(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
CuKα線で測定した粉末X線回折パターンにおいて、2θが14.1±0.5°、24.8±0.5°、28.7±0.5°、30.3±0.5°、43.4±5°、44.6±0.5°、48.5±0.5°、53.0±0.5°、58.3±0.5°、61.4±0.5°、63.1±0.5°、65.2±0.5°、67.5±0.5°及び68.1±0.5°の位置に少なくともピークを有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物
第二の工程において、反応生成物(B)に含まれる水素とリチウムとのモル比が0.5/1〜1.5/1の範囲になるように、反応生成物(A)とリチウム化合物とを反応させる請求項9に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の新規チタン酸リチウムは、一般式として(式1)Li
2Ti
18O
37の化学組成をとる。
後述するように、当該チタン酸リチウムは、一般式として(式2)H
2Ti
12O
25の化学組成をとるチタン酸化合物に含まれる水素イオンの一部を、リチウムイオンと置換した後、残りの水素イオンを水分として加熱脱水して得られる。このため、その結晶構造は、(式2)のチタン酸化合物の構造を基本的に保持し、具体的には特許文献4に開示されるように、酸化チタンが骨格構造を形成し、この骨格構造によって一次元のトンネル構造が形成され、さらに、当該チタン酸リチウムでは、トンネル内にリチウムイオンが存在して、トンネル構造を支持していると推測される。このため、電極活物質に用いると、電解液に含まれる電解質イオンを、トンネル内に大量に吸蔵することが可能となり、またトンネル構造により、一次元の伝導パスが確保され、トンネル方向へは、イオンの移動が容易であると考えられる。特に、電解質イオンがリチウムイオンであれば、トンネル構造を支持しているイオンと同種であるため、電解質イオンの挿入脱離に伴う負荷が結晶構造に掛かり難くなるので、サイクル特性に優れていると推測される。
このため、当該チタン酸リチウムは、蓄電デバイス用の電極材料の電極活物質に好適である。
【0011】
当該チタン酸リチウムは、CuKα線で測定した粉末X線回折パターンにおいて、2θが14.1±0.5°、24.8±0.5°、28.7±0.5°、30.3±0.5°、43.4±5°、44.6±0.5°、48.5±0.5°、53.0±0.5°58.3±0.5°、61.4±0.5°、63.1±0.5°、65.2±0.5°、67.5±0.5°及び68.1±0.5°の位置に、少なくともピークを有する。このような回折パターンは、既知の結晶構造のチタン酸リチウムでは認められていない。例えば、従来公知のスピネル型結晶(Li
4Ti
5O
12)であれば、2θが18.3°、35.6°、43.3°、57.2°、62.8°及び66.1°に(JCPDSカードNo.26−1198参照)、ラムスデライト型結晶(Li
2Ti
3O
7)は、20.0°、33.3°、35.8°、36.5°、40.2°、45.7°、46.0°、51.5°、52.9°、60.6°、64.8°及び66.8°に(JCPDSカードNo.34−393参照)、主要な回折ピークが存在し、当該チタン酸リチウムの回折パターンとは異なる。従って、当該チタン酸リチウムは、新規な結晶構造を有していると考えられる。
【0012】
通常の結晶性を有する無機化合物は、構成元素に部分的な欠損や過剰が生じて化学量論組成から若干に外れた化学組成を取っても、あるいは、構成元素が少量の異種元素と置換されても、結晶構造が維持されることが知られており(特開平6−275263号公報、特開2000−277166号公等報参照)、本発明の新規チタン酸リチウムも同様であると考えられる。特に、当該チタン酸リチウムにおいて、前述の如く、リチウムイオンは酸化チタンの骨格からなるトンネル構造内に存在し、固定されているものの、脱離し易い性質を有しており、例えば、製造工程での水洗で一部が脱離することもある。この場合、Ti/Li比が最大で14.0となる範囲までリチウムが欠損しても、前記のX線回折パターンを示すことから、これらのものも本発明に包含される。尚、当該チタン酸リチウムにおいて、骨格構造からチタンイオンが欠損したり、トンネル内に過剰のリチウムが固定されたりすることは、ほとんど無いので、Ti/Li比の最小値は約9となる。
