(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701760
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】炭疽菌ワクチン製剤とその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 39/02 20060101AFI20150326BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20150326BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20150326BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
A61K39/02
A61K39/39
A61K47/04
A61P31/04
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-529634(P2011-529634)
(86)(22)【出願日】2009年10月2日
(65)【公表番号】特表2012-504589(P2012-504589A)
(43)【公表日】2012年2月23日
(86)【国際出願番号】GB2009051293
(87)【国際公開番号】WO2010038076
(87)【国際公開日】20100408
【審査請求日】2012年10月2日
(31)【優先権主張番号】61/194,967
(32)【優先日】2008年10月2日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509035093
【氏名又は名称】ファーマシーネ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100066061
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(74)【代理人】
【識別番号】100143340
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 美良
(72)【発明者】
【氏名】ワトキンソン,アラン
(72)【発明者】
【氏名】ウッドハウス,デービッド
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン,ロバート
【審査官】
吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】
VACCINE,2003年,VOL.21,P.3011-3018
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00−39/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジュバンドに結合した治療的有効量の炭疽菌保護抗原(PA)を含んでなり、かつ3.5mM〜4.5mMの範囲の濃度でホスフェート塩を含む、炭疽菌ワクチン。
【請求項2】
前記炭疽菌保護抗原(PA)が組換え炭疽菌保護抗原(rPA)である、請求項1に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項3】
前記アジュバントが水酸化アルミニウムゲルである、請求項1に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項4】
前記ホスフェート塩の濃度が3.8mM〜4.2mMの範囲である、請求項1に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項5】
前記ホスフェート塩の濃度が3.9mM〜4.1mMの範囲である、請求項1に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項6】
前記ホスフェート塩の濃度が4.0mMである、請求項1に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項7】
前記ワクチンのpHが7.0〜7.2である、請求項1に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項8】
前記水酸化アルミニウムゲルが0.15〜0.35%で存在する、請求項3に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項9】
