(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光線を発射する光源と、前記光源から発射される前記光線を所定の配光形状及び所定の輝度分布を有する再生光に変換するホログラム素子と、前記ホログラム素子から入射する前記再生光を吸収して可視光を放射する蛍光体を含む蛍光体プレートと、前記蛍光体プレートから放射される前記可視光を集光して前方に照射するレンズとを有する車両用前照灯光学系であって、前記蛍光体プレートは、前記レンズの焦点位置近傍に配置され、前記ホログラム素子は、前記蛍光体プレートの前段に、かつ、前記光源の光軸上及び前記レンズの光軸上に配置され、前記光源から発射される前記光線は、前記レンズの光軸に対して所定角度で前記ホログラム素子に入射する車両用前照灯光学系の製造方法であって、
前記ホログラム素子を干渉系の撮影により作製することを特徴とする車両用前照灯光学系の製造方法。
光線を発射する光源と、前記光源から発射される前記光線を所定の配光形状及び所定の輝度分布を有する再生光に変換するホログラム素子と、前記ホログラム素子から入射する前記再生光を吸収して可視光を放射する蛍光体を含む蛍光体プレートと、前記蛍光体プレートから放射される前記可視光を集光して前方に照射するレンズとを有する車両用前照灯光学系であって、前記蛍光体プレートは、前記レンズの焦点位置近傍に配置され、前記ホログラム素子は、前記蛍光体プレートの前段に、かつ、前記光源の光軸上及び前記レンズの光軸上に配置され、前記光源から発射される前記光線は、前記レンズの光軸に対して所定角度で前記ホログラム素子に入射する車両用前照灯光学系の製造方法であって、
前記ホログラム素子を計算設計された加工により作製することを特徴とする車両用前照灯光学系の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の第1の実施例による照明用光学系100の一例を表す概略図である。
図2は、
図1に示す照明用光学系100におけるホログラム光学素子3及び蛍光体プレート4を表す概略斜視図である。
【0010】
照明用光学系100は、例えば、車両用のプロジェクター型前照灯(ヘッドライト)等の照明器具であり、少なくとも、カバー1、光源2、ホログラム光学素子(回折光学素子)3、蛍光体プレート4、プロジェクターレンズ(投影レンズ)5及び遮光膜(カットオフパターン)6を含んで構成される。光源2、ホログラム光学素子3、蛍光体プレート4、プロジェクターレンズ(投影レンズ)5は、それぞれカバー1に保持されている。
【0011】
光源2は、半導体レーザダイオード(LD)等の高出力レーザであり、例えば、ホログラム光学素子3の表面に対して所定の角度θの方向から、中心波長405nmの青色レーザ(照明光)10を照射する。なお、光源2としては、高出力のLEDを用いることもできる。また、中心波長は405nmに限らず、他の青色や紫外線(375nmなど)でも良いが、中心波長450nm以下であることが好ましい。
【0012】
ホログラム光学素子3は、光源2の光軸上に配置され、波面変換機能を有している。波面変換機能は、光源2から照射される短波長レーザ(照明光)10を所望の配光パターン(ヘッドライトに要求される配光状態)を有する再生光11に変換する機能である。本実施例では、ホログラム光学素子3により、再生光11の配光の形状だけでなく、輝度分布も作成可能である。なお、ホログラム光学素子3には、ナノレベルの加工がなされており、青色レーザ光に光強度の分布を持たせるとともに、所定のカットオフ形状にすることが可能である。ホログラム光学素子3は、
図3に示す光学分割系干渉露光装置300による撮影で作製される。作製方法の詳細については、
図3を参照して後述する。
【0013】
蛍光体プレート4は、ホログラム光学素子3の後段であり、かつプロジェクターレンズ5の焦点位置近傍に配置される。蛍光体プレート4は、樹脂やガラス等の透明基板に蛍光体41を塗布したもの、又は樹脂やガラス等の透明基板に蛍光体41を混ぜ込んだものである。本実施例では、ガラス基板に蛍光体41を混ぜん込んだものを蛍光体プレート4として使用した。
【0014】
蛍光体プレート4の透明基板は、ガラスもしくはできるだけ耐熱性、耐光性の高い樹脂を用いる。樹脂としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、シリコーン、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル、エポキシ樹脂等のプラスチック等を用いることができる。