【0013】
当該チタン酸リチウムは、更に、銅及び/又はスズを含んでいると、より一層優れた高温サイクル特性が得られるので好ましい。銅やスズは、当該チタン酸リチウムに、酸化物、水酸化物等の化合物として含まれていても、金属、合金等として含まれていても良い。中でも、銅、スズが、当該チタン酸リチウムの粒子表面に担持された様態で含まれるのが好ましい。その担持様態は、厚みが均一な連続層であっても、厚みが不均一な担持層であっても、島状に存在するような不連続な担持層であっても良い。銅及び/又はスズの含有量は、当該チタン酸リチウムに含まれるチタンに対し、銅、スズあるいはそれらの合計量として0.001/1〜0.1/1の範囲が好ましく、0.005/1〜0.05/1の範囲が更に好ましい。
【0014】
本発明のチタン酸リチウムの平均粒子径(レーザー散乱法によるメジアン径)は、特に制限を受けないが、通常は、0.05〜10μmの範囲にあり、0.1〜2μmの範囲であれば更に好ましい。また粒子形状は、球状、多面体状等の等方性形状、棒状、板状等の異方性形状、不定形状等、特に制限は無い。このものの一次粒子を集合させて二次粒子とすると、流動性、付着性、充填性等の粉体特性が向上し、電極活物質に用いる場合には、サイクル特性等の電池特性も改良されるので好ましい。本発明における二次粒子とは、一次粒子同士が強固に結合した状態にあり、通常の混合、粉砕、濾過、水洗、搬送、秤量、袋詰め、堆積等の工業的操作では容易に崩壊せず、ほとんどが二次粒子として残るものである。二次粒子の平均粒子径(レーザー散乱法によるメジアン径)は、0.1〜20μmの範囲にあるのが好ましい。比表面積(N
2吸着によるBET法)は特に制限は無いが、0.1〜100m
2/gの範囲が好ましく、1〜100m
2/gの範囲が更に好ましい。粒子形状も、一次粒子と同様に制限は受けず、様々な形状のものを用いることができる。
【0015】
当該チタン酸リチウムの一次粒子あるいは二次粒子の粒子表面には、銅やスズの他に、炭素や、シリカ、アルミナ等の無機化合物、界面活性剤、カップリング剤等の有機化合物から選ばれる少なくとも1種が被覆されていても良い。これらの被覆種は、1種を被覆することも、2種以上を積層したり、混合物や複合化物として被覆することもでき、特に、炭素の被覆は電気伝導性が良くなるので、電極活物質として用いる場合には好ましい。炭素の被覆量は、式1で表される化合物に対し、C換算で0.05〜10重量%の範囲が好ましい。この範囲より少ないと所望の電気伝導性が得られず、多いと却って特性が低下する。より好ましい含有量は、0.1〜5重量%の範囲である。尚、炭素の含有量は、CHN分析法、高周波燃焼法等により分析できる。あるいは、チタン、リチウム以外の異種元素を、前記の結晶形を阻害しない範囲で、その結晶格子中にドープさせるなどして含有させることもできる。
【0016】
本発明のチタン酸リチウムは、(1)一般式として(式2)H
2Ti
12O
25の化学組成をとる化合物とリチウム化合物とを液相中で反応させて、一般式として(式3)H
2/3Li
4/3Ti
12O
25の化学組成をとる化合物を得る工程(第一の工程)、(2)式3の化合物を固液分離した後、加熱脱水する工程を含む製造方法によって得られる(第二の工程)(製法Iとする)。
先ず、第一の工程では、(式2)の化合物に含まれる水素イオンの一部をリチウムイオンと置換して、(式3)の化合物を得る。液相中での反応は、スラリー中で行うのが好ましく、水性媒体を用いてスラリー化するのが更に好ましい。水性媒体を用いる場合は、水酸化リチウム、炭酸リチウム等の水溶性リチウム化合物を用いるのが好ましい。反応温度は、80℃以上が好ましく、300℃以下とするのがより好ましく、80〜200℃が更に好ましい範囲である。100℃以上で反応させる場合は、オートクレーブ等の耐圧容器を用いるのが好ましい。
次いで、第二の工程では、(式3)の化合物を固液分離する。必要に応じて、洗浄、乾燥等を行なっても良い。その後、(式3)の化合物を加熱し、(式3)中の化合物中の残りの水素イオンを酸素と共に脱水、除去することで、当該チタン酸リチウムが得られる。
