【文献】
Journal of Electroceramics,米国,2003年12月,Vol.11,No.3,p.179−189
【文献】
Electrochimica Acta,英国,2004年 7月15日,Vol.49,No.16,p.2691−2696
【文献】
Journal of the European Ceramic Society,2005年 4月,Vol.25,No.4,p.455−462
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
NaSICON材料は、1976年にHongによって初めて報告された
[1]。Hongの処方は、端成分NaZr
2(PO
4)
3(別名NZP)とNa
4Zr
2(SiO
4)
3との一連の固溶体であり、以下の一般式で表される。
【0003】
Na
1+xZr
2Si
xP
3−xO
12 (1)
【0004】
ここで、xは0から3まで変化する(0≦x≦3)。変数‘x’は、1モルのNZP中でPに置換されたSiの量である。ケイ素は+4価、リンは+5価であるため、電荷的中性を維持するためには、1モルの置換されたP
5+に対して1モルのNa
+を追加しなければならない。Si
4+の追加物は、元々P
5+イオンが占有していた格子位置にそのまま置き換わるのに対して、追加したNa
+イオンは、x<3のNaSICONのいずれにおいても、ナトリウムイオンによって完全には占有されない2または3の等価な格子位置の1つを占有することが知られている。
【0005】
別の代表的なNaSICON型材料は、J. B. Goodenoughらによる"Fast Na
+-ion transport skeleton structures", Materials Research Bulletin, Vol. 11, pp. 203-220, 1976、J. J. Bentzenらによる"The preparation and characterization of dense, highly conductive Na
5GdSi
4Oi
2 nasicon (NGS)", Materials Research Bulletin, Vol. 15, pp. 1737-1745, 1980、C. Delmasらによる"Crystal chemistry of the Na
1+xZr
2-
xL
x(PO
4)
3 (L = Cr, In, Yb) solid solutions", Materials Research Bulletin, Vol. 16, pp. 285-290, 1981、V. von Alpenらによる"Compositional dependence of the electrochemical and structural parameters in the NASICON system (Na
1+xSi
xZr
2P
3-xO
12)", Solid State Ionics, Vol. 3/4, pp. 215-218, 1981、S. Fujitsuらによる"Conduction paths in sintered ionic conductive material Na
1+xY
xZr
2-
x(PO
4)
3", Materials Research Bulletin, Vol. 16, pp. 1299-1309, 1981、Y. Saitoらによる"Ionic conductivity of NASICON-type conductors Na
1.5M
0.5Zr
1.5(PO
4)S (M: Al
3+, Ga
3+, Cr
3+, Sc
3+, Fe
3+, In
3+, Yb
3+, Y
3+)", Solid State Ionics, Vol. 58, pp. 327-331, 1992、J. Alamoによる"Chemistry and properties of solids with the [NZP] skeleton", Solid State Ionics, Vol. 63-65, pp. 547-561, 1993、K. Shimazuによる"Electrical conductivity and Ti
4+ ion substitution range in NASICON system", Solid State Ionics, Vol. 79, pp. 106-110, 1995、Y. Miyajimaによる"Ionic conductivity of NASICON-type Na
