【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の水素トレーラは、高圧水素容器を複数本搭載した状態で移送および留置される水素トレーラであって、
・ 横に(つまり水平またはそれに近い方向に)渡した支持部材を含む棚状のフレームを上下に複数段有する架台がトレーラ台車上に設けられ、上記支持部材に胴部を固定されることにより高圧水素容器が複数本ずつ各段のフレームに載せられていて、
・ 上記架台が、各段のフレームをそれぞれ分離して取り外せるよう構成されている
ことを特徴とする。
たとえば
図1に示す水素トレーラ1は、水平に渡した支持部材12を含む棚状のフレーム11を上下に3段有する架台10が台車1a上に設けられたもので、その架台10は、
図2(a)・(b)に示すように各段のフレーム11が分離して取り外され得るものである。
【0008】
このような水素トレーラには、つぎのような利点がある。すなわち、
・ 高圧水素容器を両端のネック部のみで固定するのではなく、容器の胴部を上記架台の支持部材に固定することから、振動等によって容器に作用する力学的負担が少なく、容器が長期間安全に使用される。
・ 高圧水素容器の胴部を固定する上記支持部材を含む棚状のフレームが、架台中に複数段組み付けられていて、各段ごとに分離することが可能であるため、各段のフレームに高圧水素容器を固定したり取り外したりすることが容易である。下段のフレームに容器を固定等する場合には、それより上の段のフレームを分離して取り除いたうえで必要な作業を行えるからである。そのようにして作業する場合、各段のフレーム上で隣接する容器間の間隔が狭くても容器の固定や取り外しが可能であるため、容器を密に配置してトレーラ上の空間を有効利用できるという利点もある。
【0009】
上記の水素トレーラにおいては、とくに、高圧水素容器を複数本搭載した上記の架台がトレーラ台車上に前後に並べて複数組配置されていて、それら複数組のうち前後に隣接する2組が、各組に固定された高圧水素容器の元弁側同士が向かい合わせになりバルブの操作用スペースをはさむように配置されていると好ましい。
図1・
図2はその配置を例示したもので、前後2組の架台10上の容器Aは、組ごとに容器Aの向きが揃っているうえ前後2組について容器Aの元弁側Aa同士が向き合っており、しかも両者の間にバルブ操作用のスペース55がある。
高圧水素容器を搭載した上記の架台を、長いトレーラ台車上に複数組配置載する場合、同容器の元弁側がいずれもトレーラの前方(または後方)を揃って向くようにすることも可能である。しかし、架台を複数組配置する場合には、上記のとおり、前後に隣接する2組において、容器の元弁側同士が向かい合わせになるように配置するのがよい。そのようにすれば、当該2組について元弁側同士が接近して配置されるので、元弁に接続されるバルブや計器類を、当該2組の架台上の全容器について1箇所に集約して配置することが可能になる。そして、向かい合わせになった元弁側の端部の間に上記のとおりバルブの操作用スペースを設ければ、1箇所のそのスペースにおいて架台2組分の高圧水素容器のバルブ等を操作することが可能になり、水素の供給・停止等のための作業を円滑かつ効率的に行うことができる。
【0010】
上記のように高圧水素容器が複数本ずつ各段のフレームに載せられるに関しては、フレーム(の上記支持部材)上に固定される脚部を下部に有し、連結可能な切れ目を真上の位置から側方へ30°〜60°だけ傾いた位置にある1箇所のみに有するフレキシブルバンドを、上記各容器の胴部に巻き付けることによって上記架台の各段のフレーム(の上記支持部材)に高圧水素容器が固定されるのがよい。たとえば、
図4のようなフレキシブルバンド21を含む固定装置20を使用して、高圧水素容器をフレームに固定するとよい。
上記の脚部をフレームに固定するとともに、上記フレキシブルバンドを各容器の胴部に巻き付けて上記切れ目を連結すれば、そのフレキシブルバンドを介してフレーム上に容器を固定することができる。切れ目が1箇所のみであっても、バンドがフレキシブルであるため、切れ目を大きく開いてバンドの内側に胴部を入れたり逆に出したりすることが容易である。