【0015】
蛍光体41としては、紫外から青色までの波長領域の光を吸収して可視光を放射する材料が用いられ、好ましくは、青色もしくは紫外波長に対して黄色もしくは青色と赤色に発光する材料である。黄色に発光する材料としては、例えば、YAG系蛍光体材料がある。その他、例えば、珪酸塩系蛍光体材料、アルミン酸塩系蛍光体材料、窒化物系蛍光体材料、硫化物系蛍光体材料、酸硫化物系蛍光体材料、硼酸塩系蛍光体材料、燐酸塩硼酸塩系蛍光体材料、燐酸塩系蛍光体、及びハロリン酸塩系蛍光体材料等の蛍光体材料を使用可能である。
【0016】
なお、蛍光体プレート4の厚さ(蛍光体を塗布する場合は蛍光体の塗布厚)、及び蛍光体41の密度は、光源2から照射される光の量に応じて最適化することが望ましい。蛍光体プレート4から出射される光は白色であることが望ましいため、光源2の青色が残る厚さと密度が好ましいとともに、例えば、すれ違いビーム配光(ロービーム配光)状態は中央部が明るいため、中央部の蛍光体の密度を高くするもしくは厚みを厚くすることが望ましい。このように、蛍光体プレート4の厚さ(蛍光体を塗布する場合は蛍光体の塗布厚)、及び蛍光体41の密度を再生光11の輝度分布に応じて変えることで、その方向でも白色の光を得ることができる。
【0017】
なお、
図2では、すれ違いビーム配光(ロービーム配光)状態の明るい中央部に対応する蛍光体プレート4の下半分程度の部分の蛍光体41の密度が高いことを現すために、黒丸で蛍光体41を表し、上半分程度の比較的暗い部分は白丸で蛍光体41を表した。また、右下のカットオフライン以下の部分は蛍光体41が配置されていない。
【0018】
プロジェクターレンズ(投影レンズ)5は、凸レンズであり、蛍光体プレート4から出射される再生光11を集光して前方に投影する。
【0019】
遮光膜(カットオフパターン)6は、例えば、すれ違いビーム配光(ロービーム配光)状態において、再生光11の一部を遮ることにより不必要な光をカットして、カットオフラインを形成する。遮光膜6は、必須の構成ではなく、ホログラム光学素子3のみで、再生光11を必要なカットオフ形状に配光可能な場合には、省略が可能である。
【0020】
以上の構成において、光源2を点灯させると、レーザ光(照明光)10が、ホログラム光学素子3に所定の角度θで照射され、ホログラム光学素子3を透過した光(再生光)11は、所定の光学像を結像する。その光学像は、光学分布を持った状態で蛍光体プレート4に投影される。蛍光体プレート4に投影された青い光である再生光11は、蛍光体41を照射し、その一部は黄色もしくは緑色と赤色に発光する(光源2の青色も残っているため、全体としては白色に発光する)。蛍光体プレート4は、プロジェクターレンズ5の焦点付近に配置されているため、そこでの白色発光像は、プロジェクターレンズ5を通って、前方に反転投影される。
【0021】
図3は、本発明の第1の実施例によるホログラム光学素子3を作製するための光学分割系干渉露光装置300の一例を示す概略図である。図中、それぞれの矢印は光線の進行方向を示す。以下、光学分割系干渉露光装置300を用いたホログラム光学素子3の作製方法について説明する。
【0022】
まず、ガラス基板などの透明基板34に感光性モノマー(光を受けてポリマーとなるもの)35を貼り合わせたものを用意する。感光性モノマー35としては、例えば、デュポン製フォトポリマーOmnidexや、他のフォトポリマー(銀塩乳剤等)を用いることができる。本実施例では、青色の波長に感度を持つフォトポリマーを用いた。
【0023】
レーザ光源21は、
図1に示す光源2と同じ発光波長(例えば、405nm)を有するレーザ発振器である。なお、レーザ光源21は、
図1に示す光源2と同じ発光波長の±10nm以内が好ましい。レーザ光源21から発振されたレーザ光線12は、ハーフミラー22に45度の角度で入射し、2つの光線13、及び光線14に分割される。
【0024】
光線13は、必要に応じて反射鏡23によって反射された後に、コリメータ(ビームエキスパンダ)40に入射する。コリメータ40は、収束レンズ24と、ピンホール25と、コリメータレンズ26とによって構成される。
【0025】
コリメータ40に入射した光線13は、まず収束レンズ24によって収束され、ピンホール25内に位置する焦点を通過した後に発散して、コリメータレンズ26に入射する。コリメータレンズ26に入射した光線13は、平行光線に変換されてホログラム作製用の参照光13となる。