1+xM
xZr
2-
xP
3O
12 (M: Yb, Er, Dy)", Solid State Ionics, Vol. 84, pp. 61-64, 1996.に記載されている。
【0006】
基本的なHongの処方における多くの変更が既に文献に報告されている。これらは、4つ全ての陽イオン(Na、Zr、PおよびS)のイオン置換を含んでおり、その幾つかは、Naの追加または除去を含む。Hongによる原著は、結晶構造においてNa
+をLi
+、Ag
+およびK
+に置き換えることについて記載している。別の置換は、ZrをTi、In
[2,3]、複数の別の遷移金属
[4,5]および希土類元素での完全な、あるいは部分的な置換を含んでいる。いずれの場合にも、+4価未満の元素に対して本来のNaSICON材料の化学量論を維持するために、追加のNa
+が式に追加されている。技術論文には、これによって、1)NaSICONの焼結温度を低下させること、2)焼結微細構造中の自由なZrO
2を低減すること、3)NaSICONの安定性を増加させること(特に水との)、あるいは4)材料の伝導度を高めること、が主張されている。いずれの場合にも、NaSICONセラミックスは、含有材料を、Me
1+x+yM
IIIyM
IV2−ySi
xP
3−xO
12として表すことができるので(式中、Meはアルカリ金属イオンまたは一価の金属イオン、M
IIIは+3価の陽イオン、M
IVは+4価の陽イオンである)、より一般的な式で表すことができる。文献に報告された全ての材料は、同じ結晶構造、同じ基本的微細構造特性、および、類似の基準Hong処方を有しているが、大抵は格子パラメータおよびのセラミックのイオン伝導度における軽微な変更がなされている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の範囲内の金属イオン伝導性セラミック材料の現在好適な実施例は、以下の説明および関連する図面を参照してよく理解されるだろう。
図1および2に示されているように、本発明の範囲内の金属イオン伝導性セラミック材料の以下のより詳細な説明は、特許請求の範囲に記載された発明の範囲を限定することを意図するものではなく、単なる代表的な幾つかの現在好適な実施例にすぎないことを理解されたい。
【0019】
ここに開示された金属イオン伝導性セラミック材料は、MeSICONの式を網羅、あるいは多くを含んでいるが、それらはHongのNaSICON化学に基づいており、ナトリウム欠損であり、HongのNaSICON材料であるNa
1+xZr
2Si
xP
3−xO
12(上で規定した化学式(1)、xは0〜3まで変化する(0≦x≦3))の非化学量論的な変更物である。特に、Hongの化学式において0.05〜0.9モル少ないNaで作られた組成物は、文献に報告された材料と同じ基本結晶構造及びより高い電気的特性を有する材料となる。また、これらの材料は、20〜150℃の温度範囲における高塩基性水溶液に対する耐食性を改善している。このような組成物または性能が改善されたとする主張はこれまで文献には見つかっていない。
【0020】
ナトリウムに関する前述の一般式(Na
1+xZr
2Si
xP
3−xO
12)は、ナトリウム欠損であり、Na
+、Li
+、K
+、Rb
+およびCs
+のようなアルカリ金属イオン、Ag
+のような所定の一価の金属イオン、およびそれらの混合物に適合するように書き換えることができる。本発明の範囲内の高い金属カチオン伝導を与える構造を有する金属イオン伝導性セラミック材料は、以下の一般式を有する。
【0021】
Me
1+x+y−zM
IIIyM
IV2−ySi
xP
3−xO
12−z/2 (2)
【0022】
ここで、Meは、Na
+、Li
+、K
+、Rb
+、Cs
+、またはAg
+、あるいはそれらの混合物であり、2.0≦x≦2.4、0.0≦y≦1.0および0.05≦z≦0.90であって、M
IIIは、Al
3+、Ga
3+、Cr
3+、Sc
3+、Fe
3+、In
3+、Yb
3+、Y
3+またはそれらの混合物であり、M
IVは、Ti
4+、Zr
4+、Hf
4+、あるいはそれらの混合物である。全Me量は、格子における単位式当たりのMeサイト数だけであるため、4以下でなければならない。組成はxについては2.0〜2.4、yについては0.0〜1.0、zについては0.05〜0.9の間で変化することができ、全Me量は、1+x+y−zとすべきであるため、zの値はx+y−3以上に制限される。つまり、z≧(x+y−3)である。
