【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの一部は、銅−ダイヤモンド焼結体において、銅とダイヤモンドの界面に生じるガスが熱伝導率の低下と関わることを発見し、その原因を解明するとともに対策を考案することにより、新しい銅−ダイヤモンド焼結体を発明した(特許文献1)。
【0008】
このことから、超高圧発生用容器に用いる超硬合金の遅れ破壊も、WC−Coの界面に何らかのガスを生じるためではないかとまず考えた。そこで、本発明者らは、超硬合金が焼結中に発生・残留するガスを、
図1に示した試験片破壊時放出ガス分析装置付属の四重極質量分析計を用いて、表1の条件で詳しく調べることとした。この方法は、高真空とした容器内で、表面を鏡面にした試験片を4点曲げ破壊し、破壊した瞬間に試験片(の破面)から放出されるガスを、四重極質量分析計で分析するというものである。
【0009】
【表1】
【0010】
調べた超硬合金試験片は、WC−0.9mass%Cr
3C
2−0.45mass%VC−10mass%Co超硬合金で、原料粉末を一般的な方法で混合し、乾燥、成形して焼結し、HIP処理して作製したものである。焼結後のWCの平均粒度は0.4μmである。これらの組成と粒度の超硬合金としたのは、20GPa程度までの圧力条件下で、超高圧発生用容器としてよく用いられているからである。
【0011】
始めに、予備試験を行った結果、抗折破壊すると一般に多数の破片となるが、その全破面の総表面積が異なると発生するガス量が異なることが分かった。そこで、放出ガス量に及ぼす原料の影響を調べるためには、試験片が破壊した場合の全破面の総表面積を一定とする必要がある。
【0012】
しかし、例えば焼結後のWCの平均粒度が0.4μmのWC−0.9mass%Cr
3C
2−0.45mass%VC−10mass%Co超硬合金は、HIP処理されることもあり、一般に高強度であることから、抗折破壊時に細かく砕け散り、全破面の総表面積が一定となりにくい。
【0013】
熟慮した結果、この組成の超硬合金を、HIP処理しなければ、微小ポアが残留し、比較的低強度で破壊することに気が付いた。低強度で破壊する場合、破片数が少なく、全破面の総表面積がほぼ一定となる。なお、HIP処理しなくても、いずれの試験片もHIP処理後の比重の99.4%以上に緻密化していることを確認したので、表面から内部に連続した開口があることはない。
【0014】
そこで、この方法により、放出ガス量に及ぼすCo粉末の種類の影響について調べることとし、前述の組成のうちCoは、下記Co−AとCo−Bの2種類を用いることとした。これは、用いた原料の中でCo粉末のみは、同一メーカーであっても、粉末ロットによって酸素量が大きく変動することを知っていたからである。
【0015】
始めに、市販されたCo粉末について、発明者が自ら還元することとし、次の2種類を作製した。一つは平均粒度が1.4μmで還元直後が0.2mass%、その後の大気中取扱い時の表面酸化を含めた酸素量が0.4mass%、炭素量0.02mass%のCo粉末(以後Co−Aと記す)、もう一つは平均粒度が1.4μmで還元直後が0.3mass%、その後の大気中取扱い後の表面酸化を含めた酸素量が0.4mass%、炭素量0.02mass%のCo粉末(以後Co−Bと記す)である。
【0016】
なお、1)還元直後の酸素量、および2)大気中取扱い後の表面酸化量が、Co−A、B各粉末で異なる理由は、1)は還元条件を変化させ、2)は解砕条件を変化させたことによる。
【0017】
以上のCo−AまたはCo−Bを用いて超硬合金を作製した2試料について、前記した試験片破壊時放出ガス分析装置付属の四重極質量分析計で、抗折破壊した時に放出されたガスを精密分析した結果、
図2が得られ、いずれの場合も、H
2、COおよびCO
2ガスが分析された。
【0018】
H
2はどちらのCoでも微量であったが、COおよびCO
2ガスは、Co−Bを用いた場合の方がCo−Aを用いた場合と比べて比較的多く検出された。これは還元直後のCoに含まれていた酸素量の傾向と一致する。これは第一の知見である。
