特許第5701849号(P5701849)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5701849難燃性熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5701849
(24)【登録日】2015年2月27日
(45)【発行日】2015年4月15日
(54)【発明の名称】難燃性熱可塑性樹脂組成物及び樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/04 20060101AFI20150326BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20150326BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20150326BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20150326BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20150326BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20150326BHJP
【FI】
   C08L51/04
   C08L25/12
   C08L63/00 A
   C08K5/521
   C08K5/3492
   C08K5/04
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-279475(P2012-279475)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122283(P2014-122283A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2014年2月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 眞彰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 篤史
(72)【発明者】
【氏名】高田 義明
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−220487(JP,A)
【文献】 特開2002−080684(JP,A)
【文献】 特許第5453511(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/04
C08L 25/12
C08L 63/00
C08F 285/00
C08F 291/00−291/02
C08K 3/00− 3/40
C08K 5/00− 5/357
C08K 5/49− 5/5399
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含む樹脂組成物100重量部に対して、難燃剤(C)を1〜40重量部配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)は共役ジエン系ゴム状重合体5〜50重量%と架橋アクリル酸エステル系重合体50〜95重量%から構成される複合ゴム10〜80重量部に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びこれらと共重合可能な他のビニル系単量体から選ばれた少なくとも1種の単量体20〜90重量部をグラフト重合して得られるグラフト共重合体であり、グラフト共重合体中に存在する複合ゴムに関して、円相当粒子径が150nm以下である複合ゴムの粒子数が複合ゴム粒子全体の50%以下であることを特徴とするグラフト共重合体であり、共重合体(B)は芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを共重合することで得られる共重合体、または、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とその他の共重合可能な他のビニル系単量体を共重合することで得られる共重合体であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、難燃剤(C)がリン酸エステル系難燃剤、ハロゲン化芳香族トリアジン化合物、及び下記化3で表されるハロゲン系有機化合物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【化3】

式中、n=0または自然数、Xは独立に塩素または、臭素を示し、i,j,k,lはそれぞれ1〜4の整数であり、RおよびR’はそれぞれ独立に水素、メチル基、下記式のエポキシプロピル基、


フェニル基または、下記の式(但しmは0,1,2または3を示し、Xは独立に塩素または臭素を示す)

【請求項2】
請求項1に記載の難燃剤(C)のリン酸エステル系難燃剤が下記化1、ハロゲン化芳香族トリアジン化合物が下記化2で表されることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【化1】
(R1、R2、R3及びR4は、それぞれ互いに独立して、水素原子又は1価の有機基を表わすが、R1、R2、R3及びR4の中の少なくとも1つは1価の有機基である。Xは2価の有機基であり、k、l、m及びnはそれぞれ互いに独立して0又は1であり、Nは0〜10の整数である)。

【化2】
(R1、R2、R3は、異種又は同種の炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基又はハロゲン化アルキルアリール基を表す。)
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性だけでなく、耐候性、耐衝撃性、流動性及び発色性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物から得られた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂は、耐衝撃性及び加工性のバランスに優れた樹脂であり、自動車等の車両用内外装部品、各種の家電製品やOA機器のハウジング、その他雑貨分野等、幅広い分野に使用されている。しかし、ABS樹脂は、そのゴム成分として使用するブタジエン系ゴム重合体が紫外線等により分解され易いことから、耐候性に劣るという欠点を有している。そこで、ABS樹脂中のゴム成分をアクリルゴムに置換することで耐候性を改良した、ASA樹脂が実用化されている。しかし、ASA樹脂は耐候性に優れているものの、その反面、耐衝撃性、発色性に劣るという欠点を有している。