【0023】
この命名法を用いると、‘x’は基本的なHongの処方におけるPの代わりのSi置換のレベルを、‘y’は、他の幾人かによって報告されているようにM
IVの代わりのM
III置換のレベルを、そして‘z’は基準となるHongの化学量論からの材料中の金属イオン欠損のレベルであり、‘z/2’の酸素空孔によって補償される。
【0024】
各特定の金属イオンに対して、一般式を表すことができる。例えば、MeがNa、M
IIIがYおよびM
IVがZrの場合、ナトリウム欠損材料に対する一般式は、以下のように表すことができる。
【0025】
Na
1+x+y−zY
yZr
2−ySi
xP
3−xO
12−(z/2) (3)
【0026】
ここで、2.0≦x≦2.4、0.0≦y≦1.0および0.05≦z≦0.9である。この命名法を用いると、‘x’は基本的なHongの処方におけるPの代わりのSi置換のレベルを、‘y’は、他の幾人かによって報告されているようにZrの代わりのY置換のレベルを、そして‘z’は、基準となるHongの化学量論からの材料中のNaイオン欠損のレベルであり、‘z/2’の酸素空孔によって補償される。
【0027】
基本的なHongの処方に類似した組成物及び同じ結晶構造を有し、ナトリウムのインターカレーション用に製造された材料が多くの文献に報告されており、Na
+イオンが電気化学的セル反応の一部として構造に追加及び除去されている。以下の引用文献セクションにおける引用文献14〜19を参照されたい。このナトリウムイオンの追加及び除去には、電子の追加及び除去、並びに構造中の別のカチオンの価数の変化が伴う(最も典型的には、構造中の多価の金属イオンに置き換えられたZrである)。一方、本発明の範囲内の金属イオン伝導性セラミック材料におけるナトリウム欠損は、酸素副格子における空孔により補償されており、ナトリウムイオンの正味の除去に起因するものではない。
【0028】
以下の例は、本発明の範囲内の特定の実施例について論じるものである。実際、これらの実施例は代表的なものであり、決して本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0029】
例1
製造、分析および試験されたナトリウム欠損NaSICON型材料は、表1に示された複数の材料処方を含んでいるが、これらに限定されない。表1は、比較のために、ナトリウム欠損ではない幾つかのNaSICON型材料も含んでいる。
【0031】
表1に開示された全ての組成物は、0.1%未満の開放気孔率で理論密度の96%超えに焼結され、漏れのない密封膜にされて試験したところ、ナトリウム水溶液中で安定であり、高レベルの伝導度(>1mS/cm)を有することが示された。全ての組成物は、ここに記載された固体化学技術を用いて処理された。全ての組成物は、XRDにより、基準となるHongの処方のNaSICONと同じ結晶構造を有し、全てが単斜対称性を有しており、それらのナトリウムの化学量論的な対応物とつじつまが合っている。利点の中でも、試験された組成物は、20〜65℃の温度範囲の高濃度の水酸化ナトリウム水溶液(>15質量%)に暴露されたとき、それらの化学量論的な対応物に対して改善された化学的安定性を示した。
【0032】
本発明の範囲内の組成物は、室温にて高いイオン伝導度、つまり、約1mS/cmを超える伝導度を有することが示された。組成物は、200℃未満、より好ましいことに、約100℃から150℃以下の低温でも良好な伝導度を有している。本発明の範囲内の組成物は、金属イオンに対して98%を超える高い金属イオン選択性を有していることが示された。
【0033】
例2:NaSICON組成物の化学的安定性
幾つかの異なるNaSICON膜の組成物をLLW(低レベル放射能汚染ナトリウム塩ベース廃棄物)模擬薬剤および苛性の水酸化ナトリウム水溶液に電界の影響を与えずに暴露した。暴露試験は、約60℃にて168時間(一週間)、3つの異なる水溶液中、すなわち、15質量%の水酸化ナトリウム水溶液(基準の電解液の組成物)、Na:K比がおおよそ50:1である放射性模擬水溶液“AP104”、および、Na:K比を7:1にするように十分なKOHが加えられ、膜が実際のLLWにおいて暴露されうる最高のK濃度を模した、同じ“AP104”水溶液中で行われた。結果は以下の表2に示されており、15質量%の水酸化ナトリウム水溶液と比較すると、腐食レベルは、ほとんどの場合、50:1の水溶液において著しく低い。