【0017】
当該チタン酸リチウムに、銅及び/又はスズを含ませるには、CVD法、スパッタ法などの乾式被覆処理法、ゾルゲル法、無電解めっきなどの湿式被覆処理法、ボールミル法、ジェットミル法などの混合・粉砕複合化処理方法など、種々の方法を被覆種に応じて適宜選択して用いることができる。このほか、例えば、当該チタン酸リチウムの粒子表面に銅及び/又はスズの酸化物を担持させるのであれば、当該チタン酸リチウムを分散させた水性スラリーに、銅やスズの水溶性化合物を添加し、中和することで行える。
【0018】
あるいは、(1)式2の化学組成をとる化合物(H
2Ti
12O
25)と銅化合物及び/又はスズ化合物とを、式1で表される化合物に含まれるチタンに対し銅、スズあるいはそれらの合計量が0.001/1〜0.1/1の範囲になるように反応させ、反応生成物(A)を得る工程(第一の工程)、(2)反応生成物(A)とリチウム化合物とを、反応生成物(A)に含まれる銅、スズあるいはそれらの合計量に対し、リチウムが当量以上となるように液相中で反応させて反応生成物(B)を得る工程(第二の工程)、(3)反応生成物(B)を固液分離した後、加熱脱水する工程(第三の工程)、を含む方法も挙げられる(製法IIとする)。
この方法によっても、銅及び/又はスズを含む被覆が形成されるか、あるいは銅、スズの大半を含む被覆が形成され、一部が当該チタン酸リチウムの結晶格子中に含まれると考えられる。本発明の新規チタン酸リチウムは、一次元のトンネル構造を有していると考えられるため、前記の公知の方法では、中和剤に由来する水素イオン、アルカリ金属イオン等のカチオンが、トンネル構造に挿入され易いので、当該チタン酸リチウムに適用するには、製法IIが一層適している。
【0019】
第一の工程で、(式2)の化合物と銅化合物やスズ化合物を反応させるには、これらを液相中で混合するなどして接触させる方法を用いても良く、固相中で混合するなどして接触させ加熱しても良い。液相中で反応を行なう場合、反応はスラリー中で行うのが好ましく、水性媒体を用いたスラリー中で行うのが更に好ましい。水性媒体を用いる場合は、銅化合物としては、塩化銅、塩化銅アンモニウム等の水溶性化合物を用いるのが好ましく、スズ化合物としては、塩化スズ、スズ酸ナトリウム等が好ましい。式2の化合物は、トンネル構造を有し、トンネル内に水素イオンが挿入された化合物であり、式2の化合物と銅化合物、スズ化合物等を前記範囲で反応させると、トンネル構造内の水素イオンの一部が銅イオン、スズイオン等と置換されると推測される。
【0020】
第二の工程の反応生成物(A)とリチウム化合物との液相中の反応も、スラリー中で行うのが好ましく、水性媒体を用いたスラリー中で行うのが更に好ましい。水性媒体を用いる場合は、リチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム等の水溶性リチウム化合物を用いるのが好ましい。反応温度は、80℃以上が好ましく、300℃以下とするのがより好ましく、80〜200℃が更に好ましい範囲である。100℃以上で反応させる場合は、オートクレーブ等の耐圧容器を用いるのが好ましい。反応生成物(A)とリチウム化合物との反応は、反応生成物(A)に含まれる銅、スズあるいはそれらの合計量に対し、リチウムが当量より多くなるように反応量を調整することによって、銅イオン及び/又はスズイオンの全部と水素イオンの一部がリチウムイオンと置換するように調整するのが好ましい。
例えば、式1で表される化合物を得る場合は、反応生成物(B)に含まれる水素とリチウムとのモル比が0.5/1〜1.5/1になるように、反応生成物(A)とリチウム化合物とを反応させるのが好ましい。反応生成物(A)とリチウム化合物との反応によって、反応生成物(A)のトンネル構造内の銅イオン、スズイオン等はリチウムイオンと置換する。
トンネル構造内から脱離したこれらのイオンは、水酸化銅、水酸化スズ等を生成させると考えられる。この第二工程において、反応生成物(B)は、トンネル構造内に水素イオンとリチウムイオンが挿入された化合物を主体とする粒子の表面に、生成した水酸化銅、水酸化スズ等が担持された様態か、粒子の表面に、生成した水酸化銅、水酸化スズ等の一部が担持され、担持されていない水酸化銅、水酸化スズ等が液相中に存在している様態か、または生成した水酸化銅、水酸化スズ等の全部が液相中に存在している様態のいずれかであると推測される。