【0003】
また、ASA樹脂は易燃性であり、安全性の問題で難燃化の要求が高まっており、種々の難燃化技術が提案されてきた。特許文献1には難燃性、耐衝撃性、耐光性、成形加工性が改良された熱可塑性樹脂組成物として、ゴム強化スチレン系樹脂と有機リン化合物と複合ゴム系グラフト共重合体を用いた難燃性熱可塑性樹脂組成物が提案されている。しかし、発色性が不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−212385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、難燃性だけでなく、耐候性、耐衝撃性、流動性及び発色性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物を構成するグラフト共重合体及び該グラフト共重合体を用いた難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来技術の問題点を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリマー構成を持つ複合ゴムに、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体等の単量体混合物を重合して得られるグラフト共重合体を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含む樹脂組成物100重量部に対して、難燃剤(C)を1〜40重量部配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、グラフト共重合体(A)は共役ジエン系ゴム状重合体5〜50重量%と架橋アクリル酸エステル系重合体50〜95重量%から構成される複合ゴム10〜80重量部に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体及びこれらと共重合可能な他のビニル系単量体から選ばれた少なくとも1種の単量体20〜90重量部をグラフト重合して得られ、グラフト共重合体中に存在する複合ゴムに関して、円相当粒子径が150nm以下である複合ゴムの粒子数が複合ゴム粒子全体の50%以下であることを特徴とするグラフト共重合体であり、共重合体(B)は芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とを共重合することで得られる共重合体、または、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体とその他の共重合可能な他のビニル系単量体を共重合することで得られる共重合体であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、難燃剤(C)がリン酸エステル系難燃剤、ハロゲン化芳香族トリアジン化合物、及び下記化3で表されるハロゲン系有機化合物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物及び該樹脂組成物から得られた樹脂成形品に関する。
【化3】

式中、n=0または自然数、Xは独立に塩素または、臭素を示し、i,j,k,lはそれぞれ1〜4の整数であり、RおよびR’はそれぞれ独立に水素、メチル基、下記式のエポキシプロピル基、


フェニル基または、下記の式(但しmは0,1,2または3を示し、Xは独立に塩素または臭素を示す)

【発明の効果】
【0008】
本発明により、難燃性だけでなく、耐候性、耐衝撃性、流動性及び発色性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物を構成するグラフト共重合体及び該グラフト共重合体を用いた難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物はグラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含む樹脂組成物100重量部に対して、難燃剤(C)を1〜40重量部配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物である。
【0010】
本発明で使用されるグラフト共重合体(A)は、共役ジエン系ゴム状重合体と架橋アクリル酸エステル系重合体から構成される複合ゴムの存在下に芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及びこれらと共重合可能な他のビニル系単量体から選ばれた少なくとも1種の単量体をグラフト重合して得られた、グラフト共重合体である。
【0011】
本発明で使用される複合ゴムを構成する共役ジエン系ゴム状重合体としては、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロックコポリマー、スチレン−(エチレン−ブタジエン)−スチレン(SEBS)ブロックコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、メチルメタクリレート−ブタジエンゴムが挙げられる。特に、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0012】
複合ゴムを構成する共役ジエン系ゴム状重合体の重量平均粒子径に特に制限は無いが、物性バランスの観点から、0.1〜1.0μmであることが好ましく、0.2〜0.5μmであることがより好ましい。また、共役ジエン系ゴム状重合体の重量平均粒子径の調節は公知の方法が使用できるが、比較的小粒子径の共役ジエン系ゴム状重合体を予め製造し、凝集肥大化させることで目的とする重量平均粒子径とした、凝集肥大化共役ジエン系ゴム状重合体を用いることも可能である。
【0013】