【0035】
概して、最良の材料はNAS−GY組成物であると信じられていた。NAS−G材料は、以前に模擬LLW中での3ヶ月を超える期間の暴露実験において試験されており、化学的安定性に顕著な効果は見られなかった。
【0036】
図1及び2は、ナトリウム欠損NaSICONセラミックスの耐食性調査の結果を示している。
図1及び2に報告された腐食速度の結果から、x=2.3およびx=2.4の場合のナトリウム欠損組成物は、腐食剤および模擬廃棄物溶剤流への暴露からの最小の腐食速度を示している。さらなる腐食結果が表3に含まれている。
【0038】
例3
NaSICON型薄膜電解セルは、LLW模擬薬剤を模倣するAP104が混合されたナトリウム塩陽極液流および50質量%の水酸化ナトリウム陰極液中で操作された。2つのE−04薄膜電解セルを操作して、混合ナトリウム塩を含む水溶液流からNaOHを再利用し合成した。約2400時間に亘るセル作動中のセル電圧(V)及び電流密度(mA/cm
2)が
図3に示されている。セル電圧は、3ボルトの一定電圧に維持されていた。
【0039】
選択された組成物に対するナトリウムイオン伝導度を表4に示す。
【0041】
NaSICONセラミックサンプルのNaOH腐食剤への暴露は、サンプル強度に最小の影響しか与えなかった。データの分散(ワイブル係数)は、暴露条件に鈍感なままであり、破壊試験は、材料に著しい変化がないことを明らかにした。材料はSEM/EDSの下で試験され、幾つかは、暴露前後の材料中の変化を測定するために、XRDを用い精密検査された。XRDは、暴露前後の相の集合状態において著しい変化がないことを明らかにし、結晶構造中の格子パラメータに統計的に著しい変化がないことを明らかにした。電気的な駆動力がなければ、K
+の構造中への大量の拡散は、表面のごく近傍に限定され、これは、格子が膨張したときに材料を除去するのに十分であるが、XRDによって発見できるほど十分深くない。
【0042】
例4
ナトリウム欠乏NaSICON型材料のさらなる例が、上述の例1及び2に開示された手続に従って、製造、分析および試験される。その例は、上に開示された式より大きなyおよび/またはzの値を有する、表5に示した幾つかの材料式を含んでいるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の範囲内のNaSICON組成物は、表5に開示された組成物を含むがそれらに限定されず、電気化学セル中における動作中に混合ナトリウム塩薬剤中に存在するK
+、Cs
+、H
+のような無機汚染イオンへの暴露に対して化学的に安定であることが期待される。NaSICON薄膜の組成物は、室温にて1×10
−4S/cmを超えるナトリウムイオンの伝導度も示し、約50mA/cm
2を超える電流密度そして100mA/cm
2を超える電流密度での動作が可能になるだろう。
【0045】
上述の例は、ナトリウムイオン伝導性セラミック材料を開示しているが、本発明はナトリウムイオン伝導性NaSICON型材料に限定されない。本発明は、Na
+、Li
+、K
+、Rb
+、Cs
+、またはAg
+、あるいはそれらの混合物を含むがこれらに限定されない、カチオンを伝導させる金属イオン伝導性MeSICON型セラミック材料を含む。これらのMeSICON型セラミック材料は、化学的安定性、金属イオン伝導性、および上で開示したNaSICON型セラミック材料と同じか同程度の電流密度を示すことが期待される。
【0046】
幾つかの特定の実施例において、金属イオン伝導性セラミック材料は、当業者に理解されるように、以下の特長および機能、すなわち固形、約100℃以下での高いアルカリイオン伝導度、低い電気伝導度、約95%を超えるアルカリイオン変換効率(つまり高い輸率)、他のアルカリまたは非アルカリカチオンに比して、特定のアルカリカチオン(例えばNa
+)に対する高い選択性、アルカリイオン溶媒中および弱または強有機酸あるいは無機酸中での安定性、理論密度値の約95%を超える密度、十分な防水性、酸、アルカリ、腐食剤および/または腐食性薬品に対する耐性、の少なくとも1つを含むことができる。
【0047】