【0019】
なお、N
2は、COと同じ28の分子量/電荷数比を持つことから、同ピークはCOと同一の位置に出るが、この位置のピーク強度はCOと同一のCとOから成るCO
2(44の位置)の強度と比例したこと、並びに、Co粉末の還元直後の酸素量と強い正の相関があったことから、このピークはN
2ではなくCOであると判定した。
【0020】
ここで、このCOおよびCO
2ガスは、主として原料のCo粉末の粒子内部などに含まれる酸化物が、焼結過程中、(1)Coが融解しない低温時にはCo粉末の粒子表面酸化物はWCのCにより還元されるものの焼結体の深部にあるCo粒子内部酸化物は還元・除去されず、(2)高温となってCoが融解して液相となり原子の拡散が活発となると、Co粉末粒子内部の酸化物が、Co液相中に融解したWCとCと直接接触することにより、還元されてCOガスおよびCO
2ガスが生成し、(3)これらのガスが、焼結体表面までは容易に拡散せず、従って焼結体から逃散出来ないために、液相出現により緻密化した焼結体(合金)内にポアを形成し、主としてそのポア中に閉じ込められたまま、冷却過程中にCo液相は凝固する。(4)これらのガスのうち破面近くのガスは、試験片破壊時放出ガス分析試験で、抗折力試験片が破壊した瞬間に破面から放出されたことから、四重極質量分析計により検出されたと考えられる。ここで、還元直後の酸素量を「粒子内部の含有酸素量」と定義する。
【0021】
事実上このCo粒子内部の含有酸素の原因である、Co粒子内部含有酸化物は、Coが固相状態であり、かつ粉末成形体のように塊状状態であれば容易には還元されない酸化物である。このことは、重要な第二の知見である。
【0022】
なお、大気中取扱い後の酸素量は、還元直後から大気中取扱いまでの間に大気(約21vol%のO
2を含む)に曝されるため、表面酸化するので還元直後よりも高い値となっている。この大気による表面酸化物は焼結時、Coが固相状態でも容易に還元されるため、大気中取扱い後の酸素量が試験片破壊時放出ガス分析結果と強い相関を示さなかったとしてよい。
【0023】
ところで、試験片の内部からCOガスおよびCO
2ガスが検出されたことから、超高圧発生用容器で用いられた超硬合金の遅れ破壊は次の(1)、(2)、(3)、のようなメカニズムで発生すると考えた。
【0024】
(1)既に記載したように、超硬合金の主として原料のCo粉末の粒子内部などに含まれる酸化物が、焼結過程中、1)Coが融解しない低温時にはCo粉末の粒子表面酸化物はWCのCにより還元されるものの、粒子内部酸化物は還元・除去されず、2)高温となってCoが融解して液相となり原子の拡散が活発となると、Co粉末粒子内部の酸化物が、Co液相中に融解したWCとCと直接接触することにより還元されてCOガスおよびCO
2ガスが生成し、3)これらのガスが、液相出現により緻密化した合金内にポアを形成し、主としてそのポア中に閉じ込められたまま、冷却過程中にCo液相は凝固する。4)閉じ込められたガスの一部は、その後のHIP処理すなわちCo相が液相となった状態での0.1GPaでの高圧処理により、液相中に溶解し、凝固後は固相中に固溶すると共に、ポアは押し潰されて微細なミクロポアとして存在する。
【0025】
(2)非常に微細なミクロポア内のCOガスおよびCO
2ガスは、超高圧発生用容器として使用中、HIP圧力の0.1GPaよりもはるかに高い、数GPaから数十GPaの圧力で圧縮されことにより、応力や塑性歪の集中部に拡散移動して集積する。集積したCOガスおよびCO
2ガスの圧力が周囲の破壊強度を越すと、微小クラックが発生する。
【0026】
(3)保管中か、再び使用・加圧保持している間に、(2)で生じた微小クラックが進展し、周囲の破壊強度を超えた場合に遅れ破壊する。
【0027】
以上の仮説を確かめるため、遅れ破壊した超高圧発生容器の全破片の破面をSEM観察し、破壊の起源やミクロポアを探索したが、よく分からなかった。しかし、研削・研摩した鏡面観察では、