本発明で使用される複合ゴムを構成する架橋アクリル酸エステル系重合体は、架橋剤の存在下にアルキル基の炭素数が1〜16のアクリル酸エステル系単量体、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を一種又は二種以上、さらには必要に応じて他の共重合可能な単量体、例えばスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を一種又は二種以上を重合して得られる重合体である。
【0014】
複合ゴムを構成する架橋アクリル酸エステル系重合体に用いられる架橋剤としては、例えばジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0015】
本発明で使用される複合ゴムは、共役ジエン系ゴム状重合体の存在下で、架橋アクリル酸エステル系重合体を構成する単量体(混合物)を乳化重合することによって得ることができる。すなわち、本発明の複合ゴムは共役ジエン系ゴム状重合体がコアであり、架橋アクリル酸エステル系重合体がシェルであるコアシェル構造を有している。
【0016】
本発明で使用される複合ゴムを構成する、共役ジエン系ゴム状重合体と架橋アクリル酸エステル系重合体の比率は、共役ジエン系ゴム状重合体5〜50重量%、架橋アクリル酸エステル系重合体50〜95重量%であることが必要であるが、物性バランスの観点から共役ジエン系ゴム状重合体が7〜40重量%であることが好ましく、10〜30重量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明で使用される複合ゴムは、上述の通り共役ジエン系ゴム状重合体コアであり、架橋アクリル酸エステル系重合体がシェルであるコアシェル構造を有していることを特徴としているが、架橋アクリル酸エステル系重合体全てが共役ジエン系ゴム状重合体に重合しているとは限らず、一部は架橋アクリル酸エステル系重合体の単独粒子として存在している可能性がある。以後、共役ジエン系ゴム状重合体と架橋アクリル酸エステル系重合体とがコアシェル構造を有している複合ゴムのみだけでなく、単独で存在している架橋アクリル酸エステル系重合体を含んだ状態であっても複合ゴムと呼称する。
【0018】
本発明ではグラフト共重合体(A)中に存在する複合ゴムに関して、円相当粒子径が150nm以下である複合ゴムの粒子数が、複合ゴム粒子全体の50%以下となっている必要がある。円相当粒子径が150nm以下である複合ゴムの粒子数が50%より多いと、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性及び難燃性に劣る。円相当粒子径が150nm以下である粒子数が40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0019】
グラフト共重合体(A)中に存在する、円相当粒子径が150nm以下である複合ゴムとしては、上述の架橋アクリル酸エステル系重合体の単独粒子である場合が多く、該単独粒子が熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性及び難燃性に悪影響を及ぼす主要因となる。従って、円相当粒子径が150nm以下である粒子を減らすためには、複合ゴムの製造の際に、出来るだけ架橋アクリル酸エステル系重合体の単独粒子を生成させないようにする必要がある。
【0020】
また、コアシェル構造を有している複合ゴムであっても、円相当粒子径が150nm以下であれば耐衝撃性及び難燃性に悪影響を与えるため、本発明は架橋アクリル酸エステル系重合体の単独粒子を含む複合ゴムに対して、円相当粒子径が150nm以下である粒子数が50%以下である事が必要である。
【0021】
本発明で用いる複合ゴムの重合時に架橋アクリル酸エステル系重合体の単独粒子を生成させない方法としては、いかなる方法であっても構わないが、例えば乳化剤量、モノマー添加速度等を変更する方法が挙げられる。
【0022】
複合ゴムを重合する際、使用する重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。さらに、好ましく用いられる還元剤の具体例としては、硫酸第一鉄7水塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類、更にはラクトース、デキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。また、キレート剤としては、ピロリン酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
複合ゴムを重合する際、使用する乳化剤としては、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩等を適宜用いることができる。さらに、好ましく用いられる乳化剤の具体例としては、オレイン酸カリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0024】
本発明で使用される複合ゴムのトルエン溶媒でのゲル含有量に特に制限はないが、物性バランスの観点から、複合ゴムのゲル含有量が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0025】
本発明で使用されるグラフト共重合体(A)は、上述の複合ゴムの存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及びこれらと共重合可能な他のビニル系単量体から選ばれた少なくとも1種の単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体である。
【0026】
グラフト共重合体(A)は該グラフト共重合体100重量部中に複合ゴムが10〜80重量部含まれている必要がある。複合ゴムが10重量部より少ないと耐衝撃性に劣り、80重量部を超えると流動性に劣る。複合ゴムの含有量は30〜70重量部であることが好ましく、40〜60重量部であることがより好ましい。
【0027】
グラフト共重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0028】
グラフト共重合体(A)を構成するシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にアクリロニトリルが好ましい。