ここで開示された金属イオン伝導性セラミック材料は、当業者に理解されるように、適切な如何なる形状で使用又は製造してもよい。幾つかの特定の実施例において、金属イオン伝導性セラミック材料の形状は、薄膜とすることができ、以下の少なくとも1つを含むことができる。すなわち、モノリシック構造の平坦なプレート形状、平坦プレート形状の担持構造、モノリシック構造のチューブ形状、チューブ形状の担持構造、モノリシック構造のハニカム形状、ハニカム形状の担持構造である。別の実施例において、金属イオン伝導性薄膜を担持膜又は当業者に既知の構造とすることができる。担持構造または担持膜は、多孔質支持体上に担持された金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層からなることができる。担持構造に対する様々な形状は当業者に既知であり、担持構造を有する金属イオン伝導性セラミック薄膜に対する担持薄膜を提供するのに適しているだろう。このような様々は形状には、最大密度未満で焼結され、これに伴う連続的な開放気孔率を有するセラミック層、スロット形状(細い穴あき形状)の層、穴あき形状の層、メッシュを含む拡充形状の層、あるいはそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない。幾つかの実施例において、多孔質支持体の気孔率は、金属イオン伝導性セラミック薄膜の各側上の溶液が、金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層の大面積に密接に接触できるように、十分に連続的な解放気孔率であり、幾つかにおいては、連続的な開放気孔率は、約30体積%から約90体積%に及んでいる。本発明の幾つかの実施例において、担持構造に対する多孔質支持体金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層の片側上に存在できる。本発明の幾つかの実施例において、担持構造に対する多孔質支持体は、金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層の両面に存在できる。
【0048】
多孔質支持体または担持膜に対する様々な材料が当業者に既知であり、担持構造を有する金属イオン伝導性セラミック材料に対する多孔質支持体を設けるのに適しているだろう。このような様々な材料には、電極材料、β
Iアルミナ、β
IIアルミナ、他のイオン伝導性セラミック固体電解材料、およびプラスチック又はセラミック材料のような非伝導性材料、金属および金属合金を含む。一枚構造の金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層の厚さは、一般的には約0.3mmから約5mmであり、場合によっては約0.5mmから約1.5mmである。担持構造の金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層の厚みは、一般的には約25μmから約2mmであり、多くの場合、約0.5mmから約1.5mmである。約25μmから約0.5mmの薄さの層は、当業者には理解できるように容易に製造できる。幾つかの特定の実施例において、金属イオン伝導性セラミック薄膜は、多孔質のカソードによって構造的に支持される。これは、アルカリイオン伝導性セラミック薄膜の形状、および/またはカソード及び/またはアノードの形状の双方の特徴を決定づけるだろう。幾つかの特定の実施例において、多孔質基板は、良好な機械的強度と、同程度の熱膨張性を有して金属イオン伝導性セラミック薄膜と良好に結合する。当業者は、金属イオン伝導性セラミック薄膜を担持構造として構成するために用いる層の数及び配置は、本発明の範囲内で広く変更できることを理解するだろう。
【0049】
ここに開示された金属イオン伝導性セラミック材料の幾つかの実施例において、金属イオン伝導性セラミック薄膜は、金属イオン伝導性セラミック材料と非伝導性材料との複合材料とすることができ、非伝導性材料は、使用条件下でイオン性および電気伝導性に乏しい。様々な絶縁性非伝導性材料が従来技術として知られており、当業者によって理解されるだろう。幾つかの特定の実施例において、非伝導性材料は、少なくとも以下の1つ、すなわち、暴露される媒体中で十分に安定なセラミック材料、ポリマー及び/またはプラスチック、を含むことができる。
【0050】
積層された金属イオン伝導性セラミックポリマー複合薄膜も、本発明におけるアルカリイオン伝導性セラミック薄膜としての使用に特に適している。積層されたアルカリイオン伝導性セラミックポリマー複合薄膜は、一般的には、金属イオン伝導性セラミック材料上に積層されたイオン選択性ポリマーを備える。イオン選択性ポリマー材料は、ナトリウムイオンに対する乏しい選択性を有するという不利点を有しているが、高い化学的安定性という利点を示す。