前記水酸化アルミニウムゲルが0.20〜0.30%で存在する、請求項3に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項10】
前記rPAが10〜300μg/mlの範囲である、請求項2に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項11】
前記rPAが150〜250μg/mlの範囲である、請求項2に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項12】
前記rPAが50〜300μg/mlの範囲である、請求項2に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項13】
前記rPAが100〜300μg/mlの範囲である、請求項2に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項14】
前記rPAが100μg/mlで存在し、前記ホスフェート塩が4.0mMで存在し、前記水酸化アルミニウムゲルが0.26重量%で存在し、かつ前記ワクチンのpHが7.1である、請求項2に記載の炭疽菌ワクチン。
【請求項15】
アジュバンドに結合した治療的有効量の炭疽菌保護抗原(PA)を含んでなり、2.5mM〜4.5mMの範囲の濃度でホスフェート塩を含み、かつ前記アジュバンドが水酸化アルミニウムゲルである、炭疽菌ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年10月2日出願の米国仮特許出願第61/194967号の優先権を主張し、当該出願の内容は、その全体を参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の権利
本発明は、NIAID/NIH(契約番号NOI−AI−30053)での契約下で行われ、米国政府は、本発明の権利を有してよい。
【0003】
本発明は、炭疽菌保護抗原を含有する製剤などのワクチン製剤、及びこうしたワクチンの分野に関するものであり、ワクチンの効率が維持されかつ高められる。
【背景技術】
【0004】
ワクチンは、通常、アジュバントを用いて処方される。一般的なアジュバント様式は、アルミニウムを主成分とするコロイドであり、通常、ミョウバンと称される。より詳しくは、通常、これらは水酸化アルミニウム(別名アルハイドロゲル)及びリン酸アルミニウム(別名アジュホス)である。例えば、炭疽菌(バチルス・アントラシス)のような生命体に対する有用なワクチンは、通常、こうしたワクチンに使用される炭疽菌抗原を結合するアルハイドロゲルを用いて処方される(いわゆるサブユニット・ワクチン)。このようにして製造される製剤の1つの目的は、ミョウバンに対する組換え保護抗原(rPA)の結合を最大限にすることである。リン酸イオンは、アルハイドロゲルのコロイドからの抗原を脱着することが知られているため、こうした製剤のホスフェート濃度は、意図的に低く維持されている(0.25mM)。この濃度のホスフェート緩衝剤は、rPAがアルハイドロゲルのコロイドに結合することを妨げない。例えば、この製剤において、本発明者らは、組換え保護抗原(rPA)の結合が98%超であることを見出している。
【0005】
この製剤処方のバッチは、第1相臨床試験と第2相臨床試験に使用され、ヒトにおける安全性と免疫原性が実証されている。
【0006】
この元の製剤においては、少ないホスフェート緩衝剤の不十分な緩衝性能により、pHは5.9である。rPA製剤の安定性を高め、より生理学的なpHを得るためには、製剤のより高度なコントロールが必要と判断された。製剤処方の緩衝性能を改良するには、製剤処方のpHを7に高めることが必要と考えられる。pH7.0にコントロールするには、あり得る生理学的緩衝剤はホスフェートであり、これは7.2のpKaを有するが、製剤にホスフェートを使用すると、rPAとミョウバンの結合に阻害効果を及ぼすという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
pKaに基づくと、あり得る代替にはヒスチジン(pKa6.04)が考えられるが、しかしながら、液体で貯蔵すると、酸化されて茶色になるという性質がある。さらに、ヒスチジンのような代替の緩衝剤の導入は、製剤における大きな変更を招くと考えられる。したがって、新たなアプローチが必要とされる。
【0008】