【0029】
グラフト共重合体(A)を構成する共重合可能な他のビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド系単量体、アミド系単量体等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等を例示でき、マレイミド系単量体としてはN−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等を例示でき、アミド系単量体としてはアクリルアミド、メタクリルアミド等を例示できる。
【0030】
複合ゴムとグラフト重合する上述の単量体の組成比率に特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体60〜90重量%、シアン化ビニル系単量体10〜40重量%及び共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体30〜80重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%及び共重合可能な他のビニル系単量体0〜50重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体20〜70重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル系単量体10〜60重量%及び共重合可能な他のビニル系単量体0〜30重量%の組成比率等であることが好ましい。
【0031】
グラフト共重合体(A)を重合するための手法に特に制限はなく、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等を用いることが出来る。乳化重合法を用いた場合、上述の複合ゴムに上述の単量体をグラフト重合することによって、グラフト共重合体(A)のラテックスを得ることが出来る。グラフト共重合体(A)のラテックスは、公知の方法により凝固され、洗浄、脱水、乾燥工程を経ることでグラフト共重合体(A)のパウダーを得ることができる。
【0032】
グラフト共重合体(A)のグラフト率(グラフト共重合体のアセトン可溶分量と不溶分量及びグラフト共重合体の複合ゴムの重量から求める。)、及びアセトン可溶分の還元粘度(0.4g/100cc、N,Nジメチルホルムアミド溶液として30℃で測定)に特に制限はなく、要求性能によって任意の構造のものを使用することができるが、物性バランスの観点から、グラフト率は5〜150%であることが好ましく、還元粘度は0.2〜2.0dl/gであることが好ましい。
【0033】
本発明で使用される共重合体(B)は芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、必要に応じてその他の共重合可能な他のビニル系単量体を共重合することで得られるが、共重合体(B)を構成する各単量体は、グラフト共重合体(A)で用いられる単量体と同様のものを用いる事ができる。
【0034】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物はグラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含むことを特徴とするが、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)の組成比率に特に制限はなく、求める物性に応じて所望の組成比率とすることができるが、難燃性熱可塑性樹脂組成物中の複合ゴムの含有量が3〜50重量%とすることが物性バランスの観点から好ましく、10〜30重量%とすることがより好ましい。
【0035】
本発明で使用される難燃剤(C)は、必要な難燃性のレベルに応じて、そのレベルに対応した公知の難燃剤を適宜用いる事が出来る。例えば赤リン、ポリリン酸塩、リン酸エステル、ホスファゼン等のリン系化合物、ハロゲン化芳香族トリアジン、ハロゲン化エポキシ樹脂等のハロゲン系化合物、シリコーン樹脂、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキルフェニルシロキサン等のシリコーン系化合物、メラミン、シアヌル酸、シアヌル酸メラミン等の窒素含有化合物、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機化合物、その他カーボンファイバー、グラスファイバー、膨張黒鉛が挙げられるが、特に下記化1で表される重量平均分子量が327以上であるリン酸エステル系難燃剤、下記化2で表されるハロゲン化芳香族トリアジン化合物、下記化3で表されるハロゲン系有機化合物を用いることが好ましく、これらを1種又は2種以上混合して用いることもできる。
【0036】
【化1】
(R、R、R及びRは、それぞれ互いに独立して、水素原子又は1価の有機基を表わすが、R、R、R及びRの中の少なくとも1つは1価の有機基である。Xは2価の有機基であり、k、l、m及びnはそれぞれ互いに独立して0又は1であり、Nは0〜10の整数である)。
【0037】
上記化1において一価の有機基とは、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、シクロアルキル基が挙げられ、置換されている場合の置換基としては例えばアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基等が挙げられ、またこれら置換基を組み合わせた基(アリールアルコキシアルキル基等)、又はこれらの置換基を酸素、硫黄、窒素原子等により結合して組み合わせた基(アリールスルホニルアリール基等)が置換基であってもよい。また2価の有機基とは、例えばアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、多価フェノール類、多核フェノール類(ビスフェノール類等)から誘導される基が挙げられる。特に2価の有機基として好ましいものはヒドロキノン、レゾルシノール、ジフェニロールメタン、ジフェニロールジメチルメタン、ジヒドロキシジフェニル、p,p’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。これらはそれぞれ1種又は2種以上使用することができる。