液相中の水酸化銅、水酸化スズ等の一部又は全部は、後述の第三の工程で固液分離する際に、前記粒子の表面に担持されると推測される。
【0021】
第三の工程では、得られた反応生成物を固液分離し、加熱脱水する。必要に応じて、洗浄、乾燥等を行なっても良い。この工程で当該チタン酸リチウムが形成されると同時に、反応生成物の粒子表面に担持された水酸化銅や水酸化スズから、酸化銅、酸化スズあるいは金属銅、金属スズ等が生成し、銅元素及び/又はスズ元素を含む担持層を形成するものと考えられる。
【0022】
製法I、IIで用いる(式2)で表される化合物は、公知の方法、例えば、特許文献4に開示される方法によって得ることができる。即ち、(1)ナトリウム化合物と酸化チタンの混合物を600℃以上の温度で焼成して、一般式として(式4)Na
2Ti
3O
7の化学組成をとる化合物を得る工程、(2)(式4)の化合物と酸性溶液を反応させて、一般式として(式5)H
2Ti
3O
7の化学組成をとる化合物を得る工程、(式5)の化合物を空気中又は真空中で150℃以上280℃未満の範囲の温度で加熱脱水する工程を含む方法によって得ることができる。
【0023】
製法Iにおける第二の工程、製法IIにおける第三の工程では、加熱温度を300〜600℃の範囲とするのが好ましい。加熱温度が300℃より低い場合は、脱水が不十分で当該チタン酸リチウムが得られ難く、600℃より高いと、部分的にブロンズ型、アナターゼ型等の二酸化チタンが生成してしまう。得られた当該チタン酸リチウムは、必要に応じて洗浄、固液分離した後、乾燥する。あるいは、粒子同士の凝集の程度に応じて、公知の機器を用いて本発明の効果を損ねない範囲で粉砕してもよい。
【0024】
本製造法では、当該チタン酸リチウムの二次粒子を得ることもできる。そのような方法としては、例えば、製法Iの(1)第一の工程において、(式2)の化合物の二次粒子とリチウム化合物を反応させる方法、(2)第二の工程において、得られた式3の化合物の一次粒子を二次粒子に造粒して、加熱脱水する方法、(3)第二の工程によって得られた式1で表される化合物の一次粒子を二次粒子に造粒する方法等が挙げられる。
【0025】
また、銅及び/又はスズを含む当該チタン酸リチウムの二次粒子を得ることもできる。例えば、製法IIの(1)第一の工程において、(式2)の化合物の二次粒子と銅化合物及び/またはスズ化合物を反応させる方法、(2)第二の工程において、第一の工程で得られた反応生成物(A)の一次粒子を二次粒子に造粒した後、リチウム化合物と反応させる方法、(3)第三の工程において、反応生成物(B)の一次粒子を二次粒子に造粒して、加熱脱水する方法、(4)第三の工程によって得られた銅及び/又はスズを含む当該チタン酸リチウム一次粒子を二次粒子に造粒する方法等が挙げられる。
【0026】
製法I、IIのいずれでも、(1)の方法を用いる場合、(式2)の化合物の二次粒子は、(式2)の化合物の一次粒子を得た後、二次粒子に造粒しても良く、あるいは、ナトリウム化合物と酸化チタンを二次粒子に造粒した後、焼成し、酸性溶液と反応させ、加熱脱水させる;(式4)の化合物の一次粒子を得た後、二次粒子に造粒し、酸性化合物と反応させ、加熱脱水させる;(式5)の化合物の一次粒子を得た後、二次粒子に造粒し、加熱脱水する等の方法で得ることもできる。造粒には、乾燥造粒、撹拌造粒、圧密造粒等が挙げられ、二次粒子の粒子径や形状を調整し易いので、乾燥造粒が好ましい。乾燥造粒には、(式1)〜(式5)の化合物や、反応生成物(A)及び(B)、ナトリウム化合物、酸化チタン等を含むスラリーを脱水後、乾燥して粉砕する;前記スラリーを脱水後、成型して乾燥する;前記スラリーを噴霧乾燥する等の方法が挙げられ、中でも噴霧乾燥が工業的に好ましい。
【0027】