【0051】
特定の実施例において、金属イオン伝導性セラミック薄膜は、共結合された2以上の異なる金属イオン伝導性セラミック材料からなることができる。このような共結合された金属イオン伝導性セラミック薄膜層は、ベータアルミナ等であるがこれに限定されない、別の金属イオン伝導性セラミック材料に結合された、ここに開示されたMeSICON材料を含むことができる。このような共結合層は、熱スプレー、プラズマスプレー、共焼成、焼結に続く結合等であるがこれらに限定されない方法を用いて互いに結合させることができる。他の適した結合方法は当業者に既知であり、ここに含まれる。
【0052】
エネルギー効率の観点からは、非常に薄い金属イオン伝導性セラミック薄膜が好ましい。これらは、最小のオーム抵抗およびエネルギー損失を有している。MeSICONの薄いシートは、例えば、テープキャスト法により形成できる。50μmから0.5mmまでの薄さのシートは容易に製造できる。このような薄いシートは、多孔質構造支持体上または支持体間に支持されることが好ましい。このような構造支持体を電極又は多孔質セラミックシートまたはプレートとすることができる。このようなセラミック支持体の気孔率は、この支持体の各側上の液体溶剤が電解薄膜の大面積と親密に接触できるように、非常に高いことが好ましい。電解支持体に対する全体積のパーセントは、約30%から約70%の気孔率に亘っている。多孔質基板は、良好な機械的強度と、同程度の熱膨張性を有して金属イオン伝導性セラミック薄膜と良好に結合する。電極材料が構造支持体として利用される場合には、これらに対する類似の特徴を示すはずである。
【0053】
ここに開示された金属イオン伝導性セラミック固体電解材料は、低温でのアルカリ金属陽イオンに対する高いイオン伝導度、アルカリ金属イオンに対する高い選択性、静的かつ電気化学的条件下での良好な電流効率および水および腐食性媒体中の安定性を有するため、特にアルカリ金属ベースの塩溶液の電気分解での使用に適している。対照的に、ベータアルミナは、約300℃の温度にて高いイオン伝導度を有するが、300℃未満の温度では低い伝導度を有しており、100℃未満での用途に対する実用性を低下させている。
【0054】
ここに記載された型のMeSICON材料を備える金属イオン伝導性セラミック薄膜は、低いまたは無視できる電気伝導度を有し、それ自体、印加ポテンシャルまたは印加電流が除去されたときにガルバニ反応の発生を除去するのに役立つ。本発明に従うMeSICON材料は、高いイオン伝導度、低い電気伝導度および比較的高い耐腐食性を与える、非常に動きやすいカチオンを有している。
【0055】
当業者は、高温固体反応処理、共沈殿処理、熱水処理、またはゾルゲル処理等の、金属イオン伝導性セラミック材料に対する多くのセラミック粉末処理方法が既知であることを理解するだろう。本発明の幾つかの実施例において、金属イオン伝導性セラミック材料を高温固体反応処理によって合成できることは有利かもしれない。1つの非限定製造処理は、以下のように進められる。すなわち、金属イオン伝導性セラミック材料は、固体酸化物混合技術により系統的に合成することができる。開始時の前駆体の混合物は、ポリエチレンジャー中のメタノール中で混合できる。乾燥粉末または材料を組成に依存して約800℃から約1200℃までの温度にてか焼し、その後か焼した粉末を安定化ジルコニアまたはアルミナ又は当業者には既知の別の媒体等の媒体と粉砕して粒径分布の要件を達成させることができる。粒径分布の要件を達成させるために、振動粉砕法、摩擦粉砕法、ジェットミル法、ボールミル法、又は当業者に既知の別の技術等の技術を用い、必要に応じて安定化ジルコニアまたはアルミナ又は当業者に既知の別の媒体を用いて粉砕できる。
【0056】
当業者は、多くの従来のセラミック製造処理方法が、上述のようなセラミック薄膜を環境に優しく(グリーンフォームで)処理するのに既知であることを理解するだろう。それらの方法には、テープキャスト法、カレンダリング、エンボス処理、パンチ処理、レーザーカッティング、溶剤結合、ラミネート処理、熱ラミネート処理、押し出し処理、共押し出し処理、遠心鋳造、スリップキャスト、ジェルキャスト、ダイキャスト、プレス、静水圧プレス、熱静水圧プレス、一軸プレスおよびゾルゲル処理等が含まれるが、それらに限定されない。