(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701767
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】温度調節性ならびに耐切断性を有する糸および布
(51)【国際特許分類】
D02G 3/04 20060101AFI20150326BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20150326BHJP
A41D 31/00 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
D02G3/04
A41D19/00 A
A41D31/00 B
A41D31/00 501D
A41D31/00 503H
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-536904(P2011-536904)
(86)(22)【出願日】2009年11月26日
(65)【公表番号】特表2012-509999(P2012-509999A)
(43)【公表日】2012年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2009065867
(87)【国際公開番号】WO2010060943
(87)【国際公開日】20100603
【審査請求日】2012年11月12日
(31)【優先権主張番号】08020482.9
(32)【優先日】2008年11月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】ヘンセン, ジョヴァンニ, ヨーゼフ, イダ
【審査官】
宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0286513(US,A1)
【文献】
特表2007−531832(JP,A)
【文献】
特表平05−505656(JP,A)
【文献】
特開2004−060112(JP,A)
【文献】
特開2002−327323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00− 3/48
D02J 1/00−13/00
A41D 19/00−19/04
A41D 31/00−31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐切断性繊維および吸水速乾性繊維を含む糸であって、前記耐切断性繊維および前記吸水速乾性繊維が短繊維であり、前記耐切断性繊維がポリエチレン繊維である、糸。
【請求項2】
前記吸水速乾性繊維が非円形断面と長さ方向に沿った複数のチャネルを有する異形断面型ポリマー繊維である、請求項1に記載の糸。
【請求項3】
前記吸水速乾性繊維がジグザグ型断面を有するポリマー繊維である、請求項1又は2に記載の糸。
【請求項4】
前記耐切断性繊維の結晶化度が、動的走査熱量測定法により測定して少なくとも50%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の糸。
【請求項5】
前記耐切断性繊維と前記吸水速乾性繊維の比が0.01:1〜0.9:1である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の糸。
【請求項6】
前記繊維の長さが20mm〜300mmである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の糸。
【請求項7】
前記耐切断性繊維の長さが50mm〜300mmであり、前記吸水速乾性繊維の長さが20mm〜150mmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の糸。
【請求項8】
更に少なくとも一本の弾性連続長繊維を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の糸。
【請求項9】
更に熱収縮性長繊維または熱収縮性短繊維を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の糸。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の糸を含む、温度調節性を有する耐切断性布。
【請求項11】
織物、編み物、組み物および不織布ならびにそれらの組み合わせからなる群の布から選択される、請求項10に記載の布。
【請求項12】
請求項10または11に記載の布を含む衣料品。
【請求項13】