【0038】
これらリン酸エステル系難燃剤の具体例としては、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、さらには、各種の縮合リン酸エステルが挙げられる。
【0039】
【化2】
(R1、R2、R3は、異種又は同種の炭素数1〜20のハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基又はハロゲン化アルキルアリール基を表す。)
【0040】
【化3】
【0041】
難燃剤(C)の使用量は、必要な難燃性のレベルに応じて決められるが、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)の合計100重量部に対して、1〜40重量部である。1重量部未満では必要な難燃効果が発揮されない。また40重量部を超えると樹脂組成物の物性を著しく低下させてしまう。難燃性と物性バランスの観点から、2〜35重量部である事が好ましく、5〜30重量部である事がより好ましい。
【0042】
また、難燃効果を高める為に難燃助剤を併用することもできる。好ましい難燃助剤は元素周期律表における第15族に属する元素を含む化合物及び酸化物であり、具体的には窒素含有化合物、リン含有化合物、酸化アンチモン、酸化ビスマスが挙げられ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物も効果的である。この中でも特に好ましい難燃助剤は酸化アンチモンであり、具体的には三酸化アンチモン、五酸化アンチモンがあげられる。これらの難燃助剤は樹脂中への分散を改善する目的、及び樹脂の熱的安定性を改善する目的で表面処理を施されているものを用いてもよい。難燃助剤の使用量は、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)の合計100重量部に対して0.5〜20重量部であることが好ましく、1〜10重量部であることがより好ましい。
【0043】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じてヒンダードアミン系の光安定剤、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤、ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系の紫外線吸収剤、有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、リン酸エステル類等の可塑剤、臭気マスキング剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料、及び染料等を添加することもできる。更に、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0044】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、上述の成分を混合することで得ることができる。混合するために、例えば、押出し機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の混練装置を用いることができる。
【0045】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、その目的を損なわない範囲内において、他の熱可塑性樹脂と混合して使用することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等を使用する事が出来る。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す「部」及び「%」は重量に基づくものである。
【0047】
小粒子径スチレン−ブタジエンゴムラテックスの製造
10リットルの耐圧容器の内部を窒素で置換後、1,3−ブタジエン95重量部、スチレン5重量部、n−ドデシルメルカプタン0.5重量部、過硫酸カリウム0.3重量部、不均化ロジン酸ナトリウム1.8重量部、水酸化ナトリウム0.1重量部、脱イオン水145重量部を仕込み、攪拌しつつ70℃で8時間反応させた。その後、不均化ロジン酸ナトリウム0.2重量部、水酸化ナトリウム0.1重量部及び脱イオン水5重量部を添加した。さらに温度を70℃に維持しながら6時間攪拌を継続して反応を終了した。その後、減圧して残存している1,3−ブタジエンを除去し、スチレン−ブタジエンゴムラテックスを得た。得られたスチレン−ブタジエンゴムラテックスを、四酸化オスミウム(OsO)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製 IP−1000PC)を用いて1000個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、スチレン−ブタジエンゴムの重量平均粒子径を算出した結果、重量平均粒子径は120nmであった
【0048】
凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックスの製造
10リットルの耐圧容器に、上記で得られたスチレン−ブタジエンゴムラテックス270重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1重量部を添加して10分間攪拌混合した後、5%リン酸水溶液20重量部を10分間にわたり添加した。次いで10%水酸化カリウム水溶液10重量部を添加し、凝集肥大化したスチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を得た。
上述の方法で、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムの重量平均粒子径を算出した結果、重量平均粒子径は330nmであった。
【0049】
10リットルの耐圧容器に、上記で得られたスチレン−ブタジエンゴムラテックス270重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3重量部を添加して10分間攪拌混合した後、5%リン酸水溶液20重量部を10分間にわたり添加した。次いで10%水酸化カリウム水溶液10重量部を添加し、凝集肥大化したスチレン−ブタジエンゴムラテックス(2)を得た。