その後、本発明者は、ホスフェート濃度を、pHをコントロールすると同時にrPAとアルハイドロゲルの結合には最小限の効果に過ぎないレベルまで高めることが可能であることを見出した。結果として、ホスフェート濃度は約4mMまで高められ、この濃度では、製剤を約7.0のpHに維持することができ、未結合rPAの量は、有意に影響されず、アッセイ検出レベル未満(2%未満)に維持される。
【0009】
また、このことは、こうしたホスフェート濃度が、ワクチン製剤の生物活性を大幅に高めるといった驚くべき結果をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの局面において、本発明は炭疽菌ワクチン組成物に関し、前記組成物は、薬学的に許容される担体中に治療的有効量の炭疽菌抗原を含み、かつ2mM〜10mM、好ましくは2.5mM〜7.5mM、より好ましくは3mM〜5mMの範囲の濃度、又は3.5mM〜4.5mM、さらにより好ましくは3.8mM〜4.2mMの範囲、又は3.9mM〜4.1mMの範囲、最も好ましくは約4.0mMの濃度のホスフェートを含む。
【0011】
特定の態様において、前記ワクチンは、炭疽菌抗原、好ましくは保護抗原のような炭疽菌サブユニット、最も好ましくは組換え保護抗原(rPA)を含む。別な態様において、前記ワクチンは、アジュバント、好ましくはミョウバン(アルハイドロゲル)をさらに含む。1つの態様において、前記ワクチン組成物は、凍結乾燥された粉末の形態である。もう1つの態様において、前記ワクチン組成物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)をさらに含んでもよい。
【0012】
本発明のワクチン組成物又は製剤の別の例において、前記ワクチン組成物のpHは7.0〜7.2の範囲、好ましくは約7.1である。
【0013】
別の例において、本発明の炭疽菌ワクチン組成物は、約0.15〜0.35%、好ましくは約0.20〜0.30%、より好ましくは約0.24〜0.28%のアルハイドロゲル(ミョウバン)を含み、最も好ましくは、アルハイドロゲル(ミョウバン)は約0.26%で存在する。
【0014】
好ましい態様において、本発明のワクチンは、サブユニットワクチンである。さらなる態様において、サブユニットワクチンは炭疽菌ワクチンであり、rPAは約200μg/ml存在し、ここで、ホスフェートは約4mM存在し、アルハイドロゲルは約0.26重量%存在し、前記ワクチンのpHは約7.1である。
【0015】
本発明は、さらに、哺乳類における細菌感染症に対する保護方法に関するものであり、こうした感染症の恐れのある哺乳類に、本発明のワクチン組成物の治療的有効量を投与することを含む。さらなる態様において、細菌感染症は炭疽菌(バチルス・アントラシス)感染症であり、及び/又は哺乳類はヒトである。
【0016】
本発明は、さらに、哺乳類における細菌感染症の治療方法に関するものであり、こうした感染症を患う哺乳類に、本発明のワクチン組成物の治療的有効量を投与することを含む。さらなる態様において、細菌感染症は炭疽菌(バチルス・アントラシス)感染症であり、及び/又は哺乳類はヒトである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】組換え保護抗原(rPA)製剤の製造フローチャートを示す。
【
図2】高ホスフェート製剤と低ホスフェート製剤のED50比較の結果を示す。
【
図3】アルハイドロゲル希釈剤と製剤のゼータ電位に及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図4】非結合rPAに及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図5】ラングミュア解析によって測定した、アルハイドロゲルに結合したrPAの吸着能と吸着係数に及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図6】処方された製剤におけるrPAの二次構造に及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図7】処方された製剤におけるrPAの三次構造に及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図8】DSCによって測定されたrPA溶融に及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図9】熱変性/内部蛍光によって測定されたrPA溶融に及ぼすホスフェートの効果を示す。