噴霧乾燥するのであれば、用いる噴霧乾燥機は、ディスク式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式など、スラリーの性状や処理能力に応じて適宜選択することができる。二次粒子径の制御は、例えば、スラリー中の固形分濃度を調整する、あるいは、上記のディスク式ならディスクの回転数を、圧力ノズル式、二流体ノズル式、四流体ノズル式等ならば、噴霧圧やノズル径を調整する等して、噴霧される液滴の大きさを制御することにより行える。乾燥温度としては入り口温度を150〜250℃の範囲、出口温度を70〜120℃の範囲とするのが好ましい。スラリーの粘度が低く、造粒し難い場合や、粒子径の制御を更に容易にするために、有機系バインダーを用いても良い。用いる有機系バインダーとしては、例えば、(1)ビニル系化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等)、(2)セルロース系化合物(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等)、(3)タンパク質系化合物(ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等)、(4)アクリル酸系化合物(ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等)、(5)天然高分子化合物(デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等)、(6)合成高分子化合物(ポリエチレングリコール等)等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。中でも、ソーダ等の無機成分を含まないものは、加熱処理により分解、揮散し易いので更に好ましい。
【0028】
また、本発明のチタン酸リチウムを電極活物質として含有する電極を構成部材として用いた蓄電デバイスは、高容量で、高温サイクル特性に優れ、かつ可逆的なリチウム挿入・脱離反応が可能であり、高い信頼性が期待できる蓄電デバイスである。更に、銅及び/又はスズを含むものを活物質に用いると、より一層優れた電池特性、特に、高温サイクル特性に優れた蓄電デバイスが得られる。
【0029】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、キャパシタ等が挙げられ、これらは正極、負極、セパレーター及び電解質を含み、電極は、前記電極活物質にカーボンブラックなどの導電材とフッ素樹脂などのバインダーを加え、適宜成形または塗布して得られる。リチウム電池の場合、前記電極活物質を正極に用い、対極として金属リチウム、リチウム合金など、または黒鉛などの炭素系材料などを用いることができる。あるいは、前記電極活物質を負極として用い、正極にリチウム・マンガン複合酸化物、リチウム・コバルト複合酸化物、リチウム・ニッケル複合酸化物、リチウム・バナジン複合酸化物等のリチウム・遷移金属複合酸化物、リチウム・鉄・複合リン酸化合物等のオリビン型化合物等を用いることができる。また、本発明の電極活物質を、公知の活物質と混合して電極を作製しても良い。キャパシタの場合は、前記電極活物質と、黒鉛とを用いた非対称型キャパシタとすることができる。セパレーターには、いずれにも、多孔性ポリエチレンフィルムなどが用いられ、電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiPF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiBF
4などのリチウム塩を溶解させたものなど常用の材料を用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0031】
実施例1:新規チタン酸リチウム
(第一の工程)
市販のルチル型高純度二酸化チタン(PT−301:石原産業製)1000gと、炭酸ナトリウム451.1gに、純水1284gを加え、攪拌してスラリー化した。このスラリーを噴霧乾燥機(MDL−050C型:藤崎電気製)を用いて、入口温度200℃、出口温度70〜90℃の条件で噴霧乾燥した。得られた噴霧乾燥品を、電気炉を用い、大気中で800℃の温度で10時間加熱焼成し、(式4)の化合物:Na
2Ti
3O
7を得た。
【0032】
得られたNa
2Ti
3O