前記衣料品が手袋類、エプロン類、革製上履きズボン、ズボン類、シャツ類、上着類、コート類、靴下類、下着類、ベスト類および帽子類からなる群から選択される、請求項12に記載の衣料品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は耐切断性繊維および吸水速乾性繊維を含む糸ならびにこれらを含む布に関する。
【0002】
例えば、国際公開第2008/046476号パンフレットには、このようは耐切断性長繊維および/または耐切断性短繊維を含む糸が開示されている。これらの耐切断性長繊維または耐切断性短繊維は、ポリマー材料、例えば、ポリエチレン、アラミドまたはポリベンゾオキサゾールで作るか、またはガラス、金属または他の類似の無機材料で作ることができる。布を製造するのにこれらの糸を使用すると、優れた耐切断性を有する布が得られる。
【0003】
耐切断性繊維だけで構成された糸を用いて布を製造すると、その製造された布は伝熱性および温度調節性に限界があることが分かった。更に、前記布は温度変化、特に、急激な変化に対する応答性が低く、衣料品に用いると前記布の汗調節能は低いことも分かった。特に高温高湿な環境では、前記布は発汗により直ぐに濡れ、この布を着用している人の肌にくっついて、この人に不快感をもたらす。
【0004】
上記の欠点を軽減するために、耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の両方を含む糸による布が製造された。しかし、このような布は今なお伝熱性が低く、温度調節性が不十分なことが分かった。
【0005】
従って本発明の目的は、糸を提供することであって、それを用いて製造した布に耐切断性だけでなく改良された伝熱性も付与する糸を提供することである。更に、布に向上した温度調節性を付与する糸を提供することを目的とし、前記布は、特に室温を超える、例えば、約37℃を超える温度で用いたとき、前記物性を有する。
【0006】
従って、本発明は耐切断性繊維および吸水速乾性繊維を含む糸であって、前記耐切断性繊維および前記吸水速乾性繊維が短繊維である糸を提供する。
【0007】
本発明の糸は、本発明糸とも呼び、公知の糸とは異なり、その糸で製造した布に向上した伝熱性を付与することが分かった。本発明糸で製造した布は、公知の布に比べて温度調節性の向上を示すことも分かった。更に特別な利点は、本発明糸が市販の出発原料に基づいているので、簡単かつ安価に製造できることである。
【0008】
本発明糸を含む布は、特にスポーツ関係の衣料、特に高温および/または高湿度下で激しい運動が必要で、かつ切断、引き裂きおよび/または摩耗による負傷の確率が高い、例えば登山、マウンテンバイク、モーターレースおよび同種のスポーツ用衣料の製造に特に有用である。
【0009】
従って、本発明はまた本発明糸を含む布に関する。本発明の布は以後、本発明布と呼び、その重要な利点は、前記布が簡単に製造できるということである。耐切断性と伝熱性の組み合わせを既知の布で得るには、複雑な多層構造の布を用いなければならない。このような多層構造は、吸水速乾性繊維の糸と耐切断性繊維の糸とを別々の製造プロセスを用いて製造される。しかし本発明布では、最も簡単な構造でも、既知の多層布と少なくとも同じ上記の耐切断性と伝熱性の組み合わせが得られる。また本発明布では収縮および/または皺の発生が減少することが分かった。更に、本発明布は着心地が向上した。
【0010】
体温調節性を有する耐切断性布は、例えば、国際公開第2005/002376号パンフレットで公知である。しかし、この布は複雑な多層構造を有し、更に寒い環境用にデザインされている。このような布の伝熱性には限度があり、したがって高温および/または多湿な環境での使用には適さないことが分かった。
【0011】
本明細書では、耐切断性繊維とは、その繊維が糸に組み込まれた場合、前記糸から製造した布には、布を同じ糸でも前記糸が綿繊維からなる糸で製造した場合に比べ、ヨーロッパ規格EN388基準を用いて求めたより高い耐切断性が付与される繊維を意味する。
【0012】
本明細書では、布の伝熱性とは、暖かい身体に接触したとき、そこからの熱を取り去ることが可能な布を意味する。
【0013】
本明細書では、布の温度調節性とは、身体が絶え間なく熱を発生させ、かつ時間経過と共にその温度が上昇する傾向があるとき、接触した身体の温度を実質的に一定に保つことが可能な布を意味する。
【0014】
本発明の目的に適した糸は、横寸法より遥かに大きい長さを有し、複数の繊維を含有する長尺状体である。
【0015】
本明細書では、繊維とは、その長さ寸法が幅と厚さの横寸法に比べ遥かに大きい長尺状体を意味する。本発明で使用される繊維は、短繊維、即ち長さが不連続な繊維である。短繊維は通常、連続長繊維を切断または引っ張り破断することにより得る。短繊維は、異なるように記載しない限り、以後簡単のために繊維と呼ぶ。