【0026】
参照光13は、感光性モノマー35の表面に角度θで入射する。ここでの入射角θは、
図1の照明用光学系100における光源2の入射角度と同一とすることが好ましい。
【0027】
一方、ハーフミラー22で分割された光線14は、反射鏡27及び反射鏡28により反射されて、物体光光学系50に入射する。物体光光学系50は、収束レンズ29と、ピンホール30と、凸レンズ31とによって構成される。
【0028】
物体光光学系50に入射した光線14は、まず収束レンズ29によって収束され、ピンホール30内に位置する焦点を通過した後に発散して、凸レンズ31に入射する。凸レンズ31に入射した光線14は、さらに発散して、リフレクターミラー32に入射する。
【0029】
リフレクターミラー(ロービーム配光形成反射鏡)32からの反射光はホログラム作製用の物体光15となり、感光性モノマー35の表面に法線方向から入射する。リフレクターミラー(ロービーム配光形成反射鏡)32は、所望の配光状態の反射光を得るための反射鏡であり、本実施例では、すれ違いビーム(ロービーム)に必要な配光状態を得るための反射鏡である。
【0030】
感光性モノマー35に入射した参照光13と物体光15とは、互いに干渉する。参照光13及び物体光15それぞれの位相情報及び振幅情報が、これらの光の干渉縞として感光性モノマー35に記録される。なお、感光性モノマー35に入射する参照光13と物体光15の光強度比は、2:1から10:1程度が望ましく、光強度の和は1mJ/cm2、照射時間は30秒にて行った。
【0031】
なお、本実施例で用いたデュポン製フォトポリマーOmnidexは、120℃にて2時間熱処理することにより、回折効率を高くすることができる。
【0032】
以上のようにして、ホログラム光学素子3が完成する。このようにして得られたホログラム光学素子3に角度θからレーザ光(もしくはLEDの光)を照射すると、その再生光は光源とは反対側の法線方向にリフレクターミラー32で作られた光学像(ロービーム配光状態)が得られる。
【0033】
以上、本発明の第1の実施例によれば、光源2からのレーザ光10を、体積ホログラムを用いたホログラム光学素子3により効率よく所望の配光パターン(例えば、ロービーム用の配光パターン)に変換することができる。
【0034】
また、本発明の第1の実施例によれば、蛍光体プレート4の厚さ(蛍光体を塗布する場合は蛍光体の塗布厚)、及び蛍光体41の密度を、光源2から照射される光の量に応じて変化させるので、どの方向においても白色光を得ることができる。
【0035】
また、本発明の第1の実施例によれば、ホログラム光学素子3を用いて配光パターンを形成するので、照明用光学系(ヘッドライト)100を小型化することができる。
【0036】
さらに、本発明の第1の実施例によれば、光源2として単色レーザを用いることができるので、照明用光学系(ヘッドライト)100の製造コストを抑えることが可能となる。
【0037】
なお、
図1に示す蛍光体プレート4は、
図4に示すように、プロジェクターレンズ(投影レンズ)5の焦点距離にあわせて、蛍光体プレート4bの中央部分7aを、湾曲させても良い。さらに、
図5に示すように、蛍光体プレート4cの中央部分7bを、ホログラム光学素子3から出射される再生光11の輝度分布にあわせて厚くしても良い。また、蛍光体プレート4の中央部分を、プロジェクターレンズ(投影レンズ)5の焦点距離にあわせて半球状に膨らませても良い。
図4及び
図5に示すような形状の蛍光体プレート4b又は4cを用いる場合は、ガラスもしくは樹脂材料に熱を加えて液状にし、蛍光体材料を混合攪拌しながら型に流し込んで作製することができる。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施例による照明用光学系200の一例を表す概略図である。
【0039】
第2の実施例では、ホログラム光学素子8を第1の実施例によるホログラム光学素子3とは異なる方法で作製し、それに伴い、光源2からのレーザ光のホログラム光学素子8への入射角を変更した。それ以外の部分は、第1の実施例と同様である。以下、第1の実施例と異なる部分についてのみ説明する。
【0040】
第2の実施例では、ホログラム光学素子8を第1の実施例のような光学分割系の干渉露光装置による撮影ではなく、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)を用いて作製した。