その切れ目が、真上の位置から側方へ30°〜60°だけ傾いた位置にあるので、隣接する容器の間隔(中心間距離)を狭めて架台上に容器を多数(密に)配置することが可能である。切れ目には、それを連結して締め込むための手段を設ける必要があり、そのような手段に作業員が操作を加える必要があるため、切れ目が真上の位置にあると、容器同士の上下の間隔すなわち各段のフレームの上下寸法を大きくとらねばならない。また、容器胴部の真横に近い位置(真上の位置から側方へ90°程度傾いた位置)に切れ目があるなら、容器同士の左右の間隔を広くとらねばならない。その点、上記のとおり傾いた位置に切れ目があると、上下左右に隣接する容器同士の間隔を狭くしても、切れ目に締め込み手段を設けるとともにそれを操作することに関して差し支えが生じにくい。
【0011】
上記フレキシブルバンドが金属帯であって、内周部分にゴムパッドをはさんで上記高圧水素容器に巻き付けられるものであると、さらに好ましい。
金属帯であれば、機械的強度が高いので、上記容器を長期間安定的に固定することができる。高圧の水素を充填される容器は胴部の外周に繊維層を有する複合容器であることが多いが、上記のとおり金属帯製のフレキシブルバンドの内側にゴムパッドをはさむなら、胴部に作用する力を分散して均等化することができ、容器の損傷が防止されやすい。またゴムパッドは、接触相手の容器との間に高い摩擦力をもたらすので、移動することのないように容器をしっかりと保持することが可能になる。
【0012】
上記の水素トレーラにおいては、とくに、上記架台の上方に容器カバー(高圧水素容器のカバー)が設けられていて、当該カバーは、左右一対の板が縁部を突き合わせた状態で上記複数の高圧水素容器を覆うとともに、それらの板が左右に移動して離れたうえ、上記高圧水素容器の外側位置で縦向きに姿勢を変えることにより上記高圧水素容器の上部を開放できるものであるのが好ましい。
図7に示すカバー30も、そのようなカバーの例であり、仮想線で示すように移動して姿勢を変える。
架台の上方に容器カバーが設けられていると、高圧水素容器への日光の直射を遮ることができるため、夏季にも容器が過度に温度上昇することを防止できる。万一、容器の温度が高くなった場合には、容器カバーの板を上記のとおり移動等させて容器の上部を開放することができるので、開放したその上部から散水をして容器を冷却することができる。その際、容器カバーの板は、左右に移動して離れるだけでなく、容器の外側位置で縦向きに姿勢を変えることから、容器上部を開放した際にも左右に占有スペースが拡大することがない。占有スペースが拡大しないなら、水素トレーラの留置場所を選択しやすいため有利である。
【0013】
上記容器カバーにおける左右一対の板は、不燃性の高断熱材であるのが好ましい。
その板が不燃性のものであれば、高圧水素容器の取扱いに関して安全性が高く、また、板の断熱性が高い方が、高圧水素容器を覆っているとき容器の温度上昇を抑制しやすいからである。
【0014】
上記架台の外側に、通気孔が設けられた板もしくはパンチングメタル板で構成された、開閉可能なパネルもしくは扉が配置されていると好ましい。
図1(a)に示すトレーラ1も、
図3(a)・(b)のように開閉可能なパネルや扉をいくつか有している。
高圧水素容器を載せた上記の架台は、その一部または全部をパネルや扉で覆っている方が、容器の保護に関して安全性を高くすることができる。そしてそのパネルや扉は、開閉可能とすることにより、内側の容器等を点検・整備しやすくなる。また、通気孔が設けられた板やパンチングメタル板でそのパネルや扉を構成することにより、内外間の換気をよくして容器の温度上昇を抑制しやすいといえる。
【0015】
高圧水素容器に接続されたバルブおよび計器が、トレーラ台車の側縁部および後端縁部から内側に離れた位置に取り付けられていると、さらに好ましい。
水素トレーラは、トラクタで牽引されて走行するため、他の車両等とぶつかる可能性がゼロではない。その点、バルブや計器が、上記のようにトレーラ台車の側縁部および後端縁部から内側に離れた位置に取り付けられていると、側面や後部に他の車両等が接触・衝突しても、バルブ等が破損して水素が流出する事態には至りにくい。