【0016】
繊維の長さは、好ましくは20〜300mm、より好ましくは40〜180mm、最も好ましくは50〜150mmである。好ましい実施形態では、繊維は引っ張り破断により得られ、長さは60〜130mmである。耐切断性繊維の長さは、好ましくは50〜300mm、より好ましくは80〜160mmである。吸水速乾性繊維の長さは、好ましくは20〜150mm、より好ましくは50〜90mmである。
【0017】
この繊維の繊度は、好ましくは少なくとも0.1デニール/フィラメント(dpf)、より好ましくは少なくとも1.0デニール/フィラメント、最も好ましくは少なくとも2デニール/フィラメントである。細デニール繊維を含む布は着心地が向上する利点がある。前記繊度は、好ましくは最大でも20デニール/フィラメント、より好ましくは最大でも10デニール/フィラメント、最も好ましくは最大でも5デニール/フィラメントである。
【0018】
本発明糸の繊度が少なくとも10デシテックス(dtex)、好ましくは少なくとも40デシテックス、より好ましくは少なくとも70デシテックスの場合、良い結果が得られる。本発明糸の最大繊度は実用的な理由だけにより決まり、好ましくは最大でも7500デシテックス、より好ましくは最大でも5000デシテックス、最も好ましくは最大でも2500デシテックスである。撚り糸は機械的安定性が向上することが分かっているので、この糸に撚りをかけるのが好ましい。撚り係数は好ましくは50〜500である。
【0019】
本発明に用いる耐切断性繊維の種類は広く異なっても良いが、好ましくは有機繊維である。
【0020】
耐切断性有機繊維の用例としては、例えば、限定はされないが以下を含むポリマーで製造したものである。例えば、ポリアミドおよびポリアラミド、例えば、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド(例えば、ケブラー(Kevlar(登録商標))、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(例えば、ノーメックス(Nomex(登録商標))),ポリ(m−キリレンアジパミド)、ポリ(p−キシリレンセバカミド)、ポリ(2,2,2−トリメチル−ヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリ(ピペラジンセバカミド)、および脂肪族と脂環族のポリアミド類、例えば、30%のイソフタル酸ヘキサメチレンジアンモニウムと70%のアジピン酸ヘキサメチレンジアンモニウムからなるコポリアミド、最大30%のビス−(−アミドシクロヘキシル)メチレン、テレフタル酸およびカプロラクタムのコポリアミド、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ{2,6−ジイミダゾ−[4,5b−4’5’e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(M5として公知)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)(ザイロン(Zylon(登録商標))として公知)、ポリビニルアルコール、およびポリオレフィン、例えば、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンのホモポリマーおよびコポリマー。
【0021】
また上に列挙した耐切断性繊維の組み合わせも使用できる。
【0022】
好ましい実施形態の耐切断性繊維は、ポリアラミド繊維、例えば、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維(例えば、ケブラー(登録商標))またはポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)繊維(例えば、ノーメックス(登録商標))である。これらの組み合わせも使用できる。この繊維の断面は実質的に円形、扁平、または楕円形であることが特に好ましく、最も好ましくは円形である。ポリアラミド繊維をポリオレフィン繊維、好ましくはポリエチレン繊維と組み合わせたとき良好な結果が得られた。
【0023】