上述の方法で、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムの重量平均粒子径を算出した結果、重量平均粒子径は250nmであった。
【0050】
架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスの製造
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水180重量部、アクリル酸ブチル15重量部、メタクリル酸アリル0.1重量部、アルケニルコハク酸ジカリウム0.16重量部(固形分換算)、過硫酸カリウム0.15重量部を仕込み、65℃で1時間反応させた。その後、アクリル酸ブチル85重量部、メタクリル酸アリル0.53重量部の混合液及び脱イオン水20重量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.64重量部(固形分換算)を溶解した乳化剤水溶液を3時間かけて連続的に添加した。滴下後、3時間保持して、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスを得た。
【0051】
得られた架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスの重量平均粒子径を下記に記載する方法で算出した。得られた架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスを15部(固形分)、スチレンを64部、アクリロニトリルを21部用いてグラフト共重合を行い、グラフト共重合体を得た。グラフト共重合体のパウダーを溶融混練してペレットを得た。得られたペレットを、クライオミクロトームを用いて−85℃の雰囲気下で超薄切片を切り出し、四酸化ルテニウム(RuO)で染色し、透過型電子顕微鏡(JEM−1400:日本電子製)で写真撮影した。画像解析装置(旭化成 IP−1000PC)を用いて、1000個の架橋アクリル酸ブチルゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスの重量平均粒子径を算出した結果、重量平均粒子径は200nmであった。
【0052】
複合ゴムラテックス(a−1)の製造
10Lのガラスリアクターに、上記の凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を20重量部(固形分)、脱イオン水を160重量部仕込み、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し45℃に到達したところで脱イオン水20重量部にブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03重量部及び硫酸第1鉄0.001重量部を溶解した水溶液を添加した。さらに、アクリル酸ブチル20重量部、メタクリル酸アリル0.1重量部を添加した。槽内の温度が50℃に到達した後、1時間保持し、脱イオン水25重量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.9重量部、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1重量部を溶解した水溶液とアクリル酸ブチル60重量部、メタクリル酸アリル0.4重量部を5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持して、肥大化スチレン−ブタジエンゴムと架橋アクリル酸ブチル重合体から構成される複合ゴムラテックス(a−1)を得た。
【0053】
複合ゴムラテックス(a−2)の製造
10Lのガラスリアクターに、上記の凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(2)を20重量部(固形分)、脱イオン水を160重量部仕込み、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し45℃に到達したところで脱イオン水20重量部にブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03重量部及び硫酸第1鉄0.001重量部を溶解した水溶液を添加した。さらに、アクリル酸ブチル20重量部、メタクリル酸アリル0.1重量部を添加した。槽内の温度が50℃に到達した後、1時間保持し、脱イオン水25重量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.9重量部、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1重量部を溶解した水溶液とアクリル酸ブチル60重量部、メタクリル酸アリル0.4重量部を5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持して、肥大化スチレン−ブタジエンゴムと架橋アクリル酸ブチル重合体から構成される複合ゴムラテックス(a−2)を得た。
【0054】
複合ゴムラテックス(a−3)の製造
10Lのガラスリアクターに、上記の凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を20重量部(固形分)、脱イオン水を160重量部仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し45℃に到達したところで脱イオン水20重量部にブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03重量部及び硫酸第1鉄0.001重量部を溶解した水溶液を添加した。さらに、脱イオン水25重量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.9重量部、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1重量部を溶解した乳化剤溶液の5%、アクリル酸ブチル16重量部、メタクリル酸アリル0.1重量部を添加し、槽内の温度が50℃に到達した後、1時間保持し、残りの乳化剤溶液とアクリル酸ブチル64重量部、メタクリル酸アリル0.4重量部を5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持して、肥大化スチレン−ブタジエンゴムと架橋アクリル酸ブチル重合体から構成される複合ゴムラテックス(a−3)を得た。