【
図10】種々のホスフェート濃度で処方された製剤のエピトロープ認識を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、薬学的に許容される担体中に治療的有効量の炭疽菌保護抗原(rPA)のような炭疽菌抗原、及び2〜10mM、好ましくは3〜5mM、より好ましくは約4mMの濃度のホスフェート塩を含み、アジュバントとしてアルハイドロゲルを使用する、炭疽菌サブユニットワクチン製剤を提供する。また、本発明は、治療的有効量の本発明のワクチンを投与することによって、細菌感染症、とりわけヒトにおける炭疽菌感染を治療又は予防する方法を提供する。
【0019】
本願明細書における用語「有効量」又は「治療的有効量」は、細菌感染症、とりわけ炭疽菌感染症の1つ又は複数の症状を治療、抑制、又は軽減するのに十分な用量を意味する。正確な用量は、患者の年齢、免疫系の状況、全体的健康、環境状態、感染(又は予想される感染)の性質と範囲、及び以降の治療/ワクチン接種の利用可能性などの因子によって変わり得る。
【0020】
一般に、ワクチンは、水溶液又は懸濁液の形態で注射可能に調製される。吸入用などのオイルベースのワクチンもまたよく知られている。使用前に溶解又は懸濁させる固体状物もまた処方することができる。一般に、活性成分に適合してかつ製薬学的用途に適用可能な薬学的に許容される担体、希釈剤、及び賦形剤もまた添加される。
【0021】
また、本発明に有用な医薬組成物は、適切な希釈剤又は賦形剤を含む薬学的に許容される担体を含み、ただし、この担体は、前記組成物を受け入れる個体に有害な抗体の産生をそれ自身が惹起しない医薬品を含んでもよく、過度の毒性なしに投与され得るものである。薬学的に許容される担体には、限定されるものではないが、水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノールなどが挙げられ、経鼻その他の気道送達又は眼部への送達のためのスプレーを形成するのに有用な担体が含まれる。薬学的に許容される担体、希釈剤、及びその他の賦形剤の全体的詳解を「REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES (Mack Pub. Co., N.J. 現行版)」に見ることができる。
【0022】
ワクチン組成物は、さらに、pHを安定化させる付加的な物質、又はアジュバント、湿潤剤、もしくは乳化剤として機能する付加的な物質を含むことができ、これらは、前記ワクチンの有効性の改良に役立てることができる。
【0023】
ワクチンは、一般に、非経口投与用に処方され、皮下又は筋肉内に注入される。また、こうしたワクチンは、当該技術で知られた方法を用いて、座薬として又は経口投与用に、あるいは、鼻ルート又は呼吸ルートを通した投与用に処方するができる。
【0024】
病原菌、ウイルス、又は他の微生物に対する免疫を与えるのに十分なワクチンの量は、本明細書に記載のガイダンスを考慮し、当業者によく知られた方法によって見出すことができる。この量は、ワクチン接種者の特徴と必要な免疫レベル(上述のような)に基づいて見出すことができる。ワクチンが皮下注射又は筋肉注射によって投与される場合、0.5〜500μg精製タンパク質の範囲を与えることができる。本発明に有用なものとして、免疫原性タンパク質、免疫原性ポリペプチド、又はこれらの免疫活性断片の約1μg、場合により10μg、さらには50μg、多くは100μg、又は最大で500μgを与える量が通常は十分である。また、複数のこうした活性物質がワクチンに存在してもよい。即ち、複数の抗原構造が、ワクチン又はワクチン組成物を処方するのに使用され、本明細書に記載の方法に使用されてよい。この場合、個々に免疫原のタンパク質もしくはポリペプチド、又は組み合わされたときのみ免疫活性を示すタンパク質もしくはポリペプチドを含んでもよく、これらは、それぞれの濃度で量的に同じであってよく、又は明確なもしくは不明確なある比で存在するように処方されてもよい。
【0025】
本明細書に記載の方法に使用されるワクチン組成物は、1つ又は複数の免疫原タンパク質、1つ又は複数の免疫原ポリペプチド、及び/又はこれらの免疫原タンパク質と免疫原ポリペプチドの抗原断片を含む1つ又は複数の免疫活性イムノゲンを含んでもよく、前記断片は、本発明の使用において選択される任意の割合で存在することができる。本発明の方法に有用な正確な構成成分、それぞれの量、ワクチンの形成、及びワクチン組成物は、とりわけ、治療又は予防されるべき疾病の性質、すでに発生している場合の症状の重症度、年齢、性別、受給者の全体的健康、及びこれらの方法を用いる研究者及び/又は臨床医の個人的及び専門的な経験と意向によって決められる。