図3に示したように原
図100倍では、微小クラックに接した破壊組織が認められた。さらに原
図1000倍では、COガスおよびCO
2ガスが、WC粒子とCo相との界面に集積していると思われる、ミクロポアが集合した部分も観察された。これらより、前述の考えが正しいことが明瞭に証明された。これが第三の知見である。
【0028】
本来、原料メーカーで十分還元されていれば、COガスおよびCO
2ガスとして合金中に残留することはないが、原料メーカーは還元直後のCoの粒子内部含有酸素量を、通常、粉末検査表に記さないので使用者は分からない。これが第四の知見である。
【0029】
ここで、前述のCoそのものを還元することは実験室的にはできるが、発明者らには生産用還元炉の設備がないので工業的方法、すなわち、大規模では行えない。そこで、既設の超硬合金の焼結で用いる真空雰囲気炉を用いる次の方法を考案した。用いるWC粉末とCo粉末をWC−50mass%Coとして調合し、粉末と超硬合金製ボールの重量比率を1対5とし湿式粉砕を4h行い、原子の拡散が活発となるようにCoに歪を与えた後、真空雰囲気炉を用いて水素還元し、Coの粒子内部の酸素量を0.2mass%以下にした。
【0030】
Co粒子内部の酸化物の還元除去が可能となったのは、この場合は、焼結体と異なり、COガス分子の構成原子の拡散距離がはるかに短い(粉末粒子では数μm、焼結体では10mm程度、すなわち前者は後者の約10
−3程度小さい)ことによる。このようにして調製したCo粉末を用いて合金を作製した。
【0031】
その結果、WC−Co粉末の含有酸素量を0.2mass%以下に減らすことができ、念のため、同粉末から作製した合金の抗折破壊時の放出ガス分析をしたところ、COガスおよびCO
2ガス量を、減少させることができた。結果として、超高圧発生用容器として使用中に応力や塑性歪の集中部に拡散移動して集積する、COガスおよびCO
2ガス量を減少させることが可能となる。
【0032】
なお、用いるWC粉末とCo粉末を予め混合して還元する場合のCo量は、3mass%以上60mass%以下がよい。3mass%未満では必要な組成を作れなくなり、60mass%を越えると還元での加熱で焼結してしまい使用できなくなる。WC粉末とCo粉末を予め混合して還元する場合のボールと粉末の比率は、この粉末の重量1に対し超硬合金製ボールが1以上10以下がよい。1より少ないと粉砕効果が得られなくなり、10より多いと不経済になる。粉砕時間は、湿式粉砕で1h以上8h以下がよい。1hより短いと粉砕効果が得られず、8hより長いと不経済である。
【0033】
ここで、真空雰囲気炉での水素還元条件は、温度は400℃以上600℃以下、キープ時間は30min以上90min以下、H
2の圧力は30kPa以上90kPa以下が好適である。温度が400℃未満では還元不十分となりやすく、600℃を越えると焼結が始まりやすくなる。また、キープ時間が30min未満では還元不十分となりやすく、90minを越えると不経済になる。また、H
2の圧力が30kPa未満では還元不十分となりやすく、90kPaを越えると不経済になる。
【0034】
以上の方法で、既設の超硬合金製造用の炉で、Coの内部含有酸素量を0.2mass%以下にする方法を考案した。これらにより、実施例1及び2に示したように、6GPa以下の超高圧発生用容器の超硬合金を遅れ破壊しないようにできた。これが第五の知見である。
【0035】
ところが、6GPaを越える高圧力での超高圧発生用容器は、Co粒子内部の酸素量を0.2mass%以下としても、遅れ破壊した。このことから、何らかの理由で、僅かに残るCOおよびCO
2ガスの集積を生じている可能性がある。
【0036】
ここで、Coは応力によりγ→ε’変態を生じる。変態すると多数のγ−ε’界面を生じると共に内部歪を生じ、Co粒子内部の酸素量を0.2mass%以下としても、僅かに残るCOガスおよびCO
2ガスがC原子とO原子に分解して、Co相中を拡散移動して集積する可能性がある。
【0037】