得られた環境に優しいセラミック薄膜は、次いで、従来の空気中、またはアルカリイオン伝導性セラミック薄膜の個々の要素の損失を最小にするように制御された雰囲気中での熱処理等の当業者に既知の技術を用いて焼結され、アルカリイオン伝導性セラミック薄膜を形成することができる。本発明の幾つかの実施例において、ダイプレスおよび任意に静水圧プレスを行うことによりセラミック薄膜を環境に優しく製造できることは有利になりうる。本発明の別の実施例において、セラミック薄膜を、テープキャスト法、パンチ処理、レーザーカッティング、溶剤結合、熱ラミネート処理、又は当業者に既知の別の技術等の組み合わせを用いて、マルチチャネルデバイスとして環境に優しく製造できることは潜在的に有利になりうる。特に、NaSICON型材料に対しては、環境に優しいセラミック薄膜は、ダイ中でプレスし、その後静水圧プレス、続いて約925℃〜約1300℃までの範囲で8時間までの間空気中で焼結し、金属イオン伝導性セラミック材料の緻密層を有する燒結金属イオン伝導性セラミック薄膜構造を形成することにより、環境に優しく形成できる。標準のx線回折分析技術を行うことにより、焼結セラミック薄膜中の金属イオン伝導性セラミック材料の結晶構造および相純度を特定することができる。
【0057】
幾つかの特定の実施例において、本発明の処理及び装置に用いるための金属イオン伝導性セラミック材料は、気相成長法により多孔質支持体上に製造でき、以下の方法、すなわち、物理気相成長法、化学気層成長法、スパッタ法、熱スプレー法、又はプラズマスプレー法の少なくとも1つを含む。気層成長法により多孔質支持体上に形成された金属イオン伝導性セラミック薄膜の厚さは、一般的には約1μmから約100μmであるが、当業者に既知であるように変更することができる。
【0058】
本発明の重要な利点の1つは、ここに開示された金属イオン伝導性セラミック材料は、陰極液および陽極液の溶剤に浸透しないことである。ここに開示されたセラミック材料の明確な利点は、低い(無視できる)電気伝導度であり、印加されたポテンシャル又は電流が除去されたときに、ガルバニ反応の発生を仮想的に抑えることができる。セラミック薄膜は、典型的には特定のイオンに非常に選択的であり、従って好適種の高い輸率を有しており、これは、電気透析または透析による非常に低い効率損失を意味している。高分子膜は、一般的に好適な種類の低い輸率を有しており、したがって、電気透析に起因して低い電流効率(<60%)を有している。
【0059】
ここで開示された金属イオン伝導性セラミック材料は、低温動作、金属イオンの高い選択性、静的かつ電気化学的条件下での水および腐食性媒体中における良好な電流効率と安定性有益になるだろう。このような処理の非限定な例は、電気浸透処理、塩分解処理、および水溶性および非水溶性のアルカリ塩からの付加価値のあるナトリウムまたはアルカリベースの薬剤の電気合成を含む。
【0060】
開示された金属イオン伝導性セラミック材料は、以下の特徴を有する薄膜として製造できる。すなわち、(1)緻密であるため、膜は水を通さず、スケーリング、または陽極液または陰極液の溶剤中に存在する2価、3価、4価のイオンあるいは溶解固形物の沈殿により影響されない、(2)膜は、腐食剤要素の存在により劣化しない、(3)膜は、広いpHの範囲で動作できる(2〜14)、(4)膜は、アルカリイオン(ナトリウム等)別のイオンの存在下で非常に高い電気効率(>95%)で選択的に通す、(5)膜は、沈殿剤による付着物またはH
2Oの電気浸透輸送がないことによる非常に低い寄生性および損失という別の利点を有する。
【0061】
本発明の特定の実施例が示され記載されたが、本発明の精神から大きく外れることなしに、多くの変更が可能であり、保護は添付の請求項の範囲によってのみ限定される。
【0062】
参考文献
1. Hong, H.Y.P., Crystal structures and crystal chemistry in the system Na
1+xZr
2Si
xP
3-xO
12. Materials Research Bulletin, 1976. 11(2): p. 173-182.
2. Miyajima, Y., et al., Solubility range and ionic conductivity of large trivalent ion doped Na
1+xM
xZr
2-xP
3O
12 (M: In, Yb, Er, Y, Dy, Tb, Gd) solid electrolytes. Solid State Ionics, 1999. 124(3-4): p. 201-211.