より好ましい実施形態の耐切断性繊維は、断面が実質的に円形、扁平、または楕円形、最も好ましくは円形のポリエチレンからなる繊維である。前記繊維は本技術分野で公知のいずれかの技術により、好ましくは溶融紡糸またはゲル紡糸により製造できる。溶融紡糸プロセスを用いる場合は、製造に用いる出発原料のポリエチレンの重量平均分子量(Mw)は60,000〜600,000であり、より好ましくは60,000〜300,000である。溶融紡糸プロセスは欧州特許第1,350,868号明細書に記載され、その内容を参照により本明細書に援用する。ゲル紡糸プロセスを用いて前記繊維を製造する場合は、好ましくは固有粘度(IV)が好ましくは少なくとも3dl/g、より好ましくは少なくとも4dl/g、最も好ましくは少なくとも5dl/gの超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を用いる。好ましくはその固有粘度は最大でも40dl/g、より好ましくは最大でも25dl/g、より好ましくは最大でも15dl/gである。好ましくはUHMWPE繊維は以下を含む多くの出版物に記載されているように、ゲル紡糸プロセスにより製造する。欧州特許第出願公開第0205960A号明細書、欧州特許第出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許第出願公開第2042414A号明細書、英国特許第A2051667号明細書、欧州特許第0200547B1号明細書、欧州特許第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、欧州特許第1,699、954号明細書、および「Advanced Fibre Spinning Technology),Ed.T.Nakajima,Woodhead Publ. Ltd(1994),ISBN185573 182 7)。公知のゲル紡糸されたUHMWPE繊維は、例えば、オランダのDSM NV社によりダイニーマ(Dyneema(登録商標))という商品名で市販されているものである。
【0024】
耐切断性繊維は、好ましくは結晶化度が少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%を有する有機繊維である。結晶化度は本技術分野で公知の方法で、例えば、繊維の溶融エネルギーを動的走査熱量測定法(DSC)で測定し、その結晶化度を計算することにより決定できる。前記有機繊維は、最も好ましくは上に詳述したように製造された、高結晶化度を有するポリエチレン繊維である。より高い結晶化度を有する耐切断性繊維の本発明糸を含有する布は、人の体に接触するとその体温を長時間低めに保つ性能が増強されることが分かった。また前記布を着用した人は、同じ構造を有する公知の耐切断性布を着用した場合に比べ発汗の開始が遅くなることが分かった。
【0025】
本明細書では、吸水速乾性繊維とは、毛管現象により湿気を繊維の長さ方向に移動できる繊維、好ましくはポリマー繊維を意味する。吸水速乾性繊維の製造プロセスに適したポリマーは、耐切断性繊維に関するセクションで上に列挙したもの、および更には以下のものが含まれる。ポリエステル、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、およびポリ(1,4−シクロヘキシリデンジメチレンテレフタレート)、アクリルおよびナイロン、例えば、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(ナイロン6,6として公知)、ポリ(4−アミノ酪酸)(ナイロン6として公知)。適切な他ポリマーの実例は、米国特許第6,003,424号明細書の5段23行目に始まり8段15行目で終わる個所に見られ、その開示を本明細書に援用する。前記ポリマーで製造した繊維は、例えば、親水化剤を塗布するか、または前記繊維が非円形断面で、かつ前記繊維の縦長方向に沿って複数の溝を有する前記繊維を製造することにより、吸水速乾性が与えられる。
【0026】
吸水速乾性繊維の第1の好ましい実施形態としては、親水化剤で処理した繊維、好ましくはポリマー繊維が挙げられる。この繊維の実例およびその製造法は、例えば米国特許第7,012,033B2号明細書に開示され、本明細書にその開示を参照により援用した。親水化剤の実例としては、エトキシ化ポリエステル類、スルホン化ポリエステル類、セルロースエーテル類、エトキシ化ポリアミド類、酢酸ビニルの共重合体類および親水性架橋剤が挙げられる。その他の薬剤は、米国特許第4,137,181号明細書、米国特許第4,179,543号明細書、米国特許第4,294,883号明細書、および米国特許第4,707,407号明細書に開示され、本明細書にその内容を援用した。市販の親水化剤の実例としては、イーストマンケミカル社(Eastman Chemical)のEastman WD Size、同じくイーストマンケミカル社のLubril QCX、ダウケミカル社(Dow Chemical)のMethocel A−LV、等が挙げられる。
【0027】