【0041】
ホログラムは3次元の情報を記憶するが、光の干渉をシミュレートすることにより、計算機で作成することができる。本実施例では、光学設計を市販の回折光学設計ツール(ソフトウェア)を用いた計算で行った。光学設計の計算では、光源の情報(ニアフィールド、ファーフィールド)と、結果として得たい光学像(出力形状分布、輝度分布)情報を入力してシミュレーションすることで、最適な位相分布を得ることができる。
【0042】
位相分布はミクロンオーダーもしくはサブミクロンオーダーの凹凸の分布であり、その加工にはレーザ描画法、電子ビーム描画法などを用いることができる。なお、機械切削、干渉露光装置なども活用可能である。
【0043】
一度、元となる加工を行えば、その形状は金型で反転転写して作成することもできるため、安価にホログラム光学素子8を量産することが可能となる。位相分布を表す凸凹の断面形状は2段階以上の厚さ分布を持っていれば良く、好ましくは8段階程度の階段状の形状である。なお、レーザ描画機などを用いれば、連続的に厚さが変わる断面形状も形成できるため理想的である。
【0044】
金型などから位相分布を表す凸凹を反転転写する材料としては、光硬化性樹脂(アクリル系もしくはエポキシ系など)を用いた。本実施例で用いた樹脂材料は耐熱性が高く、200℃以上の熱処理に対しても透過率の変化がほとんど見られず(黄変することなく)、90%以上の高い透過率を示した。また、本実施例で用いた樹脂材料はガラスへの密着性も優れているため、硬化性樹脂と貼り合わせる基板には、ガラス基板を用いた。
【0045】
このようにして作製した第2の実施例のホログラム光学素子8も、第1の実施例によるホログラム光学素子3と同様に、光源2から照射されるレーザ光線を所定の輝度分布(例えば、ロービーム配光状態に適した輝度分布)と所定の配光形状(例えば、ロービーム配光状態に適した配光形状)を有する再生光に変換可能である。ホログラム光学素子8から照射される再生光は第1の実施例と同様に、蛍光体プレート4及びプロジェクターレンズ5を介して前方に反転投影される。
【0046】
また、この第2の実施例のようにCGHで作製したホログラム光学素子8では、0次光(回折されずにホログラム光学素子をそのまま透過した光源の光)をほとんど無くすことができるので、
図6に示すように、再生光がホログラム光学素子8の法線方向から入射するように光源2を配置することができる。なお、この場合、0次光が残ったとしても、0次光の方向を配光パターン中で最も輝度が高い方向となるように設計することで、0次光を活用することができる。
【0047】
また、CGHで作製したホログラム光学素子8では、カットオフパターンも含めた光学像を再生できるため、
図1の遮光膜6は必ずしも必要ではなくなる。したがって、遮光膜6を用いる場合に比べて、光利用効率を高めることができる。
【0048】
以上、本発明の第2の実施例によれば、光源2からのレーザ光10を、計算機合成ホログラム(CGH)を用いて作製したホログラム光学素子8により、効率よく所望の配光パターン(例えば、ロービーム用の配光パターン)に変換することができる。
【0049】
また、本発明の第2の実施例によれば、第1の実施例と同様に、蛍光体プレート4の厚さ(蛍光体を塗布する場合は蛍光体の塗布厚)、及び蛍光体41の密度を、光源2から照射される光の量に応じて変化させるので、どの方向においても白色光を得ることができる。
【0050】
また、本発明の第2の実施例によれば、ホログラム光学素子8を用いて配光パターンを形成するので、照明用光学系(ヘッドライト)200を小型化することができる。
【0051】
さらに、本発明の第2の実施例によれば、光源2として単色レーザを用いることができるので、照明用光学系(ヘッドライト)200の製造コストを抑えることが可能となる。また、ホログラム光学素子8を反転転写して作成することができるため、さらに照明用光学系(ヘッドライト)200の製造コストを抑えることが可能となる。
【0052】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【0053】
本発明の各実施例による照明用光学系は、車両用ヘッドライト及びテールライト、フォグランプ、懐中電灯、一般照明、スポットライト、舞台照明、特殊照明、車両用インテリア・エクステリア照明等の各種照明機器等への応用が行える。