ところで、遅れ破壊は、WC−Co合金でよく発生し、WC−Ni合金ではほとんど発生しないことが知られている。このことについて本発明者らはよく考察したところ、1)Niは酸素量が一般に0.2mass%未満の純度が高いものが、比較的安価に得られることが上げられる。すなわち、Niでは焼結途中で還元され、焼結体が緻密化後に生じるCOガスおよびCO
2ガス量が少ない。2)Niは、Coと異なって応力によるγ→ε’変態を生じない。これら1)、2)は遅れ破壊しない要因となる。1)はともかく2)は確認が必要である。
【0038】
そこで、Coのγ→ε’変態が遅れ破壊と関係しているか調べることとし、同変態を抑制する効果があるNiを添加した、表2の組成のWC−0.9mass%Cr
3C
2−0.45mass%VC−10mass%(Co,Ni)超硬合金を次のようにして作製した。なお、表2、表3のNo.1の組成は、請求項1によれば本発明合金になるが、ここでは使用条件の圧力が6GPaを超える場合として請求項6の観点で考察しているので、表2、表3では比較合金と表示している。
【0039】
【表2】
【0040】
原料として、平均粒度が0.5μmのWC粉末(酸素量0.16mass%、炭素量6.16mass%)、平均粒度が1.4μmのCr
3C
2粉末(酸素量0.4mass%、炭素量13.4mass%)、平均粒度が0.8μmのVC粉末(酸素量0.6mass%、炭素量19.50mass%)、平均粒度が1.4μmのCo−A(組成は前述)、平均粒度が2.8μmのNi粉末(酸素量0.1mass%、炭素量0.01mass%)を用いて、粉砕メディアに超硬合金製ボールを用いて、粉末とボールの重量比率を1対5として、アルコール中で湿式粉砕をボールミルで72h行った。
【0041】
その後、パラフィンを1.5mass%添加したのち、真空で乾燥し、150メッシュの篩下の粉末を完成粉末とした。得られた完成粉末を面圧100MPaで冷間圧縮成形した後、1380℃で1hの真空焼結を行い、1350℃で1h、圧力0.1GPaのArによるHIP処理を行った。この結果、いずれの超硬合金も焼結後のWCの平均粒度は0.4μm〜0.5μmとなった。
【0042】
表3は表2の超硬合金の比重、ビッカース硬さ(HV294N)および抗折力を測定した結果である。CoをNiで置換しても比重に及ぼす影響は少ない。
【0043】
【表3】
【0044】
表3の硬さと抗折力の平均値をグラフにしたものが、
図4である。これより、硬さは、10mass%Ni置換(No.2)によりやや上昇し、その後、25mass%Ni置換(No.3)からはNi置換量が増加するに従ってゆるやかに低下する。これは炭化物の平均粒度が、10mass%Ni置換まではやや小さくなり、25mass%以上のNi置換では大きくなるためである。合金組織は略すが、そのことを合金組織で確認した。
【0045】
このNi置換で、平均粒度が最初やや小さくなりその後大きくなるのは、やや複雑であるが次の2つの原因がある。
1)Ni添加によって、液相出現温度が上昇する。
2)
図5に示した非特許文献1によるC−Co−W、C−Ni−W三元系状態図より、CoよりもNiの方がよりW固溶量が多いことから、Ni置換するとオストワルド成長しやすくなる。
【0046】
10mass%Ni置換までは、理由1)の影響が理由2)より大きい。そして、25mass%以上のNi置換では、逆転する。これは、本発明者らが初めて明らかにしたことであり、第六の知見である。
【0047】
抗折力は、30mass%Ni置換(No.4)まで上昇し、その後はNi無置換よりやや低下した。これは硬さの傾向と不一致なので、合金の粒度だけでは説明できない。ここで
図6に非特許文献2によるCo−Ni二元系状態図を示すが、これよりNiを30mass%より多く置換するとγ→ε’相変態が起こらなくなることが分かる。これも原因と考えられた(30mass%まではγ相→ε’相の変態による歪強化がある)。
【0048】
また、合金炭素量の違いにより、VCおよびCr
3C