吸水速乾性繊維の第2の好ましい実施形態としては、断面が非円形で繊維の長さ方向に沿って複数のチャネルを有する異形断面ポリマー繊維が挙げられる。このような繊維の好ましい実例はホタテ貝形状の楕円断面を有するポリマー繊維である。より好ましい繊維は、例えば、米国特許第4,707,407号明細書(4段および実施例)に従い製造された、ホタテ貝形状の楕円断面を有するポリエステル繊維であり、その内容を参照により本明細書に援用した。更に好ましいのは、内容を参照により本明細書に援用した米国特許第5,626,961号明細書に従い好ましくは製造されたポリエステル繊維であり、前記繊維は好ましくは少なくとも4個のチャネル(溝または凹みとも呼ばれる)、より好ましくは少なくとも6個のチャネルを有するホタテ貝形状の改良型楕円断面を有する。これらの繊維は好ましくは親水化剤で処理して繊維の吸水速乾性を向上させる。本実施形態の吸水速乾性繊維を含む本発明糸製の本発明布では、体温を低めに長時間保つ性能が増強されることが分かった。
【0028】
第3の好ましい実施形態の吸水速乾性繊維は、ジグザグ型の断面、例えば、二つのW字形状であり、好ましくは180度対称軸を有するポリマー繊維である。これら繊維の製造プロセスだけでなく製造に適するポリマーの実例は、米国特許第6,884,505B2号明細書に開示され、参照により本明細書にその内容を援用した。米国特許第6,884,505B2号明細書の3段58行目に始まり4段3行目で終わる部分に開示されるポリマーは、またその内容を参照により本明細書に援用した。好ましくは、繊維の横断面は連続したジグザグ構造を、少なくとも3セグメント、より好ましくは少なくとも4セグメント、更に好ましくは少なくとも5セグメント、最も好ましくは少なくとも7セグメント含有する。本実施形態の吸水速乾性繊維を含む本発明糸でできた本発明布も、体温を低めに長時間保つ性能が増強されることが分かった。隣接セグメント間の角度が約40度〜約60度の場合に良い結果が得られる。このような繊維の断面は、呼び幅、呼び長さ、呼びチャンネル深さまたは名目凹み、および呼び厚さにより規定できる。呼び厚さに対する呼び幅の比は、好ましくは約3未満であり、厚さに対する凹みの比は、好ましくは約0.25〜0.6である。好ましくは、これら繊維のデニールは、0.1〜約4.0デニール/フィラメントの範囲である。
【0029】
本発明布が耐切断性短繊維と吸水速乾性短繊維の密なブレンドを含む本発明糸を含む場合、前記布の伝熱性は更に向上することが分かった。従って、好ましい実施形態では、本発明糸は、耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の密なブレンドを含み、繊維は糸の横方向および/または長さ方向に無秩序に分布し、好ましくは前記糸の横方向および長さ方向に沿っている。このような糸の製造法は本技術分野で公知であり、例えば、リング紡績プロセスがある。更にこのような糸を含む本発明布は耐切断性および放熱性に優れる、即ち、輸送された熱の放散効率が増加することが分かった。
【0030】
本発明糸の耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の比が0.3〜3:1、好ましくは0.4〜2:1、より好ましくは0.5〜1:1の場合、良い結果が得られた。好ましくは、前記比は0.01:1〜0.9:1、より好ましくは0.05:1〜0.9:1、最も好ましくは0.1:1〜0.9:1である。
【0031】
更に好ましい実施形態では、本発明糸は芯鞘型構造を含み、ここで、耐切断性繊維が糸の芯を形成し、吸水速乾性繊維が芯を、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは完全に覆うように、芯に巻きつけられる。このような糸の製造法は本技術分野で公知である。このような糸を含む本発明布は、耐切断性が更に向上し、放熱性が増強されることが分かった。また前記布を着用した人は、発汗の開始時期が更に遅れる。
【0032】
また本発明糸は、好ましくは少なくとも1つの弾性連続長繊維、即ち、伸長性と復元性を有する長繊維を含む。これには、例えば、芯として一つまたは複数の弾性長繊維をおよび鞘として耐切断性繊維と吸水速乾性繊維を有する芯鞘型糸形状が挙げられ、好ましくは、鞘は耐切断性繊維ならびに吸水速乾性の繊維が密なブレンドを形成するが、1つまたは複数の弾性繊維が実際に完全に鞘で覆われているか否は重要ではない。前記弾性長繊維と本発明の糸を含有する布を製造する場合、弾性長繊維を別に使用できる。特定の実施形態では、本発明糸は、弾性長繊維の代わりに弾性短繊維を含有することで、着心地が向上するという利点がある。好ましい弾性長繊維または弾性短繊維は、少なくとも85重量%のセグメント化ポリウレタンからなる長鎖の合成ポリマーで製造した長繊維または短繊維である。