【0026】
炭疽菌に対して使用するためのサブユニットワクチンなどの本発明のワクチンに関し、本ワクチン組成物の特定の非限定的例として、前記rPAが、約10〜300μg/ml、好ましくは50〜300μg/ml存在し、又は前記rPAが、約100〜300μg/ml、より好ましくは150〜250μg/ml存在し、最も好ましくは、前記rPAが約200μg/ml存在する。
【0027】
別の例において、抗原、好ましくはrPAの投与されるべき用量は、少なくとも約5μg、又は少なくとも約10μg、又は少なくとも約25μg、又は少なくとも約50μg、又は少なくとも約75μg、又は少なくとも約100μg、又は少なくとも約150μg、又は少なくとも約200μgであり、好ましい投与量は約100μgである。好ましい投与量体積は約0.5mlである。
【0028】
本発明は、さらに、精製抗原、好ましくは炭疽菌抗原、より好ましくは炭疽菌保護抗原(PA)、最も好ましくは組換え炭疽菌保護抗原(rPA)を含むワクチンに関するものであり、これらは、例えば、2007年11月1日公開のWO2007/122373の
図2に記載されており、その開示事項は全体として本願に取り入れられており、あるいは、WO02/04646に記載のような、アジュバント、好ましくはミョウバンベースのアジュバントに結合したものなどを含むワクチンに関するものである。好ましい態様において、本発明は、ミョウバン結合rPA、及び少なくとも約2mM、最も好ましくは約4mMのホスフェート塩を含み、約pH7.1のサブユニットワクチンに関する。
【0029】
rPA製剤の製造方法の簡潔な説明を、プロセス図(
図1)とともに下記に示す。薬剤原料を−70℃の貯蔵から取り出し、2〜8℃で解凍する。多量の薬剤原料溶液を解凍している間に、3種類の溶液、即ち、溶液A〜Cを製剤プロセスにおいて調製・使用する。溶液Aは、原液の0.5Mホスフェート緩衝液であり、以降で溶液C(ホスフェート緩衝の0.9%生理食塩水、0.04%のTween20を含む)を製造するために使用する。溶液Cは、rPA製剤原料を必要濃度まで希釈するのに使用する。溶液Bは1.22%生理食塩水を含み、アルハイドロゲルのオスモル濃度をバランスさせるのに使用する。元の低ホスフェートプロセスと改良された高ホスフェートプロセスとの間の相違は、溶液Cにおけるホスフェート濃度とpHである。
【0030】
rPA製剤原料を解凍し、製造過程分析でA280nmによってrPAタンパク質濃度を測定した後、この材料を、適切な量の溶液Bと溶液Cとともに無菌濾過に供し、製剤容器に入れる。混合した後、無菌アルハイドロゲルを添加し、連続的に混合して、製剤処方、即ち、ホスフェート緩衝の0.9%生理食塩水中の200μg/mlのrPAと0.26%アルハイドロゲルを産生する。この製剤処方を2時間にわたって撹拌した後、注射器その他の適切な容器に注入する。
【0031】
低ホスフェート製剤については、臨床において使用される最終的物質の使用時のpHは5.9であることが分かっている。これに対し、高ホスフェート製剤のpHは使用時に約7.2であった。この結果、ホスフェート濃度の増加は、pHを中性/生理学な値にコントロールする目的において満足されると判断できる。
【0032】
マウスの効力挑戦アッセイを使用し、製剤の全バッチを試験・使用した。このアッセイは、製剤が全て製造後に効力があることを実証した。
【0033】
バッチ効力の相対的評価を可能にする目的で、試験データからED50値(有効用量の尺度)を導き出した。驚くことに、高ホスフェートのバッチは、低ホスフェートのバッチに比較して、効力において有意な向上を生じることが示された。さらに、高ホスフェート製剤のデータは、低ホスフェート製剤のデータよりもかなり一貫性があった(
図2における短い誤差バーによって示されるように)。即ち、ホスフェート濃度の変更は、製剤効力の顕著な向上を予想外にもたらした。
【0034】
rPA製剤プロセス/処方におけるホスフェートの許容できる操作範囲を定めるため、タンパク質とミョウバンコロイドの双方に及ぼすホスフェート濃度の効果を評価する一連の検討を行った。これらの検討結果を下記に示す。
【0035】