【0016】
上記架台に取り付けられた配管と上記高圧水素容器とをつなぐ接続配管に、屈曲部分または螺旋状部分が含まれていると好ましい。
図7の例でも、接続配管52にそのような螺旋状部分を含めている。
上記架台にはバルブや計器等を有する配管(固定配管)が取り付けられていて、その架台上に高圧水素容器が新たに固定されたとき、上記配管と各容器との間が接続配管を介して接続される。この接続配管に、上記のとおり屈曲部分または螺旋状部分が含まれていると、容器が膨張・収縮をし、または変位したときにも、上記配管や接続配管に無理な力が作用しない。容器は、高圧水素の量(圧力)に応じて膨張・収縮するほか、架台上で僅かにずれ動くことにより元弁側の位置が変化し得るが、接続配管に屈曲部分や螺旋状部分が含まれていれば、それらの部分が変形することによって、容器の元弁側位置の変化を無理なく吸収できるからである。
【0017】
上記接続配管が、その固有振動数が水素トレーラの実測振動数以上となるようにその管の寸法または支持状態を定められているとよい。なお、水素トレーラの実測振動数は15〜20Hzであるため、一般的には、上記接続配管の固有振動数を25Hz以上にすることとなる。具体的には、接続配管の長さや太さ、または配管支持部の位置等によってその固有振動数を高くする。50Hz程度以上にするのがとくに安全である。
上のようにすると、水素トレーラの走行中に上記接続配管が共振により大きく振動して破損する恐れがないため、高圧水素を安全に移送することが可能である。
【0018】
上記高圧水素容器と通じる配管の一部に緊急遮断弁が設けられ、その緊急遮断弁の開閉駆動のために、窒素ボンベが設置されてその緊急遮断弁に接続されていると好ましい。
一定の温度以上になったときそれを検知してガスを遮断する等の機能を有する緊急遮断弁を配管に設けることは、可燃性の水素を安全に移送し供給するうえで重要である。ただし、緊急遮断弁が電動のものであれば、防爆面での安全性が保たれない可能性がある。そのため、上記のとおり水素トレーラに窒素ボンベを設置し、緊急遮断弁の開閉をその窒素ガスの力で駆動する。それによって、水素トレーラにおける火災の防止、および万一の場合の被害の拡大防止を図ることができる。
【0019】
上記窒素ボンベが、上記高圧水素容器と通じる配管の一部に、当該配管の窒素パージを行う目的で接続可能とされていると、さらに好ましい。
水素トレーラに窒素ボンベを設置するのであれば、そのボンベを用いて配管の窒素パージが行えるようにするとよい。すなわち、バルブや計器類を交換等したとき、配管内には空気(酸素)が入りがちだが、窒素ボンベからその配管内に窒素ガスを送って内部の空気を追い出すのである。そうして配管内に空気が含まれないようにすると、水素の取扱いに関する安全性が向上することとなる。
【0020】
上記高圧水素容器と通じる配管の一部に過流防止弁が設けられているとなおよい。
配管が破損したり、接続されているホースが外れたりすると、その部分から水素が大量に流出する恐れがある。しかし、上記のように過流防止弁が設けられていれば、水素の流量が異常に大きい場合に機能して流路を閉じるので、大量流出による危険を回避することができる。
【0021】
上記高圧水素容器と通じる配管の一部に逆火防止器が設けられているのも好ましい。
容器内の水素を排気する際に排気中の水素が万一燃焼し始めた場合を想定すると、火炎が配管内を容器の側へ逆流しないように備えておく必要がある。上記のように逆火防止器を設けると、その弁から先へ炎が逆流することを防げるので、火災防止面での意義が大きい。
【0022】
上記高圧水素容器と通じる配管の一部であって外部への水素の取り出し部分に、ワンタッチカプラ構造のノズルまたはレセプタクルが設けられているとよい。
そのようなノズルやレセプタクルが設けられていると、水素トレーラの高圧水素容器からの水素の取り出しがきわめて容易に行える。そのノズルやレセプタクルに対して、水素の供給を受ける側の配管をワンタッチで接続できるからである。