スパンデックス型セグメント化ポリウレタンの中のいくつかのセグメント化ポリウレタンは、例えば、米国特許第2,929,801号明細書、米国特許第2,929,802号明細書、米国特許第2,929,803号明細書、米国特許第2,929,804号明細書、米国特許第2,953,839号明細書、米国特許第2,957,852号明細書、米国特許第2,962,470号明細書、米国特許第2,999,839号明細書、および米国特許第3,009,901号明細書に記載されている。本発明糸の弾性長繊維は連続長繊維であり、その形状は1本または複数本の別々の長繊維の形態、または複数の長繊維を一緒に束ねて1本または複数本にした形態でもよい。しかし、複数のフィラメントを一緒に束ねて1本にした形態で使用するのが好ましい。弾性長繊維の弛緩状態での全体的な線密度は、1本または複数の個々の長繊維であるか、または一緒に束ねられた1本または複数本の長繊維であるかにより、好ましくは17〜560デシテックスであり、好ましい線密度は44〜220デシテックスの範囲である。このような糸を含有する布は伝熱性および温度調節性が向上し、温度変化、特に急激な温度変化に対する応答が効果的に向上することが分かった。
【0033】
本発明糸がさらに熱収縮性の長繊維または短繊維、即ち、熱処理により収縮またはカールできる長繊維または短繊維も含有する場合、良い結果が得られた。このような熱収縮性の長繊維または短繊維を含有する本発明糸の弾性は良好になり、即ち、前記糸を好ましくは60〜140℃の温度、より好ましくは80〜120℃の温度に曝すことにより伸張性および復元性が得られることが分かった。収縮または捲縮できる長繊維または短繊維の好ましい実施形態では、二成分系の長繊維または短繊維、例えば、二成分系ナイロンまたは二成分系ポリエステルの長繊維または短繊維が用いられる。好ましくは二成分系ポリエステルの長繊維または短繊維が用いられる。このような長繊維または短繊維は、例えば、インビスタ社(Invista)により供給される。このような長繊維または短繊維は2種の長繊維成分または短繊維成分を含み、その長繊維または短繊維の長さ方向に延び、各成分の片面で結合している。好ましくは、この成分の一つはPETであり、他成分はコポリエステルである。代わりの好ましい熱収縮性長繊維または短繊維は、ポリアクリルニトリル(PAN)で製造した長繊維または短繊維である。更に本技術分野で公知の市販の熱収縮性長繊維としては、ドイツのバイエル社(Bayer)が供給するドラロン(Dralon
TM)が含まれる。
【0034】
この本発明糸の第1の好ましい実施形態において、耐切断性繊維はポリアラミド繊維であり、吸水速乾性繊維は上記の第2または第3の好ましい実施形態における吸水速乾性繊維である。この実施形態の糸を含む本発明布では、その耐切断性および温度調節性が向上するという利点がある。
【0035】
本発明糸の第2の好ましい実施形態において、耐切断性繊維はポリエチレン繊維であり、吸水速乾性繊維は好ましくは上記の第2の好ましい実施形態であり、より好ましくは第3の好ましい実施形態における吸水速乾性繊維である。驚くべきことに、これらの糸で製造した布の温度調節性が更に向上し、本発明布を含む衣服を着用した人の発汗量が減少するか、または発汗の開始が遅れることが分かった。更に、前記布は、着用した人の体温のより効率な調節に役立つ。更に、この布の耐切断性の向上も認められる。このような布はこれらの性質により、スポーツ用衣服に、特に、スポーツ選手が転倒または他のスケーターまたはスキーヤーと衝突した場合、スケート靴のブレードまたはスキー板のエッジにより誤って怪我するのを防ぐことができるため、スケートウエアまたはスキーウエアに好適である。また前記布を含むスポーツ用衣服は、これを着用したスポーツ選手の激しい運動により生ずるスポーツ選手の発汗を減少する。このような布の製造が簡単なことも他の利点である。しかも、このような布が公知の布、例えば、国際公開第2005/002376号パンフレットに開示の布より柔軟性が高く着心地もより良いことも更なる利点である。好ましくは、この本発明糸の第2の好ましい実施形態におけるポリエチレン繊維は、溶融紡糸によるポリエチレン繊維である。このような糸を含有する本発明布は、耐切断性の向上、優れた温度調節性、および柔軟性および着心地の向上が認められる。代わりに、この本発明糸の第2の好ましい実施形態におけるポリエチレン繊維として、ゲル紡糸によるUHMWPEが使用できる。この繊維で本発明布を製造すると、前記布の耐用年限および耐切断性が更に向上した。またこのような布の耐摩耗性が向上し、更に耐引き裂き性も向上することが分かった。
【0036】