アルハイドロゲル粒子に及ぼすホスフェートの効果を評価するため、ミョウバンコロイド粒子のゼータ電位を測定した。製剤とミョウバン希釈剤を0.25mM〜5mMのホスフェート濃度範囲で新たに処方し、第0日と第7日にゼータ電位を測定した。この結果、ホスフェート濃度を高めるとゼータ電位はよりマイナスになり、2〜3mMのホスフェートの間の点は変化がないことを示した(
図3)。また、製剤と希釈剤の双方のゼータ電位は、処方する際に平行に達せず、7日間以上にわたって変化を続けることが分かった。このデータは、製剤の後にホスフェートとミョウバンの相互作用が継続することを示した。しかしながら、高ホスフェート製剤バッチが約−20mVのゼータ電位を有することを示す(
図5)ゼータ電位の製剤バッチデータに外挿することにより、相互作用は第7日に完了させることができる。
【0036】
rPA製剤と希釈剤のゼータ電位値の比較は、低ホスフェートのレベル(0.25mM)において、結合タンパク質は製剤のゼータ電位を改質するが、この効果はホスフェートを増加してゼータ電位が負になると顕著ではない、ことを示した。
【0037】
ホスフェート濃度は、アルハイドロゲルに結合するrPAの能力に顕著な効果を有することがよく分かっている。製剤開発の初期において、rPAとミョウバンの相互作用に及ぼすホスフェートの効果が評価されたが、これは、10〜400mMの範囲のホスフェートを用いて行われた。この実験は、繰り返して行われたが、このときに10mM以下の効果は評価されなかった。
【0038】
ホスフェート濃度の増加は、rPAとミョウバンの結合を阻害した(
図4)。10mMのレベルで未結合rPAは12%であり、これは、30%未結合抗原のFDAガイドライン値の範囲内であった。
【0039】
ラングミュア解析を用い、アルハイドロゲルに結合するrPAに及ぼすホスフェートの効果を評価した。この解析は、粒子に結合する分子の吸着率(結合強度の尺度)と吸着能(結合能)を測定するために用いられる。
【0040】
図5に示すように、アルハイドロゲルに結合するrPAの吸着率は、二相曲線を生じるホスフェート濃度に影響された。値の急落の後、吸着率は、約3〜4mMのホスフェートで水平域に達し、ホスフェートイオンがrPAとミョウバンの結合の強度を調節可能なことを示唆した。確かに、ミョウバンの表面電荷をよりマイナスにするホスフェートイオンの効果は、この観察を支持するものと考えられる。ホスフェート改質のマイナス帯電粒子と異なり、rPAタンパク質は、プラス帯電のミョウバン粒子とより強い相互作用を有すると考えられる酸性タンパク質である。
【0041】
また、ラングミュア解析から明らかなことは、ミョウバンの吸着能もまたホスフェート濃度の増加とともに変化したことである。この結合能パラメータは、約3〜4mMで水平域に到達し始めた。留意すべきことは、この吸着能は、0.26%アルハイドロゲルの濃度の200μg/mlにおいてrPAに結合するために必要なものより過剰なことである。
【0042】
特殊製剤の遠紫外線円二色法を用い、製剤のrPA二次構造に及ぼすホスフェート濃度の効果を評価した。0.25mM〜10mMのホスフェート濃度の範囲でrPA製剤を処方し、190nm〜250nmの間で二色スペクトルを測定した。生成したスペクトルは(図示せず)、いずれも208nmでの最小値と約216nmでの平坦域を特徴とした(
図6)。さらに、全てのスペクトルが基本的に重なっており、ホスフェート濃度が、新たに処方される製剤におけるrPAタンパク質の二次構造に影響を及ぼさないことを示唆した。
【0043】
同様にして、内部蛍光を用い、製剤のrPA三次構造に及ぼすホスフェート濃度の効果を評価した。0.25mM〜10mMのホスフェート濃度範囲でrPA製剤を処方し、蛍光発光スペクトルを測定した。
図7に示すように、全てのスペクトルは、ホスフェート濃度に関わらず事実上相互に重なっており、λ
max、したがって、タンパク質三次構造に、影響がないことを示した。
【0044】
内部蛍光と遠紫外線円二色法の双方は、ホスフェート濃度が、新たに処方された製剤におけるrPAの二次/三次構造に影響を及ぼさないことを示した。しかしながら、rPAタンパク質は、ミョウバン粒子に物理的に結合して固定されることが知られているため、rPAとミョウバンの結合に差異があるかどうかを測定するため、本発明者らは、結合時にrPA構造を有意に混乱させない熱変性アプローチを導入した。rPAとミョウバンの相互作用の代替的測定として、DSC解析を用いた。ミョウバン上にrPAが固定することは、タンパク質溶融に伴う熱容量変化を低減すると考えられ、この理由は、固定されたタンパク質の制限された動きのためであり、このことはDSCによって検出されると考えられた。