2の固溶量も変化する。抗折力の傾向はこれら諸要因が複雑に重なった結果と考えられる。このようなことも本発明者らが初めて明らかにしたことであり、第七の知見である。
【0049】
図7は、これらの表2の超硬合金の番号No.1〜No.6について、DIA型高圧発生装置を用いて6.5GPaまで5分間で加圧して5分間保持し、荷重解除することを繰り返し行って、その都度、6.5GPa加圧時の軸方向の歪量と接線方向の歪量を、試料中心部側面に貼り付けた歪ゲージを用いて測定し、その歪量からそれぞれの寸法を算出し、円柱体積を算出し、さらに、圧縮一回目の6.5GPaでの円柱体積を1とし、それから変化した円柱体積を円柱体積率として縦軸に表示し、横軸を加圧回数とした図である。
図7より、以下のことが分かる。
【0050】
No.1およびNo.2は円柱体積率の初期加圧での減少が大きく、6回目まで続き、その後比較的少ない増加傾向を示す。すなわち、Ni無置換から10mass%Ni置換した超硬合金は、γ→ε’変態によって荷重が吸収されるので、座屈がはじまるのが遅く、生じてからも座屈が比較的進みにくい。すなわち、繰り返しの荷重に耐えられる回数が多いものの、γ→ε’変態による合金内部歪は多くなり、遅れ破壊しやすい超硬合金である。
【0051】
No.3およびNo.4は、円柱体積率の加圧での減少は3回目まで続き、その後比較的少ない増加傾向であり、これはより多くNi置換した40mass%置換したNo.5と同様の傾向を示す。これは、γ→ε’変態量が少ないためと考えられる。これはNo.1およびNo.2と比べると遅れ破壊し難いことを示す。
【0052】
また、繰り返しの荷重に耐えられる回数が多い。すなわち、25mass%〜30mass%Ni置換した超硬合金は、繰り返しの荷重に耐えられる回数が多く、さらにγ→ε’変態による内部歪が比較的少なく、γ→ε’変態をしなくなる40mass%と同様の増加傾向である。よって、変形し難く、遅れ破壊し難くい、優れた超硬合金といえる。
【0053】
No.5の円柱体積率の変化は、No.3および4とほぼ同じであるが、23回目の加圧で破壊した。すなわち、40mass%Ni置換した超硬合金は、円柱体積率の初期加圧での減少およびその後の増加は比較的少なく、良好な特性を有するものの、繰り返しの荷重に耐えられる回数が少ない。すなわち、40mass%Ni置換した超硬合金は、遅れ破壊しにくいものの、強度がやや不足している。この結果は、
図5の抗折力の傾向と一致する。
【0054】
No.6は5回目の加圧から円柱体積率の増加が大きい。すなわち50mass%Ni置換した超硬合金は、強度が不足している。なお、No.7は初回の加圧で破壊したため
図7に示されていない。すなわち、60mass%Ni置換した超硬合金は著しく強度が不足している。
【0055】
No.6およびNo.7の強度不足はやはり
図4の抗折力の傾向と一致する。これらより、コバルトのγ→ε’変態が遅れ破壊と関係しているとすると、単純にはコバルトをγ→ε’変態しなくなるまでNiで置換すればよいが、本発明者らの研究の結果、状態図では30mass%より多く置換すれば、γ→ε’変態しなくなるが、そうすると強度不足になること、そして、状態図のγ→ε’変態の範囲内となるが、25mass%以上30mass%以下の置換では、繰り返し荷重の初期の体積変化率の変化が、40mass%置換した場合と同様になることが分かった。
【0056】
なお、
図7の実験で、圧力を6.5GPaとしたのは、予備実験において、Co−Aを用いる場合、6GPa以下では大きなγ→ε’変態の影響が見られず、遅れ破壊しないと思われ、それまでの知見と一致したからである。
【0057】
6GPaより圧力が高くなると、1)使用応力が高いことに加え、2)Co−Aでも、僅かに残るCOおよびCO
2ガスが、γ→ε’変態がある場合、すなわちCoを25mass%未満置換した場合までは、γ→ε’変態による界面の増加と内部歪により拡散移動し、内部歪の集中部に集積する。すなわち、1)と2)によって、前述のメカニズムと同様にして、集積したCOガスおよびCO