この本発明糸の第3の好ましい実施形態における前記糸は、更に無機フィラメント、好ましくは金属フィラメント、より好ましくは銅またはスチールでできた金属フィラメントが含まれる。前記無機フィラメントは、好ましくは吸水速乾性繊維および耐切断性繊維の密なブレンドで巻かれて鞘芯型糸構造にされる。無機フィラメントの形状は、1本または複数の個々の長繊維の形態、または一緒に束ねられた1本または複数本の長繊維の形態でもよい。しかし、1本の無機フィラメントだけ使用するのが好ましい。このような糸で製造した本発明布は熱伝導率が向上し剛性も増加することが分かった。従って、このような布は機械的安定性が改良された物品、例えば、ブーツ類、靴類、長手袋類、帽子類等の製作に有用である。従って、本発明はまた前記布を含有する物品に関する。有用な無機フィラメントの用例は、セラミックフィラメント、例えば、ステンレススチール、銅およびアルミニウム−金属合金のような金属フィラメントだけでなく、石英、ケイ酸アルミン酸マグネシウム(magnesia alumuninosilicate)、ケイ酸ホウアルミン酸の非アルカリ金属塩(non−alkaline aluminoborosilicate)、ホウケイ酸ナトリウム、ケイ酸ソーダ、ソーダ石灰−アルミノケイ酸塩(soda lime−aluminosilicate)、ケイ酸鉛、非アルカリ性ホウアルミン酸鉛(non−alkaline lead boroalumina)、非アルカリ性ホウアルミン酸バリウム(non−alkaline barium boroalumina)、非アルカリ性ホウアルミン酸亜鉛(non−alkaline zinc boroalumina)、非アルカリ性ケイ酸アルミン酸鉄、ホウ酸カドミウム、結晶形がη、δおよびθ相にある「サフィル(Saffil)」繊維を含むアルミナフィラメント、アスベスト、ホウ素、炭化ケイ素(Ssilicone carbide)で形成した繊維のようなガラスフィラメントである。更なる実例としては、例えば、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、サラン、アラミド、ポリアミド、ポリベンズイミダゾール、ポリオキサヂアゾール、ポリフェニレン、PPR、石油と石炭のピッチ(等方性)、メソフェースピッチ、セルロースおよびポリアクリロニトリル製の前駆フィラメントの炭化により得られるフィラメントのようなグラファイトフィラメントおよび炭素フィラメントが含まれる。
【0037】
本発明の布の構造は、本技術分野で公知のいずれのものでも良く、例えば、織物、編み物、組み物、組み物、または不織布またはこれらの組み合わせがある。織物としては、平織り、畝織り、斜子織りおよび綾織りの布等が挙げられる。編み物としては横編み、例えば、シングルジャージーまたはダブルジャージーの織物または経編みが挙げられる。不織布の実例はフェルト生地である。織物、編み物または不織布の更なる実例だけでなくその製造法は、工業用織物ハンドブック(Handook of Technical Textiles)、ISBN978−1−59124−651−0の第4章、第5章および第6章に記載されており、その開示を参照により本明細書に援用した。組み物織物の説明と実例は、同ハンドブックの第11章、より詳しくは段落11.4.1に記載されており、その開示を参照により本明細書に援用した。
【0038】
本発明布は好ましくは編み物または織物の生地である。丸編みまたは経編みの生地、ならびにトリコット経編み、横編みまたは平織りの生地で良い結果が得られた。これらの生地は改良された耐切断性および温度調節性を保ちながら、その屈曲性および柔軟性が向上することが分かった。横編みの生地を手袋製作に用いると特に有利であることが示された。
【0039】
更に本発明は物品、特に衣料品、例えば、この本発明布を含むコート類、衣服類、装飾的衣服等に関する。このような物品の実例としては以下のものに限定はされないが、手袋類、エプロン類、革製上履きズボン、ズボン類、シャツ類、上着類、コート類、靴下類、下着類、ベスト類、帽子類等が挙げられる。
【0040】
この発明生地の使用が有利な特定の衣服類としては、スポーツ関係の衣服、例えば、スケート選手、オートバイ乗り、サイクリスト用の防護衣服だけでなく、スキーウエア、ヘッドバンド、ヘルメット用裏地が挙げられる。
【0041】
本発明はまた上記物品用の本発明布の使用に関し、特に上述の実例での使用に関する。
【0042】
試験法
・ IV(UHMWPEの)は、デカリン中135℃でPTC−179の方法(Hercules Inc.Rev.版、1982年4月29日)に従い測定する。溶解時間は16時間であり、酸化防止剤としてDBPC2g/lの量の溶液を用い、種々の濃度で測定した粘度を濃度ゼロに外挿する。
・ 布の切断抵抗はヨーロッパ規格388(EN388)に従い測定する。
・ 布の耐摩耗性と耐引き裂き性は,グリッド180番のサンドペーパーを用いる修正EN388に従い測定した。
・ 乾燥布の断熱性は、ドイツ工業規格(DIN)EN31092(1994年2月)に従い温度T