【0055】
複合ゴムラテックス(a−4)の製造
10Lのガラスリアクターに、上記の凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を20重量部(固形分)、脱イオン水を160重量部仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し45℃に到達したところで脱イオン水20重量部にブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03重量部及び硫酸第1鉄0.001重量部を溶解した水溶液を添加した。さらに、脱イオン水25重量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.9重量部、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1重量部を溶解した乳化剤溶液の20%、アクリル酸ブチル16重量部、メタクリル酸アリル0.1重量部を添加し、槽内の温度が50℃に到達した後、1時間保持し、残りの乳化剤溶液とアクリル酸ブチル64重量部、メタクリル酸アリル0.4重量部を5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持して、肥大化スチレン−ブタジエンゴムと架橋アクリル酸ブチル重合体から構成される複合ゴムラテックス(a−4)を得た。
【0056】
複合ゴムラテックス(a−5)の製造
10Lのガラスリアクターに、上記の凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を20重量部(固形分)、脱イオン水を160重量部仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し45℃に到達したところで脱イオン水20重量部にブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03重量部及び硫酸第1鉄0.001重量部を溶解した水溶液を添加した。さらに、脱イオン水25重量部にアルケニルコハク酸ジカリウム0.9重量部、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド0.1重量部を溶解した乳化剤溶液の40%、アクリル酸ブチル16重量部、メタクリル酸アリル0.1重量部を添加し、槽内の温度が50℃に到達した後、1時間保持し、残りの乳化剤溶液とアクリル酸ブチル64重量部、メタクリル酸アリル0.4重量部を5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持して、肥大化スチレン−ブタジエンゴムと架橋アクリル酸ブチル重合体から構成される複合ゴムラテックス(a−5)を得た。
【0057】
グラフト共重合体(A−1)の製造
ガラスリアクターに、複合ゴムラテックス(a−1)60重量部(固形分)を仕込み窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.1重量部及び硫酸第1鉄0.005重量部を脱イオン水10重量部に溶解した水溶液を添加した。65℃に到達後、アクリロニトリル12重量部、スチレン28重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.1部、クメンハイドロパーオキサイド0.3重量部の混合液及び脱イオン水20重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部を溶解した乳化剤水溶液を5時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−1)を得た。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−1)のパウダーを得た。
【0058】
グラフト共重合体(A−2)〜(A−5)の製造
複合ゴムラテックス(a−1)から複合ゴムラテックス(a−2)〜(a−5)に変更した以外はグラフト共重合体(A−1)と同様に製造し、グラフト共重合体ラテックス(A−2)〜(A−5)を得た。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−2)〜(A−5)のパウダーを得た。
【0059】
グラフト共重合体(A−6)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を固形分換算で60重量部仕込み、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.1重量部及び硫酸第1鉄0.005重量部を脱イオン水10重量部に溶解した水溶液を添加した後に、65℃に昇温した。その後、アクリロニトリル12重量部、スチレン28重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.1部、クメンハイドロパーオキサイド0.3重量部の混合液及び脱イオン水20重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部を溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−6)を得た。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−6)のパウダーを得た。
【0060】
グラフト共重合体(A−7)の製造