71077gに、純水4310gを加え、分散スラリーを得た。このスラリー4848gに64%硫酸711gを加え、攪拌しながら50℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗した。ろ過ケーキに純水を加え3370gにしてから再分散させ、64%硫酸44.6gを加え、攪拌しながら70℃の条件で5時間反応させてから、ろ過水洗乾燥して(式5)の化合物:H
2Ti
3O
7を得た。
【0033】
得られたH
2Ti
3O
7300gを、電気炉を用い、大気中で260℃で10時間加熱脱水し、式2の化合物:H
2Ti
12O
25(試料a)を得た。化学組成の妥当性について、試料の250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出したところ、H
2Ti
12O
25の化学組成が妥当であることが確認された。
【0034】
得られたH
2Ti
12O
25258.3gに純水1リットルと水酸化リチウム一水和物35.18gを純水500ミリリットルに溶解させた水溶液を添加した後、オートクレーブに仕込み、撹拌しながら120℃で5時間反応させ、式3の化合物:H
2/3Li
4/3Ti
12O
25を得た。試料の250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出したところ、H
2/3Li
4/3Ti
12O
25の化学組成が妥当であることが確認された。尚、実際のリチウムとチタンの含有量はICP発光分光分析法で測定して確認した。
【0035】
(第二の工程)
得られたH
2/3Li
4/3Ti
12O
25をろ過水洗乾燥した後、400℃の温度で10時間加熱処理して本発明の新規チタン酸リチウムを得た。(試料A)
【0036】
実施例2:銅を含む新規チタン酸リチウム
実施例1の第一の工程で得られた式2の化合物H
2Ti
12O
25(試料a)258.3gを純水1リットルに分散させた後、塩化銅アンモニウム二水和物(Cu(NH
4)
2Cl
2・2H
2O)13.29gを純水200ミリリットルに溶解させた水溶液を添加し(Cu/Ti=0.015)、30分間撹拌して反応させ、反応生成物(A)−(1)を得た。
【0037】
(第二の工程)
得られた反応生成物(A)−(1)のスラリーに、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)35.18gを純水300ミリリットルに溶解させた水溶液を添加した後、オートクレーブに仕込み、撹拌しながら120℃で5時間反応させ、反応生成物(B)−(1)を得た。試料の一部を分取し、Cu、Li、Tiの含有量をICP発光分光分析法により測定すると共に、250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出したところ、モル比でCu/Tiが0.015/1、H/Tiが0.074/1、Li/Tiが0.078/1であることが確認された。
【0038】
(第三の工程)
得られた反応生成物(B)−(1)をろ過水洗乾燥した後、400℃の温度で10時間加熱処理して、本発明の銅を含む新規チタン酸リチウムを得た。(試料B)
【0039】
実施例3:スズを含む新規チタン酸リチウム
(第一の工程)
実施例1の第一の工程で得られた(式2)の化合物:H
2Ti
12O
25(試料a)10.2gを純水80ミリリットルに分散させた後、スズ酸ナトリウム三水和物(Na
2SnO
3・3H
2O)0.50gを添加し(Sn/Ti=0.015)、30分間撹拌して反応させ、反応生成物(A)−(2)を得た。
【0040】
(第二の工程)
得られた反応生成物(A)−(2)のスラリーに、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H
2O)1.39gを添加した後、オートクレーブに仕込み、撹拌しながら120℃で5時間反応させ、反応生成物(B)−(2)を得た。Sn、Li、Tiの含有量をICP発光分光分析法により測定すると共に、250〜600℃の温度範囲における加熱減量を示差熱天秤を用いて測定し、加熱減量が構造水に相当すると仮定して算出すると、モル比でSn/Tiが0.00054/1、H/Tiが0.071/1、Li/Tiが0.1126/1となる。
【0041】
(第三の工程)