【0045】
示差走査熱量測定法(DSC)が、0.25mM〜50mMのホスフェート濃度範囲にわたって、新たに処方された製剤に適用されたとき、0.25mM製剤にについて融解転移は検出されなかった。ホスフェート濃度が2mMまで増加すると、転移が検出され、ホスフェート濃度の増加とともにエンタルピーと溶融温度の双方が増加した(
図8)。
【0046】
概して、DSCは、タンパク質の熱容量の増加に示されるように、ホスフェートレベルの増加がミョウバンに対するrPAの結合強度を低下させるといった観察をサポートする。また、そのデータは、溶融温度値の上昇に示されるように、タンパク質の安定性はミョウバンに対して結合した量に逆比例して増加することを示唆する。10〜50mMのホスフェートの値について、未結合rPAからの信号は、有意になり始めると考えられるが、等温線に対して偏って寄与すると考えられる。
【0047】
DSCデータに実証されるように、製剤中のrPA構造を評価するための熱変性アプローチの有効性は、これが内部蛍光にも適用可能なことを示唆した。このため、アルハイドロゲルに結合するタンパク質の溶融温度に及ぼすホスフェートの効果を測定するため、蛍光強度と熱変性を使用した(
図9)。DSCについて示されたと同様に、低ホスフェートで処方された製剤は(0.25mM〜2mM)、40〜50℃の範囲ではタンパク質の溶融温度に殆ど又は全く遷移を示さず、一方、3〜10mMでは約46℃で遷移が検出された。ホスフェートに対する溶融温度としてデータをプロットすると(温度遷移の中間点)、二相曲線が3mMのホスフェートで平坦域に到達し始めることが理解できる。
【0048】
ホスフェートの増加が様々に又は配向して結合するrPAタンパク質をもたらすか否かを評価する目的で、エピトープ認識アッセイ(製剤イムノアッセイとしても知られる)を用いて検討した。これは、特異的rPAドメイン4エピトープを認識する選択されたモノクローナル抗体の能力を測定する効果的なタンパク質構造アッセイである。ドメイン4を選択した理由は、このタンパク質領域が抗体保護を与えるのに重要であるとの証拠があるためである(Flick−Smith et al, Infect Immun., Vol. 70(3), pp. 1653−6 (2002))。炭疽菌の保護抗原の組換えカルボキシ末端ドメインは、炭疽菌感染に対してマウスを保護する。
【0049】
別なrPAドメイン4エピトープに対して増加した2つのモノクローナル抗体を使用し、rPA結合を評価した:(1)安定性指示エピトープ(C3クローン)、及び(2)保護安定性指示エピトープ(2D4Jクローン)。2つの抗体のエピトープマッピングは、両方ともrPAドメイン4の中の別なループ領域に結合することを実証し、さらに、2D4Jクローンは、受容体結合領域に明確に結合し、このことは、その保護性を説明するものと考えられる。
【0050】
エピトープ認識解析を、ホスフェート濃度を増加させながら行った。両方のモノクローナルについて、ホスフェート濃度の増加の結果として、抗体結合の減少が生じた(
図10)。このアッセイについて、容量の制約により、多数のホスフェート濃度の評価はできなかった。しかしながら、限られた数のホスフェート濃度から、双方のモノクローナルについての免疫活性が、約2.5mMの変曲点に至るまで急激に低下し、その後、免疫活性の低下速度が減少することが分かった。全てのrPAがミョウバンに有効に結合していたため、この免疫活性の低下は、タンパク質の損失によるものではない。
【0051】
上述の実験の1つの意外な結論は、ホスフェートの製剤特性と効能の双方に及ぼす効果により、ホスフェートは、今後は製剤処方の重要なパラメータとして考えなければならないことである。このことは、これまで、固定されたホスフェート濃度でrPA製剤を製造するように薬剤製造プロセスが考慮されていなかったため、特に重要である。この旧来のプロセスにおいては、rPA製剤原料は、特定のrPAタンパク質濃度になるまでホスフェート緩衝剤で希釈される。製剤原料のrPA濃度は、約17%の係数で目標濃度から変化し得るため、希釈するホスフェート緩衝剤の量は、製剤原料の出発濃度によって変化した。全体のホスフェート濃度に影響するのはこのホスフェートの体積であったため、この無機イオンのレベルは適当に変動したものと考えられる。薬剤製造プロセスに対するその後の改良は、プロセスの出発時における製剤原料濃度にかかわらず、一定のホスフェート濃度が処方されることを確かにするようになされている。