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(1)を固形分換算で15重量部、架橋アクリル酸ブチルゴムラテックスを固形分換算で45重量部仕込み、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し60℃に到達したところで、ブドウ糖0.2重量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.1重量部及び硫酸第1鉄0.005重量部を脱イオン水10重量部に溶解した水溶液を添加した後に、65℃に昇温した。その後、アクリロニトリル12重量部、スチレン28重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.1部、クメンハイドロパーオキサイド0.3重量部の混合液及び脱イオン水20重量部にオレイン酸カリウム1.0重量部を溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックス(A−7)を得た。その後、塩析・脱水・乾燥し、グラフト重合体(A−7)のパウダーを得た。
【0061】
共重合体(B)の製造
公知の塊状重合法により、スチレン70重量部、アクリロニトリル30重量部からなる共重合体(B)を得た。上述の方法により、得られた共重合体(B)の還元粘度を測定した結果、還元粘度は0.60dl/gであった。
【0062】
難燃剤(C)
C−1:縮合リン酸エステル(PX−200 大八化学工業(株)製)
C−2:縮合リン酸エステル(CR−741 大八化学工業(株)製)
C−3:2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン(SR−245 第一エフ・アール(株)製 融点232℃、臭素含有量重量67%)
C−4:臭素化変性エポキシ樹脂(プラサーム EP−16 DIC(株)製 軟化点116℃、臭素含有量50重量%)
C−5:臭素化変性エポキシ樹脂(プラサーム EC−20 DIC(株)製 軟化点115℃、臭素含有量56重量%)
C−6:テトラブロモビスフェノールA(SAYTEX CP−2000 アルベマール日本(株)製 融点181℃、臭素含有量59重量%)
【0063】
添加剤(D)
難燃助剤:日本精鉱(株)製 パトックス−M(三酸化アンチモン)
光安定剤:ADEKA(株)製 アデカスタブ LA77Y
紫外線吸収剤:住友化学(株)製 スミソーブ200
【0064】
<実施例1〜9及び比較例1〜5>
表1に示す割合でグラフト共重合体(A)、共重合体(B)、難燃剤(C)及び添加剤(D)を混合した後、40mm二軸押出機を用いて240℃にて溶融混練して、難燃性熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを用いて種々の成形品を成形し、物性評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、それぞれの評価方法を以下に示す。
【0065】
得られたペレットをクライオミクロトームを用いて−85℃の低温で切り出すことで、超薄切片を得た。得られた超薄切片を四酸化ルテニウム(RuO)で染色し、透過電子顕微鏡(JEM−1400:日本電子製)を用いて観察及び写真撮影した。画像解析装置(旭化成 IP−1000PC)を用いて1000個の粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求めることで、150nm以下である複合ゴムの粒子数の割合を算出した。
【0066】
耐衝撃性
各実施例及び比較例で得られたペレットを用いISO試験方法294に準拠して各種試験片を成形し、耐衝撃性を測定した。
耐衝撃性はISO179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m
【0067】
流動性
各実施例及び比較例で得られたペレットを用い、ISO1133に準拠して、220℃、10kg荷重の条件でメルトボリュームフローレイトを測定した。単位;cm/10分
【0068】
発色性
発色性の評価には、各実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、射出成形機(日本製鋼所製 J−150EP シリンダー温度:230℃ 金型温度:60℃)にて成形された成形品(60mm×60mm×2mm)を用いた。JIS−Z8729に準拠した色相測定により得られた成形品の白バック、黒バックの色相差を、成形品の発色性の尺度とした(値が大きいほど発色性に優れる)。分光光度計は、(株)村上色彩研究所社製 CMS−35SPを用いた。
【0069】
耐候性
各実施例及び比較例で得られたペレット100部に対して酸化チタン(RTC−30)1部を混合し、40mm単軸押出機を用いて240℃にて溶融混練することで着色ペレットを得た。着色ペレットを用いて、射出成形機(山城精機製作所製 SAV−30−30 シリンダー温度:210℃ 金型温度:50℃)にて成形された成形品(90mm×55mm×2.5mm)を得た。得られた成形品を用い、スガ試験機(株)製サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター、WEL−SUN−HCH−Bを使用し、63℃、雨ありの条件下で200時間の加速曝露試験を行った。その後測色計を用い、曝露前と曝露後の色差(ΔE)を測定することで耐候性の評価を行った。
【0070】
難燃性
各実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、UL94規格に準じて1.6mm厚みの試験片を作成した。得られた試験片を用いて、燃焼性試験を行うことで難燃性の評価を行った。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、実施例1〜9は本発明に関わる難燃性熱可塑性樹脂組成物の例であり、難燃性だけでなく耐候性、耐衝撃性、流動性及び発色性に優れていた。
【0073】
表1に示すように、比較例1〜2は、円相当粒子径が150nm以下である複合ゴムの粒子数が50%を超えていたため、耐衝撃性、難燃性に劣っていた。また比較例3は、グラフト共重合体としてABS樹脂を用いているため、耐候性に劣っていた。比較例4は、共役ジエン系ゴム状重合体とアクリル酸エステル系重合体が複合ゴムとして存在していないため、発色性及び耐候性に劣っていた。比較例5は、難燃剤の使用量が少ないため、難燃性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、難燃性だけでなく耐候性、耐衝撃性、流動性及び発色性に優れるため、車輌用外装部品や屋外で使用される製品等への利用価値が高い。