得られた反応生成物(B)−(2)をろ過水洗乾燥した後、400℃の温度で10時間加熱処理して、本発明のスズ化合物を含む新規チタン酸リチウムを得た。(試料C)
【0042】
比較例1
実施例1の第一の工程で得られた(式2)の化合物を比較対象の化合物とした。(試料a)
【0043】
評価1:結晶性の確認
実施例1〜3で得られた化合物(試料A〜C)について、粉末X線回折装置により、CuKα線を用いて、X線回折を測定したところ、良好な結晶性を有する、単斜晶系であること判った。また、試料A〜CのX線回折パターンは、スピネル型(例えば、JCPDSカードNo.26−1198参照)、ラムスデライト型(例えば、JCPDSカードNo.34−393参照)等の既知のチタン酸リチウムと異なることから、いずれも新規な化合物であることが明らかになった。それぞれのX線回折パターンを、
図1〜3に示す。
【0044】
評価2:組成の確認
実施例1〜3で得られた化合物(試料A〜C)を弗酸に溶解して、ICP発光分光分析法でチタンとリチウム、銅及びスズの含有量を測定した。また、これらの試料の250〜600℃の温度範囲における加熱減量を、示差熱天秤を用いて測定した。加熱減量が構造水に相当すると仮定して、試料A〜Cの加熱減量が0.00重量%であることから、構造水が全て除去され酸化物に転化したと見なした。そして、チタンイオンの欠損は無いものとして、酸素とチタンのモル比を同定し、これと上記のチタン、リチウムの分析値とから化学組成を決定した。結果を表1に示す。試料Cは、式(1)の化学組成を取る化合物であり、一方、試料A、Bでは、リチウム欠損が生じていることが判る。しかし、前記の
図1〜3に示されるように、試料A、BのX線回折パターンが、試料Cとほぼ同一であることから、試料A、Bも本願の新規チタン酸リチウムに包含される化合物である。
【0045】
【表1】
【0046】
評価3:高温サイクル特性の評価
実施例1〜3、比較例1で得られた化合物(試料A〜C、a)を、電極活物質に用いて、リチウム二次電池を調製し、その充放電特性を評価した。電池の形態や測定条件について説明する。
【0047】
上記各試料と、導電剤としてのアセチレンブラック粉末、及び結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン樹脂を重量比50:40:10で混合し、乳鉢で練り合わせ、引き伸ばしてシート状にした。このシートを直径10mm、重量10mgの円形に切り出し、同じく直径10mmの円形に切り出した2枚のアルミニウム製メッシュの間に挟み、9MPaでプレスして正極を作製した。
【0048】
この正極を220℃の温度で4時間真空乾燥した後、露点−70℃以下のグローブボックス中で、密閉可能なコイン型セルに組み込んだ。コイン型セルには材質がステンレス製(SUS316)で外径20mm、高さ3.2mmのものを用いた。負極には厚み0.5mmで直径12mmの円形に切り出した金属リチウムを銅箔に圧着させたものを用いた。非水電解液として1モル/リットルとなる濃度でLiPF
6を溶解したエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの混合溶液(体積比で1:2に混合)を用いた。
【0049】
正極はコイン型セルの下部缶に置き、その上にセパレーターとして多孔性ポリプロピレンフィルムを置き、その上から非水電解液を滴下した。さらにその上に負極と、厚み調整用の0.5mm厚スペーサー及びスプリング(いずれもSUS316製)をのせ、ポリプロピレン製ガスケットのついた上部缶を被せて外周縁部をかしめて密封した。
【0050】
調製したリチウム二次電池を、60℃の高温槽中で、充放電電流0.25mA、カットオフ電位1.0V〜2.5V、で50サイクル充放電させた。2サイクル目と50サイクル目の放電容量について、(50サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を高温サイクル特性とした。結果を表2に示す。また、それぞれの容量維持率の推移を
図4に示す。本発明のチタン酸リチウムは、高温サイクル特性に優れており、銅やスズを含む当該チタン酸リチウムは、より一層高温サイクル特性に優れていることが判る。
【0051】
【表2】