a20℃、相対湿度φ
a65%のテスト環境を用いてHohenstein Skin Modelにより測定した。報告値は、各布試料について3つの異なる試験片に対し単一測定を3回または6回繰り返したものの平均値である(値が低い方が良好である)。
・ 湿潤布の乾燥時間の比較による断熱性は、Standard−Test Specification BPI 1.3(1985年10月)に従い温度T
a20℃、相対湿度φ
a65%のテスト環境を用いてHohenstein Skin Modelにより測定した。報告値は、各布試料について3つの異なる試験片に対し単一測定を3回繰り返したものの平均値である(値が低い方が良好である)。
・ 湿潤布の耐熱性の比較による断熱性は、Standard−Test Specification BPI 1.3(1985年10月)に従い温度T
a20℃、相対湿度φ
a65%のテスト環境を用いてHohenstein Skin Modelにより測定した。報告値は、各布試料について3つの異なる試験片に対して単一測定を3回繰り返したものの平均値である(値が低い方が良好である)。
・ 布帛の緩衝指数および汗の輸送で表される液体の汗に対する緩衝容量は、Standard−Test Specification BPI 1.3(1994年3月)に従いHohenstein Skin Modelにより測定した。緩衝指数の測定におけるテスト環境は、温度T
a35℃、相対湿度φ
a30%を用いた。汗の輸送測定におけるテスト環境は、温度T
a25℃、相対湿度φ
a50%を用いた。報告値は、各布試料について3つの異なる試験片に対して単一測定を3回繰り返したものの平均値である(値が高い方が良好である)。
・ 布表面温度の感知は標準的な赤外線装置により測定した。
【0043】
[実施例および比較実験]
[実施例1]
リング精紡プロセスにより、DSM社製ダイニーマ(Dyneema(登録商標))のダイニーマSK75(Dyneema(登録商標)SK75)として公知の超高分子量ポリエチレン繊維およびAdvansa Iberica S.L.(スペイン)社製のダクロン(Dacron(登録商標))タイプ702繊維(Coolmax(登録商標))として公知のポリエステル繊維の密なブレンドからなる糸を製造した。ダイニーマ(登録商標)SK75繊維は公知の耐切断性繊維である。ダクロン(登録商標)繊維は、180度対称軸をもつW字型の断面と、4個のジグザグ形状の連続セグメントと、隣接セグメントが50
o±15
oの角度を有する公知の吸水速乾性繊維である。耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の比は10対90である。糸に対する糸仕上げを行わなかった。
【0044】
ダイニーマ(登録商標)SK75繊維は、ダイニーマ(登録商標)SK75長繊維の平均長さを約100mm〜約150mmに引っ張り破断することにより得た。ダイニーマ(登録商標)SK75繊維の繊度は2.1デニール/フィラメントであった。ダイニーマ(登録商標)SK75繊維の結晶化度は95%を超える。
【0045】
ダクロン(登録商標)繊維はダクロン(登録商標)長繊維の切断により得、その平均長さは約76mmであった。ダクロン(登録商標)繊維の繊度は2.3デニール/フィラメントであった。
【0046】
目付(AD)(1平方メートル当たりの重量)が219g/m
2の上記の糸を用いて丸編みのシングルジャージー織物を製造した。
【0047】
[実施例2]
糸の耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の比を25対75に違えて実施例1を繰り返した。
【0048】
[実施例3]
糸の耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の比を50対50に違えて実施例1を繰り返した。
【0049】
[実施例4]
糸の耐切断性繊維と吸水速乾性繊維の比を75対25に違えて実施例1を繰り返した。
【0050】
[比較実験1]
糸を耐切断性繊維からなるように違えて実施例1を繰り返した。
【0051】
[比較実験2]
糸を吸水速乾性繊維からなるように違えて実施例1を繰り返した。
【0052】
表1に上記の実施例および比較実験における布の物性を要約する。提出データから本発明に従う布は耐切断性と耐摩耗性に優れていること以外に、乾燥環境でも湿潤環境でも空気の遮断が少なく、良好に放熱が可能なことが分かる。従って、前記繊維を含む衣服を着用した人は発汗の開始が、暑く乾燥した環境でも湿って乾燥した環境でも先送りされる。従って、本発明の布は丈夫なスポーツウエア材、例えば室内でのアイススケート用またはマラソンのランニング用に有利に使用できる。