】
と決定できる。なお、ここで光束を代表する波数ベクトル
【0075】
【数32】
から、濃淡格子パターン間の光束の光強度
【0077】
【数34】
としたことと、定常状態を仮定したこととから、光強度
【0078】
【数35】
をxとzとの関数とみなす。
【0080】
【数36】
が円錐状であると仮定し、かつ照明光学系が正弦条件と、不遊条件とを略満足しているとすると、濃淡格子パターン間の光束の規格化された光強度
【0083】
【数39】
と表現できる。したがって、濃淡格子パターン間の光束の規格化された光強度
【0084】
【数40】
の具体的な表現は、多くの光学式エンコーダにおいて有効である条件
【0090】
【数46】
はn次の第1種ベッセル関数である。ここで、式(9a)の
【0091】
【数47】
は、照明光学系から供給される平行光束が濃淡格子パターンによって回折を受け、タルボ効果と知られている現象を表し、
【0092】
【数48】
は照明光学系から供給される光束の開口数
【0093】
【数49】
によるその補正項を表している。このようにして、濃淡格子パターン間の光束の光強度
【0095】
最後に、波長λの光束が受ける可動スリットの矩形状濃淡格子パターンによる回折光束の内、0次光と±1次光との干渉の効果が最大で、光擬正弦波信号が最大コントラストを呈する条件を決定する。
【0097】
【数51】
であるが、第1に解析的な取り扱いが困難なこと、第2に光擬正弦波の情報が得られないことから、式(10)による定義はここでは採用しないこととする。ここで、添字max,minは、それぞれ最大値と最小値を表現している。代わりに、波動方程式(2)を解いた際の境界条件から決定される所望の光擬正弦波信号
【0101】
【数55】
であるので、最小2乗法により振幅
【0102】
【数56】
を決定し、コントラストの定義をここでは、
【0103】
【数57】
とする。そのために、評価関数
【0105】
【数59】
を求める。これは簡単に計算できて、
【0107】
光擬正弦波のコントラストの濃淡格子パターン間間隙長に対する極値は、式(14)を微分して、その微係数が0であればよいので、
【0108】
【数61】
と表現できる最適の濃淡格子パターン間間隙長が得られる。また、式(14)は、矩形状濃淡格子パターンによる回折光束の内、0次光と±1次光のみが所望の信号に寄与することを意味している。したがって、波長λの光束が受ける可動スリットの矩形状濃淡格子パターンによる回折光束の内、0次光と±1次光との干渉の効果が最大で、光擬正弦波信号が最大コントラストを呈する条件が決定された。
【0109】
また、式(14)の右辺の余弦関数は通常のタルボ効果を表し、式(14)の右辺のその他の項は照明光学系の開口数
【0110】
【数62】
による補正を表している。式(14)より、照明光学系の開口数
【0111】
【数63】
による補正の影響によって、光擬正弦波信号が最大コントラストを呈する矩形状濃淡格子パターン間間隙長は、光源が面光源の場合、点光源の場合に比べて短いことを示している。
【0112】
以下、
図1〜
図4に戻って本実施形態について追加説明を行なう。
【0113】
本発明は、光学式ロータリエンコーダ、光学式リニアエンコーダ、光学式リニアゲージなどに適用できるが、本実施形態は本発明を光学式リニアケージに適用したものである。
【0114】
光源部1はLEDからなり、その光源部1から発せられた光束は可動スリット3を照明するための、回折非球面レンズからなる照明光学系2に入射する。この照明光学系2を構成する回折非球面レンズはほぼfsinθレンズであり、かつ光源部1からの光束をほぼ平行光束に変換する。
【0115】
また、この照明光学系2を構成する回折非球面レンズはほぼ正弦条件と不遊条件とを満たしており、可動スリット上をほぼ均一の開口数
【0117】
可動スリット3は光学的に透明なガラス状のものであり、その裏面には
図3のような矩形状の格子定数
【0118】
【数65】
の回折格子がパターニングされている。また可動スリット3には、被測定物体の変位を測定するためのシャフト6も取り付けられている。
【0119】
可動スリット3に入射した光束は、その可動スリット3にパターニングされている回折格子によって回折され、固定スリット4に入射する。固定スリット4も光学的に透明なガラス状のものであり、その表面には可動スリットと同様な格子パターンを有している。
【0120】
可動スリット3にパターニングされた回折格子のパターン面と固定スリット4にパターニングされた回折格子のパターン面との間隙長zは、ほぼ以下の条件を満たしている。
【0126】
【数71】
は、照明光学系の開口数、
【0128】
【数73】
は可動スリットに刻まれた濃淡格子パターンおよび固定スリットに刻まれた濃淡格子パターン双方に共通の格子定数
である。
【0129】
固定スリット4に入射した光束は、固定スリット4の格子パターンにより濾され、光センサ5a,5bに入射する。光センサ5a,5bは入射した光学的正弦波信号から光電流を発生させ電気的正弦波信号に変換し、信号処理機構に信号を送付する。
【0130】
尚、ここに示す基本構成の場合、照明光学系2に近い側を可動スリット、離れた側を固定スリットとしたが、照明光学系2に近い側に固定スリットを配置し、離れた側に可動スリットを配置してもよい。
【0131】
またここでは、
図4に示すA相とB相との2つの格子パターンを固定スリット側に形成した例を示したが、これらA相とB相との2つの格子パターンは可動スリット側に形成してもよい。
【0132】
図5は、
図1,
図2に示す基本構成において、前述の式(14)に基づいて可動スリット3上の格子パターンと固定スリット4上の格子パターンとの間の距離を変えたときの、距離zとコントラストとの対応関係を示した図である。
【0133】
前述の背景技術によれば、可動スリット上の格子パターンと固定スリット上の格子パターンが
【0134】
【数74】
となるように、可動スリットと固定スリットが配置されるが、本実施形態によればその距離よりも少し短い距離である、距離z
aとなるように配置される。この距離z
aは、コントラストが極値をとる距離であり、したがって距離zが多少変動してもコントラストの変化は僅かであり、その分、可動スリットの移動に伴うピッチング、ヨーイングなどの揺動が許容され、また、従来よりも高精度な逓倍処理が可能となる。
【符号の説明】
【0135】
1 光源部
2 照明光学系
3 可動スリット
4 固定スリット
5 光検出器
5a,5b 光センサ
6 シャフト