3. Fan, R.-q., W.-j. Wang, and F.-x. Chen, Synthesis and characterization of sodium fast ion conductors in Na
1+2x+yAl
xEu
yTi
2-x-ySi
xP
3-xO
12 system. 2002. 30(1): p. 102-105.
4. Tillement, O., et al., Mixed conductivity of the NASICON phase Na
2+x+yZr
1-yFeII
xFeII1
1-x+y(PO
4)
3, Solid State Ionics, 1991. 44(3-4): p. 299-303.
5. Mariappan, CR. and G. Govindaraj, Frequency dependent electrical properties of the Na
3Fe
2P
3O
12 and Na
4FeCdP
3O
12 NASICON material. 2002: p. 629-636.
6. Fuentes, R.O., et al., Submicrometric NASICON ceramics with improved electrical conductivity obtained from mechanically activated precursors. Journal of the European Ceramic Society, 2005. 25(4): p. 455-462.
7. Fuentes, R.O., et al., Influence of microstructure on the electrical properties of NASICON materials. Solid State Ionics, 2001. 140(1-2): p. 173-179.
8. Fuentes, R.O., et al., Reaction of NASICON with water. Solid State Ionics, 2001. 139(3-4): p. 309-314.
9. Fuentes, R., et al., Optimised NASICON ceramics for Na+ sensing. Ionics, 2002. 8(5): p. 383-390.
10. Smirnova, O.A., et al., Stability and Thermal Expansion of Na+-Conducting Ceramics. Journal of Electroceramics, 2003. 11(3): p. 179-189.
11. Clearfield, A., et al., Preparation of sodium zirconium phosphates of the type Na
1+4xZr
2-x(PO
4)
3, Materials Research Bulletin, 1983. 18(12): p. 1561-1567.
12. Rudolf, P. R., et al., The crystal structure of a nonstoichiometric NASICON Materials Research Bulletin, 1985. 20(6): p. 643-651.
13. Von Alpen, U., M. F. Bell, and H.H. Hofer, Compositional dependence of the electrochemical and structural parameters in the Nasicon system (Na
1+xSi
xZr
2P
3-xO
12), Solid State Ionics, 1981. 3-4: p. 215-218.
14. Delmas, C, A. Nadiri, and J.L. Soubeyroux, The NASICON-type titanium phosphates ATi
2(PO
4)
3 (A = lithium, sodium) as electrode materials. Solid State Ionics, 1988. 28-30(Pt. 1): p. 419-23.
15. Tillement, O., et al., Crystal chemistry and electrical study of sodium niobium titanium phosphate (Na
xNbTi(PO
4)
3), Solid State Ionics, 1991. 48(3-4): p. 249-55.
16. Tillement, O., et al., Electrochemical studies of mixed valence Nasicon. Solid State Ionics, 1992. 53-56(Pt. 1): p. 391-9.
17. Znaidi, L., S. Launay, and M. Quarton, Crystal chemistry and electrical properties of Na
1+xScNb(PO
4)
3 phases. Solid State Ionics, 1997. 93(3,4): p. 273-277.
18. Stratichuk, D. A., et al., Insertion of Li, Na, K, Rb, and Cs in the unfilled structure of Nb
2(PO
4)
3. Zhurnal Neorganicheskoi Khimii, 2001. 46(9): p. 1449-1452.
19. Patoux, S., et al., Structural and Electrochemical Studies of Rhombohedral Na
2TiM(PO
4)
3 and Li
1.6Na
0.4TiM(PO
4)
3 (M = Fe, Cr) Phosphates. 2003. 15(10): p. 2084-2093