2ガスの圧力が周囲の破壊強度を越すと、微小クラックが発生する。保管中か再び使用・加圧保持している間に、微小クラックが進展し、周囲の破壊強度を超えると、再び遅れ破壊するようになる。
【0058】
これを防ぐには、γ→ε’変態をしなくなるようにCoの一部をNiで置換すれば、2)がなくなることにより、遅れ破壊しなくなることを本発明者らは発見した。
【0059】
もちろん、本発明者らの一部が特許文献2において発明した通り、焼結後のWCを平均粒度0.3μm以下とすれば、有用なWC−VC−Cr
3C
2−Ni系超硬合金となり、100mass%Niとしても強度不足ではなくなることが同文献に示されている。それでも、コストなどの関係で、焼結後のWCの平均粒度が0.3μmを越える超硬合金を用いる場合、本発明は有用である。
【0060】
なお、超高圧発生用容器には、高強度の超硬合金が必要であるので、焼結後のWC粒度の上限は3.0μmとなる。
【0061】
以上より、焼結後のWCの平均粒度が0.3μmを越え3.0μm以下の、WC−Co超硬合金の、Coを25mass%以上30mass%以下の量をNiで置換した超硬合金が、繰り返し加圧に耐えられる超硬合金で、遅れ破壊しにくい超硬合金であり、特に6GPaを越える圧力で使用する超高圧発生用容器に適することが分かった。これが第八の知見である。
【0062】
以上をまとめると、超高圧合成において、6GPa以下の圧力で超高圧発生用容器を使用する場合に、遅れ破壊しないようにするには、用いる原料Co粉末粒子内部の含有酸素量を0.2mass%以下とすることで、遅れ破壊しない超高圧発生用容器の超硬合金とできる。ここでこれをA1タイプの超硬合金とする。
【0063】
6GPaより高い圧力で使用する超高圧発生用容器の場合は、原料Co粉末粒子内部の含有酸素量を0.2mass%以下とし、さらにCoのうち25mass%以上30mass%以下をNiで置換して作製した超硬合金とすることで、遅れ破壊しない超高圧発生用容器の超硬合金とできる。これをA2タイプの超硬合金とする。
【0064】
A2タイプの超硬合金は、A1タイプの超硬合金が遅れ破壊しない6GPa以下の圧力で使用しても遅れ破壊はしない。しかし、A1タイプの超硬合金の方が経済的であり、その意味で6GPa以下に用途が限定されていても有用である。
【0065】
なお、A1タイプの超硬合金では、焼結後のWC平均粒度は0.1μm以上3.0μm以下、Co量は3mass%以上12mass%以下がよい。焼結後のWC平均粒度は、0.1μm未満では価格が高くなり経済的でなく、3.0μmを越えると強度が得られない。またCo量は、3mass%未満では強度が得られず、12mass%を越えるとヤング率が低くなり使用できない。
【0066】
また、A2タイプの超硬合金では、焼結後のWC平均粒度は0.3μmを越え3.0μm以下、CoとNiの合計量は3mass%以上12mass%以下がよい。焼結後のWC平均粒度は、0.3μm以下では特に本技術を必要とせず、3.0μmを越えると強度が得られない。またCoとNiの合計量は、3mass%未満では強度が得られず、12mass%を越えるとヤング率が低くなり使用できない。
【0067】
なお、A1タイプおよびA2タイプの超硬合金は共に、VCを
結合相とは別に結合相量に対し10mass%を越えて加えて作製したWC−VC−Co(−Ni)系超硬合金、Cr
3C
2を
結合相とは別に結合相量に対し15mass%を越えて加えて作製したWC−Cr
3C
2−Co(−Ni)系超硬合金、および、VCを
結合相とは別に結合相量に対し10mass%を越えておよび/またはCr
3C
2を
結合相とは別に結合相量に対し15mass%越えて加えて作製したWC−Cr
3C
2−VC−Co(−Ni)系超硬合金では、合金組織中にVCおよび/またはCr
3C
2からなる粗大な炭化物相が析出し、強度低下を招くため、超高圧発生用容器としては使用できない。
【0068】
以上のようにして、遅れ破壊しない超硬合金による、超高圧発生用容器のアンビル、ピストン、シリンダーを発明した。